PandoraPartyProject

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これでおしまい

「俺は俺のしたいようにしたいし、ザーバの言う事も爺さんの言いたい事も分かる。
 だから、ここは第三者に尋ねる事にしよう」
 ヴェルスの視線が自分を向いた時、エッダ・フロールリジ(p3p006270)は少なからず胸が詰まる気がしていた。

 ――碌に目も合わせなかった癖に。

「エッダ、お前はどう思う?」

 ――悪びれながら知らない顔をしていた癖に。

(狡い男!)
 そんな事を尋ねた彼が自分の気も知らなかったとは思っていない。
『恐らく彼は知っていて、その上で尋ねたに違いないのだから』。
 エッダは小さく吐息を漏らした。彼女はそうしてゆっくりと手を挙げて――その言葉を吐き出した。
「ええ、ええ、ならばもう知りません。
 貴方が好きにするなら、私も好きにします。
 ……要は、誰かが責任を取れば良いのですね?」
 正直を言えば張り倒してやりたい位の気分であった。
 この局面で水を向ける彼も、そんな甘えを幾分か満更でもなく思ってしまう自分自身も。
「理屈ではそうなるな」
「なら――」
 エッダは丹田に力を込めた。
 居並ぶ鉄帝国の首脳、有力者の誰と比べても自分が『劣る』のは分かり切っていた。
 故に彼女がこれから口に出す言葉はかなり大それていて――大それてはいたが、そんなもの。
(――訊いた貴方が悪いのですよ?)

 ――私を、侮って。事これに到るまで侮り続けて。

「提案しましょう。『ならば、私が引き受けます』」
「……は???」
 エッダのキッパリとした言葉にバイルが些か間の抜けた声を上げていた。
「此度の勝者は『イレギュラーズ総体』と、そして陛下……失礼、『ヴェルス様』として。
 そしてイレギュラーズの代表として私が立つ。要するに共同統治です。
 政治的な立場はイレギュラーズ全員と陛下で1:1とすれば主権を徒に脅かさず、皇帝継承戦も両方を相手取る必要がある以上ハイリスク。
 後の無理はバイル様にでも押し通していただきましょう」
 女傑の言葉に流石のバイルも焦りを見せ、一方のザーバは呵々大笑に笑い出す。
「如何か」
 じっと見つめたエッダに「ふぅん」と声を上げたヴェルスは――



「――梯子を外すのは出来れば辞めて欲しかったですね」
 混乱の継承話の過ぎ去った玉座の間でエッダは僅かに抗議じみていた。
 元々が度の強いアルコールを友人(ヴァレーリヤ)ばりに呷らねば持っていきたくも無かった話である。
 彼女とて乾坤一擲なる『面白いアイデア』がそのまま作用して『政治的にどうにかなる』と本気で思っていた訳では無かったのだが。

 ――有り難くない答えだな。やっぱり一先ず当面は俺が戻るしかないらしい。

 ヴェルスの言葉にバイルは心底安堵し、キールは「首元に匕首を貰ったな色男」とけらけら笑い声を上げていた。
 ……結論は『そういうこと』になったのだが、先のエッダの言葉はヴェルスに言わせれば大いに違う。
「どっちの台詞だよ、そりゃあ」
「此方の台詞ですが? 『陛下』」
「言わされたようにしか思えねえんだがな」
 現実的に考えて特異運命座標には政治的無色が求められている。
 ギルド条約と神託の回避という大目標の前に、『形式的な共同統治権』は噛み合わない。
 レオン・ドナーツ・バルトロメイが承諾するとは思えないし、彼が頷かなければイレギュラーズ総体の正統性は担保されない。
 特異運命座標が英雄であったとしても『個』ではない総体である事が足を引っ張るだろう。
 代表権は定義出来ず、恐らくは何かある度に紛糾する絵も想像するに難くない。
「第一、長生き出来ないだろう。『お前』が」
「覚悟の上でしたが」
「……俺はまあまあ御免だよ」
 エッダのした事は本人にその気があったかどうかは別にして自分自身を人質にとったようなものだった。
 しかし。
「……………あの時は、それ位。本気でそう思ったのです。
 絵空事と知りながら。己が非才を理解しながら。
 本気で叶うとは思っていなかったのに、童女のような夢物語を。
 それでも間違いなく、そう思ったのです」
 独白のように言ったエッダの前に玉座から立ち上がったヴェルスが歩み寄った。
 小柄な彼女はそれで長身の彼を見上げる格好になる。
「どうせ次に――何かこんな風になるのなら、せめて轡を並べて敵と戦いたいと思ったのですよ。
 ええ、理解しています。『どれだけ願った所でそんな事は叶いようも無いのだ』と。
 でも、それでも言わずにはいられなかったのですよ」

 あなたはかってにいなくなったから

 苦笑したヴェルスがやや伏し目がちに視線を落としたエッダの髪に触れた。
 指先は頬に、彼女の頤を自然過ぎる所作で軽く上に持ち上げる。
「……」
「……………」
 沈黙は僅かな時間であり、逆に長くも感じられた事だろう。
 ヴェルスは何処まで本気か楽しそうに、幾らかからかうように彼女に言った。
「代表権のハッキリしない共同統治とやらは国と爺さんの健康の為にも御免被るが。
 お前が玉座の横に座るには、もう一つ位のやり方はあるのかもな――」
「――――」
 彼はエッダの言いたかった――そして結局『言えなかった』本当の意味に気付いていたのかも知れない。

 ――貴方を貰って差し上げる、と言っているのです。くれぐれも逃げようなどとは思わないように!

「~~~~~~!!!」
 今更、言いようのない言葉が空回る。
 大山鳴動して鼠が一匹。そんなやり取りが鉄帝国を襲った災害のような半年間の終わりを告げていた――

 バルナバス・スティージレッドが倒され、リッテラムにゼシュテルの旗がはためいています!
 ※帝都決戦に勝利しました!!

 All You Need Is Power(鉄帝国のテーマ) 作曲:町田カンスケ


 ※ラサでは『月の王国』への作戦行動が遂行されています!
 ※昨日(4/1)は何もなかったよ……?

鉄帝動乱編派閥ギルド

これまでの鉄帝編ラサ(紅血晶)編シビュラの託宣(天義編)

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