シナリオ詳細
<シトリンクォーツ2019>幸運のチトリーノ
オープニング
●シトリンクォーツを知っていますか?
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の言葉を聞くイレギュラーズは、その問いかけに様々な反応を示した。
もちろんという顔をした純種。去年聞いたと頷く旅人。或いは「それ何?」という表情を浮かべる者もおり、その中には『Blue Rose』シャルル(p3n000032)の姿もある。
「……アンタは知ってんの」
薄青の瞳が向けられたのは隣にいる、困惑の色を浮かべぬ男。少し前にローレットへ合流した焔を纏いし精霊種。彼は──『焔の因子』フレイムタン(p3n000086)は「聞いたことがある」とシャルルへ返した。
「精霊たちが言っていた。『シトリンクォーツの時期だ』と」
自然だけではなく、町の中にも彼の同胞(精霊)は存在する。彼らに人間の行事が関係なくとも、人間の動きが普段と異なることを察するのだろう。
だが、とフレイムタンは緩く頭を振った。
「詳細を知るわけではない。人間たちの情報ならば、貴殿らに聞くのが1番だろう?」
「勿論なのです! ここはボクにお任せください!」
ユリーカは力強く頷き、1輪の花を皆に見せる。黄色い花──それは最近、咲いているところをよく見るようになった花だ。
「シトリンクォーツって、元は宝石の名前なのです。このお花……今ぐらいの時期に咲くのですけれど、この花が由来です。
それで、この花が咲く頃に豊穣とこの1年の幸福を祈って、勤労に感謝する1週間があるのです」
その1週間に花の咲く時期が重なるから、シトリンクォーツ。旅人の中には『ゴールデンウィーク』だとか『勤労感謝の日』だとか、それらが混ざったような期間だと口にする者もいて。
「去年もそんな言葉を聞いたのです。多分そんな感じだと思います。
皆さん、様々な国でたくさんお仕事をしているのです。なのでここは皆さん自身の働きに感謝して、旅行へ行ってみるのはどうでしょうか?」
「旅行、ね」
シャルルは──そして今回はフレイムタンも──旅行、という言葉に考える素振りを見せた。その言葉を知らないことはないが、実際どんなものなのか。
「旅行じゃなくても、ちょこっとお出かけする程度だって良いのですよ?」
皆さんの休暇ですから、と笑ったユリーカは薄黄色の石でできたアクセサリーを皆へ見せた。
「というわけで、今回は皆さんにお出かけの提案なのです。
海洋という国はご存知ですよね? 漁業とか、特殊な工芸が盛んな国なのです。このチトリーノという石を使ったアクセサリーも、海洋で作られたのですよ」
使われている石──チトリーノはもちろん海洋産。太陽のエネルギーを秘めているのだと言われており、海に出る者へのお守りから幼子へのプレゼントまで、幅広く贈り物に使用される。
何でも──この石で作られたアクセサリーを"お揃い"で買って身につけると、その人とは明るい関係を築き続けられるらしい。
「今、海洋のルタヤ島でこの石を使った商品がいーっぱい売られているのです! お出かけするならどうでしょうか?」
ね? と首を傾げるユリーカ。その手元でチトリーノが光源を受け、キラキラと煌めいていた。
- <シトリンクォーツ2019>幸運のチトリーノ完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年05月16日 22時55分
- 参加人数32/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 32 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(32人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●Shopping
幸運の色。透き通った黄色はキラキラと輝いて、それはどこか金色に見えて。
「ま、そんな瞳の色のアタシが一緒なんだから今日も明日もきっとツイてるわよ! お礼に荷物持ち頼むわね!!」
「お前の目は太陽ってか、月、満月だよ」
肩を叩くルーミニスへ小言を漏らしながら、クロバは彼女と商店街を回っていく。
色々な服を試着し、クロバへ意見を求めるルーミニスだが。
「がー! ファッションとかよく分かんないのよ!!」
空へ叫ぶ彼女に苦笑いを浮かべたクロバ。軽く辺りを見渡して、白地に黄色とかどうだ? と近くの服を指し示してみせた。
「その髪色と合わせてって感じ。……ま、そういうの、いいと思う」
自らの髪へ視線を向けたルーミニスは、迷うように小さく唸って。
「……クロバは黄色とかあまり着なさそうよね」
「あぁ、オレは……そうだな。いつか──白いコートとか、かな」
(いつか──本当の意味で、お前と向き合えたなら)
彼女はクロバの言葉を聞くと視線を巡らせ、揃いのストラップを手に取った。
「んー、じゃ折角だしコレも買っていきましょ!」
クロバの手へ渡ったそれは、まるで太陽のようで。ふと思い立ったクロバは新月石のペンダントを取り出した。
太陽と、ルーミニスの持つ月光石の光を浴びて浮かぶ朧の満月。クロバの手元の揺れに合わせ、寄り添うそれらが小さく揺れた。
ルタヤの島に1人。黒づくめの人影が歩いていた。それはどうしようもなく人目につくのだが──眩しい光を遮るには仕方ない事。
その人影、レイチェルはアクセサリー店の前で足を止めると商品を眺め見た。吸血鬼の彼女が太陽のエネルギーを秘めし石を買い求める、というのは一見不思議な光景かもしれない。けれどレイチェルが求めるのは、『彼』へ贈るため。一緒に居られるように──石のまじないにあやかろうではないか。
フィールドワークの多い彼のことだ。シンプルなものが見に付けやすいだろう。レイチェルは至極真剣な表情でアクセサリーを吟味して。
「……ちとりーの……? 宝石……?」
「へー、お揃いで身につけると?」
マリネとオリヴァーは顔を見合わせた。そんなものがなくとも関係が変わるとは思っていない。いないが。
「まー願掛けくらいでね、いんじゃん?」
オリヴァーは小さく首肯し、マリネの後をついて行く。
自ら欲しいとは思わないが、マリネが欲しいならとは思うのだ。
(リネと、お揃いなら……それは、嬉しいし)
マリネに似合うものを探そう。そう考えるオリヴァーは、マリネもまた彼に対して同じことを思っているとは、知らない。
「うーん、何がいいかな」
「んん……色々ある。どうしよ……んん」
ぶらぶらと商店街を歩く2人。マリネは店に並んだあるものに足を止めた。
「おっちゃん、これなん? ブレスレット?」
指し示したそれがアンクレット、というものだと教わったマリネはしげしげとそれを眺めて。
「へー、アンクレット! いーじゃんいーじゃん」
「リネ、決まったの……?」
手元を覗き込んだオリヴァーに足に付けるのだと言えば、かくりと不思議そうに首を傾げられた。
説明を聞いてもしっくりこない。けれど、マリネが良いのならオリヴァーもそれで良いのである。
「ね、リヴ、帰ったら付けよーぜ。付け方分かる? 分かんなかったらつけたげっから」
「……うん。分かんない、かも。……付けて」
オリヴァーが頷くと、マリネはパッと笑みを浮かべて頷き返した。
(いいですね、こういう宝石は)
マリナは視線をあちらへ、こちらへ。彼女は『海の男』であるが、一応女である。自分用にアクセサリーが欲しいと思う事も、当然ある。
(将来の船員用に……とりあえず4,5人分ですかね)
いずれはもっと多くの船員を束ねるのだと自らに言い聞かせ、マリナはアクセサリー店に入った。ネックレスやバングルだと良いと思う。そして縁起の良い物──無病息災とか──ならさらに良い。
それっぽいものを購入したマリナは満足げにそれを見て、ふと。
(……船員が増えるお守りみたいのも買っておくべきでした?)
──そんなお守りがあったら、また今度。
「色々ありますわねー……どう致しましょう?」
タントとシャルレィスは品物を見て、顔を見合わせる。お揃いで身に着けるなら。折角だからいつでも目に入れば嬉しい。手や腕に付けたら見えるだろうか?
「あ、じゃああのブレスレットなんかどうかな?」
「ブレスレット! 決まりですわ!」
決まればあとは早い。お揃いのブレスレットに2人の口元は上がりっぱなしだ。
光に翳せばキラキラと輝くチトリーノ。まるでタントのよう──と、不意にシャルレィスが小さく声を上げた。
「そういえばチトリーノって、太陽のエネルギーを秘めているとか言われてるんだよね?」
太陽のエネルギーという事は──タントパワー、ということにもなるだろうか。
「まあ! それならば即ち、わたくしのパワーと言って過言ではございませんわ! しかもわたくしとお揃いなのですからタント様パワー100万倍ですわー!!」
ぴかぴかきらきらと光るタント(物理)。まわりのチトリーノが光を反射し煌めいて、本当に100万倍……かもしれない。
タントのきらめきが落ち着いた頃、シャルレィスは「改めて」とタントへ向き直った。
「これからもよろしくお願いします。ずっとずっと仲良しでいようね♪」
「……はい! これからも! ずっとずっと共にきらめき続けますわよー!」
空の青、海の青。地平線で混ざり合いそうなそれをエーリカは眺め、その隣を歩くラノールは波の音に耳を澄ませて。そうして商店街まで歩いていれば、昔ともに海洋の街へ出かけた事が思い浮かぶ。
けれども今日の目的は幸せを呼ぶ黄色探し。ブレスレット、ネックレス、キーホルダー。そんなアクセサリーを始めとして、2人は石だけでなく小物なども見て回る。そうしてこれはと手に取ったのは丸みを帯びたスープマグだ。ラノールの手にすっぽりと収まったそれを見て、彼は表情を綻ばせる。
思い出すのはエーリカが初めて振る舞ってくれたスープ。それ以来スープを飲むたびに体も心もぽかぽかして、更に味も申し分ない。彼女の手料理は何でも一番だけれど、特にスープはラノールの大好物であった。
けれどエーリカも元から料理に手慣れていたわけではない。沢山練習をし始めたのは、彼と過ごすようになってから。
新たな味を知るたび、ヒトへ近づいた気がして。そしてなにより──とラノールを見るエーリカ。彼に気付いた様子はない。
──彼が『おいしい』と笑ってくれるから、2人で食卓を囲む事も好きになったのだ。
「……あのね、ラノール」
今日は何が食べたい? とエーリカが問えば、微笑みが返ってきて。彼の本音を聞けば、彼女の頬は鮮やかなばら色に染まった。
「沢山の人々で賑わってますね~」
アニーと零は人混みに目を瞬かせて。買い物に夢中ではぐれないように、と互いに目配せを交わす。
だが、その視線はすぐに店の品々へ。綺麗な黄色のそれらに2人を誘うのだ。
「このお店のアクセサリーとかとっても素敵!」
「綺麗だし、見てて飽きないな……!」
興味深げに眺めるところへ、ちょうど店員の謳い文句が聞こえてくる。
「チトリーノ……俺、初めて聞いたぜ」
「わたしもです」
太陽の力が込められているなんて──とも思うが、混沌だったら本当にそうかもしれない。だからローレットで聞いたようなまじないがあるのかも──。
「ぁ……せっかくですしなにか買いませんか……その……お揃いで……」
「お揃い……お、おう、大丈夫だぜ」
どこかぎこちなく、揃いのブレスレットを購入して。アニーがそれを見てふわりと笑みを浮かべた。
「えへへ……こうして同じものを身につけるって、ちょっと憧れだったんです」
「俺も、こーゆう経験無かったから、新鮮だし……うん、改めて誘ってくれてありがとな!」
2人微笑み合い、アニーがチトリーノを太陽にかざすとキラリと輝く。
(……これからも仲良くできますように)
(今後も仲良くできたら……)
それぞれのチトリーノを眺めながらも、思いは同じ。
潮の香る風。絶え間なく聞こえる波の音。ジュースを飲みながらテーブルを見下ろせば、そこには太陽の光できらきらと輝く小さなブローチがあった。そこに嵌めこまれた石を見て、母は自分の事を思い出してくれるだろうか? なんて考える。
(……俺がイレギュラーズになって、心配させてるだろうなぁ)
カイトは空を仰ぎ見た。親不孝者と言われても文句は言えまい。けれどだからといって帰らないわけにもいかないのだ──怖いから。
宝石で機嫌をとって、あとで花も買おうか。カイトの胸中には少しずつ、里帰りの緊張が溜まっているところだった。
リアはしげしげと黄色い石を眺める。ウチのババア、もといシスターと院の子どもたちへ買って行ってあげようか。一応、家族だから。
心の中で色々と理由をつけながら、”家族”へチトリーノを買うリア。贈り物といえば、ととある人を思い浮かべて。
(こ、今度こそ、ガブリエル様に贈るとか……いやいや! でも、バルツァーレク伯爵は日頃の大変だろうし、こういうお守り的なものは良いのでは……!)
百面相をしながらもうひとつ買い求める。包装は──自分でやろう。
「……受け取ってくれるかなぁ」
今度は。今度こそ。受け取ってもらえるように頑張るのだ。
「ウィル、まいごにならないでね!」
「それはこっちの台詞だっての」
もしこの手を離したら、あっという間にいなくなってしまいそう。
手を引くサンティールに、ウィリアムは小さく肩を竦めて。けれど楽しそうな様子に小さく口角を上げた。
キラキラと煌めくアクセサリーをウィリアムは新鮮な気分で見渡す。サンティールもそれらに興味を惹かれながら、けれどと別のものへ視線を向けた。
しゃがんで、と言われた通りにウィリアムがすると、サンティールの手が髪に触れた。その時間は長くなく、やがて後ろから楽しげな声が上がる。
「……はい! 『しあわせのおまじない』!」
見やれば、満足気な彼女の顔と──三つ編みに結わえられた黄色のリボン。
可愛すぎやしないか、そう言おうと思ったウィリアムだが。
「ね、僕の髪が伸びるまで待ってて。そうしたら『おそろい』になるでしょう?」
ウィリアムが『王子様』だけじゃなく『お姫様』も悪くないと教えてくれたから。髪の長さに拘らなくてもきっと大丈夫。
サンティールの手にあるのはもう1本のリボン。ウィリアムが仕方ないな、というように苦笑を浮かべる。
だって──。
「俺も、サティが髪を伸ばした姿はちょっと見てみたいんだ」
チトリーノの話を聞いて海洋にやってきた下呂左衛門。この様な物もあるのかと時に思いながら品物を眺める。
(柄ではないが──)
贈りたい相手の1人くらいいるのである。節約しなさい、と叱られるかもしれないが、いつ命を落とすともしらないご時世だ。
「んむ? 対で身に着ける?」
唸る下呂左衛門。似合うものがいいし、戦闘の邪魔になるものは勘弁である。
(何か不自然じゃない感じの品があれば良いのでござるが)
そう、それに買っても手紙の文面を悩まねば。下呂左衛門はまず良い品を探すべく別の店へと向かった。
「豊穣とこの1年の幸福を祈って、勤労に感謝する1週間……だそうですね。
日々の生活に感謝しつつ、来年も同じようにお買い物できることを祈りましょうか」
クラリーチェの言葉に雪之丞はええ、と微笑みかけた。願わくば来年も、その先も。その願掛けとしてお揃いのチトリーノが欲しいのだ──なんて。
きょろきょろと商品を見渡すクラリーチェは、時折雪之丞へ視線を移す。
(雪ちゃんに似合う、お守り代わりになるようなもの……)
さて、彼女はどんなものが似合うだろう。沢山ある中から探すのは大変で、けれど楽しいもの。
「クラリーチェは、どのような物が好きでしょうか?」
「普段使いできるもの、でしょうか。修道服の中に仕舞えるものであれば日々身に着けていられますね」
クラリーチェの答えに雪之丞は小さく考え込む。
小さいものなら仕舞えるし、目立たないだろう。だとしたら根付や腕輪などだろうか。
「例えば……これ等如何でしょう? お揃いで」
クラリーチェが持ってきたのは揃いの細工がされたペンダント。まぁ、と雪之丞は小さく顔を綻ばせる。
「これは可愛いですね。お揃いで、買いますか?」
「そうしましょう」
2人は頷いて、店主へと声をかけた。
(ロク君にはどんなものが似合うだろうか?)
辺りを見回しながら進む王子──クリスティアンは、とあるものを見てぱっと瞳を輝かせる。
「これしかない!」
そしてまた別の場所ではロクがうろうろと店をうろついて。
(今日はチトリーノをいっぱい買って王子に贈るんだ!)
金策のために牧場のロバを手放したとか逃がしたとか。全ては王子のために。王子は太陽なのだから、あのきらきらに負ける事無いくらいのキラキラがなければ。
「これください! これとこれも! 全部ください!」
こうして沢山買い占めたロクはクリスティアンとの待ち合わせ場所へ。彼女を見つけたクリスティアンが瞳を潤ませる。
「見て王子! これ! これ全部王子に! チトリーノの王冠、ブレスレット、ペンダント、布団、ありがたい壷!!」
「これを……すべて僕に……? 高かったろうに……」
何か違うものが混じって──いや、言わないでおこう。
ロクはクリスティアンから受け取った、チトリーノがふんだんにあしらわれた鞍に感激。
「王子! 王子ありがとう!」
「僕こそ! 太陽のエネルギーをビンッビン感じる! ウオオオオ!!」
貰った品々を身に着け、カッコいいポーズをビシッ! と決めるクリスティアン。キラッキラであるが──傍から見たら大層カオスである。
(これを買ったら完全に予算オーバーですわね)
ヴァレーリヤは目の前のアクセサリーと睨めっこ。今月の生活費を取るか。お仕事を頑張った自分へのご褒美を取るか。まあ、半分分かっていることながら──選ぶのは後者だ。
「ええい、大事なのは今! 連休にも関わらず教会で馬車馬のごとく働かされた後、バカンスを存分に楽しんだという思い出ですの!」
店主へこのアクセサリーを! と声を上げたヴァレーリヤ。勢いで金に糸目はつけないなどと言ってしまったが、すぐ小声で店主へ相談し始めた。今月の生活費も捨てきれないのは──仕方ない。
「つーかよ……なんで海洋なんだよ」
「いいじゃんっ、暇でしょ!」
てっきり天義の観光かと思ったのだが──アマリリスがアランを連れて向かったのは海洋。しかも買い物。
「……まぁ、一応は何があるか見てみるわ。買う事は多分ないだろうけどな」
アマリリスは彼の瞳を見て頷くと、アクセサリー店へ足を運んだ。その背中から視線を外し、アランは店をぶらぶらと見て歩く。よくよく見てみれば、どうやら黄色を基調とした品物が多いようだ。それも誰かと共有するようなものばかり。
──なんて見ていたら、時間が経つのは早かった。アマリリスが店から出てきてこちらへ駆け寄ってくる。
「アラン、腕を」
「……?」
言われるままに出すと、手首に紐のようなそれが巻きつけられる。ついている小さな石は黄色と言うより──そう、アランの瞳に近い色。
「ミサンガか」
「よく戦場で貴方とお会いしますし、まあ、お守りみたいなものですね。そうそう、切れたら願い事が叶うそうですよ?」
「切れたらって、んな非現実的な……ま、貰っといてやるよ。有り難く思えよ?」
上からな口調にアマリリスが口を開いて──その視線がアランの後方へ飛んだ。振り返ったアランの背に思わず隠れたアマリリスに、それを目の当たりにしたフレイムタンはぴたりと立ち止まる。それ以上、距離を縮めてしまわぬように。
怪訝そうな視線を向けるアランに『友達になったけど火が怖い』と言えば微妙そうな顔をされた。その後ろからアマリリスはほんの少し顔を出し、フレイムタンを見上げる。
「あなたの事が嫌いではないから……ちょっとずつ、慣れていくね」
彼女の言葉に、フレイムタンは頷いて。またなと言うように片手を上げ、彼はいずこかへと。
十夜は店先の商品を見て、やはり思う。
人間関係は波風立たせず。それに"おっさん"と揃いの物など、嬉しくもないだろう。そう思えど司会に映る黄色に、2人の姿を思い浮かべずにはいられない。
海に消えた髪の色。自らの話を聞いてくれた、瞳の色。
立ち尽くしていることを怪訝に思ったのだろう。店主に声をかけられた十夜は小さく頭を振って。
「……あ、あぁ、何でもねぇ。……っと、いや、そこの根付を包んで貰えるかい?」
包みを受け取って懐にしまう。それは自分にも見せまいとするかのように。
(今更、水面の太陽に手を伸ばす資格なんざ──俺には、もう)
瞳に揺らぐ波は、昏い何かをちらつかせて。
「あっ、いたいた!」
手を振る焔にフレイムタンが気づき、近付いてくる。それと同時に焔は「はい、これ!」とブレスレットを差し出した。
「これは……チトリーノか」
「あ、知ってる? これをお揃いで着けてると仲良しでいられるんだって!」
ローレットへやってきたフレイムタンだが、まだ焔と共に過ごした時間は少ない。だからこそ、仲良しになりたい気持ちを込めて贈るのだ。
「受け取って、くれるかな?」
「……ああ。頂こう」
ブレスレットが焔の手から彼の手へ。嬉しそうに笑った焔はすぐに「あっ!」と声を上げる。
「一方的に懐いちゃってる感じだけど、迷惑だったりしないかな?」
彼の気配は懐かしい焔のそれで、初対面から距離が近くなってしまっている。けれど彼は焔の問いに否、と頭を振った。
「迷惑とは思わない。それに──個性豊かがローレット、だろう?」
目を瞬かせた焔は、そうだったねと小さく笑いかけた。
●Give to you
「こ、このような……贈り物は……初めて……ですので……」
海辺のカフェ。そこで幽魅がレジーナへ渡したのはヘアピンだ。白い花の真ん中で、きらりとチトリーノが煌めく。
「少し……子供っぽい……でしょうか……? す、すみません……っ!」
「ふふ、素敵よ? 自身がないって言ってたけれどそんなことないわ」
ありがとう、とレジーナはヘアピン受け取った。次はレジーナから幽魅へ。
髪で隠れた幽魅の表情がわくわくと輝く。
「実は色々迷ったのだけれども──ゆみにはこれが必要かなって!」
どーんっ!
現れたダンベルに幽魅が「えっ?」と声を上げて、けれど折角のプレゼント……と真剣に悩み始める。その様子にレジーナは「なんてね」と小さく笑った。
「真に受けないで」
ダンベル──の形をした使い魔を戻せば、中から現れたのはチトリーノのはめ込まれた髪留め。それに幽魅は口元を綻ばせる。彼女の反応にレジーナも口角を上げると、髪留めを手渡した。
「これで髪を留めて、もっと顔を我(わたし)に見せて頂戴」
公園のベンチは木陰となっていて、風が少し涼しく感じられる。そこで待ち合わせた蛍と珠緒はお互いの買ってきたものを交換こ。
「まずボクから。いつも素敵な思い出をありがとう」
受け取った箱はネックレスのそれ。分かっていてもドキドキとしてしまって、珠緒は小さく笑みを零す。
「母なる海、癒しの水……そんなイメージがぴったりだなって」
促されて箱を開ければ、そこには幸福の色が凝縮して零れ落ちたような──雫のネックレス。
「ね、よかったらボクが珠緒さんに付けていい?」
「桜咲にもやらせていただけるなら、よいですよ」
どうぞ、と珠緒も蛍へネックレスを贈る。「はーと型なのです」と得意げな珠緒に、箱を開けた蛍は頬を赤らめて。
「好意をより明確に伝えるものとして1番と伺いました」
「ととととっても素敵ね! ずっとずっと、大切にするわ」
好意と聞いてさらに頬を赤らめる蛍。誤解しちゃうじゃない、と呟かれたそれは珠緒に聞こえたかどうか。
「いつもご一緒いただき、生きて世界を歩む喜びを分けてくださる蛍さんへの、お礼です」
「こちらこそ……ネックレスも、貴女との絆も、一生の宝物よ」
ネックレスを付け合って、2人は淡く微笑んだ。
夕暮れの海岸沿いを一緒に歩く政宗と春樹。政宗は彼と他愛ない話をしながら、どうしようと小さく視線を彷徨わせた。
勇気が中々出ずに、もうこの時間。小さな焦りが政宗を急かす。
「……は、春樹さん!」
嗚呼、声が上擦った。頬も熱い。けれど言うなら今だ。
「その……僕を選んでくれてありがとう。これからも仲良くしていたいから、どうか受け取ってくれると嬉しいな」
普段から着けられるものを、と選んだのはチトリーノのネックレス。受け取った春樹はなるほど、と今日の行動に納得の色を見せた。
(わざわざこういうデートスポットに誘われるなら、きっと何かあるんだろうと思っていたが)
重いかな、と問う政宗の言葉に春樹は微笑んで──頷く。
「もらう事、込められた愛情。全部ひっくるめて軽んじる事なんて出来ない。ずっと感じていたい、大切な重みだ」
俺からはコイツな、と差し出されたものを見て政宗は目を瞬かせた。それを──松葉牡丹の花飾りを見て、春樹の顔を見て。そんな様子に春樹は小さく首を傾げる。
「何だ? 贈るのは政宗たんの専売特許じゃないぞ」
春樹らしく薄い本を、とも思ったものの、2人は危険な依頼も受ける身。戦場でも身につけられるようにと選んだ一品だ。
ネックレスも、花飾りも──いつも着けていられるように、と考えまでお揃いで。2人は小さく笑いながら、指を絡め合って再び歩き出した。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お楽しみ頂けたでしょうか?
皆さんのお揃いが見つかっていれば幸いです。
またのご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
GMコメント
●選択肢1【買物】
お買い物です。
商店街ではチトリーノという透明感のある黄色い石を加工したアクセサリーが多く売られています。
こちらをお揃いで身につければ、明るく良い関係を築いていられるそうです。恋人、家族、親友などでお揃いを買う人が多く見られます。
また、石でなくとも黄色という色に『幸福の色』という意味を重ね、どことなくその色を使った小物や服が多く売られています。
●選択肢2【贈る】
誰かへ贈るシーンを中心に書きます。場所は後述のロケーション内でご自由に指定して下さい。
渡すもの、心情、前後のやりとりなどを込めて頂ければと思います。
●ロケーション
ルタヤ島というそこそこの広さがある島です。中心には住宅や商店街など活気のある町が1つあり、町を出ればすぐに広大な海岸が広がります。
町には海を見ながらのんびりできる公園やお洒落なカフェがあり、観光客に人気です。
●NPC
私の所持するNPC(シャルル、フレイムタン)は、ご希望頂ければ登場する可能性があります。
●注意事項
本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
同行者、あるいはグループタグは忘れずにお願い致します。選択肢タグはなくても構いません。
●ご挨拶
愁と申します。
買いたい! 贈りたい! どちらの思いもあるかと思います。が、今回はイベシナですので、どちらかの思いをギュギュッと凝縮してプレイングに込めて頂ければ幸いです。
ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
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