PandoraPartyProject

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親しき隣人

 色付く葉は季節の廻りを感じさせた。赤に黄に、そうして景色を変える世界を少女は好んでいる。
 銀杏の葉を拾い上げ指先でくるりと弄べば扇のように小さな風を作る。少しだけ魔法を添えてやるのだ。
『――τρεχειν(走れ)』
 風は魔力に乗って空へと葉を巻き上げた。余りの勢いで着用して居たコートが盛大に煽られて尻餅をついたのは失敗だ。
「うぐ」
 思わず声を漏してから少女は暫くの間、その場から動く事は無かった。
 眼前にはたっぷりと冬毛を揺らす栗鼠がどんぐりを一つ抱えている。まるで今晩の最高のディナーにありつけたぞと宣言するかのようだ。
 いや、『彼女』がどんぐりをディナーにする訳がない。そもそも『彼女』は本物の栗鼠ですらないのだから。
「そのどんぐりはなあに?」
「気に入るかと思いましたのよ、沢山集めてネックレスでもお造りになれば?」
「わたしへのプレゼントってこと!?
 わあ、嬉しいわ。てっきり葉を吹っ飛ばして怒ったからどんぐりをぶん投げてくるのかと思ったけれど」
「ええ、どんぐりの中には虫が居ますもの」
「ギエ」
 引き攣った声を漏した少女――『魔法使い』マナセを栗鼠は笑って見せた。
 プーレルジールに存在した迷宮森林より砂漠を越え、向かう先は『影海』と呼ばれたサハイェル砂漠の沈島地帯だ。
 天に存在したと言い伝えられた浮遊島サハイェルが地へと叩きつけられ産み出された滅びに満ちた領域は点在する崩れた島の破片が安全地帯で、それ以外は触れてはならぬ毒沼であると言い伝えられている。
 そんな場所に10にも満たぬ娘はイレギュラーズと共に向かっていた。
 一歩一歩、歩みを確かめて、栗鼠と共に。
「ねえ、ファルカウ」
「なんでしょう、魔法使い」
 栗鼠は『魔女ファルカウ』の使い魔である。精霊体である栗鼠に自らの思念を憑依させ、ファルカウはマナセと共に旅をしている。
 ファルカウに対して積もる話があるイレギュラーズも多かろうとマナセはある程度の遠慮(本当にある程度だ!)をしていた。が、そろそろ自分の番だと言いたげに身を乗り出す。
「イレギュラーズがハロウィンを教えてくれたわ。彼方の世界では魔法で姿が変わるそうなの。
 あの人達は『無辜なる混沌』って世界から来てね、何か、滅びのイケメンと戦っているんですって」
「……ええ」
「その世界では私は遠い過去の人間で、もう死んでしまった伝説の魔法使いなのだそうだわ」
「ええ。魔法使いの『魔法』は他の皆がよく使いますわね。
 魔女アレクシアも、聖職者スティアも、職人サイズだって使っていましたもの」
「わたしの魔法?」 「混沌のあなたは古語によって唱えられた魔法を簡略化し、解析し、一般的に使用される魔術に変化させたのでしょう。あなたの魔法のクセが感じられましたもの」
「わたしってもしかしてすっごいヒトなんじゃない!?
 ……あ、でも、わたしが皆に魔法を教えたら知ってるって顔されるかもしれないってこと!?」
 きゃあと頬を抑えて喜び乍ら跳ね回るマナセに「だからこそわたくしは共に来たのですけれど」と呟いた。
「何か言った?」
「いえ、『魔法使い』……何か感じませんか?」
「んー……γνωσις……あ、わたしの魔力のテリトリーの近くに違う気配がある気がする」
 ファルカウは「それは索敵魔法というのです、魔法使い」と栗鼠の身ながら大袈裟に肩を竦めるような仕草を見せた。
「難しい言葉はわからないわ」
「ええ。どのような気配ですか」
「……直ぐにぶん殴りたくなるような気配……!」
 もうすぐ勇者の元に辿り着くだろう。その時と近しいタイミングで『その気配』は此方に接触を図るはずだ。
 使い魔の身であれどファルカウはその気配をよく知っていた。何故ならば、自らもそれに相対し現時点でも悩みの種の一つであるからだ。
(――魔王イルドゼギア。その立場に選ばれてしまった憐れな『魔法使い』よ。
 ……勇者と出会い、貴方は何を為そうというのですか。恨まれ、殺される道筋を作るのか。それとも、対話をし、救いの手を求めるのか)
 ファルカウは「皆あ、凄い変な気配が近いわ~!」とイレギュラーズ達の元へと向けて駆けて行くマナセの背をゆっくりとした歩調で追掛けた。
(ああ――実に、興味深いのだわ)

 ※プーレルジールでマナセがアイオンの元を目指していますが――?
 ※Trick or Treat! FairyTail Of Phantom2023が開催されています!


 ※『ツロに招かれていたイレギュラーズ』が聖女ルルの差配により『一時』帰還しました――
 ※ただし『ゲマトリアの選択』の『時間』が流れ込んだ時、何か起こるかもしれません……
 ※ツロに招かれた人々と遂行者による『薔薇庭園』での茶会が終了致しました。


 双竜宝冠事件が劇的に進展しています!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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