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シナリオ詳細

<アイオーンの残夢>Thaleia clavis

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「状況は?」と最初に問いかけたのは、イルス・フォル・リエーネであった。
 深緑は大樹ファルカウの麓に存在するアンテローゼ大聖堂は今や『奇妙なお客様』の来訪が多く見られていた。その留守を預かっていた魔術師は浮かぬ顔をしているフロックスを気遣うように「茶でも入れようか」と立ち上がった。
「あの魔種は……ブルーベルは咎の花(ターリア・フルール)を探していると行っていたのです」
 ぴくり、と。イルスの手が止まる。それは魔種の研究者であるイルスも過去の文献でよく目にした文言だ。妖精卿アルヴィオンには冬の王が眠っている――勇者王はパーティを組み永遠に去らぬ冬を閉ざすが為に妖精卿で戦ったそうだ。その際にパーティメンバーの一人、魔法使いマナセ・セレーナ・ムーンキーが自身の魔力を込めて作り出した宝珠、美しくも術者の命と魔力に応じて花開くとされた『咎の花』。
 その名を、かの魔種は呼んだというのか。イルスは手早く茶を入れると「情報が欲しい」と帰還したイレギュラーズへとそう告げた。
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は簡易的な考察を行っていた。
 一つ、魔種ブルーベルは『冠位魔種』と直接的に関係をしており、その命を受けて動いている。
 二つ、錬金術師タータリクスは魔種ブルーベルの『知人』を師として仰いでいる。
 これは彼女が先のエウィンでの戦いで得た情報だ。あとは断片的なものが並んでいるのだが――
「ブルーベルは怠惰。それで、アリシスさん達の言うとおり『その名前』を呼んだのなら、彼女の主は怠惰の冠位魔種ね」
「ええ。そうでしょう。タータリクスとブルーベルは協力しているようですが、彼女の反応を見ればそれ程、好き合っているようでも無い」
 悩ましげに呟いたアリシスに『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115)はふむ、と小さく呟いた。彼女の膝元でハンカチーフを広げ、小さなマグカップで紅茶を飲むフロックスは「アリシスさん、『リュシアン』って言っていたです」と思い出したように口を開く。
「リュシアン――?」
 ぴくり、と肩を揺らしたイルスはもう一度その言葉を反芻した。イルス・フォル・リエーネは魔種を研究する魔術師であり研究者だ。研究の進みはそれ程芳しくは無いが各地の伝承に精通し、『特異運命座標の弟子』を持ったことでその研究は急激に進んでいるだろう。
「あら、イルス。ご存じなの?」
 ある意味で腐れ縁であるフランツェルのその言葉にイルスは「まあ」と軽く濁す。確信を得られぬ以上、口にするのは憚られると言うことであろうか。
「……見当違いだと申し訳ないけれどね。私の研究の中にリュシアンと名乗る魔種のデータが存在するんだ。
 彼は確か――『色欲』だったか。嘗て、『命を混ぜられた幼なじみ』を元に戻す為に非道な行為を辞さない危険人物で、深緑での活動も確認され居てたことが合ったらしいが……」
 それ以上のデータは無いとイルスは頭を抱えた。魔種達の人間模様も様々だが――現在心配すべきはブルーベルが狙う『咎の花』の事だ。
「フロックスさんは咎の花の場所に関しては何か……」
「今のお話を聞いてて思ったのです。勇者王って人間さんなのです?
 なら、人間さんが入れるのは月夜の塔と、それから妖精城位なのです」
 フロックスの言葉にイルスとフランツェルは顔を見合わせた。妖精城は魔種タータリクスのアトリエとなっているが、先の戦いで使用された月夜の塔よりも妖精城の方がそうした秘宝が存在する確率は高いだろう。
「妖精城、成程……嘗て、物語では妖精女王はその命を『咎の花』に捧げ続け常春を守っていると描かれていたんだ。なら、妖精城のどこかに存在している可能性はあるな」
 イルスの頷きに、口を開き掛けたとき――突如として入った情報は魔種ブルーベルとクオン=フユツキの姿が妖精城で確認されたと言うことであった。


「妖精城に行って『咎の花』を探すのです? で、でも、あの魔種と、よく分からないけど強い人が居るらしいのです!」
 不安げにそう告げるフロックスにフランツェルは「今日は二人でお留守番よ」と彼女を宥める。此度は伝承にも詳しい研究者であるイルスが妖精城で『咎の花』の防衛に当たる事となった。
「師匠、状況を簡単に教えて」
『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の凜とした声が響く。師と呼ぶ事を許したつもりは無いが押し掛け弟子は『押し掛け妖精城』に同行するのだろう。彼女自身もイレギュラーズとして魔種との交戦経験はある。仕方が無いかと言わんばかりに大仰な溜息を吐いてからイルスは口を開いた。
「魔種フロックスとクオン=フユツキと言う男は『勇者王の軌跡』――咎の花を探しているのだろう。
 勿論、咎の花を簡単に奪えるような位置には置いては居ないはずだ。けれど、万が一の自体がある」
 自身らの推測が合っていれば『妖精城のどこか』に其れは存在し、魔種はその眼前に迫っていると事になる。
「咎の花が相手の手に渡ったらどうなるかは分からない。けれど……『防いだ方が良い』というのは経験上だ」


 妖精城──隠された、地下にて。
「遅い」
「先に言ったのは君だがね」
 軽い会話をしながら、ブルーベルとクオンは地下に広がる遺跡を進んでいた。迷う事なき1本道は途中で彼らへ選択肢を与える。
「私は左へ行こう」
「じゃ、右で」
 わざわざ2人でまとまって行く必要も無い。これは協力でありながら争奪戦でもある。こればかりは魔種にも錬金術師にも未来を予測する力はないため、運に身を任せる他ない。
 クオンを見送ったブルーベルはずんずんと曲がりくねる左の道を進む。くそ、と毒吐いたのは大迷宮ヘイムダリオンという『面倒なもの』に酷似していたからだ。タータリクスの『おもちゃ』は現在メンテナンス用に押しつけた。どうせ、『あいつら』は大勢で此方の制圧に向かってくる。ブルーベルの認識の上ではその準備は怠れば後が面倒なことは分かっていた。
「んで……何処だよ。あーあ、あいつと一緒に探して、あいつが手に入れたときに奪えば良かったかな。
 や、めんどくせーわ。戦って勝つか負けるかわかんない相手に手ェ出す? ムリムリ、イレギュラーズって無謀だよねー」
 あはは、と小さく笑った。道はまだ続く。その頃、クオンは『突き当たり』に到着していただろうが、ブルーベルの進む道はまだまだ奥へと繋がっていた。
 一歩進む。がた、と足首が突如として支えを失ったように下がった。
「マナセだか何だか知らないけど、もっと分かりやすい所に置けっての」
 防衛機構が働いたか――
 ブルーベルは溜息を吐いた。そして、自身の背後に立っていた『白』に命じ、背後に現れたモンスターを討伐させる。
「なんだ、こっちが『あたり』か」
 呟いた。目の前には台座が一つ。その上には明らかに力あるアーティファクトアイテムが鎮座している。だが、それも『咎の花』ではない。ブルーベルは其れを確認し『先に眠る存在を封ずるための補助装置』であると認識した。
「ふうん。取り敢えずコレを貰って――」
 手に握り混んだ刹那、防衛機構とはまた別の足音がする。ひとつ、ふたつ、ああ、子持ち野郎じゃない。みっつ、よっつ。
「イレギュラーズも元気だね」
 溜息を吐く。ああ、今日も言わなくちゃいけないのか。ブルーベルはゆっくりと振り返り口を開いた。

「逢いたくなかったよ。イレギュラーズ――」

GMコメント

 あかねです。愁GMとの連動です。妖精郷にも何かが。

●成功条件
 ・アルベド『タイプ・ブルーベル(テスト)』の討伐
 ・タリーア・ペタルの奪取、撤退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。不測の事態が発生する可能性があります。

●諸注意
 本シナリオと『<アイオーンの残夢>Papaver rhoeas』は、どちらか片方しか参加出来ません。
 あらかじめご了承くださいませ。

●魔種ブルーベル
 タータリクス及びクオン=フユツキの協力者の魔種。『主さま』こと怠惰の冠位魔種の為に動いています。
 その目的は勇者王パーティの魔法使いが作った秘宝『咎の花』。冠位魔種に捧げるそうです。
 彼女は非常に強力な魔種です。危険人物です。愛らしい外見をしていますが侮る勿れ。
 魔術による遠距離攻撃を主体としますが、近接もこなせる両面ファイター。『継続戦闘』が面倒なため短期決戦タイプです。火力がとにかくずば抜けて高いことが特徴です。
 タリーア・ペタルを手にしており、取り敢えず手土産程度にしようかと考えています。『タイプ・ブルーベル(テスト)』が倒れた時点で手渡してくれるかもしれませんが、逃がしてくれる保証はありません。背を向けたらその刹那に攻撃と言うのがあり得るタイプです。飽き性なので。

●アルベド『タイプ・ブルーベル(テスト)』
「キッモ、何でそんなの作った訳? しかもテストだし。完成度上げろよ」
 ブルーベルの血を元に造られた未完成アルベド。その力は半減程度ですが普通のモンスターよりは強力です。
 魔術を反映できずに近接型として前線に出ます。此方はブルーベル本人と比べれば、継続戦闘が面倒などと言ってられない程度の火力しか持ち合わせていません。
 ブルーベルは戦うのが面倒であるためにアルベドにすべてを任せ奥に進むことでしょう。アルベドが倒された時点で『面倒であれば』タリーア・フィオーレを渡してくれるかもしれません。

●タリーア・ペタル
 咎の花の欠片。この妖精郷に眠る秘宝の補助具に当たるもののようです。片手で持てるほどの、小さな台座にくっついた珠です。台座には魔術師ムーンキーの銘が刻まれています。
 現在はブルーベルの手の中にあります。具体的にどのようなものであるのかは持ち帰らなければわかりません。

●フィールド
 タリーア・フィオーレの在処に繋がる広間。奥にはまた曲がりくねった道が繋がっているようです。
 広間はそれ程大きくはありません。天井も低く洞窟の休憩地点。レンジ3程度、飛行も不可です。
 戻るべき道はいささか急です。進むべき道は緩やかに曲がりくねっています。
 戻るべき道を辿れば、クオンが進んだもう一方の道との分かれ道まで到達し、そのまま妖精城を出ることができます。
 ※クオン側に往く余裕は今回は無いでしょう。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

 それでは、ご武運を。

  • <アイオーンの残夢>Thaleia clavis完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年08月10日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)
血吸い蜥蜴
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
長月・イナリ(p3p008096)
狐です

リプレイ


 まるで迷路のように。曲がりくねったその道をイレギュラーズ達は二手に分かれ進んだ。一方はクオン=フユツキを、そして――もう一方は魔種ブルーベルを追う。ぐねぐねとくねった道を進みながら『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は何とも救われない『登場人物』ばかりだと嘆息する。関わりを持ったほとんどの者が死亡か反転の何れかに至っているのだ。
 業が深いアカデミア。ジナイーダと呼ばれた少女はホムンクルスと化しイレギュラーズによって討たれた。その『変化』を弟子として共にしたタータリクスは魔種と化し『愛しのファリー』の為に妖精郷へと進軍した。リュシアンと呼ばれた少年の行方は知れないが彼が『タータリクス反転』に関わっているのも確かなことで――そして、魔種ブルーベルはアカデミアの破滅からは逃れられたとは言えるのかも知れないが結局は今はその影の隣に存在する。因果とは絡み合う。連鎖をお越し悍ましくも繋がっていく。
「ブルーベル!」
 その後ろ姿を――そして、真白の体をした彼女の『アルベド』を目にして『妖精の守り手』サイズ(p3p000319)は叫んだ。自身が全力で挑発を行ったならば足を止めるはずであると、声高にその名を呼んだがブルーベルは嘆息するのみだ。
「こんな所までご足労下さって。あーあー、商売繁盛だね、イレギュラーズ。
 で? あの『胡散臭い男』の方にも追っ手はついてるって事? まあ……あたしから言わせりゃ、逢いたくなかったよ。イレギュラーズ」
 鮮やかな空色の髪に荊で雁字搦めにされた翼を持った魔種の少女は落胆したようにそう言った。
「奇遇だな、俺も逢いたくは無かったよ。でもアンタらに秘宝を渡すわけにはいかないんでね。悪いけど俺らは簡単じゃあないぜ」
 じり、と距離を詰めるように一歩踏み出したシラス(p3p004421)へとブルーベルは「何処まで知ってる?」と問いかけた。第一に、彼女の言の通りであるならば彼女は並大抵の魔種ではなく『とびきり強力』な魔種だ。此処で倒せる存在でないことをシラスは――そして『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はよく知っている。
「……咎の花(タリーア・フィオーレ)って言うんでしょう? ブルーベルの言う『秘宝』って」
 アレクシアがその名を告げたときブルーベルは「そこまで知ってんのかよ」と毒吐いた。アレクシアの師であるイルス・フォル・リエーネはそれを奪われてはならぬと告げていた。そして――その発言と同時に同時に――魔種研究家である彼は一つの仮説を立てていた。

 ――怠惰の魔種である『ブルーベル』は非常に気分屋だ。自身が劣勢になれば体勢を立て直すためにも花を一度諦め撤退するだろう――

 それは彼女の性格を鑑みれば簡単だ。彼女もこんな所で死ぬとは思っていない上に、死んで堪るかと実に人間らしい考えを抱いているのだろう。
「じゃあさ、物知りなイルス・フォル・リエーネの弟子っ子。これなーんだ」
 師を知っているのかとアレクシアはブルーベルを見遣る。自身を名指ししたブルーベルの手には『咎の花の欠片(ターリア・ペタル)』が握られているのがよく見えた。
「えーと、略してBちゃんなのは知っているんだけど、本名は……ええっと、忘れてしまったわ。
 間違えてたらごめんなさいね。ブルー……レットちゃん?」
「いやちげーから」
「まぁ、ブルーギル、ブルーベリー、ブルーベル、BBちゃん……どの名前でも良いけれど、その欠片返して貰うわ!」
『狐です』長月・イナリ(p3p008096)の言葉に「話聞いてよ」とブルーベルは拗ねたようにそう言った。彼女の傍に立っていたアルベドは可笑しそうにけらけらと笑うのみだ。未完成品であるという『レプリカ』はどうやらブルーベルの怠惰な性格とは大きく違うようだ。
「ただでさえ凶悪な魔種にそのレプリカであるアルベドまでついてるとなると……大変ね。『面倒』はこっちのセリフだわ」
 警戒を露わにした『緑雷の魔女』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)は警戒露わにする。会話に乗じている内は構いやしないが彼女は『相当な面倒くさがり』だ。「ははぁーん」と声を漏らした後、会話の中で気乗りしなくなった瞬間に不意を打たれる可能性もあるはずだと構えを新たにする。名付けて、『ズボラの勘』だ。
「『Bちゃん』、とお呼びしましょうか。
 妖精郷の春を守り続けた『春』の象徴、その花で貴女の崇める方は何を為す心算なのでしょう」
『妖精譚の記録者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は警戒を解かぬまま静かにそう問いかけた。彼女の言葉に「やっとあたしと会話するヤツがいるじゃん」とブルーベルは可笑しそうにコロコロ笑う。
「主さまもあたしも大層めんどくさがりってヒントとー、まあ、そうだね。
 その宝は春を齎して春を守ったんじゃない。冬を眠らせただけだよ。この意味わかる?」
 リンディスは彼女の言葉を反芻した。春を目的としているのではない――『咎の花』は一つの『過ち』を犯しその名を付けられた。その咎とは、望まぬ眠りであろう、と。
「……冬を眠らせた? なら、その秘宝を奪えば?」
「ま、見てなよ」
 小さく笑った。まるで幼い子供が悪戯するかのような響きを持たせたその台詞に『共にあれ』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)はびしりとブルーベルを指さす。
「何に使うかは知れぬが何に使うか知らぬが、人の物を盗む悪い泥棒は妾がお仕置きしてやるのじゃ」
「その理論好きだけど――人の邪魔するヤツもお仕置き――だよ!」
 ほら、とアルメリアは叫んだ。面倒だからさっさと一掃してくる可能性があると自身の身を守るアルメリア。真っ直ぐに進む『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はブルーベルを先になど進ませぬとその導線に飛び込んだ。進路を塞ぐことを考える彼女に続き、ブルーベルによる突然の『攻撃』よりアレクシアとシラスは仲間を守るように立ち回る。
「未来綴り、展開。――今は貴女を止める、私たちの未来を紡がせてもらいます」
 静かに、戦いを最期まで見届け記録姿目に自身へと勇者の加護を『書き記した』リンディスは戦略眼を以てブルーベルを睨め付ける。
「ッ準備時間くらい与えなさい」
 イナリの避難に対してブルーベルは「ルールなんてないっしょ」とぺろ、と舌を覗かせた。先ずは魔力障壁を、そして破邪の結界を、と二種を自身に纏わんとするイナリのその障壁展開前の攻撃はダイレクトに飛び込んでくる。
「……話を聞かないのはどちらだか」
『血吸い蜥蜴』クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)は静かに肩をすくめる。アルベド・ブルーベルは『テストケース』であるからしてその実、魔種ブルーベルの力の総ても出し切ることは出来ないだろう。魔力の通りが良くなるように細工した刀――その名はない。それ故に無銘だ――を手にし、クリムは小さく笑みを零す。
「妖精という種族は可愛らしくて気に入っていてね。私のお気に入りに手を出したんだ、それなりの報いは受けてもらわないといけない。命か首か心臓は置いていってもらいたいね」
「ふうん」とブルーベルはクリムへと答えた。
「趣味悪いね。あたしは好きか嫌いなら嫌いだわ。妖精。
 ま、あたしの趣味趣向なんざどーでもいいか。そんじゃ、さっさと目的果たさせて貰うからお帰りくださいな」


 ブルーベルを今度こそ斬り伏せる。そうサイズは心に決めていた。それ故に、ブルーベルの名を呼ティタノマキアの閃光が如く――天地揺るがすように全力で一撃を投じる。奇襲が如くの一撃を受け止めて、くるりと身を反転させたブルーベルは「邪魔」と告げた。
「ん? あー、また会ったね」
「ッ――今までの恨みの一撃受けてみろ! お前をこれ以上は進ませない!」
 サイズのその言葉にブルーベルは首を傾いだ。恨まれている人間はどうして恨まれているのかに気付かぬよく言われるが、まさにそれなのだろう。
 自身を見て、そして自身の声と挑発を受ければ足を止めるはずであると、妖精のその身で真っ直ぐに飛び込んだサイズはブルーベルを強制的に縫い止めるようなバッドステータスを所有しているわけではない。大の気分屋で面倒くさがりの彼女は「は?」と苛立ったような声を漏らしただけだ。
 その動きが目的があるからだと言うことに焔は気付いていた。元より彼女は今回はイレギュラーズ相手に長々と戦うつもりはないのだろう。此方が追っ手側であり『堰き止める側』なのだ。
 ブルーベルは焔と、そしてサイズの顔を見比べた後に嘆息したように「あのさあ」と呟いた。
「まず、一つ。あたしは妖精嫌いだけど、妖精郷を滅ぼしたいわけじゃないし、妖精滅ぼしたいわけじゃない」
「なっ――」
「特別あんたに恨みも無けりゃ、他の妖精に害を為したいわけじゃない。
 じゃ、最初は何かって? 『咎の花』があるここに来るために『おっさん』への協力姿勢を見せるために妖精虐めたワケ。
 その次に、邪魔するヤツは面倒だから死んで欲しくってさ……やーっと妖精郷に来たワケね。
『おっさん』――あー、タータリクスね。タータリクスが好きなコトしてるの放置してあたしは目的のために動いてるだけ」
 ここまで分かる? とブルーベルが告げたその言葉にアレクシアとシラスは頷いた。彼女の行動原理はいたってシンプルで分かりやすい。アリシスの推測を並べれば『冠位魔種が欲しいアイテム』の為にタータリクスに協力し妖精を害し、妖精郷の中で探し回っていただけであろう。その中には妖精を害する目的は含まれていないのだろう。そして協力相手たるタータリクスでさえ、妖精郷を滅ぼすつもりなど無く一世一代のラブストーリーを華やかに盛り上げているだけなのだから。
「正直、あたし、あんたの言う『妖精の敵』じゃ無いと思うけど。
 それにさ、咎の花さえくれりゃ、もう興味ないからいじめないけど? 見逃した方があんたにとって得じゃない? 二度とブルーベルって魔種は妖精いじめないし、得じゃん」
「得――っていうけどさ、『咎の花』を奪われた妖精郷はどうなるの?」
 アルメリアとデイジーを庇うアレクシアはブルーベルにとって『面倒』な相手であった。自身の攻撃総てを跳ね返し続ける彼女はずば抜けて高い火力を駆使し焔を、そしてサイズを攻撃し続けている。その最中だ、アレクシアから跳ね返されるダメージにブルーベルは僅かに眉根を寄せたのは。
「知らない」
 そう言った。彼女は『咎の花』を自身が持っていくことでどのような効果を妖精郷に齎すのかには興味を持っていないのだ。主にもってこいと言われたから持って行く――ただ、それだけしか考えていないかのように。
「そんな……! もし、それをブルーベルが持って行ったら妖精郷は危機に陥るかも知れないってコトでしょ!?」
 焔が許せないと叫んだその声に「Bちゃん」と静かに彼女の訂正が入る。神々の加護を、そして回避の直感を使用し魔性の類いとも呼べる影を身に纏った焔はブルーベルの足を縫い止めるように戦意を高め――彼女へと自身を狙うように仕向けていた。
「かもね。でも、それって副次的なモンであんた達の仲間の言う様な『直接的な害』じゃないじゃん。
 現にあの子は『あたしが自分を狙えば自分は死ぬかも知れないけど、妖精は無事だ』ってんだから無事って事になるんじゃないの?」
「屁理屈……!」
 焔にブルーベルは「これだけ饒舌なあたしに感謝してよ」と肩を竦めた。一方で、攻撃手を庇うアレクシアとシラスはブルーベルの攻撃によるダメージが重いことに不安を感じていた。確かに、自身らとアルベドの間でリンディスが立っている内は『どちらにとってもサポートを得れる』状態だ。冷静に事象を記録する彼女の淡々とした声音が羽筆で未来を綴るその癒やし手の記録はどれ程までに支えであるか。
 戦いの教本たる彼女。参謀たる記録者。然し――然し、魔種という存在は三人で抑えてられるものではないのだ。


 一方で――アルベドブルーベルを相手にしていたアリシスはこのアルベドは妙に完成度が低いと感じていた。イレギュラーズのアルベドと比べれば余りに不出来である。
(完成度の低さがそのまま再現度の粗雑さに現れているようですね……。
 完成度を高める事で……素体の情報の再現度も高まる、のだとすると……死者の再現も、理論上は成し得るのか)
 それが禁忌と言われる理由がそこには存在して居る気さえしてアリシスは身震いをした。然し、それをも考えては居られないかとアルベドを相手取ったアリシスは魔石による賦活の魔術で自身をより戦場へ向かわせるように勇気づけた。告死天使は慣れ親しんだかのように周囲に扶養する三日月の銀の宝珠を指先で撫で付ける。
 それは業。世界を侵す背教者の眸は真っ直ぐに白き娘を睨め付ける。静謐溢れる紫苑より漏れ出したは死を告げる鋭き一撃。魂を刈り取る概念を失っても尚、死に至る呪いを刻みつけるように殲滅魔術の使い手はアルベドへと向き直った。
「クスクスクス―――」
「何が可笑しいのです? 『Bちゃん』の白化。
 おそらくはタータリクスが勝手気儘に、しかも、喜んで貰えると思って作り出したのでしょう?」
 白化はブルーベルに言わせれば『おっさんのキモい創作』なのであろうが、粗雑な試作品と言えども魔種の力を再現しようとしていると言うのだから錬金術も馬鹿には出来ない。
 アリシスはブルーベルの足止めを行う焔に蓄積する傷の深さに気付く。あの魔種はそれ程に脅威でアルというのか。
「ふむ、あちらも中々手こずって居るのう。ブルーベリー? なんじゃっけ……。
 まあ良いのじゃ。お主、先を急がず此方を見て折れ。妾の美貌と素晴らしい戦いぶりに惚れて好感度鰻登りになって直ぐにその『欠片』を貢ぎたくなってきたりするはずじゃぞ。ほれほれ? の? の?」
「あたしさー、素直に言うと、そーいう『冗談』だぁーいすき」
 焔の元よりくるりと振り返ったブルーベルの眸がデイジーを捉える。どのような場所でさえ見通すためにと夜の目薬はアルベドを攻撃する手を違えぬようにとアレクシアに庇われながらアルベドと戦い続ける。
「大好きだって」
 楽しそうな声音が、アルベドより降った。圧倒的な眼力で死角を見極めるデイジーの破壊的な魔術が白化のその腕へと叩き付けられる。骨の拉げる音がしたが狂気を見せたその『錬金術素体』は楽しげに笑うのみだ。
「クラークの実力、見るが良い!」
それはクラーク家の秘宝。煌めかんばかりの一撃を放った『見せ場』にアルベドが喜んだように声を上げる。デイジーが狙いを付けたのは『アルベドの心臓部位』であった。アルベドと言うからにはフェアリーシードが埋まっている。そして、その中には妖精が存在しているはずなのだ。
 出来る限り埋まっている妖精を助けたいというのは心優しさである。だが、それこそイレギュラーズなのだというような『善行』にブルーベルは「何してんの」と軽やかな声を掛けた。
「フェアリーシードから妖精を救出したい。それだけだ」
 淡々と答えるクリムはブルーベルが『アイテムを持ち逃げ』する場合は妖精を救うのは諦めると決めていた。半龍の姿である彼女は『元の世界』で使用していた力の片鱗を見せつけるように、仇なす者に対して万難を与え続ける。
(ブルーベルは範囲攻撃も使用するわね。まあ……強い魔種ってそんな物なのかしら?
 範囲攻撃……範囲攻撃……くっ……直近の依頼でそれをやられて死にかけたのよ、二度はないようにしないと)
 嫌な思い出が頭を過る。アレクシアの背後にて雷撃を変質させた破壊魔法を放つ。それは『緑雷の魔女』の名をほしいままにするアルメリア独自の技だ。根源を探す魔術師は塵をも遺さぬ勢いで魔術書に描かれた魔術を放ち続ける。
 アルメリアの母が描いた世の理。万物の理、晴明の流転、その流れに干渉すべくは――アリシスが危惧したような錬金術の類いであるのだろうか。
「ブルーベル、どうかしら? 私って回復も出来るし破壊力もそれなりでしょう。
 それって、とっても『面倒』じゃない? うん、私はズボラ仲間だから分かるわ。さっさと帰りたい」
「それには同意だわ」
 けらけらと笑うブルーベル。やけに会話に好意的な彼女はどうにも悪しき相手として戦意を高めていくことにも困る。イナリは贋作たる天叢雲剣を振り翳す。
「その命、稲の様に刈り取り稲荷神様に捧げてあげるわ……!」
 人間性のソフトウェアなどインストールする必要は無いのかも知れないと、イナリは何となくそれを所持していた。アルベドの許へとその姿を転移させる。影を纏、『想像』『実践』『探求』兼ね、重ねる攻撃は只鋭さを増すばかり。
 然し、アルベドとて油断ならぬ存在であった。鋭利なる獣の爪牙を持つ狐の娘は自身が纏う障壁がばり、と音を立て割れたのに気付いた。
「なっ――」
 鋭く、アルベドが放った攻撃がイナリの周囲めがけて展開される。ぎり、と唇を噛みしめて踊るように異界の神を『降ろした』イナリは魔を祓うが如く兼を振り上げる。
「冗談――!」
 長い髪を揺らがせる。アルベドへの挟撃は成功したが脅威には他ならぬかと自身のその身を蝕む痛みに眉根を寄せた。
「Bちゃん。如何ですか? 面倒でしょう、少しでも全員が長く長く戦う為の戦術ですから。
 まだ戦えます、面倒を続けたくなければその珠を渡しては貰えませんか?」
 背後をちらりと『わざと』見遣ったリンディスはアルベドとイレギュラーズの戦いを指し示しているのだろう。ブルーベルは記録者たる彼女をじいと見遣った後、「あんたってそれで書いてるの?」と問いかけた。
「え? ……ええ」
「なら、そこにブルーベル=Bちゃん。イイコ、って書いて置いてよね。
 そーすりゃ、変な名前で呼ばれなくって済むでしょ」
 カラカラ笑うブルーベル。イナリの『障壁』が破られた今、自身とて危険が及ぶ可能性はある。そも、魔種の能力は未知数だ。リンディスは書き示す。彼女は必殺やブレイクの類いを所持しており、それを『惜しみなく』使用してくると言うことを。
(速攻をかます必要があるんでしょうけれど……! あと一手及んでいないのが悔しいわね!)
 攻撃手でるアルメリアは緑雷を撃ち放つ。滅せよと自身のその力に賭ければアルベドの腕がぼとりと落ちた。
「あ」
 ――と、そう言ったのはアルメリアとアルベドのそのどちらもであった。唐突な腕の喪失にアルベドはげげらと笑い始める。
「腕欲しい?」
「い、要らないわ。どうして、そんな事を言うの? 面倒でしょう。『彼女』のアルベドならそう思って撤退しない?」
 おうちに帰りたいのだけれど、とアルメリアが呟いたその言葉にアルベドは「『中身』が違うからね」とそう言った。
「搭載されるAIが違えば、性格も違うっていうのは分かるでしょ。残念だけど白化(アタシ)の中の妖精は魔種(アタシ)よりは粘り強いみたいなんだよね」
「そう……この一番、負けたら厳しいわ! 命がけで踏ん張るわよ!」


 体力の限界も近い、と焔が目配せを送ればブルーベルの対応へ後退を行ったシラスは小さく笑みを零す。焔がその動きを変化させたときブルーベルは「諦めたの? あっそ、じゃあ行こうかな」程度に考えていたのだろう――だが。
「行かせるかよ、まだまだ付き合ってもらうかならな」
 余裕の笑みを見せる。虚勢だろうが何だろうが、意地でも弱気は見せやしないとシラスはブルーベルの前へと滑り込む。死んでも倒れたくはない、自身の次、ブルーベルを担当するのはアレクシアだ。
「こっちも忘れてもらっちゃ困るぜ」
 自身の反応を挙げる。聖なるかな、と侵されざる自身の領域を展開させたシラスはその身一つでブルーベルを抑え続ける。
「忘れちゃいないけどさあー諦めない?」
「面倒だって? なら、さっさと帰れよブルーベル」
 シラスの挑発にブルーベルは「まーだいけるっしょー」と『共に遊びに来た友人』のような軽薄な反応を返す。
「ッ――ブルーベル!
 妖精を絶望させて滅ぼしたいなら、妖精サイドの最大戦力である俺を最初に倒して見せるんだな!」
 サイズが唸り、その一撃を投じた。妖精達を救うために――それが『妖精鎌』なる自身の出来ることだと言葉にした異界の存在にブルーベルは「いや絶望させたくはないかな」と肩を竦めた。
「ちょっとあたしについて考える時間あげる。To be continuedっつーことで」
 サイズを巻き込むように放たれた範囲攻撃がその視界を眩ませた。アレクシアは顔を上げる。アルベドがどうなっているか―と視線を送ればシラスから庇われぬ様になっていたクリムが強かに膝を打ち、自身の背後で攻撃を重ねるデイジーが「妾の美貌に見惚れて諦めるが良い!」と憤慨している。
 アルベドもその四肢を欠損させてはいるが未だ健在だ。流石は魔種を『素』としただけあるのかとアリシスは感じ取った。現存戦力は8――そのうち、焔は行く手阻み続けた事により体力の減少も著しい。
「麗しの妾のこの顔に免じてくれんかのー?」
 叡智溢れるクラークの娘はうつろに光る付の魔力塊をアルベドへと放った。その心の臓のあたにフェアリーシードが埋まっているというならば――この調子でいけば妖精は救い出せる可能性があると感じ取る。
 だが――
「ブルーベル、会話でも致しませんか?」
 アリシスは静かにそう言った。二重に振り続ける攻撃の中、アルベドも限界が近いだろう。これでブルーベルが『面倒だ』と感じてくれれば最善であるとそう感じるがイレギュラーズ側とて、被害は大きくなっている。
(さて、魔種側は健在、それは勿論のこと。アルベドはもうすぐ息絶えるでしょうが――……
 ブルーベルが此方の残存戦力を見て『面倒だ』と感じない可能性とて大きくなっている……)
 せめて、その掌の内側に存在する欠片だけでも奪えればと早々に駆られながら癒やし手として『継続戦闘』に務めるアリシスの考えを察知したようにリンディスは頷いた。
「そうですね、Bちゃん。少しで良いですが対話の時間にしましょう」
 彼女たちが『時間稼ぎ』を目的にしていることをシラスは気付いている。ブルーベルを此処で倒すことが出来なくても秘宝を守れたならば――そもそも、『あちら側』での戦闘がどうなっているかにも寄るだろうが、ブルーベルが先に進まなければ花を守り切れる可能性もある。
「聞きたいことがあったんだ。Bちゃんに。
 Bちゃん。リュシアンって人は、友達じゃないの?」
「イルスの愛弟子は賢いねえー。アイツにゃ勿体ないわ―勿体ないない。こっちにこない?
 ま、それは兎も角さ、友達だよ。あの『アカデミア』でジナイーダとリュシアンと遊んでた」
 そう告げるブルーベルにアレクシアは「じゃあどうして?」と首を傾いだ。彼に気をつけろ、と。そう警告する理由は何であるか――友人だというならば好意的に見ていても可笑しくないはずなのにとアレクシアは彼女を見遣る。
「リュシアンは――あの『色欲の魔種』が今回の根源かねぇ。
 ま……なんてーか、危ないよ。アイツは。反転してから、本能まっしぐら。恐ろしいもんだね」
 ふい、と視線を逸らしたブルーベルがシラスに攻撃を加え続ける。決死の盾として、アレクシアがアルメリアとデイジーを庇い続ける中、夥しい攻撃にイナリの障壁が砕け蓄積したダメージがその視界を眩ませた。
「主様――冠位の指示で秘宝を狙ってる理由は何だ? それも教えてくれよ」
「教えてもなあ。まあ……簡単に言えば、先に働いておけば後は怠惰に寝てられるでしょってこと」
 主様の眠りのためだ、とブルーベルはそう言った。
 熾烈な戦いが継続し続ける。見通す者、支える者、総てを真っ直ぐに見ていたブルーベルはもはや此処までであろうと感じていた。『死んだって倒れない』と自身の意地を見せたシラスとて、その足下も覚束ない。
 眼前に存在するアルベドを打ち倒すことに成功したとアルメリアがブルーベルを向いたとき――彼女は笑っていた。
「イレギュラーズってさ、これからどうする?」
「どう、って……?」
 庇われ続けていたアルメリア。ぜいぜいと肩で息をするアレクシアを支えたリンディスはブルーベルが告げんとする言葉の続きに気付いていた。

 ――一先ず、此処で引けば? あたし、『無用に』殺したくないし。

 それが優しさというわけではない。彼女からの最終通告か。フェアリーシードを後ろ手にデイジーは「引こう」と言った。
 これ以上は彼女の言う通り多くの犠牲が出る可能性がある。背を向け、攻撃を重ねられぬようにと警戒を見せるイレギュラーズに「引く相手を追ったりしないよ」とブルーベルは言った。
「……それに信頼を置くことはできないわ?」
「信頼してよ。だってさあ、あたしは『怠惰』だもん。
 死に体のあんたらを追ったところでなぁんにも得るものは無いし――ね?」


 ――イレギュラーズが去った後、ブルーベルは掌の中に存在した欠片を見下ろした。
『おっさんの作ったキモいおもちゃ』は無残な姿になって死に絶えた。その様子を見て自身も四肢をもがれるのかと思うと「げえ-」と言う声が思わず口から出る。
 魔種ブルーベル。
 彼女は冠位魔種『怠惰』を盲信し彼の人のためにここまで進んできた。
 妖精郷にその秘宝が――マナセと呼ばれた大魔法使いが作り上げた『悪夢』を封じ込める『秘宝』が、ここにあると知った時、因縁深い存在ではあるがタータリクスと手を組むことを選んだ。
 妖精女王に恋い焦がれる彼に協力することが最も妖精郷に至る最短ルートであると考えたからだ。
「妖精に故郷を砂漠にされたのか?」というイレギュラーズの問いには面白くもなったものだが――真実はと言えばNOだ。ブルーベルの故郷はラサの砂漠地帯でであり、彼のジョークに乗っかっただけに過ぎない。
 タータリクスが「こうしてくれ」と求めた事に答え深緑で妖精を害し、『門』を探し歩いたのも総ては秘宝のためであった。
 目的たる妖精郷に至れたならば此方のものだとタータリクスには「好きにしなよ」とそう言った。
「勿論だよ、ビィーーーちゃん! 折角だから愛しのファリーとの結婚式(ちょっと声が裏返った)に来てくれてもォッ、良いけれどねェッ!
 勿論親族席を用意するよ。アハハハ、親族だって、ちょっと照れるじゃあないか! 祝辞の準備もしてね!」
 誰がするかよ、と返した。
 彼が恋い焦がれた妖精女王と出会ってしまえば彼の目的はほぼほぼ達成される。
 タータリクスは此処で『二人で幸せになりました。おしまい』みたいな童話のような世界を夢見ているのだろう。

「……ま、おっさんには悪いんだけどさ」
 ブルーベルはゆっくりと進んだ。妖精城のその下には溶けぬ氷が座している。
 妖精女王は妖精郷から離れることはしなかった。その秘宝を維持する為に『自身』を費やしているからだろう。維持する命を必要とするほどの力――『冬の王』と呼ばれたその存在。
 ブルーベルは冬の王のこと何て知らない。『咎の花』を、それを封じ込める秘宝さえ手に入れればさっさと妖精郷から帰ればそれでいいのだ。
 冬の王のことはクオン=フユツキという男が何とかするだろう。
「貰ってくよ。『咎の花』。これも主さまのお願いだからね」
 美しく咲き誇っていた氷の花に手を差し伸べた。ぱきり、と音を立てる。

 ぱきり――


 ぱき――ぱきり。

「おはよう。『冬の王』
 それから――さよならだ、あたしの『共犯者』。結婚おめでとうぐらいは言ってやるよ」


 ――ローレットに入ったのは妖精郷が突如として『冬』に包まれたと言う情報であった。

 魔種ブルーベルは秘宝『咎の花』を奪い、行方を眩ました。
 そして封印されていた『冬の王』はクオン=フユツキが連れ去ったという。
 彼女たちについての『追加情報』は存在しない。
 だが――美しき常春は凍て付く冬となり刻を止め、確かな危機を美しい郷へと与えたことは確かであった。

成否

失敗

MVP

リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように

状態異常

ツリー・ロド(p3p000319)[重傷]
ロストプライド
クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)[重傷]
血吸い蜥蜴
シラス(p3p004421)[重傷]
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)[重傷]
炎の御子
長月・イナリ(p3p008096)[重傷]
狐です

あとがき

 お疲れ様でしたイレギュラーズ。
 ブルーベルはここにて離脱となります。冬の王が目覚めましたが……此れからどうなるのか。
 又、お楽しみいただければと思います。
 MVPは作戦の要。支え続けた貴女へお送りします。被害を最初に抑えたのはその力です。

 ご参加ありがとうございました。

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