PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

March of the Motherland I

 不凍港ベデクトの街並みが、純白の薄化粧を纏っている。
 そんな街の南部上空には伝説の浮遊島アーカーシュが鎮座していた。
 駅にほど近い時計塔の側にある当局庁舎、その屋上で焼けただれていた帝国旗を、ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)が真新しいものに差し替える。それから北辰連合旗とアーカーシュ旗、他派閥旗が冬風になびいた。
 鼓笛隊が勇壮な楽曲を奏で、眼下に集まった人々から拍手と喝采が広がり、国歌や軍歌を歌い出す。
 広場へせり出したバルコニーでは北辰連合『金狼』ヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフと、独立島アーカーシュ『歯車卿』エフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフが握手を交し、無数のシャッター音の中で粉末マグネシウムを焼いた閃光が幾度も瞬く。
 それから三十分ほどの会見が開かれた。内容は勝利の報である。早速本日の夕刊やラジオ放送を飾り、街では祭りが開かれるのだろう。儀式というものは時に重要だ。街が喧噪を取り戻す切っ掛けとなる。

 その後は未だ港から幾度も祝砲が響く中で、北辰連合と独立島アーカーシュの面々は庁舎の大会議室に集まっていた。今後の方針を定めておかねばならないからだ。
「改めまして。お初にお目にかかり光栄です。餓狼伯とお呼びするのは失礼にあたりませんか?」
「それで結構だ、歯車卿。こちらこそ会えて光栄」
 再び握手を交したのは、やはりヴォルフとエフィムである。
 かたや『旗持ち』と蔑まれた家柄、かたや『インフラ屋』と軽んじられる政治家。だがヴォルフは篤い忠誠でこの地を支え続け武勇を轟かせた傑物でもあり、エフィムは杜撰極まりない帝国において高度な都市整備に貢献している希有な人物だ。文武は違えど下馬評を覆した実力者同士である。
「イレギュラーズの皆さんも、お疲れ様でした、しかしなかなか暖まりませんね」
「歯車卿もお疲れ様よ。いつもはこんなに冷えないんでしょう?」
 暖炉を見つめたエフィムを、アーリア・スピリッツ(p3p004400)が労う。
今年の冷え込みは異常ですね、これではまるで伝承に語られるフローズヴィトニル……」
 そう述べたエフィム(インフラの専門家)の声音は、あまりに苦い。
「まあ物資はシレンツィオあたりから僕の伝手で買い付けるさ、それでいいだろう」
 そう言ったのは『好事家』リチャード・マクグレガーという老人だ。ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)の酒飲み仲間であり、さしずめアーカーシュのパトロンといった所である。
「それより本題と行こうじゃないか。聞かせてくれよ、冒険の話をさ」
「悪いなリチャード、ハイライトはゴールデンタイムまでおあずけだ。
 店でも抑えて、ラド・バウのラジオ中継でも聴きながら話そうぜ」
「もちろんリチャードの旦那の奢りでいいよな。店だったらとびきりを諜報済みだ」
 ヤツェクがグラスを飲む手真似をし、同じく飲み友の諜報軍人エッボがおどけた。
「ずいぶんもったいぶるじゃないか、さぞ面白いんだろ?」
「そいつは保証するが、まずはやることやっちまおうか」

 ともあれ、はじめに不凍港の行く末だ。
 すずな(p3p005307)がローズウッドの机上に二枚の地図を広げた。
 一つは帝国全土のもの、もう一つは不凍港のものだ。
 陸軍士官のリュドミーラが地図上に素早くコマを配置していく。
 両派閥とも不凍港の利権を殊更には求めておらず、利害の一致する諸派(つまりイレギュラーズと協力関係にある全て)や、国民の為に利用されるべきだという立場では一致している。
 激しい戦いではあったが、被害は驚くほど小さかった。街の機能はほぼ無傷のまま保全されている。
 家屋に押しこもっていた人々が姿を見せ、船は出航をはじめた。早くも経済活動が再開されつつあるのは喜ばしい。貿易相手の海洋王国などからの物資到着までにはまだ幾ばくかかかるだろうが、帝国艦隊の一部がベデクトを離脱し、やや南の島を拠点に貿易船などの安全を確保しているという情報が分かった。向こうにはすぐさま連絡が行き届いたようで、近く帰還が予定されている。
 生粋(!)の新皇帝信奉者達は元々の罪人であった場合がほとんどであり、今は再び牢の中だ。
 嫌々従っていた多くの人々については、なんと一律の不問で方がついてしまった。なんというか、良くも悪くも大雑把なお国柄ということか。
「彼等の気持ちは、決断は、無駄には出来ない」
 ラダ・ジグリ(p3p000271)の言葉通り、最終的に不凍港の軍人達はイレギュラーズを強く支持してくれている。その中でちょっとした事件(?)があり、一同がフライドポテトを頬張る佐藤 美咲(p3p009818)を見つめた。ともかく「新皇帝を討つべし」という機運が徐々に高まりつつあるのは確かだ。
 美咲が投げた石の波紋、その行方は――

 次にノーザンキングスについての話題となった。
「それで奴め、確かにそう言ったか」
「はい、間違いありません」
 書類に視線を走らせるヴォルフに、マルク・シリング(p3p001309)が明朗に答える。ベデクトを襲撃したノーザンキングスは略奪もそこそこに、さっさと引き上げた。事実上の敗北だが、彼等を統べる統王シグバルドは、少々違った目的を持っていたようだ。
「やれ、とんでもない爺だったのは確かよね」
 ゼファー(p3p007625)がぽつりとこぼす。
 シグバルドの弁、その一つは金狼を狩ること、それから帝都に攻め上り皇帝を討つこと。そしてゆくゆくは南下――つまり幻想王国まで攻めたいのだと言っていた。間違いなく本心ではあろう。
「俺を狩るだと。奴めの大言壮語は今に始まったことではないわ、まんまと逃げおって」
 そう言って、ヴォルフは喉の奥で微かに笑った。
「奴に恥辱はない、矜恃もない。賊共をまとめあげているのも人望ですらない。さしたる私財も持たず、常に身一つ、誰よりも生き汚い。獣と同じよな。賊共はただその背を追うのだ――故に恐ろしい」
 ヴォルフの表情自体は厳めしいままほとんど動いていない。だがそんな父はどこか楽しげにさえ見える。
 滅多なことではないと、ベルフラウは思った。まるでシグバルドが倒されなかったことを喜んでいるようにさえ感じられる。
「奴めはな、ノルダインの『生き様』そのものなのだ」
 狩るのはヴォルフ自身の手だと、握りしめた拳を見つめる眼差しが物語っていた。

 一方、同じく不凍港で撃退されたシグバルドの息子であるベルノ・シグバルソンは、ノーザンキングス内で高い力量と求心力を得ているようだ。苦い表情を隠せないで黙り込んでいるギルバート・フォーサイス(p3n000195)あたりにとっては怨敵となるが――
「おれは皆の力に……なりたい」
 チック・シュテル(p3p000932)が見つめる先、ベルノのさらにそのまた子であるトビアス・ベルノソンは父に逆らい北辰連合と轡を並べている。
 これまでの経緯、ノーザンキングスとヴィーザル地方諸部族間の確執は深く、万人にとって納得がいく解答は得られないのかもしれないが、それでも何か出来るのではないかと思えてならない。

 ――それにしても、目下の問題もある。
「今年は一段と冷えるが、このままでは民はどうなる」
 ベルフラウの表情は、父とまた違った方向の憂いを帯びていた。
 街の物資は新皇帝派の横暴によって減りつつあったが、貿易が本格的に回り始めれば抜本的解決自体はされる。すくなくともこの街、不凍港ベデクトに関しては。また各派閥はイレギュラーズの尽力によって高い生産力を持っており、そこもおそらく大丈夫だろう。
 問題は国内各地、特に遠隔地である。これは徐々に回復しつつある鉄道網を利用するのが手っ取り早いが未だ完全にはほど遠く、また貿易には船を待つために大きな時間差がある。アーカーシュ経由の移動でも賄いきれない。ましてや略奪などがあれば計画に更なる狂いが生じ、既に不足している可能性すら考えられる。越冬の準備という意味で国の全土を見渡せば、まるで整っていないのが現状だ。
 あちらは軍勢に手ひどい傷を追った以上、一掃するにはまたとないチャンスではある。だが事はそう簡単ではない。分断された帝国全土を冬が覆い始めた今、そして鉄道網が回復しつつある中、帝都へ向けて進撃しながら国土を回復させ、各地の街や村に物資を流通させることのほうが、賊軍にかまけているよりも重要かもしれない。そして帝政派や南部戦線との連携が回復すれば、次の一手として皇帝を狙うことも出来るだろう。それにどのみち、ノーザンキングスとて当面は動けないはずなのだ。こちらの陣営は不凍港を奪還しており、アーカーシュまで居るとなれば、最早勝ち目はない。この戦いで思い知ったことだろう。
 だが『だからこそ』、連中は無理を押し通す可能性がある。
 仮に西進中に背後から襲われては、たまったものではないのも事実だ。
 悩ましい所だが、手をこまねいていては餓死者が増える。

 次に恐るべき情報だ。
 ブランデン=グラードに現れた新皇帝は、予想通りか、あるいはそれ以上か。
 冠位憤怒バルナバス・スティージレッドであった。
 不凍港に現れた魔種が憤怒の属性を帯びていた事からも頷ける結果だ。
「皇帝の命令とかを受けているとか、そういうのじゃないとおもうの」
 申し訳なさそうに述べたのは、ソア(p3p007025)によって原罪の呼び声から解放された帝国軍人のウルだ。
 正体不明の『怒り』によって新皇帝派に利用されていたウルは、あちらの情報も少々得ている。
 不凍港の魔種はおそらく独断行動で、各々の目的を為そうとしているらしい。
「ええ、当局を占拠したのは彼女等で間違いありません」
 そう述べたのは、同じく新皇帝派に嫌々従っていた軍人のエイリークである。
 あの後、ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は人質として捉えられていたエイリークの家族を救出していた。一度は入ったことのある拘置所だ。勝手は分かる。
「次はもう逃がす訳にはいかないね」
 撃退したジェック・アーロン(p3p004755)達は、戦いの中で相手の手の内を相当暴いている。情報というものはいつだって重要であり、それを得た今ならば討伐も可能になっただろう。

 一方で、当面の作戦目標を完遂したアーカーシュも、そろそろ次なる身の振り方を考えねばならない時期が来ていた。もうしばらく北辰連合と作戦行動を共にするか、別の一手を打つか。
「止まないわね、いつもこんなじゃないのに」
 窓から外を見つめるリーヌシュカ(p3n000124)が身震いする。
 ベデクトでも、雪はただ白くしんしんと降り続けていた。

 ――驚くべき急報がもたらされるのは、そんな翌日のことだった。

 ※不凍港ベデクトの解放に成功しました!
 ※物資の流通回復には時間がかかりそうです。
 ※全派閥の生産力が50ダウンしました。
 ※雪が降り続いています……

鉄帝動乱編派閥ギルド

これまでの鉄帝編アドラステイア

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM