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シナリオ詳細

<Phantom Night2018>もしもし、こちらはうつしよです

完了

参加者 : 29 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ハロー、そちらはどうですか?
 おてんきはどうですか、くもはないていませんか。
 おかげんはどうですか、きずはいたんでいませんか……

 メフ・メフィートの一角に、小さな広場があった。家々の隙間に出来た広場。決して広くはない広場。広くはない広場って、ちょっと言葉がおかしいって? そこは収穫祭だから勘弁してよ。
 でね、その広場なんだけど。収穫祭の間――不思議なものが置かれるんだって。
 誰が作ったのかも、誰が置いたのかもわからない、そしてとっても役に立たない、そんなものが。


●リトルサッド・ファントムナイト
「不思議な広場をご案内するのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は黒と南瓜色を基調とした可愛らしい服に身を包み、ご機嫌そうにそう言った。そして問う。『電話って知っていますか?』と。
「旅人さんは知ってるかもしれないのですが、こう、お耳に当てるところと、口元にくるところがある長い持ち手があって――そこを通じて、お話が出来るのだそうです。遠いところともお話が出来るのだとか。似たようなものは練達にあるかもですが、幻想には基本的にないものですね。でも、それがあったのです。街角に。ハロウィンに現れるのだそうです」
 でも、それって“不在証明”に引っかからないの?
 引っかかるのです。盛大に。
「そこにある“電話”は、お話が出来ない電話なのです」
 ちょっと意味が判らない。首を傾げる人々に、謎かけする魔女さながら、ユリーカはほんの少し沈黙を保ち、小声で言うのだ。とっておきの情報は、秘密でなきゃいけないから。
「その電話は形だけのものですが、だから、誰にかけてもいいのですよ」

 浮かぶかぼちゃのランタン、林立する電話台。
 そんな不思議な空間で、あなたは誰に電話をかける?
 魔法が解けない程度なら、誰に何を話しても構わない。だって――電話なんだから。

 合言葉は知ってるね? 受話器を持ったら、言ってみて。
 もしもし、ハッピーハロウィン!

GMコメント

 もしもし、聞こえていますか?
 こちらはハロウィン大好き奇古譚です。
 今回はほんの少し寂しいハロウィンへのご案内です。

●目的
 電話を掛けたり、ハロウィンを楽しもう

●立地
 町中に偶然できた広場ですが、景色は超ハロウィンしています。
 かぼちゃのランタンが浮いていたりとか、おばけの飾りつけがしてあるとか。
 何より目を引くのは、何故か林立している電話台と黒電話でしょう。
 もちろん「何処にもつながりません」。だからこそ、言えなかった言葉、言えない言葉を伝えるのはいかがでしょうか。今回はそういうイベントとなります。
 (良識の範囲内でしたら)誰に何を伝えても構いません。いまは不思議な事が起こる時期ですから、もしかしたら――お返事があるかも知れません。

●出来ること
《1》楽しくハッピーハロウィン
《2》もしもし、とお電話

 2が主題となりますが、勿論普通にハッピーハロウィン!も出来ます。
 電話に悪戯を仕掛けるなんて事も出来ます。

●NPC
 希望があれば参加の可能性がございます。

●注意事項
 迷子・描写漏れ防止のため、冒頭に希望する場面(数字)と同行者様がいればその方のお名前(ID)を添えて下さい。
 シーンはどちらかに絞って頂いた方が描写量は多くなります。


 イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
 皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってハロウィンを楽しみましょう。
 また、今回伝えた気持ちを公開したくないという方は明記をお願い致します。無音映画な感じで描写致します。
 それでは、またね。がちゃん。

  • <Phantom Night2018>もしもし、こちらはうつしよです完了
  • GM名奇古譚
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2018年11月16日 21時35分
  • 参加人数29/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 29 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(29人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
マナ・ニール(p3p000350)
まほろばは隣に
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)
α・Belle=Etoile
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
クレッシェント・丹下(p3p004308)
捜神鎌
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
辻岡 真(p3p004665)
旅慣れた
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
煌めきの王子
ロク(p3p005176)
クソ犬
凍李 ナキ(p3p005177)
生まれながらの亡霊
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
フォーガ・ブロッサム(p3p005334)
再咲の
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)
甘夢インテンディトーレ
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
ビス・カプ(p3p006194)
感嘆の
ケイド・ルーガル(p3p006483)
ブライト・レイン(p3p006641)
粛殺の雨
エル・ウッドランド(p3p006713)
閃きの料理人

リプレイ

●生に祈りを
 収穫祭の賑わいも、ここからでは少し遠く聞こえる。
 けれど、浮かんだカボチャのランタン。飾り付けられたコウモリのシール。誰が下手人かも知れぬ装飾は、確かにここも祭りの只中なのだと来訪者に教えていた。
 秋の虫が鳴いている。
 リイリイと、耳を澄まさなければ聞こえない。それはさながら、電話の呼び鈴のようでもある。



「へぇー、何処にもつながらない電話かぁ!」
 ミルキィは受話器を上げて、耳に当ててみる。なるほど、確かに何処にもつながる気配がない。なら、何を話しても大丈夫かな。ちょっぴり考えて、語るのは。
「あんまり大きい声では言えないんだけどね……」
 最近食べ過ぎて、ちょっとお腹にお肉がついてきた気がしてるんだ。
「……うん! ハロウィンだからって、トリートの食べ過ぎは危険だよね! とりあえず、体を動かすためにトリックして回らなきゃ!」
 悪戯の腕が鳴るね!
 とは言うものの、お菓子を貰ってしまったら悪戯出来ないのではないだろうか。

「遠くの人と会話が出来るなんて、なんだかすごいものなんだね!」
 エルは受話器を手に取り、その重さを確かめる。たしか、このへんを耳にあてて、このへんが口元に来るように……
「もしもし、天国のお父さんですか? お元気ですか? エルです。こっちは、なんとか頑張って生きてます。いま、幻想では収穫祭をやってるんです! とっても楽しいです」
 それだけじゃないんですよ。色んなお祭りや、事件や、それからそれから。
 返事がなくたって構わない。お父さんならこう返すだろうと、エルは判っている。だから寂しくなんてないのだ。

「どこにもつながっていない電話」
 エリザベスは興味深そうに、黒電話をまじまじと見ていた。実はメリー様やリカちゃん様に繋がっていたりしませんか? と一人問う。繋がっていませんし懐かしすぎるぞ!
「それにしても、古風でございますねぇ……ではこちらも古風に……しもしもぉ~?」
 受話器を優雅に手に取るバブル世代エリザベス。勿論、返答はない。
「本来とは異なりますが……わたくしの想いを聞いて頂くより、電話様の想いを聞いてみたいですわ。さぞ沢山の想いを聞き届けて来たのでしょうね」
 無機疎通をもってしても、黒電話は何も語らず。それはある種、無機物として完璧な在り方だ。
「まあ、強いて言えば……開発者に幾分思うところもございますが。逢う事も叶わないかもしれませんし、乙女の真実は秘密にしておくのが良いでしょう」

「もしもし、……だったかな。おばあ様、元気にしてますか?」
 津々流は何の音も鳴らない電話に、流れるように言葉を紡ぐ。そちらはどうですか、暑すぎたり寒すぎたりしていませんか? 夏の嵐は大丈夫でしたか。里は今日も平和ですか?
「……こちらは忙しいですよ。退屈しません」
 四季告の青年は、祖母を思う。きっと大きく枝葉を広げ、晴れの日には小鳥たちを護り、雨の日には人を護っているのだろうと。
 その能力を失った今、彼は時間の果てに何になるのだろうか。
 沈黙して受話器を置いた彼に、問う者はいない。

「もしもし。夜分遅く失礼します」
 そこまでいって、レインは何を話せば良いのか判らなくなった。話題。何かあっただろうか。収穫祭、はいま楽しんでいる最中だし。
「ええと……食べ物や飾りは足りていますか? 村では、石ころを空き地に並べて、キノコや木の実のスープがご馳走で……今いる街はそちらとは大違いですが、わたしは何とか無事にしています」
 そしてまた、黙する。いざ伝えようとなると、なかなか言葉が出て来ない。いや、これは言葉を探しているというより――
「この冬は、送ったお金で無事に越せそうですか? 薪や毛布は足りていますか……?」
 ………。心配だ。
 決して豊かではなかった故郷。まして、戦が始まっているとなれば。本当は今すぐ帰りたい。けれど。
「ごめんなさい、帰っている時間はないの。……今度はお手紙を書きますね。」
 おやすみなさい。

「あー、あー。もしもし、ハッピーハロウィン!」
 アクセルは明るく、そう切り出した。相手は昔の自分。まだ魂の特異を見出されていなかった頃の己。
「雪山で遭難して、ちょっと危なかったけど…あれから命を救われたり、イレギュラーズになったり、色んな事があったんだ。今は楽しくやれてるよ」
 だからいいんだ。苦しくても、諦めなくていい。悲しんだりしなくて、いいんだ。
 それはまるで、未来に誓うかのように、過去へ語る。
 かちりと受話器を置く音がして、その後に、はばたき。
 誰もいなくなった電話台の上に、クッキーが一枚。それは過去と未来と偶然に、ありがとうの気持ち。

 縁は、以前旅人が持ち込んだという本の内容を思い返していた。
 人の秘密を知ってしまった男が、耐え切れず穴を掘って秘密を言い落すというものだったが……
「この電話も、そういう意図で現れたのかねえ? あー……もしもし?」
 ひねりのない挨拶だ、と苦笑する。そも、使えるものではないと最初に聞いたではないか。苦笑する彼の耳に、ふと、ノイズが混じった。
“――……どうして”
 ノイズは、聲のかたちをして……
“どうして、私を 助けてくれなかったの”
 聞こえ終わる前に、力いっぱい受話器を叩きつけていた。走ったかのように心臓が鼓動している。嫌な汗が背中を伝う。忘れる訳がない。忘れられるものか。
 あの声は、あの女は……

 じりりり、じりりり。ダイヤルが回る。ウェールの指がダイヤルを回す。もう使わないと思っていた番号は、案外すんなりと頭に浮かんで。
「……もしもし、ハッピーハロウィン! それから……二週間後くらいか、誕生日おめでとう、梨尾!」
 呼んだのは我が子の名前。鮮明に思い出せる、我が子の面影。
「パパは梨尾にとどめを刺されてから、気付いたら異世界にいてな。元気か? もしパパの事を引きずってるなら気にするなよ」
 つとめて明るく、ウェールは語る。この通り元気だしな、と笑って、……。
「……独りにして、ごめんな」
 一緒にいるって約束したのに。後始末させてしまって、ごめんな。でも何より、パパの息子になってくれてありがとう。
「愛してるよ、梨尾」
 いつになろうとも、必ず今度こそただいまをいうから。

「もしもし、ハッピーハロウィン!」
 元気よく合言葉を切り出すのは、赤鬼の姿をしたゴリョウだ。繋がらぬ事は百も承知、と笑顔を浮かべている。相手は――
「この世界に呼ばれなきゃ、俺はあの世界で、あの瞬間に死んでた。後悔があるわけじゃねぇが……死にたい訳でもなかったからな。呼んでくれたのがあんた……ざんげなのかそれ以外なのかはこの際気にする事じゃねぇ」
 呵々と笑うゴリョウ。そして、この世界は良い、と更に続ける。
「友人も出来た、仕事もある。何よりメシが美味ぇ! ……ありがとな。こんなオークなんぞを呼び出してくれてよ。
 ちっとでも恩を返せるよう、今後も頑張っていくからよ。……そんじゃ、体に気ぃつけろよ!ざんげ!」

 受話器を取る手が僅かに震えた。その理由をアルファードは判っている。
 届かないと判っていても、それでも電話の相手の仔細を思い出せる。鋭い双眸、冷え切った声色。けれど、届かなくても、恐ろしくても……自分の在り様を忘れないために、彼女は漆黒の受話器を取る。
「……もしもし。アルファードです」
 返答はない。もし目の前にいたとしても、きっと返答はないのかもしれない。そう、思い返しながら。
「そちらのお天気はどうですか。雨や雪は如何ですか。ちゃんと……四季は巡っていますか」
 声が震えていやしないかと。
「お役目を放り投げてしまって、ごめんなさい。そちらの世界がしっかり巡っていればよいのだけれど」
 ごくりと唾を飲む音が、聞こえやしないかと。けれど、そうだ、これだけはちゃんと伝えなければ。
「必ず戻ります。私は……調律者ですから」

「Hello Hello My Queen. Happy Halloween?」
 異国の言葉と受話器の無音に史之が沈める、秘めた熱情。
「I wanna save you from all evil things.
 Because the moon is so beautiful.
 I don't need other reason. ……はあ」
 こんな事、本人を前にしたら言えないんだろうな。だって、無音の電話相手なのにこんなに頬が熱い。照れくさくて指先で頬をこすりながら、苦笑。
 見上げた空の月は、ぽっかりとオレンジ色。

「おお……! これが、電話!」
 ヨルムンガンドは瞳を輝かせて、黒い受話器を手にする。
「誰に何を言おう……といっても、私は既に決めてあるんだけどな……!」
 そう、それは過去の己に向けて。受話器に声を吹き込むように。
「やあ、私! ……一人の所、急に話しかけて驚いたか?」
 今も空を眺め、何か起こるのを待ち続けているのか? でも大丈夫だ。その孤独は必ずいつか終わる。未来の私が保証しよう……!
 想像出来ないかもしれないが、私は人々であふれかえる街の中で、祭りごとに参加してるんだ……! このメッセージもその一環で、あ、自慢じゃないぞ!
「……いつか君も、このお祭りに参加して声を届けるんだ。そしてその後は、楽しいお菓子集めだぞ……! ハッピーハロウィン!」

「真に奇妙な夜です」
 クレッシェントは、奇妙だと鎌首を傾げる。その姿は案山子。電話が判る旅人なら、懐かしいと零すやもしれぬ。
 世の遍く自称を見聞きし知り得る存在だとか? まあ、そんな知識を得たとして、知りたいことなどありません。
 ――僕の神様。唯一、貴女を除いては。
 受話器を取るのは貴女の為。語るも聴くも、貴女の為。クレッシェントのまだ見ぬ「神様」。けれど、ああ、言いたい事がたくさんあるはずなのに、いざとなると言葉にならないのです。
「…必ずや」
 振り絞るようにして、たった一言。
「貴女のお傍へ、参ります」
 握りしめた受話器を下ろせない。もしや吐息の一つでも感じられればと。収穫祭の奇跡に頼るしかない僕は、一本足で立つ案山子には矢張りなれないのだろうと思います。

「もしもーし、ハロー?」
 ペッカートが語る。受話器はなにも答えない。
「俺の事覚えてる? 俺はキミの事なんて忘れたね。――そーだ、変な世界に召喚されたんだ。召喚主は……何だろ、世界? びっくりだろ。それに契約内容は自由に行動する事だぜ」
 気分次第で何でもできる。最高じゃねぇ? キミもこっちに来れたらよかったのにな。
 ――……キミの最期を覚えてるよ。あの時、俺の話を最後まで聞かなかったろ。俺、大事なことを言ってたんだぜ?
「伝えたい事はあるけど、俺がそっちに行くまでお預けだ。精々悔しがりながら気長に待ってろ」

「錬達にも電話はあるっちゃあるが……」
 錬達の外は圏外だったな、とケイドは思い返す。だからこの電話も、きっと圏外なのだろう。それが今は好都合なのだが。
 受話器を慣れた様子で上げて、耳に当てる。番号なんて知らないし、要らない。
「もしもし、親父か。幻想に出稼ぎに行ってるらしいけど、まだ会ってないな。自分も幻想に居るんだ。……嘘つけって顔してるだろ、本当だって」
 夏の最中、八月にイレギュラーズになって。仕事はぼちぼち。けれど、仕事でもプライベートでも、まだ父親に顔を合わせた事はない。金の林檎亭、というやけにファンシーな名だけは覚えているのに。
「……爆発してる店探しゃそのうち見付かるだろ。それまで店をぶっ壊すなよ。――じゃあ、」
 じゃあ、今度また、幻想で。

「もしもし、兄さん? 元気にしてる? 私はとっても元気だよ」
 アレクシアの電話の相手は決まっていた。自分に冒険という道を示してくれた、敬愛する“兄さん”。
 いまどこで何をしているんだろう? ううん、きっと、今もどこかで誰かを助けてるんだよね。だって、私の憧れの兄さんなんだもの!
「…でも、時々不安なんだ。もし兄さんに何かあったら……って」
 そんな事はないと信じたい。けれど、もし、もしも……何かに困ったりしていたら。その時は自分を頼って欲しい。もう昔の私とは違う、今のアレクシアは冒険だって出来るし、強くなったんだ。兄さんに頼られるに足る存在だって、自信を持って言えるよ。
 だから、どうか元気でいてね。そしてまた話を聞かせて欲しいな。
 兄さんの楽しい、冒険の話を!

 軍服を着こなした黒猫が、電話の前で尻尾を揺らしている。
 このかたちを知っている。使い方も知っている。真は慣れた仕草で電話を取り、いま、ハッピーハロウィンを最も言いたい相手を思い浮かべた。
「もしもし、姉さん? ハッピーハロウィン! 弟の真だよ」
 お菓子なんていらない。だから、その可愛い声を聴かせて? きっとそう言ったら、バカねって笑われるのかな。
 いま何処に居るの? 俺はいつも通り旅先で……いつもとは違う混沌世界ってところにいるよ。
「逢いたいな、姉さん」
 真が溜息を吐いた、その吐息にノイズが混じる。
“――身体には気を付けてね”
「……!」
 それは確かに、姉の声だった気がして。真は嬉しさと驚きで一瞬固まり、その後、また何か聞こえないかと暫く耳を澄ましていた。

「もしもし、ハッピーハロウィン! ――威降です。今、異世界に来てます」
 威降が思い浮かべたのは、矢張り生家。突然いなくなって、きっとみんな心配しているだろう。それか怒っているかもしれない。でも俺は悪くないと思うんだ。だって玄関をくぐっただけだし。
「……あ、でもお祖父ちゃんなら『時空を斬れ』とか言うかな? 無理だからね?」
 厳しかった祖父を思い出す。或いは自分でなく祖父なら、本当に時空を斬って見せるかもしれない。
「あの頃は、こんなもの何の役に立つんだって思ってた修行だけど……判らないもんだね。お祖父ちゃん、鍛えてくれてありがとう。……風巻流は日ノ本最強だよ」

「うおー懐かしい! 小学生のころよく使ってたなー! 稔クン知ってますか! 黒電話!」
『知らん。なんだこれは?』
 虚と稔は一人で二人。やいのやいの、心中で話に花が咲く。
「こうやってね、番号で繋ぐんだよ。呪いの番号とかあったなー。全部0番とか!」
 ダイヤルを回して遊ぶ虚。そして最後に、ダイヤルを回さずに受話器を耳に当てた。
「もしもし! 稔クン、聞こえますかー? ……俺は元の世界で殺されて、命が付きそうなところを稔クンに助けてもらったんだよね。覚えてる?」
『ああ。うるさいのを拾ったと思ってる』
「酷いなー! でもね、俺さ、今生きててすっげー楽しいよ! ありがとな」
『……それは何より』

 無数に並んだ電話台に、壮観だとクリスティアンは息を吐く。けれど、どれも繋がっている様子はない。成る程と頷いて、電話台の一つに歩み寄る。
 届くわけはないのだ。けれど、もしも願えるなら――
「……父上、聞こえますか? 僕は今、混沌という世界におります」
 世界を救うべく、傭兵をしているんですよ。最初は右も左も判らず戸惑いましたが、優しい人たちに助けられ、友人と呼べる人も出来ました。
 いつ戻れるのか、……そもそも戻れるのかも判りませんが、今出来る事を精一杯。
「この世界の民の為に尽力します。どうか、安心して待っていて下さい」
 王子という肩書は、幻想においては意味を持たない。
 けれど王子であるという矜持は、彼を強く生かすには十分すぎるものだった。

「もしもし、ハッピーハロウィン! わたしはロクです。コヨーテのロク!」
 ロクは受話器を取らずに、元気よくお話していた。誰にって? 目の前の黒電話さんにです!
 誰があなたを作ったの? どうしてここに置かれたの? よく判らないけど…
 わたしはね、お話してみたい人いっぱいいるよ! おかあさんとか、本当のお母さんとか! でも、今ここにいるのは黒電話さんだよね!
「お風呂には入るの? ちょうちょって見た事ある? ダンスは踊る? お話がしてみたいなあ……でも出来ないよね。だってあなたは電話だもんね。お疲れ様!」
 よしよし、と電話を労わるように撫でて、ロクはそっとおまじないをした。
 電話さん、あなたに不思議な力があるのなら、この後電話をかけた人にちょっとした奇跡を……なんてね?

 細い手が、受話器を取る。
「……もしもし……?」
 か細い声。ナキは泣きそうな顔で、けれど泣けずに、少し沈黙を落とした。
「あなたは、どうしてボクを生かさなかったの」
 どうして、ボクを流したの。――知ってます。あなたの都合があったのだって。でも。どうして、ボクの意思を認めてくれなかったの。
「判ってる、……判ってるんです」
 話せないから。動けないから。でも、判って欲しかった。
「……さようなら」
 それからほんの少し、ナキの唇が言葉を描いて。ふと、頬を伝ったものに気付いた。
片手で頬をなぞり、見つめる。それは透明な雫。
 雨だろうかと見上げても、そんな気配は微塵もなかった。

「これが電話、ですか」
「うん。遠くの人とおしゃべり出来るんだよ」
 フォーガとビスは二人ならんで、黒電話を見ていた。便利なものですね、とフォーがが感心して頷く。咆哮の手間が省けるのはいい事だ。
「こっちの世界にもあるのは意外だったなぁ。繋がらないから、意味はないけど……じゃあ、ちょっとお喋りしてくるね」
「そうですか、では私もお話してみましょう」
 フォーガは慣れない様子で、ビスは慣れた調子で受話器を取る。耳に当てたり、さかさまにしてみたり。
 語る相手もそれぞれだ。フォーガは同胞へ、侵略者の虚しさを静かに。ビスは捨てた名前を拾い上げて、かつての恩師へと。
 懐かしく、しかし物悲しい思い出は、二人に共通するもの。
「…月城は元気です。忘れてください」
「同胞よ、どうか見守っていて下さい」
 方向はどうあれ、過去と決別する言を残し、二匹の獣は行く。

 巫女装束にマント、それから編笠。ハロウィンに紛れた変装をして、メリルナートは広場に踏み入る。
 電話の相手は決まっている。“節税”と“慈善事業”をやらかした、元婚約者サマ宛だ。
 彼がいなくなった後の事。貰った指輪がなんの運命かパンドラの収集器となった事。……その声は泣き声になっていく。胸に詰まって、涙となって溢れ出す。
「……お前に貰った指輪、手放さなきゃって思ってたのに……こんなことになっちまって、手放せなくなって。よかったなんて思っちまったんだよ。嬉しかったんだよ……」
 ああ。
 やっぱり俺はお前の事、今でも愛してるんだろうな。

「もしもし、はっぴーはろうぃん」
 ミディーセラの電話の相手は、最初から決まっていた。彼の師匠である。毎日送り付けて来る手紙への皮肉を込めた感謝を述べて。
「手紙は読んでいないので安心してください。数百年後か千年後に呪いを……ああ、そうでした」
 きっと返しに行く頃には静かになっていて。全部全部、遠い思い出と記憶になって。
 いつもなら気に留めないのに。そっと見送るだけなのに。
 なんだかちょっとざわめくような、いなくなるのは、少し嫌だなあって。
「そんなヒトを、最近見つけました」

「………」
 アーリアは一人、受話器を耳に当てていた。最近心に引っかかっていた棘を、この際抜いてしまおうと思っていたのだけれど、受話器が偶然声を拾ってしまったものだから。
「(ハロウィンの魔法ってやつかしらぁ)」
 普段見せない姿、聞かない言葉に少し笑う。全部聞いてたわよと言ったら、彼はどんな顔をするのだろうか。
 数百年後、数千年後。何もかもを見送らねばならぬのが呪いなのだとしたら。私も同じように呪ってくれたらいいのに、なんて。
「だいじょうぶよ」
 もしもし、この声は聞こえているかしら? 聞こえたら、びっくりするかしら。
「いなくならないわぁ」
 呟きながら受話器を置く。この声が聞こえていなくても、いいの。それより今からそっちに行くから、驚いた顔を見せて頂戴な!

「ええと、もしもし。ハッピーハロウィン……でいいんでしたか」
 マナは両手で受話器を持って、たどたどしく無音の受話器に語り掛ける。
「……わ、私は」
 ぽつぽつと語る。此処に来てから色々な人と出会って、良くしてもらった事。仲の良い人が出来た事。その中でも特に仲良くしてくれる人が、いる事。
「その方と一緒にいると、とても心が暖かになるといいますか……ずっと、ずっと一緒にいたい、そう思える方で」
 ああ、通じてはいないのに。語るだけでこんなにも、心臓が早鐘を打っている。
「もし、言葉が届くなら……」
 これからもずっと、一緒にいて下さい。

「……」
 背後で語る少女の思いを、ヨハンは聞いて固まっていた。
 いや違う。偶然なんだ。一緒に来た訳でも、狙ってこの電話台を選んだわけでも、ない、の、だけれど!
 ……振り返って返事をするのは簡単だ。けれど、ヨハンは受話器を取った。
「もしもし、ハッピーハロウィン。……マナさん、僕はあなたが大好きですよ。……いつか友達以上になりたいです」
 それでは、またね。そう言おうとしたヨハンの耳に、戸惑った声が飛び込んできた。
『え、あの』
「あ、」
 ああ神様、なんてこと! 二人の電話は繋がって、……振り返り、向き合う二人。
 彼らの願いは、叶うのでしょうか。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

もしもし、奇古譚です。お疲れ様でした!
皆さん素敵なプレイングで、その、ちょっと泣いてしまいました。
収穫祭にふさわしくない寂しさかな?と心配だったのですが、気に入って頂けると幸いです。
よい秋をお過ごしくださいね。
ご参加ありがとうございました!
それでは、また来年。がちゃん。

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