PandoraPartyProject

ギルドスレッド

造花の館

執務室

一般的練達人を迎える応接室とは違い、セレマの執務室は半分私室と化している。
幻想風の調度品ばかりかと思えば、執務机の中央にはコンピュータのモニターが鎮座し、もっといえばエアコンまでついている。
アンティークに紛れて文明の利器がそこかしこにある。
再現性の民に言わせれば「古典趣味的」な部屋だろう。

セレマは訳知りの個人的客人はこちらに通すらしい。
いつ来ても部屋いっぱいに焚かれた香(のような独特の香り)があなたを出迎えてくれるだろう。
然るべき客人であるならば。


●やってはいけないこと
・知らない声が聞こえても返事をしてはならない
・書類や機械は勝手に触らない
・執務机の載せた天秤はアンティークではないので触れてはいけない

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入れ。
(と、いつも通り。不遜さを含んだ物言いで部屋に招く。
 割といつも通りである。)


そこのソファにでも座ってろ。
ボクはなんか適当に飲むもの持ってくる。
(備え付けの冷蔵庫を開けて……
 まず自分用の酒瓶を手に取る。まあここもいつも通りである。)

(……のだが。
 化粧で隠してるが目の下に薄いクマがある。睡眠不足。
 瞬きの回数が多い。疲れ目。あるいはモニターの見過ぎ。
 香水をいつもより強めに纏っているのは匂いを隠したいからだろうか。
 端的に言えばいつもより美少年っぽくない。
 草臥れてる美少年である。)
(声が掛かった数秒後、ゆっくりと扉を開けて入ってくる。
 片手には小さな包みと、反対側の手には花籠――小さなバラとコスモス等の秋の花で纏めたもの――を持って示された席に腰かけ)

わかった。

(冷蔵庫へと向かうセレマに少しばかり目を細めた。
 何時もよりも強く香ってくる香水の匂い。血色の悪い顔。
 忙しいとは聞いていたが……)

(本当にこの時間を取るだけの余裕があるのか?と問いただせば相手の顔に泥を塗る事になるのに違いないので)

任せる……お前と同じやつでよいぞ。

(何事もないように飲み物の話題に乗っかった)
(躊躇なく酒瓶2本とグラスを引っ張り出した。
 足で冷蔵庫を閉めるあたり、やはり変な所がガサツである。)


・・・さて。
ボクがお前に課した宿題を確認しようか。
何枚かチケットを用意したと思うが、どれを見た?
大体見た。
「人魚姫」「皮膚と心」「奉教人の死」あと映画で「ローマの休日」。

(テーブルに花籠を置いて包みを開く。
 中身はマロングラッセらしい。濃厚なブランデーの香りが部屋の中に混ざる)
結構しっかり観てるじゃねえか。

(グラスに満たした赤いワインを一息に煽って、息をつく)
・・・・・・疲れた時はこれだわ。

じゃあ、早速どういう内容だったかを語って聞かせてもらおうじゃないか。
そのあとに感想も聞こう。

まずは「人魚姫」から頼むぞ。
公演もいつまでもあるものではないしな。

(赤ワインに口を付けないまま軽くグラスを転がして)

人魚姫か。
なんというか、宗教色の強い内容だったな。
海の底にある人魚の王国の末の姫が難破した船から地上の王国の王子を救い出して恋をする。
それから地上の者と愛し愛されて結婚する事が出来れば、人魚にはない魂を得て死後の救済を得ると知り、王子を愛せる見込みがあると思った姫は地上へでて王子と再開する事を望むようになる。
魔女に声を代償にして人魚のヒレを足に変えた姫は、王子に会うが王子は別の人物を命の恩人だと思って居り愛を得ることが出来なかった。
元より、魔女の契約で王子が自分以外と結ばれたら海の泡となる背水の陣である。
命の恩人の娘と王子が結ばれる晩に姫の姉妹が現れて、王子を殺せば魔女の契約は断たれると短剣を渡すが姫は王子を殺さずに海に身を投げて泡になる。
その行いが良しとされて、姫は人魚から別の存在に生まれ変わり数百年の奉公の後に天国に招かれることになる。

……大体こんな所だったか。
宗教か。
確かに、モチーフに反して寓話的とはいえない内容ではあるからな。
どちらかといえば生き方や魂の在処を問う内容ともいえる。
ボク個人としては……動機は下らないが、動機はどうあれ自分が何のために何を選び、どういう存在になるかを自らの判断で選び続けた末の姫の、その在り方はよいものだと考える。
結局のところ死後の救いを求める話のように感じたな。
死は恐ろしい、自分の痕跡が何もかも無くなってしまうのは恐ろしい。
故に降ってわいた王子との出会いに救いを求め、死ねば何も残さない人魚の生から、死後は天国に導かれる人間になろうとした。
それが絶たれても王子を殺そうとしなかったのは……。
そうだな……
多分、殺してしまえばもう見込みが無くなってしまうからでは?
見込み。
(早くも2杯目をグラスに注ぎながら、その言葉の解釈を選ぶように、瞳が数度瞬いた。)

何に対する見込みだ。
本当は余所の女より自分が愛されているのだという仮定にでも命を賭けたか。
それとも人魚としての死後にチャンスがあるという事実を知っていて、そのために殺さずにおいたか。
王子を愛するという自分で決めた誓いを破れば、もはや人魚に戻ったとしても死後に報われる見込みが無くなるのではないか。

もっと言うなれば、王子を殺した後、自分は誰かを愛する見込みが無くなってしまうのではないか。

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