PandoraPartyProject

ギルドスレッド

造花の館

住い

鉄帝首都のメインストリートに面した家屋。
ところどころ幻想様式の改築跡が見えるので、探せばすぐそこだとわかる。

二人で済むには十分すぎるほどの広さ。
庭には丁寧に手入れをされた花が咲き、華やかな彩りで迎える。
手伝いのものが出入りする様子や、この家の住人である綺麗な少年少女が生活している様子が覗き見えるが……不思議なことに、親らしき人物が出入りするところを誰も見たことがないという。

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(むっつりとして笑わない顔は見慣れたものだったが、今回ばかりは性質が違う。
 その位は「吾」でも分かった。
 でも、それをどうにかする方法は分からなかったし、きっとどうにかできたらな、なんて思ってる内は出来ないのだろう。
 そう「私」は結論付けた。

 結局のところ出来る事をやるしかないのだ。
 一緒に幸せになりたい人としてこの人を選んだのだから。
 知らんぷりをしていろと言われたってそうする訳にはいかないのだ。
 だからむしろ、無視されたのはよかった。拒絶でなければ、関わる理由になるから。

 小声で断ってから、温まったタオルをそっと貴方の頬に当てた。
 表面を撫でるように優しく。
 何度も頭の中で繰り返しながらひび割れを避けて表層の埃や垢を拭う。
 笑えるほどに震える手を握りしめて誤魔化しながら、じれったい程の柔い力加減でゆっくりと)
(よせばいいのに関わろうとする。
 解決策もないくせいに動こうとする。放っておけばどうにかなると、勘づいているくせに。
 一人でもがくなら見てやってもいいが、対象が自分であるというのだから不快が勝る。

 押し当てられる熱源越しに伝わる力加減だけで、怯えが見て取れる。
 不自然に小さく握りこまれた指先は、己に触れぬように、触れぬようにという意識がある。
 これ以上己を逆撫でしないようにという意識。そう思うなら放っておけ。
 何をしてもダメであるなら回答を保留し、その先に備えればいいものを、齧りついてしがみ付いて見るに堪えない己の姿をその耳目に収め続けようとするその姿勢がどうしようもなく自分を苛立たせているしそうすることで貶められていく自分を看過する選択肢を飲まざるを得ない自分に対しても湧く怒りゆえに今の自分がどのような手段を講じればあらゆる苛立ちを振りはらえるかと考えたところで何者にも対抗する術が残されていないわからないことにうち当たることが無力感でありこの場を支配する権限を持つ者はこいつで自分の理解の届く場所に打開策があるかも不明瞭だ。

 ただひとつだけ、わかることがあるとするなら。こいつが『心配した』などと、ただの一言でも発しようものなら、自分は何をしでかすかわからないということだ。)
(マネキンの様にひび割れているくせに、拭った表面には埃や老廃物の気配がした。
 こんな形をしていても人間なのだ。
 そう思うと胸の奥がぎゅうっと委縮して鈍い痛みのような、そんな感覚がする。
 心配ではない、怖いでもない、悲しいには少し近い)

 怪我の治りを速くすることはできないけれど、身の回りを整えることは出来るから言って。
 読みたい本があるなら読み聞かせるし……いつも読んでるような教養本みたいな内容がよければラジオの教養番組のレコードがあるからそっちでもいい。
 それとも、次の準備のために必要な事があれば用意しておく。
 最終的にはお前がやらなきゃならないだろうけど、動けるようになってからやるよりも少しは時間短縮できるだろうし。

(静かに震える睫毛の先に込められた感情を自分は理解する事が出来ない。
 だけどこれだけは言っておかねばならなかった)

 政略結婚でも夫婦だろ。
 だから、一人にする以外は大抵の事はするよ。
(つまり、
      自分が一番求めてやまないものを、与える気はない、という。)


(空気が喉奥を這い進むさまは、低く重い笛の音の囁きの足音を隠し切れはしなかった。)


he……yaァ……へや、へ……
ぼ、クを、ひとりに、させろ
……そうしたっていいけれど。

次は勝つんでしょ?今から準備しておかなくてもいいの?
(千切れた右手首の、神経を通さずに伝わる、シーツを握り込むざらつき。
 そうさせている意思は、主導権を握れぬ苛立ち。無様を散らしている屈辱。
 己の中の傲慢さは、この仕打ちに吠えるべきという。
 一方で、己の中の完璧主義は『然り』と唱えている。
 冷徹さは『苛立ちなど無意味』と論じ、思考そのものの無意味を指示した。
 他者利用を奨励する者は『やらせておけ』と静観を決め込んでいる。
 自分の中で最も価値を成さない部分は何も言わない。

 唯一、自尊心だけが。テーブルの端で騒ぎ立ててている。)



(多数に抑え込まれたプライドは、苛立ちを返すだけに留めた。)
 セレマ。

(努めて落ち着いて名前を呼んだ。
 先ほどの呼びかけは間違いだったかもしれない。何にしろ負けて帰って来たという点を指摘する事でもあったのだから。
 今の姿を見ることも彼の自尊心を傷つける行いには違いないのに。

 そう考える傍らで、今も自分が彼に受け入れられていないという事実に僅かに睫毛の先が下がった)

 わかった。
 部屋に入るのは食事の時だけに控える。それでいいな。
(その提案に、睨みつける視線で返し…………

 ………睨むというには、様相が些か異なった。

 仏頂面に閉じ切った口はそのままであるのに、怒気を示すわりには眉尻が僅かに下がっているようにもみえた。付き合いの長いあなただからこそ覗き見えた違いだったろう。)






(その瞳はすぐに『勝手にすればいい』という投げやりな沈黙の中に隠れてしまった。)
(様相の異なる視線に思わず「やっぱり傍にいる」と口をついて出かけ、飲み込んだ。
 まだ暑いままの湯を張った桶を持ち上げると、こぼさないようにゆっくりとベッドサイドから離れていく)

……もし必要ならいつでも呼んで。

(最後に未練がましい視線を肩越しに注ぎながら告げ、扉をくぐっていった)
(待った。
 静寂が耳を満たすのを待った。用心深く。)

(シーツを被ろうとした。手が足りなかった。
 せめて寝返りをうとうとした。もがいた。手足をもがれた蜥蜴のように。
 背中がひきつるような痛みを感じるだけでどうにもならなかった。)


―――――ハ―ァ…カァ…
(乾いた嗚咽が漏れた。堪え切れなかった。
 これ以上、あれのまえで見苦しい姿をさらすわけにはいかなかった。
 ただですら無様に負けたというのに、勝つべきであったのに、それなのにこれ以上アレの世話になるなどあってはならなかった。間に合ったと言えば間に合ったのだろう。けれど堪えきれなかった。堪えられなかった。)


く……ソぉ……チくしョお………っ…
 ハァーー………フゥ………っ…
(せめて声量を絞った。絞るように努めた。
 奥歯をかみしめて、低く、低く、唸るように鳴いた。
 何度も、何度も、何度も呻きを漏らしてしまう。漏らしてしまった。今まで『勝ちたい』と思った数だけ、そして『勝てなかった』という事実の数だけ、渇いた獣の慟哭を噛みしめた。屈辱の味を食んだ。)
(勝てなかった。
 勝つべきであると、そう定めたのに勝てなかった。
 どんな言葉で飾ろうとそれだけが事実だった。
 それだけならどうにでもなったろうが、今回は勝つべきだった。勝つべきだったのだ。
 負けるなどあってはならなかった。)


(感傷と激情に流されているにすぎないとわかっていた。無駄なことだった。
 だからアルコールに頼らんと、思考を麻痺させんと、そのために伸ばすた手すらない。
 気分を切り替えるための水煙草も、香すら届かない位置にある。
 部屋の中にあって、寝台という孤島の上に縛り付けられた己を、慰めるものは何もなかった。
 己の不出来をなじる己以外の何物も存在せず、それは内側だけでなく外側にもあった。)

(部屋に置かれた姿見。罅割れ砕けた負け犬を映していた。
 なんて醜い。それが自分であることは疑いようがなかったが、認めるには数瞬の時間をかけた。認めたくなかった。けれど認めた。)
(勝つべきだった。
 あといくつ勝ち筋を用意できたはずだと、あの時ああできたはずだと、もっとうまくやれたはずだったと、いくつもの考えが浮かんでは身に刺さった。刺さる度に溢れる痛みを喉奥で噛みしめる。)

(勝つべきだった。
 それとも、せめて殺されるべきだった。人間などという広義な対象へ向ける期待故に命を見逃されるくらいなら、存在そのものを危険視されて殺されるべきだった。それならまだ引き分けを認めてやってもよかったがそうはならなかった。全ての主導権は相手にあった。自分は人間という有象無象のひとりにすぎず、そうでないことを証明できなかった。そしてできなかったのは己の力不足であることは疑いようもなく、身に重くのしかかった。)

(勝つべきだった。
 あいつの名前をだしたからには。
 そのうえで勝てなかったのだから、単に名を貶めただけだった。仮にそうでなかったとしたら、それは自分が取るに足らないというだけなんだろう。いっそ貶めたと信じたいくらいだった。単なる付属品であってはならなかった。
 あいつにできたことを、自分ができなかったということを、その至らなさを己は責め立てた。書面上対等な関係をこさえただけで、並び立つ要素が一切ない捨て石と誹った。返す言葉もなかった。事実として、あいつが自分を殺すことはできても、自分にあいつを殺す力はない。考えるまでもなかった。歴然としていた。一切の情けも容赦も慈悲もなく、喉に焼けた鉄の棒を押し込んだ。)
(勝つべきだった。
 
 『そんなに大事なら自分のものにすればよかったじゃない。』

 あの女の声と、態度と、無関心を借りた己自身が、負けた己の足りない部分をまざまざと指摘する。もっと残酷であれば強くなれた。もっと冷徹であれば痛がらずに済んだ。いままでそんなことが何度もあったろうと事実を指摘する。そもそもこんなことを考えている時点でダメだった。弱かった。中途半端でどうしようもない。勝てる要素などなにひとつない。
 当然の帰結だと雄弁に説いては、もっと差し出せと己を強請った。)




(勝つべきだった。

 勝つべきだった。

 そのことばかりが逃げ場なく己を苛んだ。
 誰にも見られたくなかった。近くに置いたものなら猶更だった。せめて上辺だけでも上等を装いたかったがそれもまた怪しく、いっそ関係性を綺麗に洗い流した方がいいとまで思い始めた。思い始めたが、そこまで思い切りがよければこんな中途半端な身の上にはなっていなかった。
 昔はそうじゃなかった。己は歳をとって弱くなった。)



(一際、強い渇きをもらしそうになって――――――自分の千切れた右手が、己の口をふさぐ。これ以上、弱い姿をさらす可能性を見過ごせなかったのだろう。大した傲慢さだと思った。)
(この扉の向こうには初めて自分が選んで得た大切なものがあるのだ。
 そう、だから、戻ってくるのは必然と言えた。

 だが、決して入る事は出来ない。そしたらもっと深く彼を傷つけてしまう。
 だから……扉越しに聞こえる嗚咽に、痛みが走る程に強く拳を握りしめた。
 彼の気持ちを理解して励ます事が出来ない自分が不甲斐なかった。
 傍に居たいという気持ちで振り回し、苦しみばかり与える自分への嫌悪感で壊れてしまいたかった。
 少しばかり介護の方法を学んで、適切に対処できるかもしれないなんてそんな期待が少しばかりあったなんて恥ずかしくて殺意さえ沸き上がりそうな気配。
 自分が何をしたくて何を望んでいるかなんて、幸せが何かなんて一切見失ってしまって胸の奥で言語化しがたい暗い感情がうねりを上げて荒れ狂っているのをただ抑える事しかできなかった)

(どうして、どうして、気持ちを教えてくれないんだろう。

 もしもその断片でも教えてくれたのなら何だって叶えるのに)


(それが、最強と目される竜種を倒す事でも)


(何も考えたくなかった。ただ命じられたかった。
 何も考えずに、命を果たして、それで喜んでほしかった。作り笑いでもいいから笑って欲しかった。

 でももう、そんな事で完璧には満足できなくなってしまったと、心の底から理解してしまっているので)
(結局のところ、準備をして待つしかできないのだ。
 先の事を考えて備えるしかないのだ。吐き気がする。

 いますぐ貴方を抱きしめてそれで何もかも解決出来るくらい簡単ならよかったのに。
 私は今から病床に相応しい食べ物を見繕ってこなければいけないし、貴方が気持ちを抑えて会話できるようになるまで待たなくちゃいけないし、その時に話しかける言葉を考えなくちゃいけない。
 それはこの先の備えに関わるものでなくちゃいけないし、建設的な物事を選んでおかないといけないのだ)


(考えなくちゃ)
(喉に空いた小さな穴が塞がる。
 会話と、飲み食いの不自由がなくなる。)


(感情に浸るのは、昨日までと決めた。
 なので、昨日のような無様に陥ることは、これ以上ないということにするし、許さないことにする。
 執念だけがより深く根を張った。これでいい。)
(再定義が再生という形で機能し始める。
 内側から軋むような音、同時に軽い痛み。)
(右手首が癒着する。
 別になくてもいいのだが、パーツはあったほうが完治が早い。
 寝た切りの間は掌を握り込む動作を何度も繰り返す。
 寝たまま衰えていくのは望むところではない。気休めでも動きたかった。)
(この頃には腹部の半分が再生、同時に歪ではあるが膝まで形が整う。
 左腕も機能するようになって、上体を起こして本を読む程度はできるようになった。

 それでもあれはボクの面倒を見たがり、飯時は傍を離れようとはしなかった。)
(この日からは運動機能を取り戻すことに時間を費やす…)
(生えたばかりの足で伝い歩きをする様子を見ていた。
 あの方法では片方の足ばかりに負担がかかるなとか、もっと休憩を入れるべきだとか、足首の関節が固いからマッサージしてやった方がいいとか、色々な事が頭によぎって、しかし声をかけられずにいる。

 こと体を動かす事に関しては専門家であるが、一言も相談されてないし。それに、求めてない時のアドバイスは煩わしいものである。

 だから結局、転んだらすぐに助け起こせる場所に居て見ている事しかできなかった)
(階段を上り下りし、一回の廊下から部屋まで歩き、折り返す……

 ………それをひたすら反復する。

 己が過去に重傷を負った時もこのように繰り返した。
 一歩、一歩、そして一歩に、またひとつ増えた欲望を載せ、その重みに耐えうる歩みをするように、徹底的に四肢に教え込ませる。覚えさせる。指の先から足の先まで、正しく己の道具であるように仕込み続ける。
 目を覚ましたばかりの新たな四肢は、容赦を望むよう静かな痛みを訴えたが、これを無視する。5日分の遅れを取り戻すために必要な事だった。




 …足首の関節が、わずかにずれる感覚。
 条件反射染みて膝がくの字に屈曲し、上体は壁に擦りあてられながら床との距離を半身分縮めた。
 罵倒、苛立ちの唸りひとつ零れはしない。)
ば……

(「か」の音は置き去りにされた。
 先ほど思い悩んでいたことは意識さえせずに無理やりに貴方の体を持ち上げ、足首にかかる負担を軽減しにかかる)
 

………歩ける。
(「そうしなければ」ではない。「そうであらねば」という理由から、低く短く呟く。)
そうかもな。吾も止めろとは言わん。

(ゆるゆると持ち上げていた貴方を下ろし、その両腕を握る。
 自身の腕を下に、貴方の腕を上にして、自身の腕を支えにしろと言わんばかりに)

だが、さっきまでのやり方は気に食わない。
お前はもう少し楽に歩けるし、何もない所でつまずくなんて事もしない。
っせえよ、わかってんだよ、そんなことはよ。
調子さえ取り戻しゃこんなことにはならねえんだ。
(礼も断りもなく、その腕に体重の一部を預けると。また一歩を踏み出す。)
分かっておるではないか。

(貴方の一歩に合わせて歩行の邪魔にならないように体を引く。
 そのまま貴方の歩調に合わせて左右均等に力がかかる様に支えていくつもり……)

背筋曲がってる。

(だが偶にダメ出しは飛ぶ)
(ダメ出しを食らうたびに、苛立ちのこもった呼吸を重ねていく…

 が、それに反して対応は素直だ。
 背筋が曲がっていると言われれば、何も言わずにそれを強制するような歩行を努めた。

 それでも、その歩き方はどこか軸がブレているようにふらつく。)
呼吸を乱すな。体が硬くなる。

(歩く度に感じる重心のブレは支えている腕から直接伝わっていた。
 再構築があるとはいえ、足首は不安定にふらついているし、左右の足の疲労具合も違う上にそもそも筋肉が硬くこわばっている。最初から分かっていた事であるが……)

 ……大体わかった。
 一旦お前の足を調整したいと思うが、どうだ?
筋肉を刺激して左右の足のバランスを取る。
まず第一にお前の調子のでなさの原因は筋肉の硬直だが、左右で状況が違うのが悪い。
このままだと左右のバランスがますますかけ離れるので一旦正しい形に直す。
第二にさっき言ったヤツが原因で関節が固くなっている。なので正しい形に戻したあと、すこしばかり緩める。

都合上腰回りを触るので寝てもらったほうが都合がいい。
(聴いて、僅かな間があるが)

任せる。
(概ね即答)
わかった。まず寝台に行こう。

(寝室に向けて体を傾がせて貴方が其方へと向かいやすいようにして)

……一つ、約束してほしい。
施術中に何度も違和感の有無や痛みの有無を確認するが、正直に答えろ。
吾は指先の感覚で骨の位置や筋肉の緊張が分かるが、それがお前にどういう感覚をもたらしているかまでは分からない。
どれだけ調整したとしても動かすのはお前の感覚だ。一番重視しなきゃいけない。
理解した。

(寝台で横になる――自分が横になったうえで、半身を預ける――という、あまりにも無防備で隙だらけな状況に躊躇がないわけではなかったろう。けれどそのことに難色を示し抵抗するほど幼いわけでもなく、沈み込むように寝台を軋ませた。)
(寝台に寝かせてまず行ったのは全身をほぐす事だった。
 弱い力で上から下まで抑え全身を伸ばす。
 強く抑えないのは、貴方の体を壊すかもしれないという怯え……からではない。純粋に筋を傷つけない為の配慮である。
 傷つけた所で再構築されるだけだが、施術がどこまで巻き戻るか予測がつかない以上は安定を求めた方がよいと判断した。
 その手付きに何時も見せる様な貴方への過剰な執着心や羞恥心はない。
 そんな事を思いつけないほどに壊れた貴方の姿が胸を占めて、戻す事に必死なのだ。

 頸椎から背中全体、腕を経由してから腰を通って尻に下り膝裏を介して足裏まで、筋を伸ばし血液がいきわたる様に力をくわえていく。
 それから入念に両足の様子を確認した。
 足を揃えさせて筋肉の張り方を見る。指先で触れてどこが緩み、どこがこわばっているかを確認する。
 やがて原因と思われる個所を見つけ出すが……いきなりそこに触れる事はない。
 筋と言うものはそのほとんどが他の筋と連動している。おかしくなっている箇所だけを治しても、その歪みが別の所に現れないとも限らない。
 故に)

 膝を少し動かしてみて。

(それから、腰の頸椎付近を指で強めに抑えて)

 もう一度動かして。何か変わった?

(そう言う事を何度も行う。出来るだけ遠くの箇所から膝に足首に影響を与える場所を探す。
 主に腰を中心に、時には首や腕なども触れる。腹に触れる事もあった)
……少し痺れる。

(欲望とは、常に嫌悪と恐怖を表裏に纏うものだろう。
 人それぞれ自身の利己主義の観点から欲望をもち、その欲望に対応した嫌悪・恐怖を抱えている……即ち、欲望は弱点と言い換えてもいいわけだが。
 そういう意味では、己は極めて多くの弱点を備えているのだろう。)


(例えば、今ならそう。
 詮索されることの恐怖、そして嫌悪。
 丹念に打ち鍛えた鎧の内側を触れられるような、日記帳を覗き込まれるような……

 それを、掌の中に握りこんで、見えないふりをする。見せないようにする。

 恐れていることを知られることに対する恐怖もまた、己の中にある性質の一つだった。)


(そしてそのようにしてまでこの状況を看過する理由も、内側に隠した。)




あとこれ、なんか…気分悪くなるんだが。
心臓がむかむかする。
 ……何?

(心臓?と訝し気な声をあげた。
 少なくとも心臓に負荷をかける施術を行った覚えがかなったのだ。
 確認するように指先をすくい上げそこから心筋の様子を伺ってみるがおかしい所はない……はずっだった)

 心臓に負荷をかける様な事は行っていない。心筋梗塞や不整脈もない。
 ……風呂に入った時に同じ症状が出た事はあるか?
あ………?


……



………この体美少年になる前は、あった気もするが。
であれば、血行が良くなるとお前はそういう症状が出る……と言うことになるな。

一旦やめるか。
わかった。

(再び足の調整を始める。
 先ほどと同じように、少しずつ抑える位置を変えながら貴方に問いかける。
 全ての痛みを取り切る事は出来ないが、少しでも動くようにするために何度も)
(脚を這う掌、指先と、それに伴う応答をひとつ終えるたび。
 心の臓に降り積もっていく嘔気が、そのまま胃酸の駆け上るように首筋を這って、脳まで登っていくようだった。鈍く、鈍く、鈍く。決定的でなく漫然とした悪心は、思考を妨げ、かといって思考を手放させない絶妙な不愉快さである。
 細く据えた黄金の眼窩の奥から、じつと見下ろす。可能な限り弱っている様を見せないよう、己自身を監視するがごとく、数少なな言葉で応答を続ける。
 それにしてもこいつにこのようなことをさせることを、己は一度でも想定しただろうか。冗談にしては出来が悪い。)



        ………んっ…
 
……痛んだか。

(僅かなうめき声を耳ざとく聞きつけて筋を抑える手を緩めた。
 その声に熱はなく、ただ事実確認をしようとする淡白な色だけがある)

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