PandoraPartyProject

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革命を『騙』れ

 ――ほら、モンスターを嗾けてくる彼等なんてこの騒動に乗じた囚人や闘士気触れでしょう。

 ラド・バウ周辺の警戒を行って居たイレギュラーズ達は新皇帝派の特務軍人を名乗る『アラクラン』の総裁『ギュルヴィ』と相対した。
 その時、彼はそう告げて居たのだ。囚人達がモンスターを嗾けてくる、と。
 ギュルヴィの傍では『革命派』に身を寄せ、平等と平和を求めんとする魔種ブリギット・トール・ウォンブラングの姿も存在していたという。
 その言葉通り、新皇帝バルナバスは囚人達に恩赦を与えた、帝政派からは指名手配書が配布される。冬の気配が近く、夏の陽射しさえ冴えた鉄帝は秋を忘れ去ったように凍えるような隙間風が吹き込むこともある。
 ブリギットに言わせれば、冬は全てを攫う真白の恐怖だ。囚人や、魔種である己達よりも恐ろしい、遅効性の毒。
 備えなくてはならない。訪れる冬を生き延びる為に――

「賞金首、ねェ。俺ちゃんはそんな悪い事してないだろ? 精々、宝の鍵になってるジジイの腕を奪ったとかそんなもんだ!
 あの澄ました顔のクソ女が俺から資材を全部巻き上げたんだぜ、余っ程あっちの方が悪人だろ?」
 ぐりんと首を向ける男に手配書を睨め付けていた女は「テメェもクソヤロウだ」と吐き捨てた。
 一方は多額の賞金が掛けられている『脱獄王』ドージェ、もう一方は彼から技術を学び共に収監されていた娘のシャンカである。
 シャンカに言わせれば男が父であって良かったことは狩りの技術だけだ。善悪も倫理観もない時代から非合法なトロフィーハンティングを植付けられた事で収監された娘は父に苛立ちと殺意までも抱いていた。
 だが、バルナバスにより揃ってアイゼンベルグ大刑務所より釈放されることになった二人は越冬のための準備など碌に出来て居らず厭々ながらも今後の相談を行なわねばならなかった。
「一族が心配なのは確かだけど、まあー、今更だろうしな」
「良くもそんな事を言えるな。お前が収監されなければ、一族はまだ繁栄の可能性も!」
「ないない。少数部族なんて、ヴィーザルには山ほど居るしね、こんな騒ぎじゃ皆姿を隠したか死んだよ」
 ひらひらと腕を振ったドージェにシャンカは唇を噛み締めた。
 現在の鉄帝国内で楽観視などは出来まい。何が起っても仕方がなく、爆弾を全身に巻き付けて動き回っているような現状だ。
 少数部族の族長であったドージェも今更、自身等の一族が安全無事に過ごしていることなど期待はしていなかった。しかし、シャンカは父がまともならば一族は皆生き延びられたかも知れないという可能性が頭を過る度にどうしようもない程の殺意が沸き上がるのだ。
「喧嘩してる場合じゃないぜ、シャンカちゃんよ。
 パパは生き延びるために仕事を受けようと思ってさ。あ、手伝ってくれる?」
「パパだ? クソヤロウの事なんだ一度も呼んだことがないだろ」
 酷く苛立ったシャンカに「お客様の前だよ~?」と告げたドージェは眼前に現れた女に微笑みかけた。
 その女の名はブリギット・トール・ウォンブラング。『革命派』に身を寄せるヴィーザルのドルイド、魔種である。
「ご機嫌よう。『脱獄王』とシャンカ嬢。新皇帝派軍人『アラクラン』のギュルヴィをお連れしました」
「やあ、美人だね『ドルイド』。毒に蝕まれた左腕一本か雷神の眸を頂く事は出来ないかい?
 それか君の背後に居る銀の眸の彼も捨てがたい。右目はどうしたんだい? 誰かにプレゼントでも?」
 軽薄に、そして饒舌に。臆することのないドージェの背後でシャンカは身を固くする。脳を掻き混ぜる気色の悪い声と肌を這いずる蛇のような悍ましさ――魔種が『二人』も目の前に居る。
「ええ。少し、置き土産に差し上げたことがありましてね。
 普段は仮面で隠しているのですが『脱獄王』、貴方は賢い。信頼を得るためには素顔を晒さなくてはならないでしょう?」
「勿論だ、ギュルヴィ。俺ちゃんも馬鹿じゃあない。仕事の依頼をするってのに顔を隠してる輩とは取引もできないからなあ」
 ペストマスクを外し、素顔を晒していたギュルヴィは『あの日』から泪のように血潮が流れ続ける何も嵌まらぬ右眼窩を晒しながら頷いた。
 眼窩は唯一無二である星を喪った日から疼き、星を堕とした者達を根絶やしに為よと憤怒の気配を囁きかける。
「それで?」
「大闘技場『ラド・バウ』をご存じですね? ……あの地に無数の襲撃があったのです。そして、これからも襲撃は続くでしょう。その証拠が、ほら」
 ギュルヴィが手にしていた紙にはパルス・パッションの顔写真と共に金額が記載されている。其れが何とは彼も、ドージェも口にはしない。だが、襲撃が行なわれる理由は直ぐにでも察することが出来るものであった。
「ワオ! 怖いな?」
「ええ。とても悍ましいのです。故に、多くの者を救わねばならない『革命派』はラド・バウを襲っている。
 いやあ、『アラクラン』も革命派ですからね。よーく知ってますとも。
 彼等の目的は弱者救済。積極的に介入し、国家を牛耳ることで真なる平等を与える事。金は腐るほどあってもいい。
 北方の地、オースヴィーヴルでさえも、『革命の象徴』アミナの指示で蹂躙されているのですから!」
 恐ろしいとわざとらしい仕草で身を縮めて見せたギュルヴィにドージェは「ふうん」と呟いてから笑った。
「……それで? 『革命派』のお偉いさんは斯う言いたい訳か。
 国を統一し、急ぎ場を整えなくては越冬できぬ者達が飢え死んでしまう! はあ~、そうなる前に、急いで現在の物資でまかなえる程度に口減らしをしなきゃ!
 それか金になる事を真っ先に行なわなくっちゃ! そうで無くては皆を救うことはできないよ~!」
「ええ。司祭アミナはそうお考えです。人は愛により、情により、譲れぬ『何か』の為に剣を取らねばならぬ時もある――とね」
 生き延びるために、犠牲は付き物だ。だが、崇高なる思想だけでは囚人は付いてこない。『その為の仕掛け』まで用意されているのだ。
 冬の餓えを凌ぎ、資金源とするには十分な仕事だ。「じゃあ、見に行ってみますかね」と肩を竦め、『脱獄王』は立ち上がった。
 ギュルヴィの詭弁を信用したわけではない。ただ――そう、ただ、生き延びるためには仕事が必要で、少し『暇だった』だけなのだ。

 ※『大闘技場ラドバウ』に元・囚人達による襲撃(<獄樂凱旋>)が発生しています――!
 ※各派閥にも動きが見られるようです……(<トリグラフ作戦><革命流血>

鉄帝動乱編派閥ギルド

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