PandoraPartyProject

シナリオ詳細

おいでよ夏生まれ

完了

参加者 : 29 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●青は空色
 ぽんぽんと空に白煙が上がる。
 それから視線を下ろせば、幻想風の洒脱な城が見えるだろう。
 トッキョディスティニーランド名物、ホテルデレラシス城だ。
 それを彩るように取り囲むアトラクションの数々。大小とりそろえたコーヒーカップ、山肌と洞窟を駆け巡る三回転半ひねりが売りのジェットコースター、彩り豊かでお子様も安心のメリーゴーランド、見上げるだけでひっくり返りそうな観覧車。
 朝早くでかけて、屋台のドリンクやポップコーンを買い込み、体力の限界までアトラクションを楽しんだら、夜はデレラシス城で豪華なディナーに舌鼓を打ち、ふかふかのベッドで眠るというのが定番コースな、練達自慢のテーマパークだ。
 なんのテーマかって? それは故郷の再現。ここは練達、正式名称は探求都市国家アデプト。特異運命座標点として召喚された旅人たちが、混沌(フーリッシュ・ケイオス)の運命なんか知ったこっちゃねえ! 俺は元の世界へ帰るんだ! と集ってできた小さな国だ。必然的に研究者が多い。そして研究者は変人が多い。故郷恋しさのあまりテーマパーク作っちゃうくらいには、彼らは元の世界への帰還を望んでいる。
 マスコットは黄色いネズミ、トッキョくん。
 特許侵害した相手の家に連日押しかけて夜中の二時までピンポンダッシュすることで有名だよ。研究者だらけの練達民は特許の扱いにはすこぶるビンカンなんだぜ。そんなわけで一部の練達民からアイドル的扱いを受けるトッキョくん。その本拠地であるトッキョディスティニーランドの人気も推して知るべし。
 いつもなら人でごった返し、芋の子を洗うような状態なのだが。


「ここに株主優待券がある」
 急にナマっぽいもんだすなよ。
「優待券目当てに塩漬け株を買うことってあるよね」
 だからそういうナマっぽい話すんな。
「おいといて、とある幻想貴族たちがこれを使って、トッキョディスティニーランドを貸し切りにしたんだが、そろってフグにあたってしまったんだ」
 それかなり深刻なやつじゃない? だいじょうぶ?
「ただの食べすぎだから点滴打って寝てたら治るよ。その点滴を打ちに練達へ行ってるんだから、ある意味旅行は達成してるね。で、余ったのがこの優待券だ」
 黒猫のショウはひらひらとチケットを振った。
「このままだとトッキョディスティニーランドは開店休業になってしまうんだ。ぜひ遊びに行ってあげてほしい。特に6・7・8月生まれの夏生まれの人へはちょっとしたサービスがあるらしいよ。真昼のトッキョディスティニーランドはキャンディアソートみたいにキラキラしたすてきなところさ。好きなところを回って好きなだけ遊んでおいで」
 ショウはチケットをあなたへ渡した。カラフルなイラストに「ドリームを体験しよう」なんてキャッチコピーが躍っている。
「お土産話、楽しみにしてるよ」

GMコメント

いらっしゃいませ6・7・8月生まれの方。
ようこそお越しいただきました、お祝いしにきたお人方。
お待ちしてました。とにかく遊びたいあなた。
今回は真昼のトッキョディスティニーランドを楽しんでください。

>プレイング
一行目に待ち合わせタグか同行者のネームとIDを添えてください。
二行目には行きたいところのタグをお願いします。
ソロで描写されたい方は一行目に【ソロ】と記入してください。
アトラクションや施設の名前は適当に略して大丈夫です。

>行ける場所

【ア】アトラクションで激しく遊びます。
 虹色観覧車・練達が見渡せると噂の観覧車です。頂点からの景色は最高。
 トリコロールコーヒーカップ・中央のハンドルを回せば回すほど早く回転するコーヒーカップ。つい夢中になって距離が近づくかも。
 ジェットコースター~ライト&ダーク~・その名の通り日なたと暗がりを交互に走り抜けるジェットコースター。絶叫マシンの王者です。
 メリーメリーゴーランド・きらびやかな装飾の施されたメリーゴーランド。練達自慢の人造宝石で彩られたその輝きは色あせません。
さあ、あなたはどれでデートする?

【飯】プレゼントを渡すのに最適。
 スイーツバイキング・デレラシス城1Fにあるスイーツバイキング。あまりのおいしさにおかわりしてしまう通称無限チーズケーキが人気。
 ポップコーン屋台「ハッピーポップ」・アメリカンなポップコーン売り場。当然量もアメリカンサイズ。特盛を30分以内に食べた人へは記念メダルを贈呈。
 洋風カフェ「ワンシリング」・白とチャコールグレイの色合わせがクラシックな落ち着いたカフェ。フレーバーティーの種類が豊富。
 和菓子屋本舗「いとおかし」・名前はふざけてますが、商品はガチな和菓子屋さん。人気の水ようかんを野点傘の下、緋毛氈をしいたベンチに座って召し上がれ。
アルコールは20才以上から、アンノウン勢は自己申告でどうぞ。

【広】広場です。とってもひろーい。何をしてもいいよ!

  • おいでよ夏生まれ完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年08月29日 23時40分
  • 参加人数29/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 29 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(29人)

銀城 黒羽(p3p000505)
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
Q.U.U.A.(p3p001425)
ちょう人きゅーあちゃん
ナハトラーベ(p3p001615)
黒翼演舞
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
高槻 夕子(p3p007252)
クノイチジェイケイ
ラース=フィレンツ(p3p007285)
新天地の傭兵
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
襞々 もつ(p3p007352)
ザクロ
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ラピス・ディアグレイス(p3p007373)
瑠璃の光
ネメアー・レグルス(p3p007382)
《力(ストレングス)》
久世・清音(p3p007437)
腹黒フォックス
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女

リプレイ

 6/9生まれのメリーはイライラしていた。
 だって列に並んでると、どーしてもイヤな思い出が蘇っちゃうのだ。そうあれはメリーが召喚されてすぐのこと。カフェで順番待ちをしたくなかったメリーは、座っている先客に席を譲れと言ったがシカトされた。頭にきたメリーは威嚇術を放とうとして……町の警備兵にボッコボコにされた。
(こんないたいけな少女を十数人がかりで袋叩きにするなんて信じらんない!)
 でもメリーはちゃんと学習するえらい子。だから観覧車待ちの行列にも我慢して並んでいる。
「うわあーすっごおい! やっぱり高いところから人を見下ろすのって気持ちいいわ!」
 夏生まれは専用列があると彼女が知るのは降りた後。くやしいからもう一回乗った。

「お清さんハッピーバースデーです!」
「ウチのは気にせんといてー言うたのに、うふふ、うれしいわぁ、ウィズィはんもお誕生日おめでとう」
 清音は6/9、ウィズィは7/31、二人仲良く夏生まれだ。練達の遊園地なんて初めての二人。マップを広げてひとしきり思案。
「これ! これ行きましょう和菓子屋本舗「いとおかし」!」
「あらぁ美味しそうなもんそろえてはるねぇ、いこいこ。楽しみやわぁ」
 緋毛氈を敷いたベンチに並んで座り、清音は水ようかんを、ウィズィはあんみつを注文した。
「ふふふ、デートですねこれは!」
「せやねえ、のぉんびりしましょ」
「んふふふ、デート! お清さんとデート!」
 注文の品が運ばれてきた。水ようかんに匙を立て、ふと思う清音。これをこのまま食べるのも芸がない。せっかくのお祝い。ウィズィの喜ぶことをしたい。
(せや、うちの水ようかん一切れとって「あーん」なんてどうでっしゃろか)
 思いつくまま匙に一口乗せて、はんなり微笑みながらウィズィへ。
「はい、あーん」
「ふぇ!? ぇ、えええ、い、いいんですか、もちろんいただきます、ぁ、あーん」
「美味しい?」
「……も、物凄く甘いです、ね……デートとか言ってみたけど、実際にやられるとドキドキしますぅ……」
「水ようかん、そないに嬉しいん? かぁいらしぃわぁ」
「……ぉ、お清さんも、あ、あんみつ一口…ぁ、あーん…です!」
「ほないただきましょ。えらい甘くておいしゅおすなぁ♪」

「愛しのご主人様! どこへ参りましょう!?」
「トリコロールコーヒーカップ。それ以外は眼中に無し。Nyahahahaha――貴様との戯れなど遭遇時以来だ。久方振りに振り回される覚悟を成し給え。望むならばこの後肉を多量に摂取させてやろう。まあ。乗る前から肉々たっぷり腹の中だがな!」
「いやっほうですよ、ご主人様こそ覚悟なさいませ。このもつ、ご主人様のお肉をいただけるならばたとえ火の中水の中です。耐えきったらいつもの数倍はお肉をいただきとうございます! ささ。早く行きましょうご主人様、全力の回転でも私は無敵ですよ!!! お肉は最強です!」
 なんて言い合いながらコーヒーカップへ向かうオラボナともつの主従。二人が目指したトリコロールコーヒーカップは、その名の通り、かわいらしい色に染め上げられた遊具だった。巨躯のオラボナのために特別大きなカップに陣取ると、BGMが流れはじめた。
「容赦なし、それが我等『物語』の基本。遊具といえど臨むは本気で」
「私も負けませんよー」
 二人そろって全力でカップを回す、回す、回す。オラボナの輪郭が崩れてなんか布みたいになってる。遠心力でカップの壁に押し付けられ、もつは正気を取り戻した。
「あ。あの。ご主人様。そろそろ、うっぷ、止めないと。こう。目が回って悲惨な事になりませんか?」
 BGMが終わった。二人はフラフラとカップから降りて……ばたーん。おろろろ。

 広場の片隅で、ベンチに座る二人が居た。ラピスとアイラだ。アトラクションを一通り巡って休みに来たのだった。
「楽しかったね、アイラ。疲れてない?」
「ううん、とても楽しかった。ラピスはどう?」
「メリーゴーランドがよかったね。キラキラしてまるで夢の中みたいだった」
「ボクもメリーゴーランドがステキだった。まるで、その、ラピスの瞳みたいで……」
 ラピスの瞳のほうが綺麗だと、そこまでは言えない、それが二人の今の距離。そこから踏み出したいと、願ったのはどっちの方だっただろう。
 深刻な顔で考え込んでいる様子のアイラを心配し、ラピスは彼女をのぞき込んだ。
「どうかしたの?」
「……」
 アイラは思わず両の拳を握った。掌が汗で濡れている。期待と不安と、振り子のように心が揺れて。
(お師さま。ボクに、勇気を……!)
 一歩踏み出すと、決めたのはアイラの方。ラピスの手をぐっと引いて。
「……っ、ラピス。ボクね、ボクね!ラピスのことがっ、そのっ、好きなの……!」
 声は裏返って、顔は真っ赤で。その言葉がどれだけ真剣なのかをラピスに伝える。ラピスは頭が真っ白になっていた。舌が動かない。でも伝えなきゃ。伝えなきゃ。
「僕もっ。……僕も、アイラの事が、好きだよ。一番、何よりも大事な人……」
 ラピスがアイラを抱きしめる。
「もうずっと離さない。ずっと一緒に居よう」
「はいっ…!ずっとずっと、一緒です……!」
 ああ、夢ならどうか、覚めないで?

 白桃のフレーバーティーで唇を湿しながら、Erstineはゆっくりとメニュー表へ目を通した。洋風カフェだからパスタにワインを合わせようかしらなどと考えていると、昔のことが頭をよぎった。元いた世界での誕生日は、ただの報告日に過ぎない。またひとつ歳を重ねましたと、父の席である王座へ報告する。それだけ。つまらないことを思い出したものねと自嘲していると、自分がカフェの店員に取り囲まれていることに気づいた。ショートケーキが目の前に置かれる。チョコレートの板には「祝6/6生誕」とある。
「では、ハッピーバースデーの歌を歌わせていただきます」
「え、ええ!? その私、祝われ慣れてなくて、だから、お気になさらないで!」

 ポップコーンをかじりながら、8/26生まれの世界は缶ビールをぐいっと飲んだ。うん、美味い。なつかしい味だ。
「遊園地とは久しいな。この世界にもあるとは驚いたぜ」
 かといってはしゃぐ年でもない、せっかくだから虹色観覧車でダラダラくつろいでいこう。夏生まれ専用列から観覧車に乗ると、練達の景色がよく見える。あの三本の高い塔が練達のメインスポット賢者の三塔か。近未来的な風景は普段目にする幻想や海洋の景色とは違ってなかなかいい。
 それにしても誕生日をひとりで過ごすのはちょいとばかりさみしい。この世界に来たばかりなので知り合いも乏しいのだ。来年はこの観覧車に一緒に乗る相手がいるといい。世界はそう思った。

「おおー、こんなすごいものは初めて見たね!? よーし、遊びつくそうか!」
 ラースは興奮しながらマップを開いた。とりま観覧車に乗って、メリーゴーランドに揺られて、コーヒーカップをギュンギュン回して、やってきましたジェットコースター。
「こいつは一筋縄ではいかない感じだぞ?」
 聞こえてくる先客たちの叫びと悲鳴にそそられる好奇心。これは乗らねばなりますまい。列に並んでわくわくしながらシートへ座り、昇っていくコースターに期待がどんどん膨らんで。
「え? お、うわ? うぉぉおおお!? あはははは! たーのしー!」
 新鮮な体験に大ハマリ。何度も列に並ぶ。
「そういえば夏生まれじゃないけど大丈夫だったかな?」
 ぜんぜんOKです。

 マップと首っ引きなのは6/14生まれのJK夕子。
 スイーツと聞いてときめかないJKなんていないに決まってる。
「あせるなゆーこ、事前の計画が重要なのだっ!」
 マップ上から移動時間を算出、食べる量と時間も、もちろん考慮に入れて。だって戦いは情報戦から始まるものだもの。JKがスイーツにかける情熱は鯉が滝を登り龍になるほど。
「よーし、まずは和菓子から!」
 しっとりした甘さで口を癒やし、デレラシス城のスイーツバイキングで無限チーズケーキを満喫。後ろ髪を引かれつつ退店し、ポップコーン屋台で持ち帰りを注文。最後はゆったりとカフェで。当然全部写メしてミンスタグラムに投稿。いいねをがんがんもらう。
「これで全制覇! 完璧ね!」

 ――人には死が訪れる。だがその前に等しく生を受ける。それは必然、万人変わらぬ事象。
 なんて前置きとは関係なくナハトラーベは食べ歩きに夢中。夏生まれの特権をフルに活かし、あちこちで歓待を受けおまけをもらう。さて次は和菓子なるものを、と足を向けた先で、彼女は入り口で躊躇している男の子を見つけた。
「何してるの?」
「え? ああ、はじめまして。ボクは6/17生まれのシャルティエ」
「わたしは6/7のナハトラーベ」
「あははっ、10日違いだね。なんだか親近感湧いちゃうな、よろしく」
 二人は握手をした。改めて何をしているのかとナハトラーベが問うと、シャルティエは恥ずかしそうに言った。
「和菓子というものに挑戦してみたいんだけど、食べたこと無いからふんぎりがつかなくてさ。水ようかんってのが人気なんだって」
「わたしが先に食べるから、あなたは反応を見て注文すればいい」
「なるほど、そうさせてもらうよ」
 シャルティエの前で水ようかんをいただくナハトラーベ。ぱくり、ぱくり、一定のリズムで食べていく。無表情に。
「あ、あのさ、おいしい?」
「うん」
(本当かなあ……)
「えーと、店員さん、甘めのものをおまかせでっ」
 シャルティエへ運ばれてきたの三色団子とお茶の組み合わせ。ほどよい甘さと食欲をそそる見た目に満足したシャルティエだった。
「せっかくだし、アトラクションを回らない?」
「いいよ」

 遊園地。遊びの園の地。
 来てやった、来てやったとも。でも何したらいいのか見当がつかない。そんな武器商人とヴォルペ。
 見た目だけなら絵になる二人。だけど混沌もない、狂気もない、戦もない、ヒリヒリするような悪意も、眠れなくなるような不安も、どこ吹く風、平和の象徴みたいな場所。だからまあようするに、居心地が悪い。
「どうしようねぇ」
 武器商人がつぶやく。ヴォルペが答えた。
「アトラクションに乗ってみるとか」
「キミ、乗り物酔うだろう」
「スイーツバイキングに行ってみる?」
「キミ、甘い物駄目だろう。なんでわざわざ付き合ったのさ」
「つれないこと言わないでくれよ、我が麗しの銀の君。美しい君と過ごし尽くす時間がおにーさんには何よりも至福なんだから」
 あ、と武器商人は顎に指先を添えた。
「そうだ思い出した。拾い子が菓子の土産話を所望していたよ。我(アタシ)が食べて赤狐の君が奢る。どうかな?」
「すばらしい。さすがは麗しの銀の君だ。冴えているね」
 ヴォルペがうれしげに笑った。
「そこの洋風カフェに入ってみようか。赤狐の君に似合いのものもあるだろう」
「俺のことを気遣ってくれるなんてうれしいよ銀の君」
 店に入るとヴォルペはブラックコーヒーを頼み、タルトをゆっくり食べる武器商人をにこやかに見つめる。
「そういえば銀の君の誕生日は6/1だっけ」
「ああ、もう誰が決めたかも覚えてないけれどね。紫陽花が似合うかららしいよ」

 黒羽は緋毛氈を敷いたベンチに腰掛け、じっくりと甘味を味わっていた。なめらかな漉し餡の甘味を抹茶でながしこむ、ため息が出るほどの味覚のハーモニー。満足の吐息が溢れる。
 彼の書類には7/9生まれとある。記憶のない彼が適当に登録したものだ。
(……だが、偽りの誕生日でも、一年に一度だけなんだから祝ってもバチは当たらねぇよな)
 三色団子へぱくつき、弾力を楽しむ。さやさやと落ちる木漏れ日。やわらかな風、足元を通り過ぎる小鳥たちの鳴き声。
(こういう落ち着いた時間を過ごすのも久しぶりすぎて……空中庭園に呼ばれたばっかの頃を思い出すぜ)
「これからも、こんな時間を守れるように頑張っていかねぇとな」

「誕生日なのに保護者からプレゼントがないなんて間違ってるっきゅ! 罰としてポップコーン特盛チャレンジに付き合ってもらうっきゅ!」
 そう7/12生まれのレーゲンに宣言され、ウェールは目を白黒させた。
「そうだな、ふたりで分けて食べれば達成も難しくな……」
「なに言ってるっきゅ。ひとり一枚っきゅ」
「わ、わかった。急ぐのはいいが、ちゃんと噛むんだぞ」
「もちろんっきゅ! 店員さん、生中!」
 ポップコーンの山を、レーゲンは最初からハイペースで飲んで食べて飲んで食べてをくりかえす。ウェールは腹具合を見ながら着実に嵩を減らしていく。10分残して見事チャレンジを終えたふたりは記念メダルをゲット。が、レーゲンはべろべろになっていた。
「あんな勢いで飲むから。ほら、水飲んでおとなしくしていような?」
 ウェールがグリュックにレーゲンを膝枕させ、新しく水をもらってきた。やがて聞こえてきたのは鼻を啜る音。
「レーさんに家族は生まれた時から居ないから、こうやって保護者さんと無茶しただけで楽しい誕生日っきゅ。グリュックがからっぽになってからは……ずっと独りで寂しかったから、来年も祝ってほしいっきゅ……」
「独りなんて言うな、71才児」
 ウェールは手を上げて店員を呼んだ。
「ポップコーン特盛、ひとつ追加で」
「保護者さん!?」
「グリュックの分だ。かまわんだろう?」
「ほごしゃさあ゛ん゛……」
 レーゲンの瞳に今度こそ涙があふれた。

 予約していた太刀川だと名乗ると、ジェイクはカフェの奥へ通された。
 6/30は幻の誕生日。幻を喜ばせようと、ジェイクはカフェへ予約を入れておいたのだ。
 ほどなくして幻が姿を見せた。極上のサテンを使った星空柄のマーメイドドレスはミルキーウェイのように輝いている。
「……綺麗だ、幻」
 思わず本心が口から言の葉になってあふれる。幻は恥ずかしげに目を伏せた。
「今日はありがとうございますジェイク様。お祝いされるのは嬉しいもので御座いますね。それもこんなお洒落なカフェで」
(そういえば僕は今一体何歳なのでしょう? とうに数えるのを止めてしまいました、惜しいことをしたものです)
 だってジェイクとの年齢差が気になるから。いつもワイルドなジェイクが今日は白いスーツで出迎えてくれている。彼の隣に立てるだけの魅力を自分は持っているかと、熱っぽい頬を押さえて自問自答。
 ふとテーブルの上のケーキが気になった。紅茶とともに並べられたケーキには蝋燭が一本立っている。
「これはなんでしょう。飾りでしょうか」
「いいや、それは吹き消すためにあるんだ。一息でうまく消すことができれば願いが叶うとも言われている」
「そうなのですね。なんだかドキドキするものですね」
 幻が蝋燭を吹き消すと、ジェイクは満面の笑みで手を叩いた。
「ハッピー・バースデイ幻」
「ありがとうございますジェイク様」
 こんなすてきな関係をいつまでも続けることができたら。二人の思いは同じだった。

 ジェットコースターに乗ってへろへろになったヨハンが広場を歩いていた。
「おいおい大丈夫か? ジュース飲むか? オレ、口つけちゃったけど」
「ああ、ありがとう。お気持ちだけいただきます」
 洸汰が心配してヨハンへ声をかける。ヨハンは申し出を辞退すると、そのへんの露店で自分もジュースを買ってきた。さすがオールドワンと言うべきか、少し休めばヨハンは回復した。くりくりした瞳に生気が戻る。
「そういえば洸汰さんも夏生まれなんですか?」
「おう、8/8生まれ、末広がりだぞ!」
「僕は8/16です。今日は百合子さんたちがバースデーライブを開くらしくてやってきました」
「おお!? バースデーライブだって?」
 洸汰は野外ステージを見上げた。ステージでは急ピッチで飾り付けが行われている。女の子の可愛さがギュッと詰まった飾り付けに洸汰はうきうきしてきた。
「なんかめっちゃくちゃ楽しそうなことやってるじゃん! 俺も混ぜてー!」
「呼んだー!?」
 ハイテンションなレディの声。アーリアだ。おっと髪の色が変わっている。これは一杯(一杯ですむのか?)ひっかけてきた様子。
「今日は私の推し、――そう、最強の美少女である百合子ちゃんのバースデーライブがあるのよ。これはもうみんなで盛り上げるっきゃないわ! はい、これコール本! これに書いてあるとおりに声を上げてね。ライブの一体感を味わったら癖になるわよ! それからこれは外せないわよね、サイリウム。うちわもいる? クラッカーは用意した?」
 矢継ぎ早に質問され、サイリウムとうちわとクラッカーを押し付けられ、洸汰とヨハンは固まった。
「よくわからんがとにかく盛り上げるんだな。ライブは演者と観客が一つになって作り上げるって聞いた!」
 こうなったらとことんまでやってやれと洸汰はメガぴょんたとメカパカおにもサイリウムをくくりつける。
「まあ、僕はできるメイドですから? 合いの手をいれるくらい余裕ですとも。ふふん、ぱっちんぱっちん」
「そんなんじゃダメよぉ、気合、気合が足りないわぁ! 今日はね、月間美少女文芸の看板読モ、自称美少女(種族)の百合子ちゃんの千載一遇のライブなのよ!? しかもきらめくぼくらのタント様に、ぱるすちゃんを敬愛する焔ちゃんまでステージに立つっていうじゃない! これはもう一大事よぉ……最前列ど真ん中確保! 楽しむわよぉー!」
 そのとき、ステージから花火が上がった。ドライアイスの霧がステージを包む。アーリアは抜け目なく最前列へ陣取った。観客席にはイレギュラーズはもちろん、仕事を忘れてやってきたキャストロイドたちが集まって広場を埋め尽くさんばかりだ。
 霧が晴れると、そこには色違いでおそろいの衣装に身を包んだ百合子、タント様、焔がいた。
「みんなー! 今日は吾たちキューティーマッスルのバースデーライブに集まってくれてありがとー! 吾たち一生懸命歌うから、皆も楽しんでいってほしいのであるー!
 それでは聞いてください! 『恋の正中線』!」

 恋の正中線 歌・キューティーマッスル

 あの日流した涙忘れない(オーオオー)
 故郷を焼いた炎の色を(オーオオー)

 朝日のぼるたび誓うの(うりゃほいうりゃほい)
 いつかきっとあなたに追いつくって(うりゃほいうりゃほい)
 二人を阻む距離今どれだけかな(ハイハイハイハイ!)
 恥じらいなんて捨て去るわ(ハイハイハイハイ!)

 ダンベル(PPPH) 握りしめ(PPPH)
 進むの(PPPH) 乙女道(PPPH)
 燃える思いを胸に秘・め・て(オイオイオイ!)

 大好きなあなたへ全力ぶつけるの(オーオオー)
 受け止めて拳握り込むから(オーオオー)

 天倒!(わたしと)
 人中!(あなたの)
 水月!(スイート)
 丹田!(メモリー)
 金的!(はばたけ僕らの美少女百合子!)
    (きらめけ僕らのタント様!)  ←好みの推しでコールしてください
    (かがやけ僕らの焔ちゃん!)

弥恵「私もうガマンできません。8/15生まれ弥恵19才、いざ飛び入り、参ります!」
 私は弥恵 いつでも前 トンデモさえ 受け入れてOK
 止めるのはなし 読めるのは空気 ノンストップ勝利 重ね行く道
 パッション忠実 ラブには口実 ヘイターは天誅 アンサーで交流
 百合の花咲く オンザステージ マイクチェックワン 行くわよみんな!
 叫べ(HO!) もう一度(HO!) 手を鳴らせ(Crap!) スクリーム(Yeah!)
 誰も彼もがかけがえのない このステージ最高またとない

Q.U.U.A.「ずるーいきゅーあちゃんもー! 8/4生まれだもーん、らんにゅうじょーとー!」
 きゅっきゅ、きゅきゅ、らぶりんだぶりん
 Q.U.U.A.ちゃんはねひみつなの(なのなの)
 いつでもあなたがいちばんいーの(いーの)
 いっしょにおでかけたのしいーの(いーの)
 きゅっきゅ、きゅきゅ、らぶりんだぶりん
 わかってねまんかいおとめごころ(ころころ)
 あなたとおててつなぎたいーの(いーの)
 ときにはぎゅっとされたいーの(いーの)
 きゅっきゅ、きゅきゅ、らぶりんだぶりん

百合子「盛り上がってきたであるな!」
タント様「歌もダンスも全力全開ですわー!」
焔「ラスサビ、いくよー!」

 あの日流した涙忘れない(オーオオー)
 故郷を焼いた炎の色を(オーオオー)
 大好きなあなたへ全力ぶつけるの(オーオオー)
 受け止めて拳握り込むから(オーオオー)

 ラストは全員でジャンプ。
 割れんばかりの拍手が起こり、紙吹雪が舞った。クラッカーがはじけ、何本ものリボンがステージへ投げ込まれていく。
 Q.U.U.A.が台車でバースデーケーキをステージへ運び入れ、火のついた蝋燭をキューティーマッスルの三人がせーので消す。弥恵の拍手が呼び水となり、再び盛大な拍手が場を包む。ライブの後は交流タイム。観客たちは切り分けたケーキを推しから手渡しで受け取り、感涙に咽び泣くものも居る。ステージは最高潮。夏はまだまだこれからだ。

成否

成功

MVP

咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳

状態異常

なし

あとがき

なんか最後だけ熱意が新幹線に乗って博多まで行ったみたいなノリになりました。歌詞を練ってるうちに遅刻しそうになっちゃってあわてて書いたのは内緒です。私もバースデーケーキを推しから受け取りたい。

さて、MVPはすてきなライブを企画した百合子さんへ。
特盛ポップコーンにチャレンジしたレーゲンさんとウェールさんへ「メダル」をお送りしております。よろしくご査収ください。

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