PandoraPartyProject

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薄明は死せず

 竜にとって人間など眼中にない存在である。
 例えば人間が地を這う蟻の事を気に掛けるだろうか。
 気に掛けたとしても己と同様の存在と認識するだろうか――
 善い悪いではなく、それはそういうモノなのだ。竜にとって、人間など。
 『薄明竜』クワルバルツにとってもその認識は同じであった。
 人間など脆弱。一顧だに値しない存在。
 腕を振るえば死に、尾で薙ぐだけで消し飛ぶ存在――

「……だがどいつもこいつも、私の想像の内には留まらぬようだ」
「姉御、喋ると傷が……!!」
「この程度構わん」

 クワルバルツはベルゼーの気配を遠くに感じる場所で傷の手当を行っていた。
 彼女は先の戦いで片腕を失ったのである――それは竜を屠る竜、竜殺しのエチェディの一撃を受けたが故にこそ。奴の一撃は竜に対して致命的なまでの特攻性能があり――それはクワルバルツの鱗を貫き身へと届かせた。
 それどころか、まるで毒の如く全身に激痛も生じる。
 彼女の片目をも奪わんとする程に――世界の半分が失われんとする感覚……
 命を失ってもおかしくなかった。
 それでも彼女の命が在るのは、イレギュラーズ達のおかげだ。
 スティアライオリットからの情報によりエチェディが怪しいという事を事前に伝えられていた事。そして夏子ファニーセチアらがエチェディの一手より庇わんとした時間があればこそ――彼女は身に傷を負いつつも、その命がある。
 完全に食われていればどうなっていた事か……生き残るはおろか抗えるかも……そう言えば幽体の様な存在がいる、と風の噂に聞いた事があるが、それに近しい状態が精々だったろうか?
 ――いずれにせよイレギュラーズが、竜同士の戦いにも介入出来る程傍にいたが故の事態。
 遠くにいれば間に合わなかったろう。
 だが、それは諸刃の剣だ。
 命のやり取りをしている時に足元の蟻を気に掛ける余裕など誰に在ろうか?
 もしかしたら人間達の誰か側が死んでもおかしくなかったというのに。
「……アレが人間の強さだと言うのだろうか?」
 死を恐れぬ。命を惜しまぬ。
 だからこそ、人間だからこそ成し得る事があるのだと――先代は言っていた。

 そのような者達を『勇者』と言うのだと。

「……奴らは進むのだろうな。ベルゼーを止める為にも」
「姉御? まさか……」
「我々も行くぞ、アユア。恐らくエチェディは内にある暴食の儘に行動するだろう。
 ――いやもしかすればアレは自ら望んで狂気に塗れるかもしれん。
 させるか。その前に殺す。私を虚仮にした報いを受けさせねばならん」
「えええ、その傷でですか!!?」
「人が恐れぬというのならば、私が恐れる訳にはいくまい!
 スティア、アイラブレンダ、夏子――連中に笑われる訳にもいかんのでな!」
 然らば、クワルバルツは一瞬。微笑むような感情の色を口端に灯したか。
 零れた名前の数々は出逢いにおいて覚えた数少ない人間の者達――
 ――直後には『金剛竜』と謳われるアユアを引き連れんと闘争の気配を纏うが。
「借りは返すのが私の性でな」
 腕を失おうとも矜持は失わぬ。
 彼女に残されたもう一つの瞳には確かなる闘志が宿っていた――

 ……ヘスペリデスの崩壊が続いている。

 天は割れるが如く。地は哭くが如く。大気は震え地には亀裂も走ろうか。
 原因の中枢は未だ間違いなくベルゼー・グラトニオスであり、そこに近付けば竜と言えどどうなるか。ベルゼーがかつて竜すら喰らったというのであれば、危険であるのは間違いあるまい――
 だが知った事か。
 恐らく人間達は其処へ歩むのだろう。
 ならば私が往かぬ理由が何処に在ろうか。あの竜殺しも必ず其処にいる。
 なにせヘスペリデスの異常事態だ。混乱の最中に己が欲を満たさんとするだろうから。
 ――そこで借りを返してやる。
 エチェディ自身にも。そして己の傍にあった――人間達にも。

 ※負傷していた『薄明竜』が姿を現わさんとしているようです……!


 ※『双竜宝冠』事件が新局面を迎えました!
 ※豊穣に『神の国』の帳が降り始めました――!
 ※練達方面で遂行者の関与が疑われる事件が発生しています――!

これまでの覇竜編シビュラの託宣(天義編)

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