PandoraPartyProject

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狐達の住む森へ

 聖教国ネメシス南西部――水平線の遠く向こうに探求都市国家アデプトの島を望む森。
 そこは古くから『ソロスの森』と呼ばれ、近隣村落からは信仰の対象となっていた。

 この国は良く教化されているが、必ずしも宗派が一つとは言えない。
 例えば北方教区のように比較的厳密な教義を戴く場合もあるが、この辺りは緩やかな風土だ。
 精霊などへの民間信仰が、祭りや風習などに色濃く残って居る。
「さながら『稲荷神社』といった所ですね」
「まさにその通りよ」
 新田 寛治(p3p005073)の呟きに、長月・イナリ(p3p008096)が頷く。
 注連縄に鳥居といったカムイグラにも似た様式は、寛治の出身世界の文化にも酷似していた。

 ソロスの森は聖域だ。
 一歩踏み込んだ時から、静謐とした独特の気配を感じることができる。
 だが奥へ踏み込むことは危険とされていた。
『侵入能わぬまやかしの森』
『二度と出られぬ迷いの森』
『虚実を見せる誑かしの森』
『人を連れ去る拐かしの森』
 様々な伝承を持つこの地は、通常であれば人を寄せ付けることはない。
 そこは聖域でもありつつ、また人智の及ばぬ魔境でもあるのだ。
 一行は無数の鳥居が並ぶ石段を登っているが、本来であればこの場にすらたどり着けはしなかった。
「そんな訳だけれど、ようこそ『杜』へ。きっと歓迎されると思うわ」
 最後の一段を登り終えた所で、イナリが一行を振り返る。

 侵入を阻む様々なまじないや防衛機構の数々は、立ち入りを許された者には効力を発揮しない。
 ローレットのイレギュラーズとその協力者は、この森――『杜』へと招かれた事になる。
 そしてここは仲間の一人であるイナリの拠点でもあった。
「ずいぶん和風な感じでスね」
 森の奥に拓けていたのは、実に近代化された街並みだった。
 佐藤 美咲(p3p009818)に言わせれば『スチームパンク大正浪漫』といった風情らしく、普久原・ほむら(p3n000159)あたりと『スチームというよりは魔法と科学』などと頷き合っている。
 街の中は明るく、辺りは賑やかに活気づいているようだ。
 つい先程まで鬱蒼とした森の中を歩いていたとは思えない。不思議な空間なのだろう。
 大通りは様々な商店が建ち並び、住人のほとんどは狐のブルーブラッドの少女に見える。
「エリカ、迷子にならないようにな」
「ではこうします」
「……」
 左腕にしがみついたエリカへ、クロバ・フユツキ(p3p000145)は溜息一つ。
「エリカ氏とディアナ氏はともかく、マキナ氏まで来て大丈夫だったんスかね」
「許可は下りているので大丈夫です~」
 美咲が首を傾げれば、『案内役』として現われた『豊川・イナリ』という狐娘がのんびりと答えた。
(適当な判断してなきゃいいけど)
 などとイナリは思うが。
「これはこれは興味深いね」
「ええ、ええ。これはとても。可愛らしいお耳に、尻尾に」
 練達めいたテクノロジーに好奇心を隠せないマキナ・マーデリックと、瞳にハートを浮かべたディアナ・K・リリエンルージュ(p3n000238)の心境は互いにだいぶ異なるだろうが――それはさておき。

 街を進んだ一行は、美しい池を望む茶席へと招かれた。
 朱の華やかな敷物に座した一行の前に、抹茶と練り菓子が運ばれてくる。
「お初にお目にかかる、楽にしてほしい。長月と豊川は案内をご苦労だった」
 姿を見せたのは『稲荷神』――稲荷の言葉が並び少々ややこしいが、要は『杜の長』である。
 議題はといえば、世界を騒がせる『神の国』や『帳』といった件だ。

 天義を中心に『遂行者』と呼ばれる存在が、世界中で暗躍している。
 おそらく冠位傲慢陣営に属する者達だ。
 そこに協力しているのが『綜結教会』を名乗るカルト結社であり、世界中に根を張っている。
 そして『杜』はその敵対組織にあたる。
 敵の敵は味方であり、要するに『杜』は『ギルド・ローレット』と手を緩やかに結んでいた。
「その頂点に君臨する存在を、綜結教会は『異神』と呼び、私達は『狂神』と呼んでいる」
(……出たわね)
 アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)が息を飲んだ。
 カルト結社の目的は『世界全てを一つにする』という胡乱なものだった。
 そして遂行者もまた『歴史を書き換える』などというものである。
「どちらも放っては置けないよね」
「うん、そうだよね」
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)セララ(p3p000273)が頷き合う。
 遂行者にせよカルト結社にせよ狂神にせよ、世界に仇為す存在には違いない。
「それで、例の多脚戦車の件ですが」
 切り出したのは寛治だ。
 カルト結社はアンチイレギュラーズタンクなる厄介な兵器の量産を開始していた。
「ああ、それについては情報がある」
 エッダ・フロールリジ(p3p006270)が頷き、続けた。
 一行はカルト結社に拾われた鉄帝国『元新皇帝派』の残党ガハラ・アサクラ元少佐を捉えており、いくらかの情報を手に入れることに成功している。
 部下達は必ずしも投降している訳ではないが、指揮能力は大幅に低下するだろう。
 ガハラ自身の処遇については一悶着あったのだが、ひとまず『刑期二千七百余年』と落ち着いた。
 本来であれば極刑免れぬ罪状ではあるが、あくまで新皇帝派の軍務であったことなどを帝国軍大佐であるエッダが保証した上で、政治家である『歯車卿』も渋面ながら一枚噛まされた結果だ。以後はエッダ旗下の懲罰部隊として減刑を見返りに軍務に従事することとなる。
 ガハラの処遇については、ひとまずさておき――
「……で、俺って訳か」
 答えたのは杜に所属するエル・ロメルという『なんでも屋』の男だった。
 兵器工場の位置はガハラから聞き出すことが出来た。
 あとは進撃経路の確保を『杜』が用意する事となり、ことはここへ至る。
 エルが杜の狐達と共に情報収集にあたってくれるということだった。
「いつまでも後手後手に回るのは面倒だもの」
「次はこちらから仕掛ける番という訳か」
 アンナの言葉にリースヒース(p3p009207)が続けた。

「いずれにせよこれからの私達は一蓮托生となるだろう。どうぞよろしく頼む」
 そして杜の長――『稲荷神』は話をそう結んだのだった。

 ※天義で発生している『神の国』や『綜結教会』といった一連の騒動に、『杜』という組織が手を貸してくれるようです。
 ※天義、海洋方面で遂行者の行動が続いています――天義は対応に動いている様です。

これまでのシビュラの託宣(天義編)プーレルジール(境界編)

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