PandoraPartyProject

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ポラリスとスピカ

 春の気配は未だ遠く。
 今もなお鉄帝国の大地は天牢雪獄に包まれている。

 そんな日、マルク・シリング(p3p001309)リーヌシュカ(p3n000124)は重厚な木扉の前に立っていた。
「――入れ」
 室内からの険しい声と共に、従者によって扉が左右に開かれた。
 リーヌシュカを伴うマルクは緊張した面持ちで、部屋へと足を踏み入れた。
 幾人もの騎士や近隣の名士達がずらりと並んでいる。
 後ろには新聞記者達がメモを片手に待ち構えていた。カメラマンの姿も見える。
 そんな列の中央を、マルク達は進んでいく。
 正面奥にある背の高い椅子には『金狼』ヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフ伯爵が座しており、傍らには同じイレギュラーズの仲間でもあるベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)が控えている。
 マルクはこうした状況に臆するタイプではないし、ヴォルフの事も見知ってはいるのだが、今日ばかりは些か緊張していた。
「こちらに『歯車卿』エフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフからの書状をお持ちしました」
 ヴォルフが視線を送り、ベルフラウが歩いてくる。
 彼女は書状を受け取ると、マルクの耳元で「そう固まるな」と小声で笑いかけた。
 緊張がいくぶかほぐれた気がする。

 この日、マルク達はリーヌシュカを佐官に任命してもらうため、ローゼンイスタフの城へ赴いていた。
 話自体は事前に通っており、要するに形式だ。
 書状を読み終えたヴォルフは椅子からゆっくりと立ち上がる。
「帝国陸軍軽騎兵隊隊長。アルマスク陸軍隊長。並びにノイスハウゼン陸軍隊長。
 エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ大尉」
「はい!」
「ただいまこの時を以て、一階級昇進。
 帝国陸軍独立混成連隊――ルーチェ・スピカ連隊長として任務にあたれ。
 任務は新皇帝派を僭称する賊軍の駆逐となる。復唱は不要のこと。以上だ」
「エフシュコヴァ少佐、これより任務にあたります!」
 フラッシュが瞬いた。
「これは帝国軍法ならびに伯爵権に基づき皇帝代理として行うものであり、皇帝勅命同様の任命となる。貴官等がローゼンイスタフの旗下となることは意味しないものと心得よ」
「はい!」
 続いて盛大な拍手が巻き起こった。
 記者達が必死にメモをとっている。ラジオや新聞の特報となるだろう。
 これも形式だが、儀式というものは時に重要な意味を持つ。
 大尉風情に指揮されるのを望まない者は多いが、佐官なら格好が付くという訳だ。
 ベルフラウがさも恭しげな様子でトレーを運んでくると、そこには少佐の徽章が煌めいていたが。
「……ねえ、これって」
「特注品だ」
 ベルフラウが答え、いたずらげに笑う。
 付けてやった徽章は、独立島アーカーシュのシンボルで出来ていた。
「……え、うそ。嬉しい!」
「それからマルク・シリング」
「はい」
 突然ヴォルフに名を呼ばれたマルクは驚いた。
「立場上、任命という訳には行かぬが、心せよ」
「はい」
「貴卿はアーカーシュにおける事実上の将官であり『浮遊島の司令』である」
「……」
「これからもよろしく頼む。独立島を率いて我等ポラリス・ユニオンと轡を並べ、共に戦ってほしい」
「かしこまりました」
 ヴォルフはマルクの背を手のひらで何度か叩くと、「以上だ」と告げた。
(これを聞かせるために人を集めたのか)
 おそらく周知させるために――マルクが息を飲んだ。
「やったじゃない、マルク!」
「ああ、うん。頑張るよ。頑張ってみせる、これまで以上にね」
 再び喝采が包み込む中、ヴォルフが娘へと向き直る。
「それからベルフラウ」
「何でしょう父上?」
 見守っていたベルフラウの声音には、僅かな驚きがあった。
 衆目の中、この流れで、一体何を言い出す気なのか。
「ローゼンイスタフを継ぐのは貴様だ」
「……」
「帝都スチールグラードに聳えるリッテラムへ、帝国旗を掲げるのは貴様の役目と心得よ」
「何を仰るか、父上はますます壮健にあらせられる!」
「無論くたばるつもりはない。貴様の真に為すべきこと――冠位魔種を全て駆逐することも為せばいい」
「…………」
 ヴォルフは厳めしい表情のまま、いちど言葉を切った。
「だがベルフラウ。この戦いの後、爵位は貴様が継ぎ、未来を担え」
 東部全域における真の平定と発展とを成し遂げよと続ける。
 ふと、父は何か弱気になっているなと感じた。
 あの厳格な、豪腕な、傑物たる父が。
 よりにもよって、まさか。
 恐らくシグバルドの打倒を果たせなかったことを悔やんでいるのだろう。
 だが、ならば自身がより一層奮起せねばなるまい。
「……承知しました。雷神ルーより授かりし光の剣にてかならずや御旗を打ち立てましょう」
「よかろう。ポラリス・ユニオンの『雷神』として、その名を轟かせよ」
「ハッ!」
 三度目の喝采が一同を包み込み――

 ※リーヌシュカが昇進し、独立混成連隊ルーチェ・スピカが正式に認められました。
 ※マルク・シリング(p3p001309)が『独立島の司令』の称号を獲得しました。
 ※ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)が『雷神』の称号を獲得しました。

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