PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

竜を喰らう竜

 その竜は、ずっとずっと満たされなかった。
 ずっとずっと飢えていた。
 牛も豚も鳥も魚も人も精霊も魔物も魔種も食べてみた。なんなら木も岩も鉄も食べてみたし、池を呑みつくさんとしたこともある。だが食べても食べても満たされなかった――渇く。腹が減る。
 ぁあ何故どうしてと――

「旨い、うまい」

 だが。その竜は遥か過去、初めて飢えを満たす事が出来た瞬間があった。
 ――それが同族の肉を喰らった日の事。
 あの日、体が若返るかのようであった。
 若く、美しく、芳醇な肉体を持つ同族である程――旨かった。
 それ以降はもう止まらなかったし、止まる気もなかった。
 ベルゼーが必死に飢えに耐えているのが不思議だった。
 食えばいいのに。我々はそうすることでしか生きられないのだから。

「うまい。うまい」
「――あ、ご主人様もう食べてる!」
「おぉ夏雲か。なんだ生きておったのか」

 エチェディは亜竜種の魔種である夏雲へと視線を落とそうか。
 夏雲はエチェディの配下だ。厳密には自分の縄張りに侵入してきた夏雲を返り討ちにして、それ以来小間使いの様にしている、という関係だが。しかし夏雲は不満はなかった。暴食の魔種である彼女には時々、お零れが貰えるのだから。
 ――そして今日、夏雲は大望の肉ももらえた。
 竜の肉だ。
『薄明竜』と謳われた六竜が一角、クワルバルツの肉を――貰えている。
 ……クワルバルツは死んだわけではない。あくまで右腕をもがれただけの話だ。
 いや本当は殺すつもりで機を見て強襲するつもりだったのだが、イレギュラーズ共が介入してきたおかげで大いに予定が狂った。『叛逆竜』ホドとの戦いでも想像より左程疲弊していないし、なによりエチェディが怪しいと情報を伝えられた事によって警戒されてしまった。仕舞にはクワルバルツを庇い立てる人間があれほどいるとは……
 いや何より、まさか人間と言の葉を交わす程度の縁を紡ぐとは。
 あぁ――まるであの、とても美しかった先代の様である。
 誇りだけに溺れず他者を認める事もあろうとは、成長に涙が零れそうだ。あー美味しい。
「あれ、ていうか、逃がしたんですか? 内臓は!? 脳髄は!?」
「仕方あるまい。薄明殿の『技』を使ったら想像以上に老体には応えての。飛べんかった」
「ジジィすぎません?」
「お前も殺したろか?」
 ――さて。
 しかし、まぁ。問題はない。クワルバルツが逃げたとて、逃げる先などありはしないのだ。
 ヘスペリデスの異常は続いているから。
 あぁベルゼーの所がどうなるかまだ分からぬ、が。どうせ宿命からも逃げられぬよ。
 エチェディは確信している。ベルゼーも『こっち』に来るのだと。
 そしてその時はこの地の全てが終わる時だ。
 或いは、世界すらも。
「あ奴に全てが喰われる前に、食い散らかしていくとしようかの」
 エチェディは舌なめずりする。
 彼はベルゼーと異なり、己が宿命を宿命の儘に受け入れている。
 喰らいたいときに喰らうのだ。あぁ、まぁ。熟成するまで待つことはあるが。
 ――もういいだろう?

 笑う。嗤う。『竜殺しの属性を宿す竜』は、どこまでも。

 この地の崩壊を――受け入れるかの如く。


 薄明竜クワルバルツは大きな負傷をした様です――
 覇竜にて、ローレットはクリスタラードを撤退させることに成功したようです!


 ※ヘスペリデスの戦いにおける戦況報告が届いています――!

 ※『双竜宝冠』事件が新局面を迎えました!
 ※豊穣に『神の国』の帳が降り始めました――!
 ※練達方面で遂行者の関与が疑われる事件が発生しています――!

これまでの覇竜編シビュラの託宣(天義編)

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM