PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

『魔王座』I

「『原罪』の魔種という位です。
 それは悪魔の一種と捉える方が自然というものでしょう?」
 一先ずの戦いの終焉はまさに顕現せんとする最大の問題(クライマックス)の訪れに違いない。
「悪魔は潔いものでしょうか。それともその逆でしょうか?
 私の知り合いの『可愛い悪魔さん』はどちらかと言えば後者な気もしますけど――」
 マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が水を向けた先は背中から倒れたまま、影の城の天井を見つめるイノリだった。
 少なくとも見た目だけは愛らしい彼女の姿も襤褸になり、血と汗で頬には髪が張り付いている。
「愚問だな」
 問いのような悪戯な独白のような――魔女の言葉に応えたのは当人ではなく傷んだ利き腕を抑えたボクサー――郷田 貴道(p3p000401)だった。
「種類はどうあれ、そいつは王者(チャンピオン)なんだぜ。
 やらかした事を含めればとてもノーサイドとも言えねぇが、綺麗にノックアウトされて言い訳をするような奴はそもそもベルトは掴めねぇのさ」
 貴道の言葉は多分に彼一流の人生論と価値観を帯びており、一般的な話かどうかは知れなかったが。
 どうやら当のイノリはその言葉に納得したようで「そうだな。負けは認めよう」と存外に素直な言葉を吐き出していた。
「でも、問題はこれからです……!」
「ああ。原罪を倒してもこの世界は、混沌は」
 そして、『彼女』は。
 チェレンチィ(p3p008318)と内心だけで言葉を付け足し応じた囲 飛呂(p3p010030)の視線の先では空間が酷くねじ曲がり、物理的な威圧を帯びていた。
 それは混沌中に穿たれた次元の穴(バグ・ホール)を思わせたが、影の城の中央で育ち続けるその歪曲は異質であり、他の全てと一線を画す事は明らかだった。

 ――魔王座(Case-D)の顕現はこの世界の終わりである――

 遥かな過去にこの強大な『原罪』を、或いは神託の少女ざんげ(p3n000001)を生み出し、多くの特異運命座標をこの物語に巻き込んだ――凡そ全能にして強大な『神』とやらが匙を投げた確定的終局こそが、目の前で今勢力を決定的なものにしようとしている『破滅の神託』である事は知れていた。
 巻き込まれた形で始まった特異運命座標でも、事この期に及べば愛しき混沌の先行きは他人事ではない。
 元の世界に帰ろうとする者あり、この世界に骨を埋めようと思う者あり、そもそも混沌こそ故郷である者あり。
 置かれた状況は千差万別かも知れないが、何れにせよ命知らずにも影の城に乗り込んで使命を果たした彼等に共通するのは『変わらない明日』に違いない。
「負けを認めたのです。『次の約束』も混沌ごとご破算では仕方ないとも思うのです。
『出来れば』この問題も解決して貰えればと思うのですが――」
 然して期待をしていない調子でヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が言った。
 先のやり取りをもう一度揶揄して渡す辺り、優等生に隠れた彼女の強かな一面が見えようというものだが、彼女はそれを素直に言うには聡明過ぎる。
「ご名答だな。『それ』は僕の領域じゃあない」
 上半身を起こし、よろりと立ち上がりかけたイノリに周りは気色ばむ。
「よしてくれ。もう戦わない」と苦笑いをした彼はヘイゼルに応えるように言葉を続けた。
「元々、魔王座(Case-D)は僕の、或いは魔種の差し金じゃない。
 唯そこにこのタイミングで顕現する終局に僕達、破滅主義者が乗っかったに過ぎないから。
 まあ、分かっているとは思うが。冷静に順を追ってみたまえよ。
『そもそも僕はこの神託を回避する為に作られた兄(プロト・タイプ)なんだぜ』。
 クソ爺は魔王座を感知し、遥かな未来の為に僕を作った。そうして僕が役割を放棄したから、ざんげが産まれた――」
 イノリの言葉にルカ・ガンビーノ(p3p007268)の、レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)の眉がぴくりと動いた。
(……………レオン君)
 傍らのドラマ・ゲツク(p3p000172)の白い指先が宙で遊び、青いマントを掴みかかり逡巡して辞めた。
(嗚呼、何という『物語』)
 運命が残酷なのは知れている。この場所には運命に愛された者が居る。愛されなかった者も居る。
 前を進んだ者も、踏み外した者も揃っている――
『神』なる存在が何を考えて過去を創ったかは知れない。今、この混沌の一大事をどう眺めているかも知れない。
 だが何れにせよ、数奇な運命の数々を呑み干して今、最後のキャストは影の城の中心で『最大最強の問題』と向き合っているのだ。
「イノリ。君が斃されなかった時点でもう『皆』でハッピーエンド、しかないよね」
「見解が同じだとは思わないがね」
 水を向けたセララ(p3p000273)は理屈もなく確信して言った。
「『魔王座は君の仕業じゃないだろうけど、君はこの状況をどうにかする方法を知っているんじゃないかな?』」
 方向性は違えど、キャラクターは真逆なれどそれは要に暗にヘイゼルの確認と同じだった。
 しばしばロジックよりも勝る直感で本質正鵠を射抜くセララならではの言葉は全くイレギュラーズ的であり、イノリは苦笑を深める他は無かった。
「ゼロよりはマシ程度の話でしかない」
 皮肉気にそう言った彼は続ける。
「君達が、或いは混沌の生命が運命の全てを投げ出しても――気休め程度の可能性しか残らない夢に過ぎない」
 原罪の魔種は、美しい男は朗々と笑った。
「それも! 君達は僕からマリアベルを奪った敵だ。
 僕は君達に立ちはだかってきた魔種全ての父――『原罪』だ!
 信じるかい? いや、信じられるかい。
 妹の解放を望み、此の世の終わりを望み。我欲で世界を侵す事の出来る最大の魔種の甘言を!
 ……お勧めしないな。余りにも希望観測的な、分も性質も悪い判断だ」
 芝居がかってそう言ったイノリはまるで舞台俳優のようだった。
 だがジェック・アーロン(p3p004755)は怯まなかった。
「信じられるかと聞かれれば『分からない』。
 でも手の中に残った弾丸が一発なら――それは、運命を穿ち撃ち抜く銀の弾丸(シルバーバレット)だと信じるしかない」
 座して終われない理由はある。
 彼女は――いや、彼女だけではない。
 この場にある者は、外の戦場で奮戦し、彼等を影の城に送り届けた多くはその背に譲れない者を背負ってここまで来たのだから。
「もういいだろう。お主の負けだ。完敗だな、イノリ」
 仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は半ば察していたのか、軽く笑ったイノリに告げた。
 あのR.O.Oで救えないと判断した妹(クラリス)を最後の瞬間、兄(クリスト)は助けようとする方向に舵を切った。
 不可能であると確信しながら、そんな甘やかな夢に手を伸ばしていた。
「……ああ、まったく。もう。『分かった』よ」
 同じように――あの時『同盟』を組んだイノリが。遂に特異運命座標の持つ奇跡にかける一縷の望みを肯定した!
(……心から詫びるよ、マリアベル。それから我が子達。
 必ず僕も君達と行く。だからまあ、この優柔不断の、最後の弱さは勘弁してくれ)
 夢を見てはいけない事は知っていた。
 実際問題、どうして負けたかも分からない。
 襤褸の奇跡の紡ぎ手達は今尚、自身には遠く及ばない程度の力しか持たない筈だった。
 それでも――イノリは妹と、或いは世界の行末をこの物好きな酔狂連中に賭ける事にそう悪い気はしていなかった。
「じゃあ、宜しくな。『お義兄さん』」
「交際を認めた覚えは無いよ」
 今一度、開闢のパンドラ――真なる願望機を強く握り直したルカが「今度はアンタを張り倒してでもさらってくさ」と嘯いた。
「話は纏まったな」
「ああ、実に不本意だが――まあ、勝ったのは君達だから」
 マッチョ ☆ プリン(p3p008503)の言葉にイノリは確実に頷いた。
「では、目的を果たすとしよう」
 あの日、伸ばしたその手は星には遠く届かなかった。
 その悔恨と、寂寥と、宛先のない怒りと全てを込めて混沌に未来を引き寄せるその為にプリンは強く決意した――
「――Pandora Party Projectを始めよう」



 <終焉のクロニクル>Pandora Party Projectが終結しました!


 ※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。


 これはそう、全て終わりから始まる物語――

 Re:version第二作『Lost Arcadia』、開幕!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(終焉編)

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM