PandoraPartyProject
フローズヴィトニルの欠片
銀の森に吹いたのは柔らかな冬の風。春の気配は未だ遠く、だが、厳しすぎる冬は幾許か落ち着いたかのようにも思われた。
フローズヴィトニルの『中央』ともなる封印の要がアラクランに持ち去られはしたが、各地に散らばっていたフローズヴィトニルの欠片はイレギュラーズが奪取に成功している。
其れ等の欠片の所在を確認しながらエリス・マスカレイド(p3n000293)ははあと深く息を吐いた。
「お集まり頂き有り難うございます。イレギュラーズちゃん達」
エリスは緊張したように視線を右往左往させ、不安げな面持ちである。
「精霊女王。『フローズヴィトニル』の封印を奪取しましたが、これはこれからどの様にすれば……?」
封珠の形はそれぞれ違う。『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル (p3p001984)は己の傍に『氷の狼』を感じながら問い掛けた。
だが、存在感はあるがそれは実体を伴わない。念じれば氷は力となり憤怒の炎を弱められるかのような気配――だが、其れも全ては手探りだ。
『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア (p3p000282)は「この気配って精霊?」と問う。
「はい。大義では精霊、でしょうね。皆さんにはフローズヴィトニルの力の欠片によって冬と氷の力を断片的にですが行使できるようになりました」
「ねえ、私はニエンテ・フラネーヴェの加護も貰ったわ。彼女も……フローズヴィトニルの欠片の一つ、と云う事よね」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の問い掛けにエリスは頷いた。
「わたしは『精霊女王』ですから、ニエンテにとっては姉にあたるのかもしれません。
フローズヴィトニルは強大なる『厳冬』そのもの。
オリオンが穏やかな四季の冬あるならば、フローズヴィトニルは人の命を奪うために適した兵器そのもの」
冬の王と呼ばれたオリオンとフローズヴィトニルは同じ『冬』でありながら在り方は別個の物だ。
エリスやニエンテ・フラネーヴェはフローズヴィトニルが封じられた際に分かたれた欠片が形を持った精霊なのだという。
「紛れもなく、イーリンちゃんの得た力はフローズヴィトニルの欠片です。
そして、ブランシュちゃん、リースリットちゃん、オデットちゃん、レイチェルちゃん、レイリーちゃん、美咲ちゃんとヒィロちゃん。
貴方方が得たフローズヴィトニルの欠片も、また、大いなる力の片鱗なのです。
そして、この力は使い手によっては悪しきものにもなる。皆さんならば、大丈夫だと、信じています」
「そ、そんなに凄い力なんだね……美咲さん」
「そうね。私達は二人で一つの力を行使できるようになったようだけれど……」
顔を見合わせた『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル (p3p005192)と『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト (p3p002503)にエリスは「お二人ならば大きな力を行使できるでしょう」と頷く。
「『氷の狼』の気配を感じるんだが、それだけなんだよな。意思は感じられねぇ。
……これはアラクランに中央にあたる要を奪取された所為か?」
問うた『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン (p3p000394)にエリスは頷く。
「最も、フローズヴィトニルは『悪しき狼』、その心には優しさもありません。
そうした、温和な心はわたしやニエンテのように分かたれて氷の精霊に変化してしまいましたから」
故に、悪しき部分だけが各地にばらけて封じられていたのだろうとエリスは言った。
「なら、此処にあるのは強大でとても恐ろしい力なのね。それこそ、この国を冬に閉ざせるほどの。
それが、6……いえ、7つ此処にある。それから、あと1つはアラクラン――フギン=ムニンの手に渡っている、と」
『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン (p3p007270)は神妙に呟いた。
自身等の方が数は多いがフギン=ムニンの手に渡ったのは封印の中央、『要』であった部分だ。
注意をして置いた方が良いだろう。その力と激突する可能性は多い。今は静かな冬が更に猛威を振るう可能性とてあるのだから。
「聞きたいことがあるのですが」
ぴんと背筋を伸ばしていた『後光の乙女』ブランシュ=エルフレーム=リアルト (p3p010222)は問う。
「この力に代償は? そんなに簡単に使える物だとは思えません。
フギン=ムニンの元に居たアラクランの軍人は生命力を削って利用していたと聞いています」
「……それは……」
エリスとオデットが不安げな声を漏す。目の前の精霊女王の表情が徐々に暗くなっていく。
「わたしは、フローズヴィトニルの欠片です。ですから、一番に強く、共鳴することが出来る。
わたしがフローズヴィトニルの制御を行ないます。勿論、体に負荷はあります。長くは出来ません」
「それは、エリスの生命力を削っているって事か……!?」
レイチェルが思わず声を荒げれば、エリスはにこりと笑った。
「すこしならば、大丈夫です。私は精霊女王。とても強い力を持っています。オリオンなんてデコピンでノックアウトです。
……ですから、皆さんが、バルナバスと戦う間は何の不自由もなく、支え続けることができます。
安心して下さい。わたしは、これで命を落とすことはありません。永きを生きる精霊が、すこしだけ、いのちをわけるだけですから」
にこりと微笑んだエリスは願う。
自分の命を多少削ってでも良い。だから――必ず、必ずや――『この国を救って欲しい』と。
「……精霊女王……」
「リースリットちゃん、わたしは沢山の精霊を、そしてこの銀の森を愛しています。
だから、ちょっとだけがんばりたいのです。
……要石を破壊し、新たな封印を施せば、氷の力は皆さんの自由自在。すこしだけ、ですが。
それから、そうすれば、春が来ます。美しい花の咲き誇る穏やかな芽吹きの春が。わたしは、それを見たいのです」
氷の精霊が何を云うと笑われて仕舞うかも知れないと、呟いてからエリスは恥ずかしそうに笑った。
――そう、思うようになったのも、貴方達と出会ったからだ、と。
だから、手伝わせて欲しい。この国を救うこと、そして、あなた達が命を賭ける戦いのことを。
※<クリスタル・ヴァイス>の戦況報告が全て届きました!
※幾人かのイレギュラーズ達がフローズヴィトニルの欠片を手にした様です!
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