PandoraPartyProject

ギルドスレッド

Clans Nest

【PPP一周年記念】迷子の迷子の子猫ちゃん

【事の発端】


歩きながらBriga=Crocutaは大きく欠伸をした。吐き出された息は本当に微かに酒の匂いが残っている。
常人なら気づかないそれを敏感に嗅ぎつけ、隣を歩いていたアルク・ロードは顔を顰めてみせた。

「まだ酒残ってんじゃねえか…寝てていいって言っただろ。いつも通りにさ」
「うっせェなァ。まだ眠くねェっての…くァあ…」

言いながらまた大きな口で欠伸をした彼女に呆れた視線を投げる。
しかし、アルクはそれ以上は何も言わず、自分達よりも少し後を行く少女に顔を向けた。

「ソフィー、大丈夫か?はぐれそうなら、手とか…」
「……子供扱いしないで。平気」

そう言ってソフィーと呼ばれた少女、Solum Fee Memoriaは無表情で答えた。
実際、アルクよりもバリガよりも遥かに生きている時が長い。が、見かけは十代半ばといった少女だ。事情を知らない人からすれば、どう見ても背伸びしている子供にしか見えない。
が、わざわざその事を言う人間はいなかった。偶然聞いていた人が微笑ましく思ったくらいで。

「にしても、確かに子猫じゃなくてもはぐれそうだな…なンだよこの人の量」
「市場なんてこんなもんだろ」
「………子猫じゃない。それにはぐれない。そこまでばかじゃない。はぐれるとしたら尻尾の方」
「あ?子猫だろ。つかはぐれるわけねェよ!」
「……すぐ吠える」

わざとらしく耳を塞いで見せるソフィーに大人げなく(実際一番年下なわけだが)唸るバリガ。
そんな二人をどうどうと宥めつつ、アルクは買う物を書いたメモを見る。

「…ええと、肉と、塩と胡椒と、あとは時間あったら手芸用品だろ。他は…」
「おい、酒は?」
「まだ呑むのか?昨夜も呑んでただろ」
「当たり前だろ。昨日は昨日、今日は今日」
「アル中め…」
「ンなモンになった覚えはねェな」

しれっと嘯く。
言うだけ無駄だ。分かっていても言ってしまうが。

「短い時間にしてくれよ、ソフィーの服も買わなきゃいけないんだから」
「あァ…確かにな。少なすぎるだろ」
「バリガに言われたくないかもしれないけどな」
「オレより少ねェだろ…オイ、子猫、希望とかあンのか?……おい?何黙ってンだよ」

後ろを振り向く。
が、そこには銀の髪を持つ少女はおらず。一瞬呆けた後、二人は揃ってため息をついた。

「…アイツ…どこ行きやがった…!!」

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【その頃彼女は】


「……………ふむ」

いつの間にか二人の姿がない。
ちょっと魚に目をやってたらこれだ。いや、ちょっとだけふらっと近づいたかもしれない。でも、ちょっとなのだ。
ソフィーは尻尾を不機嫌に揺らした。

「………面倒」

そう、面倒だ。なんて事だろう。

二人そろってはぐれるだなんて!

人を子ども扱いしている場合ではない。もっと注意すべきだと無表情のまま憤る。
彼女に自分がはぐれたという考えはない。
普通は人数の少ない(つまり、一人であるソフィーの)方がはぐれた事になるのだが…もちろん突っ込む人もいないわけで。

耳をすませつつ辺りを見回すが、二人の様子はおろか声も聞こえない。周りの人間は彼女より大きく、見通す事も難しい。
むぅ、と小さく唸るが、すぐにそのまま彼女は手近な街灯にするすると身軽に上った。
思った通り高い街灯は遠くまでよく見通せた。自分の考えと至れた結果に満足し、街灯の上に立って見回す。
バランス感覚が優れている為にその様子に危なげはなく、まるで普通に地面に立っているように安定している。
危ないのは別の部分である。
彼女はスカートなのだ。
もう一度言おう。彼女はスカートなのである。
パニエなのでまだセーフ…いや、アウト気味である。気にしない時点でアウトである。
今も少女に気づいた人はぎょっとするか慌てて目をそらし、それを見た人が上を見てぎょっとしたりそらしたり、またそれを見た人がといった風に小さな騒ぎになっている。
だが、少女は我関せずといった様子だ。気づいてはいるのだろう、そこまで鈍くはない。
ただ興味がないだけなのだ。

「ねぇ!ちょっと君!危ないよ何してるのさ!」

そう、無視だ無視。きっとあれは自分じゃない。だって危なくない。自分は安定しているのだから。
しかし、騒ぎを聞きつけたらしい衛兵がこっちに向かってくるのが見えた。
あれは面倒だ。とても面倒だ。
そう思い、彼女は下りた。

「ああびっくりした。何してたの?あんなところで」

別に声をかけられたから下りたわけではない。
だが、彼はそう感じなかったようだ。(見かけだけなら)同年代の気のいい見ず知らずの青年は、彼女が怪我をしなくて良かったと胸をなでおろし、ほっとした笑顔になった。
反面、相変わらず無表情の彼女は早くこの場を離れたい、が、この青年を置いておくと面倒そうだ。絶対に衛兵に自分の事を言うだろう。
そこには何の悪意も邪気もないものの、結果としては自分にとって良くない。
仕方なく声をかける。

「……こっち来て」
「え?」
「……移動。衛兵が来る」
「えっ、いや、別に逃げなくても…」
「………早く。遅い」
「ご、ごめん!」

さっさと歩き出し、こちらを急かしてくる少女に困惑しつつも、青年は慌ててその後を追いかけた。
【路地裏】


「いたか?」
「いや、いなかった」
「…ったく、あンの馬鹿子猫…!」

ギリリと歯噛みをする。
次からは首根っこ捕まえてでも離れないようにしようと考えつつ、耳はせわしなく辺りを伺って動いている。
と、一つの話が聞こえて耳がそちらを向く。
街灯に女の子が上ってるとか衛兵騒ぎになっているとか。
二人の脳裏にまざまざと上っている様子が浮かんだ。何度もその様子を見た事がある。疑いの余地はないほどだ。

「オイ、アルク」
「ん、分かってる」

ちょうど歩いていた道の近くだ。
共に歩き出す。
しかし、一歩遅かったのか彼女の姿はない。
衛兵も既に立ち去っているようだ。

「まだ近くにいると思うか?」
「いや…どうだろうな。でも、ここを中心に探していくのがいいと思う」
「ン」

歩き出そうとしたが、アルクの足が止まった。バリガがどうした、と首を傾げて見やる。

「…いや、今、声が聞こえたような…女の子の声。あそこから」

指すのは路地裏だ。
もしかして厄介ごとに巻き込まれているのでは、と嫌な考えが脳裏をよぎった。
弱いわけではない。むしろ、身体の小ささゆえの攻撃の軽さがあるが、それを補っておつりがくるほどの身軽さと判断力は十分な武器である。
しかし、そうであってもそれはそれ、これはこれ。ましてやアルクもバリガも心配性である。ほっとく事なんて出来るはずがない。
自然とそちらに足を運ぶ。
路地裏は狭く、細身の人ならぎりぎり横並び出来るか出来ないかといった幅だった。陽は当たらない為に暗く、しかし湿っておらず涼しいくらいだ。
人影を見つけ、その中心に小柄な影が見えて思わず足が早まる。

「オイ」
「あ?なんだてめぇら…」

男が四人、全員見かけは人間種のようだ。こちらを向いたおかげで中央の小柄な影が見えた。
ソフィーではない。見知らぬ年若い女性だ。絡まれていた恐怖からであろう涙を目に溜め、救いを求めるようにこちらを見やる。
ソフィーではなかった安堵と落胆を覚えつつ、舌打ち。
相手は二メートル近い影に若干怯んだ様子だったが、二人しかいないと分かるとすぐにその威勢を取り戻し、睨みつけてくる。

「クソ共が。紛らわしい事しやがって」
「んだとてめぇ!」
「まぁまぁ…なぁあんたら、ここらで女の子見なかったか?猫の…えぇと、獣種なんだけどさ」

本人がいたら自分は吸血鬼で猫ではないと憤慨しそうなものである。アルクとて分かっているが、分かりやすい説明をするにはこれが一番だと判断したのだ。

「知らねぇよそんなの!どっか行けよ!!」
「…いや、ここを通るんだよな?なら、通行料置いてけよ」
「ああ、そうだな。断るっつーんなら、ただじゃおかねえぜ?」

アルクは勝手な言い分と分かりやすい挑発に呆れ顔になりながら、ちらとバリガを見た。
不機嫌な顔がどんどんと笑顔に変わっていっている。ニィィとその鋭い歯を剥き出して笑う凶悪な笑顔。
それを見た男達は馬鹿にしていると感じたらしく大声を出してこちらを威圧してくるが、そんなものが効く二人ではない。

「…ごちゃごちゃとよォ?なァ?うるせェンだよ」
「はあ!?調子乗ってんじゃねえぞ!!」
「殺すぞこのくそやろうが!!」
「やれるモンならやってみろやァ!イイからさっさとかかってこいクズ共ォ!!!」

イライラを見つける当てが出来たとばかりに嬉々として相手どるバリガに溜息をつく。面倒だ、だけど、どうやらバリガの好戦的な部分が移ったらしい。
アルク自身もこちらに殴りかかってきた男達を見て、自然と口元は笑んでいた。
【仄か】


「そっか、連れが二人いて、二人ともはぐれたんだ。大変だったね」
「………ん、困った二人」

その頃、ソフィーは青年と一緒に広場へ移動していた。
その両手には屋台で買った、というか買ってもらった串焼きや棒で串刺しの焼き魚が握られている。
座れる場所がある事とかなり人が行き交う場所であり、待ち合わせとしてもよく使われるので通るのでは、という彼の提案によるものである。
ソフィーもギルドが近くという事もあり親しみのある場所だ。食べ物の屋台が多いという情報も持っている。そして、ソフィーは空腹でもあった。
つまり、食べ物に釣られたわけである。

「……釣られてない。偶然」
「え?何か言った?」
「……なんでも」

そうだ、ちょっと空腹ではあったが別にそれが理由ではない。彼の言い分に納得したからである。半分以上聞いていなかったけど。
屋台をちょっと見て(凝視して)いたら買ってくれた。悪い人間ではないとソフィーは一人頷く。
本当は連れではなく、(彼ら曰く)家族なのだけど。
そこらはちょっと複雑というか説明が面倒だし、自分は家族というものがよく分かっていない。いた事がないから。
だから今は連れでいいのだ。間違ってるわけじゃない。

「どんな二人なの?」
「……どんな…」

ぱたり、ぱたりと尾を揺らして考える。どんなと言われると少しだけ難しい。

「……尻尾は、口が悪い。よく呑んでる。ワガママで子供」
「そ、それは…ええと、なんて言ったらいいのか…」
「……アルクは、手先が器用。顔は怖いけど。心配性」
「く、苦労してるんだね。なんだかすごく、うん、疲れそうだ」
「………でも、嫌いじゃない」

知らず知らずのうちに、ソフィーは微かに笑っていた。二人を思い出して。

その初めて見る笑顔に、青年はしばしの間見惚れていた。
【手がかり】


頭突きをくらわせ、相手がたたらを踏んだと同時に腹を躊躇なく蹴り飛ばす。

「てめぇこのやろう!!!」

くの字に身体を曲げて吹っ飛ぶ男に見向きもせず、後ろから殴りかかってきていた男の拳を半身を捻る事で避けた。
横を通り抜けてがら空きの背中に肘を振り下ろす。狙い通り首下の中心へとヒットし、男が倒れるのを冷めた目で見下ろした。

「…グルルルゥッ!」

唸り声にバリガの方を見ると、ちょうど一人の男を壁に叩きつけた所だった。どうやら吠えると騒ぎになる為、唸るだけで我慢したらしい。
もう一人はバリガの近くで転がっている。
問題なさそうだと思い、自分が腹を蹴った男が戦闘不能かどうか一瞥する。
苦しそうに腹を抑えてえづいている。手加減はしたから内臓はいってないだろう。
もし本気で蹴っていたらただではすまない。

「…あ、あの…!あ、ありがとうございました!」
「ああ、いや…大丈夫だったか?」

荒々しく暴れていた相手に勇気を振り絞って女性は感謝の声をかけた。
助けてくれたのだ、さきほどの無法者達とは違うだろうと。
助けるつもりはほとんどなかったアルクは若干気まずく思いながら言葉を返す。バリガは完全にそっぽを向いてシカトだ。
尻尾だけは落ち着かなげにぴくぴくと動かしている。

「あの、お礼とか…」
「いや、別に…急いでるから。じゃ。気を付けて」
「あ…そ、その、あの、さっき言ってた女の子なんですけど…その、見たかもしれません。あの、グレーのスカートで猫っぽい…」
「!! それだ!!どこで!どこで見た!!」
「ひっ、い、いえ。あの、が、街灯です。あっちにある…上ってて」

この場をさっさと立ち去ろうとしたが、女性の言葉で立ち止まり食いつく。二人に視線を向けられ、思わず一、二歩後ずさりながらも女性はなんとか答えた。

「ああ、悪い、怒ってねえから…で、どっち行ったか分かるか?」
「えぇと、男の子と一緒にあっちの…広場の方へ…」
「……男だァ?」

一気にバリガの纏う空気が刺々しい物になった。声も格段に低く唸る声だ。
まさか誘拐か、それとももっと面倒な事に?とアルクも思わず渋面になる。
情報提供の礼をおざなりに言い、すぐに小走りに近い早歩きで女性に教わった方向へ向かう。

「…子猫め…見つけたら縄で縛りあげて離れねェようにしてやろうか…」
「…………」

さすがにやりすぎだろうと思うが、突っ込む余裕もない。
ただひたすら無事を祈りつつ、アルク達は足を速めた。
【尻尾】


ソフィーは広場を見回すが、未だどちらの姿も見えない。
無意識に耳と尾が下がり、心なしか毛並みがぺしょりとし、いつもの輝きもなりを潜めている。
青年もなんとか元気づけようと色々な話をするが、あまり様子が変わる事は無い。というか、ほとんど耳半分で聞いていない。

もしかしたら、と。
もしかしたら二人は帰ってしまったのかもしれない。
ソフィーを置いて。二人だけで。
もちろん置いていかれても困る事は無い。
別に身を守れないわけでもないし。帰り道だって分かる。
そう、何の問題もないのに。


なんだか、胸の中が寒いというか。
からっぽな感じがするのは、なんでなんだろう。


「…あー…えっと、あっ!そうだ!」
「……何」
「この近くにさ、ケーキが美味しいカフェがあるって聞いたんだ。行かない?」

いつもなら心惹かれる言葉だけど、あまり気が乗らない。
ぱたり、ぱたり。力無く尻尾が揺れる。

「……ケーキ…」
「うん。きっと元気出るよ。行こう?」

頷く前に手を取られた。引かれるままに立ち上がる。
簡単に振りほどけるほどの力の強さだったけど、そんな気も起きない。
だが、歩き出す前に青年よりも一回り大きな手が青年の腕を掴んだ。

「おい、どこに連れてくつもりだ」
「……あ…」

見上げ、見知った顔に思わず声を上げる。
その後ろに仏頂面の彼女も見つけ、名前を呼ぼうとする。
が、その前に手が伸びてきて頭を思いっきり鷲掴まれた。

「この馬鹿子猫!勝手にいなくなるンじゃねェ!」
「……!?…は、はぐれたのはそっち!」
「うるせェ!どンだけ探し回ったと思ってる!」
「……探してたの?ずっと?」
「あァ?当たり前だろうが!なンだオマエ、喧嘩売ってンのか」

ますます強くなる手から逃れようと足掻く。
アルクがどうどうと宥め、緩んだ隙にアルクの後ろに逃げる。ふと見回すと青年の姿がない。

「……あれ…」
「…あ?さっきのヤツは?」
「ん?ああ、連れが見つかったならって去っていったぞ」

実際はビビって逃げたとも言うのだが…アルクはあえてそこは伏せておいた。別に伝える必要もないだろうし、二人も納得しているのだから言う必要はないだろう。

「あー、クッソ疲れた。もう買い物はやめだやめ。今日は帰って寝るぞ」
「ん、そうするか、明日でもいいし」
「…オイ、子猫早く来い。またはぐれたらどうする」
「……はぐれたのはそっち。あと子猫じゃない」
「はァ!?もう一回頭掴むぞコラァ!」
「いや、さすがにそれはないぞソフィー。はぐれたのはどう考えてもお前だからな」
「……そんな事はない。私ははぐれてない」

やいのやいのと言い合いながらも彼らは帰路につく。

ゆらゆらと、ゆらゆらと、三本の尾の影が揺れる。
上機嫌に、横並びで。

こうして、一つの騒動は幕を閉じたのだった。


                                     Fin
家族出演(敬称略)
◆アルク・ロード(p3p001865)
◆Solum Fee Memoria(p3p000056)

ありがとうございました!!

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