PandoraPartyProject

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クリスマスピンナップ2023

マリアベル・スノウ

(聖夜、か)
 十二月二十四日のその夜は混沌の定義する特別な時間である。
 人も、人ならざるものも争いを鎮め一時ばかりの平穏に浸る静かな夜。
 古の聖女なる存在が終わらぬ闘争を憂い、我が身を『悪魔』に捧げた夜である。
(馬鹿ね。いえ、馬鹿みたい)
 これより暫くの後に混沌にその名を鳴り響かせる事になる『黒聖女(マリアベル)』は細く、幽かな溜息を白く弾ませずにはいられなかった。
(こんな女を有難がって、あまつさえ。今となっては『恋人同士の日』だなんて。
 ……特に後ろ半分は、皮肉が利き過ぎていて憂鬱になるでしょう?)
 自分自身、何らそんな心算は無かったけれど『特別』は概ね誰をも捨て置かないものだ。
 曰く人より魔力が秀でているだとか。曰く誰それの生まれ変わりだ、天の御使いだ――
 そういう言葉や評価の悉くを完全に証明して否定する事は出来ないけれど、同時にそんな誰かの言が正しく肯定される筈も無い。
 求められ続けた悪魔の証明はまさにマリアベルの人生を象徴する全てであり、彼女は『良い子』だったから求められる配役を拒否する理由は持たなかった。
 その『始まり』は決して聖夜を裏切らない。唯、圧倒的な善性だけがそこにあった筈だ。
「……」
 マリアベルは浮かれた街を一人歩いて、人の営みに目を細める。
 人々も王国も、その王すらも一目を置き、同時に彼女からは距離を置いていた。
 気安い日常等なくていい。
 畏怖され続け、孤独でも構わなかった。何と言われようと構わなかった。
 困った時にだけ他人に祈るような人間に利用されても良かった。
 持てる能力以上に一方的に期待され、叶わず罵られても良かった。
(そんな事は構わない……そう。何の恨みも辛みも無かったわ)
 繰り返すが、残酷なる聖なるかなはマリアベル・スノウの退屈な人生全てを埋め尽くす『白』である。
『聖女マリアベル』は常に求められ、『マリアベル・スノウ』は蚊帳の外でしか無かった。
 役割を背負った『聖女』は公共の為に存在する善良な装置のようなものに違いない。
 誰かの心を助け、また誰かの悪心を踏みとどまらせる装置でしかなかったに違いない。
 嗚呼。それでも、何も出来ないよりは余程良かったのだ。
 マリアベルは人より傑出した力で誰かの助けになれる事が嬉しかっただけなのだから。
 マリアベルは神ならぬこの身でより多くを救う事を許されたのだから――あの神託の少女のように!
 ただ、それでも。
 永らくの眠りを終えた彼女は考える。
『起きている時間等、たかだか二十年にさえ満たない彼女は少女の心持で考える』。
『始まりの先』はどうだったのだろうと今更ながらに自問する。
(恨みなど、無かった筈なのだけれど――)
 人生のハイライトは、真に自分を表に出せたのは、楽しかったのは。
 どれもこれも世間が『悪魔』と罵り憎む『彼』との時間以外に有り得ない。
(口先ばかりね。私はきっと不満ばかりだったんだわ)
 ……そうでなければどうして『悪魔』と交わる道を選んだだろう?
『悪魔』の一挙手一投足があんなに愛おしく思えただろうか?

 ――君はまるで『雪』みたいな子なんだね。
   真っ白で汚れ無く、美しい。

(馬鹿ね)
 こんな季節だから、歯の浮くような台詞を思い出さずにいられない。
「またそれか」と酷く失望して、続いた彼の言葉に驚いたのを昨日のように覚えている。

 ――だから、掬い取ったらまるきり消えてなくなってしまいそうだね?

 嘘吐きと言われる筋合いはないけれど強情な強がりと言われれば否定は出来ない。
『悪魔』が初対面で『聖女』に投げかけた言葉は、彼女が知らぬ内に欲しかった答えそのものだった。
 何の事は無い。マリアベルはそう扱われたかったのだ。『お前なんて別に特別でも何でもない』と。
 尤も、説得力を考えるなら『もっと特別な彼』でなければ救いにはならなかったのかも知れないけれど。
(……ああ、もう!)
 マリアベルは知らぬ内に綻んだ口元を自覚して、その表情を引き締め直した。
『短すぎる青春時代』の思い出は傷んだ聖女には余りに眩しい。
 眩し過ぎて――仄暗く世界を覗き込む今のマリアベルには毒にしかなりはしない。
(私はね、怒っているのよ。イノリ)

『私の』願いが叶ったら、貴方が私を――

 遠い、遠い日の話。
 聖夜(シャイネン・ナハト)がまだそうでなかったあの日に『約束』したのに。
 誰よりも信じていた、誰よりも頼りにしていた、世界で一番人間らしく、世界で一番嫌われる私だけの『悪魔』はきっと誓ってくれたのに。
(……どうして、私を起こしてしまったの?)
 マリアベルの問いは自分自身さえ騙せない酷い出来栄えの嘘だった。
 問いながら彼女は分かっていたからだ。自分が『そう』であるのと同じように彼も『そう』だったからなのだろうと。
 そして今、彼を責める気持ちが沸く以上は、まさに彼も苦しんだ結果に違いないのだと。
 ……問題は分かっていても許せる事と許せない事があるというだけの話である。
 浮気をしなかった事は評価に値するが、それとこれとは別問題なのだ。

 ――君はまるで『雪』みたいな子なんだね。
   真っ白で汚れ無く、美しい。

 頭の中でもう一度リフレインした優しいバリトンにマリアベルの表情はもっともっと渋くなった。
 あんなに褒めてくれたのに。好きな人に素敵と言われて喜ばない女の子なんていやしないのに。
 ゆるせない。
 ゆるせない。ゆるせない。絶対にゆるしてなんてやらない!
「どうして……」
 どうして、貴方は起こしてしまったの?
 私を慈しんでくれた貴方に、どうしてこんな酷い姿を晒させたりしたの?
 無様で、醜悪で、零落した――貴方が愛してくれたマリアベル・スノウとまるで違う、こんな女の顔を。姿を!
「乙女かよ」
 何処かで聞いたようなフレーズを奇しくも吐いて、マリアベルは苦笑した。
 その結果が『連れ子を苛める継母』だったとて、そんなものは男の甲斐性の問題なのだ!

 ――――♪

 遠く歌が聞こえてくる。
 街は全く、耳を澄ませずとも分かる位に華やいでいた。
 聖夜は特別な時間。或いは皆が知らなかっただけで、昔も今も恋人達の時間なのだ。
 だから今日だけは。せめて今日だけは。きっと最後になるに違いないから――自分もこの夜を見送るのだ。
 雪のような女はもうとっくに死んだから。
(『輝かんばかりのこの夜に』)
 これより到る終焉への手向けに、遠い恋の墓標に彼女は祈り、懺悔を捧げるだけだった。

クリスマスピンナップ

 輝かんばかりのこの夜に(メリー・クリスマス)。
 今年も『シャイネン・ナハト』の時期でごぜーますね。
 混沌世界のお祭りでごぜーます。
 12/24~25に誰もが知る御伽噺……争いも醜い諍いも無いような、平穏の日と言われています。
 あの御伽噺は好きですか? 悲しく、美しく、本当にあったとされた夢物語。
 私は……良く分かりません。
 ですが、あの夜だけは苦しい事はない『筈』でごぜーますから。
 どうか、素敵な聖夜(クリスマス)を――
商品規格
イラストタイプ 説明

クリスマスピンナップ2022
 基本価格 350RC~

クリスマス

内容

『クリスマスピンナップ2023』専用ピンナップです。

 ・対応商品一覧
  シングルピンナップ(縦・横・おまかせ)
  2人ピンナップ(縦・横・おまかせ)
  3人ピンナップ(縦・横・おまかせ)
  4人ピンナップ(縦・横・おまかせ)
  5人ピンナップ(縦・横・おまかせ)
  6~10人ピンナップ(縦・横・おまかせ)
  ※関係者含む。
 バベル的な翻訳にかけまして、『クリスマスピンナップ2022』の概要となります。
 募集日程は11/4~12/17 8:00となり、締切日以降は強制的にキャンセルとなります。
 本年の一斉納品は12/24当日に実施されます。最高に盛り上がりましょう!
 該当商品は特別規格となった(クリスマス2023と名のついた)特別ピンナップになります。
 全てのイラストに発注文章や描画を参考にしたSS(ショート・ストーリー)がつけられます。
 プレイングはかけられません。SSが不要であるという場合は、発注文にその旨を記述して下さい。
 SSは作成が納品イラストを確認後となりますので、ピンナップ納品後順次付与する形となります。
 執筆者はPandora Party Projectに登録しているGMの何れかとなります。選べません。
アトリエセキュリティ
 通常商品通りのセキュリティが適応されます。
日程

・受付:11/4~12/17の8:00
・締切:12/23固定
・公開:12/24一斉公開

シャイネン・ナハト

「輝かんばかりの、この夜に!」
 それは、少なくとも今では無い――遥かな昔の『実話』であると言われています。

 冷たい北風が吹き荒ぶ、暗い冬の出来事でした。
 長い戦争状態にあった人々は、飢え、苦しみ、死に絶え、それでも殺し合いを辞める事は無く……
 ただただ、泥沼の悲劇を演じるばかりであったと言われています。
 最早人々の誰もがそれを望まず、兵士も、市民も、権力者さえそれに飽き。
 理由の全てを失っても、それでも振り上げた拳を降ろす術を持たず。
 誰もが、悪戯に意味のない犠牲を積み上げていました。

 暗い夜の出来事でした。
 何処にも救いは無い――暗澹たる世界に光が差したのは。
『聖女』と呼ばれた少女は、流麗な『悪魔』と長い話をしました。
「どうしたら、この争いを止める事が出来るでしょう?」
「何故止める。人間の業というものだろう? だから、彼等は――君達は人間らしい」
「沢山の人が犠牲になりました。もう戦いを望む者はいないのです」
 悪魔は鼻で笑います。
「ならば、止めればいい。少なくとも僕は――人間がそう信じ、そう決めた道を肯定しよう。
 何よりそれは人間らしく――同じく『要らないもの』である僕としては否定し難い。
 ……第一、君はどうして僕にそれを言う。解せないな、僕は不倶戴天の『悪魔』だろう?」
「貴方ならば、これを止める力さえ持つから」
「僕に戦争を止めろって? 面白い冗談を言うね。
 七罪を統べ、狂気の声で混沌に混沌を呼ぶこの僕に?
 要らないものとして切り離され、誰にも憎まれるこの僕に!」
「でも、貴方は私の友人です」
 全く馬鹿げた事に――人々の心の支えとなる『聖女』と世界の敵たる『悪魔』は友人同士でした。
 切っ掛けが何であったかは伝わっておらず、また大した意味も無いでしょう。
 唯二人は、雪の降り積もる夜――淡い月光の照らす聖堂で、こんなやり取りをする仲でした。
「力を貸して貰えませんか?」
「……言葉の意味、分かってる? 『聖女』が反転して――どうするのさ」
『悪魔』の声に耳を貸せば、大きな力が得られます。
 人の欲望を、人の狂気を――人の業を煽り、すがる者を破滅せんとす『反転』。
 それは、この混沌の禁忌であり、冒涜そのものです。原初の『悪魔』に際して尚、その声を意にも介さなかった『聖女』は全く、最もそれに遠い人物に他ならなかったのに。
「君は友人らしいから忠告するけれど――『反転』は都合のいいものじゃない。
『君のような人間なら』間違いなく大きな力を得る。ああ、君は戦争を止める力を持つだろう。
 だが、君の願いは正しい形では叶うまい。決してそういうものじゃない。過剰な力で皆死ぬ。
 ……まさかとは思うけど、それを望んでいるとでも?」
「いいえ」
 小さく首を振った『聖女』はこう続けました。
「簡単な事です。力を貸して欲しいと言ったでしょう?」
「言ったね」
「簡単な事だわ。願いが叶ったら」
「……」
「『私の』願いが叶ったら、貴方が私を――」
「言うと思った」と溜息を吐いた『悪魔』は苦笑いのままに言いました。
「悪魔に何て役を押し付ける」
「貴方に向ける私の『祈り』、よ」
「成る程、上手な嫌味だ。今後の参考にしよう」
『悪魔』は肩を竦めて諦めたように独白します。
「君の願いを叶えよう。やはり僕は、余りに人間らしい人間が好ましい。
 それに、君はどうしようもなく――放っておけない。きっと、全然妹に似ていないからだろうけど」

 暗い夜は輝かんばかりの夜になりました。
 その時起きた奇跡が如何ようなものだったかは不明です。
 しかし、暗い闇を切り裂いたその光は余りにも鮮烈で、人々は『聖女』が身を賭して争いを終わらせた事を知りました。
 ……『悪魔』の名は伝わっていません。しかし彼にとっては恐らく迷惑な事に……彼の事が伝承に伝わったのは、『聖女』がそれを遺文に残したからです。『聖女』からすればお礼だったのか、意地悪だったのか……答えは何処にもありませんが。
 毎年12月24~25日は混沌において戦いの禁じられる日です。
 幻想の勇者王も、鉄帝の皇帝も、厳粛たる天義の王も剣を置いたとされます。深緑に住まうとある魔女はヤドリギの木に祈りを込め、平和への願いの成就を祈り、輝かんばかりの夜に思いを馳せたと言われます。
 平和への祈りは、満願への成就にも通じました。
 やがて長い時が経る中で、輝かんばかりのこの夜は、願いを捧ぐ夜へと姿を変えました。ある者は己が冒険の成功を祈り、ある者は恋の成就を祈り、ある者はこんな夜(クリスマス)爆発しろと祈り――当時のままの魔女はヤドリギへと願い祈りし者たちの願いを捧げ続けました。
 さぁ、その願いが叶ったのかは分かりませんが魔女は言うのです。
「――願い祈りし者たちに祝福を与え、今日という日を幸福に満ち溢れさせるのです。
 きっと彼女が望んだのは――そんな優しい夜だから」
 その夜には祝福の星が煌き落ち続けます。旅人はその流星を雪のようだと称しました。

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