シナリオ詳細
<フイユモールの終>Dragobain Drago Echedi
オープニング
●
――月宮様。なぜ私は『薄明』なのですか?
遠い昔、その小竜は問うた。
月宮竜と謳われた竜の指先を掴みながら――顔を見上げようか。
されば、天には美しき月も見えた。
満月だろうか。月宮竜もその天を見据えながら……同時に微笑んで。
――次なる時代、だ。
――えっ?
――夜になれば月が浮かぶ。されどその後には、薄明の世界がやってくるのだ。
月は浮かぶ。きっとそれは、これからも。
だが月は浮かんだ後に必ず夜明けを迎えるものだ。
『薄明』の時が、やってくる。
己の次なる世を見据える者。次なる世に生きる者。
斯様な意を込めた名だと――先代は言っていたのだ。
「あぁ」
何故忘れていたのか。遠い過去の記憶として。
ならば。
ならば己の成すべき事は――
●
――腹が喰ったら何か喰う。それは生物の本能だ。
ソレに罪はない。ソレに罪を問う事自体が愚かだ。
「だから我はまーったく悪くないのだ」
「御託ほざくのも大概にしといたほうがいいと思いますよ?」
語るは竜種エチェディ。竜種の中でも永き時を生きている――老竜だ。
彼には業があった。それがいつからかは分からない。きっと生まれた時からだったろうか。
彼には『同族を喰らう』業があったのだ。
……同族の血肉以外では己が欲を満たせなかった。
牛も豚も鳥も魚も人も魔物も食ってみたことがあるが。
全く駄目だった。喉の奥に疼く渇きと飢えは満たせなかった。
――だから彼は平然と同族喰らいの一線を踏み越えた。
あぁその時に自覚したであろうか。己の牙が『竜殺し』の属性を宿している、と。
同族殺しの業を背負っている竜は――同族を殺す為の力をも宿して生まれていたのだ。
それは運命だったか。それとも何者かの意図する所か。
知らぬが、知ってからはそれ以降、止まらなかった。
影で喰らった。数多の竜を。まぁ数多と言っても、それもながーい年月の中でだが。
最後に喰らったのは百――二百――いや千――以上前であったあろうか。
『薄明竜』の先代『月宮竜』を。
あの肉は旨かった。至上最高であった。月の光を浴びた肉はアレほど旨いのか――
「ベルゼーが我慢する理由が分からん。どうせ己の宿命からは逃れられまいに」
「そういう所ですよ、ご主人様がクズなの」
「お前ほんま喰らってやろうか?」
さっきからエチェディへと言を紡いでいるのは、彼の片隅に存在している者……夏雲(シアユン)なる少女だ。少女、と言っても只人ではない。彼女は世界を滅ぼす因子を身に纏った……つまりは魔種、である。
彼女はエチェディに付き従う者。エチェディが同族を喰らった際のおこぼれに預かる者。
――彼女も知っているのだ、竜の肉の旨さを。
だから食べたい。もっと、もっと。この同族喰らいの竜の傍で。
「それよりもどうするんですか? なんかヘスペリデス、やばげなんですけど」
「ベルゼーめが遂に暴走しているようだな――
ほっほっほ。奴め、やんちゃしおって。全て呑み込むが如し、だな。
――ならば奴が世界を喰らう前に我は我の欲を満たそう」
「やったー! お肉の時間だ――!!」
「ほっほっほ、はしゃぐなはしゃぐな」
……ベルゼーの暴走は遂に頂点へと達し、ヘスペリデスを呑み込まんとしている。このままでは竜と言えど危険であろう。飢えや渇きを前にすれば、たかが情愛如きで押し留められる筈はないのだ。アレはきっと本当に万物を呑み込む――
で。だからどうしたのだ?
夏雲も恐れぬ。死などどうでもいい。
ただこの底知れぬ食欲が満たされるなら――どうでもいい。
故に両名は『ベルゼーの権能内』へと入り込んだ。
たしか『飽くなき暴食』などと名付けられていただろうか……全てを喰らわんとするベルゼーの腹の中は、まるで永久に続くようにも錯覚する、巨大な空間が広がっていた。其処は――ベルゼーが今までに喰らったモノで満たされているのだろうか。
或いは、内に入り込んだ者達の深い情景が映し出されているのかもしれない、が。
エチェディらがいるのは、ヘスペリデスの一角のように見えた。
天候は夜。月にはとても綺麗な満月が浮かんでいて――と?
「エチェディ」
「むっ。おぉ、ホドではないか――どうした殺意がダダ漏れであるぞ」
「なぜクワルバルツを喰らった?」
その時だ。綺麗な夜空が広がっていた筈の世界に、曇天暴風たる空が混じり始めた。
楽し気なエチェディの前に現れたのは……『叛逆竜』ホド、だ。
背後にはホドが強引に従えているワイバーンの姿も幾らか見えようか。
ホドの抱く情景がこの世界に干渉し始めているのだろうか。天候が荒れ狂う環境こそ、彼にとっての聖地に等しいが故に……しかしホドは天帝種を敵視する竜でありクワルバルツ打倒を目的としていた者――だというのに。今更こちらを敵視してくるとは。
「クワルバルツとの決着は私が付ける予定だったはずだぞ」
「お主が中々仕留めきれぬのが悪い。
まぁゴチャゴチャした言葉遊びはやめようぞ――我と戦うつもりか?
邪魔をした報いだとでも?」
「そうは言わん。そも後ろから討つのが悪とするならば、そもそも裏で組んだりなどせん。ただ――」
――お前、私を軽んじているだろう。
ホドの殺意は今やエチェディに向いていた。ホドにとっては如何なる手段であろうとも天帝種を打倒できればソレで良い……ただし打ち倒すのは必ず自らの手中の範囲内における策謀や実力でなければならない。
ホドの意向を無視したエチェディが『気に入らぬ』のだ。
だから打ち倒す。お前が竜殺しの牙を持っていようとも、知った事か。
「そんなモノ程度で全ての竜に勝てるつもりか? 私はお前を倒す算段があるぞ」
「少なくともお主如き若造のつたない妄想に負けてやるのは難しいなぁ」
「ご主人様。お熱い所悪いんですけど――なんか人間も来てますよ?」
刹那。夏雲が指さした先に見えるのは……おぉ人間共ではないか。
ベルゼーを止めに来たのか。この先にいる奴を、打ち倒しに来たのか。
だがそうさせる訳にはいかんな。この混沌と混乱こそ我の望むべく場。
――そもそもお主ら不遜なのだ。このヘスペリデスに入ってくるなと警告してやったろうに。言の葉が通じぬのか? それとも我を軽んじておるのか? ほっほっほ。どいつもこいつも……
「我に勝てるつもりか?」
竜も、人間も愚かしかおらぬ。
「我は」
我は竜殺しの竜。
我は同族喰らい。我は竜を打ち倒す為に生まれ落ちた者。
我が名は――『竜屠竜』
『ドラゴベイン・ドラゴ・エチェディ』
さぁお前らの血肉を喰わせろ。
●
イレギュラーズ達は歩みを進める。
全ては冠位魔種ベルゼーの下へ至らんとする為に――
彼を打倒するには彼の権能に抗うしかなく、故にこそ『奇跡』をもってして紡がれたベルゼーの中枢への道筋に沿って往こうか。この先にベルゼー本体がいるのだと信じて……しかし。
「いやがったな、あのボケ竜め……!!」
「いよいよ本気でござるな。この位置からでも……ハッキリと感じ申す」
カイト・シャルラハ(p3p000684)に如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は見据えた。
――絶大なる殺意を垂れ流している、エチェディを。
今まで何度か奴と接触した事はあったが、その比ではない。
正に正真正銘、竜としての本気を出して来たという訳だろう。
「竜とは友達になれないのかな……? ううん、リリーは諦めないよ……!」
「近くにはあの悪食娘も感じるな……今度はどっちもと同時かねぇ」
同時にリリー・シャルラハ(p3p000955)は頭を振って決意を固め。同時にファニー(p3p010255)はエチェディとは異なる食欲の気配を感じようか――やれやれ、と。竜だけでも大変だというのに魔種も襲い掛かってくるというのか……?
ともあれ、だ。エチェディらはベルゼーへの中枢に立ち塞がる様に布陣している。
ベルゼーによるヘスペリデスの崩壊でも望んでいるのか――?
己が薄暗い我欲を満たす為に。
……エチェディの竜としての能力は竜殺し。つまり竜に対する特攻性能を持つ。
ならば相対している者が『人間』ならばその能力は利かぬ――のだ、が。
「でも油断は出来ないね。クワルバルツの能力を……使えるみたいだし」
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は言の葉を紡いだ。
そう――エチェディはかつて喰らった事がある竜の能力を扱う事が出来るようなのだ。
エチェディが本性を露わとした時の事を覚えている。クワルバルツだけが使える筈の力を……グレート・アトラクターをエチェディが使った時の事を。
奴はベルゼーと異なり竜を喰らう事に一切の躊躇が無い。故にベルゼーが成しているような喰らった物を腹の内で再現……などという事ではなく、そもそも『自らの物』として自在に使用出来る。完全に腹の内で即時消化しているのだから。
自らの血肉として。自らのモノとして――他の竜の力を。
奴の身体の内には複数の竜の魂が蠢いている。
今までエチェディが喰らって来た竜の力が、其処にあるのだ。
竜殺しの力が人間に通じなかろうが問題ない。
『竜』と言う隔絶した種族の力で踏み潰してこようとするだろう。
老竜とて舐める事など出来ない。いやむしろ複数の竜の力を扱えるというのなら……
その力はどれ程の脅威が潜んでいるのだろうか。
「だが、それでもとお前らは進むのだろう。」
瞬間。どこからか声が――聞こえた。
その声を聞いたことがある者もいるだろう。
――クワルバルツだ。
六竜が一角。人と幾度も交戦した竜種の一角。
だがその瞳に敵対の意思は宿っていない。
「イレギュラーズよ――」
彼女は降り立つ。天自在に舞う、竜としてではなく。
「お前らも往くのか、死地へと」
「クワルバルツ! 前の傷は大丈夫ですか――!?」
「無論だ。あの程度なんのことはない。
それより私を舐めた者を野放しになど――断じて出来んッ!!」
「……その怪我でそこまで啖呵が切れるとは、相変わらずだな」
「姉御ぉぉぉ! 本当にコイツら潰さないようにしながら戦うんですか!!?」
「我慢しろ。討つべきは只一点のみだ」
人と視界を共にする、ただ一体の存在として。
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)にブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は彼女と真正面から――視線を交わせようか。するとクワルバルツの背後には『金剛竜』アユアも降り立とう。
クワルバルツに懐いている彼女はクワルバルツと共に戦う心算だ。
人間と轡を並べるのは、やや不満がありそうな様子ではあるが。
それでもどこまで気遣えるかはともかく攻撃せぬ程度の配慮は見せるだろう。
「……人間よ。古来より七難八苦に挑む者を、勇者と言うらしいな」
「さぁて、ねぇ。どしたの? クワちゃんは俺らの事、勇者とでも思うの?」
「それを見定めにきた」
「どして」
「それが私の名に込められた意味の一つだと、思い出したからだ」
ともあれ、と。コラバポス 夏子(p3p000808)らへと告げたのは自らの立ち位置か。
エチェディを討ちに行く。あくまで竜としての傲慢はそのままに。
さりとて以前の様な見下しはなく――
ただ純粋に人らの魂を、視よう。
「お前達が歴史に名を轟かす『勇者』なのか。
これよりの時代を背負える者なのか。そしてこの私が――
いや。なんにせよこの薄明竜、お前達の魂を見定めてやる。光栄に思え!」
この人間達が竜を超える事が出来るか。
新たな薄明の時を紡ぐ者達かを、見定める為に。
- <フイユモールの終>Dragobain Drago EchediLv:50以上完了
- GM名茶零四
- 種別決戦
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2023年07月25日 21時15分
- 参加人数59/59人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 59 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(59人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
今更言うまでもないが、竜というのは混沌大陸最強の種族だ。
決して只人では抗う事の出来ぬ種。
かつて、高名な冒険者であっても逃げ帰ったという話もあるぐらいだ――
「勝てると思っているのか。我に」
エチェディは高笑う。喉を鳴らして、矮小なる人間達を見定めよう。
竜は最強。その竜に対し殺す牙を持つ我に――本当に勝てるとでも思っているのかと!
「ベルゼーの暴走は止まらぬ。今際の際であるならば、縮こまっておればよいものを」
「――別に、此処がどうなろうが僕の知ったことじゃない。縁も所縁もない地だ」
刹那。かのエチェディに対し視線を向けたのは――憂炎だったか。
彼は知っている。この世は弱肉強食……強者の摂理こそが頂点にあるのだと。
だからこそ……弱いから滅んだのだ。イルナークは。
知っている。あぁ知っているとも――
だが。暴食を放置して世界を呑み込むというのならば見過ごせない。
……待っていてくれている人がいるのだから。
故に往こう。さぁ皆、命の賭け時だ。
彼は予測する。エチェディの動きを。戦場全ての動きを。
数多の策謀巡らせ周囲に号令も下そうか、的確なる戦場の流れへと導くために。
――死んでも僕の所為にするなよ。竜相手に絶対などありはしないのだから。
「でも」
勝ちたきゃ乗ってみるのも手だと。
眼前の一局に――己が全霊を注ぐのだ。
「ったく。少しばかり、危険が過ぎねぇか?
正直あんまこーゆー戦場ゃ出たくねェんだが――
ま、ぜぇんぶ金欠が悪ィんだよ。明日の食い扶持の為に、死にさらせ竜種!」
「皆、しゃおみーより強いから……絶対勝てる! がんばれー!
しゃおみーも倒すのに協力するよ……! だから、ぜったい生きて帰るんだー!!」
続け様にはことほぎや銘恵に動きが見えようか。
憂炎からの加護を受け取りつつ、ことほぎが狙うは邪魔なワイバーン共。自らに纏う魔女の呪いが彼女の力を際立たせつつ――続く堕天の輝きが呪いを降り注がせるか。されば連中の動きが鈍る。
周囲を俯瞰するが如き視点と共に、攻勢の薄い地点へと彼女は往こう。
右を見ても左を見ても激しき圧の応酬ばかり――
刹那の油断でどこぞが崩れぬとも限らぬのだから。
故、銘恵は支える側へと回る。エチェディの撃によって傷つく味方があらば……
「しゃおみーも……頑張るよ! 負けない、ぜったい、負けないんだ……!」
「お爺ちゃん! 御飯はもう食べたでしょ! めっ! 食べすぎは体に毒ですよ!!」
「足りぬ足りぬ。この程度で我が欲を満たすなど――到底出来ぬわ」
彼女を展開する治癒の術式が即座に癒そう。
竜を食べる竜……食べる事を喜ぶ竜……そんなのは、やだ。
百歩譲って自然の摂理だというのならともかく『アレ』からは悪意を感じる。
――だから踏みとどまろう。
皆を生きながらえさせるために。エチェディの好きにさせぬように!
さすればマリオンもまた連理と共に治癒の一手を紡ごうか。リトルワイバーンを駆るマリオンは周囲の状況を的確に見据えつつ、負を祓う光を。傷を癒す力を齎すのだ――
無論、エチェディとて見逃す心算はない。
彼より放たれる命の鐘の音色が誰しもを捉えれば、マリオン自身も傷つこうか。しかし。
「この程度で、ボケたお爺ちゃんなんかに、負けはしないよ――ッ!」
構わず紡ぎ続ける。己が力を……己が全霊を。
そしてその力はイレギュラーズ達だけに留まらない。
ホド配下の――ワイバーンにも幾らか注がれようか。だって。
「回復の御裾分け……じゃないけれど。横暴な上司に無理やり命令されて戦わされてるんだもんね! 君達だって生きていいんだよ! これぐらいのオマケはないと――君達もやってられないよね……!!」
『ギィ……!』
――なんとも不憫な彼らを放っておけないから。
さすればなんとなし、ワイバーンの攻勢はイレギュラーズではなくエチェディのみに注がれるような……そんな気配も見えようか。気のせいかもしれぬが、しかし脅威は竜の方であるとやはり彼らも思うからだろうか――
「竜種……相手にとって不足なし、ですね。
一瞬の隙が致命傷に繋がりかねない相手です……油断せずに行きましょう」
更に連理は周囲のイレギュラーズが動きやすい様に援護の立ち回りを見せるものだ。己に成し得るは攻勢よりも護る事なのだから――未だ此方の邪魔をせんとするワイバーンがいるならば、その注目を引き付ける。
今作戦の趣旨は竜屠竜の打倒にあるのだから。邪魔な存在を引き付けておくほど勝率が上がる――具体的には、そう、命を大事に、ということです。えぇ。
「うぅ、竜かぁ……!
やっぱり何回見ても、こっちに完全に敵対する竜って怖いものだね。でも……!」
「あの老竜さんの思い通りにさせる訳にはいきません――
飢えた者同士でも、ベルゼーさんの様な思いやりはないようですし」
そして帳もまた、皆を支え皆と共に生き残る意思と共に――此処にあるものだ。
始原の泥にて敵を押し流そう。亜竜やエチェディらの攻撃が舞い込んで来ようと、怯むものか。
――観測端末の言う通り、エチェディの内にはベルゼーと異なり慈愛や慈悲が欠片もない。故に、奴を放っておけば……奴が食す竜が全て無くなれば……きっと遠慮も加減もなくこの世界を喰らわんとするだろうから。
「当端末の全リソースを投じます。皆さん、ご武運を」
観測端末は飛翔する。そして傷が深い者達を中心に、治癒の力を投じようか。
殺意飛び交う戦場だ。一人の欠けがどう転じるかすら分からぬ。
だからこそ負傷者のデータを常に観測しつつ――他の治癒者とも連携を行おう。
「しかし……竜といっても内ゲバをするとはな。
種としての精神的な成熟度、それは人類と大して変わらんのかも知れんな。
或いは知恵ある者達の業であるのかもしれんが――まぁ、どれでも良い事か」
直後には一嘉もまた戦線へと出でよか。その手にありしは、禍々しき大剣であり。
「さて、ディスペアーよ。絶望の大剣の力、今回も希望を切り開く為、使わせて貰うぞ」
さりとて一嘉はソレを、勝利と希望の為に使おうか。
狙うはエチェディ。斬撃数閃、奴の大技を喰わらぬように注意しながら――攻勢を忘れぬ。
攻めねば勝てぬ。敵は竜。悪意あれどもその種に宿る力は本物だッ!
「さあて、覇竜の乾坤一擲というやつだな。命がけで気張るとするか!
鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。お前たちも気の毒だが、ひとつ手合わせさせてもらうぞ!」
「竜もワイバーンも御大層な数がいるものだ……
まぁ、いい。命の危機を感じる程度の戦場が、以前の勘を取り戻すにも最適だろう。
――リハビリ代わりに相手をしてもらおうか」
エーレンの紡ぐ神速たる一閃。すれ違いざまに斬り抜ける超速が瞬けば、更にジェイクの銃撃も続こうか。数多を巻き込む掃射が全てを捉え――竜共の動きを鈍らせんとする。
だがジェイクの本命はワイバーンではない。狙うのは……
「――叛逆竜。お前だ」
「――矮小なる蟲め。私を穿てるとでも、本気で信じているのか?」
「さてな。むしろ、そちらこそ俺の脳を痺れさせるに値するのか、見せてもらおうか」
ホドだ。奴はエチェディを主に狙っているようだが、同時にイレギュラーズ達も薙がんと無差別に攻撃を仕掛けてきている……だからこそジェイクは奴も見逃さない。竜にあるとされる逆鱗を穿たんと――引き金を絞り上げようか。
竜だからどうした。こっちが其方の力を測ってやるとばかりに。
いつまでも天上に座すると思うなよ――竜よ!
「不遜だとか愚鈍だとか知った事か。
戦場に出たんなら覚悟決めてブッ飛ばすだけだろうがよぉ!
竜鱗が何だ。今の今まで研鑽してきた人間共の技術を舐めんじゃねぇぞ!」
「うおおお! そうにゃ!! 人類なめんじゃねーにゃー! 人類には火事場の馬鹿力ってのがあるように、みえねー可能性ってのがあるのにゃ!! 妾、人形だけど!!」
更にリサにシュリナもホド側へと参戦しようか。
リサはとにかく片っ端から弾丸の雨を降り注がせてやる――ちっとでも怯んだならば、好都合。続け様の一撃で更に体勢を崩してやろうではないか! 竜だからって人を見下してたら痛い目にあうって事を教えてやる!!
シュリナも、エチェディの攻勢範囲に入らぬように注意しながら、ワイバーン共をぶちのめしていこうか。良い月夜、不機嫌ドラゴンに嵐と時々ワイバーン……と。とんでもねー天気に頭おかしくなりそうだ、が。
「微力を尽くすとするにゃ。生きて帰る為にも――出し切らないといけないんだからにゃ!」
「竜退治の邪魔はさせません! 誰もが身命を賭しているのですから……!!」
続け様、ハンナも戦場へと辿り着くものだ。いずれを見据えてもまるで地獄のような光景。
これが、竜達の戦いですか。ここに、皆が行くのですか。
……ならば自らに出来る事をしよう、と。彼女はワイバーンへと干渉を。
この身体が動く限り尽力する。それがきっと、皆の命を繋ぐだろうから!
「むりやり 従えるとは 竜らしいといえば 竜らしいのでしょうが ……
しかし それが仇になることも あるのだと 思いませんか?」
と、その時だ。ホド配下のワイバーン達に想いを巡らせているのは、ノリアである。
彼女は思考していた……良くも悪くもホドは余程の事がない限り、細かく人類個体をそれぞれ認識はしないだろう、と。人間が蟻を見ても顔が分からぬ様に……だから、ピーンと来たのだ。自らが――ゼラチン質のしっぽに食欲的な意味での魅力を携えれば、注意を引けるのでは? と。つまり……
「わたしのしっぽが おいしいことで 皆様を ワイバーンたちから まもれますの! さぁ ワイバーンたち こっちですの! おいしいのが いまだけ ここにありますの!」
故。彼女は動く。見せつけるようにしながら――ワイバーン達の前へと躍り出るのだ。
然らば確かにワイバーン達は無謀な戦よりもノリアの方へと視線を滑らせようか。
……尤も。ノリアの強靭ぶりは、見た目ほど無傷でなんとかなる餌では――決してないのだが!
「あれがホド、か。やれやれ面倒な時に来てくれるものだね……
今、エチェディに喰われたりなんかしたら、エチェディがより強くなる」
次いで零時も皆に戦の加護を齎しつつ戦場に到達するものだ。
もしもホドに万が一のことがあれば、余計に手が付けられなくなると……
故に足止めする事を念頭に彼は動こう。
そうすればエチェディに対応する仲間達が専念できる事にもなるだろうと――
「直接戦う事だけが全てじゃないし、ね」
いざと言う時の一押しの為にも零時は動く。 時に治癒の術も巡らせつつ戦線を支える事を重視するのだ。周囲の味方を強化しうる加護も、自らの武具から分け与える事が出来るが故に……とにかく立ち続ける事を重視し、恩恵を齎し続ける。
そして。ホドを狙うのはジェイクやだけではない。
「どこまでも傲慢。どこまでも人を見下す……人間嫌いで理不尽な程強い。
竜とはもう何度も戦いましたが、1番イメージに近い竜ですね。
――では、モダンジャズを始めましょうか」
「ああ――それじゃあ、始めようか。人生何度目かの、竜と戦だ」
それが、彼者誰や京司だ。
例えばクワルバルツの様にイレギュラーズを寝割らず、単純にエチェディだけに攻勢を仕掛けるのであれば放っておいても良かったが……奴の傲慢振りはそんな事を許さない。ならば仕方ないと、京司は吐息を一つ零しながら。
「人間嫌いならそのまま、すっこんでおくれよ!
――奴を喰わせる訳にはいかないッ! 皆、行こう!」
「随分と雨や風と縁があるようですが――
生憎と、俺も雨とは相性がいいもので。負ける気がしませんね!」
「クズ共が……! 貴様ら程度の力量と私を同列に語るか!!」
熱砂の嵐を放つと同時に号令をかける。ホドとてエチェディの能力の事を分かっていれば早々簡単には喰われないだろうが、此処には夏雲という不確定要素もいる。故にコントロールを握る為にも足止めの一手を放つのだ。
続くは冥夜。ホドの周囲で吹き荒れ、更には奴の攻勢として転じてくる天候の余波を――しかし彼は優れた感覚で乗り越えんとする。見逃さない。一瞬たりとも竜から目を離してなるものか。
周囲の者らに戦の加護を齎しながら冥夜はそのまま敵を引き付ける一撃へと移行しようか――戦場に瞬く炎が敵の目を引き付けるのだ。
「京ちゃん、俺の側にいてね! 敵は竜だ――一瞬でも気を抜けない!」
「ハッハ!さぁさぁまた迷惑客の追い出しだ。
こういうのは任せてくれよ――なぁ。男は根性、だな冥夜サン!」
「えぇ。いい心がけですねオラン、男は根性……そして自信だ!」
叩き込むぜ! 任せろ――そう紡ぎながら冥夜の更に前へと出でるのはオランだ。
ホドに近付けば近付く程分かる。一瞬でも判断を誤れば死ぬかもしれない威圧がある、と。
しかし、だから何だというのだ。
――男は根性。魂で動いてんだよ!!
「オラオラオラッ――! 殺れるモンなら殺ってみろってんだ――ッ!!」
「そんなに死にたくば、死ぬがいいわッ!!」
オランは踏み込んだ。死線の一線を越えて――!
放たれる炎の一撃がホドへと襲い来る。無論、ホドの側もオランを薙がんと反撃の一手を紡ごうか……やはり竜たる者の身体能力は異常であり片腕を振るうだけでも人間を時に木っ端微塵に出来るだろう威力が秘められている――だが。
「そうはさせないわ。随分と人間を敵視しているみたいだけど……
昔々人間に酷い事でもされたのかしら?
後で頭を撫でながら話を聞いてあげるから、今は大人しくしていて頂戴ね」
オランの命を奪わんとする一撃をルミエールが防いだ。
奴の動きに合わせて足止めしうる術を叩き込んでやったのだ。それは四方より迫る土壁の術――ホドの動きを鈍らせ、至近で戦いを挑むオラン達の援護を成さんとする。ホドの動きを止める事が出来たのは一秒にも満たぬが……されどその一秒こそが命を繋ごう。
「――どいつもこいつも! 頭が高いわッ!!」
「おっと、そうはさせませんよ」
であればホドは煩わしいルミエールへと視線を滑らせようか。
それは勿論、彼女を狙い定めたという意味。
故に彼者誰は即座に動く。攻勢を止め、彼女を庇わんと跳躍したのだ――
「貴方達を護る事こそ私の仕事ですからね、護られて下さいまし」
「ええ――ありがとう、彼者誰。でも無茶しなくていいのよ。どうせ私の命はきっともう――」
「しかし強靭ね、これだけ攻めているのに……身じろぐ様子すらないなんて。
良い意味でも悪い意味でも、このまま健在でいてほしい所ね」
庇い立てた彼者誰へと即座に冥穣が治癒の力を繋ごうか。
同時。冥穣の思考の片隅にあるのは、ホドの現状と『その周辺』の事だ。エチェディがどのように動くかも未知数だが、どこかにいるであろう夏雲の事も気に掛かる。魔種と竜では基本的には後者が強い――とも聞くが、されど油断はならぬものだ。
エチェディや夏雲がホドを食べちゃったらもっと大変な状況になるのは間違いない。
(食べられる前に倒す……まではいかなくても食べられるのだけは止めなくちゃ!)
冥穣は動く。連中の接触を阻むべく――最大の警戒をしながら。
「ホドも敵ッスが、別に食べられて欲しいわけじゃないっス。
そもそも……ホドがなんであそこまで人を毛嫌いするのか、知らないんスよね。
――だから、こんな所で倒れてもらっちゃ困るっス。
ホド、過去に一体なにがあったのか――教えてほしいッス!」
直後。ライオリットも暴風を操るホドを見据えるものだ。
敵は敵でも出来れば好敵手になりたいと思っている。
竜としての気高さを持つホドは――正に、竜らしいと思っているから。
故。ライオリットは彼の過去を知りたいと質問と共に心を読む術を巡らせようか。一瞬ではとても読み切れない、が。なんとなく刹那だけ映った光景は……クワルバルツの先代との戦いの際に、人間に妨害されたから……?
詳しく聞いてみたい所だが、しかし今は。
「どっちが先にエチェディを止められるか競争っス! 異論は認めないっス!」
「勝負のつもりか? 只人如きが竜たる私になんたる不遜な……むっ!?」
ライオリットの提案に露骨に厭そうな顔を見せるホド――それ自体は予測出来たライオリットであった――が。正にその時だった。会話の横から『何か』が飛来する。
「ほっほ。人如きにかまけるなど、叛逆竜の名こそ落ちたものだのぅ」
同時。声が響いたと思えば、彼方より超威力の一撃が飛来した。
それはホドの身を微かに抉りながら、更に突き抜けてイレギュラーズ達にも襲い掛かろうか。
「ぬ、ぐ――! これが、蓋世竜の力か……!! おのれエチェディめ……!!」
「――わーい。隙だ隙だ~! いただきまーす」
エチェディの放った一撃。蓋世竜の権能……ソサエティ・ファースト。
あらゆる防や加護を突き破る力に加え、エチェディ自身の竜殺しの力も乗りて尋常ならざる撃となっている。ホドの身を蝕んでいるだろう――が、重要にして問題なのはソレではない。
エチェディの一撃に乗じて動き出した夏雲の方だ。
戦場を暗躍する彼女が、遂に殺意と食欲を前面に押し出した――
ホドを喰らわんとする。竜の肉。この世屈指の美味たるソレを噛みしめる為に――!
「そうはいかねぇな」
だが、その一瞬に介入を果たしたのはベルナルドであった。
直上。本来であれば荒れ狂う天候であり、とても真っすぐには飛べぬ筈の空よりベルナルドは襲来した。余程その強襲は意識の外であったか――夏雲は『ふぎゃあ!!?』と声を挙げながらベルナルドの一撃を完全に受けてしまう。
それでも逃がさない。ベルナルドはそのまま夏雲に追撃の一手を放ちて。
「たとえ竜を喰らおうと、お前さんの腹は満たされねぇだろ。魔種に堕ちちまったからにはな。これからも永劫、永遠に――腹を空かせ続けるだけだ。なら、そんな苦しみを味わうよりも……ここで倒してやるのがせめてもの情けだ」
「うぅ、何をぉ……! 邪魔するなら、みんなみーんな食べてあげるよ!」
「いえいえ竜は喰わせません、代わりにコイツで我慢しとくっすよ!」
であれば。夏雲は当然と言うべきか、ベルナルドへと極大の殺意を向けようか。
別に、先に君を食べてもいいんだよと言わんばかり――口を開けながら、跳躍。
故に慧も介入する。自らに防の加護を齎しながら、夏雲を足止めせんと。
同時に打ち込んだのは彼女の動きを縛らんとする簡易封印術――!
「どーも悪食さん、また会ったっすね!」
「ぬぐぐー! なんで邪魔ばっかりするの!」
「貴方が満たされない程の空腹を――そして被害を撒き散らすからですよ」
じたばた。魔種としての膂力で強引に引き千切りながら夏雲はイレギュラーズ達に舌打とうか。手に抱く、妙に強靭な骨を一閃しベルナルドや慧を薙ぎ払わんと、一閃。だがまだ彼女に対する圧は止む事はない――続いたのはチェレンチィである。
遂にエチェディが本性を現したか、とチェレンチィは想うものだ。
死をも恐れぬ貪欲な、底知れぬ食欲……
付き従う夏雲にも同様に在るのだろう。こんな所にまで来てしまうぐらいなのだから。
「なぜ、そこまで食べたいのですか」
夏雲の一撃。チェレンチィは掻い潜る様に超速度をもってして踏み込もうか。
躱し、彼女の背後に回りながら――
問う。その食欲の根源を。なぜ満たされないのかと。
「何が不思議なの? 誰だってお腹が空くのは当然の事でしょ?
そしたら美味しいモノを食べたいって思うでしょ?
――だから私は食べるんだよ。我慢なんて身体に毒だから。人だって、竜だって!」
刹那。夏雲が口を大きく、大きく開く――
大喰らいだ。空間諸共喰らわんとする、彼女の食欲が形となって力を成す!
――だが、させるか。逃れられぬ業を背負っているというのなら。
「仕留めます……此処で!!」
「何も食べさせねぇぞ――終わりなんだよ。お前の道は、此処でな!」
此処で彼女の業を止める。
チェレンチィは攻め立てる。雷を纏い、全てを置き去りにする神速の一撃を――彼女の鳩尾へ。五指を固めた拳の一閃は夏雲に直撃せしめ、更にそこからコンバットナイフによる斬撃へと転じようか。
それでもと夏雲は未だ全てを吸い込まんとするなら、ベルナルドが掌底一撃。
吹き飛ばし、距離を強引に取らせて誰も彼もをその口の射程から剥ごう――!
「全く! 空にはチートみたいなボスがいて、片っ端から周囲を攻撃する竜も、魔種もいるだなんて……最悪にも程があるってもんだよ! でも――!」
更に続けて昼顔も往こうか。あぁ本当に怖い戦場だ、恐ろしい! でも!
「誰かが死ぬ可能性考えたら……逃げる訳にいかないじゃん!!」
「あは、あははは! 心配する必要はないよ――皆仲良く私が食べてあげるから!」
「そういうのは御免被るね! 皆も僕も、死なせるもんか……!!」
昼顔は全霊をもってして癒しの力を紡ごう。
誰もあげない。誰も――肉(したい)なんてさせるか!
夏雲はそれでもと貪欲なる攻勢を仕掛けようか。昼顔の治癒を突破せんと……しかし夏雲にとって悪い状況だったのは、エチェディからの援護をロクに受けられぬ事か。
命の鐘。あれを常時発動しているが故にこそ、夏雲は近寄れぬ。
なによりエチェディに攻勢を仕掛けているメンバーが多い以上、エチェディも夏雲側を支援してやるのも難しかった――まぁエチェディにそもそも『その気』があったのか分からぬが。
「食べれるなら、死ぬのだって怖くないの?」
高速の攻防応酬。その狭間に、セチアも斬り込んだ。
……夏雲は己が命よりも食欲をこそ優先しているように見える。実際にそうだろう。
それほどの狂気的な想いがあるとは――
「私は死ぬのは怖い。生きて彼に会いたい」
「ふぅん。誰かいるの? ――食べてあげよっか」
「結構よ。会わせてもあげない。代わりに私の全身全力、味わって!」
セチアは、守ると決めたなら最後まで守り通す。
そうじゃなきゃ、彼にも私自身にも誇れないから!
大喰らいを誰も彼も警戒しながら、攻防を繰り返す。
さすればやがて、人数に劣る夏雲の方に疲労が明らかに見えてきて……
「あああもう! 私は食べたいだけなんだから――退いてよぉ!!」
「いいえ悪食さん。食べたいのも限度が過ぎるなら、それは罪なんすよ!」
では。と慧は紡ぐ。
薄明竜の力を宿した一撃で――夏雲に襲い掛かりて彼女の身を吹き飛ばすのだ。
それはグラビティ・ゲート。重力を操る吹き飛ばしの力……そして。
「看守として終わりを御馳走しましょう!」
「どこまでも食べすぎなんです――そろそろ『御馳走様』を覚えましょう!」
セチアとチェレンチィが最後の一撃を繰り出そう。
止まらぬのならば終わりを。開かれんとする夏雲の口を閉じさせるべく。
顎を上に打ち抜き――そして無防備となった腹を、穿ち貫く。
「――ぁ、ああ。は、はは」
されば。夏雲は吐血するものだ。
顔には微笑みを張り付けながら。かつて味わい、忘れられなかった……
「死ねない、死ね、死ねない……まだ……竜の肉、とーーても美味しかったんだから」
極上の味を、思い起こしながら。
「むむ? 夏雲……ほっほっほ。所詮は人の子か」
同時。エチェディは戦場の変化を微かに感じ取ったか――
しかし動じぬ。どの道、己で全て潰し消し飛ばせばいいのだからと。
……実際、エチェディの能力は脅威だ。
奴は様々な能力を行使してくる。まるで七体の竜を相手取っているかの如く。
命鐘竜の権能が周囲の生命力を削り。
蓋世竜の権能が超常の力と共に薙ごうとしてくる。
破邪竜の権能が自身に襲い来る負の要素を消し飛ばし。
鬼神竜の権能が戯れてくる虫共を弾き飛ばせば。
月宮竜の権能がエチェディの肉体を保たせる――
「竜を喰らえば喰らうほど強くなる竜、か。
これ以上他の者や他の竜を食わせてたまるか! 何が何でも奴は倒す……!」
しかしそれが限度ではない。もっと竜を喰えば、もっと竜の力を使うのだろうと。
フィノアーシェは確信している。幸いなのは奴が暴食の魔種でない事か――?
「ほっほ。別に、小うるさい声に応じてやっても良いのだが、の。
ま、飯は素面の時に喰らうのが一番良いのよ。酔いは味を濁す」
と、その時だ。エチェディはフィノアーシェの思考をなんとなく悟ったのか、応えよう。
――そう。エチェディは別に反転してもいいのだ。
もしも此処で生き残りでもしたら己が欲望の儘に身と魂を堕とし。
ベルゼーの代わりに――世界を喰らう旅に出ても良い。
竜の魔種。それもまた面白い!
「狂った者め……! 貴様なんかに食わせられるのはこれだけだ……受け取れ!」
やはり此処で必ず食い止めねばならぬと――フィノアーシェは攻勢を仕掛けよう。その過程で多少の反撃を受けるのは織り込み済み。その力の一部を反射して……むしろ傷の一端となしてやろうか。
それでもエチェディは揺らがぬ。
人間一人程度の力なんぞでは何のことは無しと喉を鳴らす――
「なんか腹立つジジィね。全部全部自分以外は取るに足りない存在って感じ?
――見下してんじゃないわよ耄碌ジジイ。ちょっと長生きだからって偉いつもりなら」
鼻っ柱蹴っ飛ばしてやるわ! 紡ぐは京だ。
固めた五指に膂力が宿る。全身から超高温の火炎が出でたと思えば――跳躍、高速。
雷電身に纏いて吶喊しようか。命の鐘の響きが聞こえるが、知った事か。
届く前に離脱する。アタシの命を好きになんてさせやしない。
「むぅ。すばしっこい小娘だの。先に殺してやろうか」
「ハッ、やってみなよ! ニンゲンさまを舐めてんじゃないわよ!
……あ、いや、アタシはニンゲンじゃないけど。
まぁ細かい事はいいわ――底力ってヤツを見せてやるわよ!」
打ち、跳躍。蹴撃、離脱。神速のコンビネーションが瞬く様に。
エチェディが爪を用いて彼女を薙がんとするが、倒れるものか。
こんな程度で。あぁ、芯に達する一撃なんぞには程遠いのだから――!
「……底知れぬ食欲を持つ竜、ですか。
私も暴食を持つ者。過去に実の兄を食い殺し掛けたこともあります」
「ほう――因果なモノだな。どうだ。兄は旨かったか?」
「――そう言う所です。私が、貴方の事を共感できないのは」
その時、ミザリィは奥歯を噛みしめる。底知れぬ食欲。暴食。
あぁ百歩譲ってそれは良い――良い、が。
「けれど命を頂くことに感謝も罪悪感も無く。
我欲のためだけに貪り喰らうその姿には吐き気がします」
「我は正直なだけよ。お主も『そう』なるとよい。随分と、楽に生きれるぞ?」
「もう結構」
その口を閉じて頂きます――
「私はミザリィ……真名ミゼラブル・メルヒェン! 無情なる御伽話を冠する者!」
その喉笛、食いちぎらせて頂きます――ッ!
ミザリィは往く。許せぬ存在を喰らう為に。
ブリギットおばあさん、フローズヴィトニル、どうか力を――ッ!
「満たされぬ腹を抱える者は厄介であり、哀れでもありますね。
どこまで生きても付きまとう業があるとは。永遠に追われ続ける訳です、貴方は」
そしてエチェディへと向かう者らを支援する様にセスの力が駆け巡る。
癒しの術だ。急速に巡りて、前線の者らの傷を治癒していこうか――
……己は食事の要らぬ機械であるが故に。あらゆる欲求が薄い存在であるが故にエチェディの暴食を根源から理解するは難しい。ただ、それでも想えるものだ。『憐れ』だと。
「際限なき欲望は毒でしょう。終わる事が唯一の最善かと」
「ほっほ。食べる事の幸福を知らぬか――木偶が」
瞬間。エチェディは力を振るう――それは蓋世竜の力。
再びのソサエティ・ファースト。木々を穿ち、大地を抉りて何もかもを貫こうか。
直撃すれば危険だ。これは……竜ですら屠るかもしれぬ。
「用心しろ、アユア。お前の鱗がどれほど硬くとも、あの老いぼれの爪は相手が竜である限り、貫くだろう。奴の前では、竜は、バターのようなものだ」
「むむむ……確かにアレはヤバそうだな……」
故にエクスマリアは言の葉を『金剛竜』アユアへと向けるものだ。
アレには気を付けるべし、と。であれば人には排他的なアユアも流石にエチェディの一撃には警戒の色を見せるものである……そう、エチェディに掛かれば竜はそこまで倒しづらい存在ではない。
その為に、人間側に竜の味方がいても――この戦場の踏破は容易い事ではないのだ。だが。
「だが上手く殴り返せば、その硬さは強大な武器でもある。
顎を砕いてやれ、もう二度と好物が食せぬように」
だからと言って竜の一撃が通じぬわけではない。
エチェディはあくまで竜に対する攻勢が異常に強いだけだ。
竜からの攻撃に対してまで堅牢な訳ではない――そこに付け入る隙はある、と。故にエクスマリアもエチェディに意識の狭間を作るべく、隕石を招来せしめようか。降り注ぐは万物を砕く鉄の星がエチェディを穿たんとする――
「アユア。これが終わったら、たくさん話をしよう。お互いを知るために」
「やだね! 今回は姉御に言われてるからってだけだからな! ふん!!」
「やれやれ。まぁそれでも敵対しないでいてくれるだけありがたいな。堅牢さは折り紙付きだ」
同時。アユアの傍にはエクスマリアだけでなくハリエットやラダの姿もあろうか。
ハリエットはアユアと仲を深めたいのだが……相も変わらずけんもほろろだ。しかし言葉の節々に棘は少ない気もする。折角の共闘の場であればこそ――歩みを共にすればこそ――更にその心に踏み込めるだろうか。
私は惹かれたんだ。元気でくるくる動くその姿に、真っ白なその姿に。
――貴方も、クワルバルツさんも。こんなところで死なせたりはしないよ。
ともあれ。その為にもエチェディの打倒が必要だ。
ラダにしてみれば、生まれ持った厄介な性質に正面から向き合ったエチェディの事は嫌いではない、が……同族喰らいは共存に向かぬ。誰も共に在れぬが故に討たねばならぬとは。
「容赦は出来んな。どんな性質持ちだろうが、竜だ。下手をすれば此方が喰われる」
「竜殺しの竜、か。――やらないといけないんだ、ね」
銃撃二つ。彼方よりエチェディやその周辺へと攻勢を仕掛けようか。
同時にアユアも踏み込み――その一撃をかの老竜へと。
「ほほ。鴨が葱を背負って……いや肉が向こうから来た、とでも言うべきかの?」
「舐めてんじゃねー! 姉御に舐めた真似をした奴を、ぶっ殺す!」
「迂闊よな」
「アユア、用心するんだよ……!!」
だがエチェディもアユアやホドの一撃には警戒している。
そうそう簡単に直撃はせぬと立ち回ろうか――
命の鐘を鳴らし着実に削らんとするのである。
もしも隙が見えれば蓋世竜の一撃を……いや。
「私の力を放ってくるかもしれんな」
「――ったく。食ったら自分のもんに出来るとか反則っすよねぇ。
竜種もバリエーション豊富で面白ぇこった。
ま、残念ながら笑い話にできねーっすけど」
『薄明竜』クワルバルツの力を行使してくるかもしれぬと、当のクワルバルツは推測するものだ。エチェディは老竜が故の体力により乱発は出来ぬだろうが……ここぞという時に仕掛けるのは十分あり得る。
最大限の警戒をしつつ葵も往こうか。
エチェディの『命の鐘』に当たらぬ彼方より撃を叩き込んでいく――
少しずつでも削るのだ。竜とは言え、無敵の存在などありはしないのだから!
「うーむしかしどこを見てもドラゴンドラゴン……ここはドラゴンの住処か? そうだったわ。ん、亜竜? ドラゴンはドラゴンで良いんだよどっちでもよぉ。訳わからんから――それよりクワルバルツちゃんだっけ、後でデートしよ。オッケー?」
「殺すぞ人間」
わぁ短いのに確固たる返答。ヨハンは『やれやれ』と両腕を挙げるジェスチャーを。
――まぁ僕が呼ばれたのなら、求められてるのは『そういう事』だろうなと。
判断した彼は戦場を的確に見据え、そして治癒の術を巡らせようか。
「それから、なんだっけ? ホド? ――あっちも抑えとかないとなぁ」
不確定要素は潰さねばと彼は思考しよう。
特に奴はあっちこっち広く攻撃出来る様だ……自由にしては面倒そうだ、と。
「えぇい遠くからチマチマと鬱陶しいのぉ。そろそろ纏めて潰し……うむ?」
「エチェディ、やばげのやばばばで、やばのやば。うらみとかは全然ないけどぶつよ。わたし、ぱーぺきに理解したから。私もおにくとかはすきだから気持ちはわかる。でもだめ。べるぜーのお腹の中にいるって事は食べられながら食べるはむりめのむりげーだから」
「竜を屠る竜、か。そんでその倒した竜を食って権能を得たと。ふふふ、そいつぁ面白れぇじゃねぇか! そんな竜を倒すだなんてな! あぁやれんのか? やれんだな!? 楽しみでしかねぇな! 昇る山ってのは高けりゃ高い程――燃えるもんさ!!」
同時。セティアにエレンシアが、エチェディより発されし圧をものともせずに踏み込もうか。
命の鐘が鳴り響き、両名の身を削る――
だがそれはまだまだ魂そのものを奪う程ではない。ならば、と。セティアは目につく全てを切り刻まんとする。やばみ深い斬撃は負の要素も斬るって相場決まってるし――なんて思いながら『いえーい』と、虚空に向けたピースサインは勝利の宣言か。
空を飛翔するエレンシアは口端に笑みの色を灯しながらエチェディへと魔砲一閃。
極撃たり得る魔力の収束が――竜の身を穿とうか。
「さぁて! 今のアタシの全力だ! とくと受けやがれ!
竜だろうがなんだろうが――ぶち抜いてやるさぁ!!」
「笑止。この程度で何かが成せると本気で……」
「かーーーっ! やせ我慢と言うのも竜は行うのかの?
然らばこれならどうじゃあああああ!!
ぬおおおおお――――りゃああああ――――ッッッ!」
と、その時だ。響いた声はエチェディの直上より――
夢心地だ! リトルワイバーンを駆り、そして一直線に降下している!
それはただ一点、エチェディに絶技を叩き込む為。
この場に存在しうる全ての力を降下突撃のエネルギーに変えて、加速加速加速!
刮目するが良い。これぞ――
真・一条流星!
――まるで流星の如く煌めいた夢心地の軌跡。
それは地上の人間や竜に気を取られていたエチェディに襲い掛かりて……
凄まじい衝突音が鳴り響く。急降下攻撃がエチェディの脳髄を揺らそうか――
「な――っはっはっは! これぞ肉も野菜もバランスよく採れしもののみに許されし秘奥義! 同胞を食って食って食って、なんかちょっと強くなったと勘違いしたお主には――成しえぬ秘儀よッ!」
「えぇいなんと煩い輩よ! 全て吹き飛ばしてくれようかッ――!」
怒るエチェディ。直後に放たんとするは……天に出現せし黒き球体。
それは薄明竜の権能。
――グレート・アトラクター。
「させるか……ッ! 奪った程度で、私を超えたとでも思うなよ!!」
故。飛び出したのは――クワルバルツだ。
ここまで重力の槍を用いて慎重に立ち回っていた彼女だが、自らの全力を投じられたのならば――飛び出さぬ訳にもいかぬ。潰す。グレート・アトラクターには、グレート・アトラクターをぶつけるのだ。
――相殺撃。
天上で鳴り響くは天哭くが如き衝突音――
「薄明殿。その傷を押して出てくるとは、なんと可愛らしい」
「愚弄するな! お前は殺す!」
「ええ竜だろうがなんだろうが知った事ではありません。『鉄』の意地をみせてやりますよ」
エチェディが喉を鳴らす。負傷した身で無理を押して来たな、と。
――クワルバルツが息を切らしている。たった一回の全力が、身の負担となっているのだ。
故に。オリーブは見逃さない。
クワルバルツが権能に対抗した瞬間。そして二度続けてのアレはないと踏んで。
一気に踏み込むのだ。命の鐘の衝撃波が襲って来ようと、知った事か。
「体力にそこまでの余裕がないのは――そちらも、ではないですか?」
「たかが数十年生きた程度の者が、我を測るか」
「さて。自分は、ただ出来る事だけを確実に成していくだけの事です」
オリーブはエチェディへと接近し、一気に剣を突き立てる。
そのまま奴の身を割く様に跳躍して剣を滑らせていこうか――
とにかくダメージを与えていく。あぁ貴方の息が切れるまで。
さて――クワルバルツさんの事を笑っていましたが。
貴方も限界が近いのでは?
「洒落臭いわ小僧……! 舐めるなと言うておる――!」
「ハハ! メイワクなヤツ等が暴れてると聞いて来たけれど、これは大物だね! こっちを喰おうとしてるってんなら――逆にドラゴンステーキになるかもしれない覚悟はある、って事だよね!」
言の葉を紡ぐのはイグナートだ。彼は味方を鼓舞し、同時に周りに結界を張って守りを固めながら――エチェディへと向かう。警戒すべきは蓋世竜の権能の一撃……生死の狭間を見極め、それでもエチェディへ一撃叩き込むべく、更に踏み込もうか!
殴る。穿つ。竜と言えどこの拳に貫けぬものがあろうか。
勝つんだ。そして食べてあげるよ。
「爺さんの肉をネ!」
「代わりと言ってはなんですが――エチェディ、貴方に竜殺しを馳走しに参りました」
直後には朝顔も往こうか。
……生まれ故の不幸が嫌いだ。豊穣で獄人故と差別される様に。
同胞を食さねば満たせぬ性質に同情はする。
しかし、それを一切に顧みぬとは。竜だからと簡単に喰い殺すあの竜に怒りが湧く。
――竜殺しが貴方だけだと思うな。
「葛藤もせず無辜の同胞すら喰らい続けた!
貴方の罪は生まれではなく、その心であり――
貴方は竜にとっても人にとっても悪竜だ!」
「ほっほっほ。我は多少食欲が旺盛なだけよ。それが罪と言うか」
「虚言を弄すな! 咎があるとすれば、その心だと言ったッ!!」
朝顔は強い口調で断定する。
貴方が罪なき同胞に与えた痛みを、その身で味わえと――ッ!!
竜を殺す力を身に宿し、斬撃一閃。奴の防御を崩し、命の価値を分からせてやるッ!
「うら――!! 誰が赤タレ漬け旨味マシマシ激辛味チキンだ!!
もう許さねーぞ!! 鳥さんの力って奴を、今度こそ教えてやらぁ――!!」
「また貴様か! 何度も何度もしつこい奴よの――!」
尾でオリーブや朝顔らを薙がんとしているエチェディ、に。空から強襲したのはカイトにリリーだ。ボケ竜が竜を食おうとしても、俺は喰われたりなどしない――逆に食らいついてやる。
「食うのがそっちだけの特権だと思うなよッ!!」
「煩わしい。退けィ!」
ソサエティ・ファースト。敵対者を滅ぼす意志の権能をカイトへと放つ。
が、辛うじて見切りてカイトは直進を続けようか。
それは……水竜様の加護もあったが故かもしれない。
生きる意志が。生きて行こうという意志が――致命傷の領域を躱させたのかもしれぬ。
(――水竜さま、あの悲しき竜に負けないための力を貸してくれ!
リリーを……生きて無事に帰してやってくれ!!)
近くに寄れば命の鐘の衝撃波が襲い来る。それでも、止まらぬ。
猛禽は喰らう側だと――三叉の槍を突き立ててくれようか――ッ!!
「ぬぅぅぅ!」
「竜とは共存できるって信じてる。だけど……ダメだね、貴方は。貴方だけは!!」
直後にはリリーも続こう。ごり押し上等で、突き破る!
リリーは竜と共存出来ると信じている。困難であろうと、いつか、いつかと――
でも。竜との共存に、竜を屠る存在は要らない! ましてや喜々とする者など!
「リリー達は、竜を屠る竜を狩る者達、だよっ!」
「ぬかすな小娘ェ! 竜はかつて人に負けた事などあろうか――!」
「リリー、あぶねぇ!!」
竜殺しの牙が襲い来る。竜殺しの力は、竜以外には通じぬ、が。
純粋に強大なる爪や牙を突き立てられれば耐えられる生物などどれ程いるか。
リリーを襲わんとする牙――から、カイトが庇う。高速を超えた超速が、命を繋ぐのだ。
「おのれどいつもこいつも、我に何故喰わせぬか……!」
「まだお分かりにならぬか、エチェディ殿――ラストオーダーの時間でござるよ」
苛立つエチェディ。其処へ咲耶は至ろうか。
「三度殺されかけた分、全てお返しするでござるよ。どうぞお覚悟を。
――お主は業に従い我を通したまでの事。
されど互いに相容れぬならば拙者も己を通させて頂く!」
「お主如きに何が分かろうか。我の飢えは我だけのモノ!」
「承知の上。故、これは最後の晩餐と心得られよ! 尤も、味わえる保証はござらんが!」
ここまで続いた奇縁もここですっぱりと終わらせてくれよう。
咲耶はエチェディの側面から撃を叩き込むのだ。
一撃で芯に届かずとも、いつかその心の臓に届かせてくれる為に――!
――さすればエチェディの身に疲弊の跡が見え始める。
中々『食えぬ』事。そして戦闘が長引いている事が起因していたろうか。
アユアは傍に在るイレギュラーズの援護を受けながら慎重に立ち回り。
ホドは邪魔立てさせる事に苛立ちながらも、しかし冷静にエチェディとの間合いは崩さない。
おのれ。どうしてこうなっているか。
アユアにしろホドにしろ、喰らえる自信はあった。
アレらは若い。蓋世竜や月宮竜の方がまだまだ遥かに強かった程だ。
一対一なら。いや一対二だとしても我が勝てる目算はあったというのに――!
「本当に目障りな連中だ、人間めええええッ!!」
吼える。天に向けて、老竜が心の底から叫んでいる。
「エチェディめ……調子に乗りすぎたのだ、奴はな」
「クワルバルツちゃん、前に出る事は止めないけどそれ以上の傷は禁止だからね。
いいね? 後で私と戦ってもらうんだから! こんな所で傷を増やすのは無しだよ!」
「クワルバルツちゃ……ええぃ、まぁ死ぬつもりはない!」
その様子を見てクワルバルツはなんぞやを想うか――
されどまだ油断は出来ないとサクラはクワルバルツを押し留めるものだ。
まだだ。竜の生命力は人のソレを遥かに超える――
追い詰めたように見えてもその牙は未だ鋭い、と。
「そーそークワちゃん無理しちゃダメよ。ま、コッチ側は騒がしいくらいのが良いでしょ」
「腕が無いというのは不便だろう? 失くした腕の代わりをしてやる」
「お前達――フッ。私の腕の代わりに成れるつもりか?」
だからこそ夏子とブレンダは素早くクワルバルツに歩みを合わせるものだ。
同時に、クワルバルツの失った腕側をカバーするように。
竜の片腕にならんというのか。人間が。
……まぁ、悪くない気分だ。
「ふふ。なら僕はクワルバルツの目、ですかね!
もう絶対怪我させたりなんて――させませんよ」
更にはアイラも傍に駆け寄って来る。アイラは、失われし左目に沿う側に。
……今度こそ治すし、癒やすし、一緒に戦うし、支えます。
「ヒトと一緒に戦うって決めてくれて、ありがとう」
「――私の気まぐれなだけだ。気にするな」
クワルバルツに言の葉を紡げば、そんなぶっきらぼうな事を言うけれど。
でもそんな筈はない。きっときっとすごく大変な決断だった筈だ。
アレほど見てきたんだから分かる。プライド高いクワルバルツだもん。
だから、もう、傷付けさせない。
アイラは確固たる意志を胸に――クワルバルツへと寄り添おう。そして。
「エチェディの傷は偽装ではない――が。不用意に時間を掛ければ先代様の権能により、傷の治癒が成されてしまうだろう……その前に勝負を付けるより他はない」
「複数の力が使えるとはいっても、体は一つ。無敵でも最強でもないよ。
――全力で打ち勝ってみせる。なによりクワルバルツもいてくれるんだしね」
「うん――皆と一緒にエチェディを倒しに行こう!」
「……随分と簡単に述べるものだ。相手は、アレでも竜だぞ?」
スティアに花丸も戦意高々に此処に在ろうか。
勝てる心算かだって? ――うん。
「勝つよ。必ずね!」
今より挑むは追い詰められし竜へ。『窮鼠猫を噛む』などという言葉があるが――しかし。ソレが『窮竜』であるならば、どれほどの脅威であろうか。まかり間違えば一気に立場が逆転する、という可能性もゼロではない。
だが。負ける心算など一欠片もなかった。
勝てる。
勝つんだ。
その意思だけが誰しもの瞳に備わっていたんだ。
――往く。誰ぞが号令をかけた訳でもなく、しかし息を合わせて。
竜殺しの竜を打ち倒しに――行くのだ!
「ふふ。お姉様ったら私を置いていくつもりでしたか? いけずな御方……この花榮しきみ、お姉様の為なら火の中水の中地獄だろうが死地だろうが着いて参ります。えぇ。竜なんぞの足元などという事は――私の足を止める理由にはならないのです」
「しきみちゃん、無理はしないようにね! ホントに!」
スティアお姉様を援護する為に赴くしきみ。
――私は時代など背負うつもりも毛頭無ければ、勇者などになるつもりもありません。
ですが、ただ、愛する人一人くらいを護れるだけの気概は有してきたのです。
もしもお姉様を護れるのなら……命を賭したって構わない。
「竜如きにお姉様をくれてやるなど――出来ません」
エチェディとやら。お姉様を食料と見るのですか? 許しませんよ。
彼女は襲い来る。お姉様を護るために、障害を積極的に排除せんと。
エチェディへ斬撃一閃。奴の注意を引かんとすれ、ば。
「力押しで挑むのならば負けるだろうが――しかしそれも状況次第だ。
ここでお前に出張られると困る。とてもな。だからこちらが邪魔をさせてもらうぞ。
そもそも。何を喰らうかは自由だが……意地汚く食べるのは頂けない。
まずはテーブルマナーでも身に着けるんだな。でなければ猿以下だぞ――」
十七号も続こうか。挑発の言を紡ぎながら、真正面より。
同時に地廻竜の力も周囲に巡らせよう――
ソレは皆の力となる。攻勢へと赴く皆の加護に。エチェディを討つ、一手に!
「小うるさい連中がゾロゾロと。束になれば仕留められるとでも思ったか!」
「戦わないといけないなら、勝つ心算で挑むだけだよ――行くよマーシー!」
「皆さん、どうかご武運を。皆で必ず、生きて帰りましょう……!」
吼えるエチェディ。ソレにも力が籠っており、イレギュラーズを吹き飛ばさんとしようか。
されど臆さない。セシルは相棒たるマーシと共に駆け抜けるものだ――そしてエチェディに挑む。微かな隙を見定め、超速の光撃をもってしてエチェディに一撃打ち込むのである。続け様には涼花の援護も皆へ巡らされようか。
戦場に歌を。響き渡る一音が傷を癒し、皆の命を繋がんとする。
――それだけではない。常に周囲を見定め、己が何を出来るか思考をフル回転。
少しでも竜に対抗する為の力と知恵を振り絞らんとする――!
「わたしに出来る全霊を注ぐんです。竜との戦い……これが初めてでもないのですから……!」
「竜は強いんだろうけど――負けないよ! ちゃんと勝って生き残って帰らないといけないんだ。食べ物になんて、なってあげられない。勿論マーシーもね!」
出来得る事を一つ一つ着実に成していく。涼花も、セシルも。
帰るべき場所が――あるのだから!
「んー、老いては益益壮んなるべし? いやはや同族殺し&捕食とはご機嫌だね。
しかし此方も食べられてやる理由など欠片もない。
さーてと骨の折れる仕事だけど頑張ろうか!」
「休む暇もないとは……まぁ、愚痴ったところで終わるわけでもないし。
なるべく早く終わらせる為にも――キリキリ働くとしようか」
「わ。ょっと怖いけど皆がいるから大丈夫なのよ……ルルも、ルルも頑張るよ……!」
更にルーキスにルナールもエチェディへと攻め立てようか。間髪無き連撃がエチェディの自己再生能力を阻まんとする――途絶える事無き猛攻は、仕留めるまで続く事であろう。無論、敵も竜であればいつ反撃が飛んでくるとしれぬ――
故にルルディは備える。危なげな一撃があらば即座に治癒を投じて。
「これは流石に命の危険を感じる私です。焦燥感のようなモノが胸の奥に……」
『……心臓無いけどな!』
さればマリスも続く。同居人が野暮なツッコミ入れてくると五月蠅いとやる気も減るのですが……嘆いていられないので仕事いきましょう。おぉジーザス……目指せドラゴンスレイヤー。
「竜殺しは偉業と聞きます。もしかしたらワンチャンスあるってヤツでしょうか?」
『さてな。とりあえずは生きてこそ、ってヤツではあるが――と、あぶねぇ気を付けろ!』
刹那、エチェディより届くは命の鐘の衝撃波。
吹き飛ばされそうになる衝撃に耐えながら、マリスは刃を飛ばそうか。
同時に注意すべきは……ルルディの様子だ。治癒役でもある彼女が崩れれば、一気に状況が変わりかねぬとマリスは注意を払う――尤もソレはルーキスもルナールも似た様なものであったが。
「少しは家族に良い所見せないとな……! 竜なんて化け物相手になら、格好もつくだろう!」
「いやあ、これが終わったら慰労の旅行とか行きたいなー! 想像より重労働だしねー!」
命を懸ける。正に死線の狭間にて軽口をたたき合おうか。
それは声色とは裏腹に必ず生きて帰るという決意の表れでもあったろう。
家族の命を竜如きに奪わせてやるつもりも――全くないのだから。
「ぬぅぅぅぅ、どいつもこいつも煩わしい、煩わしいぞ……!!」
「どしたの、なんかカルシウム足りてなくな~い?
それともこういう状況に全然慣れてなかったりとか?
ざーんねん。こっちはありとあらゆる障害は我々、全部喰い下してんだぁ。
悪食だぜ〜? グルメな君らと違ってさぁ!」
直後。苛立ち続けるエチェディへと夏子が一撃ぶち込んだか――
それは炸裂しうる横薙ぎ。エチェディが嫌がりそうなのを絶妙なタイミングで。
「クワちゃは狙わせないよ。もう二度と、ねぇ」
「夏子。段々私の名前呼びが凄い事になっていないか……?
今は忙しいから後で話が――いややっぱり無い。好きに呼べ」
次いで夏子の一撃に呼応する形でクワルバルツが重力の槍を投じる。
が。その一撃も、徐々に再生される跡が見えようか。
……月宮竜の権能だ。月があれば強くなる、あの方の権能。
「――超えねば、な」
「クワルバルツ、衝撃波が――来ます!」
刹那。横に在りしアイラからすぐ様に声が飛んだか。
直後に生じたのは命鐘竜の権能、に。更に組み合されるは鬼神竜の権能。
邪魔立てする者全てを退かさんとする一撃――
「吹き飛べ。されば順繰りに殺すッ――!」
「二度も通じるか! アユアッ!!」
「へい姉御ォ!」
「援護しよう。エチェディに行動させる訳にはいかない――
撃った後は疲労で隙も出来る筈……ここが狙い目だ。落ちろ、エチェディ!」
が。隙を潰してやった。
イレギュラーズの援護を受けたアユアはエチェディを側面から殴りつけ――陣形が乱れんとする間隙を無くす。ラダやエクスマリア、ハリエットの射撃も続けばエチェディの動きには乱れが生じるものだ――追撃の一手にまで繋がらない! 更には。
「竜殺しの能力だって、牙を突き立てられないと意味がないよね!!」
「――おのれ。なんだお前達は。なんなのだお前達はアアアア!」
スティアの一撃も繋がろうか。そう、彼女は元より完封してやる気だったのだ。
竜にとって脅威があろうと当たらなければ意味がない、と。
クワルバルツが狙われそうな瞬間は全て警戒。
そうしてエチェディを横から撃ち貫く。絶対に、誰も討たせるもんか!
「守りは私が何とかしてみせる。だから攻撃は任せたよっ! 皆で必ず生きて帰ろうね――! でもまぁ――スティアさんは心配しなくても大丈夫、ヨシ!」
「花丸ちゃん!? 花丸ちゃん!!?」
「ふふ。ご安心くださいお姉様。お姉様の身は私が魂となってでも傍に居ります故……ええ。いつでも枕元に」
次いで花丸は自らに守護の力を齎しながら仲間達の状態を即座に確認。スティアは大丈夫。いつもお姉様を見据えてうっとりとしてる、しきみもいるし。
大丈夫であるならばエチェディに撃を。危険であるならば庇う動きを。
臨機応変に繰り出す――あぁ何度吹き飛ばされたって。
「守るって決めたら守り抜いてみせるんだから!」
「――エチェディ。貴方が一人であるから、届かないんだよ。望みの果てには!」
「ぬぅぅ!」
サクラが剣撃と共に告げれば、同時。誰も彼もが立ち向かっていく。
エチェディはこれまでに、何度も人間を吹き飛ばしている。
命を奪わんと爪を、牙をも振るったか。
――だが誰も諦めない。
誰も怯えない。誰の瞳からも闘志は消えない。
「……これが人間か。人間の力なのか」
刹那。クワルバルツは残されし片目にて、しかと捉えようか。
人と竜が轡を並べ戦う光景を。
ああ――この瞳に映る世界が、話に伝え聞く。『竜と勇者』の図なのか?
夢物語などではない。確かなる現として、あり得るのだ。
竜と人が、共に在る事は。
「ねぇ。ゲルダシビラさんもこんな感じで人と肩を並べて戦ったのかな?
竜はさ、強いってのは分かるけれど。
偶には人と力を合わせて戦うのも――良いと思わない?」
「……あぁ。そんな話を、微かに聞いたことがある。それは確かお前のような聖職者――」
先代様も――そうだったと――治癒の花を咲かすスティアに告げれば――
「この、ムシケラ共がぁぁああああああッ!!」
が。まだ死なぬ。まだ滅びぬ。
エチェディ叫びが――響き渡る。
自らが死ぬ? 此処で。此処でか――?
ふ、ははははは――あり得んッッッ!
「殺す。死ね。誰も彼も我の肉となるが良いわ――!」
「見苦しいな、エチェディ。落ちぶれるにしてももう少し威厳ぐらいは保ったらどうだ」
瞬間。立ち上がらんとしたエチェディへ、と。
紡がれた一撃は――ホドの雷撃か!
「チッ。あの馬鹿はまだやる気があるのか!」
「無論だ。お前も、エチェディも。纏めて屠る対象に過ぎん」
「――なんですかソレ。いつまでもいつまでも勝手な言葉ばかり言って……!」
その時、言の葉を零したのはアイラだったか。
アイラは治癒の術をクワルバルツへと繋ぎながら――告げる。
――何が竜屠竜ですか。何が叛逆竜ですか!
「自分のことも制御できないお馬鹿さんな竜なだけじゃないですか!
今この時に誰を殺して誰が上だなんて……そんな発想しか出来ないなんて!
そんな奴に――ボクやクワルバルツが負けるわけないんですから!」
「アイラ――」
「弱肉強食の世で想いを謳うか。若いなッ!!」
瞬間。エチェディは力を振り絞りて、もう一度権能を紡ごうか――それは。
「チッ。グレート・アトラクターか……!」
「フン。わざわざ受けてやる必要はないな――」
クワルバルツの大技だ。疲弊したクワルバルツでもう一度止められるか――?
ホドはソレを見て一歩退かんとする。狙っている先は、どうもクワルバルツ側のようだから……わざわざ範囲内に留まってやる必要はない、と。それはイレギュラーズ達より受けた妨害により生じている疲弊も――理由に多分として存在していただろう。
が、クワルバルツとしては退けない。近くにはイレギュラーズもいるのだ。
もう一度、成さねばならぬ。そうでなければアイラが、スティアが、皆が死ぬ。
――それはクワルバルツの魂が許さなかった。
自らも魂を削りてもう一度――と、その時。
「クワルバルツ。ソレは奴に叩きつけてやれ」
ブレンダが、前に立った。
「何を」
「何を? 気にするな、ソレがお前の矜持なら、これは私の矜持だ。
――私に構わず撃て。さすれば勝てる」
「何を!」
「安心しろ。死ぬつもりはない――生きて帰るさッ!」
奇跡を成してでも。ブレンダは薄明の為にあろうと決めていた。
何度も刃を交え、何度も語り合った。いつからか敵ではなく超えるべき好敵手へ。
決着をつけるという誓いを胸に黄金は薄明と共に在る。
――金色に輝く薄明の空の様に。
「今この身は騎士の端くれ」
友のため誓いのため。
「この程度受け切ってやる!」
「矮小な人間が――その驕りと共に果てるがいい!!」
エチェディが叩き落す。究極の重力を。
人など容易に消し飛ばすモノ――されどそれをブレンダは受ける。
皆を守護し、その命を護る力と意志と共に。
誰も零さない。誰も離さない。
されば――まるで奇跡が如く光が満ちて、ブレンダの力となろうか。
重力を受け止める。多大なる傷はブレンダに刻まれるものの、それ以上通さぬ。
――だから。
「行け、クワルバルツ」
穿て、と。言うのだ。
「ぬ、ぉぉぉぉぉ――!!」
だからクワルバルツは『そう』した。
再びの相殺撃ではなく。エチェディそのものを狙った一撃として。
繰り出すのだ――グレート・アトラクターを。
「馬鹿な、貴様……!!」
狼狽するエチェディ。が、防御は間に合わぬ。
――直撃した。想像を絶する力が、竜の身へと。
だが、やはりクワルバルツの身は万全ではない――それが為、か。
「ご、ぉぉぉぉぉおお!!」
「チッ! 老竜め、最後のあがきを……!!」
まだ、生きているのか。エチェディは。
肉が溶け、目からは血涙を流しながら、まだ生きている。とんでもない生命力だ。
同時に権能を暴走させ手当たり次第に周囲へと撃を繰り出す。
クワルバルツへ、アユアへ、ホドへ。目につきやすい者から片っ端に。
「ぬッ……!」
「うわ、まずいっすよ姉御、離れないと一撃でも貰ったら……!」
「クワちゃ! こっち! 俺の後ろに早く!!」
「クワルバルツ、傷口に当たらないように!」
「アユアも早く避難を……急いで!」
最後の瞬きであるのは明白だった。放っておいてもきっとエチェディは死ぬだろう。
だが万一がある、と。夏子にアイラはクワルバルツを庇い立てる位置へ即座に。
守備対象がヤラれて、俺が五体満足なのは恥だから、ネェ!
更にアユアに関してもハリエットが心配する声を紡ごうか――一方でホドはクワルバルツを仕留めんと隙を窺っていた、のだが……
「チッ……おのれ、奴の血族は重要な所でいつも人間が邪魔してくれる……!」
奥歯を噛みしめる。初期からの――特に京司を中心としたイレギュラーズの妨害に加えて、今もクワルバルツの傍には数多の人間がいて……とても一撃即座には倒せそうにない。そもそも己もイレギュラーズやエチェディから受けた撃によって疲弊もしているのだ。
このまま戦ったとて、どれ程の戦果を残せるか。
そも、クワルバルツに味方している人間が多すぎる――配下のワイバーン達も薙ぎ払われ、散り散りとなった。今やもう戦力が削れ果てている……竜としての能を用いて戦ってもいい、が。
エチェディには痛烈な一打を先程加えたが故に、ある程度気は晴れた。
どうせあの老竜は一人、自滅する様に死ぬのだからと――
「……むっ?」
が。その時ホドは見た。
そのエチェディに向かう人間を。それは。
「多数の竜の力を持った貴方は脅威だった――貴方は確かに、竜を屠る竜だった。
だが竜たちとの戦いを正面から乗り越えてきた私達が負けるものか!」
「な、め、る、な、よ、百も生きておらぬ、モノ、がああああ!」
「年だ、なんだで、判断するしか、ないか? お前は。何も食べられぬまま、終われ」
「水竜様とは似ても似つかねぇお前は……此処で終わりだ!」
「言ったよね――竜を屠る竜を狩る者達、だって!」
「三度目を超えた四度目の正直。拙者の手に、手繰り寄せて頂く!」
サクラだ。紅き髪が目を引く少女。更にはエクスリマアやカイト、リリーに咲耶の姿も見えようか。
さればエチェディは血反吐撒き散らしながら命の鐘の衝撃波を紡がんとする。
だが、無理だった。権能の形成よりも、サクラの抜刀の方が早い。皆の攻勢が――早い。
体力の限界が来ていた。
エクスマリアが舌を狙い。咲耶は目、カイトは脳天を。そしてリリーも超速へ至りながら狙い定め――
「ぬ、が、ぁ――ッ!」
「その呪われた宿命と共に――堕ちろ『竜屠竜』!!」
神速。一斉攻撃。数多の斬撃がエチェディへと襲い掛かりて……
サクラの抜刀が、竜の首へと到達する。それは正に最高速。
天空の竜を地へと墜とす居合術が――
その名を、真実のモノとした。
「――御身事」
ほっほっほ――特徴的な笑い声が、響いた気がした。
されどもうその笑い声の主に力はない。
地に倒れる、音がする。
巨大なる肉が。混沌世界最強種族の、その身が。
――竜が打ち倒された、証であった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
――ありがとうございました。
GMコメント
●依頼達成条件
『竜屠竜』エチェディの撃破。(ドラゴン・スレイヤーの達成)
●フィールド
ベルゼーの権能『飽くなき暴食』の内部です。
超巨大な空間が広がっており――エチェディが布陣している所は、ヘスペリデスに似た光景が広がっている世界です。空には……不思議と満月の様な月が見えます。天候が荒れ狂っているのに、何故かハッキリと見えるのです。
酷く紅く染まって見えるソレは、本物かどうか。
いずれにせよエチェディは竜も人も喰らわんとしています。
この混沌を誰にも邪魔させないつもりなのです。己が暴食の我欲を満たす為に。
戦場は一つきり。エチェディを――竜を、倒せるか倒せないか。
勝利条件はそれだけです。ご武運を。
////////////////////
●敵勢力A
●『竜屠竜』ドラゴベイン・ドラゴ・エチェディ
『竜殺しの力を宿した竜』です。
敵対者が竜種である時、その攻撃に特攻性能が宿ります。(詳細は後述)
唯一の弱点としては老竜が故か、体力がやや低めです。
低めといってもあくまで竜基準の話ですが。
●エチェディの権能
『竜屠竜-ドラゴベイン・ドラゴ-』(P)
呪われた宿命。或いは祝福された食欲。
全ての攻撃が『竜種』に対して特攻性能を持ちます。(また、竜の因子を宿す『亜竜種』にも微弱ながら効果があります)勿論、竜に攻撃が通じやすいというだけで無敵ではありません。しかし彼は勝ってしまいました。勝ち続けてしまいました。
更にエチェディは食した竜の持っていた能力を『自らの力として使用出来ます』
詳細は後述しますが、無茶苦茶使ってきます。
ただし能力の使用には(パッシヴも含めて)HPとAPを消耗するようです。
更に複数の能力を使用すると、加速度的にHP・APの消耗が高まっていきます。
永遠に戦い続けられるわけではなく、いつか限界が来るでしょう。ただしそのデメリットを後述する能力の一部で軽減しているので長期戦をすれば確実に勝てる、という訳ではありません。ご注意を。
--------------------
『蓋世竜ゼ・グラン・ドの権能』
・ソサエティ・ファースト(A)
超強力な物理遠距離貫通の一撃です。
超高確率で『ブレイク』してくる他、対象がなんらかの『加護』を宿している場合、一時的に消失させる力を宿しています。かつて強大な竜であったゲルダシビラの権能を無効化し、エチェディが彼女を仕留める際に使った技です。
エチェディ曰く「大昔に戦ったが、無茶苦茶強すぎて死ぬかと思った。意味わからんぐらい強かった。なんで勝てたか未だに分からん」
『命鐘竜オウセンの権能』
・命の鐘(副・A)
自身を中心点としたR3範囲内の敵味方全対象に、中程度のダメージを与えます。
『封印』『致命』のBS効果がある他、攻撃が命中した時点での対象のHPが40%以下である場合、HPを確率で強制的に0にします。しかし抵抗・防技・EXFの値が高いと確率が下がっていくようです。
エチェディ曰く「あんまり好きじゃない技じゃのう……」
『薄明竜クワルバルツの権能』
・グレート・アトラクター(A)
強力な重力を生じさせ、広域攻撃を行います。
APの消費が非常に激しい為、乱発は出来ません。
エチェディ曰く「なんちゅう燃費の悪い技じゃ……肉は旨かった」
--------------------
『月宮竜ゲルダシビラの権能』
・ツクヨミ(P)
強力な『HPとAPを除く全ステータス強化・再生・充填・能率』の力を宿しています。
また、この効果は月の光が強い程に効果が高くなります。元々は他者にも力を分け与える事が出来たそうですが、エチェディは自分の為だけに使っている様です。
エチェディ曰く「この世で一番旨かった。叶うならもう一度食べたい」
『鬼神竜バルベラの権能』
・鬼顔暴圧(P)
全ての攻撃に『飛』『呪殺』の効果が付きます。
追加でAPを消費する事で『災厄』の効果も付ける事が出来る様です。
更に『飛』で生じえた距離に応じて追加ダメージ+HA吸収が生じます。
エチェディ曰く「顔が怖すぎた」
『破邪竜ミディの権能』
・破邪結界(P)
毎ターン開始時、自身に付与されているBSの強制解除を行います。
その他なんらか魔術干渉を阻む効果もあるようです(ただこれは非戦スキルなどを無効化するだけですので、戦闘ではあまり気にしなくてよいです)
ただし効果の発動と共にエチェディのHPとAPが消費されます。
解除するBSが多い程、消費が加速度的に大きくなります。
エチェディ曰く「泣き声が煩かった」
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●夏雲(シアユン)
亜竜種の魔種です。非常に食欲に貪欲な人物です。
なんでもかんでも『喰らう』事を得手としています。また、手には骨の様な刃も手に持っており、斬撃も行ってくる事があるようです。大技として空間諸共呑み込まんとする『大喰らい』の攻勢があります――これは防技を無視して超ダメージを与えるようです。(また、喰らったモノにより自身の体力を大きく回復させます)ご注意を!
////////////////////
●敵勢力B
●『叛逆竜』ホド
将星種『レグルス』に位置する竜です。
天帝種嫌いの竜であり過去にクワルバルツや、クワルバルツの『先代』に戦いを挑んでいた野心的な存在でもあります。過去に『何か』あったらしく人間の事は滅茶苦茶嫌ってるレベルです。エチェディを殺す気ですが、人間に協力する気もまっっったくありません。見かけたら殺しにかかって来るでしょう。お気を付けください!
『流動』を操る権能を有しており、例えば風や雨、雷と言った事象を自在に操る事が出来ます。その為、天候が荒れ狂ってさえいれば広範囲に強力な攻撃を叩き込めるようです。
●ワイバーン・クルス×20~
ホド(が、ほとんど力で強制的に屈服させた)配下の亜竜です。
ホドの指示に従いながらエチェディなどに攻撃を仕掛けます。がんばる。
////////////////////
●味方戦力
●『薄明竜』クワルバルツ
天帝種、六竜と謳われるその一角です。
重力を操る権能を宿しエチェディをぶっ殺しにかかります。
腕を失い、片目の視力も失いつつあるようですが、それでも彼女は戦います。
――今回は人間と共に。
皆さんを攻撃せず、共に戦います。最前線で。絶対後ろには退きません。
エチェディがグレート・アトラクターを放って来たら全力で撃ち落とします。
●『金剛竜』アユア
クワルバルツと親しい将星種の一角です。
金剛竜と謳われる程に堅牢な竜であり、生半可な攻撃では傷すらつかないでしょう。今回はクワルバルツの指示により人間は攻撃しません。渋々なので協力的な姿勢かは微妙です。クワルバルツを傷付けたエチェディを許さず、最前線で暴れ回るつもりの様です。
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●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
この依頼の情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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