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ギルドスレッド

酒場『燃える石』

【個別】ごろつきどもがゆめのあと

酒は、良いものだ。
百薬の長とはよく言ったもの。酒で身を崩す者も居るが、それはそいつが阿呆だっただけのこと。酒はかけがえのない命の水であり、人類に(それ以外のいきものにも)寄り添う友である。
特に仕事終わりの一杯は格別だ。疲れた身体に染み渡り、擦り減った心を満たし、傷付いた魂を癒やす。代償は何だ、と?いいや、酒は何も求めない。ただ与えるのみ。哀れな阿呆が溺れて窒息するまでな!
今宵の卓には破落戸が二匹。悪事をはたらき、しくじり、追われ、這這の体でここまで逃げ延びた。酒はどんな輩にも平等だ。こんな輩にも平等だ。
さて、溺れるか。はて、飲み干すか。

(グドルフ・ボイデル【p3p000694】様との個別専用スレッドです。)

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(燃える石の一角。酒場の天井に張り巡らされた太い梁を支える柱の陰、喧騒の中心から少し外れた小さな卓。しかし、そんな場所でも声を上げれば給仕は直ぐに飛んでくるだろう。
盗賊 キドーは身動ぎしただけでぎしぎしと軋むようなおんぼろ椅子に身体を沈めて、憮然とした表情で天井を仰ぎ睨み付けている。
緑の肌には黒ずんだ血が滲み、革のアーマーは土埃まみれの傷だらけ。なんともみすぼらしい風体だ。どうやら何処かで一戦交えて来た様子。そしてそれはおそらく、いや、ほぼ確実に負け戦だろう。)

オッサンよう。なんか言う事無いのかい。

(低く、唸るような声。歪められた唇が引き攣れ、開いた傷口から新鮮な血が垂れた。
キドーの眉間の皺が更に深くなる。白目のない赤い目玉をぎょろりと動かし、テーブルを挟んで座る中年男性を睨め付けた。)

俺ぁな、思うんだよ。
俺一人だったら、こんな馬鹿みてえなしくじりはしなかった。余計な御荷物さえなけりゃあ、用心棒とやり合う必要も、数に押されて尻尾巻いて逃げる必要も無かったんじゃあねえかってよ。
どう思うよ。なあ、おい。
(時は同じく。明後日の方向へ視線を投げながら、鼻からの出血に薄汚い布を押し付けている男が一人。
ゴブリンの青年の声に意も介さずといった表情である。煤汚れた服装の男──山賊グドルフは、青年の問いかけに舌打ちひとつ落とし、ようやく口を開いた)

何言ってやがる。元はと言えば、おめえが欲見せて深追いしたからだろ。
引き際も分からねえ盗賊なんざ、クソ以下だぜ。
おめえのお陰で──見ろよ、このイケメンフェイスが台無しだ。

……おれぁ心が広ェからよ、今なら「すみませんでした」の一言で許してやるぜ。
(額からの出血をぬぐい取り、ぎゅっ、と頭に止血用の布を巻きつけた後、キドーの方へ負けじと視線を返した)
イケメンフェイス?

(卓に手を付いて、わざとらしく身を乗り出す。赤い目を糸のように細めてグドルフの髭面をじろじろと眺め、そして
嘲り笑った。)

おいおいおいおい、そいつぁ冗談キツいぜ!
むしろ、ボコボコにのされてマシになったんじゃあねえかい?あの用心棒どもに礼を言わにゃあならねえぐらいだぜ!

(鋭く尖った乱杭歯を剥き出して、ケケケと怪鳥の鳴き声のような声を上げる。
グドルフとキドーには二倍近い体格差がある。まるで大人と幼子だ。それでもこうやって余裕ぶっていられるのは若さ故の向こう見ずさと、混沌世界の絶対普遍の法則のお陰だ。)

それと、俺にもだ。
謝れだって?ちゃんちゃら可笑しいぜ!アンタを囮にして俺だけ逃げてきたって……

(中断。丁度近くを幻創種の女給が通りがかったのだ。
彼女に「エールを」と無愛想に声をかけつつ、グドルフへ目配せする。先ずは酒だ。酒が無ければ何も始まらない。)
(不躾な視線を投げられ、居心地悪そうにふん、と鼻を鳴らす。すぽんと鼻血を止めていた布が鼻息で押しだされて床に転がって行く。
が、すぐにキドーの皮肉のような罵詈に眉を吊り上げ、なんだとおと机を叩く)

黙ってるからって好き勝手言いやがって。
おれを散々ぶっ叩いた連中にゃあ後でたっぷりとお礼参りをしてやるがな、今てめえにもお見舞いしてやってもいいんだぞ。そのクチが暫く開かねえように、丹念にな!

(長年の傭兵稼業──いや、山賊稼業か。ともかく鍛え上げられた筋肉を見せつけるように、そう返した。単純な力比べではこちらに分があるのは分かり切って居る事だ。
無論、そんなものはハンデにすらならぬと、目の前のゴブリンは知っているだろうが。
だからこその、あの態度でなのであろう!)

……ああん? 何か聞こえづれえなあ。耳アカたまりまくっちまってよ。
「この度は足を引っ張りまくったワタクシめのせいでご迷惑をお掛けしました、今後グドルフさまのお酒代はこのキドーが全てお出しします」……だってえ?
へっ、当然だ。今回の件はそんくれえしてもらわねえと、チャラにならねえぞ!

(ゲラゲラ笑いながら妄言を吐いた所で、女給に「同じやつ」と言い捨てる。
逃げ込んだ先がこの場所である以上、双方が考える事は大方同じである。
つまるところ、飲まなければやっていられないのだ)
はん。

(グドルフの妄言を鼻で笑い飛ばす。)

隙あらば酒代をタカりやがってよう。この業突張りが。
綺麗所のねーちゃんならともかく、なんでよりにもよってむさっ苦しいオッサンなんぞに奢らにゃならねえんだよ。ええ?
乳と尻のデカい美人のねーちゃんに生まれ変わってからやり直しな。見た目さえ良けりゃあ後はギリギリ見逃せなくもねえ。ギリギリな。

(口元に下品な笑みを浮かべつつ、椅子の上で胡座をかいて姿勢を変える。キドーの小さな身体で人間用の椅子に座ると、床に足が付かず不安定で草臥れるのだ。しかし、胡座をかけば丁度良い塩梅だ。)

……おおっと、良い事を思い付いた。

(喧騒の向こう側に盆に酒を乗せてこちらに向かってくる女給の姿を見つけ、赤い目玉がきゅうと細まる。つられて長く尖った耳もぴくりと動いた。)

飲み比べだよ。
このままごちゃごちゃ言い合っててもラチがあかねえ。ここらでズバッと決着つけようじゃあねえか。
けっ、相変わらず懐の小せえこった。
どうせ金を落とすなら、このグドルフさまに落とした方が有意義だっつうのによ。
……しっかし、イイオンナにゃあカネを落とす気マンマンたあ、まだまだ若ェな。
おれさまくれえになると、イイオンナにも酒タカるぜえ。ゲハハハハッ。

(下衆な話には下衆な話を、とばかりに豪快に笑い飛ばした。彼らの話題はいつの間にやら、こういったものに転がっていくのである。
親子ほどの身長差であるこの二人は、傍から見ると不思議な関係にも見えるだろう……この店に居る以上、余計な詮索も奇異な目も無いのだが)

……ああん? 飲み比べだあ?
このおれにマジで勝とうと思ってんのかい。

(キドーの言葉においおい、と顔を覆いながら笑う)

ゲハハハッ! おめでてえヤツだぜ。よおし、乗った。
ついでに、負けたやつは勝った奴の言う事を一つ聞くってえのはどうだ。
まさか、今更やめますなんて情けねえこたあ言わねえよなあ? ええ?
バッカ野郎。半分は先行投資ってやつよ。
いい女の所には男が集まり、ついでにマヌケが漏らした儲け話のタネも集まるってもんだろ。なあ?
儲け話ってのは勝手に転がり込んで来ちゃあくれねえんだよ。

(そして、続く言葉をどうせいつもの妄言と鼻で笑う。
が、すぐに取り繕いきれなくなって、緑色の顔に得も言われぬ表情を作り出す。やはりまだ、若いのだ。)

……待った。
まさか、オッサンに奢る女がいる訳ねえよなあ?おい。

(卓に手をつき、やや前のめりになって下からグドルフの顔を覗き込むキドー。懐疑と好奇心がない混ぜになった視線を髭面に向けて――
その視線は目の前に置かれたジョッキで遮られた。)

ちっ。言ってろ、クソジジイ。吠え面かかせてやる。

(即座に居直り、ついでにモヒカンもちょっと整えて、視線を移す。同時に、小さな頭蓋骨に収まった脳みそで己の許容量を計算する。今日はまだ飲んでいない。だが、切った張ったで高揚している分、酔いが回りやすいかもしれない。目の前の男はどうだ?加減を知らないのか、ああ見えて酒で流したい何かがあるのか、自棄糞じみた飲み方をするが……。
くるくると思考が回る。しかし、それは直ぐに中断された。そうとも、ごちゃごちゃ考えて何になる。今更勝負を下りるなんて有り得ない。そしてなにより、勝つのは自分だ。
勝負の前から勝利を確信した笑みを浮かべる。そして彼の手には大き過ぎるジョッキを突き出して。)

オイオイオイオイ、強気な提案だな。
いいぜ?やってやらあ。ただ、覚悟しとけよ。俺は容赦ないぜ……へへへへっ。
くっく。何気ねえトコからチマチマ情報を集める周到さは……そうだな、おめえらしいぜ。
おれぁ一気にかっさらってく方が好きだからなあ。真似は出来ねえよ。

(意外かも知れないが、男はこの小柄なゴブリンの青年を素直に評価している。
"仕事"の前の情報収集能力は、疎いグドルフでさえ目を見張るものがある。
──それもキドーという青年が、生きるために培ってきた技術と知恵だったのだろう。と、目を細め──前のめりで顔を覗き込むキドーに、堪えきれずに噴出した)

ふっ、ハハハッ! そうだな。おれさまに勝ったら教えてやるよ。

(もう数えるのも億劫な程、彼とは酒を交わしてきた。勝つ自信はある。だがまあ、自身の体調や酒の種類で酔い方は左右されるのだ。結局のところ、どちらかが一方が潰れる時はあるし、互いに介抱した事もある。支払いを押し付けて帰った事も。大抵、そういう事をやるとやり返される。それは、心地のいい関係である、と。グドルフは思っていたのだろう。
長らく忘れていた──"友"とは、こういうものだろうか、とも)

楽しみだねえ。
今からちょいとしたら、ゲエゲエ吐きながら泣いて謝るゴブリンの姿が見られるんだからよ!

(──決して、口には出さないけれど)
(同じくジョッキを突き出して、ガチンと音を立ててぶつけあった)
(思い浮かべるのはいつだって最強の自分。
……なんて、根拠も無く自信過剰に突き進めるようなタイプではない。先程言ったように、出来る限りの根回しを行った上で進める方が彼の嗜好に沿う。しかしそれでも無責任に勝負を確信できるのは、偏に相手がグトルフだからだろう。
酒で正体を失い、痛い目に遭ったことも遭わせたこともある。それでもこうやって馬鹿をやれるのは、その筋の者同士、そして彼個人の人柄に親しみを感じているからだろう。)

ちっ、勿体ぶりやがってよう。……まあいいさ、言ってろ。
勝つのは俺。負けて惨めに床に這い蹲るのはお前だ。

(ジョッキを傾け、苦い酒をひと息に飲み干す。小さな身体だが酒の強さには自信がある。いやむしろ、この小さな身体が油断を誘ういい切欠になる。
しかしグトルフには手の内を知られている。だが、それがどうした?親しい仲だって関係ない。きょうだいだろうが、友だろうが、容赦や手加減などしてやる義理などどこにもないのだ。)

――ぶはっ。
へっ、こんなの水だな。老いぼれにはどうだかわからねえがよ。
ようし、どんどん持ってこい!とびきり強くて上等なやつをな!

(空のジョッキを掲げて怒鳴る。徹底的に負かすのだ。肉体的にも、経済的にも!)
ハッ。戯言はその青くせェケツを、サルみてえに赤くしてから言うんだな。

(思い返す。目の前の彼と出会った時の事を。
初めに話を持ち掛けたのは自分だった。最初もこの店で、この席だった。
例の召喚で、面白い連中がごまんと流れ込んできた。その荒波の中、小柄な彼は居た。犬に追われ、自警団に追われ、尖った耳の美青年に追われ。それでも彼は必死で生きていた。グドルフは、そんな彼を目で追っていた。
雁字搦めに囚われた己には生きれぬ、奔放な生き方を無意識に羨んでいたのかもしれない。
舞台が違うだけで、やる事も立ち位置も同じ『奪う者』。共通点はたったその一つだけ。それでも、彼らが身を寄せ合うには十分だ。気づけばローレットという何でも屋稼業の他にも、彼が持ち込む"仕事ーもうけばなしー"を手伝うようにもなったのだ──が。はて。
いかんな、とかぶりを振った。まずは目先の事に集中せねばならない。
ジョッキに口をつけゴクリゴクリ、と大きな音を立てて喉へ流し込む。そのペースは海が急激に引潮となるが如く。
キドーが空のジョッキを掲げてがなったのとほぼ同時。飲み干して空になったジョッキを荒々しくテーブルに叩きつけた)

あー、こんなんじゃ足りねえぜ!
樽だあ、樽ごと持ってきやがれ!

(──酒は、いい。過去も、痛みも、何もかも、飲み込んでくれるから)
へっ!初っ端から飛ばすな。
無茶すんなよオッサン。もういい年なんだからよ!

(口角を持ち上げ軽口を叩く。
こうやって言い合えるのも親しき仲だからだ。一般に言う、友情やら信頼とやらとは違う。時に裏切り裏切られ、それでも続く泥臭い関係。

初めてグドルフに声をかけられた時、キドーは腰のナイフの形と重みを強く意識していた。何時でも抜けるように。最小限の動きで急所を捉えて突くために。故郷で好き好んでゴブリンに近寄るのは、大抵飼い慣らして利用しようとする輩というのが相場だったからだ。
しかしどうだろう、今ではこの通りだ。これはグドルフの性によるものが大きいだろう。体格も年齢も親子程の差があるが、この中年男には余計な気兼ねが無い。悪く言えば遠慮も気遣いもクソもない。
だがそれでいいのだ。結局は破落戸、チンピラ、やくざ者。気が向くなら交わればいい。気に食わなければ腐せばいい。噛み合うべきときに噛み合えばそれで良いのだ。)

……っかぁ!あー、足りねえ。足りねえなあ。
なあオッサン、どうしたよ。目つきが怪しくなってきたぜ。もうへばったかよオイ!

(一息に飲み干し、空になったジョッキを見せつけるように掲げて挑発する。挑発し、ペースを上げさせる作戦だ。)
ゲハハハッ! 心配ありがとよ。
だがなあ、おれさまはこんなモンじゃねえぞ? ええ?

(豪快に笑う。
傭兵時代、かつて酒を飲みかわした仲間たちがいた。肩を組み合って笑いあう者達も居た。歳を重ねるごとに、笑い声は減って行った。皆、今は冷たい土の中だ。
傭兵は危険な仕事も多かった。そういう仕事だった。いつしかそういう相手に執着することを辞めた。一枚壁を作って接すると、目の前の相手が死んでも心が痛まないと、知ってしまったからだ。
だが、目の前の彼はどうだ。今日だって、ヘタをすれば死んでいたというのに、軽口と共に酒の飲み比べを提案すると来た。こういう責任の押し付け合いは、彼らにとって日常茶飯事であった。年上も年下も、種族も何もかも関係ない、この関係は。
──ああ、面白ぇ。と、心からの笑み、だったのかもしれない)

おいおい、焦るなよキドー。
ま、おれぁまたヨチヨチ歩きみてえな千鳥足を拝みてえがなあ?

(最初のイッキは景気づけだ。これは早飲みではなく飲み比べ。最終的に多く飲んだ方が勝ち。ある程度酒に強い自負はあるが、「ざる」という訳ではない。自分自身、それは理解している。
無論、女中は樽など持ってくる筈も無く、追加されたジョッキに口を付けた。
──それではつまらない。とんでもなく安い挑発だ。だが、あえてそれに乗る方が面白い。
喉から音を立てながら、ジョッキを天井に向けた。飲み切れず流れ落ちた酒がズボンや床にシミをつける)

ぶはァーーッ!
もうへばっただあ? おめえこそ、呂律回ってねえぞお?

(口元を腕で拭いながら空のジョッキをテーブルに叩きつける。
男は、勝負より面白さを求めた。今が楽しければそれでいいのだ!)
(この青年はまだ、若い。
失って途方に暮れる程のものを得たことが無い。崩れ去って絶望する程のものを積み上げたことも無い。何も持たず、背負うものも、気負うものも無い。
若さゆえの向こう見ずな自信と情熱。ここまでやって来れたのは自身の実力のお陰だと思っている。勿論、勢いだけで生き残る事が出来る程に無法の世界は甘くは無い。しかし、実力だけで乗り切れるほど堅実な世界でもない。それらの無常を理解しているつもりでも、身に沁みてはいない。
故に、この青年は目の間の男の胸中など知る由もない。想像もつかない。若い。青い。甘い。)

ケッ!!!
ヨチヨチ歩きだとぉ?言ってくれるぜクソジジイ。年食って目まで悪くなったかよ!
俺ぁいつだって振る舞い含めてイケメンゴブリン様よ。

(言い草とは裏腹に、その顔と声色は本当に心の底から機嫌良さげで。
そう。年齢も種族も関係ない。若く、青く、甘くとも、この関係に居心地の良さを感じているのはこのゴブリンの青年も同じだ。完璧に分かりあえずとも、理解出来ずとも……いや、そもそも破落戸同士に理屈を捏ね繰り回した相互理解など不要か!
そうとも。今が楽しければ良い。刹那の娯楽快楽を追い求めてこそならず者だろう!目の前の男は挑発に乗った。ならばこちらも応えるのみと、キドーもジョッキを呷った。)

ケケケッ !なかなかやるなあオッサン!
だがなあ、まだまだだな。俺ぁ、まだまだ、余裕だぜ!

(そして嗤う。ふわふわと浮くような感覚を憶え始めながら。舌の動きも若干鈍い。
それでも機嫌が良いのは、意識が浮くのは酒のせいだけか。否、同じ土俵に立って勝負するこの行為、この遣り取りが嬉しかったのだ。)
ゲハハハッ、そうこなくちゃなあ!
今日はもう、店にある酒っつう酒をカラにしてやるぜえ!

(二人の思惑は今、一致した。なればとばかりに酒を飲む。飲む。飲む!
幾度となくジョッキを空け、先の険悪な雰囲気はどこへやら──下品に笑い声を飛ばす男達のテーブル。そしてまた今、端に空いたジョッキが積み上げられる。取り下げる給仕がいい加減、困ったような、面倒そうな表情を浮かべるのも露知らず。まだまだあ、と酒を求める声──と、)

ああん……? 今どんくれえ飲んだっけかあ。
もう、覚えてねえなあ。まあ、おれが勝ってるだろ……
っつか、何で勝負してんだっけ?

(完全に酩酊した男はとうとう、今までの発言や心情を過去に置き去りにした)

まあいいか。
オイ、それよりも、見てろキドー、一発芸。一発芸やるぜ。
見ろこれ! セレブのオンナがよく首に巻いてるアレ!!!
オホホォ~、アタクシお金モチザマスよォ~!

(椅子を転がしながら立ち上がり、身に付けている毛皮のベストを首に巻き付け、しゃなりしゃなりと歩いている──つもりだろうが、実際にはふらふらと千鳥足でおぼつかない足取りである。完全に酔っ払いのそれであるが、面白くも無い一発芸を披露する男の表情には曇りは無かった)
あ〜〜〜〜……?

(ぼやけた赤い眼が山賊を見る。
キドーの状況も山賊と変わりない。記憶は酒に流れて彼方に消えた。いや、勝負を持ち掛けた側がこの有様では尚悪い。
やばいわこれ。トバしすぎたわ。などと焦る理性もとうの昔に無くなった。返答の為に動きの鈍った脳味噌をゆるりと回しながら、また一杯飲み干した。もはや味すらも分かっているのかすら。)

へっへっへっ、俺も忘れちまっ……うっ、ぷ。

(締まりのない顔でにへりと笑う。直後、胃袋から『圧』が登ってきた。胃袋の許容量を超えた酒か、酒と共に飲み込んだ空気か。今のキドーにはどうにも判断がつかない。
しかしともあれ、今回は軽くえづいただけでなんとか飲み込む事が出来た。今はそれだけで良い。)

あんだぁ?まーた下らねえ事やりやがってよう。酔うといつもこうだ。みっともねーこと止めろよな、オッサン!
あー!ぜんっぜん面白くないわ。ウケねーわ。あー寒い。寒いなあ。

(口ぶりとは裏腹に、痩せた肩が小刻みに揺れている。テーブルに肘をついて、笑いを堪える口元をさり気なく片手で隠そうとしている。
そうやって、ひねてスカしたいつもの態度を保とうとしているが、酔って曖昧になった頭と身体では無意味。全く、酒の力とは恐ろしいものだ。)

ん、ふ……ひっ……ひひっ、ふへっ。うえっへっへっへっ……!!

(やがて響き渡る笑い声。彼は笑い上戸であった。)
ゲハハハハッ!!
あ~~~、最高だあ! なあ、おめえもそう思うだろ。なあ!

(キドーにウケた事に気を良くしたのか、周りのテーブルに座る客の肩をごつんと叩いて絡む。小突かれた男はあからさまに冷めた対応していたが、グドルフはお構いなしに笑いながら乾杯を強要していた)

ヤベエな、今度、オクトの野郎にも見せるか。くっくっく。
おれぁ笑いの天才かもしれねえ。バカウケだぜこれ。
(ひとしきり満足したのか、ふらふらと千鳥足で席に戻り。)

あーあー、なんでえ。カラじゃねえか。
酒が足りねえぞお、酒が……ゥオエッ

(空のジョッキを揺らすと同時に、露骨にえずく。身体がアルコールを拒否しているようで、徐々に顔は青白くなっていく)

ハア~~~……こりゃ、参った。
おれとしたことが、油断したぜ……ウッッ

(やがて、足をテーブルに投げ出し、グッタリと椅子の背もたれに反るように倒れ、目のあたりを手で覆う。心地良い酩酊感から、一転。このまま飲み進めるのは限界だ──そうだ、目の前の彼はどうだ、とゆっくりと指の隙間から視線を投げる)
……てめえ今、なんつったよ。

(キドーは血液が遡るような奇妙な感覚を憶えていた。
酒で昂り、麻痺した頭が急激に冷めていく。しかし視界と思考は明瞭にならず、むしろ狭まっていた。目に映るのは見慣れた小汚い髭面。頭の中で繰り返し響くのは、その髭面が発したある男の名前。誰よりも自由だった、あの男の。
キドーが己の怒りの感情を自覚したのは、その次の言葉を発した一瞬後だった。)

テメェの口からその名前が出てくるたあ、どういう了見だ。
終わりだっつったのはテメェだろうがよ。なあ、ついに耄碌したかよ?ええオイッ!クソジジイ!!

(怒声と共に、小さな足でテーブルを踏み付ける。憎たらしい髭面に掴みかからんと、黒く尖った爪が生えた手を突き出した。
汚え髭を面の皮ごと毟ってやろうか。濁った目玉をくり抜いてやろうか。勝負もなにもかも置いてけぼりにして、野蛮で獣じみた衝動がキドーの中で吠え叫ぶ。しかし、その手は髭面には届かず、狭まった視界はぐるりと回った。
テーブルから転げ落ちたのだと気が付いた時にはもう、空き瓶だの食べくさしだのが転がる不潔な床にへばりつくように倒れていた。)

……何が勝負だ。くだらねえ。

(憎たらしい髭面を、酒で濡れた緑色の顔に張り付くモヒカンの隙間から睨め付けながら、キドー「勘定だ」と大声でがなり立てた。
勝負などもうどうでもいい。眼の前の髭面の何もかもが気に食わなかった。消し去ってしまいたいたかった。)
(言ってから、しまったと思った──本来-いつも-なら、『あいつ』もこのテーブルを囲んでいた。だから、酒の勢いでつい、口から滑りだしてしまったのかもしれない。嗚呼──彼に『あいつを忘れろ』と言ったのは己の筈だったのに)

……悪い。

(言い訳しようも無い。たった一言だけ、そう絞り出した。己に掴みかかろうとする青年がテーブルに乗り上げた瞬間、バランスを崩した彼に、立ち上がりながら咄嗟に手を伸ばそうとし──それを降ろした。酒で鈍った思考でもそれは逆効果だと判断できたからだ)

……。

(一連の騒動に、また喧嘩か?と周囲が視線を投げつける。いつもならそんなものは気にも留めないのだが──今は、それが無性に腹が立つ)

何見てんだ……見せモンじゃねえぞッ!! 

(吐き出すように叫ぶ。最初から分かっているのだ。情けない己に対して一番腹が立っている事に。あんなのはただの八つ当たりで、二回りも歳が離れた青年に矛盾を叩きつけられた事が、何よりも恥ずべき事であった。『一番未練たらたらなのは俺の方じゃねえか』──酒に溺れても、ふとした時に思い返してしまう。それがどうしようもなく、やるせなくて。ただ俯いた)
・・・・・・。

(口を固く結び、拳を振り上げ苛立ちを汚れた床にぶつける。激情に身をまかせてグドルフをなじることも、また起き上がって掴みかかることもしない。それが出来るほどキドーは己の感情に素直な若者では無かった。
後のことなど考えず、一度死ぬ気で殴り合えば「ヤツ」のことなど忘れて楽になるかもしれない。そんなことを考えて、そして自ら否定する。そんなダサいマネが出来るか、と。)

・・・・・・興ざめだ。勝ちなんざくれてやるよ。
それとも金か?あぁいいさ!好きなだけ持ってけよ!

(テーブルの端を掴んで強かに打ち付け痛む体を引き起こす。そして、薄汚れた革袋を雑に叩きつけた。
損な性格だとは自分でも思う。思うが、それよりも見栄と意地が勝ってしまった。そして、グドルフの反応が気に食わなかった。謝ってくるなんて。逆上してぶん殴ってくれればこちらもやり返せたのに、と理不尽な憤りと妬みを募らせる。)

あばよしょぼくれたクソジジイ!
また会うこともねえだろうがな!

(結局のところ、若い、いや甘いのだ。甘えているのだ。そしてそれから目をそらす。
濡れたモヒカンを後ろに撫でつけ背を向ける。捨て台詞もまた甘えそのもの。)
(罵声を浴びせられ、肩を竦めて首を横に振った)

やれやれ……嫌われちまったかね。
それとも、遅れて来た反抗期かあ?

(去って行く小さな背中を横目に、ため息交じりに軽口を叩く。すっかり酔いは抜けていた。一度冷静になってしまえば、何てことはない。
こんなやりとりは日常茶飯事だ。ほとぼりが冷めれば、いつも通りの関係に戻ると知っているからこその軽口。そこそこの付き合いだ。
ある程度は、彼の事も分かっているつもりである。体面を気にしがちな彼の事だ。己(おれ)の事を許せない以上に、子供のように感情的になった自分自身の方が許せないのだろう、と。こんな状況で、まだそんな勝負に拘っている辺りも──)

……なーにが、会う事もねえ、だ。
どうせ、明日も此処に居る癖によ。

(お前との関係を終わらせる気はねえよ。まだ、な。男は金の詰まった革袋を拾い上げ、手で弄びながら苦笑した)

──オウ、マスター。
迷惑料込みだ。釣りァいらねえ、取っとけよ。

(ベルトから吊るしている麻袋から金を一つかみ、カウンターに置いて店主にそう声をかけて店を出ようとする。そしておもむろに肩を掴まれる)

え……足りねえって? マジ?

(──破落戸どもが、夢の跡。その現実は、非情である)

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