PandoraPartyProject
老骨、些かも衰えず
力こそ正義、力こそ論理――
言葉にすれば容易いが突き通すには余りにも胡乱な蒙昧は外の世界に通ずるものではない。
しかして、その非常なまでに明快で、非情なまでに単純な論理は過酷な北の大地で生きる人間にとって確かな寄る辺であり続けた矜持だった。
ゼシュテル鉄帝国の人々は老若男女問わず、武人としての力量を尊ぶ。
この国において腕っぷしなくて成り上がるのは無一文で商売を始めるにも等しい無謀であろう。
「良し、集まったな。諸君」
ゼシュテル帝国『六天覇道』が帝政派本拠地サングロウブルクの執務室にて戦士達をそれぞれ見据えた宰相バイル・バイオンはそんな帝国の唯一にして最大の例外だ。
彼こそが時に清々しく、時に血濡れた帝国史の中で燦然と輝く『最初にして最後の文官』である。
「御命令の通りに。全ての準備はつつがなく整ってございます、閣下。
「は、はいっ!」
特異運命座標として本戦に参加してくれる甥も――勇者一同の代表も此方に」
鉄帝国の『正規軍属』として折り目正しく礼をしたヴディト・サリーシュガーの言葉に彼の傍らに居たリュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)の背筋が伸びた。
(……こ、これは緊張するシーンデスネ……!)
国は荒れているとは言え、バイルは鉄帝国の事実上の最高実力者の一人である。
尊敬する叔父から『代表』とまで述べられれば自ずと気持ちも引き締まろうというものだ。
「お互いに良い若者に恵まれたものですな、ヴディト殿」
『同様に自慢の愛娘がこの場に居る』レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルクが水を向ければ、淡く微笑んだヴディトの空気が僅かに和らいだ。
「ご、ご期待を頂き、我が身に過ぎる光栄であります……」
「何かいつもと違う感じ? 大丈夫だよ、ボクも居るし……目一杯暴れるからね!」
父から大いなる期待を背負ったハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク (p3p000497)の表情はリュカシスと似たようなもので、緊張らしきものを感じさせないセララ(p3p000273)とは『親友』同士で実に絶妙なコントラストを描き出していた。
「こうシテ集められたってコトは……いよいよ『やる』ってコトだよね?」
「長いようで短い……そして短いと言うには余りにも過酷な屈従の日々でしたな」
待ち切れないとばかりに腕をぶすようなイグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)にオリーブ・ローレル(p3p004352)が頷いた。
鉄帝国にルーツを持つ者や、この国に格別の愛着を持つ人間にとって『新皇帝』にいいようにされたこの数カ月は鬱屈の極みだったと言って過言ではない。
イグナートの言う通り、この場に居る者以外にも既に臨戦態勢移行の通達が行われていた。正式な攻撃計画はまだ聞いていないが、『太陽』の話を鑑みれば既に賽は投げられたようなものだ。バルナバスの権能がもたらす先こそ知れないが、事これに到れば是非もなし。憤怒の計画に付き合わぬとするならば状況が決戦を望むのは余りにも明白過ぎる。
「ザーバとの折り合いも完全についたのでな。尤も彼奴めが問題を起こすとはわしも思ってはおらなんだが。
それはそれとしても、彼奴めにも立場があろう。『彼奴の事情を汲んでやるなら、帝政派はこの戦いで主導的立場を得る必要がある』」
「将軍らしいと言えばいいでしょうかね」
「普通は逆になりそうなものなのですが」
バイルの物言いに幕僚たるヴディトとレオンハルトが苦笑した。
『絶対に皇帝に等なりたくないザーバは望む望まないにせよ担がれた南部勢力が戦争の主導権を握る事を望んでいない』。
野心がないのに呆れればいいのか、助かると思えばいいのか……
バイルの皺だらけの顔からその本音は覗けなかったが、どうあれ南部戦線派との連合が成立した今となっては後顧に憂いはない。
圧倒的な『求心力』を宿す帝政派に味方する民は多く、勢力は大きく拡大している。
各地で上がる反撃の狼煙と共に此方は『西』より。スチールグラードを奪還すべき好機は今を置いてないだろう。
「うむ。我等は耐え難きを耐え、忍んできた。
遅刻癖の『陛下』を叩き起こす為にも『目覚まし』は必要じゃてな。
帝国の興亡、この一戦にありなれば。今回は全て、出し惜しみなしじゃ。グラーフ・アイゼンブルート起動を承認する!」
一同は思わず息を呑んだ。
イレギュラーズには因縁浅からぬギア・バジリカ等も含め――
鉄帝国の凍土に眠る『オーパーツ』は秘匿されてきた最大軍事力そのものである。
数十年以上も帝国の宰相職にあるバイルの切り札は文字通りの決戦兵器に他なるまい。
彼がサングロウブルクを真っ先に確保したのは『それ』を守る為だったとすら囁かれるのだから、余程のものであろう。
「強そう! カッコいい! それって一体どんな兵器な――」
セララが思わず身を乗り出しかけた時、返事をするように轟音が響いた。
思わず窓に駆け寄ったハイデマリーはそれを見て目を丸くするしかなかった。
――空に、超巨大な戦艦が浮いている。
「唯の飛空艇と侮るな。グラーフ・アイゼンブルートは戦艦にして空母、空母にして要塞じゃ。
文字通り『鉄帝国最強の武力』。そしてこのわし――『バイル・バイオンの最大武力』故にな!」
この小柄な老人は若い時から頑健な肉体を持ち得なかった。
鉄帝国で成り上がるには余りに貧弱なその武力は高官の中で異質とすらされていた。
しかし、彼は温めていた。『政治力』という武器で凍土に眠った最強兵器を発掘し、民に過大な負担を強いる事なく長い、長い時間をかけて整備・改修予算を捻出し。
まさに亡国の間際にある鉄帝国の落日に『自身(もたざるもの)の武力』を間に合わせたのだ!
「――さあ、征くぞ、諸君!
目標はスチールグラード、攻略目標は王城リッテラムじゃ。クソ皇帝に目に物を見せてやれ!
グラーフ・アイゼンブルートは『わしが指揮する』」
遠雷のように響く外の歓声は執務室内部まで揺らしているかのようだった。
一筋縄ではいかないこの老人、自軍への鼓舞も中々どうして卒がない!
※帝政派が切り札『グラーフ・アイゼンブルート』と共に『帝都西方面』より出撃するようです!
※鉄帝国各地の流通網が回復しつつあります!
※天義の都市テセラ・ニバスが消滅し、異言都市(リンバス・シティ)が顕現しました。また、遂行者勢力による天義での活動が観測されています!
※ラサの首都ネフェルストにて同時多発的に事件が発生し、『赤犬の群』の団長ディルクが行方を眩ました模様です……
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