PandoraPartyProject

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8月の雪

「っしゃおらぁ! っしゃ! おっしゃーっ!」
 リズミカルなスキップに、大理石が軽快な音を立てている。
 魔種タータリクスはときおり両手を伸びやかに広げ、さながらバレエでも舞うような――けれどてんでなっていない――仕草で広間へと姿を現した。

 ここはアルティオ=エルムに眠っていた大迷宮の向こうにあった空間――妖精郷アルヴィオン
 ご機嫌なタータリクスが踊っているのは、妖精城アヴァルケインである。
 彼等魔種達の蹂躙により、妖精郷は危機的状況に陥っていた。
 そこでローレットのイレギュラーズは魔種の野望を挫かんが為に妖精郷へと踏み込み、激戦の末に占領されたエウィンの町を開放し、囚われていた妖精女王ファレノプシスの救出に成功したのだ。
 魔種達はこの妖精城アヴァルケインに撤退し、散発的な攻撃を仕掛けながら様子を伺っていた。
 またイレギュラーズが妖精城への進撃準備を整えきる前に、成さねばならないこともあった。
 女王の身柄を狙うタータリクスは戦力の増強を、妖精郷の秘宝を狙うブルーベルはその捜索を、魔種の協力者であるクオン=フユツキもまた、別の秘宝を狙っていたのだ。

 これは丁度ブルーベルクオンが出払っている時の出来事であった。
「出来たよ出来た! ビィー(B)ちゃん! あれ、ビーイーちゃん! 居ないのかな」
 タータリクスはあたりを見渡すと、両手に息を吐きかけてしきりに擦る。
「しっかし寒っいなあ。ここって常春じゃなかったっけ? ねえ」
「ビェーーッキシ!」
 くしゃみで答えたのは一条 夢心地(p3p008344)――であろう筈がない。
 だがそれは、あまりにもよく似ているものだった。
 タータリクスはイレギュラーズを模した怪物『アルベド』を製造している。妖精の生命を燃やして可動するおぞましい代物だ。夢心地を模したアルベドもまた、先のエウィン攻防戦に出現していた
 いずれにしても、まるで色彩と共に大切なものが抜け落ちたかのような印象を与えていたのだが、タータリクスの背後に控えている『それ』は、従来のアルベドとは一線を画した存在なのであろう。
 キトリニタス『ユメゴコチ』から最初の実戦データを得ることが出来たのは、つい先程の事。
 結果は――上々だ!
 そんな訳で得意満面のタータリクスは、仲間達を探して朗報を分かち合いたいと考えたのであったが。

「あっれえ、みんなどうしたんだろ。居ないなあ」
「ビェッキシ!」
「おーい」
「ビェキシ! ビェキシ!」
「駄目だこりゃ!」
 肩をすくめたタータリクスが首を振ると、凍てついた窓ガラスが一斉に砕け散る。
 辺りには突如として冷気が吹き込んできた。
「うっわ、なになにこれはー」
 吹雪に打たれながらしばらく思案したタータリクスは、ふと手のひらを拳で打つ。
「あー。なるほど、なるほど! そっかそっかー!」
 ブルーベルとクオンが狙っている秘宝とは何か。
 それは太古の昔に封印された強大な『冬の王』そして、『それを封印していた力』の二種であった。
 どちらもイレギュラーズによる妨害が予測されたが、どうやら上手くいったらしい。
 この吹雪は、常春の国に『冬が目覚めた』という事だろう。
 秘宝を持ち去ったブルーベルとクオンは目的を達成したのだ。
 事前の約束では、ここでお別れということになる。
 一方で、タータリクスの『妖精女王と結ばれる』というおぞましい目的は、未達成だ。
 エウィン攻防戦では、幽閉した妖精女王をイレギュラーズが奪還してしまった。
 そのうえイレギュラーズがあれこれ小賢しく動いているらしき様子があること、更には優雅に戦勝会など開いたという情報に、タータリクスは幾度も激昂した。
 女王がいったいどんなひどい目にあっているのか、心配だ!
 とにかく女王を取り戻さねばならない。なぜならば『運命の人』だから!
「あとは……あの人はどうするかな。人って言うのも変な話だけど」
 タータリクスが思い描いたのは、同じく妖精郷に訪れた“忘却の母”と云う魔種であった。

 ――丁度その頃、アヴァル=ケインの周辺に足を踏み入れた“忘却の母”は、突如訪れた冬にも驚きもせず、魔法陣を描いていた。
「私以外にも沢山来ていたみたいだけど、面白いことを始めたのね? まあ――私はあの娘や妖精や、何もかもを焼き尽くせるなら文句はないのだけど」
「貴様、そこで何をしている! イレギュラーズ……ではないな。何者だ?」
 彼女が踊るように描いた魔法陣は、禍々しき炎の陣。
 以前、みかがみの泉で完成途上であったものの改良品であり、冬の妖精郷ですら煌々と炎を立ち上らせる、特級の危険度を誇るものだ。無論、咎め立てた連中――ニグレドがそんなものを知るはずもない。
「知らなくてもかまわないのよ? 貴方達も城に引きこもった彼の手下でしょう? 残念ねえ、とても残念。貴方達は出来損ないのまま、もっと黒くなってしまうのね」
 何を言っているのか、と訝しむ暇はニグレド達にはなかった。次の瞬間、それらは突如飛来した火線によって消し炭にされてしまったのだから。
 出来損ないの黒から、終わりの形の黒に変わっただけのそれらは、嗚呼、酷く無常で無情。
「さあ――」
 燃え上がれ、と彼女は告げた。
 アヴィル=ケインの外郭、城門にほど近い一角は、“忘却の母”によってあべこべな地獄を顕現させた。
 それはしかし、彼女にとっては途中経過でしかなく、より深い地獄への片道切符でしかないことは、誰も知らない――

 そんな様子もつゆ知らず、タータリクスは次の一手を思案していた。
 アルベド達の中で、想定とは違う挙動を見せている物がある。
 ひょっとして、イレギュラーズが何か干渉したのだろうか。
「ま、考えすぎか」
 戦闘で傷ついた個体の修繕は、あらかた終えている。計測上、物理的に正常だ。
 ブルーベルとクオンの助力が得られないのも痛打ではあるが、打つ手が無くなった訳ではない。
 一つは、遂に完成した『キトリニタス』(黄化)である。その先のルベド(赤化)――即ち賢者の石にたどり着くことは出来なかったが、このキトリニタスの能力は従来のアルベドを超越している。
 キトリニタス化出来た個体は少ないが、それでも大きな戦力となるだろう。
 そもそもアルベドにせよ、キトリニタスにせよ、研究の過程から産れた副産物にすぎない。
 今は単に役立ってくれさえすれば良いのだ。
 またこの吹雪は、力を奪われた冬の王の残滓ではあろうが、大自然の暴威そのものである大精霊の力の一端には違いない。
 利用するか、あるいはそうでなくともイレギュラーズがこの妖精郷で妖精達の平穏を取り戻そうと足掻くならば、暴威の打破か封印を成し遂げねばならない。
 そうなれば冬の王の抜け殻はイレギュラーズに牙を剥くだろう。
 友人と恩人は、なんと素晴らしい成果を残してくれたことか!

「ビィー(B)ちゃん、フユツキさん……結婚式には必ず呼ぶからね!」
 雪にまみれたタータリクスは女王奪取の決意を固めて、拳を天に突き上げた。



 連動シナリオ<アイオーンの残夢>の結果により、妖精郷に冬が訪れました……。
 目的を達成したブルーベルクオン=フユツキは姿を消しました……。
 妖精郷エウィンの町では、イレギュラーズ達が決戦の準備を進めています。
 妖精郷アルヴィオンは――滅亡の危機に瀕しています……。

 ※サミットの結果、各国に領土が獲得出来るようになりました!
 キャラクターページの右端の『領地』ボタンより、領地ページに移動出来ます!

 →領地システムマニュアル

これまでの妖精郷アルヴィオン

これまでのカムイグラ

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