PandoraPartyProject
灰薔薇の守護者
「解せねェ」
竜種の襲来を聞きつけて先陣を切ろうとした『凶』は『レナヴィスカ』による制止でアンテローゼ大聖堂に留まることとなった。
獣種で構成された傭兵団。ラサでも手練れではあるが砂漠の幻想種達に言わせれば『目が覚めた幻想種にとっては刺激が強い』らしい。
「顔が怖いから」
端的にハウザー・ヤークが『ファルカウに向かえない理由』を告げたイヴ・ファルベは周辺に土塊を漂わせて居た。
その姿はファルベライズ遺跡の大精霊『ファルベリヒト』そのもの。
彼女が反転に至ったわけでも大精霊の権能を手にしたわけでもない――少しばかり『おかあさん』の力を借りたに過ぎないようだ。
「顔が怖くなくて傭兵団が出来るかよ」
「窃盗団向いてそう」
「そういう事を聞いてンじゃねェ」
「人攫いとか向いてそう」
「イヴ!」
くすくすと笑うイヴと苛立ったように叫ぶハウザーの様子を眺めていたイルナス・フィンナは嘆息した。
和やかな様子ではあるが前線から一歩下がった『凶』『レナヴィスカ』そして、『精霊ファルベリヒトのJb(心臓)』は重要な使命を任されているのである。
「良いな、ディルクの野郎はよ。
因縁の相手だか知らねェが、意気揚々と竜種狩りだ。俺達ァどうだ? やってるのは『火事場泥棒』の相手だってンだからよ」
「仕方ありませんでしょう。只でさえ、竜種の気配は危険そのもの。
イレギュラーズは何人居たって構わないと言った様相なのです。奇跡を手繰り寄せる『可能性』達の方が我々よりずっと、かの影を斥ける可能性があるのですから」
肩を竦めるイルナスに「かァーー」とハウザーは叫んだ。
『赤犬』は因縁ある竜種の相手だとラサで名を轟かせるイレギュラーズ達と狩りに出掛けていった。
対して、後方待機を命じられる『凶』『レナヴィスカ』(と、使命ならばと意気揚々のイヴ)はアンテローゼ大聖堂の守護の任に就いたのだ。
アンテローゼ大聖堂は茨咎の呪いを払う為に必要不可欠であった魔法道具『タレイアの心臓』を起動させている。
それも『灰の霊樹』による木々とのネットワークリンクを駆使して森全域に張り巡らせているのだ。
故に司教フランツェル達はアンテローゼ大聖堂から動くことが出来ない。それは同様に『襲われた時に逃げ隠れが出来ない』とも言えるのだ。
「我々は此処でアンテローゼ大聖堂を守り抜かねばなりません。
重要な使命ですよ。此処を落とせば拠点が一つ減り、呪いが復活するんですから」
「そう。重要。ハウザー、重要。大切って意味」
「重要くらい分かる」
「本当? ハウザー、重要なのに、いやだって言う。
素直になって。大切って事、分からなかっただけでしょう?」
「分かってる」
相変わらずの問答だとイルナスはイヴとハウザーを眺めやってから肩を竦めた。
「……我々が軽口を叩いて居られる程に、戦況が平穏であれば良いのですが……」
嘆息したイルナスはふと、ファルカウを見据えてからゆっくりとハウザーへと目配せをした。
「獲物か――良いな。狩りの時間だ。
俺は機嫌が悪くてよォ……大物はアイツらに譲ってンだ。暴れさせろよ、くそ野郎共!」
「……ハウザー、顔怖い」
イヴのつぶやきに答えぬ儘、ハウザーは『火事場泥棒』達を狩る為に走り出した。
後方はラサに任せ、前へ進めとでも告げるかのように――
※決戦が始まろうとしています――!!
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