PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

レベリング

「オマエさあ。俺が言うのも何だが、多分バカだろ」
『金色の野獣』と称される魔術師は心からの賞賛を込めて目の前の男にそう言った。
 実に気安い調子で、最上級の親しみを込めて。言葉面は案外辛辣だったが、彼は目を細めて実に嬉しそうにそう言った。
「分かってるじゃないか。お前に言われる筋合いは無いってさ」
 丁々発止としたやり取りは打てば響く調子である。
 先刻承知のやり返しに「違いない」と機嫌良い笑い声を上げた魔術師は同等にボロボロになったお互いの有様が実に愉快で心地良かった。
「怪我人が随分無理をしたもんだな?」
「一敗地に塗れたままじゃ、元皇帝の名が廃るんでね。
 お前も似たような理由でこうしているんだろう?」
「自慢じゃないが、俺様は負けっぱなしでいた事は無いんでな。
 相手が『黒い太陽』だろうと、『憤怒』だろうと『終局』だろうと――
 こと、ぶちのめして片が付く相手なら全て殴って解決する事に決めている」
 戦士と魔術師、二人にとっての目下の目標は同じだった。
「そらみろ」と鼻を鳴らした『彼』にとってリッテラムでの対決は痛恨の一敗になってしまった。
『バルナバスが本気を出したとは思えないから正確にその底を測る事は出来ていなかったが、少なくとも彼は思うより二、三段は強靭だ』。
 実に久し振りに『死ぬかと思った』一敗は少なくとも現状の力で『あれ』が倒せない事を思い知らせるに十分だったという訳だ。
「で、勝算……って言うより自信の程は?」
「知るかよ、そんなもん」
 魔術師の胡乱な問いに戦士は肩を竦めて見せた。
 その問いはいよいよ無意味なものなのだ。
 自信があろうと無かろうとやるべき事は変わらないし……
『元皇帝は、その為にこの数か月の時間、耳目を塞いできたのである』。
 民の嘆きが聞こえようと、救いを求め自分の名前を呼ぼうと全て無視して振り払い。
 十年振りに『全て自分の為だけに時間を使った』彼は時間切れを前に仕上げるだけ仕上げてここに在る。
 それは究極の一にして全。即ちこの戦いを終わらせるに必要な『現皇帝との帝位戦に勝利する為である』。
「ま、一対一とはいかないだろうが……お互い様で、あっちの自業自得だな。
 フェア・プレイは好みだが、優先順位ってモンもある。
 ……第一、魔種ってのはありゃあ反則じゃないのかい。
 なぁ、魔神王。ありとあらゆる『チート』がお得意のアンタでもそう思う話だろう?」
「自分への言い訳が下手だね、どうも」
 鼻で笑った魔術師に戦士は憮然とした顔をした。
 戦士は本来どんな理由をつけても一対一ならぬ戦いを好みはしないのだ。
『自分の為に時間は使ったが、この先まで全て私物化する心算は無いのを知られている』。
 つまる所、彼はもっと若くて無鉄砲だった頃のようにはいられない。
 鉄帝国で誰より速く、誰より自由だった若者は積み重ねてきた名声と期待程度には不自由に縛られている。
「意地悪を言い過ぎたぜ。
 悪く思うなよ、オマエみたいなのは好きなんだ」
 同じ相手に『敗れた』二人は引き合うような偶然の先に同じ時間を過ごす事を選んでいた。
 即ちそれは……

 ……圧倒的な。圧倒的なまでの鍛錬、レベリング。

 人智を嘲笑うかのような怪獣二人が組手でもした日にはその効率たるや激烈そのものであった。
 人事を尽くしたのなら、後は為すべきを為し天命を待つのみである。
 それだけの時間を費やした自負がこの二人には存在した。
「さァて、どんな戦いになるかな?」
「楽しそうだな」
「楽しいさ。オマエも、特異運命座標(あいつら)も気に入ってる。
 だが、一番はやっぱりバルナバス・スティージレッドかな?
 ありゃあ実にいい。唯強いだけで理由がない所が最高だ。理屈をつけない所が最高だ。
 これからやり合えると思うと、正直心が躍っちまうぜ」
「オマエだって実際そうなんだろう?」と水を向けた魔術師に戦士は答えなかった。
 唯、数多の女性を騒がせた――その涼やかな口元に満更でもない微笑だけが浮いていた。


 ※鉄帝国各地で各派閥による進軍が開始されました!
 ※二つの太陽はバルナバスの『権能』のようです。鉄帝国の滅亡が近付いているようです……
 ※『独立島アーカーシュとポラリス・ユニオン(北辰連合)に動き』があったようです。
 ※帝政派が切り札『グラーフ・アイゼンブルート』と共に『帝都西方面』より出撃するようです!
 ※鉄帝国各地の流通網が回復しつつあります!

 ※天義の都市テセラ・ニバスが消滅し、異言都市(リンバス・シティ)が顕現しました。また、遂行者勢力による天義での活動が観測されています!
 ※ラサの首都ネフェルストにて同時多発的に事件が発生し、『赤犬の群』の団長ディルクが行方を眩ました模様です……

鉄帝動乱編派閥ギルド

これまでの鉄帝編ラサ(紅血晶)編|シビュラの託宣(天義編)

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM