PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<美しき珠の枝>初嵐とならん

完了

参加者 : 25 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鬼
「――支佐手!」
 物音を聞きつけた松元 聖霊(p3p008208)と唯月 清舟(p3p010224)、そして嘉六(p3p010174)が廊下を駆けてくる。
 何事だと嘉六は驚いてはいるが、聖霊と清舟のふたりは事前に物部 支佐手(p3p009422)から状況を知らされていた。けれど今、支佐手は今まで得ていた情報にない存在と対面している。
 ――隠そうともしていない。あれは、魔種だ。
 それも四人では絶対に勝てないと思える相手だ。
 隻眼の男は駆けつけた清舟たちを一瞥し、ただただ楽しげにニタリと嗤う。
「おぉ、増えたなァ。何だ、思ったより居るじゃねェか。……なァ、楼主」
 呼ばれた楼主が、怯えるように「ひゃいっ」と飛び上がる。
「まァ、いい。客は多い方が良いからよォ。なァ、楼主」
「は、はい! 『亭主』の仰る通りでっ!」
 ジリ……と僅かに動いて四人は何とか好機を伺う。
 しかし。
 愉快に話しているように見え、到底逃げるだけの隙きがあるように思えなかった。男の手にはいつの間にか赤い刀が握られており、背を向けた途端に振るわれることだろう。
「お前等暇だろう? そうだろう、なァ? 折角潜り込んだんだ、手ぶらで返すのも気が引けるからよォ。俺様が『接待』してやるよ」
 人が好いとは到底思えぬ笑みを浮かべ、後方でしきりに汗を拭う楼主を気遣うこともなく、男は始終勝手に喋る。
「……断る道はあるんですかの」
「さァ、どうだろうなァ」
「て、亭主……」
「あ゛?」
「ひっ! は、はい。ご自由にお過ごしください……」
 今にも死にそうなほどに顔を青くした楼主を一瞥し、再度支佐手らに顔を戻す。
「――なァ、どうする? これは、さあびすだぜ」
 全員揃って退却するために支佐手の元に三人が駆けつけた。遊郭で集めた情報も持ち帰らねばならないし、敵の親玉らしき相手に遭遇したことも報せる必要があった。
 故に、答えはひとつだ。
「すいませんの、急いどりますんで」
 またの機会にお願いしますと告げる言葉は緊張に掠れていた。
 背にたくさんの汗をかき、ジリと片足を下げながらの応え。
 そうかと口にした男がすぐに赤い刀を振るって諸共切り裂くかは、五分だろう。
 四人の間に緊張が走る。
 けれどくるりと、まるで興味を失ったかのように男は背を向けた。
「て、亭主、よろしいので?」
「構わねェ。そのうち弦一郎も帰ってくるだろうしなァ。
 まァでも、帰すってことは可愛い可愛い狗たちが来るか。河岸は変えるかァ」
 男はのんびりとそんな事を口にしながら去っていき、楼主はその後を大慌てで追いかけていく。
 廊下に残された四人は男の背が見えなくなるまで身構えたままで――
「見逃されたんか?」
「そのようですの」
「何だあいつ、おっかねぇ」
「あいつが彼女たちを……」
 顔を見合わせてひとつ頷くと、それ以上は何もせず、何も口にせず、素早く撤退した。

 その男は、隻眼であった。
 ――否、正確には額にもうひとつ眼があるが、通常あるべき場所、右目は眼帯に覆われていた。
 大柄な体に浅黒い皮膚を持ち、額からは黒い立派な角が二本生えていた。
 みっつの眼に、角――
『亭主』と呼ばれていたその男は、紛れもなく『鬼人種』であった。

「――報告は以上になります」
 遊郭を逃げるように去ってすぐに簡易的な報告をファミリアーに託すと、翌々日遅くに刑部からの遣い――月折・現が物部 支佐手(p3p009422)の元へと現れた。
『刑部卿がお呼びだ。疾く参られよ』
 短に告げられる言葉に胃の腑をぎゅっと縮こまらせ、否やを唱えられるはずもなく支佐手は彼に続いて奥の院――八扇各省の上層部の集う院のひとつにある、刑部卿の執務室へと足を運ぶこととなった。
 同じ刑部の者でも、直属の部下でも無ければ此処まで来られる者はそう居ない。入室の許可を得て執務室へと足を踏み入れれば、いくつもの書簡が積み上げられている立派な文机の前に一本線が入ったように座した男――『刑部卿』鹿紫雲・白水(p3n000229)は書き物をしていた。暫しサラサラと筆の走る音だけが静かな室内に流れる間も、支佐手は面を下げたまま気が気ではなかった。呼ばれた事への大体の察しはつくものの、もしかしたら別の……とも考えてしまうのだ。
 切の良いところまで書ききったのだろう。小さく息を吐いた白水が筆を置く。カタンという小さな音でさえ、今の支佐手には大きな音に聞こえた。視線を持ち上げ、薄い瞳が面を下げたままの支佐手を射抜く。感情の彩が籠もらない瞳は観察しているようにも思え、喉が小さく鳴った。
 白水が口を開く。まずは「ご苦労であった」と労いが入り、次いで「詳しい報告を直で聞きたく、参じて貰った」と静かに紡がれる言葉。矢張りそこに感情の彩はひとつもない。
 床についた手をぐっと握りしめて支佐手は口を開き、そうして先刻の言葉で締めくくったのだった。
「その男は『亭主』と呼ばれていたのだな」
「はい、そう呼ばれておりました」
 であればと、白水には思い当たる者が居るらしい。
 白水がご苦労であったと再度口にし、支佐手は頭を下げて下がろうとした――ところで、「待て」と声が掛かった。
「使いを頼まれて欲しい」
『お使い』とはまた、近頃なんとも縁深い。是を唱えれば現が動いて白水から書簡と小さな捻り封を預かり、其れを支佐手へと繋ぐ。
 誰宛かを知る必要はないが、問わずとも知れる。
 ――ローレット宛の密書であった。

●雨雲
「急ぎで集まってもらってごめんね」
 そう劉・雨泽(p3n000218)が口にするのは、まだ前回の作戦から数日しか経過していないからだ。
 まずは何から話そうか。悩むように顎に触れてから、良いことの方から話そうかと口を開いた雨泽は隣へと掌を向けた。
「まずは、実は敵方で『お使い』をしていた支佐手が帰ってきましたー」
 わー、ぱちぱち。ひとりで手を叩いて拍手を促したけれど、誰も乗ってくれない。
「……僕も先日知ったんだけどね。全然連絡くれなくて、きゐこが心配していたよ」
「やぁ、すいませんの。見張りもついちょりましたけの」
 刑部からの依頼によって春前から動き出したイレギュラーズたちであったが、支佐手はその頃から敵方で『お使い』をしていた。接触を図ってきた男の信用を得るために、幾度となく遊郭『白鴇屋』へと足を運んでいた。最初の数回はお試しで、使えると思われてからは『薬』の運搬を行っていたのだ。
 受け渡しは決まって白鴇屋の一室であった。中には通されないため用心棒のような男達にしか会わないが、見聞きした情報を纏めるに、どうやら支佐手は『万屋』と呼ばれる者から頼まれ、多くの場合は『薬屋』の元へと運んでいたようだ。
 怪しまれるため『薬』を入手することは出来なかったが、それは粉状のものであった。包み越しに触れる感覚は都度違うことから。また、これまでに蓮杖 綾姫(p3p008658)等が入手した証拠品から、刑部はそれは鬼人種の角や牙、骨等を粉末にしたものであると断定した。
 白鴇屋では『薬』の受け渡しとは別に会合か密談が行われている事を察した支佐手は、敵の顔を拝むまでは帰らぬ心づもりでいた。その過程で『新城弦一郎』と遭遇し肝を冷やしたこともあったが――此度、敵方の親玉と思しき『亭主』と呼ばれる鬼人種の男とまみえて帰還し、そうして刑部卿に呼ばれて見たままを報告し、現在に至る。
「支佐手が刑部卿から預かったのは『いつもの』と、元花魁からの手紙だね」
 彼から受け取った書簡と捻り封を手にした雨泽が「聖霊」と医者である青年の名を呼んだ。雫石が君と会いたいそうだよ、と。
「さて、と。次は悪いことの方。――澄恋と瑞鬼が浚われた」
 ふたりは『犀星座』のことを調べていたから、十中八九そこだろう。
 澄恋(p3p009412)はいつも自分のことを顧みない無茶をする。
「助けに行く算段を刑部の人としていたのだけれど……朝顔が囮になると申し出てくれたよ」
「はい。追われている私が姿を見せれば、きっと追ってきて……その分犀星座の中から悪い人たちが居なくなると思うのです」
 どれだけ犀星座に悪い人たちが居るのかは解らない。けれど隠岐奈 朝顔(p3p008750)が囮になれば、確実に警備に割く人員は減るはずだ。
「上手いこと忍び込んで……あと多分。いや、確実に。澄恋たち以外にも囚われている人が居ると思う。彼等も助けてきて欲しい、というのが刑部からの依頼だね。因みに、相手を見誤らないように気をつけてくれさえすれば、荒事もオッケーの許可を得ているよ。一般人も居るからそこだけは気をつけて――あ、殺しも駄目だよ」
 彼等は法によって裁かれるべきで、刑部は法の番人だ。
「そんな感じで急ぎで当たって欲しいのだけれど――」
「すまねェが、こちらも急ぎで頼む!」
 ――バタン! 大きな音を立て、日向寺 三毒(p3p008777)が駆け込んできたものだから、雨泽が小さく息を飲んだ。彼とは昨日密かに会ったばかりで、その時に報告を受け、今日も此処には居ないはずなのだが――。
「……三毒。どうしたの」
「間者のヤロウが計画を早めた」
 ――今夜、鬼人種たちの隠れ里が襲撃にあう。
 急を要する事案が二件。
 集ったイレギュラーズたちは二手に分かれ、ことに当たらねばならない。

●獄
 まなうらに赫が走るような感覚とともに痛みを認識し、覚醒する。
(……此処は)
 目覚めたそこは薄暗く、饐えたような臭いが微かに香る。
 ギィと何処かから聞こえてくる金属めいた音に、息を殺すように潜むいくつかの気配。
 落ちている幾つもの情報を拾い上げようと意識を向けたけれど、脳に伝わる痛覚の電気信号は跳ねるように明滅し、思考を妨げた。それでもそこで考えを止める訳にいかない。意識を失う前の記憶の糸へと手を伸ばして紐解けば、ああ此処は牢なのかと得心の念がストンと腑に落ちてきた。
 暗がりに目を凝らす。格子や布団が視界に入るが、人の姿はない。どうやら独りきりのようだ。痛みを訴えてくる足へと手を伸ばすと包帯が巻かれている――きっと血止めと消毒くらいはされているのだろう。
(瑞鬼様は――)
 澄恋が斬られた時の瑞鬼(p3p008720)のかおを思い出し、ごめんなさいと再度胸の内で謝った。巻き込む形になってしまったことを思えば胸は痛むが、それでも澄恋はこの生き方をやめられない。
 身を起こして足を擦った澄恋は自嘲するように小さく笑み、そしてふと息を吐いて其れを消す。今は己に向き合う時間ではない。
 さて、どうしましょうか――。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 お待たせいたしました。<美しき珠の枝>の続きとなります。
 今回を含めて後二回で終了予定で、今回は二面作戦で動きます。
 時間軸的には前回から4日後になります。

●目的
 犀星座に囚われている人々の救出
 隠れ里防衛

●これまでのあらすじ
 鬼人種虐待絶対許さないマンが刑部卿に就任しちゃったのであら大変★
 叩けば出る出る、豊穣に蔓延る鬼人種が被害にあっている悪事の数々!
 刑部卿「この機に洗いざらい綺麗にするから覚悟するがいい!」(意訳)
 ――という訳で、少しずつ動いていっていました。
 被害者と加害者の情報を集めていき、被害者が隠れ住む隠れ里の存在、そして京の中でも様々な敵の潜伏場所や悪事を知ることとなりました。
 証拠等はかなり集まったので、そろそろ潰していこう――そう思っていた矢先、一般人に扮していた神使が攫われました。

【関連シナリオ】
『美しき珠の枝』でリプレイ検索してください。
※読む必要はありませんが、読むと詳しくなれます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●プレイングについて
 一行目:行き先【1】~【3】いずれかひとつを選択
 二行目:同行者(居る場合。居なければ本文でOKです)

 一緒に行動したい同行者が居る場合はニ行目に、魔法の言葉【団体名+人数の数字】or【名前(ID)】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら三行目以降に記載がありますととても嬉しいです。

 例)一行目:【2】
   二行目:【やったるぞい!3】※3人行動
   三行目:仲良しトリオで連携するよ。

【1】犀星座
 澄恋さんと瑞鬼さんが攫われました。内と外から切り崩していきましょう。
 犀星座は地上三階、地下?階の建物を有しています。表から入った場合の1/2は見世で、客席や舞台となっており、一般客等が居ます。地上の他の部分は稽古場や一座の座員用の休憩室等、様々な部屋があります。上等の客を迎える応接間等もあります。――という情報を『月折・現』が掴んでいるので、今回は情報を知らされています。が、朝顔さんが居た場所までの最短ルートのみの情報です。全体の把握はされておりません。(朝顔さんはほおずき屋から運ばれたので、地上階で救出されています)
 一般客や何も知らない座員、少し勘付いていても気付かないようにしている座員等、無関係な人の出入りも多いです。そのため表向きには大きな騒動が無いよう&無関係な人に怪我等出ないように事を収められると刑部的には◎です。外に騒ぎが漏れぬよう全て内々に済ませられるのなら潰してしまってもOKです。出来るだけ殺さず、座長は絶対に生かしてください。

・潜入
 主な目的は浚われたイレギュラーズ二名の救出、余裕次第で実情調査。(地下に侵入しなくては他にも多くの鬼人種が囚われていることを知れません)
 昼間であれば、座員・一般客として入ることが可能です。犀星座は芝居小屋なので座員募集は欠員が出た時にしか人を募っていないようです。が、座長を唸らせるような人が居た場合は、それ以外の人も入れます。「怪我をしてやめる人が多い」という情報をイレギュラーズは掴んでいます。
 夜間は夜廻りがあります。それ以外にも普通に住み込みの座員がたまにウロウロしていたりもするので、動きは読めません。
 一般的な座員は朝からの稽古があるので、寝付けない・手洗い・空腹・月でも見よう……等が無ければ早めに就寝します。また、彼等は地下の入り口等を知りません。知ってしまった人は居なくなっているからです。

・囮
 朝顔さんが囮になります。
 犀星座近辺を彷徨くと「元々朝顔さんを探していた人」や「それを知っている人」が反応することでしょう。犀星座出入り口の見張りが彼女の姿を見た場合は内部へ連絡が行き、彼女を追う配下たちが数名建物内から出て行きます。
 作戦終了まで逃げ続けてもいいですが、一緒に行動してくれる仲間たちと協力して追ってきた人たちを返さない(ひたすら逃げ続けたり、返り討ちにする)ことが叶うと潜入する仲間たちが動きやすくなることでしょう。

・囚われ人(澄恋さん、瑞鬼さん)
 あなた方は別々の牢に居ます。外からの喧騒は届かず、基本的には静かな空間です。OPは目覚めた時の描写ですが、リプレイは4日目になります。
 澄恋さんのところではたまにギィという音が聞こえますが、瑞鬼さんのところでは聞こえません。もしかしたら双方、共通して子どもが啜り泣くような声は聞こえるかも知れません。聞こえていたら、その空間に未成年が居ます。
 牢を抜け出すことが叶った場合、見た目年齢・大きさ・性別、そして更に容姿で牢が分けられている事、そして地下である事を知ることでしょう。
 食事は朝晩、質素。トイレは樋箱(平安~江戸のトイレ、おまる)。薄くてちょっとかび臭い布団、鬼人種用の頑丈な檻。食事は食事用の小さな枠が開きます。
 容姿の良い者は健康状態を維持するために全体的に待遇が少し良く、畳敷の座敷牢でご飯も健康的で美味しい。地下一階が座敷牢、地下二階は土間な牢です。澄恋さんは商品価値が高いと思われているので地下一階、瑞鬼さんはとばっちりなので地下二階に居ます。
 全ての牢を見て回ると年齢性別等様々な鬼人種が10~15名飼われていることが解ります。出荷待ちです。比較的最近入った人は元気なので歩けますが、健康や状態によっては……な感じになります。
 各階層移動には鍵が必要になります。地上階へ行く階段等も鍵が必要(此処や他の檻が開くとギィと音がしています)なため、地下部分を巡回する人はほぼ居ません。食事時と深夜、新入りさんが来た時についでに巡回。地上階へ行く階段前にも格子があり、そこに『牢屋番』が居ます(牢側からだと外側)。地上階へは外側からしか鍵の開閉は出来ず、そこの鍵は牢屋番のみが持っています。食事等を運ぶ人が来たら牢屋番が鍵の開閉、帰る時にまた開閉、となります。
 個別あとがきにも記しましたが、装備は仲間と合流しない限りありません。装備付属のアビリティの使用はできません。己の体ひとつで出来ることで道を切り開きましょう。

【2】鬼人種の隠れ里
 何らかの理由によって逃れてきた鬼人種たちが身を寄せ合って暮らす、山間の隠れ里です。空からも見つかりにくいように上手く木々を利用して隠され、里の周りは遠目には木々に見える塀で囲い、外敵を阻むために出入り口には頑丈な門があります。

 鬼人種の里が襲撃にあう情報を掴みました。
 OPの時点が出発時です。すぐに出発し、半日程で到着。1時間以内で出来ることなら行動可能です。
 間者の名前は茂助。前回のリプレイ(個別あとがき)にて間者であることが判明し、すぐに三毒さんが雨泽と連絡を取りました(OP前日)。が、茂助も出入りしだしたイレギュラーズを警戒しており、計画を早めることにしました。
 敵は夜半、10名でやって来ます。里の出入り口は一箇所しかないので、夜間に見張りを変わると交代した茂助の手引でそこから侵入し、里の人達を襲う予定。目的は、殲滅>捕縛です。障害になるなら躊躇わず殺します。どの道最終的に殺してしまうので。そこそこに腕が立ちますし、暗視・聞き耳・ファミリアー等で偵察も行えます。
 翌朝になると刑部の人たちが応援&事後処理に到着します。

・ジルーシャさん、此花さん、三毒さん
 3日目昼間に雨泽と連絡を取り、3日目夜に計画が明日と言うことを知り、三毒さんが急遽知らせるために隠れ里を後にし、茂助はジルーシャさんと此花さんが身柄を捕らえました。情報を得ようとしましたが舌を噛み切りそうだったので気絶させ、猿ぐつわを噛ませてあります。
 ジルーシャさんと此花さんは他の人達よりも工作等をする時間がありますが……里の人々に知らせるか否か、人々をどうするか、戦闘場所をどうするか等、今後を見据えて里長と話し合う事が多いかと思うので、やれることに限りがあることでしょう。

・隠れ里の人たち
 鬼人種のみが十数名が逃げるように隠れ住んでいます。戦闘は行えません。
 暴力沙汰を目にするとフラッシュバックしてしまう人も居るかと思います。

・NPC
 満春…里長の親友。行商人の振りをして訳有の鬼人種を見つけると匿っている。
 里長…満春の親友。妹を喪った鬼人種。

【3】その他
 他にやりたいことがある人向け。何かを行えます。
 引き続き郊外の村落、高天京内の調査等も可能です。遊郭へは行けません。
 個別あとがきで特殊な場所への案内が出ており、上記数字の場所には向かわない場合も此方を選択しておいてください。
 
・『雫石との対話』
 元花魁・雫石との筆談での対話が可能です。場所は刑部の管轄の施設内、10畳ほどの和室に布団を敷き半身を起こしています。墨と硯、布団の上でも書ける机は用意されていますので、尋ねたいことを尋ねてみてください。知っている範囲の内容を教えてくれます。
 医者として接してきた『聖霊さん』と『冬佳さん』が行えます。冬佳さんがこちらを選択しない場合、聖霊さん+女性1名。両名がこちらを選択しない場合は、女性2名までが可能となります。

<雫石の状態>
 喉:定期的に喉を潰す薬を飲まされていました。
   元通りの声にはなりませんが、いずれ治ります。
 足:腱を切られています。傷自体は塞がっていますが瘢痕化しています。
   手術等をせずに傷が塞がった形なので腱は切れたままです。歩けません。
 角:あります。

●プレイング
 長編プレイングは公開されません。
 調べたいことを自由に、あなたらしく記してください。

●EXプレイング
 開いています。必要に応じてご利用ください。

●同行
 弊NPC、劉・雨泽(p3n000218)が同行しています。が、【1】か【2】のどちらかにしか同行できません。呼ばれた方へついていきます。特に無ければ刑部省間の橋渡しに忙しくしています。
 刑部省に伝えたいこと、もしくは彼に話したいこと、やってほしいこと等ありましたら可能な範囲でお応えします。
 ※種族を知られることを嫌うので、種族特徴を明かすような行動を弊著SS以外で行う事はありません。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <美しき珠の枝>初嵐とならん完了
  • GM名壱花
  • 種別長編EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月22日 22時05分
  • 参加人数25/25人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 25 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(25人)

チック・シュテル(p3p000932)
燈囀の鳥
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
月香るウィスタリア
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
威風戦柱
コルク・テイルス・メモリクス(p3p004324)
貴方を想う
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
松元 聖霊(p3p008208)
医神の傲慢
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
蓮杖 綾姫(p3p008658)
厄斬奉演
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き
隠岐奈 朝顔(p3p008750)
真意の選択
白ノ雪 此花(p3p008758)
特異運命座標
日向寺 三毒(p3p008777)
瞑目の墓守
ルーキス・ファウン(p3p008870)
散華閃刀
イロン=マ=イデン(p3p008964)
善行の囚人
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
澄恋(p3p009412)
花嫁キャノン
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
神倉 五十琴姫(p3p009466)
白蛇
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華
耀 英司(p3p009524)
怪人暗黒騎士
嘉六(p3p010174)
のんべんだらり
唯月 清舟(p3p010224)
天を見上げる無頼
リスェン・マチダ(p3p010493)
救済の視座

リプレイ

●夜の防衛戦
 山間に、ひそりと在る隠れ里。
 そこに住まう鬼人種たちは迫害か、もしくは何らかの由により身を隠して暮らしている。
 ただ、そっと静かに暮らせればよかった。身体にも心にも傷を負った彼等を癒やしてくれるのは刻のみで、ただただ只管に安寧のみを求めていた。一般的な村に住まう者たちよりも、ずっとずっと、切実に。
 けれどもそれを良しとしない者たちが居る。
 殺せたと思っていた、逃げた者を殺しそこねていた。そういった悪意ある理由で彼奴等は、一命を取り留め安寧を欲する者たちに再び毒牙を立てんとする。生かしてはおけない。生きていれば、何を話されるかわかったものではない。例え相手が何も知らなくとも、その可能性が砂粒ほどでもあるのなら、殺すべきだ。周到に、用心深い。それが今までに見えてきていた敵の――組織の姿であった。

 最初から疲弊していては迎撃できるものも迎撃できない。
 里長たちが眠れるように、また自らの体調管理のためにも朝を待った『特異運命座標』白ノ雪 此花(p3p008758)と『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は里の中で満春を探すと、連れたって里長の元へと向かった。
「今まで黙っていてごめんなさい、アタシたち神使なの」
 がばりと頭を下げたジルーシャに掛かる声は「ああ、そうかなと思っていました」であった。此花や『瞑目の墓守』日向寺 三毒(p3p008777)は別として、ジルーシャやレディ・グレイなどは彼等にとってはかなり異質な存在であったから。
 あらと出鼻をくじかれつつも騙していたなと思われない事に安堵して、ジルーシャと此花は慎重に『茂助』の件を切り出した。
「間者を捕らえて頂き、ありがとうございます」
 襲撃があること、そして三毒が信頼できる神使筋(ローレット)の救援を連れてくる事を聞いた里長は、頭を下げる。きっといつかはそうなるかもしれないとも思っていたのだろう、その顔に動揺の陰は見えない。……膝の上で握りしめられた手は震えていたが。
 然れど、襲撃を先に知れたことは良かった。何も知らずに襲われていたら、仲間を呼びに行っている間に里は陥落していたことだろう。
「村の皆様には一か所に集まって頂くのが宜しいかと思うのですが」
「護って頂きやすくなるでしょうし、それが良いかと思います」
「内緒にしたまま避難させれないかしら」
「それは……」
 そうするのならば、里の人に対する違う説明が必要となる。
 どういった理由で一箇所に集めるか、そして戦いの気配や音をどう説明するか。
 考える間に時がすぎていき、良い答えがないのなら已む無しと会話を切り上げる。今は少しでも多くの時間が欲しかった。
 里人たちを何処へ集めるか、緊急時の撤退方法は――。
 言葉を尽くす。けれど此花は知っている。どれだけ策を練ろうとも『必ず』とはなかなかに困難な事を。
 故に心を尽くして、出来る限りをする。両手でしっかりと掬い上げられるように。

「急ぎで参りますわよ、可愛いドラコン達!」
 明るい声でドレイクたちへと声を掛け、『貴方を想う』コルク・テイルス・メモリクス(p3p004324)は軍用馬車を走らせる。乗客はイレギュラーズ御一行。目指すは鬼人種の隠れ里。ハッピーエンドにするために!
 豊穣では――と言うよりも覇竜領域以外では――目立つ亜竜馬車を駆れば、警戒して人も動物も、盗賊だって襲おうなんて思わないであろうから、エネミーセンサーには何も引っかからなかった。勿論此度の襲撃犯だって、コルク自身と面識がある訳ではないので敵意を向けるはずもなく。ピーヒョロロと鳶が空で鳴くのみで、一行は真っ直ぐに隠れ里のある山へと向かった。
 目立つ移動手段を使えば敵の目につき警戒されるが、それでも移動時間は大いに短縮できる。舗装されていない道を駆け抜ける亜竜馬車は大いに揺れてイレギュラーズたちはお尻を痛めたけれど、夜通し駆けてきた三毒へ夜に備えて休む場所を提供することも叶っていた。
 山の麓に着いたら亜竜馬車を降り、一行は極力痕跡を残さないように留意して、三毒の案内で里へと向かった。
「おかえりなさい」
 イレギュラーズ等到着の知らせを受け、ジルーシャと此花が駆けてくる。コルクのお陰で思っていたよりも早くに到着した仲間たちの姿に、ふたりは少しだけ眉を下げていた。
 今は里人全員に集まってもらうための場所を準備しているところであった。農村等ではないから全員で集まれるような集会所等がある訳でもないため、ひとつしかない門から一等離れた家に十数名が入れるようにと手を加えているところであった。
 門から一等離れた家を選んだのは、一箇所に集めるための事情を説明することは避けられないが、それでも少しでも戦闘音が聞こえないように、という配慮でもあった。
「わしが声を掛けてまいろう。ほれ、支佐もついてくるのじゃ」
 場所を確保できてから里人に集まってもらうのだと告げるジルーシャに、『白蛇』神倉 五十琴姫(p3p009466)が里人たちへの声がけを買って出て、『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)も働けと連れて行く。……小柄な少女に連れて行かれる支佐手に『のんべんだらり』嘉六(p3p010174)と『天を見上げる無頼』唯月 清舟(p3p010224)がニマニマとしていたが、支佐手は仕事仕事と見ぬふりをした。
「あの家に集まるのか」
 直接避難所となる家を見に行った三毒は、それならばと顎を撫でる。
「使ってもいい資材はねェか? 簡単に手を出せねェようにしておこうゼ」
 隠れ住む里には寒村よりも資材は無いが、それでもできるだけの備えをしておきたい。けれど今は里の存続、そして人命が掛かっている場。それならと、満春が壊して資材にして良い家具も募ろうと提案した。
 手の空いてる者がいたらと手伝いを募れば、ほいならと清舟が袖をまくる。
「儂等も手伝ったるわ!」
 ――等。つまり、当然。
「げ。俺を勝手に頭数にいれるんじゃねえ」
「『まとも』に働いたから身体が訛った~とか言うちょったじゃろうが」
 それはそうだが、戦闘で大暴れはよくても肉体労働には気乗りはしない。渋い顔の嘉六の背をまぁまぁまぁまぁと押して、清舟は三毒とともに工作に勤しんだ。
「支佐はすぐに無茶をするからの」
 わしが見ておいてやらねばと、五十琴姫は支佐手を伴い里の家々へと顔を覗かせる。この幼馴染はすぐに無茶をするし、すぐに何処かへ消えてしまう。以前だって遊郭で――いや、この話はよそう。
 気持ちを切り替えた五十琴姫は「もし」と戸を叩き、住人へと声をかけた。
「急な話ですまぬが、わし等についてきてはもらえぬか?」
 自分たちは三毒の要請で此処へ来た者で、ひとところに集まるように声を掛けて回っているのだと伝えるが、矢張り何故? という感情を向けられる。
「里を襲撃するという情報を掴んだのじゃ。安全のためにみなに集まってもらっておる」
「刑部卿からの命で当たらせてもらっとります」
「刑部……刑部の役人が俺たちのために?」
 信じられない、と『角のない』獄人の男が目をみはる。その表情にも卒なく支佐手が「ええ」と応じるのを五十琴姫はチロと見遣って。
「安全の為に協力してはもらえぬか? 何もなければそれでよし。何かあった時の備えじゃと思うてくれ。わしはそなたらの身が心配なのじゃ。仲間達も全力で里を守る気でおる。この通りじゃ。頼む」
「あ、いや……すまない。疑っている訳じゃないんだ」
 ともに頭を下げた五十琴姫と支佐手に顔を上げてくれと男は慌てた。
「何かあれば俺は一番後回しで良い。こちらこそ頼む。里の皆を助けてやって欲しい」
 皆、心に怪我を負っている。これ以上悲しい目にあってほしくない。

「探りを入れてるな……近くにいるみたいだ」
 コルクが亜竜馬車を走らせている間に自身の使える非戦能力を仲間たちから聞いておいた『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)は、《レーダー》の反応に眉を寄せた。
 それはファミリアー等、複数人が使えると言っていた能力ではなく、《闇の帳》の反応だ。反応数は10。恐らく最低でも10名の人間が闇の帳を用いてやってくることが解る。
(感知が出来そうなのは……)
 仲間たちの顔を思い浮かべ、命は三毒の元へと向かった。
 三毒のギフト《杯中蛇影》は温度の知覚が叶う。瞳を閉ざして集中しなくては感知出来ないためそれ以外のことはできなくなるが、もしもの奇襲を防ぐことが叶うことだろう。
 夜の間までの時間はあっという間に過ぎていく。迎撃のために場を整えて、話し合いを重ね、腹が減っては戦は出来ぬと炊き出しをし、イレギュラーズたちはみなそれぞれの持場で夜を待った。
「それじゃあ師匠、よろしくね」
「ま、死なない程度に頑張んな、クソ弟子」
 昼間にジルーシャが話をしてから、落ち着かせるための香りや痛み止めの香りの調合をしていたレディ・グレイは、コルクとともに里人の側にいる。風に乗った香りで避難した場所がバレてしまわないように、小さな香りで、けれど効果はしっかりと発揮できるようにと調合した落ち着いた香りが避難所内には満ちていた。
「皆様、私も側におります。大丈夫ですよ」
 大丈夫です、私はこう見えてとても強いのですよ。
 ぐっと両手を握ってコルクが微笑めば、息を詰める里人たちにも微かな笑みが咲いた。
 ここから先はどんな物音が聞こえても、取り乱して悲鳴をあげてはいけない。だから、とコルクは花が綻ぶように柔らかに微笑む。不安で固まる心も、綻べば良い、と。
「実は私、この国には初めて来ましたもので。私、皆様とお話してみたいことが沢山あるのですわ」
 この国のこと、それからおすすめの甘味のこと。
 不安な方は私と内緒話をしましょう?
 手を握ってくださったら、あなたの心に話しかけますね。

 夜半。この日はやけに乾いた冷たい風が吹いていた。
 深い闇の中に、獣の気配があった。ばさりと羽ばたく羽音や鳴き声は、『どちら』のものか解らない。
 里の上を鳥が飛んでいく。昼間は木々を利用して巧妙に隠されているが、夜に明かりが灯れば上空からも確認できる。
 里の一角。そこでは灯りを付け、酒盛りが行われていた。他に灯りが無いのはみな眠っているからだろうか――。
「ほうれ、飲め飲め! 遠慮せんでもええ、これは茂助殿の奢りですけえ。任務だ何だと固いことを。来たるべき時に備えて英気を養っておくのが、わしらの役目。違いますかの?」
「待たせたな! 酒の追加持ってきたでぇ! ん? なんじゃなんじゃ、つまみが足りん? 嘉六ぅ! つまみも頼むぞぉ!」
「つまみ持って来いってか? へいへい」
 男が三人、楽しげに酒盛りをしている。やれやれとひとりが立ち上がってどこかの家に入っていったが、残ったふたりは楽しげに飲み続けていた。
『……矢張り、介入があったようだ』
 暗闇の中で、誰かが『声無き声』で呟いた。
 里で酒盛りが行われるという報告は一度も受けていない。茂助の奢りだと衛兵らしき男ははしゃいでいたが、酒で酔わせて隙きを作る算段ならば前日の連絡で告げていたはずだ。
『介入があろうとなかろうと、我々が行うべきことは変わらない』
 視線で合図しあった男たちは暗い森を移動し、夜に鳴かないはずの鴉がカァと鳴いた。
 里の門は、基本的にいつも閉ざされている。ジルーシャと三毒、此花が初めて訪れた時も、此度イレギュラーズが訪れた時も、誰かの報せで開けられている。
 その開閉を担うのも門の見張りの役目だ。
「――茂助」
 門の向こうから、唐突に門へ向けて声がかかる。静かで深く、夜闇のような声だ。
 門の内側にいた『茂助』はその声に肩を揺らし、里の中を気にする素振りで僅かに門を開けて出ていった。
 里の外には黒衣の――男と思われる人間が数名居た。『茂助』の姿を確認すると、暗がりの中から闇が溶けるように更に数名――計七名の襲撃者が姿を現した。
「こっちです」
 『茂助』が薄く開いた門へと招こうとする。と、「茂助」と鋭く名を呼ばれた。
「――合言葉はどうした」
 打ち合わせと違うとまるで詰るような響きを含ませたその声に『茂助』――の服を纏って茂助の声も模して茂助に変装していたジルーシャは、心の中で大いに慌てた。
(合言葉!? そうよね、あるわよね、こういう時!)
「合言葉は――」
 なんと誤魔化そうか。ジルーシャは考えを巡らせた。
「……『ない』が答えだ」
 カマをかけられたのだと気付いたその瞬間、鮮血の花が散った。
「っ!」
 致命傷までは至っていない。腕と胸を大きく斬られたジルーシャは身を翻す。
 同時に門が大きく開き、門の内側で待機していた『善行の囚人』イロン=マ=イデン(p3p008964)が地を蹴って一等前へと出て、襲撃者たちを睨めつける。
「待っていましたよ、悪党ども。此処を通しはしません」
「子供……いや。矢張り居たか、神使ども」
 襲撃者たちは目立つ馬車が山へと向かったことも、山の麓で馬車を降りて幾人もの人間が山へと入っていったことも『見て知っていた』。
「知っていて、来ましたか。それでも引くことは出来ない、と。それ程までにあなた方を従えている方は恐ろしいのですか?」
 此花の問には答えない。しかし、答えないことが答えだろう。
 襲撃者たちには任務を成功させるか、死か。例えイレギュラーズたちが居ようとも、任務を与えられた以上対象を始末せねばならない。それが彼等、『棺屋』の役割である。
 ジリ、と門に向かって後方の襲撃者が僅かに動く。
 仲間の数名が此花と命へ攻撃を仕掛けた瞬間に、イロンと此花、そして命の横を抜けて里内への侵入を試み、地を蹴った。
 ――しかし。
「なっ……」
「くはっ」
 側面からの激しい魔力の砲撃を受け、今まさに動かんとしていた二名が真横に吹き飛ばされた。
「良く来たな、歓迎しよう。――で、次に吹き飛ばして欲しいのはどこだ?」
 暗がりから、ゆうらりとふたつの猫の尾を揺らした『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が現れ、不敵に笑む。彼女の潜伏には全く気がついていなかったのだろう、側面からの一撃を食らった襲撃者は驚愕の表情を浮かべている。
 それもそのはず。汰磨羈は里に入らず、一度も人の姿を取らず、猫の姿で里の外に潜伏していたのだ。汰磨羈は敵方のファミリアー等を警戒して極力身じろぎもせずに潜伏していたが、見つかったとしてもせいぜいファミリアーだと思われた程度だろう。『本物の猫』である彼女を誰が疑えようか。
「お仕置きは頼んだぞ。たまきち」
 見事に不意を撃つことに成功した汰磨羈に頑張って潜伏し続けた甲斐があったなと笑みを向けた『威風戦柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は、豊かな尾を揺らしてジルーシャの側に居る。
「加減は無しだ。全力でサポートさせていただくよ。私がついている。誰も倒れさせはしない」
 イレギュラーズたちは勿論、里の人々も。
 その言葉は、仲間たちの背を支える言葉。
 決して揺るがぬ力強いで仲間たちを支えてから、星々の輝きでジルーシャの傷をいくらか回復させていく。
 亜竜馬車での移動時に、マニエラは汰磨羈にAPがキツくなった際は合図を送るように伝えている。敵の数や動きが解らない上に、今日現地に向かったばかりのイレギュラーズとは違い敵方が何日も下調べをしている事を踏まえ、自身への奇襲対策から長期戦への対策――最悪汰磨羈とふたりきりになっても耐えきれるような対策をしっかりと練って挑んでいた。
(……チッ、三人見つからない。どこだ)
 命が闇の帳の反応が10あったと言っていたのに、眼前には七名しか居ない。会敵した状態で目を閉ざすことは危険だが、致し方ない。三毒は眼前の襲撃者の対応を仲間に任せて後ろへと下がると、目を閉じて集中し、頭を動かして辺りを探る。
(見付けたゼ)
 門を迂回して動く熱反応がみっつ。
 塀を越え、明らかに罠と思われる酒盛り三人組に奇襲を掛けるのだろう。
 そう勘付いた三毒はファミリアーの鴉を向かわせる。
 カアァと鴉が鳴いた。
「うお、なんじゃ」
「三毒の鴉か?」
「祭りが始まっとるちゅう合図にしては妙ですの」
 鴉で三人の気を引いて、続けざま。鴉にすまんと心で謝りながら襲撃者へと鴉を体当りさせ、闇の帳を無効化する。
「おぅ、なんじゃ。おんしらも飲むか?」
「……とは、通じんようですの」
「んじゃ仕方ねえ。お前さんら、残念だがここでおしまいだ」
 里のモンのところに行かせるわけにはいかねぇからよ。
 寸前まで楽しげな酒呑みたちだった三人の表情が、スッと切り替わる。冷え冷えとした、それでいて好戦的な笑みを浮かべ、襲撃者の凶刃へと立ち向かっていく。
「奥にゃ進ませねぇぞ」
 清舟が先に前へ出て意識を向けさせ、その傍らから支佐手が奇襲めいた動きで襲撃者たちに丹塗りの小刀を投擲し、そこを嘉六の凶手の魔弾が穿つ。
「嘉六殿、そっち行きましたんで頼みます!」
 ひとりを清舟が抑え、ひとりを支佐手の巫術が虜にする。
 出来ることなら、生け捕りにしたい。簡単に情報を吐くとは思わないが、それでも可能性は少しでもあったほうが良いから。けれどそれが叶わないのなら――人の命を奪おうとしたのだ。対価は命で支払ってもらうしかないだろう。
「任せておけ支佐手殿、撃ち損じなんぞしねえさ」
 死神の狙撃が襲撃者を貫いた。

「痴れ者共が! 恥を知るがよい!」
 通さじとするイロンや此花が接敵する前に、五十琴姫が両手を天に掲げた。彼女の頭上に浮かび上がった銅鏡が真昼が如く輝きを放つ――《銅鏡巫術水銀式極伝「天照」》。夜を一瞬白く染めたその明かりは、離れた場所で戦い始めた幼馴染の目にも入ったことだろう。
「後学のために教えてほしいのだけれど」
 仲間たちのため、そして戦闘音が出来るだけ聞こえないようにと願ってジルーシャは竪琴を奏で、そして問う。どうして勘付いたの、教えてくれない?
 不審な点は二点あった。本物の茂助であるならば顔を隠す必要がないこと、そして――。
「香りだ」
 調香に携わるジルーシャは毎日違う香りを纏っているが、総じて良い香りがする。
 対して万人が毎日風呂に入れる訳ではない豊穣――況してやここは公衆浴場のない隠れ里。川でのたまの水浴びや水を運ぶ労力をかかるが行水、身体を拭くことがせいぜいだろう。貴人でもない茂助が着物に香を焚く訳もない。
 近接した二名をイロンと此花が押し止め、マニエラが仲間たちを大いに支え、イレギュラーズたちは隙きを伺って抜けようとする者から先にダメージを与えていく。
 敵の攻撃は暗器を最初は主に使用されていたが、見つかった以上は隠密を心がける必要がなくなったため、周囲の建物も巻き込む範囲攻撃をも使用するようになった。反対に攻撃の要となっていた汰磨羈は、識別か単体攻撃をの技に切り替える。仲間や里の建物をどうしたって巻き込んでしまうからだ。
 ――乾いた風が吹いていた。豊穣の家屋はほぼ木造であること、それ以外にも燃えるものなどたくさんある山の中。そして敵は自らの死を恐れてはいない。
(不味いな……)
 条件が揃いすぎている。
 三毒だけは火の気を懸念していた。里も人も、神使も。全てを炎に包んでしまえば、襲撃者の『勝ち』である。
 しかし、ここには保護結界を張れるものは居ない。
「諸共灰燼に帰すがいい!」
 門前に居る襲撃者の半数が倒れた頃、イロンと此花に接敵していた襲撃者が自身を中心に炎の渦を展開させる。半径20mという広範囲は、避難所としている家までは害を及ばさないとは言え、山奥の小さな隠里にはかなり大きい。
「……チッ」
 思い描いた最悪が、形になる。
 ごう、と木々に火が着いた。早く消化をせねば山ごと燃える。
「小癪なことを。これが因果応報というヤツだ。存分に味わって逝くがいい!」
 手の形に水行のマナを集めた汰磨羈が素早い連打で敵を打ち抜き引導を渡すと、そのまま「水行に覚えの在る者は消火を!」と三毒とともに駆けていく。
「くそっ」
 吐き捨てて、襲撃者の凶刃が回復の要であるマニエラへと向けられる。幾度も向けてはその度に命に遮られていたが、今なら届くと思ったのだろう。
 しかしマニエラは、回復だけしか出来ない訳ではない。戦闘を長引かせる回復手を狙ってくることは元より承知の上。イレギュラーズたちだって、敵方に回復手がいたらそうするのだから。
「無抵抗の者を攻撃して……因果応報という言葉を知っているか?」
 死への黒き葬送曲を襲撃者へと送った。
 門前に残る襲撃者はひとり。己れに任せろと命が拳を握りしめる。
「アンタたちを己れは絶対に許しはしない!」
 残る一体へと、心の底から湧き出る強い意思を衝撃波に変えて叩き込んだ!
 急所への攻撃に激しく吐血した襲撃者は倒れ、イレギュラーズたちは消火活動へと奔走した。

 三毒の懸念、そしてイレギュラーズたちの迅速な消火活動によって、幸いなことに門の周辺が焼けただけで火の巡りは止めることが叶った。焼け跡の残る門や塀、門の近くの家は立て直した方が良いかも知れないが――今回の襲撃によって里長がどのような判断を下すかはまだわからない。
「ひい、ふう、みい……、……とお」
 これで全員だろうかと息のある襲撃者に猿轡を噛ませながら、支佐手は頭数を数えた。息があるのは三名しかいない。他の者はイレギュラーズの刃で、もしくは負けを悟った時点で自害してしまったのだ。死体の口に指を突っ込んで確認すれば、舌を噛んだ痕はない。歯の奥に仕込んだ毒か何かを用いたであろうことを確認し、刑部省の応援が来たら伝えるべきことを心のメモ帳に記しておく。
 聞きたいことは山程あるが、正直に話してくれるとは思わない。自害の手段を取り上げて、手荒な真似をすれば――感情のない視線で死体を見下ろす支佐手の横顔を、ジルーシャに治療を施しながら五十琴姫が案じるように見ている。
「十。全員いるようだな」
 ともに数えて確認したマニエラが潜んでいる可能性はないかと命へと問えば、猿轡を噛ませ終えた襲撃者から手を離した命がレーダーを使用して周囲を探る。
 非戦能力の使用は、把握しているイレギュラーズの分のみだ。
「近くにはいないようだ」
 そこでようやっと、ふうと誰からともなく吐息が溢れた。
「守りきれた、のね」
 五十琴姫とマニエラから治療を受けていたジルーシャの肩からも力が抜け、里の人たちに知らせてきますと此花が駆けていく。
 この先、この里がどうなるのか。里人たちや里長たちはどのような選択をするのか。
 獄人たちが誰にも傷つけられることなくひとりの人として扱われ、幸せに暮らせる日々がくるのだろうか。
 考えることは尽きないが、大きく息を吸って、心の暗雲を晴らすように吐く。
 見上げた東の空に、星がひとつ瞬いて。
 呼吸ひとつの間も開けずに流れて消えた。
 流れ星が、きっと太陽を連れてくる。
 夜はじきに明けるだろう。

●犀き星も砕かれし
 電気やガスの通っていない豊穣の厨(くりや)は、飯時よりもかなり前に動き出す。
 とん、とん、とん、ざく。野菜を切る音。
 こと、こと、ふつ、ふつ。煮炊きの音。
 温かな湯気たつその空間に、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)はいた。
「次は何を切ればいい?」
 如何に彼が料理上手だろうと、ここでは一番の下っ端。座員ですら欠員が出た時にしか募集をしないのに料理人など募集するはずもなく、身に疚しい覚えがある者であるほど口に入るものは警戒する上、『座員以外にも食事が必要』な場所でその秘密を知る者を安易に増やそうとするはずもない。腕に覚えがあるのなら他で雇ってもらえるから他を当たれと採用担当者に何度も言われ、それでも何度も頼み込んでゴリョウは此処に居た。行動に制限をつけることを条件に。
「大根を終えたら、芋の皮を剥いといてくれ」
「あいよ」
 飯時前の厨は忙しい。下拵えや竈のための薪割り、食材の荷運び。雑用を熟していくだけであっという間に時間が過ぎていく。
 一等上等な膳を座長の付き人が取りに来れば、その後はバラバラと厨に座員たちがやってくる。豊穣では大店では一般的な作りの煮炊き用の土間と板間の作りの厨は、板間がそのまま食事スペースとなるのだ。
 厨、或いは皿を持ち出し他所で食事をした座員たちは、稽古であったり出番を控えたりと、それぞれのスケジュールで動く。故に、昼食に来るのも八つ時前までとバラバラだ。
「夕食は此処でとってくれ。……と、顔を見られるのは嫌だったら、持ち出してもいいぞ」
 役者のひとりが、面紗を装着した男を案内している。新人役者なのだろう。チラリと視線だけを向けたゴリョウには体格から『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)だと知れた。
「気遣いありがとうございます。けれど人の話を聞くのが好きなので、隅でいただこうかと」
 面紗の下に大きな傷があることを知っている先輩役者はそうかと頷き、次は稽古場へと向かう。……彼は知らないのだ。彼が連れている英司が役者の席を空けるために役者のひとりを闇討ちしたことも、見せられた傷が特殊メイクであることも。知らず、心から同情していた。
「急に欠員が出たと聞いて応募したのですが、多いのですか?」
「うん? いや……まあ、他所に比べるとそうなのかもな」
 披露する芝居は定期的に変えねば客足も遠のくため、稽古の時間も合わせてそれなりの期間が必要となる。大抵の芝居小屋はトラブルでも無ければ一区切りの期間は演者たちは留まるわけなのだが――稽古場へと案内しながら、先輩役者は周囲をちらりと確認し、「今回みたいにな、急に怪我するやつがいるんだよ」と口にした。今回は英司が起こしたことだとは知らずに。
「今回は良いほうだ。連絡があったからな」
「というと、普段は連絡もなく? 不真面目な方が多いので?」
「いや? ああ、でも。獄人は性格に関係なく時折辞めてしまうな」
 此処が合わなかったのかねぇ。なんて、男は少し困ったように笑った。皺寄せを受けるのは座員たちだ。

「こっちだよ、見てもらえるかい?」
「任せとけ!」
 元より犀星座に居る職人が「俺たちの目では気付け無いこともあるかもしれないから」と『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)を舞台の下へと案内する。
 先日潜入した芝居小屋の関係者に「怪我をする役者たちが多いのは稽古道具や舞台装置のせいかもしれないから見に行きたい」と告げ、お勧めはしないけれどそういうことならと紹介状を書いてもらって潜入した錬は、木製の滑車がついた舞台装置を見る。滑車を回せば台が上がり、舞台にババンと役者が登場する装置だ。登場と同時に役者が跳ねると勢いがあるように見えて見栄えも良い。
 特に問題無さそうな舞台装置を見て回ると、「こういうのが欲しいって言われたんだけどよ」と新しい大道具の相談を振られ、錬も自然と話に乗った。
 そうした話には口を開くが、職人気質の男は基本的に黙って手を動かす。
 どこの職人も変わらないなと、彼等の仕事っぷりを心地よく思った。
 舞台装置がおかしくないのなら、幕は上がる。
 さぁさ、見てって見てって。今日の演目は……と明るい声で告げる客引きの声に興味を惹かれる客たち。そんな客たちと一緒に『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)と『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は芝居小屋へと入った。
 ふたりは互いに気付いても同じローレットの仲間である素振りは見せずに客たちの流れに沿って動き、人がごった返す中で鼠のファミリアーを放つ。鼠を見たとなれば騒ぎになってしまうから、動かすのは慎重に。客たちの視線が舞台へと釘付けになってから、ふたりはファミリアーを芝居小屋から移動させた。
 芝居が終えれば客たちは芝居小屋から出ていく。楽しかったな、微妙じゃなかった? 等の感想が聞こえる中、獅門はそのまま流れで外へ出て近くに潜み、ルーキスは闇の帳を纏って人気のない場所に潜伏して目を閉じる。意識全てをファミリアーに向け、探らせながらふたりは夜を待つのだった。

 はあ、は、は……――。
 暗がりに響く、女の息遣い。けれどそれは艶めいたものではなく、必死さを伴うものであった。
「桔梗、後ろを振り向いてはいけません……!」
「で、でもっ」
 暗がりを駆けていくのはふたりの女人。『桔梗』と呼ばれた背丈の大きな娘は、まだ少女と言っていい幼い顔立ちだ。注意した女は彼女の保護者か何かなのだろう。追われている少女の手を引いて、こっちですと角を曲がろうとするが――。
「あっ」
 背後に気を取られた少女が転んだ。大きな物音を立てて転んだ桔梗から手が離れ、保護者の女は慌てて彼女の前へとしゃがみ込む。
「立てますか、桔梗。早く、立って。追いつかれます」
「うう……ごめんなさい……私、本当にドジで、ノロマで……」
「そういうのは後にしてください。今は……」
 桔梗は身体が大きいのに、肝が小さい。上目遣いに女を見上げながら地に膝と手を付き、ごめんなさいと口にした。
「観念しろ!」
 追手の男が迫る。まるで勝ちが確定した勝者のような、もしくは得物の急所へと番えた矢を向けた射手のような顔をして。
「桔梗、早く……!」
「あああ、ごめんなさい、ごめんなさい」
 無骨な男の手が迫る。荒事に慣れていそうな硬い皮膚が、桔梗の瞳にまざまざと映った。女にせっつかれるも桔梗は恐怖に震えて――。
「なぁんて。ご苦労さまです」
 桔梗は、にっこりと笑った。
 男が驚きに目を見開く――が、もう遅い。
 桔梗に当てぬように雷光が如く光が暗い路地へと走ると、「お疲れさまです」の声と閃光と共に屋根から降りてきた女が男の意識を刈り取った。
「演技、お上手でしたよ」
 桔梗――『真意の選択』隠岐奈 朝顔(p3p008750)と駆けていた女――『厄斬奉演』蓮杖 綾姫(p3p008658)の声に、屋根から飛び降りてきたた女――『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)も同意を示す。
 ちゃんと出来たと朝顔がホッと胸を撫で下ろそうとした時、ばさりと頭上で羽音がした。
『チック先輩』
 見上げた暗色の夜空に、白い翼の青年が浮かんでいる。
 視線を向けた朝顔が念話へと、『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)は出来るだけ端的に情報を伝えた。
『他の人、近く、来る……してる』
 どちらから来るかを教えてもらうと、朝顔は仲間たちに告げた。
 綾姫と良いタイミングで路地から飛び出し、わざと見つかることでその路地とは違う路地へと追手を誘導する。伸した男が倒れているところのを見られては警戒されてしまうからだ。
 チックは上空から動きを見るべく飛んでいき、残ったリスェンは伸した男を縛り上げて猿轡を噛ませた上で辺りに置いてあった木板でひとまず隠しておいて、路地の場所を覚えたらふたりの後を追い、道中で刑部の人を見かけたらその場所を伝える。そうすれば刑部の役人たちが伸した相手を回収してもらえるよう、チックが頼んであった。
 朝顔と綾姫はわざと姿を見せながら路地を、リスェンは屋根の影に隠れながら低空を、チックは広い視野を得るべく上空を、四人は同じ目的を胸に違う在り方で夜を駆けていく。
 ――何故彼等がこうして夜を駆けているのか。
 時間は遡ること少し前――澄恋たちを救出しに仲間たちが犀星座へと向かう時間よりも少しだけ前――朝顔を始めとした四人の姿は犀星座の近くの路地にあった。
「それでは先輩たち、力をお借りします!」
 囮を買って出た朝顔の側には、綾姫とチック、それからリスェンの姿があった。
 犀星座に顔が知られ、尚且口封じも混めて追われている朝顔。その彼女をサポートするべく手を挙げてくれたのがこの三人である。
 朝顔の言葉に顎を引いたチックとリスェンは飛び立ち、事前に確認しあった待機ポインへと向かう。綾姫と朝顔のふたりも潜んでいた路地から抜け出し、誘拐された時と同じ髪型と服装で、朝顔は犀星座の近くを彷徨いたのだった。
 追われているはずの者が単身で現れて危険な場所を彷徨けば不自然だが、朝顔は綾姫を連れている。周囲をキョロキョロと気にしながら、「この辺りから逃げたのです……」と保護者らしき者に説明して歩めば、然程気にされない。悪人たちからすれば口封じをする者が一人増えただけ。そして、今捕まえてしまえば何の問題もない。
 そんな朝顔を見たのだろう。男がひとり静かに朝顔の方へと向かい、その連れの男が犀星座へと駆けていく。
 その姿を確認したチックは朝顔に伝えようとする。
 しかし、ハイテレパスが使える朝顔の視界に入っている状況でなければ伝えることはできない。そして移動している朝顔が、常にチックが居る場所を視界に入れていることはできない。
 近付いてきた男に綾姫が気がつくのと、偶然朝顔の視界にチックが入るのは同時だった。
『どうでしょう、チック先――』
『すぐ、逃げ――』
「追手が来ています」
 綾姫が手を引いて、朝顔の視界からチックが消える。
 くんと流れた景色の後方へと視線を向ければ、チッ、と舌打ちをした男が潜むのをやめて追いかけてくる。
「急いで、こっち!」
「は、はい……!」
 全速力で逃げて、追手を撒くことなんてしない。
 朝顔たちの役割は『囮』。敵をひきつけてこそ、その役割が達成できる。
 そうしてそれが今に至る。逃げて、走って、たまに転ぶ演技で丁度良い距離と油断を誘い、暗い路地で密かに気絶させて敵の人員を削いでいく。

 夜の遅い時間となり、朝顔たちが駆けていく。
 心の中で健闘を祈り、獅門は見張りがいなくなった入り口から侵入した。
 昼間からファミリアーで調査をしていたから、1Fの内部構造は大体把握している。鼠の視点からとは違う距離感に少し戸惑いはしたが、目的の場所――厨へと辿り着いた。
 厨にはまだ誰も居ない――と思ったところで「獅門さん」と声が掛かり、ルーキスに気がついた。
「あれ、ゴリョウは居ないのか」
 ルーキスと獅門が内部構造のすり合わせをしていると、飯時には居たのだけどなと演者や先輩職人たちを返した後にひとりで舞台下を探っていた錬と演者同士は結束が重要だとなかなかひとりになれなかった英司がやってくる。
「遅れてすまん」
 芝居を潰すために飯に腹を壊す薬を混ぜたり、座長の食事に毒を仕込める厨に新入りひとりを残すことはない。残って掃除をすると口にすれば他の料理人たちもすると言い出したため、大部屋で皆が寝静まるのを待って抜け出てきたゴリョウが合流した。
 灯りをつけず、五人は見聞きしたことを手短に話し合う。ゴリョウと英司と錬は昼食時に短な文を交わしたが、ルーキスと獅門はそれができないからだ。
「センサーには反応があった」
 ゴリョウの言葉に英司も頷く。いくつもあった、と。
「だが、センサーが反応した場所にいったが何もなかったぜ」
 怪しく思われない範囲で見て回ったが、何もなかった。
 ……地上には。
「地下、だと思う」
「地下か……」
 顎を撫でた錬がそう言えばと口を開く。
「大きな荷を持った者を見たな。大道具の資材だと言っていたが」
 舞台裏や舞台下には資材がよく持ち込まれる。倉庫もあるのだと錬は聞いていた。
 五人は顔を見合わせる。怪しいな、と。食事や人も、そうして持ち込まれているのではないか、と。
 近づけばゴリョウのエコロケーションで知れるだろう。
 五人が舞台裏へと向かおうと移動を始めた時――やにわに騒がしくなった。

 住めば都という言葉がある。
 どんなに酷い環境でも何日か暮らしてみれば――とはなかなかならないのが現実だ。
 土がむき出しの床に、薄くて少し黴びくさい布団。それよりも子供の泣き声が聞こえることの方が『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)には堪えが、けれどもそんな環境でも人は慣れる生き物だから、眠れはしている。体力の温存は脱出のためにも必要なことだ。
(傷を負うのはわしの方でよかったんじゃがなぁ……あのバカ娘が)
 目を閉ざして考えに耽れば、まなうらに浮かぶのは鬼の娘のこと。
 小言を言ってやらねばと腹が立つ。けれどそれは、心配の裏返しだ。
(そろそろかの)
 決まって深夜、巡回がある。しかし、囚われている者たちが逃げ出したことがないのだろう。早く終えて寝たいとでも言いたげに欠伸を零し、蝋燭を手にした男が足早に牢の前を通り過ぎていくのだ。きっと、中に人影があるかどうかくらいしか見ては居ないのだろう。
 その日も夜になれば、ざりざりと歩く音が聞こえてきた。
「うぅ、ぅぅぅ……」
 小さく、細く。瑞鬼は苦しげなうめき声をあげる。
 見張りの男が気付く。
「おい、どうした?」
 面倒くささを隠さないその声に、瑞鬼は呻くばかりで言葉を返さない。
 苦しげに身体を屈め、苦しさに藻掻くていで着物から足を覗かせた。
 ――背中くらい、擦ってやろうか。相手が獄人とは言え、体調が悪いのなら大丈夫だろう。
 そんな考えを抱いたのだろう。男が鍵を開けて牢に入り「おい」と再度声を掛けてきた。
 次の瞬間、男は瑞鬼に絞め落とされた。
「……さて、澄恋を探すとするかの」
 男から鍵束を拝借し、瑞鬼は檻を出るのだった。

(瑞鬼様……。もし御身に何かあれば……詫びきれません)
 『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)は畳に座し、はやく合流しなくてはと、深夜の巡回の時間を待っていた。
 目覚めてからのこの数日、毎夜澄恋は演技を続けていた。夜になるたびに苦しげにし、じわじわと……まるで病が進行していっているかのように振る舞った。
「わたしの体は外傷こそ何度も瞬く間に治りますが、その分病に罹りやすくて……日のなく淀んだ冷風を呑み続ければ治癒は鈍る一方です」
 哀れみを買うようにほろりと涙を零して訴えれば、巡回の男はしかしな……と困った素振りを前日に見せていた。
 今夜はもう這って移動することも難しいと告げて牢の中に招くつもりで、今か今かと待っていた。
 澄恋は演技をする。そうして解錠の音と、人が入ってくる気配がして――
「待て! 待て澄恋、わしじゃ!」
「……みず、き……さま?」
 思い切り噛み付いてやろうと鋭利な牙を覗かせて開けた唇が、寸の間ぽかんと開かれて。夢うつつのような頼りない声がこぼれ落ちた。
 うむと肯定する声を頼りに、暗闇の中で瑞鬼の頬へと手を伸ばす。ほんの少し、痩せただろうか。肌に張りがないのはお互い様。けれども、ああ。ああ、瑞鬼様、よくぞご無事で。
「随分と良い部屋じゃな、バカ娘。小言を聞く準備はできておるか?」
「……ごめんなさい」
「今は抜け出すことが先じゃがの」
 瑞鬼は此処に至るまでの情報を澄恋に伝える。瑞鬼が居たのは此処よりも下の階であること。下の階の方が環境が悪いこと。そして、何人も獄人が囚われていたこと。掴まっていた獄人たちは牢を開けてやり、助けが来るまで動かないようにと伝えてある。
「見張りの方はそちらにいるのですね」
 澄恋の声が低くなる。
「――気絶させたゆえ、問い詰めても聞けぬぞ」
「そうですか……」
 澄恋の心に暗い炎が灯ったことに気付いた瑞鬼が釘を刺し、それよりもこの階の獄人たちの牢も開けてやらねばと口にした。見回りの男が戻らねば、怪しまれることだろう。既に牢屋番は遅いなと思っているはずだ。何かあったのかと救援を呼ぶ前に牢から獄人たちを出し、安全を確保しなくては瑞鬼が存分に立ち回れない。
「ほれ」
 瑞鬼が澄恋に背を向ける。
 ずり、と片足を引きずった澄恋は、素直にその背に甘えた。
「澄恋にどんな過去があるのかわしにとってはどうでもよい。じゃがもう少し自分の身体は大事にせい。嫁入り前なんじゃろう?」
「……はい」
 労ってくれる人がいる。
 気持ちを分けてくれる人がいる。
 それでも、澄恋は――。

 苛立たしげな荒い男の声が、増援を求めていた。朝顔たちが上手く逃げ続けてくれているようで、その人手を集めているのだ。
 錬の先導で、一行は何やら騒がしいけれどどうしたのだと顔を覗かせる『何も知らない座員』と同じ顔で廊下を進んだ。『何かを知っている座員』は舌打ちをして要請に応じて敷地内からと出ていった。
 騒ぎに乗じてそのまま舞台裏へと向かうと、ここでもまた帯から鍵束を下げた牢屋番と思しき男が増援を求めている。しかし、つい今しがたそれなりの人数が出ていってしまったため、数名しか集まっていない。
 素早くイレギュラーズたちが視線を向けるのは、牢屋番の背後。そこに倉庫への入り口があった。牢屋番が慌てて出てきたのならば、倉庫内にある牢へ通じる路が開かれている可能性が高い。
(あの奥か――!)
 英司が駆け出した。眼前に集う者たちは、牢へと戻っていくのだろう。そうなれば澄恋が危険になることを悟って。
 可能な限り静かに救助を行う予定だったが、既にそうは言ってられない状況だ。
 ならば、もう。
 振り切って――邪魔をするなら排除して、先に進むしか無いだろう。
「英司……!」
 錬の静止の声にも止まらない。ただ真っ直ぐに倉庫の入り口へと向かう。
「英司の旦那!」
 賊だと判断して襲いかかってくる男の間に獅門が身を滑り込ませ、男の顔面に竜撃の一手をくれてやる。此処は任せて行ってくれ、と声を掛けて。
「英司さん!」
 ルーキスが、何かを投げて寄越した。
 放物線を描いてしゃらんと金属の音を立てるそれは、鍵束。
「なっ、何なんだお前たちは!」
「年貢の納め時だ。鬼人種に対する悪行、申し開きは出来ないと思えよ」
「ぶはははは! まあ、そういうこった!」
 慌てている間に鍵束をルーキスに掠め取られた牢屋番が挙げる声に錬が高らかに宣言し、英司が駆け込んだ先に向かわせはしないと道を塞いだゴリョウがニヤリと笑った。

 仲間たちが犀星座で動き回っている間も、朝顔たちは追手に追われていた。
 逃げ続けることで減り続ける、体力と気力。
 ぜえはあと乱れる呼気に、跳ねる心臓。
「……一帯にかなり来ていますね」
 綾姫のエネミーセンサーを裏付けるように、あちらこちらから「どこだ」や「居たか!?」という声が響いてきている。けれどあちらも疚しいことを抱えている身。大声で探し回ったり等はできない。
「……確か、この辺りに……」
 今駆けている場所は、たくさんの長屋が集っている。京にいくつもある長屋通りの内、犀星座の近くにある長屋通りである。その長屋のひとつに、チックが世話になった芝居小屋の座長の住まいがあるのだが……明かりを消した長屋はどれも同じ佇まいで、どこがそれとはひと目で解らない。
「大勢来ます、急いで……!」
 屋根の上から飛び降りてきたリスェンが切迫した、けれども極力落とした小声で告げる。
 大勢に囲まれれば已む無し。騒ぎになってしまうが、その時は全員で追手の相手をするしかないだろう。
 全員が覚悟を決めた――その瞬間、三人の前からチックの姿が消えた。
 息を飲む小さな驚愕は一瞬。
 彼が居たすぐ後ろの長屋の一部屋の戸が開かれている事にすぐに気付き、暗がりから覗いた手がひらりと招くままに三人は長屋へと飛び込んだ。
 たん、と微かな音を立てて、戸は静かに部屋の主の手によって閉ざされる。
「居たか……?」
「今ここいらで声が聞こえた気がしたが……」
「くそっ、どこにいった」
「いつの間にか人数が増えていたぞ」
 長屋の前で交わされる、苛立った男たちの声。
 その声が遠ざかってからも暫く待ち、そうしてやっと、暗がりで指をひとつ立てて声を出さないようにと示していた劉・雨泽が口を開いた。
「お疲れ様。他の皆はちゃんと潜入できたようだよ」
 内部までどうなっているかは解らない。けれどそれなりの人数の手勢が朝顔たちに割かれている。
「上手く、出来ていますか……?」
 朝顔は不安でいっぱいだった。絶対に澄恋先輩と瑞鬼先輩を救えるだけの時間を稼いで見せると心に誓って頑張っていたけれど、それでも。状況を自分で確認できるわけではないから、本当に支えることが出来ているのかと朝顔の胸には度々不安がよぎっていた。
「うん、花丸。上出来。後は今来ている彼等を帰さないこと、かな」
 走り詰めだから、少し休んでから出ていって。僕が惹き付けておくから、と代わりに雨泽が外へと出ていく。
 休憩させてくれる芝居小屋の座長に礼を言い、十分に休めたら朝顔たちはまた追手たちが蔓延る外へ出た。
 居たぞ、逃がすなと響く声。
「……逃がす、しないのは。こっちも、だよ」
「悪い人が相手なら、手加減はなしです」
 此処からは、返り討ちの時間。
 朝顔たちが少し休んでいる間も、探し回っていた追手たちは相応に疲れている。
 止めだけはお願いしますねと、眩い閃光が口火を切るのだった。

 澄恋と瑞鬼は、牢屋番が見える位置に潜んでいた。
 巡回の男が戻ってこないことを不審に思った男は、階段を上がって救援を呼びに行く。
 すぐさま格子へと近付いて調べてみたが、鍵は外側からしか開けられない。となれば、救援を呼んできた牢屋番を待ち、諸共倒してしまうほかあるまい。
 死角に潜み、機を伺う。
 慌ただしい足音が階段を駆け下り、ガチャン、と鍵が開く音がした。
「澄恋――!」
 既に牢屋番たちにはバレているため、地下で静かにする必要はない。
 死角から瑞鬼が飛び出す寸前、英司が澄恋の名を呼んだ。
「英司様!? 来て、くださったのですね……」
 地に手をついて、澄恋が顔を覗かせる。
 英司の意識の全ては澄恋へと向けられている。瑞鬼の隣を駆け抜けて、まろぶように膝を付き、細い彼女の身体を強く抱きしめた。すんと吸い込んだ空気に血の香りが混ざっていることには気付いていたけれど、自分を大事にしない澄恋を責めたりはせず、何度だって助けに行くと伝えるように。強く、強く。
「よぉ、相棒。遅くなっちまったなぁ」
「英司様……わたし、お願いがあるのです」
「ああ、何だって聞いてやる」
 ――わたし、お会いしたい方がいるのです。

 地下のことは瑞鬼を始めとした仲間たちに任せた澄恋は、英司に抱えられて座長の部屋へと向かう。場所は英司がルーキス等から聞いている。
「……まだ捕まえられんのかっ」
 襖から薄く灯りの漏れる部屋から聞こえる、苛立った老年の男の声。
 あの無能どもめと口にすることから、朝顔を捕らえられずにいることが知れる。
 澄恋は何も言わずに、そ、と抱えてくれている英司の腕に手を伸ばす。それだけで察した英司は彼女を降ろしてやる。彼女がしたいことは、全て解っている。
 ――スパン! 襖を勢いよく開ける。
「何奴!」
 振り返る、よく肥えた老人。
(ああ、この方が獄人たちを――)
 物のように扱い、売り物にして、幼い子供たちも虐げて。
 澄恋が強く畳を蹴った。
 片足は、動かない。
 けれど良いのだ。残る片足が動くのだから。
 届かずに床に転がっても大丈夫。見守ってくれている英司が老人を逃がすことはしないだろう。
 澄恋の跳躍は老人の元まで届き、組み伏せ、鬼血の爪を喉笛へと当てる。
「……吐きなさい。これまで何人の獄人を閉じ込め、売り捌き、見殺しにしたのですか」
 男は答えない。数など覚えてもいないのだろう。
 澄恋は大きく口を開き、鋭い牙を覗かせた。

「救出に参りました。さぁ、脱出しましょう!」
 澄恋と英司が出ていった後、牢屋番たちを倒し終えたルーキスたちは、地上の入り口をゴリョウに任せ、三名は資材倉庫にあった隠し通路から地下へと降りた。そうして瑞鬼と合流し、瑞鬼とともに囚われていた鬼人種たちの元へと向かったのだった。
「もう、だいじょうぶなの?」
「ああ、もう大丈夫じゃ」
 澄恋と同じ階で囚われていた、見目の良い幼い少女が声を震わせる。瑞鬼が母のように抱き上げてやれば、少女は大粒の涙をボロボロと零してその顔を瑞鬼の肩へとうずめた。
「歩けない方は手を貸します。慌てずゆっくり行きましょう」
 下層に居たと思われる者は怪我をしている者が多かった。この中の何名が『突然辞めた』人なのだろうか。イレギュラーズたちは彼等に手を貸し、時におぶって、彼等を救出した。
 座長は――気を配らなくてもいいだろう。何せ鬼の娘が落とし前をつけにいったのだ。
「流石に腹が減ったな」
「ですね。終えたら何か食べたいものです」
 昼間から身を潜めていたルーキスと獅門は夕食を食べ逃している。
 襲いかかってきた者たちも気絶させて縛り終えたため、後は刑部の役人の到着を待つだけだ。
「握り飯でよければ握ってやるぜ」
「夜食にぴったりだな」
 夕食を食べたはずの錬も乗っかって、おにぎりの具談義に暫し花咲かせ。
 今年も領地で美味い米がたくさん取れたのだと、ゴリョウは腹を揺らして笑うのだった。

●水に映る半月
 元花魁・雫石からの連絡を受け、『医神の傲慢』松元 聖霊(p3p008208)と『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)は彼女の元へと向かった。
 雫石が男性を恐れるため、案内をしてくれたのも刑部の人間も女性。アネストを外で待たせ、医療具の入った大きな鞄を手に、聖霊と冬佳は彼女と対面する。
「よぉ、俺に会いたいって聞いたからやってきたぜ。久しぶりだな、雫石」
「こんにちは雫石さん。お加減はいかがですか?」
 ふたりが施設についた報せを先に受けていたため、雫石は既に身体を起こしていた。極力明るく振る舞うふたりの声に、雫石は安堵の笑みを浮かべたのが解る。声が出せない雫石は様々な意味を籠めた会釈を返し、上向けた掌でどうぞと近くに座るよう示した。
「話したくないことは話してくれなくていい。辛くなったら途中で止めてくれていい」
「本当は安静に……とお伝えするべきなのですが」
 ふたりは雫石を心から気遣う。冷やさないようにしているのだろう、喉に巻かれた包帯が痛々しい。最後に聖霊が会った時よりも、彼女は痩せていた。折角救えた命、今は安静に――否、一刻も早く手術をしたいところだ。しかし、話すと決めたのは雫石なのだ。ふたりは彼女の意思を尊重する。
『まずは何からお話しましょうか』
 高級遊女らしく、美しい文字が紙に記された。
「……お前をこんな目に遭わせた奴は誰だ?」
 聖霊の声が低くなり、膝の上で手がきつく握られた。絶対に許さないと言う気持ちが瞳に強く宿るが、深く息を吐いて出来る限り其れを内に収める。雫石を怯えさせる訳にはいかないからだ。
『正丸屋』
 場所も相手も既にイレギュラーズと刑部は知っており、捕縛済みである。
『然れども……彼の人のお陰で、今、生きております』
 さらさらと淀みなく滑る筆が伝えるには、本当は身請けされたらすぐに殺される予定であったこと。けれど正丸・惣之助は雫石の美しさを惜しみ、逃げぬように足と喋らぬように喉を潰し、雫石は『用済み』となるその時までの暫しの生を許された。本来ならば無駄な情報を目にせぬようにと眼球も抜かれるはずだったのだが、美しさが損なわれることを正丸屋は嫌がったのは本当に僥倖であった。
『日々美しさを磨いておいて得をしました』
 そっと冗談を添えて、雫石は嫋やかに微笑む。
「正丸屋に命じていた方は、ご存知ですか?」
 今度は冬佳が口を開く。
 これまでの情報から、白鴇屋が呼んだ『亭主』なる男、正丸屋に『庭師』と呼ばれた新城弦一郎なる男、そして『万屋』『薬屋』……と複数の名称が上がっている。これは、組織であろうと冬佳は考えた。
 雫石が筆を墨に浸す。彼女の手が震えていることに、聖霊は眉を寄せる。
 何かを堪えるように一度ギュッと瞳を閉ざした雫石は、紙へと筆を滑らせた。
『九皐会』
「それは……組織の名前ですか?」
 冬佳をそっと見た雫石が首肯する。
 九皐会と記した下に、そのまま続けて記していく。
『亭主、庭師、商人、猟師、花屋、万屋、薬屋、棺屋、肉屋』
 ここのつの、職業らしき記載。
 亭主と記した横に『焔心』と記し、商人と花屋の隣には『人身売買・外』と『人身売買・京』と記された。何かの店等をさす――と見せかけた、役割を示す言葉のようだ。
「焔心ってのは人の名か? 眼帯の男のことか?」
 聖霊が遭遇した男の特徴を口にすれば、雫石が瞳を伏せて首肯する。
 雫石が記した情報は、断片的なものでしかない。組織名を口にすることのない者たちの名称を知れたのは、偶然であった。楼主と花車が人に聞かれぬようにこそこそと話していたのを偶然聞いたにすぎない。何度も席へと呼ばれる度に耳に残った言葉たちと『九皐会』という言葉。雫石が聡かったため、点と点が繋がったのだ。
 しかしそれ以上は解らない、と雫石がかぶりを振る。
「話を聞かせてくださってありがとうございます」
「……怖かったな、よく生きて帰ってきた」
 雫石たちは、人間だ。尊い生命だ。
 聖霊の言葉に僅かに瞳を見開かれ、白皙に、つ、と雫が伝う。
 彼女の人生に置いて、死にたいと思う場面は多かったことだろう。けれども生きる事を諦めずにいて良かったと、心からそう思えた瞬間だった。
「さて、これからは治療の時間だ。喉を見せてくれるか?」
 聖霊が雫石の容態を見て、冬佳が補佐をする。
 喉は定期的に薬を飲まされていたとのことだから、持続性が無いことは知れている。痛みを緩和する薬やのど飴等の処方で良いだろう。
 問題は足の腱である。止血と消毒のみが施された足の傷は既に瘢痕化しており、痛々しい痕に冬佳は悲しげに眉を潜める。
(……しかし、刃物で斬られていたお陰で)
 激しい運動等で切れるよりも状態が良いであろうことが素人目でも解る。
 医者としての聖霊の見解も同じだ。
 傷を見ればひでぇことしやがると悪態をつきたくなるが、雫石を不安にさせないように飲み込んで。
「道具は揃っている。手術をしてもいいか?」
『手術をすれば治りますか?』
 声を出せないのに、雫石が唇を震わせる。
 籠の鳥だった雫石にはやりたいことがあった。
 幼い頃から郭に居た雫石は、外を知らない。町を歩いて、話に聞くだけの流行りの甘味を食べて、もうすっかりと忘れてしまいそうになっている野原を歩いてみたい。
 希望を持っていいのかと震える冷たい手を、冬佳が優しく握って温める。
「すぐには無理でも絶対治して歩けるようにしてやる」
 損なわれているわけではないのだ。腱を繋いで、必要ならば治癒術を用いて。
 ただし、リハビリは必要だ。そこは雫石の頑張り次第になる。
「俺は医神になる男だ、これくらいの無理難題こなしてみせるさ」
 解りやすく説明をすれば、雫石は幼い子供のようにボロボロと涙を零して。
 冬佳の手を握り返した手が、『よろしくお願いします』と伝えていた。
 奇跡と、希望に縋るように。

成否

成功

MVP

日向寺 三毒(p3p008777)
瞑目の墓守

状態異常

なし

あとがき

隠れ里の方は方針や行動がバラけていたので、多数の方へ舵をきる形となっています。
此度の事件の夜明けはもうすぐです。
後少し、お力を貸してください。

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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