PandoraPartyProject
やがて夜が来る
「……楽しかったなあ」
パラスラディエという竜――人の姿ではリーティアと名乗る女性が、数冊の書籍を手に踊っている。
書籍に収められたのは写真、漫画、動画(!?)といったものだった。
厳密には彼女自身はベルゼーの腹の中に居り、ここ黄昏の園で踊っているのは幻影であり、書籍もまた実体ではなく魔術的な産物である。幻影は以前よりずっと薄らいでおり、力の減衰を示していた。
そんなリーティアに、『煌魔竜』コル=オリカルカは凍てついた視線を注いでいる。
「……」
「ねえコル見て下さい。うちの子、可愛いでしょう?」
「……」
「あ、そうそう、こっちの方々とも友達になったんですよ」
「…………」
リーティアはころころと笑い、コル=オリカルカは眉をいっそうひそめた。
「意地を張ること何て、もうやめたらいいじゃないですか」
「帝竜……何をおっしゃいます」
「何をって、この戦いです。だって馬鹿馬鹿しくないですか?」
竜達は覇竜領域デザストルは最果ての地、この黄昏の園ヘスペリデスでイレギュラーズと闘争を繰り広げていた。それは竜達が慕うベルゼーを守る為であり、竜域へ足を踏み入れた人類を蹴散らす本能でもある。
「……御身は変わられた、あまりにも」
「どこがです?」
「初めは勇者王なる小さき者共へ肩入れした時、次には御子を産み、その御身を父祖へと捧げた時」
コル=オリカルカの声音は微かに震えていた。
ベルゼーは冠位魔種『暴食』ではあるが、その気質はひどく優しい。
慈悲深く、時に優柔不断であり、また多くの竜種や亜竜種へと愛情を注いでいた。
亜竜種達からは里おじさまと慕われ、ベルゼーを育ての親とする竜種も少なくはない。
「御身がそんなことでは、父祖はあまりに報われない」
そう続けたコル=オリカルカもベルゼーに育てられ、父のように慕っている。
父祖と愛されるベルゼー自身の心情は兎も角、彼の権能には欠陥があった。『暴走』である。
辺りのあらゆるを飲み込んでしまう恐るべき権能は、実に三百年ほど前に発生しかけていた。
それを止めたのがリーティアだった。自身の身を食わせたのである。
「私は別に何も変わっていませんよ。ただ好奇心のままに世界を楽しんでいるだけです」
書籍を閉じて胸元に抱き寄せたリーティアが、コル=オリカルカへ向き直る。
「この感覚は、数多の生命へ爪牙を突き立て血肉を啜る喜悦と何ら変わりません」
「……」
「そもそも父祖を想うのであれば、この黄昏の地へ願われた理想を叶えるべきでは?」
「戯れであり、虚妄に過ぎない!」
「魔がいずれこの世界を滅ぼす存在であり、それがごく近いと分かっていてもですか?」
「魔風情に世界など滅ぼせるはずがない。わたくしは、わたくし達は竜です」
「冠位魔種の権能が暴走してもですか、巻き込まれるかもしれませんよ?」
「後れを取るわたくしではない」
「どうしても戦うのですか、かの勇者等と」
「無論、蹴散らすまで」
「かの者等は『本物』ですよ。勇者王達のような、あるいはそれ以上の」
「いかに不遜とはいえ、人は人に過ぎないでしょう」
「……死にますよ、あなた」
「――は?」
「我が娘アウラスカルトが勝てなかった存在に、勝てるとでも?」
「種は劣れど、わたくしのほうが歳経ている」
「この間、一目散に逃げたくせにですか? ざーこ♡ ざーこ♡ 雑魚ドラゴン♡」
「あれは――!」
以前イレギュラーズと一戦交えたコル=オリカルカは、かすり傷一つで飛び去った。
彼女は自称『潔癖症』であり、人や亜竜種など小さな生き物をひどく嫌っている。普段の食事においても亜竜しか口にしないという徹底ぶりは有名だった。
「私の言葉でも決意は揺らぎませんか?」
「御身が健在であれば力にて従わされたやもしれませんが、御身は既に朽ち果てておいでだ」
「昔から本当に強情ですね、では仕方がないのでしょう」
「……」
「シグロスレアはともかく、あなたであればと思ったのですが、残念です」
「…………」
「あ、あなたの弱点とか全部バラしときますね!」
べろべろばーと手を振って姿を消したリーティアに、コル=オリカルカは吐き捨てた。
「どうぞ御勝手に、人が竜に勝てるはずなどないのだから」
面汚し(アウラスカルト)ごと、狩ってくれる。
※覇竜に存在するヘスペリデスで、異変が生じ始めているようです……!!
※幻想と海洋に降りて来ていた帳の調査報告が続々と行なわれているようです――
※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――!
(特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう!)
※『双竜宝冠』事件が望まない形の進展を見せたようです。
各地でアベルト派、パトリス派、フェリクス派が武力衝突を開始し、市中にも被害が出ているようです……
※豊穣長編:『<仏魔殿領域・常世穢国>』の事件が解決しました――
※ROO長編:※R.O.Oのエラー領域『ORphan』での事件が終結しました。
境界図書館から行なう異界渡航の準備を始めたようです――