PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

暗中のメフ・メフィート

「久し振りだな、この街も」
 暫く振りだが――暫く振りでも殆ど姿を変えていない伝統的な街並みにバーテン・ビヨッシー・フィッツバルディは安堵のような退屈のような、何とも言えない嘆息をした。
 フィッツバルディ後継候補の一人とされながら国元に引きこもっていた彼は市井を騒がせる『双竜宝冠』さえ何処吹く風のままだった。
 父親の容態だけは心配だったが、兄妹の誰が跡を継ごうと構わなかったし、ある意味で諦めきった両親も彼のそんな姿を咎める事は無かったのである。
「テメェだけだろ、そこまで気楽な『フィッツバルディ』は」
「そうかな。……そうかも」
 呆れ顔のマサムネ・フィッツバルディにバーテンは少し逡巡してから頷いた。
 変わり者同士、この男とは友誼があった。今回、バーテンがメフ・メフィートに顔を出したのは彼と、
「でも、そこがいい」
 もう一人。取り成したヴァン・ドーマン伯爵令息。二人との付き合いであるが故とも言えた。
「それで、文の話は本当なのかい?」
「ああ、至極不愉快な事にな。本当だし、何の網にも掛かってねぇよ」
 街中で白昼堂々と話題に上げるには実に危なっかしい話であるが……
 厳戒態勢のメフ・メフィートに人の気配は少ない。
 また、マサムネは周囲に自分の予期しない人間を近付けさせるような男ではない。
「そうなると、やはり兄上(ミロシュ)は」
 バーテンの確認にマサムネは声のトーンを落として続ける。
「……ああ。どの陣営も蜂の巣を突いたような大騒ぎだぜ。
 まぁ、その内のどっか、或いは複数に。狸芝居をしてる連中がいる可能性も高いんだが」
「こうなってしまった以上は、本格的な暴発に到るのも時間の問題だろう?」
 ヴァンの言葉にマサムネが頷く。
「『少なくとも自分が潔白だと主張するなら怒って見せなきゃ嘘になる』。
 つまり、自分以外の陣営を犯人に仕立てて対決は一層物騒な局面になるだろうさ」
「……難儀だな。少なくとも僕には家を継ぐ為に兄弟を害する気持ちは分からない。
 まぁ、それは君達も同じだと思うから――僕達は友人になれたのだと思っているけれど」
 ヴァンの言葉にマサムネは苦笑した。
 今でも胸に滾る復讐心もまた、『そんなくだらない事』から生まれたものだった。
 顎に手を当て、沈思黙考の格好を取るバーテンはマサムネにとってこの状況を打開する切り札のようなものだった。
「どうだろう? 君が興味でしか動かないのは知っているが……
 僕達は幻想の混乱を看過出来ない。だから友人として君を呼んだ。
 マサムネ君の気持ちを代弁する事はしないけれど……
 だが、君は僕にも似合わないと思っただろう?」
「まぁ、それは……そうと言えるね」
「そうだ。少なくともこの僕にはらしくない事を言う理由が――」
「――ちょっと待って、当てるから」
 ヴァンとバーテンの何時かも見たようなやり取りを眺めながらマサムネは苦笑した。
(俺の理由か)
 マサムネは別にフィッツバルディを継ぎたいとは思っていない。
 それ所かこんな血塗られた、そして――を奪った家を継ぐ等、反吐が出るとさえ思っている。
 しかし同時に。彼は『そんなフィッツバルディらしい輩がこのレースで勝利する事を絶対に許す事が出来ない』のだ。
 少なくとも身内に手を上げるような連中は駆逐してやらねばならない。
 知ったような事を言う心算は無かったが、自分と同じような人間は自分で最後で十分だと思うから。
「そうだな。ヴァン君。君はかなり我儘な男だ。
 本質的には自分以外がどうでもいい、そんな男だった筈だ」
「認めるよ」
「そんな君が『大儀』を口にして僕らしくない、何て宣う。
 ……と、いう事は原因や動機は最も君らしくない理由に根差す筈だ。
 それが不本意なものなら口調には自嘲の気持ちが零れそうなものだが、どうも君は誇らしくそれを言う」
「……認めよう」
「ならば、原因は至極ポジティブなものである筈だね。
 僕には余り経験が無いが、人間の根っこを変える理由なんて多くはない。
 憎しみか、愛情か。憎しみの方は……君の頼みは利己的ではないし……
 その気持ちは相変わらず真っ直ぐみたいだから違うだろう。
 では、愛情か。価値観を変える愛情の正体は性愛(エロス)か神の愛(アガペー)どっちだろうね?
 ……ま、これも精々人間の持ち得る神の愛なんてものは我が子を授かった時位が限界だろうから。
 君に出産祝いを贈っていない親友の僕は、更なる邪推をする事が可能なのだ」
「勘弁してよ」
アルテミア・フィルティス嬢だろう。
 君は彼女やその家の為にも、幻想(レガド・イルシオン)を泥船には出来ない」
「推理らしい事を言ってるけどさ。そんな噂は耳に入っていたんだろう?」
 恨みがましく言ったヴァンにバーテンは高笑いをした。
「探偵ジョークはどうでもいいが、笑い事じゃねぇのは聞いての通りだ」
『しょうもない』やり取りにマサムネが咳払いをした。
「『俺も兄弟がまさか早々にここまでやるとは思わなかったよ』。
 それで、テメェを呼んだ。少なくともこれ以上の『事件』を少しでも食い止める為にな」
「……ん」
 天才特有の空気の読めない笑顔を見せていたバーテンが少しだけ目を伏せた。
「テメェが権力争いなんて大嫌いなのは知ってるよ。それでも聞くぜ。協力、してくれるか?」
 問うたマサムネにバーテンは大きく息を吐き出した。
「兄上(ミロシュ)はね。僕には結構親切だったんだよ。
 多分、彼は僕を『取るに足らない奴』だと思っていた。
 事実僕は権力に興味が無かったからね。彼の邪魔にはならなかっただろう。
 ただ、それだけだっただろう。邪魔にならないから手懐けておけ、とでも思ってたんだろうさ。
 でも、それでもね。年の離れた兄上は僕にとって『口は悪いが遊んでくれるいい兄貴』だったんだよ。
 ……悪戯を庇ってくれた事もある。一緒に悪い事をした事もある。
 そんな兄上を手に掛けた奴はこの僕も許せない――」
 そうして、力強く言い切った。
「――これ以上の犠牲や被害は何とか食い止めなければならないんだ」

 ※フィッツバルディ家のお家騒動が幻想を騒がせつつあるようです……
 ※ラサでは妙な宝石が出回っている様です……?
 ※<ジーフリト計画>が始動しました!

鉄帝動乱編派閥ギルド

これまでの鉄帝編アドラステイア

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM