PandoraPartyProject
殉教者の森
聖教国ネメシスとゼシュテル鉄帝国を隔てる高き塀。それは、嘗て起こされた領地争いの戦を経て作られた国境線である。
それは聖教国――天義が国土を主張したからに過ぎず、鉄帝側は塀がなくとも天義領内に広がっている『殉教者の森』に阻まれ侵攻には手を焼いたものだ。
密集した木々は遠目から見れば暗黒を思わせる。黒き木々の所為で非常に鬱蒼として見えたその場所は鉄帝国に近く冬の寒々しい空気を感じさせた。
鉄帝国はこの森を『ベーアハルデ・フォレスト』と名付け、自国の物であると声高に宣言していたが天義の『気高く聳え立つ聖塀』の建設により所有権を主張することはなくなった。
そうして領国の領土争いは鎮静化している――筈だった。
鉄帝が天義にとっての不倶戴天の敵『魔種』に牛耳られたという一報に隣国を牛耳る『赦されざる悪』を滅するべきと言う声が各地から聞こえるようになった。
天義とて大罪の被害を受けた事のある国だ。現状にはより慎重な構えであったが『探偵』らから報告が入った。
――天義の聖騎士を名乗る者達が鉄帝国に侵攻している。
有り得ざる報だ。天義はアドラステイア討伐に向けての中層潜入作戦を敢行している。情報を得られたならば一気に上層部まで駆逐せんと準備を整えているのだ。
国内に爆弾を抱えている現状で、他国に出しする訳がない。故、騎士団は偵察を幾度か繰り返す。
偵察として広い森を隊を分断し歩くのは男女二人。一方は『聖剣』を腰に下げた青年。もう一方は明るい金髪の少女だ。
「先輩、先輩、待っ――――おあっ」
躓いた少女、イル・フロッタ(p3n000094)が転げぬように支えたリンツァトルテ・コンフィズリー(p3n000104)は嘆息する。
「足元には気をつけるように」
「う、う、はい……、えへ」
思わずにやけたイルを一瞥してからリンツァトルテは深くため息を吐いた。重要任務でこの地にまで来たというのに、どうにも後輩騎士は浮かれている。
(スティア、サクラ、私は先輩とのふれあいイベントを起こしてしまったぞ――!)
親友とその幼馴染みに心の中で堂々と宣言するイルは『憧れで大好きな先輩(かたおもいのあいて)』をちらちらと見詰めながら白い頬を赤く染めている。
『朴念仁』はそんな彼女に任務を貰って浮かれているのだろう――程度の感想と、彼女の好意を先輩への憧れと認識しているのだが。
「あまり浮かれるな。レオパル様が仰って居たとおり国境沿いは何かが可笑しい」
「……『聖門』が勝手に開かれていると聞きました。先輩、風も生温か――」
くすくす――――
何処からか笑い声が聞こえ、イルがたじろいだ。黒き汚泥、いつの日にか見た奇怪なそれは獣の姿を形取り立ち上がる。
背後から大口を開いた黒き異形が此方を見ていた。其れが何であるのか、イルもリンツァトルテも知りやしない。
剣を構え、リンツァトルテは眼前を睨め付ける。彼女を庇うようにして立っているリンツァトルテは「走れるか」と問う。
「走って戻れ。レオパル様に見たことを全て報告しろ」
「で、でも先輩は」
「……俺は『コンフィズリー』だ。安心しろ」
嘗て迫害された家門。しかし、朽ちた聖剣は輝きを失うことはない。イルは頷いてから慣れない馬に跨がって聖都フォン・ルーベルグへと帰還した。
その最中に聞こえたのは――「『聖剣』の使い手だなんて、ルルちゃんったらァ、ツイてる!」という女の声であった。
「エミリアさ、まッ!」
駆け戻ったイルの声にエミリア・ヴァークライトは驚いたように振り返る。イルを支えていたセナ・アリアライトは「ヴァークライト卿、直ぐに法王の下へ」と鋭い声音で言った。
「セ、セナ先輩。リンツァトルテ先輩が、先輩が」
「大丈夫だ。直ぐに救援を送ろう。お前がリンツァトルテを置き去りにして帰ってくるとは思って居ない。
先に帰って救援を呼べ、と言われたのだろう? ……落ち着きなさい。イル、法王や団長に現況報告の義務がある」
凜とした声音で告げるセナにイルは深く息を吐いてから頷いた。
『法王』シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世(p3n000135)の前には聖騎士団団長のレオパル・ド・ティゲール(p3n000048)を始め、聖騎士団の面々が揃っている。
「一体何事だ」
厳しい声を発するゲツガ・ロウライトにイルはたじろいだ。その背を支えるエミリアとセナに後押しされて少女は震える声音で言う。
「リンツァトルテ・コンフィズリー先輩と、国境沿い警備に参りました。その際、接敵。
先に行なわれた偵察通り『気高く聳え立つ聖塀』は開かれておりました。そして無数の人影が、鉄帝に進軍を。
そ、それから、森の中には『黒い影の兵士』と、奇妙な生き物が……。
その、恐れながら申し上げます。
あの、生き物を私は知っている気がします。スティア――イレギュラーズの友人が『天義を舞台にした練達のシュミレーター』でワールドイーターと呼ばれたそれを見たことがある、と」
震える声音でイルはレオパルへと告げた。馬鹿なことを言っていると叱られたって仕方がない。
「其れを連れていたのは女の子、です。私と同じくらいの年の……それ以上は分かりません」
「寧ろ、其れだけ分かったのならば行なうべきは一つでしょう。ワールドイーターとやらの詳細は分かりませんが駆逐するのみ。
奴らは『天義』を名乗り『鉄帝』を蹂躙せんとしているのでしょう。食い止めねば火種となる」
セナの静かな声音にエミリアは「同様の意見です。隊を構築……いえ、イレギュラーズにも文を飛ばし協力を要請しましょう」と声を張った。
「うむ。レオパル頼めるな」
「承知致しました」
頷くレオパルとすれ違うように「まるで再現ですわぁ」と手を叩いた女の声にフェネスト六世は眉を顰めた。
「あら、思いませんでしたの?」
穏やかに微笑んでいたのは『束縛の聖女』アネモネ=バードケージであった。
「……アネモネ」
「まるで、あの日……そう、『占い師』、ベアトリーチェ・ラ・レーテが暗黒の海にこの国を包んだ刻の再来ですわあ」
――黒き海。生と死の境界さえも曖昧にした、その気配。
其処に居たのは汚泥の兵士であったという。嘗て天義を襲った『冠位強欲』の権能を再現したかのような兵士達。
「今度は、誰の手引きなのでしょう。『それを再現されて』しまえばまたも聖教会に裏切者がいると疑われてしまいますもの。
早々に確認しておかなくてはなりませんわね。純白も穢れれば灰となる。薄汚れた正義のヴェールが破れてしまわぬようにしなくてはなりませんもの」
※鉄帝と天義の国境付近で『何か』が起こっているようです――
※不凍港ベデクト、鉄道網の調査の報告書が届いています――!
※アーベントロート動乱『Paradise Lost』が最終章を迎えています!
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