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シナリオ詳細

<咎の鉄条>最も美しきものは

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 世界中で、最も美しいものとは何か。そう問われた時、返ってくる答えは人それぞれであろう。

 古きもの。年月を経てなお形残すもの。
 音楽、詩のような形なきもの。
 常に流行の最新を走るもの。

 彼もまた、その中の1人だ。ある時は古い美術品を蒐集し、またある時は音楽など形なきものを追うこともあった。しかしそれを手にした時抱くのは満足感ではない。
 足りない。
 何かが違う。
 これ"だけ"では真の美しさではないのだと。
 これらの芸術に愛を持たぬわけではない。けれど唯一無二のそれではない。満たされるどころか、集めれば集めるほどに募る餓えのようなものが、彼を更なる模索の道へと踏み出させる。ここまでは他にも無数存在する蒐集家とて、似た道を歩んでいるだろう。生涯にわたって模索し続けることも少なくない。
 けれども、彼は――マルシャル・カリトゥーは、見つけてしまったのだ。

 その日は、雨が降っていた。
 誰かが泣くようだ、と思いながらマルシャルは傘をさして歩く。購入した絵画は後ほど自宅まで届けてもらう予定だ。
 故に手ぶらで、何かが濡れることを気にする必要もなく。彼はあちらこちらの景色をそれなりに楽しみながら、帰路についていたのだった。
 本来であれば寄り道などするつもりもなかったのだが、平常時ならばありえない人込みにマルシャルの視線はほんの少しだけ向く。
 『血が』とか『取り押さえろ』なんて声が紛れているから、殺傷沙汰か。美しくないものへの興味はさほどのものでもなく、マルシャルはすぐさま視線を外す――はずだった。
 しかしその瞳はある一点で止まる。美しい光だ。嗚呼、嗚呼。歓喜に打ち震えるというのは、こういうことなのか。

 古きもの。それでいて、形のないもの。美しいと心の底から魅せられたもの。

 ――死者の魂とは、あんなにも美しいものであったのか。



 それはラサの商人からもたらされた、唐突な知らせであった。
「深緑に立ち入ることができないんです。なので、関係する依頼は保留中ですね」
 代わりにこちらを、と羊皮紙を出すブラウ(p3n000090)。普段はひよこの姿である彼だが、その姿では仕事も回らないほどなのか、人間姿であちこち駆け回っている。先ほど集めていたのは『保留中』だという深緑あての依頼なのだろう。
 テーブルに置いて行かれた羊皮紙を見れば、深緑の現状がまとめられていると分かった。
 突如、ファルカウ全土を覆った茨。これにより、深緑の中でも極めて国境に近い場所にしか踏み込めないという。内部にいるリュミエたちとも連絡が取れず、無理矢理入ろうとすれば、それだけ危険が伴うのだそうだ。
 可能な限り安全に侵入できる道を模索している最中に、情報屋があるものを見たと言う。
「幽霊の行列、だったそうです」
 冗談――にはならず、そんなまさかと呟きかけたイレギュラーズも口を噤む。
 その行列は茨の外周を、明確な意思を持って進んでいるようだった。情報屋は深追いすることなく、彼らの向かった方向のみを確認して帰還したと言う。
「それで、その向かっていた先なのですが……小さな村落がひとつあって、まだ誰も安否を確認しに行けていない場所なんですよ」
 国境近くの村落もやはり茨に覆われており、いかんせん内情が掴めない。しかし深緑のより深い場所よりは茨も少ないため、こじ開けて様子を見てきてほしい。もし何か危害を加えるモノがいるのならば、追い払ってほしいと言うのが今回の依頼だった。
 ただふらりと訪れる程度であれば、さしたる準備も必要ないだろう。しかしそちらへ向かった幽霊らしき存在のことも考えると――イレギュラーズたちは戦闘の可能性もあるいは、と気を引き締めた。

GMコメント

●成功条件
 魔種の撤退

●情報精度
 このシナリオの情報制度はCです。不測の事態に気をつけてください。

●フィールド
 深緑の国境付近にある村落『アマ・ネセル』。規模は小さく、素朴な家が点在します。時刻は夜。薄暗い中で戦うことになります。
 周囲を覆う茨は村落内にも侵食しており、戦うイレギュラーズたちを襲うでしょう。
 村民は探せば見つかりますが、深い眠りに落ちているようです。また、移動させようとすると酷く苦しみます。生死に関わるか定かではありません。

●エネミー
・『霊魂蒐集家』マルシャル・カリトゥー
 生方・創さんの関係者。元ブルーブラットの魔種です。
 美術品や音楽を愛し、果てには人の生きた証である霊魂さえも蒐集し始めた男。怠惰の魔種として堕ちた自身以外の手で蒐集することを望み、その手段は専ら死霊術となります。彼の美学に基づくものであるようですが、その本質は怠惰なる性格故かもしれません。
 指揮棒を振って死霊たちを操ります。基本的に動きませんが、動く必要もないほど死霊がしっかりと守っているでしょう。その他、詳細な情報は不明です。

・死霊×???
 マルシャルの操る死霊たちです。正確な数は不明ですが、マルシャルの盾になってなお余りある、非常に多い数が待ち受けています。十分に引き付けなければ、マルシャルの命じるままに眠る村民たちの命を刈り取って行くでしょう。
 常に低空飛行程度の高さで飛んでいますが、高く飛ぶことはありません。
 特殊抵抗が高く、より命を刈り取りやすい者を狙う傾向にあります。また、主に精神へ作用するようなBSを使ってくるでしょう。

・茨
 村落の周囲を覆い、また村落内へ侵入している謎の茨。空までドーム状に覆うような形をしており、地上から攻めるにせよ、空中から攻めるにせよ茨の介入は避けられないでしょう。
 有刺鉄線のように張り巡らされたそれは、少し触れるだけでも傷つく場合があります。
 また、近くに生物を感知すると攻撃を加えてくるようです。

●ご挨拶
 愁と申します。
 村落の様子がおかしいようですが、敵を退けることが先決です。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <咎の鉄条>最も美しきものはLv:25以上完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年03月08日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

リプレイ


 植物に囲まれながら、清廉とした空気ではなく鬱屈としたそれが満ちているように感じるのは、張り巡らされた茨のせいだろうか。
 深緑中央部へ向かうことを阻む茨は木々を伝い、上空にも伸びていた。そのためかはわからないが、鳥の類も見当たらない。
 本来であれば空気は正常で、生き物の気配が感じられる豊かな場所であるはずなのだが、それらが全てひっそりと静まりかえってしまったようだ。
「幽霊の行列か……」
「わざわざ並んで歩くとはな」
 『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)の呟きに首肯する。わざわざ整列する必要はないし、一般的な幽霊にそのような統率の取れた動きができるとは思えない。
「普段の死霊騒ぎなら、魂を喰らう悪魔の性分って感じですけれどね」
 この状態ですから、と『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は視線を巡らせる。有刺鉄線のように張り巡らされた茨は、イレギュラーズにも正体が掴めない。
(この状況で死霊だけがフリーパスだとでも言うのでしょうか)
 この茨によって行く先を阻まれているイレギュラーズたちからすれば、そのような存在は捨て置けない。何か情報を持っている筈だ。
(しかし、悪魔でなくとも誘導している奴はいるんじゃないか?)
 訝しむ汰磨羈だが、まだ仮定の話。一般的でない幽霊であれば、幽霊が整列するなんて話もありえるかもしれない。
「生きている人たちに危害を加えようとしているなら急がないと……1人でも多く助けよう!」
「うん。できることからやっていかないとだね」
 少しだけ不安げな『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)。けれど不安に押しつぶされてしまっては、出来るものも出来なくなってしまうから。何が起きているのか全貌が気になるところだが、まずは目の前のことからだ。
「危害を加えるのなら、茨と似た存在かもしれません。関連があるのかは、わかりませんが」
 先頭を行く『抱き止める白』グリーフ・ロス(p3p008615)は遠目に見えた茨に目を細めた。あれは触れれば怪我をしてしまうこともあるし、ひとりでに向かってくることもあるらしい。多少地域によってその辺りの性能は異なるようだが、深緑内外を遮断していることに変わりはない。
「何が起きてるのかわからないけど、まずは村の様子を見に行かないとだよね……」
 槍の刃先に燃えない神の炎を灯し、手頃な小石を拾う『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はむーん、と小さく唸る。判断材料が少なすぎて、何もわからないというのが現状だ。村の様子を見るついでに何かわかると良いのだが。
「私の友達たち、いるかしら?」
 『スピリトへの言葉』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)の声にいくつかの精霊が反応する。とはいえ、その数は思っていたよりも少ない。聞いてみれば、突然眠ってしまったものもいれば、逃げてしまったものもいるのだと。
 少し手伝ってくれないかとオデットが問えば、茨に襲われない範囲でならと返ってくる。こちらとしても茨の少ない場所を進みたいからちょうど良い。
 しかして、全く茨を退けずに進むことはできなさそうだ。この先へ進んだ幽霊は通されたのか、無理やり切り払って茨が再生した後なのか定かでないが。
「どうにかしないと進めなさそうだな」
「ええ。私が先頭を行きますので、茨の攻撃はお任せを」
 耐久には自信のあるグリーフが茨のほうへ進めば、不意に茨がゆらめく。しなるように迫る茨を『竜剣』シラス(p3p004421)の乱撃が打ち破った。
「スピード勝負だ。駆け抜けるぞ!」
 危険にその身を突っ込ませるのなら、短いほど安全とも言えるだろう。グリーフ、シラスに続いて仲間たちも駆け出す。
「この手のは、多少強引に突破するに限るな」
「ええ。どうせ触れねばならぬのなら、一発で行きましょう!」
 汰磨羈の霊力が花弁のようにこぼれ、利香の魔剣が暴力的な一撃を繰り出す。グリーフが一手に引き受ける前方だけでなく、側面や駆け抜けた背面からも茨が向かってくるのが厄介だ。
「これくらいのダメージは全部回復するよ! 皆は進むことだけ意識して!」
 スティアの魔術が血を滴らせる傷を塞ぎ、茨の棘で裂かれた肌を元通りに。新たな数ができるのも茨の道を抜けるまでだ。
「建物だわ!」
 魔法陣を多重展開させたオデットが前方のそれに気づく。後もう少し茨を斬り払えば集落はもうすぐだ。
 茨の手薄な場所をアレクシアが攻撃し、その先へ一同が飛び出す。薄暗さにオデットはギフトで光源を作り出した。
「こっちよ!」
 オデットという光源と、焔の撒いてくれる神炎を頼りに茨から距離を取る。最初こそ追いかけるような素振りを見せていたが、それなりの距離を取ると諦めたのか大人しくなったようだった。
「あの茨、R.O.Oで翡翠が封鎖された時には無かったよな」
「うん」
 あの世界は混沌をベースにしたものであるから、全くの同一ではないかもしれない。故に予想できないということもある、が。
「ひとまず、幽霊を探そう。大元を特定したいし、何とか出来るならしないと」
 アレクシアは耳を澄ませ、訝しげな表情を浮かべる。あまりにも、集落が静寂に包まれているものだから。

「なるほどな。ここの幻想種は皆眠っているのか」
「だいぶ深い眠りのようですね」
 広域を俯瞰する汰磨羈に利香が返す。集落の民が発するかと思われた助けの声も想いも反応しない。
「こんにちは……と、寝てるか」
 利香はひとつの家へ踏み込むと、床に転がっている幻想種に表情を曇らせた。すぅすぅと寝息を立てているようだが、このまま冷え込む朝の空気など浴びたら風邪を引いてしまいそうだ。
「ちょっと失礼しますね」
 しゃがみ込み、幻想種の肩を揺する。すると相手は酷く苦しんでいる表情に変わり、呻き声を上げた。助けを求められていると利香の脳内で警鐘が鳴り、その手を離す。
(起こすのも、ましてや動かすのも無理でしょうね……)
 助けを求めるような状況なのだと言うならば、強制的に動かしたり目覚めを促したりするのは危険だろう。そっと家を出ようとした利香は、外の騒ぎに気づく。
「――ふむ、幻影の類は効かないか」
 ぼやいた汰磨羈はドリームシアターの幻影を消す。幽霊たちがその姿に惹かれないのは、魂の有無だろうか。
 アレクシアの込めた魔力がより大きく膨らみ、普段より一層華々しく炸裂する。全てを惹きつけられるとは思わないが、下手な鉄砲も数打てば当たるのだ。ましてや、アレクシアほどの術者が行使する魔術となれば尚更。
 引きつけられた幽霊をシラスの乱撃が一網打尽にせんと猛攻する。
(これが情報屋の言っていた幽霊か)
 その時のことを見たわけではないので確実とは言えないが、状況からしてその線は濃厚だ。この辺りを調査するのなら、ここで確実に仕留めなければ。
「おっと、そちらには行かせてやれんな?」
 道端に転がる村人へ近づこうとする死霊。その方向目掛けて汰磨羈は、スパークした霊気を敵へ叩きつける。
「まだだ。逃れられるものなら逃れてみるがいい……!」
 存在ごと握りつぶそうとする手。死霊たちは逃げ惑いながら、ぼんやりと見えていた眼窩の奥を光らせる。
 その光に周辺へ光源を撒き終わった焔がはっとした。
「皆、気をつけて!」
 嫌な感じがする。心の中を掻き乱されるような不快感をグッと堪え、焔もまた加勢すべく槍を握りしめた。
(さて、この私の誘惑が通らないわけはないですが――)
 それは平時の話。利香はより広範囲へ魅了を振りまいていく。アレクシア同様に数打てば当たる戦法だ。重ねがけていけば尚更、魅了される死霊も増えるだろう。そうして引き寄せられていく死霊たちの足元を、魔力が走る。
「村人に手出しはさせないよ!」
 スティアの放つ停滞の魔術が敵を留めんと絡みとり、苦しめる。
(でも、この死霊たちだけ相手にしてても駄目なんだ)
 その視線は死霊たちの間を抜けていく。彼らは『何か』の手足だろう。元凶たる存在は一体どこにいるのか。
「強風に飲まれて、全部吹っ飛んでしまいなさい!」
 無限の紋章を顕したオデットの声と共に、乾いた風が吹き込む。熱砂の嵐は周囲の木の葉も、空中まで張り巡らされている茨さえも巻き込んだ。勿論、周囲に存在する死霊たちも。追撃するように激しき光が瞬き、アンデッドたる死霊たちは苦しむように身をよじる。
「煩わしく思っていただければ結構ですよ」
 いかに村人たちから気を逸らすか。いかに仲間たちの手を自由にするか。生憎グリーフは頑強だから、命を狩りとりやすいとは言い難いだろう。ならば『野放しにしておけない』と思わせるほかない。

「嗚呼――全く。貴方たちはいつも『我々』の邪魔をする」

 その瞬間、空気が変わる。より一層張り詰めたそれにシラスは視線を巡らせ、獣種と思しき男を見つけた。タクトを手にした男は死霊の蠢く中、静かな瞳で佇んでいる。
(こいつが死霊を呼んでるのか)
 持っているタクトこそ死霊を呼び、操りやすくするための媒介だろう。しかし彼が死霊を呼んでいる理由なんてどうでも良い。シラスが聞きたいことはひとつだけだ。
「――この茨もテメーの仕業か?」
 瞬間的な肉薄。容赦のない殺人剣を死霊が受け止め、掻き消える。1歩すらも動かなかった彼が小さく呆れた溜息をついた。
「其れが問う者の態度とは、ローレットの品位が疑われますね」
「敵の品位など心配している場合か?」
 自らを強化した汰磨羈の白桜が散る。度重なるそれをひたすら守るのは、彼を守る死霊たち。そして反撃するのもまた彼らである。タクトを振る彼の手を乱すように、スティアの聖歌が被った。
「少しは乱された? これでも天義の聖職者なんだよ」
「おお、なんと。それでは『悪』は許しがたいのでしょう」
 彼女の言葉に彼は鷹揚に頷いて、しかしとタクトを振り直す。村人がいるらしき方向へ幾体かの死霊が向かい始め、焔がはっと駆け出した。
「美しきは時として常人に理解されないもの。仕方ありません」
「随分と何かに熱中しているようですね? おそらく初対面でなんですが」
 退いて頂きますよ――利香の声と共に、悪夢が現実へと侵食する。死霊ごと巻き込むそれにかぶせるように、先ほど死霊たちを追った焔が複数体を纏めて狙いをつけ、神の炎を解き放った。
(彼は……きっと、ううん、魔種だ。でもどうしてか、逃げずに守らせてばかりいる)
 ならばこちらは攻め立て、ひたすら死霊たちを守りにあたらせた方が有利だ。最も死霊たちは存外にしぶとく、それならと焔は掌に炎で出来た爆弾を生成する。
 しかし完全に守りへ割かせるには、死霊の数が多すぎた。眼窩の奥底から放たれる怪しい光に混乱する仲間から守ろうとグリーフはその身を張る。堅牢なる自己犠牲の盾は、スティアの浄化によって攻撃へ転じる事となる。
 一方でアレクシアは引き付けた死霊を引き離さない様、花の魔力を辺りへ満たしていく。恐らくあの魔種が撤退さえすればこの死霊たちも引いていくはずだ。
「そっちに行ってはダメよ!」
 眠る村人へ迫ろうとする死霊へオデットの攻撃が飛ぶ。村人たちを守ろうとする者と、魔種へ攻撃することで死霊に守らせる者がいることで死霊の数は目に見えて減っていた。
「まだいけます?」
「うん……頑張れるよ!」
 利香とアレクシアが視線を交錯させる。先ほどまで村人たちへ向かっていた死霊も、2人がダメージを蓄積したことで向こうから襲い掛かってきている。倒れては元も子もないが、村人たちの事を思えばギリギリまで粘らなければ!
 だが全てが全てそうではない。焔は狙いを変えた死霊の前へと回り込み、身を呈して村人を守る。スティアの魔力が花弁となって舞い踊り、味方の傷に触れて治癒の力を流し込んだ。
「それで? 貴方の言う『美しき』って何なのかしら。それと名前を教えてくれたら嬉しいわ」
 悪夢を現実へ呼びながら利香は問う。今だ名も知らぬ男を――まあ、この先イレギュラーズに倒されて忘れられるのだろうが――ローレットの報告時に『魔種の男』と言う訳にもいかないだろう。
「おっと、これは失礼を。私は『霊魂蒐集家』マルシャル・カリトゥー」
「霊魂だと……?」
 胡乱気な声を上げながら汰磨羈が斬りかかり、乳海と呼ばれし地より生まれる雫を食むとすぐさま汞手を放つ。それは魔種のタクトを握る手へ向けて伸ばされた……が、死霊がその身を呈し、掻き消える。
「厄介だな。その死霊たちも集めた霊魂とやらか?」
「まあ、そんなところです。観賞用の魂もありますよ」
 悪趣味な、と汰磨羈は吐き捨てた。対して、グリーフは魂を美しいというマルシャルに目を瞬かせる。
「……なるほど、私にはない知見でした」
「グリーフさん!?」
「その審美眼に、アルティメットレアの秘宝種は適うのでしょうか?」
 極まった秘宝種の体は、いつしか究極の宝として語られるだろう。それは誰よりも自身へその興味を引き付けられるのかという問いかけでもあった。
 マルシャルはグリーフを見て、そうですねと呟く。
「秘宝種の魂ですか。これまた興味深い……ですが、貴女の魂を取るのは『面倒臭そう』だ」
「そうですか」
 グリーフの身は一筋縄で倒れるような作りではない。それはそれとして、マルシャルは興味が湧いたようである。ふむ、と吟味するようなマルシャルの懐へ肉薄し、シラスは死霊ごと得物による乱撃へ巻き込んだ。
「他人の命で音楽家気取りか? 美しさの欠片も感じねえな。そういうのは悪趣味ってんだよ!」
「貴方がそう感じるのであれば、それで結構。美しさなど人それぞれでしょう」
 その攻撃は死霊たちによって防がれる――が、シラスの勢いには彼も嫌なものを感じたか。初めて彼の足が地面から離れる。
「これ以上は随分骨が折れそうです。多少の収穫はありましたから、良しとしましょう」
 マルシャルの言葉に焔が炎を放つ。それはマルシャルも死霊も抜いて、向こう側の茨を焼きはらった。彼はちらりと焔を一瞥するが、何も言わずに去っていく。残った死霊の行列を連れて――どこかへと。

「村人たちは動かせないんだったか?」
「ええ、その方が良さそうです」
 利香の言葉に頷いた汰磨羈は視線を巡らせ、えっと目を見開く。なるべく茨からは離れていたのだが、そこへオデットが自ら近付こうとしていた。
(これで眠くなるならちょっと寝てもいいかなって思うのよね……)
 べしん!
 そうっと近づいていたオデットへ茨は容赦がなく。焔が「オデットちゃん!」と叫びながら茨を切り払いにかかる。村人たちのことを思えば、多少は減らしておいた方が良いだろう。グリーフも加勢する。
(先ほどの死霊……彼らも集められた魂だと言っていました)
 もしかしたら、感情があったのだろうか。
 もしかしたら、何か反応が見られるようなことがあったのだろうか。

 ――それでも、私たちには倒して弔う事しか、できなかっただろうけれど。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

リカ・サキュバス(p3p001254)[重傷]
瘴気の王
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
大樹の精霊

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 またどこかで、彼と会うかもしれませんね。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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