PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<総軍鏖殺>脱獄王と紫紺のティアラ<獄樂凱旋>

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「これはこれで、中々……」
 大闘技場ラド・バウ外周を見回るのは訓練を受け『自警団』として機能し始めた避難民達だ。
 彼等と共に見回りに出ていた『壱閃』月原・亮 (p3n000006)は逃げて行く手負いの天衝種達を眺めていた。
 ラド・バウは帝都スチールグラードに存在する。其れ故に、周辺には新皇帝派の領域が広がり油断ならぬ状況が続いている。
 だが、闘士達が多く存在し鉄帝国随一と呼ぶべき派閥としての戦闘力を有したラド・バウは避難民の受け入れや、日常を謳歌する為の継続的な闘技場運営を続けて居る。
 それでも、だ。斯うした混迷の時代であるからこそ内外の敵には目を光らせねばならなかった。
「亮くん、どうだった?」
「皆が確認してた通りに天衝種を引き連れてる奴らは元囚人だったと思う。
 ……帝政派ってか、バイルのじいちゃんが作ってた手配書で見た顔もちらほら」
 新皇帝となったバルナバスが釈放した囚人達。市中に解き放たれた獣は勅令の通りに弱者を狩り、被害を更に拡大していることだろう。
 ラド・バウでも避難民の中にそうしたものが紛れている可能性は注視している。
 そして、周辺警戒を行って居たイレギュラーズがパルス・パッションに齎した報告は『戦闘に不慣れそうな者達が天衝種を引き連れている』という事であった。
「釈放された囚人達は誰かに唆されてるのかな? 天衝種を連れてる時点で、そうだよね」
「……と、思って俺も聞いた。弱そうな奴らなら自警団とか俺とかでもなんとかなると思ってさ」
 亮は頷いた。襲い来る囚人と其れ等を監督するアラクランの兵隊達はこう口にしたらしい。

 ――我らは『革命派』だ。帝都に存在するお前達は革命の邪魔になる。さっさと退去しろ!

「……不穏だね」
「不穏だよなあ。イレギュラーズの皆が言ってたけどさ、『ドルイド』の姉ちゃんとかもこの辺で活動が確認されたんだろ?」
 パルスは頷く。『革命派』を名乗った囚人やアラクランの兵隊達。
 彼等は『司祭アミナ』の指示によって活動していると言うが――
「……どう思う?」
「俺は、疑うべきだと思う。イレギュラーズを仲違いさせる目的かもしれないしさ」
 派閥が別たれた以上、敵がイレギュラーズを潰し合わせる目的で働きかけてくる可能性は存在している。
「それに、何だか嫌な予感がするんだ。さっき、外に出たときにボクに注目する奴らもいた」
「……イレギュラーズを狙う理由がある?」
 パルスと亮は周辺警戒に当たろうと頷き合った。その理由は未だ分からない。
「俺は外周で自警団と警戒してくるよ。パルスはビッツにも伝えといて」
「OK、気をつけてね。亮くん。皆にも宜しく」
 それから、ふと亮は「リリファのやつ、無事かな」と呟いて。

 ――時は遡る。ラド・バウ近郊にて、男が二人、息を潜め『依頼内容』を振り返っていた。
「そんじゃ、ギュルヴィ。行ってくるぜ? 『さっきの話』、本当だろうな」
「ええ。勿論。『手配書』は本物ですよ。ラド・バウならパルス・パッションがいるでしょうし」
「楽しみだな、あの嬢ちゃんかー」
「それに私が『今回』貴方に頼むのは只の窃盗で、今回は様子見でしかないでしょう?
 ラド・バウの避難民が持ち込んだ『紫紺のティアラ』。盗んだ暁には私が買い取りましょう。革命派の『司祭アミナ』、彼女には良く似合いますでしょう?」
 にんまりと笑った男に『脱獄王』ドージェは緩く頷いた。
 脱獄せずとも勝手に恩赦を受け釈放された男は越冬のために革命派を名乗る男から依頼を受ける事に決めた。
 飢えていては生き延びることは出来ず、この状況では襲う相手を見極めることも一苦労だ。さっさと手頃な仕事で安定的に冬を越す用意をしておきたい。
「構いやしないけどさ、『俺ちゃんだけじゃないだろ』? 声かけたの」
「ええ。例えば――」
 ギュルヴィと呼ばれていた男が囁くように『手配書で多額の賞金が掛けられている者』の名を挙げた。
「えー、まじぃ?」
 げんなりとした空気を纏いながらドージェは肩を竦める。
 今回の仕事はあくまでも盗みだ。脱獄王としての技能を生かして、盗みきれずとも帰って来れば良い。
 もしも盗めるならついでに何かをトロフィーとして持ち帰りたいが――アイドル闘士辺りの腕の一本でも良いかもしれない。
 いや、イレギュラーズの目玉なんかでも素晴らしい。その辺りは依頼達成後の目的としよう。
「盗めなくっても文句言うなよ。久しぶりなんだからさ」
「ええ、大丈夫です。後々『あの人』をラド・バウに向かわせる為の視察のようなものですから」
「俺ちゃんを視察に使うなんて大物だなあ」
 揶揄うように笑ってからドージェはひらひらと手を振った。
「それじゃ、行ってきますかね。『目眩まし』もよろしく」

GMコメント

●成功条件
 『紫紺のティアラ』を守り切ること

●フィールド情報『大闘技場ラド・バウ』
 外周には天衝種や囚人の影が見えています。ドージェは襲撃に遭わせてラド・バウ内部にドージェは入り込み、『紫紺のティアラ』と呼ばれる品を奪い取ろうとしています。
 奪えた後にはついでにパルス辺りの腕かイレギュラーズの目でも貰っていきたいそうですが……それは余剰部分ですね。
『紫紺のティアラ』を有している者が誰なのかは現在は不明です。
 ですが、ラド・バウである程度の実力を有する鉄帝国名声が高めのイレギュラーズには情報を提供してくれるでしょう。
 勿論、ドージェも何処にあるか分かりません。動乱の中で天性の勘を使って探し求めているようです

●エネミー
 ・外部の敵『囚人達』
 無数に居ます。天衝種を連れて来た軽微な犯罪の戦闘慣れしていない囚人達です。
 どうやらこの冬を生き残る為に『革命派』に協力しているようです。詳しいことは知らないかと思われます。

 ・外部の敵『天衝種』
 囚人達が引き連れてきた飼い慣らされている天衝種たち。様々な種類が居ますがそれ程の敵ではなさそうです。
 問題は囚人同様数が多いことでしょう。

 ・外部の敵『アラクランの兵隊達』
 革命派であると名乗る魔種達です。囚人5人につき1人程度が監督として存在しています。
 それ程戦闘を行なうつもりは無さそうです。囚人達が逃げ出さないように監督しているようですね。

 ・『脱獄王』ドージェ
 犯罪者として収容されていた男。恩赦を受けて最近出て来ました。『革命派』を名乗る男に指示されて『紫紺のティアラ』を盗みにきました。
 ハンティングトロフィーとして人間も含め、パーツを奪い取っていく収集癖があります。それ故に非常に強力な存在です、が、今回は余りやる気は無さそうです。
 取りあえず日銭を稼ぐ目的と、現状の鉄帝国を把握するべくやってきたようです。それから『とっておきの仕事』があるようですが……?
 とはいえ、久しぶりの仕事が楽しいのでウキウキしながらラド・バウ内を探索している様子です。
 紫紺のティアラを奪取した後にはついでにラド・バウアイドル闘士のパルス辺りの腕でも持って帰りたいようです。ついでにイレギュラーズの目玉もいいかな?

●アイテム『紫紺のティアラ』
 とある避難民が持ち込んだ品。その名の通り宝玉の美しいティアラです。
 幻想から鉄帝国へと駆け落ちをしたカップルが持ち込んでものであり、現在の所有者はその嫡男です。
 幻想貴族であった母親は南部戦線で兵士としてやってきた鉄帝国の男と恋に落ち、結婚式間近でそのティアラだけを持って駆け落ちしたという素敵な思い出が込められています。
 因みに結構な値段で売れます。ギュルヴィがこれを狙えと指示したのはドージェに取りあえずラド・バウ内部の状況を報告させる方便なのかもしれませんね……?

●NPC
 ・月原 亮と避難民による自警団
 外部の敵を対応しています。其れなりに訓練を受けています。ただし、統率はまだまだバラバラです。
 外部から訪れる敵を止めておくためにはイレギュラーズが2-3名程度統率や指示、援護に回った方が良いかもしれませんね。

 ・パルス・パッション
 皆さんと一緒にドージェよりさきに紫紺のティアラを確保しておきたいと考えているアイドル闘士。
 紫紺のティアラは避難民の大切な思い出だもの。喪わないようにしないと!
 ……ですが、どうやら目を付けられているようですね……?

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <総軍鏖殺>脱獄王と紫紺のティアラ<獄樂凱旋>完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月02日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

リプレイ


 多数の避難民を受け入れ、『中立』を保っている大闘技場ラド・バウで『ラド・バウB級闘士』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)はこてりと首を傾げる。
「最近は他派閥のふりをして対立を煽る動きとかもあったりして大変でしてー。
 でも! 『襲ってくる奴は擬態してるだけの新皇帝派』! これだけ覚えていれば大丈夫でして!
 勿論襲われる前に対処出来ればそれに越したことは無いのですけども……」
「襲ってくるよなあ。それに、俺達がそう認識していても避難民達がそう思ってくれるかは……」
 どうしたことか革命派を名乗っている襲撃者を多数確認したのだと『壱閃』月原・亮 (p3n000006)はげんなりした様子で呟いた。
 ルシアはこくりと頷く。ラド・バウは鉄帝国の象徴的立場だ。故に、独立した派閥としての立場を確立できているが――それはあくまでも『闘士が強いから』に過ぎない。闘士達はイレギュラーズではなく、統率された兵士でもないのだ。
「わざわざ革命派を名乗ってくるなんて……舐めてんのかしら?」
 首を捻って頭を悩ませた『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)はがりがりと黒い髪を掻いた。
 考え倦ねても結論は出てこない。ルシアの言う通りイレギュラーズは『革命派』は敵でないと認識しているのだ。それでも襲撃犯は声高にクラースナヤ・ズヴェズダーであると言う。
「アタシたちイレギュラーズにだって革命派に参加してる人は居るのに……。
 もしかして、狙いはアタシたちじゃなくて派閥の人達……? あーっ! わっかんないなぁ、もう!
 とりあえず目の前のことを何とかするしかないか! やってやるわよ、まったく!」
 誰かをとっ捕まえて問い質してやれば良いかと京は唇を尖らせた。今回の事件ならば『手配書の罪人』にでも直接事情を聞きたい位である。
「ま、外が固けりゃ内側からってのは定石よね。
 遅かれ早かれこんなことが起きる気はしてましたけど……実際起きると、なんとも厄介ねぇ」
 流石はラド・バウ。護りを固めているならば内部を引っかき回すべきだと相手も良く分かっているのだ。『風と共に』ゼファー(p3p007625)はやれやれと肩を竦める。
 ゼファーへと頷いたのは『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)。武具の確認を行ない、黄金色の魔導式に巡る魔力を感じ取る。
「囚人たちが革命派を名乗る……なにやらきな臭いがそれを探るのは後回しだ。
 まずはこ奴らをラドバウへ入れないことが先決。避難所として動いている以上それを脅かすわけにはいかない。
 ……ティアラの捜索を手伝えないのは忍びないが物探しよりも斬った張ったの方が得意なものでな」
 ティアラ――それはとある幻想貴族の令嬢が敵奥の兵士と恋に落ち、この国へと立場も何もかもをかなぐり捨てて逃げ果せた際に持ち込んだ者なのだという。
 愛の逸話、恋の逸話。まるで寓話のようで、物語めいたラブロマンスに『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は「素敵な品なのですね」と未だ見ぬ紫紺のティアラに思いを馳せる。紫紺と言うからにはアメジストを飾った美しい品なのだろう。
「其れに込められた願いが、想いがあるのなら……猶更、盗人の手に渡すわけにはいきませんね」
「盗人、そうだよね……鉄帝国の『恩赦』で解放された元『脱獄王』……」
 手配書を一瞥する『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は懸賞金額の記載と共に何故か朗らかに笑ってピースサインをする『ドージェ』という男のモンタージュ写真を眺めていた。その犯罪歴は違法なトロフィーハンティングであるそうだ。
「ドージェさんとんだ収集癖だね……? ワタシもコレクター気質だけど……迷惑かけるのは駄目ゼッタイ!」
 それに、と口インしてからフラーゴラが視線をやったのは『アイドル闘士』パルス・パッション (p3n000070)その人である。
「パッ、パルスちゃん、えっと、紫紺のティアラっていうのが狙われてるんだよね?」
 ついつい声が上擦ったのは憧れの人との活動であるからだ。『ラド・バウB級闘士』炎堂 焔(p3p004727)にパルスは頷いた。
「大切な思い出のつまったものを狙うなんて! 絶対にそんなことはさせないよ!」
「ボクも頑張るよ! 絶対奪わせないで行こうね!」
 えいえいおーと拳を振り上げた二人にフラーゴラも「そうだね……!」と拳を振り上げた。
「それにしても素敵な逸話のティアラ……! 駆け落ちいいなー。がんばろ……おー……!」


「紫紺のティアラの確保に向かってる皆の事も気になるけど、こっちはこっちで襲い掛かってくる囚人達や天衝種達の相手をしないといけないんだもん。気合を入れて頑張らなきゃっ!」
 こちらも『えいえいおー』と拳を振り上げた『竜交』笹木 花丸(p3p008689)。外部で京とブレンダと共に亮や自警団と協力して外部より襲い来る者達を喰い止める役目を担っているのである。
「京さんにブレンダさんに花丸さん? え、『さいつよ』なんじゃ?」
「良いこと言うわね。中の邪魔をさせないように頑張りましょうよ。――さ、押し入ろうってんなら怪我するよ!」
 拳を固め、自慢の生足を振り上げるように構えを作る。京の黒曜の眸がぎらりと戦意を帯びた。
 自身に防衛は似合わない。戦闘スタイルは兎に角攻めの一手である。京が前線へと立ち、イレギュラーズの指南を受けた自警団の指揮を引き受ける。
 褒められた亮は自身の愛刀である月閃の鯉口を切った。前線に立つ二人の背を眺めてから自警団達はごくりと唾を飲み込む。やけに喉が渇いて感じられたのは緊張によるものだろう。
「心配するな、私たちがいる。私たちが引きつけた敵を攻撃してくれればそれでいい」
 ラド・バウでも名の知られるイレギュラーズは強い光である。ブレンダの声音に自警団の男達は「足手纏いかも知れないが……」と震える声で呟いた。
「大丈夫。今回は花丸ちゃん達も一緒に戦うよっ! 絶対失敗何てしないからね!」
 周囲から聞こえる獣の吐息。嘶き。足音。其れ等全てを感じ取りながら花丸はすう、と息を吐いた。何時だって、導く為の力は手にしてきた。
 隘路に膝をつくことなく笹木 花丸は暗闇に輝く一等星のように希望を語る。花丸の肩を叩いてからブレンダが「さあ、行こう」と声を上げた。
 掲げられた炎の剱、続き嵐が吹き荒れるようにもう一対の剣へと纏わり付いた。
 姿を現した巨大な熊を引き寄せる花丸に堰を切るように飛び出した蝙蝠の群れを相手取るブレンダ。二人に群がった天衝種の対応は自警団に任せば良い。
 京が狙うのはその奥。踏み込んだ脚が地へとめり込んだ。軟らかな土から飛び上がりからだが宙を踊る。手を地へと着け身を持ち上げた儘、炎熱を独楽のように振り撒いて威嚇するのは天衝種を連れて遣ってきた者達だ。
「ひっ――!」
「さっさと逃げ帰った方が良いんじゃない? アタシってば手加減が苦手だから……燃え尽きちゃっても知らないわよ?」
 派手に動いて『ビビらせろ』。それを目的に掲げていた京に「ウチらは革命派だぞ!」と雀斑の娘が叫んだ。対した犯罪など犯していないだろう女はコンバットナイフを振り翳し――だが、京がナイフを蹴り飛ばす。
「ヒッ」
「……革命なぞ知ったことか勝手にやっていろ。ただしここにいる人たちの平和を脅かすようなら容赦はしない!」
 剣の切っ先を向けブレンダが堂々と叫んだ。自警団を支えるのは戦乙女の猛き一声。
 殲滅を目指すのではない。あくまでも防衛を意識した戦い振りに自警団達が続く。戦いに不慣れな少年は「すごい」とブレンダの戦う様を眺めていた。
 その視界の先にはたった今、ラドバウまでやって来たのであろう荷物を運ぶ避難民の少女が立っている。
「ッ――」
「早く内部に避難して!」
 花丸の呼びかけに頷いた少女は慌てた様に逃げ果せて行く。ブレンダや京の統率に合せ、花丸は象徴のように戦っていた。
(アラクランの兵隊……かな? こっちを見ているし、きっと呼び声の危険だってある。
 さっきの避難民の子もそうだけれど、花丸ちゃんたちは『誰が味方なのか』を判別しなくちゃならないんだ――)
 アラクラン。新皇帝派の軍人。だが、それは『革命派の軍事的協力者』であるそうだ。善悪を切り離すことの難しさを感じながら花丸は内部を探索する仲間達のことを思い浮かべた。


 ――何だか嫌な予感がするんだ。さっき、外に出たときにボクに注目する奴らもいた。

 パルスのその言葉に焔は引っかかりを感じていた。ファンに注目され『慣れている』筈のパルスがそうした不安を述べるのだ。
「……ねえ、パルスちゃん。狙いは紫紺のティアラだけってわけじゃないかも。出来るだけ離れないでね」
「簡単にやられないよ。でも、有り難うね。焔ちゃん」
 ぎゅうと手を握ったパルスの指先が僅かに震えている事に焔は気付く。気丈に振る舞いながらも、彼女は僅かな不安を感じているのだろう。
 ファミリアーを帯同させ、手分けをしながらドージェとティアラを捜索する一行は『紫紺のティアラ』を見たことはないかと避難民達にも声を掛けていた。
「それにしても……紫紺のティアラ、でして? それに纏わるお話は何だかちょっと素敵だったのですよー!」
 きっと、その証を持ち出して大切にしているのだろうとルシアは頬を緩める。頬を朱色に褒めて恋に恋するように笑みを滲ませる。
「あっ! 今はそんな場合じゃなかったのですよ!
 えーっと、もしよかったら誰が、何処で持ってるかを教えてほしいのでして。知らないです?」
 鉄帝国でも、ラド・バウでも其れなりに名の売れる『魔砲少女』だ。その圧倒的殲滅威力はファンも付いていることだろう。
「こんな場所で、相当な金目なものですもの。
 見せびらかしてなくたって、それなりに目立つものな筈だわ。後生大事にしているものなら、猶更ね」
 何処かで目撃情報もあるでしょうに、とゼファーはあまり目立ちたくはないのだけれどと肩を竦めた。ルシアのように「信じて欲しいのでしてー!」と微笑み情報を集めることが現時点では手っ取り早いか。
「はいはい。サインは後でね。代わりに投げキッスでも如何? 手っ取り早いし。でも坊やには握手してあげましょうね」
「ええ」
 幼い少年が背伸びをしてぴょんぴょんと足元で跳ねている。その様子が可愛らしくてパルスは「ゼファーちゃんって罪だねえ」ところころと笑った。

 元は幻想の貴族令嬢。敵国の兵士と恋に落ちて、遙々鉄帝国に逃げ果せ、子供をもうけた。ならば、ある程度はティアラを所有する他に特徴がある可能性がある。存外に身なりが良いか、立ち居振る舞いが特徴的であるなど何らかの『特徴』だけでも大いに役立つヒントであるとアッシュは考えていた。
 話を聞かせて欲しいのだと声を掛けるアッシュに「ひい」と怯え竦んだ青年達は外の様子がおかしいのだと首を振るばかりだ。
「……大丈夫、イレギュラーズがいる。慌てても何も得はないからね……落ち着いて避難を」
 フラーゴラは避難民を宥めながら探し続ける。アッシュが亮に預けたファミリアーは外と内を繋ぐ重要な役割を有している。
 聞き込みを行ないながらも全員が連携を早期的にドージェを『撃退』することが求められるだろう。
「そういえば、やけに仕草が綺麗な女の子がいたなあ」
 話題に上がった少女を探してアッシュとフラーゴラは闘技場の端へと向かう。シートを引いて座っていた少女は確かに所作が穏やかで一つ一つが洗練されて感じられる。
「こんにちは。……申し訳ないのですが『紫紺のティアラ』をご存じ有りませんか?」
 問い掛けるアッシュに少女はぱちりと瞬いてから「どうしてですか」と問うた。アメジストを思わせる眸が印象的な少女だ。
 焔とパルス、ゼファーは合流しティアラが危険である事を告げた。
「ロクでもないやつが何を企んでるんだか分かんないですからね?」と肩を竦めるゼファーに少女は「返して貰えますか」と不安げに問い掛ける。
 麻布に包まれていたティアラの宝石は少女の瞳に良く似ている。約束しましょうと指切りをしたフラーゴラは視線を感じ振り返った。
「イレギュラーズだっけか。俺ちゃんより先とは厳しー仕事になりそうだなあ。
 あ、けどアイドルも一緒か。それに……うんうん。そこの銀髪のイイ女が一番か。次は金髪のお嬢ちゃんに、赤髪のお嬢ちゃんかあ」
 意味不明な言葉を繰り返してから、男はにんまりと笑って手を振った。まるで、旧友にするような仕草に焔はぐ、と気を呑んだ。


「冬を越したいだけならラドバウへ来ればいい。食べ物と屋根のある寝床くらいは用意できる」
「そうね! もし態度を改める気があるなら、避難民としてここに来なさい! ただし、あなた達次第よ、受け入れて貰えるかどうかはね!」
 京とブレンダは傷付いて逃げ果せる天衝種を連れた囚人達に声を掛けた。此方を確認している魔種はラド・バウの出方を伺い続けて居るのだろう。
 ファミリアーを通じてティアラが確保されたことを知り花丸はほっと一息吐く。
 きっと、この地は『新皇帝派』にとって最も邪魔な存在なのだ。それを感じ取りながら、今は彼等が何事も亡く引いてくれることだけを願っていた。

「何のことだか分からないけれど――手癖の悪いコソ泥……とは格が違うみたいね? 出来れば手土産なしでお帰り願いたいところよ!」
 ひとふりの槍、手に馴染んだ其れを構えてからゼファーが手配書の男ドージェを睨め付けた。外ではブレンダや京、花丸達による防衛がまだ続いている事だろう。
 ドージェを引き留めるようにゼファーが声を掛ける。ティアラを有する少女を保護する為にルシアは小さな通用口で彼女に待っていて欲しいと告げた。
「ティアラは大事なものでしてー。それに窃盗犯(わるもの)に渡す者はないのですよー!」
 全力で弾き飛ばすだけ。睨め付けるルシアにドージェは「いい目だなあ。くれよ」と冗談めかして笑う。
 不愉快そうに柳眉を顰め、蝶々で弓を象ったアッシュは嘆息する。人のパーツをトロフィーとする男はティアラが手に入れられないので在れば『パーツ』だけでも求めたか。
「生憎、残りの目まで渡すわけにはいきませんので、今日はどうぞ、お引き取り願いましょう」
「アトさんが綺麗って言ってくれた目はあげないよ!」
 キッ、と睨み付けるフラーゴラはドージェと自身を遮るように盾を構える。
 攪乱させることがフラーゴラの目的だった。滑り込んだフラーゴラは「今だよ! そこ!」と声を上げる。
 その身を挺してでもラド・バウの避難民達は護ってみせると手を伸ばす彼女に頷いてルシアは「逆に腕の一本、置いていくのでしてー!」と叫んだ。
 強大な魔力が周囲へと広がって行く。眩いその色彩に呑まれんとドージェが「おっとぉ」と奇妙な動きでずるりとずれた。
 関節の存在など感じさせない異様な動きそのもの。パルスが「おああ」と聞いたことのない声を漏した。
「アイドルらしくないぜ? パルスちゃん」
「キミ、人間を止めて蛸を目指してるならボクが海洋王国のお友達を紹介するよ。勿論、その前にボクが相手してあげる」
 焔はパルスを護るように立っている。それでも、護られてばかりは嫌だとパルスは吠えた。普段の可愛らしいアイドルらしさは鳴りを潜め、今や闘士としての決意が滲んでいる。
「さて、貴方。誰の差し金で此処まで来た? S級闘士と鉢合わせるリスクまで背負って来たからには、其れなりの得があってのことでしょう?」
 これ以上戦っても『6vs1』では分が悪いだろうとゼファーは囁いた。花丸、京、ブレンダとて外部である程度の迎撃を終え、何事か有れば此方に合流する準備は出来ているはずだ。
「良い仕事が入ってさあ。あ、知らない?」
 ドージェはにんまりと笑ってから懐にしまっていた紙を投げた。パルスのモンタージュ写真と共に金額が掲載されている。パルスだけではない。ウォロクやゲルツ、コンバルグ、リーヌシュカにアンドリューの右大胸筋。一部巫山戯た内容も混ぜられていたがそれらは全てに懸賞金が付けられている。
「ラド・バウ闘士に懸賞金が?」
「そう。って事は? 分かるだろ、『ゼファーちゃん』」
 ドージェに名を呼ばれてゼファーがびくりと体を揺らした。「『ルシアちゃん』に『焔ちゃん』もさあ」とドージェが指差し名前を呼ぶ。
「……ドージェさん、どういう事……?」
「外の『花丸ちゃん』も『ブレンダちゃん』も中々イイ値段だった。脚の綺麗なねーちゃんも、勿論、お嬢ちゃん達も高値になる可能性はあるよな」
 ドージェが握りしめていた紙切れを一枚投げる。拾い上げてからアッシュとフラーゴラは小さく声を漏した。
 イレギュラーズに賭けられた懸賞金――それは、この国で活動してきた者達ほど高値である。
 ドージェは其れ等の懸賞金を目的にこの地に潜入してきたのか。
「まあ、内部は知れたから、今度は『友達連れて』くるぜ。じゃーな、お嬢ちゃん達」
 流石は脱獄王か。ルシアの放った魔砲を逃れるようにして男は逃げ果せる。残された情報を手にゼファーは「焦臭くなって来たわね」と肩を竦めた。

成否

成功

MVP

アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 懸賞金を掛けられているのは囚人だけではないようです。お金稼いで冬を暖かく越えたいぜ! 狩らなきゃ!

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