PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

信なる凱旋

 神の軍勢は、等しくその力を行使すべきである。
 何故ならば、それこそが神の望むべきことであるからだ。

         ――――ツロの福音書 第三節


 聖都フォン・ルーベルグにて、シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世は聖鏡を前にして目を伏せて居た。
 聖堂に設置された『聖鏡』は天に坐す神の声を耳にすることが出来ると言う。
 聖女ルル――『遂行者』カロル・ルゥーロルゥーがその姿を見せた事を切欠にシェアキムの元にも神託の声が届くようになったのだ。
 何故か。彼女は神託を齎すことに決めたと告げて居た。それこそが施しであると同様に『シェアキムも聖痕(しるし)を得るに相応しい存在』であると遂行者によって判断されたという事だろう。
「敵に『予告』しているのは莫迦らしいとも考えたが……」
「どの様にご判断されますか?」
 傍らのリンツァトルテ・コンフィズリーはシェアキムへと問い掛けた。
「……結論を急ぐのは悪い癖だ、コンフィズリー卿」
 やや渋い顔を見せたリンツァトルテは肩を竦めた。敵に情報を与える事は実に余裕ぶった『傲慢』らしい行いである。それを結論とするべきなのだろう。
『預言者』は傲っているのだろう。何れは滅びを迎える『歴史』を修正する事は決定しており、イレギュラーズや天義が無意味に足掻いているとでも考えて居る。
 だからこそ、先の戦いでは『予告』を行なった、が。
 カロルが姿を見せたことを起点に、此れより起こる世界の不和を、危機を、シェアキムも聖鏡を通して預言を受け取ることが叶うようになったのだ。
「カロル・ルゥーロルゥーが『見せて』いるのですか」
「いや……『神託の少女』ざんげの役割をカロルという娘が果たしているのであれば、我々がその存在をしかと認識したことで縁が繋がった。  それによって……無辜なる混沌の神による干渉が滅びより救うようにと我らに預言を齎したとも考えられる」
「神がですか」  眉を顰めたリンツァトルテにシェアキムは頷いた。
 簡便に言ってしまえば『滅びに抗う』為に神なる存在がカロルが遂行者に齎す預言を『聖鏡』に対しても知らしめていると判断したのだ。
「神は何と……」
 シェアキムの元に降りた預言は――

「白き騎士は勝利をもたらし、赤き騎士は人々を焔へと変え戦を引き起す。黒き騎士は地に芽吹いた命を神の国へ誘い、蒼き騎士は選ばれぬものを根絶やしにする」

「騎士……ですか?」
 リンツァトルテはシェアキムを見た。それは『遂行者側』から見た話なのだろう。
 ならば、白き騎士は遂行者へ勝利を齎し天義へと敗北を与えるのだろう。赤き騎士は人々を『焔』へと変えて仕舞うのだ。
 そうして黒き騎士が問題だ。その言葉の通りであれば、地を荒すのであろうとも考えられる。
 蒼き騎士と言えば『聖痕』を持たぬ者を全て滅ぼすという意思表示か。
 預言の解釈は広いがどの様に判断するべきかとシェアキムとリンツァトルテが顔をつきあわせていた刹那――

「先輩……! あっ、し、失礼しました……!」
 慌てた様子で駆け込んできたのはイル・フロッタであった。
「海洋王国のリッツ・パークに降りていた帳に動きがありました。黒騎士を連れた遂行者がその姿を見せたようです」
「……何」
 シェアキムは眉を顰める。リッツ・パークに降りて来た帳の内部に遂行者が『黒き騎士』を連れて姿を見せたのだそうだ。
 廃滅病の気配を孕んだその帳の内部にて騎士は『廃滅病』をその腹に蓄えんとして居るらしい。
「廃滅病を天義に持ち込むつもりか」
 ぎり、とシェアキムは奥歯を噛み締めた。リンツァトルテは「イル」と呼び掛ける。
「はい」
「直ぐにイレギュラーズへ通達を。新たな神託に関して連携し、騎士達への対応を――!」


これまでのシビュラの託宣(天義編)プーレルジール(境界編)

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM