PandoraPartyProject
炎は述懐す
――さて、どう出るかのう。
男――炎の嘆き、シェームは、今相対する無数の英雄たちを見やりながら、胸中でそう述懐する。
自分が目覚めたという事は、すなわち深緑の危機であるのだ。クェイスの奴もそうだが、よりファルカウに近い『嘆き』が発生するのは、過去の事例を見てもほぼ前例のなきこと。
自分が原初の嘆き、等とこそばゆい伝説で語られていたのには笑ったが、そう、自分の存在が忘れられたおとぎ話になる程度には、深緑は『致命的な』ダメージを受けてこなかったと考えれば、それは良い。
が、今は違う。あの恐ろしき冠位ども、そして竜種どもは、まるで己が領地のごとく、深緑の地を闊歩しているではないか。
それを許した今代の幻想種たちを、不甲斐ないと嗤うつもりは一切ない。あれはもはや、どうしようもない災害であった。炎の嘆きと呼ばれた自身が、仕方があるまい、と諦観の想いをわずかにににじませるほどに。
冠位は、強い。それこそ、幾千の勇者を束ねて、それでも勝てるかどうかは分の悪い賭けとなる程度には。あれは、我々とは違う次元の怪物なのだ。竜種と同様に。
自分には、二つの道があった。冠位めに屈服し、深緑を閉ざすか。或いは、徹底的に抗戦するかだ。後者は論外である。現状において、自分は深緑の民を人質に取られているも同義だった。己が全力で戦ったのならば、眠りの手に堕ちた幻想種たちに甚大な被害が齎されるだろうことは明白だ。
だが同時に、冠位、カロンが『眠りたい』だけである事は、前者を選ぶに充分すぎるメリットであった。少なくとも現在の状況下において、深緑の民の安全はある意味で確保されていたのだ。同時に、深緑の民の『命』の身を第一に考えた時に――この冠位を越えるほどの災害が、世界を滅ぼそうとしたときに、少なくともその時までは、深緑の民の『命』は守られる。
命は、守られる。だが、それは幻想種たちの尊厳を奪う行為でもあった。
――結局、儂には現状を打破する力はないんじゃ。かつて生まれた時もそうじゃ。いつだって、希望を見せたのは、世界を切り開いたのは、ヒトから生まれた勇者たち――
その勇者たちが。今目の前にいる。自分の布いた、様々な試練を乗り越えた者たち。同時に深緑を襲った、多くの敵に打ち勝ってきた者たち。はるか遠い異国の地で、竜種を撃退した者達。
彼らの力を以てしても、そのままでは冠位には勝てないかもしれない。この上で、さらなる奇跡を望まなければ、カロンは倒せまい。
それでも。それでも、彼らに、自分が期待してしまうのは――。
ああ、やはり。
最後まであきらめず戦う、人間のきらめきを愛しているが故に。
ザビーネ=サビアボロスと名乗った竜種は言った。
「滅びが確定してるのです。苦痛の生が確定しているのです。何故その苦しみに無益な抵抗をするのかが理解できないのです」
そう首をかしげた。
「私の毒で無痛の無苦の死を迎えた方が、安らかな終わりを迎えられるでしょう。
努力は報われず、神は微笑まず、無為の苦しみが待ち受けているのなら、死は救いでしょう」
そう言った。
――さて、どうなるじゃろうな。
シェームは胸中で呟く。
果たして、抗い、戦う事が正しかったのか。彼らに思いを託すことが、正しかったのか。
それとも、彼の傲慢な竜種が語る様に、すべてを諦観し、戦いを放棄することが正しかったのか。
この戦いで、その答えが出せる。
そして――シェームに、ザビーネ=サビアボロスに相対する者たちの瞳に、諦観の二文字は、決して浮かんではいない。
「試そうぞ、勇者 よ」
シェームは言った。
――お前達が、この世界を背負えるか否かを。
理不尽な終わりに、抗える資格と覚悟があるのかを。
いま、この場で試そう――。
※決戦の時が、訪れます!
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