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シナリオ詳細

<タレイアの心臓>フェニカラム・ヴァルガーレ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――巫女『クエル・チア・レテート』はこの命を賭して霊樹の力を集め、奇跡の一端なる反撃のための一柱となる事が出来ます。

 その言葉を発したとき、一抹の恐ろしさが過った事は嘘では無い。
 永きの停滞。衰えを身へと余り反映することの無い途方もない生の道。それを反するように老女となった己。
 クエル・チア・レテートは然うして生きてきた。
 霊樹の巫女となるために『ファルカウの巫女』に師事したあの日、己が普通の娘では居られないことを知った。
 霊樹レテートとの親和性の高さが、霊樹の衰えも苦しみも全て人の身へと反映してしまったからだ。

 美しい儘の『ファルカウの巫女』
 母と慕って手を引いてくれた美しいあの人よりも、衰えていく己の身を嘆いた者だ。
 永き花の盛りさえ感じることもなく嗄れていく声に深く皺が刻まれた指先。
 母と呼ぶ事さえ躊躇うような姿となれど「母と呼んで下さい」と笑ってくれたあの人が何よりも愛おしかった。
 共に過ごした友人はこの衰えた容貌を見て恐れるように離れていった。
 人とは違う醜い姿に苦しむ私の唯一無二。私の大切な育ての母、いいえ、本当の母よりも尚、共に過ごしたおかあ様。

『良いですね。クエル。戻ってきてはなりませんよ。
 必ず――必ずです。私はファルカウと共に在らねばならない。ですが、貴女一人ならばレテートが護ってくれる筈』
『お母さま、私も此処に残りましょう! レテートは貴女様をお守りできる筈です』
『いいえ……奴らの狙いがファルカウであるならば、レテート一樹の力では足りず貴女諸共朽ちてしまう』
『それでも!!!』
『――母の願いです。クエル……どうか、無事に』

 貴女の願いを、無碍にすることになるかしら。
 貴女を救う為に、霊樹の力を束ね、ファルカウに捧げれば、私は屹度、朽ちてしまう。
 ……けれど、それでも良いと。
 長く過した時間が、私にそう囁いてくれたから。


「……悲しい顔をしている」
「また、お会いしましたね。願わくば、二度とは会いたくはありませんでした。ライアム・レッドモンド」
 クエルの傍で警戒したように霊樹レテートが牙を剥いた。
 淡い若葉の気配をその身に纏わせた青年は一人佇んでいる。ファルカウより幾許も離れた霊樹レテートの麓に。
 クエルにとってライアム・レッドモンドは『最初に接触を図ってきた魔種』であった。
 この地に蔓延る無数の悪意の内でも彼の力は強大だった。
 強すぎる願いに、囁かれた声音から縒った力が彼をそう見せているのかも知れない。
「正確に言えば……人であった時に一度。それから、こうなってから一度。三度目の再会はお嫌いですか?」
「いいえ。人と語らうのは嫌いではありません。有限である私の命に潤いをくれますから。
 ですが――『そうなってから』はもう二度とはお会いしたくはなかった。貴方は私の決意を砕きに来たのでしょうから」
 クエルは穏やかに微笑んだ。怒ることも、恐れることもない。霊樹レテートから感じられる警戒を露わにしては彼は直ぐに剣を抜くと知っているからだ。

 ライアム・レッドモンド。
 クエルが初めて出会ったのは冒険者であった頃の彼だ。深緑だけではない、世界各地を旅すると夢に目を輝かせた青年。
 彼の旅路に幸福あれと願ったのは何時の日の事だっただろうか。
 つい、最近の話だ。彼が深緑に戻ってきた事を風の便りで聞いたのは。国境沿いの村で用心棒をしながら次の旅の支度をしているらしい。
 ……だが、彼はその村で悍ましい目に遭ったのだ。
 村に入り込んだ賊は村を焼いた。リュミエ・フル・フォーレがイレギュラーズのために国を開いてから幾許かの時の事だ。
 外よりやってきた者達は村を焼き、女を攫った。抵抗する者はその場で見せしめのように殺されたらしい。
 禁忌とされた焔が集落を焼き付くし、辺り一面に広がった火の粉の中で彼は愛しい人の名を呼んでいたという。
 彼が『こう』なったのは『イレギュラーズ達によってよく聞く』話であったのかも知れない。
 時は戻せない。澱みの中で幸福な夢を見ていたかった。
 彼は、それ故に、そうなった。其れをクエルは否定することは出来まい。

 否定することは出来ず、肯定もまた無理な相談だった。
「……私には遣るべき使命があります。其処を退いて頂けませんか?」
「それは無理だ。僕だって、やらねばならない。これ以上は国を開かないように」
「貴方もそんなことを仰るのですね。母の『決定』は閉鎖的で会ったこの国には恐ろしい事であったでしょう。
 ですが、そうして出会った人が新たにこの国をよくする可能性とて在りましょう?」
「済んだ話だと貴女も仰るか、巫女レテート。……僕は、そうは思わない。『彼女』が死んだのは――!
 ……いいや、それも、もう、構わない。これ以上不幸を産まないためにも、ファルカウの巫女は目覚めさせてはならないのだから」


 ファルカウに竜種の影が見えた。
 絶望と呼ぶ他ない状況であれど、一つの関門を取り払うことが出来たことは確かである。
 森全域に広がっていた呪いを打ち払うことが出来たのだ。
 アンテローゼ大聖堂の司教フランツェルを始め、ラサの指導者達との合同の見解はファルカウへの進軍である。
 冠位魔種の待ち受ける場所に乗り込むのだ。
 無事に全てが丸く収まるとは誰も考えては居ない。空を覆っていた暗き影とてその要員の一つだ。

「『タレイアの心臓』」
 幼い少女が手にするような魔法のスティッキは『灰の霊樹』の傍に鎮座していた。
 見下ろすフランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)は其れこそが全域に蔓延る茨を打ち払う力となったと告げる。
「伝承ではこれは魔法使いマナセが力の媒介として使っていた杖に近似しているそうね。
 此方にこれがあるうちに、ファルカウへと進軍を仕掛けてせめてリュミエ様を救わなくちゃ――」
 深き眠りについているとクエル・チア・レテートから情報の齎されていたリュミエ・フル・フォーレ。
 彼女が目覚めさえすればファルカウへのアプローチが大きく変化する。ファルカウの巫女であるリュミエであればファルカウと通じ合い、冠位魔種に痛打を与える事が出来るはずなのだ。
「その為には幾つかのピースを用意してあるの。
 まずは『玲瓏郷ルシェ=ルメア』。聖域とも呼ばれた迷宮森林に存在する隔絶された『異空間』。
 この場所に居た玲瓏公ベアトリクスはイレギュラーズとの協力関係を結んでくれた。この力を利用させて貰うしか無いと思うわ。
 それに『霊樹レテート』もある。ファルカウと縁が深いあの樹なら迷宮森林中の霊樹の力を集めて『奇跡』の一欠片を齎せるかもしれない。
 ……霊樹の力を駆使すればリュミエ様を奪還することも出来るかも知れないの。
 あとは、リオラウテ禁書を解析した結果で吹雪を斥ける事も出来る。皆の調査と冒険のお陰ね」
 無数の力を揃えることが出来た。其れだけ、酷な試練を越えた者も居るだろう。
 フランツェルは早口で説明した後、早速はファルカウに向かって欲しいと口を開き駆け――

 ざわ、と『灰の霊樹』が揺れた。
「……灰の霊樹……?」
 霊樹の守護者として。アンテローゼの司教として。
 フランツェルは驚いたように顔を上げる。霊樹は何事かを伝えんとしているのだろう。
「……フランツェル!」
 アンテローゼ大聖堂へと走り込んできたのはフランツェルの友人であるイルス・フォン・リエーネであった。
「イルス。どうしたの、そんなに慌てて」
「詳しく説明している暇は今はない。ファルカウの進軍メンバーを少し貸して貰えないか!
 ファルカウに僕たちが注力することを見越し、『霊樹レテート』にも刺客が送られた様子なんだ」
「何ですって……!? クエルさんは!?」
「まだ無事だ。灰の霊樹が揺らいでいるのはレテートからの救援信号だろう。
 レテートに向かっているのは魔種だ。名前をライアム・レッドモンド」
 其処まで告げてからイルスは苦々しく唇を噛んだ。ライアムはイルスの愛弟子――そうは本人は認めないが、随分と可愛がっている自覚はある――アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が兄と慕っていた冒険者だ。
「兄さんが……!?」
 驚愕に目を見開くアレクシアに「どうなさいますか」と静かに問いかけたのは散々・未散(p3p008200)であった。
「アレクシアさまを脅かす可能性が十分にあります。
 例え、何れだけ貴女が強くとも近しい人間の姿を目の当たりにすれば、心というものは簡単に罅割れる」
「それでも、行かなきゃ。兄さんを救うって決めたから……ッ」
「ならば、お供致しましょう。霊樹レテート……その地までエスコートの権利を頂いても?」
 そっと手を差し伸べる未散はそうするのは三度目だと笑った。扉の傍に立っていたシラス(p3p004421)は「その権利、分けて貰っても?」と揶揄うように問いかける。
「シラス君……」
「アレクシア、君が背負った重荷がどれ程のものか全てを理解することは難しいかも知れない。
 でも、相手が『深緑(きみのたいせつなばしょ)』を脅かすんだ。それなら俺は手を貸さないほどに冷たくはない筈だろ?」
「……そうだね」

 レテートに向かおう。
 新道 風牙(p3p005012)はそう告げた。彼は霊樹レテートの巫女から直接その言葉を聞いてきたのだ。

 ――クエル・チア・レテートはお母様の事を愛しています。あの方が愛するこの森のためならば霊樹と共に朽ちることを選びましょう。

「巫女さんは……クエルさんは『お母様』の為にと願っていた。その気持ちを無駄にしてたまるかよ。
 ライアム・レッドモンド……アレクシアさんの『兄さん』には此処で退いて貰おう。あの人が、その決意を全うできるように!」

GMコメント

 夏あかねです。ファルカウから離れた場所もちゃんと狙っておかないとね。

●成功条件
 クエル・チア・レテートの生存
 (失敗条件:クエル・チア・レテートがライアム・レッドモンドによって殺される)

●フィールド『レテートの郷』
 霊樹レテートが存在する小規模な集落です。住民の姿は見当たらず、伽藍堂としています。
 霊樹レテートは遠目より見ることが出来ますが、太い幹が特徴の堂々とした霊樹です。
 その傍に『レテートの巫女』と大樹の嘆き『レテート』がライアム・レッドモンドに応戦している姿が見られます。
 どうやら、大樹の嘆きと言えども『レテート』は『巫女』を護る為に顕現している様子です。

●霊樹レテート
 白虎の姿をした大樹の嘆き。
 別名を朽衰の霊樹と呼ばれる、巫女と命運を共にする霊樹です。但し、巫女の寿命が先に尽きる際には『次代継承』が行われます。
 そうして脈々と生を繋いできたレテートではありますが、今代の巫女クエル・チア・レテートは相性が良すぎたことでレテートの衰えをその身に反映して老女の姿となったそうです。
 ライアムからの『呼声』の影響を受ける事があり、たびたび動きを止めますが精神力でなんとか耐えているようです。
 前衛。牙を駆使してクエルを護るように動きます。非常にHPが高く優れた単体攻撃能力を有します。
 対話の能力は有していませんが『巫女の力を借りて霊樹から言葉を直接発することが出来ます』(霊樹の傍にあるために皆さんも彼の言葉を耳に傾ける事が出来そうです)

●クエル・チア・レテート
 レテートの巫女。老女の姿をしていますが、母代わりのリュミエを「お母様」と呼びます。
 霊樹レテートと命運を共にするために霊樹が受けている『影響』にも過敏に反応します。ですが、レテートが『反転』しなければ、クエルは反転することはありません。
 魔術で何とか抗っている様子が見て取れます。ですが、最早衰えを感じる身。それ程長くは持たないでしょう。

●魔種 ライアム・レッドモンド
 アレクシアさんが兄と慕っていた青年――でしたが、現在は反転して強力な魔種となっています。
 彼が反転した理由は『目の前で失った者が多かった』事が起因しているようです(詳細:<13th retaliation> 枯諦の念)。
 非常に心優しく、アレクシアさんを巻込みたくはないと告げて居るようですが……。
 肉体を用いた白兵戦も得意であり、幻想種特有の魔力を利用した神秘と併せたオールラウンダーな能力。
 アレクシアさんが幼い頃は冒険者として名前は其れなりに知られていたそうです。消息不明でした。

●眠りの精霊 10体
 ライアムに与している『怠惰』の力を強く受けた眠りの精霊です。
 非常にすばしっこく、神秘に優れた攻撃を行うようです。

●大樹の嘆き 5体
 無差別に周辺を攻撃する魔物ですが、ライアムがその力を持って従えているようにも思えます。
 その姿は水の精霊を思わせます。愛らしい姿をしていますが耐久に優れ、物理攻撃を得意とします。

●Danger!&『夢檻』
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 また、当シナリオでは<タレイアの心臓>専用の特殊判定『夢檻』状態に陥る可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <タレイアの心臓>フェニカラム・ヴァルガーレLv:20以上完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年06月04日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士

リプレイ

●祈望の魔力
 奇跡なんて、簡単に起きるものじゃないと知っていた。
 この軀が空っぽにならずに大空へ、世界へ飛び出せたことが奇跡だったから。

 ――兄さん、やっと会えたね。

 沢山の物語を語って聞かせてくれていた。
 閉じこもるばかりだった世界に、色彩をくれたのは貴方だったから。
 外には沢山の植物が居る事を教えてくれた。綺麗な花に、虫を食べる草。それから、それから。
 兄さんが歩んで来た世界が、私にとっては全てだった。
 教えられてばかりだった私も、自分の足で歩くことが出来るようになったんだ。

 何時か、貴方と肩を並べて戦いたかった。
 すべてを救うなんて、大きすぎる夢は難しいことも知っていた。
 それでも。
 貴方とならば歩いて行けると思ったんだ。

「兄さん」

 唇が震えた。奇跡よ、どうか――私の手に。

「私――私は、強くなったんだ! 護られる必要の無いくらい! 兄さんと一緒に戦えるくらい!」
 砂を食んだ。
 指先の力が抜けていく。
 魔力を消耗していく肉体の不適合。『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の本来の姿。
 一人では、碌に歩けやしなかった弱々しすぎる体。
「だから、だから、手を取ってよ! 一緒に戦ってよ! この森の希望のために!」

 ――分かってるよ。
 シラス君、未散君、フランさん。
 私一人のちっぽけな願いなんかじゃ、魔種を元に戻せやしない事位。
 私一人の命なんかじゃ滅びのアークから兄さんを解放できやしない位。

 分かってるよ。
 分かってる。
 分ってるけれど……私は、決めたんだ。
 私のすべてを懸けて願うから。

 ……兄さん、一緒に行こう。貴方の戒めを私がこの命全てを懸けて、解き放つから。


●紡願の術I
「リュミエ様奪還に霊樹レテートが有用ならば、相手方にとっては邪魔な存在。
 ……イレギュラーズがファルカウに向かい守りが手薄になるならば攻め時である」
 何と道理に適った作戦であろうかと『永訣を奏で』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は敵ながら称賛を送った。
 ぱちりぱちりと乾いた拍手を二度程。アメジストの眸に乗せた怜悧な輝きは細められて苛立ちを滲ませる。
 永訣の音の傍らに佇んでいた乙女は『聖職者』として――人の生と死を眺め見る運命の傍らに立つ『葬送者』として目の前の男を見ていた。
 本来ならば、クラリーチェ・カヴァッツァは介入しない。
 神に祈りを捧げ、人の憂いを慰めるだけであった。
「この森は、私の故郷なのです。皮肉な事にも『修道女』には必要の無い望郷の念を擽らせる。
 ……霊樹も巫女も守り切って見せましょう。相手の思惑通りには行かないと、示してみせるのです」
 クエル・チア・レテートの思惑をクラリーチェは正しく理解していたのだろう。
 彼女は己の身を犠牲にしてでも、この森で苦しみ藻掻く大樹の嘆き達の悲しみを打ち払わんと考えたのだ。
 ――彼女ならばファルカウで囚われているリュミエ・フル・フォーレの眠りを覚ますことが出来る筈である、と。
「んなの、納得できるかよ」
 ぽつりと呟いた『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)はレテートの郷へと向かいながらその拳に力を込めた。
 苛立ちが滲んだ。
 巫女――クエル・チア・レテートは大切な人を護る為に命を懸けるのだという。それは風牙もよく考えることだ。
 だが、クエルは最初から諦観していた。『命を捨てること』を前提にしているのだ。そんな事を納得しろと言われて飲み込めるわけもない。
 家族のためだ、と言うならば。
 おかあさま、とリュミエを呼び彼女を大切に思うというのならば尚更だ。
「……他に方法が無いだなんて言わせねえ。森を、『お母さん』を救う。
 そしてクエル、あんたも助かる。そんな手段が絶対にある。無くても見つけ出す。それがオレの役目だろ」
 唇を噛みしめた。彼女一人が犠牲になって森を救うことが出来るならば?
 そんなことを言われたって、諦めたくは無かった。
 葉を踏み締める音がした。レテートの郷に辿り着いて、表情を曇らせた風牙はその名を呼ぶ。
「ライアム――」
 それはアレクシアの『兄さん』だった。彼はレテートの巫女、クエル・チア・レテートと向き合っている。
「……アレクシア……それから、イレギュラーズか」
 確かめるようにアレクシアを一瞥した青年の名前はライアム・レッドモンド。
 アレクシアにとっては外の世界を、冒険を教えてくれた憧れの冒険者であり、『兄さん』と慕っていた相手だった。
(この男がアレクシアの――)
『竜剣』シラス(p3p004421)は撥ね付けるかのような勢いでライアムを睨め付けた。唇が震える。指先の一つを動かすことさえ戸惑う。
 アレクシアが何度も聞かせてくれた憧れの人。いつか追いつこうと約束をした夢――こんな形で叶うとは、とシラスは苦い笑みを浮かべた。
(……やっぱ、神様ってのはロクなもんじゃない)
 シラスは傍らに立っていたアレクシアを見詰めた。アレクシアの手をそっと握りしめた『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)は「アレクシアさま」と彼女の名を呼んで。
「……ああ、彼こそ。幻影でも、投影でもなく、あなたさまこそ本物なのですね。
 本物のあなたさまと会うのは、初めてでしょうか。お会いしとう御座いました――そして、一生お会いしたくはありませんでした」
 恭しく一礼をして、未散はライアムに向き合った。クエルの目前に迫っていた青年はイレギュラーズの姿を見て動きを止めている。
 今はまだ、彼は走り出すことはない。
「アレクシア、大丈夫ですこと?」
 不安げに声を掛ける『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は幸運のお守りをぎゅっと握りしめた。
 破損した其れは軋んだ歯車と伴にあった紅色。
(……魔種になってしまった方を戻すことはできないと頭では分かっていても、そう簡単には割り切れないものですわね。
 せめて、ここで止めてあげましょう。本当に望んでいた結末は、こんなものではなかったはずですから)
 脳裏に過った彼女の姿はヴァレーリヤにとっても苦い思い出だ。葬送の鐘を鳴らしたクラリーチェは苦しげに息を吐いた。
「会いたくなかった、か。そうだね」
 優しい声音だ。
 魔種だというのに、優しくて、泣き出してしまいそうな――それでもアレクシアはぐっと堪えた。
「兄さん。私だよ。アレクシア、だよ」
「ああ、アレクシアだ」
 呼ぶ声が只、優しい。
「魔種か」
 呟いた『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は実に困りものだと嘆息した。
 困っている誰かを、助けを求める誰かを護る為に戦う事こそが騎士の本懐。
 本物の騎士ではないが、この世界でブレンダはそうあろうと努めている。
 クエルを救う為に、この場所にやってきた。アレクシアとライアムの物語に自身等はエキストラなのだと囁いて戦乙女のドレスは揺らぐ。
「魔種、お前の為すことが決まっているように、私の為すことなど最初から決まっているのだよ」
 吹き荒れる風、燃え盛る焔。両者をその背に担い、戦の場へと赴くブレンダを一瞥し、クエルを護るように霊樹レテートがするりと前へ出る。
「直ぐに助けて見せようか。霊樹の巫女――いや、囚われの姫君と呼ぶべきかな?」
「この様な老い耄れにその様な。……ええ、お願いします。
 あなた方にとって彼が、ライアムが知り得た存在だというならば。……このような悲しい顔をする必要は無いと、教えて上げて欲しいのです」
 幾千もの声が響く森。木々の嘆きを聞きながらもクエルはブレンダにそう言った。
 ライアム・レッドモンドの苦しみは、アレクシアが一番に分かるだろう。彼は、彼女にとっての理想のひかり。
 そのひかりが陰ってしまうのだ。『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は「くそ」と呻いた。
「彼の者が魔種である以上、こうなると思ってはいたが……まったく、随分と厄介な状況にしてくれたものだ……!
 一部の『幻想種』はリュミエ・フル・フォーレの――最高指導者の導き出した答えに納得していない。そんなこともあろうよ。
 全ての言葉を束ねるなど賢君であろうとも無理だ。綻びなど何れ出る。だが、貴様の言葉には納得できない部分があるのでな」
 汰磨羈の手が餮魂の大太刀を引き抜いた。
 紡いだ想いがある。継いだ意志がある。数千にも及ぶ時の中で、幾千にも、幾万にも、幾億にも。果てる事無く、厄災を退ける礎を成した想念。
 仙狸厄狩 汰磨羈はその信念を胸にライアムに向き合った。
「……それは僕だってそうだ。僕にだって信念がある。伝えたいこともある。アレクシアだって、分かるだろう?」
「ッ、」
 ライアムが声を掛ければするりとアレクシアの前に『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が滑り込んだ。
「いやあ、いやあ。なんだなんだアレクシアちゃん。駄目じゃないかー、私ちゃんも混ぜてくれないと。
 水くさいぜ? まあ、結局黙ってでも付いてくんだけど! わはは!
 ――ってな訳で、戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしない!」
 構えた緋剣。秋奈はぐっと身を屈める。その動きを一瞥してから『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)はその肩から先の擬態を解き放った。
「結局の所ヒーローというモノは我を通せるモノなのだ。良くも悪くもな。
 さて、誰がヒーローになるか。どうやら我慢比べのようだ。準備は出来たか。無論、考える暇など存在して居ないが」
 愛無がとん、と地を蹴った。それは翼を得て舞うように走った未散と同じタイミング。
 ライアムとクエルの間に滑り込む。未散の雪にも融けて行きそうな白い髪はふわりと揺らいだ。
 冬の気配さえ遠く、春を忘れた夏の森。ゆらぐ、ふれる、ゆめをみる。非力であれども刀が振れる。軀は只、真っ直ぐにライアムの視界に飛び込んだ。
「おひさまが翳ってしまうのは、悲しいもの。
 ――でも今の蒼穹は晴れている。まんまるのパンケェキみたいだ。そうは、思いませんか?」
 蒼穹は、真っ直ぐに飛び込んだ。クロランサスに罅が入った。魔力を安定させていた魔道具は不安定な程に揺らいだアレクシアに耐えきれないと悲鳴を上げる。

「――兄さん!」

 何度だって呼ぶと決めた。その身が壊れてしまおうとも、彼の前に飛び込むと決めていたから。
「私だよ! アレクシアだよ! ……どうして森を再び閉ざそうとするの!」
 その行く手を遮って、アレクシアは憧れのその人に――追い求めたその人の前に、立ちはだかった。

●紡願の術II
 ライアムの視界を覆ったのは陽の気、汰磨羈の牙を包み込んだ白き桜の花びら。
 舞い散り、躍る。視界を覆い、女の身を大剣で受け止めた男の表情が顰められる。
「後戻りが出来ない所に居たとしても、彼女の言葉は聞いておくべきだ。それが『兄』と呼ばれた者の在り方だろう? ライアム」
 本来の血の繋がりが無くとも、アレクシアとライアムは家族の絆のように深く結ばれていた。
 肉薄した汰磨羈の肉体をライアムはぐっとその両腕で押し退ける。幻想種の細腕であれど冒険者としての活動の軌跡は確かなものか。
「敵は一人ではないが」
 その目は天より隈無く俯瞰する。大まかな状況把握。周辺に漂う精霊達がふわりと揺らぐ様子を愛無は眺めている。
「だが、気になるのはたった一人かも知れないな。それもありだろう。元より、彼女のためだというのならば、正しくそれはお前にとっての正義だ」
 密やかに爪は伸ばされる。粘液の纏わり付いた享楽の悪夢がライアムへと差し迫る。
 青年の若木をも思わせる鮮やかな眸に映り込んだ苦しみを精霊達は逃すことはない。

 ――いじめないで! いじめないで!

「精霊に好かれている、か。良いことだな。元の人間の性質が良く分かる。
 だが、今は『魔種』の放った気配に惑わされているだけの者でしかないだろう。悲しみを生まないためだと口にして、誰かを犠牲にする気分は?」
「最悪だよ」
 青年の前へと飛び込んだ眠りの精と水の精は鋭い一撃を愛無へと放たんとする。ライアムの動きは未散とアレクシアが封じている。
 眼前より飛び込んだ汰磨羈と愛無の相手は精霊に任せるとでも云う事か。
「あらあら、違いますわよ?
『目的』がありますもの――戦いでは其れを見失った方が負けでしてよ!」
 天使の翼は、光を帯びた。聖句は慣れたようにヴァレーリヤの唇に乗せられる。

 ――主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。
   毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に。

 衝撃波はライアムへと叩きつけられた。青年は悔やんでいる。この森に起きた変化が、決して全て良かったわけではないのだと。
(ええ、分かっておりますわよ。理想を叶える為に、身の安全を顧みない。私だって覚えがありますもの。
 捨て身の一撃ならば、届かぬ道理にさえも手が伸びる。貴方にも『この道しか』残っていなかったのでしょうけれど)
 それで納得できるほどにイレギュラーズは優しくなんてない。ライアムを護るように精霊達が踊っている。
(良い奴だったんだろう。分かる。良い奴じゃなかったら、精霊達だって付き従わない。
 どんな経緯があったのか、どんな気持ちなのかも分からない。知らない。知ると足が鈍るかも知れない)
 風牙は槍を握りしめた。ブレンダを一瞥する。彼女の気と風牙の気。それを結(むすび)の状態へと移行させる。
 瞬発的に、風牙は風の軌道を作り出した。ブレンダを連れ、ライアムの元へと飛び込む。
(この国にとって、アイツは今、障害になっているんだ。それだけは間違いない。だから――!)
 風牙はブレンダに言った。「行こうか」と。アレクシアを一瞥した風牙の心境をブレンダは察したように唇を噛む。
「ああ」
 迷っている暇なんてない。ブレンダと風牙が周囲の精霊を、大樹たちの嘆きを引き寄せなくてはならないのだから。
 戦う者を縫い止めるように。飛刀は精霊を射貫く、風牙の声かけと共に其れ等全てはライアムの元へと集まった。
 修羅媛の希。戦場にいる誰かを救う慈愛――ブレンダ・スカーレット・アレクサンデルの決意。
「私もお前たちも今回はエキストラ。だからこそ邪魔など許すわけがない。お前たちの相手は私だよ」
 ライアムとアレクシアの二人に対してブレンダも風牙も深く知り得たわけではない。
 だが、だからといってこの国が脅かされる危機に手を貸さぬ道理があるか。
 仲間だと名乗るならば。否、手を差し伸べたいと願ったならばその時点で当事者だ。
 此処で剣を振るってこその騎士。有象無象を振り払い、囚われぬ様に駆け抜けるだけ。
「ははー、マジで格好良くね? 私ちゃん憧れちゃうじゃあないか」
「でも、出番は?」
「んー?」
 にぃ、と秋奈は唇を吊り上げた。シラスと秋奈は虎視眈眈と待っている。レテートとクエルを護る為に『距離を稼げる』機会を。
 秋奈が構えた姉妹刀。一方は決意を刻んだ友の名を。もう一方は己によく馴染んだ無骨さで。
「シラスくん」
 秋奈の準備は完了した。悟られなければそれでいい。
 クラリーチェは「まずはライアムさんとクエルさんたちを引き離さねば」と囁いた。
 クエルは小さく頷く。クエルを背で庇い、レテートと庇うように女の身を護る事を選んだ。
「レテートさんは、クエルさんの盾になって頂ければ。クエルさんはなるべく私の影になるように」
『承知した』
 巫女の唇を介して返答を行うレテートはクエルを――己の巫女を護る為に協力を惜しまぬつもりだったのだろう。だが、レテートそのものもクエルと直接的に繋がった存在だ。
(……レテートさんに傷を負わすわけにもいきません。私が全ての盾になるように……)
 クラリーチェはシラスと秋奈を見た。準備は出来た。
 そう、出番は――
「今だ!」
 シラスと秋奈は同時に攻撃を放つ。シラスが叩き込んだ高速の拳撃は、そして秋奈の肉体を切らず吹き飛ばす殺さずの一撃はライアム諸共周囲の精霊を吹き飛ばす。
「なッ――!」
「いや~、私ちゃんたちも『目的』があるからね? レテートさんとクエルちゃんは渡さないぜ!」
 勢い良く距離を取る。敵集団を一纏めにしたのはライアムばかりを狙えば精霊はクエルへと攻撃を仕掛ける可能性があったからだ。
 まだ『クエルを護るように誰かが立っている』状態であったが故に精霊達はライアムを傷付けられたと怒っていた。
(ここからが正念場だ。ライアムへの攻撃が薄ければ自力で突破して巫女を殺す。精霊を惹き付けていられなければ、それらは巫女のところに……。
 オールランダーってのは厄介だが、ラド・バウにだってそういう戦士は山程居た。列強と戦う事くらい朝飯前だ)
 シラスは戦いに赴くべく姿勢を作った。武器など必要としない、その体ひとつあれば戦える。
「どうして邪魔をするんだ。君達はアレクシアの友達だろう?
 僕は、もう、アレクシアを巻込みたくはない! これ以上の不幸を生みたくないんだ!」
「巻き込みたくないだと、テメーはアレクシアの兄貴だろうが?! はい、そうですかって引き下がれるかよ馬鹿野郎!
 此の儘放置してりゃ、アレクシアの故郷は、この森は滅びるだけだ! 此れの何処が『不幸を生まない』ってんだよ!」
 シラスは喉が張り裂けん勢いで叫んだ。ライアムが唇を噛みしめる。
 停滞を望んだ魔種。代わらぬ平和の傍に佇んでいたかった男。汰磨羈の白き桜は精霊達全てを覆い尽くす。
「これ以上の不幸を生まない為? ……随分と面白い事を言う。
 このまま、冠位どもの好きにさせてしまえば。その先に待つのは『世界の破滅』という最大級の不幸だ。
 御主は、それを不幸とは受け止めないのか? 自分基準の不幸さえ回避できれば、その他大勢は破滅しても構わぬと?」
「違う――」
 ライアムが紡がんとした言葉に汰磨羈は憂うように刀を構えた。
「……本当は分かっているのではないか、ライアムよ。
 アレクシアが兄と慕う程の者であるのなら、理解している筈だ。より多くの犠牲は、決して福音にはならぬぞ……!」
 そうだ。彼の言いたい『不幸を生まない』為に訪れる未来は分かりきっていた。
 この森は眠りに付いている。
 人間の身からすれば永遠とも呼べる途方もない時を過ごし行く幻想種達にとっての淡い眠り。
 それは、知らずの内に身をも侵蝕し、穏やかで緩やかな滅亡へと続く足取りだ。
 それでも良かったのだろう。
 ライアムは『苦しまず』に。『奪われることもなく』。『世界が変わらないままで居られる』ならば其れで良かった。
「君達は、だからと言って強大な敵の前にアレクシアを引きずり出した。
 それが彼女を苦しませていると知りながら……彼女が傷つく事を良しとしているじゃないか!」
「兄さん、違う」
 アレクシアは呻いた。優しい人。外の世界に飛び出したアレクシアを心配して、共にこの『閉じた森』で眠りながら過ごそうというのだ。
「兄さん、違うよ。
 確かに、外には怖いものがたくさんあったよ。私も色んなものを見て、悲しい思いもたくさんしてきた!
 失ったものを、守れなかったことを忘れたことなんてない。でも、それに足を取られて立ち止まってちゃいけないんだ! そうでしょう、兄さん!」
「アレクシア」
 伝わったか、とアレクシアがライアムを眺めた。
「アレクシアさま!」
 咄嗟に放たれたのは蹂躙の殲滅頌詩。未散の放った無数の言葉の弾丸。
 アレクシアが驚愕に尻餅をつく。ライアムの剣が、アレクシアの喉元に向いていた。
「何をなさるのですか。ライアムさま。アレクシアさまを傷付けるおつもりですか」
「……君達が、この子に苦しみを教えたのか。恐ろしさを教えたのか。酷い事を――」
 兄さんとアレクシアは言葉を漏した。愕然としたミチルの前に精霊達がふわふわと踊り来る。

●紡願の術III
 祈りを紡ぐように、クラリーチェは葬送の鐘を響かせた。
 修道女は望まれた加護を授け続ける。レテートと、クエルを見守るように布陣し徹底支援の構えを作り出す。
 癒やし手、と言うわけではない。聖女のような万全なる癒やしを誰かに与えたいと願ったわけではない。
 神の導きがそこにあるだけだ。救われたいと望む者の声を届ける為に一時の幻の如く福音を齎すだけ。
(主よ――どうか、導き給え)
 目を伏せる。クラリーチェの組み合わせた指が僅かに震えた。求道者は『変わらぬ幸せ』を享受してきたというのに。

 ――かみさまがいるなら、どうしてわたしをのこしてみんなしんじゃったの!

 ライアムの嘆きは、己の心の奥底で涙をするちっぽけだったころの自分を思わせた。
 瞼を伏せる。脳へと響き続ける気配よ、今暫くは大人しくしていて。
「クラリーチェ?」
 振り向いたヴァレーリヤはぱちりと瞬いた。道行きは嘆きに満ち、川は涙で満たされる事を知った求道者は立場は違えども、その機微を察知したように振り返った。
「いいえ……支えます」
「ええ。ええ。宜しくお願いしますわね。私たちの前に横たわるのは無数の後悔、ともすれば、それを減らすことこそが未来への歩みでしょう」
 愛する者を振り払って進んだ先には何もない。けれど、『嘗て愛した人』の苦しみを解き放つ事の手伝いは、したかった。
 笑ってくれたシスターナーシャ。貴女の手を取っていれば、代わっていたかしら。
 いいえ、いいえ、必死に藻掻き、生きたことの証明がまだ済んでいないのですから。私も、クラリーチェも、アレクシアだって。

 ――主の御手は我が前にあり。煙は吹き払われ、蝋は炎の前に溶け落ちる。

 聖句が唇から滑り出した。それは焔となり、メイスを包み込む。
 澄ました顔をしたまま、ヴァレーリヤは『司祭には有り得ざる』パワーとガッツをその身に宿して叫んだ。
「どっせえーーい!!!」
 薙ぎ払う如く。焔の魔力、鉄騎の馬力。組み合わさったとんでもない一撃にライアムの腕が軋んだ。骨の叫びを聞きながら、青年は唇で呪文を乗せる。
 魔力の軌道がクエルに向くというならば、クラリーチェがその身を挺する。
 だが、向けようとした隙が出来ただけならば汰磨羈がその眼前へと滑り込む。
「クエルに構う暇など与えんよ。御主には、それ以上に対するべき相手がいるのだからな!」
 邪魔者は全て排除する。己が護れなかった大切な人を脳裏にちらつかせる。とんでもない程に、大きな彼女の存在が白き娘の決意を固めた。
 汰磨羈は此処で止まるわけには行かないと、記憶が大声を上げて叫んでいるから。
 汰磨羈は此処で負けるわけには行かないと、記憶が泣き声を上げて響いているから。
 宝玉の様な眸、艶やかな白き毛並み。憤怒と憎悪の妖怪変化――仙狸が掲げたのは『あらゆる災厄の殲滅』
 その為ならば。
 陽の霊気が激しくスパークする。音を立て、肌をも粟立たせる気配は一閃と共に桜の花と化す。
「皆譲れないものの為に戦っているのです。アレクシアさん。貴女も、貴女の譲れないものの為に……」
 背を押すように、クラリーチェはアレクシアへと声を掛けた。
 譲れないものはあった。クラリーチェの左胸がずきりと痛んだのは気のせいではない。
 譲れない、自分だって。進まねばならない場所がある。
 ああ――けれど、あの人の未来は。どうか、報われるものであれば、と願わずには居られなかった。
「クエルさん!」
 風牙は叫んだ。
「レテート、クエルさんを護ってくれ。オレはクエルさん……いや、クエル。死にたがりには付き合ってられないんだよ!
 森を、『お母さん』を救う。そして『クエル』、あんたも助かる。そんな手段が絶対にある。なくてもみつけだす!」
 叫んだ風牙にクエルの眸が見開かれた。
「いいえ、いいのです」
「よくなんてない。あんたのお母さんはなんていう!? 絶対に悲しむだろっ!」
 少しでも長く、身を削ってでも敵を引付ける。
 それこそが風牙の役目だった。燃えるような焔と浄き金が揺れる。牙よ、研ぎ澄ませ。あの時だって『飛び出せた』んだ。
「――もしも、私が死することで、この森が救えるのでしたら構わないのです。
 風牙さん。約束して下さい。母を起こすために私が『霊樹の力を使った』時、この肉体にまだぬくもりがあったならば。
 その時は、私に頑張ったと笑っては下さいませんか。
 分って居るのです。生き残る道があればよかった、と。母を悲しませることも――それでも、私にしか為せぬ事があるなら」
「巫女は、決意をしたのだな」
 ブレンダは苦しげにそう言った。精霊達を切り伏せる剣は淀みない。
 風牙の苦悩も、クエルの決意もブレンダには痛いほどに分かって仕舞う。
「なんてーかさ、私ちゃんは人間関係なんて知らないし、あんたらとは初対面だが……
 誰かが、しんどいって思ってんなら原因ぶっ飛ばして今いる混沌はこんなにもエモいんだって、めいっぱい伝えられるように……私たちはいつだってキラキラしてんだって。だったらさ、しんどいなんて言わせたくないじゃんって思うワケよ」
 しんどくない未来欲しくない? と秋奈は笑った。
 ここでクエルを助けても、クエルは自分の力を使ってリュミエを救う道を選ぶだろう。
 彼女の自己犠牲。それだけで救われるものがあったとしても、風牙は納得できなかった。
「クエルさん、どうしても――ッ」
「……ええ、きらきらと輝くような未来に、苦難が伴いません事を願っております。
 ブレンダさん。私は決意をしています。途方もない、長い間、母と過ごした愛しい時間が壊れて欲しくないのです。
 風牙さん。……ありがとう。あなたが、私を救いたいと願ってくれた其れだけで、私はうんと強くなれる」
 クエルはクラリーチェの背後から手を組み合わせて目を伏せた。
 ざわざわと、木々が揺らぐ。
 霊樹達の鼓動が聞こえてくる。この力を全て『器』となるクエルに流し込めば――きっと大樹ファルカウと深くリンクしたリュミエだった起こせる。
 彼女が起きてファルカウと共に、『禁書庫』で見つかった『嘆きの書』を駆使すれば大樹の嘆きの悲しみだって止められるかも知れない。
 けれど――
 風牙は唇を噛んだ。
「……どうしようもないって事かよ」
 クエル・チア・レテートが『器』とならねば、其れは成し遂げられないのか。
 苦しい。
 その苦しみを滲ませる風牙に愛無は人とは何と、脆く美しいものなのだろうかと感じ取った。
 秋奈が『エモい』と笑ったその未来の為に、剣を振るう姿は正しく苦難を破り栄光を掴み取るその一閃だ。
「ッああーもう! 戦いに卑怯も汚いもあるもんか!
 今日がお前の、命日じゃい! 勝てば官軍、負ければなんか良く分からんけどザコじゃい!」
 難しいと叫ばん勢いで秋奈が飛び出した。地面を蹴る。そしてその身を捻り上げる。
 精霊の攻撃を受け流した秋奈は柔軟の用量で身をぐにゃりと曲げ、片腕を振り上げた。
 精霊を流れるように切り裂き、ぺたりと地へと倒れる。その上を通り過ぎたのは愛無であった。
 ギュン、と音を立てた小型のチェーンソーを手にし乱撃の勢いでライアムへと攻め立てる。
 殺して喰う。いや、殺す前に何か考える。『ひーろー』がいるのだから、今回は捕食はお役御免か。
「皆の信念が美しいからこそ、人の魂は輝くのだろうな」
「ああ、そうだと思いたい。その信念に筋を通して道を切り拓くことこそが騎士の役目だ。
 アレクシア殿とその兄。クエル殿と母上。その結末が、良きものになるために――私は此処に来たのだから!」
 敵も味方も。誰も彼も。
 何と信念を宿した事か。死んだら終わり。そんな単純な答えを前にしても彼等は止まることはない。
 愛無はぱくりと口を開き、ブレンダは剣を振り下ろす。
 黄金の瞳を隠した戦乙女は地を蹴った。アクロバットに跳ね上がったその身が『本来あった場所』へとライアムの魔術が叩きつけられる。
「どうして――! 邪魔ばかりを!
 この森は静かに眠り続けた方が良いというのに!」
「可笑しな事だな。互いが信念をぶつけ合うのに、それに理由を求めるのか」
 愛無は囁いた。理由なんて、此処には存在して居ない。
 少なくとも、誰も彼もが思うことがあっただけなのだ。
 それは未散とて同じ。
 最期の時まで、エスコートせねばならぬ愛しきおひさま。
「あなたさまの記憶は酷く錆びた鉄の味がして、『怖い』と云う感情を識りました。
 だから――? ……だから、何だと言われたら其れ迄なのですが。
 けれど陽光は閉ざされることはなく、ならばぼくが俯く理由もないと云うもの」
 未散にとっての美しいおひさまは彼女だった。

 ――私にとってのあたたかなつばさが、寄り添ってくれている。
 ――ぼくにとってのまんまるおひさまが、咲わらってくれている。

 あたたかなつばさだと、感じてくれる彼女がぬくもりをくれるから、あたたかいままで居られた。
 まんまるおひさまは、何時だって笑っていて欲しかった。それが、未散が執着(たいせつ)にした彼女の在り方なのだから。
 多重に、重なり合った弾幕が進む。朗々と謳うようにして言葉を重ねて未散はライアムを睨め付ける。
「おひさまが翳るのであれば、此の手で雲を切り裂きましょう。
 おひさまが震えるのであれば、此の躯の熱を分けましょう
 ――今、広がる青は此れ迄見てきたどんな宝石よりもうんと青くて、其れから、綺麗だ」
 綺麗だからこそ、シラスは其れを曇らせたくなかった。
「覚悟しろ、ライアム!」
 牙を突き立てろ。いつだって、そうしてきたじゃ無いか。
 魔種との戦いは幾度もあった。死線だって潜ってきた。今回の作戦だって十分だ。
 厭な気配を払うのは何時だって自分の実力だ。
 迷うな、迷えば彼女が曇る。
「――アレクシアさま。ぼくは、貴女の道行きを切り開く騎士だ。
 あなたさまの創る冒険譚。此の後、屹度。ぼくにも見せて下さいまし!

 さぁ、さぁ、さぁ! ご覧下さいまし! 役者は揃いました。
 此の舞台に後足りないとするならば――閃いた。アレクシアさま、魔女の秘薬をひとしずく、頂きたく存じます」
 未散の言葉に、アレクシアは唇を戦慄かせた。ぱきん、と音を立てたクロランサスはもう使い物にならない。
 傍にあった空色の石も、あの日見た空色の瞳のあの子の事が少し遠離った気がする。

 ――それに私は、あなたには見れないものを持っている。

 違ったね、空色の瞳(リコット)。私にも見れないものを、あなたは見ていたかも知れない。
「私達が……生き残った人が足を止めれば、いなくなった人たちはそこまでだ!
 だからその想いを抱えて、一歩でも前に進まなきゃいけない! 一つでも未来を紡いでいかないといけない!
 兄さんがやろうとしてるのは、かつての私と同じだよ! 小さな世界に、諦めを抱えて揺蕩うだけ!
 それじゃあダメだって、何も救えないって教えてくれたのは、兄さんでしょう!」
 全ての魔力が、アレクシアの指先に集まった。
 不撓の香花(フェニカラム・ヴァルガーレ)――それは、黄色い花となり、ライアムを撃ち抜き。
 光となった。淡い、淡い、光の花弁に。



●花想の器
「アレクシアさま!」
「アレクシア!」

 一方は、共にと願った。
 未散は最期の時までエスコートをする権利を彼女から賜りたかった。
 騎士として、彼女の冒険譚の道を切り拓く騎士となりたい。
 もう一方は、不安が拭えないままだった。恐ろしかった。
 シラスという少年は『アレクシア・アトリー・アバークロンビー』の考えが手に取るように分かってしまったのだ。
 もしも兄が、母が、そこに立っていたならば何だってやった。

 ――でも私、イヤなんだ……
   シラス君がこれ以上手を汚すのも、それに慣れていってしまうのも……
   このままいけば、いつか手も握ってくれなくなるような、そんな気がして……

 ああ、違うぜ、アレクシア。『俺の方が』そう思ってたんだ。
 ……此れも違うか。お互い様。『俺だって』何処かに行ってしまう不安を抱いて怖くて怖くて堪らない。
 けれど、止めることは出来なかった。彼女が止まらないことを知っていた。
 絶対に諦めることなどないのだ。アレクシア・アトリー・アバークロンビー。シラスの傍で咲いていた大輪の蒼い花。
 彼女は、どこまで深みに沈んだって『兄さん』の手を取るのだから。

 ――だってね、私には諦めたくない夢があるんだ。シラス君に負けないくらい、頑張らないと!
   それに……それに、どんな人にも、花が咲いたように心の底から笑えるようになってほしいんだ。
   かつて苦しんでいた私に『兄さん』がそうしてくれたように。私も誰かにそれを返していきたい。

 彼女の憧れ。彼女の願い。キミの力になりたいと願った癖に、今はその力になることも許されないような奇跡の光。
 眩い、天使が居るならキミのような奴を言うんだろうな、アレクシア。
 柄にもないような言葉が脳裏に過った。
「……やっぱ、神様なんて、ロクなもんじゃねぇな」
 あれだけ頑張ってきた彼女からこれ以上、何か奪おうとするなんて。
 誰もがその光を見ていた。


 アレクシアが天を仰いで「そっか」と呟く言葉に未散が「アレクシア様!」と悲痛な声を漏す。
 知らない、知らない。此程までに誰かに執着する感情なんて。未散は知る由もなかった。
 諦観ばかりの日々に雁字搦めになる苦しさが沸き立った。
 ああ、光だ。
 ヴァレーリヤには見覚えがあった。積み上げたコインのように、淡い希望は重なっていった。
 世界。この無辜なる混沌の、在り方。
「ああ……ああ、神よ」
 ヴァレーリヤの脳裏に過ったのは己を律し笑うあの人だった。
 あの人の軀を掻き集めようとしたけれど、風に溶けるように消えてしまった。
 けれど――『この光なら』、夜毎、嘆いた苦しみさえ越えるような気さえした。
 汰磨羈は、クラリーチェはその様子をただ、見ていることしか出来やしない。
「ッ、」
 クエルを抱き締めた風牙の腕に力がこもる。クエルが「森が、泣いている」と呟いた。
「きれーじゃん……」と秋奈はぽつりと呟いた。
「ねえ、ヴァリューシャちゃんにクラリーちゃんさ、教えてよ。ここの神様は、誰に祈れば良いんだっけ?」
 秋奈の呟きを耳にしてブレンダは唇を震わせた。乾いた声音は「さあ」と絞り出すだけで精一杯だった。
「私達は、この物語を見ているしかないのだろうな」
「そうだ。敵も。味方も。誰も彼も。この場にいる者の多くが、きっと『善人』なのだろう。
 ……だが。この世は『其れだけ』で回っているわけではない。
 死んだのであれば。死んだ奴が弱かったのだ。守れなかったのであれば。守れなかった者が弱かったのだ」
 愛無は淡々と、其れを見ていた。
「幾ら他者に理由を求めたところで失ったモノは戻らない。
 誰が、この場で『我』を通すのか。『ヒーロー』となる者が現れるのか」
 そうして、我を通した一人の魔女を眩いと眺めて呟く。願わくば『はっぴーえんど』になりますように、と。

 アレクシアとライアムを包んだ光は、霧散していく。

 ――これまで、たくさんのことを願ってきた。欲張りだって笑ってよ、兄さん。
   ヒーローになりたかった。敵であっても、手を取ろうと努力すること。
   それからね、魔種と共存する未来を作ること。兄さんと一緒に冒険することだって。

   どれも簡単じゃなかったよ。どれも成し遂げられたか分からない。それでも、ここまで歩いてきたんだ。

「兄さん、私はね『可能性』を信じてたんだ」
 『可能性』の花束を大切に、大切に抱き締めてきた。
 挫けそうになったって、諦めたくなかった。

 送り出してくれた憧れの魔女に、手を引いてくれた蒼い騎士に、……隣にいてくれた大切な人に。
 また目が覚めたら。黒いベルベットの花畑で『魔種と手を取り合える未来』を信じさせてくれたあの子に。

「私、沢山の人と出会ったんだ。沢山の友達と仲間が出来て……みんなに支えられて此処まで来たんだよ」
 手を伸ばした。
 幼い頃、花畑が見たいと乞うたアレクシアを抱き上げて少しだけだよと揶揄ってくれたときのように。
 ライアムの軀をぎゅうと抱き締める。呼気が、鼓動が、ぬくもりがある。まだ、生きている。
「可能性が僅かでも、いつまで続くかわからなくたって……ここで躊躇うなんてことはあり得ない!
 どれだけ小さくとも、どれだけか細くとも、必ず掴んでみせる!
 それが停滞に抗うということ!兄さんやこれまでの旅から学んだ、勇気を持つということ! だから!」
 肉体に、血が巡り、貴方が生きていたいと願ってくれるなら。
 笑い合う未来を望んでも許してくれるなら。
 貴方が、私を『アレクシア』と呼んで共に進む未来を望んでくれるなら。

「――だから! 兄さん……迎えに来たよ!」

 貴方の一筋の光になりたい。
 死した軀に命は戻らない。知っている。
 反転した魂は元には戻らない。それは、本当に?

 滅びのアークの戒めを、少しだけ打ち払う。『奇跡』は彼女に問うた――お前の信念は何処に。
 揺るぎない信念をその胸に抱いていたからこそ、アレクシアはその夢を見た。

 ――アレクシア。

 兄さんの声がする。

 ――アレクシア!

 揺さぶり起こして、お寝坊さんだと笑ってくれる声がする。

 ――アレクシア……。

 なあに、兄さん。もう起きているよ。

 シラスの、イレギュラーズの目の前には『元』のライアム・レッドモンドがいた。
 くたりと横たわったアレクシアを抱き締めて涙を流す一人の青年のちっぽけな背中がそこにはある。
 それはアレクシアの祈った奇跡。未散が囁いた『魔女の秘薬のひとしずく』
「……アレクシア、迎えに来てくれた君が眠ってしまっては意味が無いだろう?」
 頬を撫でるライアムの呟きに未散は引き攣った声を出した。
「夢の牢獄はさぞ冷たいことでしょう。アレクシア様、どうか、どうか、ぼくも伴に――」
 応えはまだ、返らない。

 ひとひらの奇跡は、僅かながらも『一人の魔種』に可能性を与えたのだ。
 タイムリミットは、幾許か。いつかは元に戻る可能性さえある。
 それでも――僅かな時間でも、彼は滅びのアークの戒めから解き放たれた。

 ――夢の牢獄で、彼女は一人頭を抱える。欠落していく。覚えて居たいと願った記憶の欠片が、ひとつ、ふたつと。
   それが、不出来な奇跡の反動だったのか。アレクシア・アトリー・アバークロンビーの『記憶』は、毀れ落ちた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

シラス(p3p004421)[夢檻]
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[夢檻]
大樹の精霊
新道 風牙(p3p005012)[重傷]
よをつむぐもの
散々・未散(p3p008200)[夢檻]
魔女の騎士

あとがき

 お疲れ様でした。
 無理を通してみせるという、決意。確かに受け止めさせて頂きました。
 貴女の決意が、一人の青年の『滅びのアークの戒め』を一時、解き放ったのです。

 それは、不出来な奇跡であろうとも。
 貴女にとっては大いなる一歩となる事でしょう。

 そして、暫しの間のみ解き放たれた彼が『夢の牢獄』に囚われた誰かを救う一助となる筈です。
 どうぞ誇って下さい。
 チームで協力し、戦ったからこそ『PPP』が発動し、更にその『決意』で成した結果です。


※以下運営より補足します。

 本シナリオでは『PPP』判定が発生し、
 アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)さんに『PPP判定への覚悟』の特殊判定が追加で発生しています。
 以下、アレクシアさんへと送付された特殊判定となります。

シナリオ『<タレイアの心臓>フェニカラム・ヴァルガーレ』を経て特殊判定が発生しました。
お客様のキャラクターは『ライアム・レッドモンド』を正気に戻すべく『Pandora Party Project(PPP)』を発動させました。

////////////////////////////////////////////

 破滅的衝動に抗うのは何時だって美しいものだ。もっと美しいものだ。
 抗う心だ。その根源が誰が為の想いなら尚更強い――

 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は『すべてを懸けて願う』と宣言した。
 兄と慕ったライアム・レッドモンドが滅びのアークとの繋がりを断てるように。
 しかし『自身一人の力ではそう長くは封じられない』とも考えた。それでもすべてを懸けると願ったのだ。
 その決意はライアムを大いに揺らがせた。

 ――アレクシア。

 青年の声は、あの日のように優しい。
 滅びのアークの戒めより彼を解き放った事をアレクシアは察知した。

 ――アレ……シ……。

 だが、アレクシアの思惑の通り『現在の自身一人』では抑えきれないのだろう。
 滅びのアーク全てを抑制できる可能性はない。
 少しの間でもライアムが一緒に戦ってくれる可能性が目前に迫っている。

「アレクシア」
 隣に立っていたのは『竜剣』シラス(p3p004421)だった。

「アレクシアさま」
 共に征こうと笑いかけてくれるのは『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)だった。

「アレクシアさん」
 頑張ってね、と送り出してくれたのは『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)だった。

 魔種との共存を夢見てきた。
 アレクシアにとって『すべてを懸ける』という言葉は嘘では無い。
 ――己の『何れだけの力』を彼が『滅びのアークの戒めを解き放っていられる時間』に捧げるか。
 その決意を改めて、為せねばならない。
 ……全てを擲って、僅かな可能性に懸けるかどうか。
 起きた奇跡がアレクシアの体に問い掛けて来るかのようであった……。

////////////////////////////////////////////

 この判定には再度の『決意(心情判定)』を有する事となります。
 お客様は現在、『ライアム・レッドモンド』の有する滅びのアークを『抑制出来る可能性』を前にしています。
『抑制時間』はお客様の『決意』で大幅に変化します。彼を元に戻す事は現在、起こり得た奇跡では不可能と言えるでしょう。
 05/31一杯までにこのアドレスに答えをご返信下さい。(一緒に台詞等を書いてくださってもOKです)
 返信がない場合『拒否した』とみなして進行されますのでご注意下さい。

 尚、返答の結果、お客様のキャラクターが不明及び死亡判定と成り得る『可能性』がございます。
 どの様な結果になるかはシナリオ返却を以てお知らせさせて頂きます。
 予めご了承の上、ご返答下さいますようお願いいたします。

※メール自体の他者への公開は構いません。

※又、この判定の結果、アレクシアさんの『ギフト』には新たに追記がなされています。

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