PandoraPartyProject

ギルドスレッド

造花の館

翼カルトってなんだよ

「領主~、翼カルトのえらい人から手紙着てますよ。
 要約すると『暇だから遊びに来るね』みたいな感じの。」

この地域で一番の、そしてこの地域では唯一の執政官が、好奇心とデバガメ根性からくる愉快そうな面を浮かべている。腕の中にはポストから持ってきた仕事上の手紙の束。その中にはあのうさん臭い教祖からのの私用の手紙が紛れ込んでいたのだろう。
最近思うのだが、こいつに手紙の持ち込みを任せるのは間違いかもしれない。それか私用のポストを別に分けておくべきだろう。

「へ~~~~……エントランスでお迎えするんですね?執務室じゃなく?
 あんまり仲良くない感じの人なんですか?
 でも仲良くないひとならそもそもOKサイン出しませんよね。」

探りたがりのバカを睨みつけ、仕事に戻るように促す。肩をすくめながら気のない返事で書類仕事に戻っていく。

仲がいいわけではないというのは事実だ。だが使い道はある。
秘密を探られるリスクや、領民に交友の広さを示すポーズをとるならこの程度でいい。というかいまいち得体の知れないやつを屋敷の奥に招き入れるとか普通に抵抗あるだろうが察しろ。

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(―――鬼楽式の和装建築に、幻想様式の家具や装飾が施された…再現性東京人に言わせてみればいわゆる「大正浪漫風」とでもいうべき屋敷。広々としたエントランスホールは、飴色に磨き抜かれた木の温かさと、磨かれた石造りとが混ざり合い、領主の館というよりも役所のような雰囲気を感じさせる。
 随所に飾られた花は季節を象徴する彩りを添えているが、甘い香りも瑞々しさも感じさせない、いずれも造花ばかりである。この館の主の趣味なのだろうか。)
(そしてこの館の主である少年は、概ねこんな顔をしていた。)

(エントランスで客人を迎えるための長テーブルと、その両脇に鎮座した大きなソファが2つ。
 少年は体面に深々と座り込んで「なにしにきたんだよ」という顔をしていた。)


なにしにきたんだよ。
(訂正。実際に口にも出して言った。)

(卓上では今しがた注いだばかりの紅茶が湯気を躍らせている。)
(通されたソファーに遠慮なく座り込み、きょろきょろと興味深げに辺りを見回していた少女だったが、「なにしにきたんだよ」の一言に反応して少年の方に向き直る)

いやぁ、『要約すると、暇だから遊びに来るね』っていう1文だけ書いた手紙送ったんだけどほんとに通してもらえるとは思わなかったや。

いい執政官だね!ㅤ会長ぽいんとあげちゃう!
で、なにしにきた、って手紙に書いた通り遊びに来たんだよ。会長とセレマくんの仲じゃん水臭いこと言わないでよもう。あ、これお土産ね。つまらなく無いものだから食べて食べて。

(そう言って差し出すのはひとつの紙袋。中身はカステラだ)

なんか大正浪漫っぽいところに住んでるって聞いたからさ。それっぽいやつ買ってきたよ。
(よし、あいつは減給しよう。)

暇で羨ましいなおい。
こちとらお前程暇じゃねえんだが…作法をしっているようだから追い返さずにはおいてやる。

(事務員のひとりを呼びつけて、ひとまずは焼き菓子を預からせる……)

……で、遊ぶつってもなんだよ。
茶と世間話以上の歓待までは考えてないぞ。
それともお前んとこの宗教のありがたい説法でもおっぱじめるか。
やぁね、こないだまでは忙しかったんだよ会長もさ。
なんせ文字通り練達が崩壊したからね。復興の支援とか炊き出しとかてんてこ舞いだったんだよ。今はいろんな人に仕事押し付けたからちょい暇だけどね。
セレマくんの領地も確か元は練達にあったんだよね?ㅤいいタイミングで移動したよねー。


ん?ㅤ説法聞く?ㅤ聞いちゃう?
お前んとこのってセレマくんもその一員じゃんやだなー。

そういや入信したばっかの頃に説明求められた時は、健康にしてれば翼生えるみたいな適当な事しか言ってなかった気がするね。
ここらで1回ちゃんと説法しといてもいいかもしんないし、セレマくんがいいなら話しちゃうよ。
適当である自覚はあったのかよ。領地よりもまずは入ってきたやつの対応しっかりしろよ。
そんなだから現状ただ名義貸してるだけみてーな状況なってんじゃねえかよ。
宗教法人としてふわふわしすぎだろ。名前だけにしろ。

まあ実りのある内容なら最後まで聞いてやるし、投資する意義を見いだせればもっと深くかかわってやる。そこはお前のやり方次第だ、やってみろ。
会長的にはふわふわしてるくらいがちょうどいいかなと思ってるからさ。へへ。

んじゃま、話してくからなんか質問あったら遠慮なく言ってね。

まず羽衣教会がどういう宗教なのかってところから。
羽衣教会が「翼を手に入れる為に修練を積もう」って宗教なのは知ってると思うけど、それは実は羽衣教会の表面上でしかないんだよね。

羽衣教会の本質とは、『原罪の呼び声への耐性を持ち、世界の敵たる魔種へ対抗する術を持つ』ことを目的とした、言わば純種に向けた宗教なんだ。

その象徴こそが「自由の翼」であり、それを手に入れることで、今言った「原罪の呼び声への耐性」を持つことが出来ると教えられてるんだよ。

っていうここまでが前提なんだけど、なんかわかんないことあった?
後半の前提は初耳だな。
特にない。続けていいぞ。
んむ。
じゃあここで会長からセレマくんに質問なんだけど。

セレマくんってなんで羽衣教会に入信しようと思ったのかな。
なんかHP減らせるよって言ったら入ってくれた気がするんだけどあれ本気のやつ?
(シトリンの瞳を薄く、薄く、三日月のように細める。
 手元においたティーカップを口元まで持ち上げ、蕩けた琥珀のような溶液に口をつける。)

(ここまでちょうど三拍ほどの間をおいて…)

それは手段であって、手段そのものでも目的そのものでもないな。
だが、そういった手段を求めていたことには違いないな。
それがどう関係する?
(目的ってなんだろ。気になるな〜)

……なるほどね。その辺もっと深掘りしたいとこだけど追い出されそうだから自重するとして。

つまりだね。会長が常日頃から言ってる「翼を手に入れよう」ってのが羽衣教会という宗教的にどういう意味を持つのかってのを言いたかったわけだよ。

セレマくんだったら「HPを減らした先にいる自分」。例えば、百合子くんだったら「EXAを増やした先にいる自分」。

そんなふうに、人には常に「なりたい自分」っていう究極の理想像が存在するわけなんだよ。
んでもって、その理想的な自分になることで「自由の翼」を得ることができると教えられてるってわけ。
………言いたいことはおおよそわかる。

衆人にわかりやすい脅威として『原罪の呼び声』を強調し、それに抗うことを是とする。
その為に用いられるものが『個々人の理想像』で。その目標に至ろうとする信念と成功体験、また実際にその境地に至ることによる自己の確固により、呼び声を遠ざけよう……こんなあたりか。
ツッコミどころはあるが、まあ言うほどの不自然はない。
そうそうあってるあってる。まぁツッコミどころなんて新興宗教の花なんだから気にしない気にしない。

で、そうなってくると、なぜ「自由の翼」が羽衣教会の象徴なのかってところとか、そもそも羽衣教会って名前の由来とか気になってくるじゃん?
それを説くには羽衣教会の歴史を知る必要があるんだけど……大丈夫?ㅤ眠くならない?

会長歴史とか堅苦しいやつ聞いてたら眠くなるんだよね。
そこをそれらしく聞く価値があるように語って見せるのがペテン師と新興宗教の仕事だが?
へぇー、セレマくんでもつまんないと眠くなるんだねぇ。(曲解)

んじゃま、セレマくんに聞いてもらえるよう頑張って話していこうか。
遡ること100年と少し。
練達に一人の青年が居ました。名をカロス・メナイサと言います。
何を隠そう、そのお方こそが羽衣教会を立ち上げた、いわゆる教祖さまなのです。

彼はただのカオスシードとして生を受けた身でありながら、翼を持ち大空を自由に飛び回るウォーカーに憧れを抱いていました。

そして、人々に奇異の目で見られながらも様々な修練を積み、ついに翼を手に入れるに至ったのです。

その時にカロス様は「自由とは、運命という奔流の中に見出す一筋の道標のことである」という言葉を残しました。
会長よく意味分かってないんだけど、多分結果が運命として定まっていても、その過程で色々出来ることあるよねって感じだと思う。
ここまでがカロス様が翼を手に入れた経緯。
でこっからが、羽衣教会を設立した経緯ね。

(そう言って、彼女はここで初めて紅茶に口を付ける)
さっきも言った通り、羽衣教会は『原罪の呼び声への耐性を持ち、世界の敵たる魔種へ対抗する術を持つ』ことを目的とした宗教な訳なんだ。

今では考えられないけど、5年前くらい前までは魔種なんて御伽噺みたいなもんだったじゃん?ㅤ会長もまさかほんとに居るとは思ってなかったし。

でも、それを本気にして、原罪の呼び声を恐れる者達がいた。

彼らは練達に住む純種であり、呼び声の効かないウォーカー達の中で隠れるようにして暮らせば魔種もやって来ないだろうと考えていた人達だったんだ。

でも、カロス様が翼を手に入れたまさにその瞬間、その姿をひと目見ようと人々が集まる中、実際に魔種と呼ばれる存在がその場にやってきたそうだよ。
当然純種の人達は恐れ、命乞いを始めたんだけど、カロス様がその魔種の呼び声を跳ね除けちゃったんだ。魔種はその様に恐れをなして逃げ帰ったとか。

そんな光景を目の当たりにした人達はカロス様を神だと崇めようとした。でも、カロス様はそれを制してこう言ったんだ。

「私は只人です。私に出来ることが、同じ只人である貴方達にできない道理はありません。私と共に修練を積み、私の背の“羽衣”を皆も手にしましょう。さすれば、もはや魔種を恐れることはなくなります」

そうして、みんなで翼を手に入れ、呼び声を跳ね除けようっていう宗教、「羽衣教会」が設立されたって訳。
どう?ㅤ聞く価値あった?

ちなみに会長はカロス様から次期会長を継いだから、羽衣教会二代目の会長になるんだよ。
(最後まで聞き終えた彼は…眉間にむっつりと皺を寄せていた。
 困惑と呆れの混じった「解せない」という様相である。)

…………お前。
いいか、お前。その話はお前かお前自身の近縁が作った作り話という大前提でいってやるがな。
嘘としての出来や聞こえの良さはともかくとして、もっといい話の運び方があっただろ。
どういう意図を込めればその順序になるんだ?
釣り針にしてはデカすぎるツッコミどころだぞ。
(セレマの感想に、彼女は特に表情を変えることはない)

んー、作り話ではあると思うよ。
会長は羽衣教会の聖書に書かれていた、難しいくて冗長でつまんない内容を会長なりに噛み砕いてなぞっただけだからなんとも言えないけど。

まぁ宗教の発祥的な逸話なんてそんなもんでしょ。
それっぽい話を後から信者が脚色して盛りまくって聖書にしたためたようなやつ。

だからまぁ話の運び方とか順序がおかしいなら会長の要約の仕方が悪かったかな?ㅤちなみにどの辺りから?
全部って言われちゃったらそれまでだけど。
それが嘘だというなら少し考えりゃあわかるだろう。
まず宗教というものが自らを喧伝するにあたり、それを手に取った人間に与えるものはなんだ?
考えるまでもなくそれは「安心」だ。
だが、人間というのは基本的に頭が悪いようにできているから、言われない意識しないと自らの感じている不安や苦しさをそれと認識しないようにする工夫が施されている。だから宗教というものはまず最初に「意識するべき苦しみ」を提示し、そこから「安心を得る手段」を提供することでその勢力を拡大するわけだ。

で……あくまでお前んとこの翼カルトは「宗教である」という前提で話を進めるぞ。

宗教が苦しみを知らないバカ共に対する布教手段としてそのような物語を用いるとき、その話の中に盛り込むのは「共感を得やすい苦しみ」「それによって得られる安心」「安心を得るための手段」だ。
先の話の場合は「共感を得やすい苦しみ」が『原罪の呼び声』であり、「得られる安心」が『自己の確立』、「手段」が『目的の達成』ということになる。

そして「苦しみ」「安心」「手段」は、話の中では概ねこの順番で登場する。
「苦しんでいることを意識して」「安心したいと望むようになり」「その方法を知る」という受け取り方が最も理解しやすく、また馬鹿どもの思考を誘導しやすいからだ。
先の話を引き合いに出すなら「原罪の呼び声を恐れるから」「自己の確立を望み」「そのために目的を達成する」ということになる。
だがさっきも言ったがの逸話の順序がおかしい。
まず最初に「恐れ」があり、次に「目標を達成」した。「そしてそこに偶然現れた魔種の誘惑を見事跳ねのけた」…つまり「苦しみ」「手段」「安心」の順番に話が進んでいたということだ。これでは聴衆の頭にしみこみにくい。こういうのは相手が余計なことを考える量を減らすほどいいはずなのに、妙な所で考える余地を作ってしまう。
しかもその肝心の教祖、特別「呼び声を恐れていた」「呼び声に対抗しなかった」という話は提示されなかった。奇跡はあったが実のところ目的が噛み合っちゃいない。

そしてよく考えなくとも、実のところこの3つは全て同じ事について論じている。
「呼び声によって曖昧な自己が脅かされることを恐れ」「それ故に自己を確立したいと望むようになり」「そのために自己を確固たるものにするための目的を達成する」……この読み方になるよな?
そもそも「呼び声に対抗する」ことが目的であるのに、そのために別の目的を設定しなきゃならねえのが馬鹿には難しい問題だ。いやたとえ相手が馬鹿でなかったとしよう、そんなやつはわざわざ「呼び声に対抗するために別の目標に全力を注ぐ」なん面倒な発想を持つか?

いよいよもってこの話のターゲット層が分からねえぞ。
これが宗教法人の作った逸話だったとしたら明らかな「駄作」と言わざるを得ないぞ。
(しばしの沈黙。表情は変わらないまま、時が止まったかのように固まる)

…………。

………………。

……そういうことかぁ!

なるほど、だからいまいちみんなからのウケが悪かったんだ。

いやぁ、会長も思ってたんだよねぇ。なんか変だなぁって。
でもよくわかんないし、別に歴史とか聞かれないなら言わなくてもいいかなと思ってその辺話さずに勧誘してたんだけどさ。
確かに言われてみれば、「苦しみ」「安心」「手段」の順番だと入信したい感じでてきそうだね。セレマくんの言ってることも概ね大体いい感じに理解出来た気がする。

じゃあそれをふまえてなんだけど、どういう風に添削すればいいと思う?
(………苛立ち、ではない。関心とはまた別の思考の動きを見た気がした。

 都合、目の前にいるコレとはなんどか仕事をしたことがあるからわかるが、コレは決して愚かではない。むしろ損得勘定に限って言えば利に聡い方で、自分の利を優先して動く賢明さを持ち合わせている。表に出す感情や意見は凡庸であり、型を外さない程度に臆病で善人ぶっているようでもある。

 秘密を持ちたがるタイプか、利に聡いが衝動的な臆病者か。はたしてどちらか。

 もしコレが前者であるなら、自身の信奉する集団に対し重箱の隅を突くような言動をされていい気がせず、その不愉快さを押しとどめている可能性がある。
 後者であるならこちらの意見を単なる「他所が何か言っている」程度にしか考えておらず、当たり障りのない言葉でやり過ごしている可能性もある。

 ……だとしても「この話が変だ」と認めてしまうのは何か噛み合わない。
 先も述べた通りコレは少なくとも愚かではないのだ。自分の立ち位置や所在について関心を寄せないはずがない……いや、関心を寄せていなかったとするならどうだ?)
その話をするとなると改めてツッコミどころに対する言及をすることに粗に対して言及するし、話が長くなるな。
暇だから話してやってもいいが………茶が温くなっているぞ。逃げ道を用意してやる淹れ直すか?このまま帰るか?
(……うーん、扱いづらい。ここまで下手に出ればおおよその人は侮ってくれるんだけど、そんな雰囲気が感じられない。なんだかずっと値踏みされてるみたいでちょっと怖い。

私の問いへの返答は「知るかよもう帰れ」辺りだと予想してたけど……見くびってたかなぁ。向こうの都合で逃げられるチャンスだと思ったんだけど。

でもそろそろ話を切り上げないとこっちがボロ出しちゃうんだよね。やっぱ私向いてないよなー宗教とか。宗教に向いてる人頭の悪い人の考えることなんて分かんないよ。

どうしよっかなー。逃げてもいいぞって言われてるしなー。

そもそもただ友達になろうと思って来ただけなんだけど……ノリで説法始めたのが失敗だったね。へへ。

……適当言って信用落とすのを許容できるようなタイプにも見えないし……正直羽衣教会を良くしてくれるなら乗っかるのも全然ありなんだよねぇ。

…………さて)
えぇ、せっかく淹れてくれたのに勿体ない。(カップを手に取り、一気に飲み干す)

よし、おかわり貰おう。ついでにツッコミどころへの言及も頂戴。一緒に羽衣教会を良くしていこうぜ!
(なるほど。挑んでくるか。
 単なる馬鹿か、それとも策を持っているか、その後の対応でこいつの査定を改めるとしよう。)


話の構成そのものは、そう難しくない。
御伽噺のひとつでも読んでいれば思いつく。
例を挙げるなら…
昔々あるところに、呼び声に怯える2人の人間がいた。
2人とも己の中にある欲望を自覚し、いざその誘惑が目の前に現れた時に抗えるという、確固たる自信を持ちえなかったからだ。

ひとりは欲望に触れぬように、世俗との関わりを断った。自らの内にある欲望を、己自身とともに封じ込めるように、誰の手にも届かないように閉じこもってしまった。
ひとりは欲望と向き合うことを選び、自らの欲望と対峙し続けた。食べたいときに食べ、眠りたいときに眠り、その時に夢見た目標を追いかけて、誘惑そのものとの付き合い方を模索した。

それから月日が経つ。
閉じこもったひとりは何も満たされず、孤独に震えた。何も成し遂げられぬまま時は過ぎることに怯え、徐々に膨らんでいく欲望に飲み込まれることを恐れた。
欲望と向き合うひとりは満たされ、さらなる夢を追い求めた。鳥のように天を舞う翼を授かりたいと願い、そのための祈りと努力を重ねた。膨らみゆく欲望と共にあることを選んだ。
ある日のこと、ついに魔種が現れる。
この地の者たちを、己の狂気でおかし、魔種へと落とさんと呼び声をかける。

閉じこもったひとりは、扉の隙間より滲み出る狂気におかされ、その呼び声に屈してしまった。
しかし、欲望と向き合い続けたひとりは、忍び寄る狂気に囲まれながらも夢を忘れなかった。次第に強くなりゆく呼び声の中で、ひとりは確固たる自らの欲望にしがみ付いた。欲望はひとりに力を与え、欲望は夢へと昇華される。

呼び声を拒むひとりに、苛立ちを覚えた魔種が手をかけんとしたその時、奇跡が起きた。
天高く自由に舞いたいと願い続けたひとりの背中に、一対の翼が産まれたのだ。その翼は羽ばたきと共に魔種の手を振り払う。その姿に恐れおののいた魔種はその場から逃げ出し、以降二度とその場に現れることはなかった……
(語り終えたころ、ちょうど蒸らし終えた茶葉をティーカップに注ぎ始めた。)

あとのありがたいお言葉やなんやかんやは先のと同じでいいだろ。

これくらいが分かりやすくちょうどよく、それらしい奇跡も添えてあって聞こえはいい。
(ふむ……)

なるほどね。確かにおとぎ話とかで聞いた事ありそうな雰囲気のお話だ。
取っ付きやすくて分かりやすい。
羽衣教会を知らない人にでもすっと入るような内容になってる。

これは一つの例ってことかな?ㅤそのまま使っていいなら会長これ貰うけど。使用料とか要る?
タダなわけねえだろ。金取るわ。

だが使うにしても、ボクではどうしようもならん問題が2~3ほどある。
やっぱお金か。会長もお金好きだから分かるよ。

で、問題と。会長にはさっぱりわかんないから是非教えて欲しいな。
あくまでボクの感想が多分に入るが…ひとつは実際の教義とのズレだ。
この話は「自分の内面と正しく向き合うことで救われる」と説いてはいるが、お前が本来語った話というのは「救われる人間になる術とは救われた人間になることだ」と説いているように聞こえた。
お前のところのカルトの詳細な活動内容は知らないが、度を越した馬鹿でもない限り、遅かれ早かれ話の雰囲気とのズレを感じるだろう。

だがお前が過去にも言ったが…実際は宗教というよりも修行を主にする『道』に近いんだったか? その点を前提に進めて行けば無視してもいい問題ではある。
ふんふん。

聞いた感じだと「救われた人間になる」ための手段として「自分の内面と正しく向き合うこと」があるって考えたらそんなにズレてないと思ったんだけどどうだろ。

まぁ、セレマくんも覚えててくれたように、羽衣教会は「みんなで翼を手に入れるなりたい自分になるために色々頑張る」ってのが主だから、ズレは無視してもいんじゃないかなって思うかな。
あくまでボクの感想だから無視できる部分だな。

だが問題は次だ。
これは教義ではなく、組織としての方針と話がずれている部分になる。
活動内容が修行を主としたひとつの『道』としてお前んとこのカルトを見た場合、その『道』に所属することによって仲間内で共有できるものがない。
つまり、お話に具体的な修行内容とか入ってないから分かんないってこと?

セレマくんが語ってくれたその辺のお話は、あくまで羽衣教会に興味を持ってもらうためのものであって、具体的な修行の共有とかはその後でいんじゃないかと思ってるね。

まずは共有より共感って感じで。なんかみんな共感してあげると喜ぶよね。
まあ実際そこが一番わかんねえよな。お前んとこ。
宗教みてえに加持祈祷に駆り出されるわけでもなけりゃ、礼拝を求めるわけでもない。
修行を目的としているくせに、それぞれの持っている目標が違うから同じ修行内容が有効というわけでもないし。
共感?いるかそんな同情?まあともかく共感があったとして「一流のパン屋になりたい奴」「漠然と金が欲しいやつ」「世界一の力が欲しいやつ」とでその苦しみや喜びを分かち合えるわけでもない。

大丈夫か。実は破綻してないかお前のとこ。
する人はするよ、加持祈祷。
空に向かってお祈りとかね。会長とかは毎日してるし、会長が会長になるより前から居る信者とかは多分みんなやってるんじゃないかな。

まぁ、会長が着任したときにその辺全部任意にしちゃったんだけどね。やりたい人はやればいいしめんどくさい人はやらなくていいって感じで。

こうね、会長的にはなんか何となく入信してるって人が居てもいいと思うんだよね。親が入ってるから流れで自分も入信したみたいな。
とりあえずネームバリューがあれば羽衣教会を知ってる人が増えるし、信心深い人は勝手に修行してくれるし。
母体を大きくする為には自由な方がいいじゃんね。
それにあんまりカルトにすると人を呼ぶのも大変だからさ。特に練達って色んな人種や価値観の人がいり混じってるし。

実は先代からも人を増やして宗教を大きくしていってとしか言われてないんだ。
それを破綻と見るかはまぁどうだろね。破綻してるかも。

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