PandoraPartyProject

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薊の君へ

 運命が枝分かれするその前は同一流派、女だてらに半ば冗談で指南を願った小夜に藤十郎は笑って応じてくれたものだった。
 だが、閃いた切っ先の鋭さは悲しい位に速度が違う。
 精度が違う。殺意が違う。
 それは大本の剣才の違いでもあっただろう。
 そして、彼我の歩んだ道のりの差でもあったに違いない。
「……終わったわ」
 血濡れた白刃の露を払い、白薊 小夜(p3p006668)は一つ呼吸を整えた。
 崩れ落ちた藤十郎が然したる苦しみも残さなかったであろう『瞬時の絶命』であったのは情深い小夜の剣らしかった。
 彼女は彼に言ったものだった。

 ――さっきも言ったけれど、藤十郎。私は貴方に感謝はしても恨むような筋合いは無かったの。
   貴方は私を嫌っていたかも知れないけど、私は悲しみこそすれ、貴方を憎んだ事等無かったわ。

 言葉の意味は知れていた。
 小夜は藤十郎を斬りたくは無かった。
 他の誰が謗ろうと、彼は彼女にとって良くも悪くも特別だったから。
「……」
 小夜がちらりと新田 寛治(p3p005073)を改めたのは、彼が彼の目的でここまで動いてきたからだった。
 利害の一致で全面的なバックアップを受けたのは確かだし、彼の狙いが『シンドウ』の誅滅である事は承知している。
 当目たる藤十郎を見逃すような事は、その彼の狙いに真っ向から反しているからだった。
「ああ、失敬。鉄火場だというのに眼鏡が曇っている。裸眼には自信が無くてね。少々、前が見えにくくなっているようだ」
 相も変わらず素直でなく、相も変わらず芝居がかった寛治にそれ以上何かを聞くのは野暮が過ぎた。
 まぁ、この男がこんな采配を見せるのは何時もの事だ。要するにバレなければいい。
 謀る相手が愛する女だったとて、アレはバレない『上手な浮気』を咎め立てるような女ではないのだから。
「……ごめんね、すずな」
「どうして謝るんですか」
 片膝を突く小夜の実弟――新藤具藤を降したすずな(p3p005307)は困ったような呆れたような、それでいて優しい顔でそう言った。
 言いたい事は山のようにある。彼の在り様を全力で肯定する事等出来はしない。
 罪は罪、されど罰とて罰。
 すずなは藤十郎をこの上面罵する心算にはなれなかった。
 小夜を失ってから時間は彼にとっても流刑のような時間に違いなかっただろうから。
(この事件は結局――)

 ――全員が加害者で、全員が被害者だ。

「お小夜」
 しかして、当の藤十郎は小夜を嗜めるように静かに告げる。
「きちんと私を斬る事だ。お小夜のこれよりの先行きに私(かこ)は要らない。
 光を失い、彷徨って――こうして得難い友人を手に入れたのだ。
 拘泥するな。そんな風に生き急ぐな。
 私は永らえるより、お小夜が私と決別して、これで終わりにしてくれる事を望んでいる」
「――――」

 ……藤十郎もやはり武士。
 されど、彼は一つだけ面々に注文をつけたものだった。

 ――だが、具藤だけは別として貰いたい。

 かくて藤十郎は血溜まりに斃れ、具藤は残された。
「後悔しますよ、姉上」
「……分かっているわ」
 恩讐の彼方に情は深く。
 血の繋がりか、それとも尊敬と感謝か。
「人間は、ままならず。割り切れぬものですな」
 そのどちらを取るのが正解かは知れなかったが、具藤は冷たい殺意を小夜に向けていた。
 踵を返し惨劇の場を後にする具藤はこの後何を考え、何を為すだろうか。
『兄』を超える悪事を果たすだろうか。『姉』へ復讐を果たそうとするのだろうか――しかし。
「……そうね、もう少し長生きをしないといけなくなったわね」
 あの日よりずっと、小夜は終わる場所ばかりを考えていたけれど。
「少なくとも、具藤が答えを出すまでは」
 受け止めてやるのが姉の務めだから、そう言った小夜にすずなは「ええ」と今夜一番に破顔した。

 双竜宝冠事件が一定の結末を迎えたようです!
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 ※テュリム大神殿の先の階層に進むことが出来そうです……。


 ※プーレルジールで合流したマナセとアイオンの前に魔王イルドゼギアが現れました――!
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これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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