シナリオ詳細
<Phantom Night2022>えがおが咲くように<総軍鏖殺>
オープニング
●合言葉は
無辜なる混沌に魔法がかかる。とっておきの――なりたい姿になれる魔法。
それは今、大混乱の最中にある鉄帝とて例外ではない。ある者は翼を得て、ある者は小人になり、ある者はキョンシーのような姿になった。
けれどこの姿で街を練り歩こうにも、危険な魔物は依然として存在している。お菓子を配ろうにも、食糧の余裕があるとは言い難い。だからシェルターにいることに気付かれないよう密やかに、互いの姿を見て驚き笑い合う数日間は、疲弊した心を少しでも和らげてくれただろうか?
そんな魔法にかかった日々も最終日――11月3日を迎えた今日。
「皆さん、鉄帝の街や避難シェルターを訪問してみませんか?」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は「お菓子ならちょこっとだけど用意したのです!」と言って、テーブルに置かれたカゴを示す。
チョコレートのひとかけら。ころんとしたマカロン。カラフルなキャンディに、ふわふわのマシュマロ。
そんなひと口大の菓子たちが包装されて、カゴの中に山積みとなっていた。
「折角のファントムナイトですから、笑顔になってもらいたいのです! もちろん、国中に、と言うわけにはいきませんが……」
へにょり、と眉尻を下げるユリーカ。鉄帝の子供全員に菓子を回せるほどの資金となると、力ある者の力が必要だろう。しかし――菓子のための資金提供依頼など、鉄帝の状況でできるわけもない。鉄帝はまだまだ混乱の只中にある。
それでも魔法が解ける最後まで、なるべく多くが笑顔でいられるようにと、ユリーカは菓子を用意したのだ。避難を余儀なくされる国民は多く、避難シェルターにも沢山の鉄帝民が身を寄せているはずである。地方の方であれば帝都より魔物の襲撃も多くはなく、場所によっては普段通りに過ごしている者もだろうが、それでも警戒態勢を強いられていることは確かだ。
何も『本物の』子供ばかりに菓子をあげる必要はない。大人だって今ばかりは子供の姿を取っているかもしれないのだから。なんにしても街や避難シェルターを訪れて、菓子配りをすれば必然的に欲しい者たちが合言葉を口にしてやってくるはずである。
「お菓子配りだけじゃなくて、芸が出来る人はそういうもので鉄帝の皆さんを喜ばせてあげられると思うのです!
それにそれに、ファントムナイトに関係ないですけれど、炊き出しだとか、群れからはぐれたモンスターの退治も喜ばれると思うのですよ」
まだこの非日常は続くだろうから、些細な事でだって避難民の憂いを減らすことが出来るのなら、やっておいて損はない。ちょっとした悪戯だって、彼らにとっては楽しみになるかもしれないから。
「あっでも気をつけて欲しいのです。度を過ぎた悪戯をしたら――今日を終えるより先に、魔法が解けてしまいますからね!」
この魔法は悪い事の為に使われるものではないのだというように、度を過ぎた悪事を行う者は現実へ引き戻される。魔法をかけた誰かさんは、誰かに成り代わって盗みを働くといったことを許さないのだ。
「それじゃあ皆さん、良い最終日を! 合言葉は――トリック・オア・トリート! なのですよ!」
- <Phantom Night2022>えがおが咲くように<総軍鏖殺>完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年11月19日 22時05分
- 参加人数30/30人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
リプレイ
●
ばあ、と驚かせたなら、うわ、と声が上がる。普段は弱肉強食の"弱肉"にあたるから、こういうのは新鮮だ。
(いまの鉄帝に、必要なことは……強いことと、満腹になれること)
今の自分はサメミイラ――強くてこわいホオジロザメだから。倒してもらったなら、きっとフカヒレの乾物でも手に入れられるだろう。
「勇気があるなら……反撃してきても、かまいませんの」
ファントムナイト最終日。サメミイラに立ち向かう勇者はいるだろうか?
「トリック・オア……トリート!」
かぼちゃメイドに扮したメイメイが、微笑みかけながら集まって来る子供に菓子を差し出す。そうすると、皆が笑顔になってくれるから。
(こんな時であっても……いえ、こんな時だからこそ。楽しんでもらいたい、です)
菓子を渡しながら、仲間の炊き出しの話をしたり、皆を楽しませようと芸を披露する仲間たちの宣伝も忘れない。とはいえ、一部の子供は連れてきたねこに夢中だが。
「ねこだー!」
そこへねこ――ではなくて、ヨゾラも混ざる。自分がねこでもねこは可愛いんだ。
ねこを堪能したヨゾラはお菓子を配るよとカゴを掲げる。さあ、合言葉は?
「「トリック・オア・トリート!」にゃー!」
お菓子を渡すと、キラキラした石が返ってくる。避難途中に見つけたらしい。
「ありがとう、大切にするね!」
ぱっと咲き綻ぶ笑顔の花。来年も見られるだろうか。
(見られるように、頑張るんだ)
今は少しでも、鉄帝人の心が和みますように。
「おらガキども、恵んでやるから元気に言うであります。元気がなかったら元気ない感じに言うであります」
さあ、合言葉は? トリックオアトリート!
子供たちの声に頷くエッダ。菓子をあげていれば、ひょいひょいと横合いから菓子を取っていく手が。
「ちゃんと並ぶでありますよ悪ガキども」
両手を振り回して追いかければ、やっべ、という顔をした子供たちが逃げていく。そんな追いかけっこを周りの子供は楽しそうに眺めていた。
この中に"本物の"子供は何人いるだろう。エッダは考えかけてやめる。自分ではない姿になることで、気持ちを曝け出すことができるなら、それが必要な時だから。
「プリン!」
「プリン食べる!!」
口々に飛んでくるその言葉に囲まれて、望はプリンをひたすら生み出していた。最初は怪我の治療をしていたのだが、プリンがもらえると知るなり甘味好きが押し寄せてきたのである。
「わあ、すごいね」
望が次々と生み出すそれを見かけ、マルクは目を瞬かせる。近い能力を持つイレギュラーズも何人かいるだろうが、実際に目にすると不思議な力だと感じざるを得ない。
(子供たちは彼のおかげで大丈夫そうだから……他の人の話を聞いてみようか)
なかなか直に鉄帝国内の様子を見る機会はない。ここで自分にとって収穫になるものを見つけようと視線を巡らせ、マルクもまたカゴを掲げる。
「トリック・オア・トリート! お菓子はいっぱい用意したから、順番にね」
あちらにも菓子があるぞと群がって来る子らへ、順に渡して。そのうちの1人が、マルクの着ているものを不思議そうに眺めていることに気づく。
「これは空に浮かぶ島、アーカーシュの制服なんだ。今は皆に作物が届くように、作っているところなんだよ」
マルクの言葉に子供たちが目を輝かせる。楽しみにしててねとマルクは子供たちの頭を撫でた。
「わたしの歌姫とってもかわいいでしょう!」
「かわいいー!」
「きれい」
メリーノの言葉に女の子たちがレイチェルへキラキラとした視線を送る。怪人メリーノはどこか誇らしげだ。
「今日の俺は歌姫だからなァ。披露するなら決まってるだろ?」
「おうたね! いいわぁ!」
レイチェルの柄ではないが、魔法にかけられている今だけだ。音楽の天使が導いてくれるのだろうとレイチェルらしく笑って、口を開く。
「――」
歌姫の歌が始まる、が、途中からなんだか変な音とリズムが。視線の行き着く先は怪人で、歌姫の姿に上機嫌になりながら一緒に口ずさんでいるようだ。子供たちはどちらかというと、歌姫より怪人の音痴具合に大喜びである。
「あら、おちびちゃんたち楽しかったの? わたしの歌姫はおうたも上手なの! あっわたしはカスタネットが上手よ!」
「おうたは?」
「お、お歌はいいのよぉ!!」
「ま、まぁ、ほら! ウケてるしOK! なんならお菓子配る方向にするか? そうしよう、な??」
歌姫がこういう時の為にと用意した菓子を出し、怪人へ渡す。子供たちはおうたききたい、とメリーノへ追撃をかけながら菓子へ群がった。
「よ、よーちゃん……わたしにおやつ頂戴……くれなきゃいたずらしちゃうから!」
心の傷は甘いものに限る。でも悪戯でもいい。がおーと両手を構えるメリーノに、レイチェルは当然と言わんばかりに菓子を差し出したのだった。
シャルルとオフィーリア、メアリが菓子を配る傍ら、イーハトーヴが壊れたおもちゃをメンテナンスする。
「はい、どうぞ」
「ありがとー!」
ぱっと笑顔を浮かべる子供に、シャルルもまた小さく笑みを浮かべた。
「……ねえ、シャルル嬢」
ぱたぱたと駆けていく子供の背中。視線は動かさずに、彼女を呼ぶ。
「なに?」
「俺さ、ちゃんと守れる人になりたい。全部を守れる強さはないけど……」
他ならぬ彼女に、勇気をもらったんだ。
落ちることなき視線に、シャルルはぱちりと目を瞬かせて。それから同じ方を向いた。
「その時は、ボクも一緒にいてあげる。出来るだけ、沢山を守れるように」
実際は互いに離れているかもしれない。けれど心はいつだって、傍にあるのだ。
「はい、きちんと並んでくださいね」
順番に待っている子にはおまけのトリート。割り込む悪い子はおまけのトリック。
菓子を配って回る瑠璃は、行列をまるで百鬼夜行のようだと思った。どことなく強そうな姿が多いのは、強さへの憧れだろうか。
(それなら、なるべく外見に合わせたお菓子を配りたいものです)
格好良い姿の子に可愛い菓子が渡ったなら――そのちぐはぐさは可愛いかもしれないけれど――子供は微妙な気持ちになるかもしれない。
「トリックオアトリート!」
「はい、よく言えました」
ジョシュアもまた、合言葉を聞いてカゴから菓子を取り出す。魔法使いの姿をした彼は実に"らしい"。
(けれど姿が変わるだけだから、友人のように菓子が作れるようになるわけではないのですよね)
影響を受けただろう友人を思い浮かべながらも、ジョシュアは菓子を配り、人々の笑顔を受け取る。
この国には嫌な思い出もある。けれど、それだけで今を生きる人を切り捨てる理由にならならない。
(どうしても、心配になってしまう)
少しの間でも笑えるように。そうしたら自分も、何かを掴めるような気がした。
ああ、いつも通りのハロウィンだ。マリカはそう思う。
別に記念日でもないのに、どうして今日に限って皆ハロウィンを祝うのだろう?
そんなモヤモヤもあるけれど、それはそれ、これはこれ。毎日ハロウィンを繰り返すマリカは、今日もまた"いつも通りに"悪戯は繰り出す。
「トリック・アンド・トリート!」
「アンド!?」
そう、お菓子もほしいし悪戯もしたい。問答無用なのだ!
「はーいみんな~! ここに集まって~!」
アリアの手招きで人が集まってくる。その表所は決して良いものではない。
(混乱の只中……不安も一杯だよね)
根本原因を取り除くにはまだ時間がかかる。けれど今、ひと時でも忘れて貰えたら。
「おねーさんと一緒に歌って楽しもうね! 合言葉は『sing for hope』だよ!」
希望満ち溢れた歌。明るくて楽しい歌。そして甘いお菓子。できることが限られているから、できる限りをするしかない。
「トリック・オア・トリート! 天使たる僕がお菓子を配ってあげよう!」
ふわふわと浮かびながら、魔法で天使になったランドウェラが皆へこんぺいとうや琥珀糖を配り歩く。甘いものが食べられなければ、キラキラ光る食べられない金平糖(ビー玉)を。
交換されるものはと言えば、今の時勢を考えればさもあらんと言ったところか――珍しい色の石だとか、くしゃくしゃながらも上手いデッサン画だとか。それらを集めながら、ふと思う。
(僕、天使になりたいなんて思うことあったかな)
あまり心当たりらしいものもない。首を傾げて、まあいいかと菓子配りに精を出すことにした。
「お師匠、トリックオアトリート! どっちも!!」
「リコリスさん、今日は配る日なんだよ」
キョトンとするリコリスに目を細めて、リーディアはカゴを渡す。一時でも安らぎを与えられたら、鉄帝の民も喜ぶだろう。
「幸せのお裾分けにいく任務だねっ!」
まかせて、とやる気満々のリコリス――だったのだが。
「お師匠ーっ! お師匠ーっ! たすけてーっ!?」
もふもふをもふもふされるリコリス。いやこれもちょっと良いかも。いやお師匠と菓子配りができないからやっぱり良くないかも!!
「大人気だね」
一方のリーディアはそれを眺めつつ、やってきた子供に菓子を選ばせてやる。あちらは危険なわけでもないし、愛弟子なら問題ないだろう――と、不意に小さな両手が出てきた。
「……これは私への贈り物かな」
「ん!」
こくりと頷いた犬耳の少女。手のひらに乗っているのは飴のようなビー玉だ。
一通り菓子をあげ終わったリーディアは、最後に子供たちから解放されたリコリスを手招きする。なになに? と寄ってきた彼女に合言葉を告げると、目をまん丸に見開かれてしまった。
「おや。狙撃手たるもの奇襲には充分気をつけるんだと、あれほど教えたのにね?」
「えへへ……お師匠の奇襲に比べたら、ボクの腕前はまだまだだね!」
不意打ちのそれにリコリスは苦笑を浮かべて、好きなのをどうぞとカゴを差し出したのだった。
●
「コンバインの仕事は収穫ですわ。刈るに決まっているじゃありませんの」
さも当然のように言うのは網タイツ美脚コンバインことフロラ。網タイツ履いた美脚が伸びていようと大鎌を持てる手が生えていようとその本質はコンバイン。らしい。そういうことにしておこう。
「血みどろな絵面もアレですわね……そう、わたくし(コンバイン)の処理部に放り込んでくださいますこと?」
「えっいいの? それはそれでスゴイ絵面だと思うけど」
まあ本人が言うならいいか、とイグナートが自分とフロラが倒した敵をじゃんじゃか放り込む。どういう仕組みか分からないが、虹色のペーストが出てくる。細かいことは気にしないでおこう。
「おっと、次が来たみたいだ。あれは喰えそうかな」
イグナートが獣を見てにっと笑む。食糧になるモンスターが倒せたなら、シェルターへ持ち帰ってあげなくては!
(魔法なんて必要ないけど、魔法にかかったって思われるかな?)
その方が都合が良い。トールは敵を探しながら、人にも気をつける。
できることなら接触する人は少ない方が良い。さらには自分のことなど知らない人がいい。
トールは優れた瞬発力でモンスターの急所を突いていく。ズボンは少し違和感があるけれど、やはり動きやすい。髪が靡かないのも不思議な感じだ。
一方、トールと顔見知りである昴もまた、モンスターの足跡などを辿りながら殲滅にかかっていた。
(せっかくのファントムナイトだ。子供たちの水を差すようなことはさせない)
"平和なファントムナイト"を最後まで守れるように。昴の拳がモンスターを粉砕せんと振りぬかれた。
「――狩られるのは貴様らの方だ」
他のイレギュラーズのように、誰かを楽しませることも、喜ばせることもできない。一体でも多くのモンスターを倒すことしか、出来ないから。
そうしてモンスターが掃討され、一時の安全を得た街中をリディアが歩く。楽器はいらない。誰しもが持っている楽器(声)さえあれば、それでいい。
歩きながら歌うリディアに、隠れながら住む町の人々が顔を出す。少しずつリディアの後ろに列が出来て、その行く先はかつて噴水があった広場だ。最も、今はその噴水も壊されてしまっているが。
「さあ、魔法少女リディアのライブ開演です! 是非聴いて行ってくださいね!」
まだレパートリーは少ないけれど、愛と勇気と希望の心は絶対に伝わるはずだから。聴いて元気を取り戻してもらうのだ!
「炊き出し、アタシが並んじゃおうかしら」
「あら、今日は皆に冷えたお腹を温めてもらわんと。ね?」
ニコニコと笑えば、彼女が肩を竦めながら視線を逸らす。でもその耳がほんのり赤いから、照れ隠しなのだとわかるのだ。
「はい、熱いよって気ぃつけて」
野菜の入ったスープを蜻蛉がすくう。
「冷めないうちに飲んじゃいなさい。ああほら、ちゃんと前見て、転ばないようにすんのよ」
渡しながらも口酸っぱくコルネリアが注意を促す。
2人の炊き出しは湯気が導のように立ち上って、あっという間に列ができた。スープもあっという間になくなっていくが、その分笑顔も増える。大事そうにスープの器を抱えていく人々の姿に小さく笑みが浮かんでいる事に、彼女は気付いているだろうか――なんて、蜻蛉はちらりと見て微笑んだ。
「お疲れ様でした。はい、これ」
「……なくなったんじゃなかったの」
「ふふ、渡したかったんよ」
配り終えて煙草を出しかけたコルネリアは、それをしまう代わりに蜻蛉から器を受け取る。それを見下ろすフリして、彼女から視線を逸らしてしまう。
彼女の気持ちはくすぐったくて、けれど、嫌いじゃない。
「……それなら、半分アンタも飲みなさい」
「半分こ?」
「そうよ」
「ええのに。……でも、ほんなら、お言葉に甘えて」
"暖かい"を半分こして、共有する。嗚呼、体も、心も、ぽかぽかだ。
「順番にね。ゆっくり食べてって!」
エルはミルク粥をよそっては、並ぶ人々に渡していく。美味しくて良いお米に牛乳と砂糖、それをドロドロになるまで煮込んだ胃にも心にも優しい食事だ。
「はい、気をつけて」
「ありがと……」
器を受け取った子供が、立ち上がる湯気にわあと声をあげて。それからお腹の虫がきゅるりと催促するように鳴る。小さく笑ったエルは、しっかりお腹一杯になってねと声をかけた。
「ふわふわ!」
「ああ、ふわふわだ」
かぼちゃのポタージュも好評だが、ふわもこアニマルも大人気である。淡々とポタージュをよそって渡しているように見えるゲオルグも、内心そうだろうと首を大きく振っている状況である。
お腹が膨れ、体も暖まり。極めつけは触れて感じて貰いたいふわもこの触り心地と可愛さ。
炊き出し自体は場凌ぎにしかならない。けれど、今日と言う日が明日を生き抜く活力となりますようにと、願わずにはいられない。そしてその活力を起こす力が、ふわもこアニマルには存在するのである。
「ザーバ将軍も食べた豚汁ですよー!」
その声の元には、大行列が連なっていた。先頭でちょこちょことハーフエルフの少年が動き回り、豚汁を人々へ渡している。
「しっかり活力を付けましょーねー」
――誰が気づくだろうか。このハーフエルフが黒豚系オークのゴリョウである、などと。
しかし今は元の姿など関係ない。大事なのは栄養満点で温かな豚汁を沢山の人に食べて貰う事である。
「んお、エマ? 貴方も居たのね」
炊き出し用の食糧樽を降ろしながら、ハーモニカの音がするなあと思ってはいたのだ。イーリンを呼び止めたのはその奏者であり、イレギュラーズでもあるエマ。即興演奏で人々の関心を集めていたらしい。
「さっき演奏していたの、鉄帝の曲?」
「ご名答です! 幻想の下町で流行った曲なんかもありますよ」
それは聞けばしょうもない内容ではあるのだが、そういったものが好まれるのが下町である。
「そうだ、馬の骨さんも知ってる歌なんか教えて下さいな!」
「また唐突ね……」
目をきらりと輝かせるエマに、イーリンは呆れ混じりに笑みを浮かべる。流行曲は彼女も知っていそうだし、軍歌は避難民を前にして歌って良いものか。……嗚呼、そうだ。
「遠い海の歌は如何?」
「……この楽譜は。いえ、そうですか、頑張って演奏してみせましょう!」
楽譜を渡されたエマが瞠目する。イーリンは先ほど降ろした食糧樽に腰かけるとリュートを軽く鳴らした。
かつて友が、珍しく譜面に起こしたノクターン。寂しい己を暖かく見守る"誰か"を想って書いたのだと見て取れる。
(今は家族や友人と、離れ離れかもしれない)
それでも大丈夫なのだと、伝えたい。
その歌を聞きながら、憂炎は生ハムスープを人々へ渡す。そろそろ南部戦線の名物にでもなってくれただろうか?
ファントムナイトは一時的な幻想にすぎない。明日になれば解けてしまう魔法とともに消えて、現実が押し寄せてくる。――冬が、やってくるのだ。
(僕らが考えねばならないことは、これからの冬だ)
きっと誤魔化しは効かない。出来ることをやりながら、模索していくしかないだろう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
魔法は解けて、現実がやってきますね。
GMコメント
●鉄帝民を元気づけましょう!
リプレイで描写されるのはファントムナイトの最終日(11/3)です。
ファントムナイトとは? という方は以下をご参照ください。
https://rev1.reversion.jp/page/Halloween_2022
本イベントシナリオでは、鉄帝内の街や避難シェルターを訪れることが出来ます。特にOP上でどこと明示はしません。
『鉄帝民に喜ばれそうなこと』に繋がることであれば、比較的自由にプレイングを書いて頂いて問題ありません。新皇帝に挑みに行く等は無理なので気をつけてください。
以下は一例となります。何をするか困ったら参考にしてください。
・菓子を配る
ユリーカの用意したカゴを持って菓子を配ります。合言葉は『トリック・オア・トリート!』。
相手の姿はまちまちですが、仮にモンスターのような風体をしていたとしても敵対生物ではありません。(御伽噺に出てくるドラゴンへ変身する子供もいるでしょう)
鉄帝民に合言葉を告げると、菓子ではない代わりのプレゼントがもらえることがあります。高価なものではなく、手作りの小物とか子供の描いたイラストとか、そういった類です。
・一芸を披露する
鉄帝民の気を晴らすような演奏・歌唱・マジック等を行うことが可能です。
娯楽が少ない状態のため、そういったものが始まるとかなり注目を集めることができそうです。
ただし、あくまでボランティアに近いものとなります。また、シェルターなどでは大きな楽器がない場合もあります。
・炊き出しを行う
小規模であれば炊き出しを行う事が可能です。
豪華な食事にはできませんが、スープなどの簡単なものであれば提供することが出来るでしょう。
鉄帝の冬は厳しいため、温かいものは好まれます。
・はぐれモンスターを狩る
ローレットの依頼等で主に請け負うのは複数体の魔物、ないしは強力な単体の魔物が多いですが、ここでは各地の自警団などが対処するようなはぐれモンスターを退治することも可能です。退治しておくと自警団等に余力ができて喜ばれます。
いわゆる雑魚敵と呼ばれるモンスターですが、一般人なら複数人で苦労しながら討伐する程度の強さになります。しっかり戦うプレイングを書けば負けることはないでしょう。
●注意事項
本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
同行者、あるいはグループタグは忘れずにお願い致します。
●NPC
当方が担当するNPCであれば、プレイングに記載いただいた場合、登場する可能性があります。
鉄帝の重要NPCは呼んでいただいても登場しない可能性が高いです。
●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●ご挨拶
愁と申します。南部戦線周辺を主としたイベントシナリオです。久しぶりにイベシナ出してウキウキしています。
鉄帝はなかなか難しい状況にありますが、それでも魔法はかかるのです。現実へ戻される前に、鉄帝の避難民を元気づけてあげましょう!
それでは、よろしくお願い致します。
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