シナリオ詳細
<グラオ・クローネ2022>この熱で溶ければいい~豊穣~
オープニング
●だって……
「あげないよ」なんて言えないよ。
だけど寒風吹きすさぶ中でも君の手はやはり温かくて、これを渡したら溶けてしまうんじゃないかと思ったんだ。
なので目を閉じて口を開けて、その舌で何味か確かめて。
愛情ならたくさん込めたよ。ちょっと不格好なこのチョコレート。どうか君に食べてほしい。
届くかな、この想い。君が笑ってくれたら、それだけでとてもうれしい。
●閑話
「デートしたい」
「誰と…?」
ヨタカ(p3p000155)は京司(p3p004491)へそう返した。
のんびりとした昼下がり。アフタヌーンティーを楽しんでいたヨタカはほうと顔を綻ばせる。誰が相手にせよ、内にこもりがちな京司が外へ関心を持つのはよいことだ。
「そりゃあ、あの子と」
「…あの子って、誰…?」
「男の子」
「…そう、いくつくらいの子…?」
「何歳なのか正直謎。誕生日だってあとから付けたらしいし」
「複雑な事情がありそうだな…。」
「あと女の子も」
「も……? …え、ダブルデート?」
「いやダブルじゃない、この間一人減ったから、えーと」
「待って、待って…。何股かけてるの?」
それはさすがに由々しき事態だとヨタカは冷や汗を垂らした。京司は人の悪い笑みを浮かべて答える。
「なに焦ってるの? 孤児院の子たちとだよ」
●それはさておき
「……今年もやってきたわね、グラオ・クローネ」
豊穣のローレット支部へ現れた【無口な雄弁】リリコ(p3n000096)は、薄く痩せていて一回り小さくなったように見えた。それでも背筋をしゃんと伸ばし、案内人としての仕事を果たそうとしている。
「……このグラオ・クローネの波に乗って、依頼人の豪商が商売を企画したはいいけれど、まだまだ豊穣ではグラオ・クローネの知名度が低いの」
だからね、とリリコは続けた。
「……神使であり、国の救済者であるあなたたちが、楽しんでいるところを元に商品戦略を練るらしいわ。場所と材料は提供されるらしいから、お菓子作りを楽しんでいってね」
ようするに豪商は、どんなチョコレートが作られているのか、どんなシチュエーションで渡されるのかを、ローレットの報告書を通じて知りたいようだ。
「……チョコレートと言っても色々ある。自分用の専用チョコ、友情を深める友チョコ、ライバルへ送る強敵(とも)チョコ。それからもちろん、愛しい相手へ送る本命チョコ」
あなたは好奇心にかられてどんなチョコレートがほしいかをリリコへ聞いてみた。
「…………私?」
リリコはたっぷり考えて口を開いた。
「……私は……もらえるなら、どんなチョコでもうれしいわ。だって好意の表れでしょう? それって、とってもありがとうだと、思うの」
- <グラオ・クローネ2022>この熱で溶ければいい~豊穣~完了
- GM名赤白みどり
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年02月27日 22時05分
- 参加人数23/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 23 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(23人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●
ジゼルは黒い三角巾を濡羽色の髪の上からきゅっとしめた。意気揚々と調理台へ向かう。
胸にあるのは『恋人』のこと。少しわがままで、甘えたがり。そんなところがかわいくてたまらない少女。あの子のためにチョコレートを作ろう。甘いものは好きだし、それに、恋人である自分の手作りなのだから。喜んでくれるだろう。それ以外の反応は許さない。
「チョコの中身にはベリーのジャムを使おうかしら」
真っ赤で素敵。そう思わない? 当然のようにハートの型を選び、愛をたっぷりと込める。黒の箱に閉じ込めて、赤いリボンで縛って。ああ。あの子もそうしてしまいたい。
強敵(とも)チョコ、桜綾はその響きが気に入ったらしい。
「なあ小梅、勝負しようぜ。どっちがうまいチョコレートを作れるか勝負だ!」
雪梅はかすかに呆れ顔。
「はあ、グラオ・クローネ、ねえ。里に居た時はそない洒落たことしなかったやないの」
「受けるのか受けないのかどっちだ、オレに負けるのが怖いのか? あ、負けたら罰ゲームな!」
「ええよ、その勝負受けて立とう! アタシに勝てると思ってはんの!?」
バトルと聞いたらたぎるのがドラゴニアの宿命だ。思わず口から飛び出した言葉に雪梅はがっくりとうなだれた。
(強敵チョコ、強敵チョコねえ、ははは…はは…はーぁ……泣きそう、アタシの馬鹿……)
17年も片思いを続けてきた。このさきまた17年続けるかも知れない。いやそもそもただ単につるむ相手だと思われているのかも。それが一番怖い。
(ま、気を取り直そ。お、美味しいチョコとか作ったら振り向いて貰えるかも識れへんしな……)
「えい、えい、おー!」
「お、やる気だな!? かかってこいよ、チョコなんて作ったことねぇけど楽勝だろ!」
かくして始まるチョコバトル。しかし。
「うわ、焦げた!」
「えっと、湯煎でするんやで、桜綾?」
「湯煎? おいふざけんなこれビッチョビチョになったぞ! どうなってやがる!」
「って何涙目やのん? 男の子が情けないわあ」
「たかがチョコ作りだと思ったのに……」
「そない落ち込まんでええやろ。ね、ね、桜綾はミルク、ビター、ホワイトに、ストロベリー、どれがええ? 仕方ないからはんぶんこや、特別になあ!」
勝ち誇ってみせる雪梅に桜綾は拳を握った。
(……くっそぉ小梅に渡すんなら完璧に美味いチョコにする予定だったのに)
Saltが塩で、Sugarが砂糖。くそったれ、どっちもSじゃねえか。瑠々はなにをどうすれば作れるかなんてさっぱりわからない。だけど周りを見回しているうちに要領がつかめてきた。そのとおりに手を動かし、できあがったのは。
不揃いでかっこ悪い、素人感満載のチョコ。
(こいつで借りを返すなんて正直足りねえよなあ……)
味見をすると涙の味がする。物理的に。塩入ってるぞこれ。
「ああもう作り直しだ。こういうのは納得するまで終わりたくない!」
何度も何度も作り直して、一生懸命チョコ作りに打ち込んで、ようやくできあがった。ちょっと不格好だけど、味はいい。そんなチョコ。
ウチのことをほっとかないなんて言った酔狂なやつに、きっとちょうどいい。
「……どうしましょう」
雨紅は思案している。兄弟機へ贈るには、なにがいいだろうか? 食いしん坊さんには量がほしい。一番仲良しのあの子は可愛いのが好きそう。理知的なやつらは量より質タイプかも。皆へとなると、難易度が跳ね上がって感じる。実際そう。だから雨紅は、おもむろに薄力粉とココアを合わせはじめた。
(ええい、ブラウニー二種を大量に作って、たくさん渡したり、包装にこだわったりして対処しましょう!)
手作りなのだから少しひねろうか。ひとつはナッツとベリー、さらに酒粕を混ぜ、もうひとつは抹茶をふんだんに。せっかくの豊穣だからこだわってみたりして。受け取った側の喜ぶ顔を想いながら手を動かすのは。
「ふふ」
なんだか、すこし楽しい。
初めてのトラウマは今も健在。だから珈琲へ角砂糖はたっぷり、ミルクも色が変わるまで。向かいで笑う人はチェシャのごとくニンマリと。
「へなちょこさんはハイビターなチョコが好きだよ」
「えっ」
アッシュは大きな瞳をこぼれんばかりに見開いた。
「『えっ』は、こっち。相手は勿論私なんだろう? 初手のリサーチが省けて良かったじゃあないか」
「……そういう自信満々すぎるところがムードを壊す気がするのですが」
「本当にそう思うかい?」
こくびをかしげてみせるヘーゼルに、アッシュの胸が早鐘を打つ。嗚呼悔しい悔しい。これが惚れた弱み?
「と、ともあれ、チョコ作りを開始します。味は保証しませんけども」
チョコをとりあえず砕き出すアッシュ。砕いて細かくして、それから先は?
「湯煎って知ってる?」
「了解しました」
すったもんだ紆余曲折。お菓子作りびぎなーにチョコ作りは厳しい。
「オーライオーライ、失態は不問に付そう。ね、皆さん初めてはそんなもんでしょう?」
周りをしっかり威嚇してから、ヘーゼルは背後からアッシュの両手へ手を添える。
「……失敗は成功の母と言います。或いは、此れをコラテラルダメージと」
「まあ少し不満かも識れないんだが、ここいらじゃ旬の八朔でオランジェットを作ろう」
湯煎したチョコにひたして乾かすだけ。たしかに材料さえあれば後は簡単だった。
「……うん、美味しい。良いじゃないか。然し此れはアレだな、方向転換だ娘さん。屹度緑茶が合うだろうから淹れてもらおうか」
「では、お茶はわたしにお任せを。そっちなら、もう少し上手にできますから」
自信満々に淹れたお茶は、たしかに美味しかった。
章姫がちいさなおててで湯煎をしている。そのボウルを固定してやっているのは鬼灯だ。
「章殿、誰にチョコレートを渡すつもりだ?」
「んっとね、暦の皆に帝さんでしょ、晴明さんに……」
……わかっている。章殿にとって帝は父のような存在。
(わかっているが複雑ッ!)
でも章姫が楽しいならOKです。そんなことより、いつまでたっても自分の名前が出てこないほうが気になる。
「はァい、奥方、型はここに並べといたらいい?」
「ありがとう霜月さん」
「そしたら型に流しこもうね」
「はーい」
「ん?」
鬼灯は型の数を数えて首を傾げた。
「章殿、二つ程数が多いようだがこれは?」
「あのね、セレーデさんとね、セレーデさんのお父様にあげたいのだわ」
「ああそうか、そうだね。章殿はほんとうに優しい女性だな。チョコレートができたら皆で花畑に供えにいこうか」
顔を伏せる鬼灯。そのうしろでこっそり霜月が鬼灯専用の型を用意し、章姫と目配せを交わしていた。
あれかこれか、揺れ動くのは乙女心、どれが一番なんて決められないから、結局全部買ってしまった。せっかくなので材料にしてしまおう。ルチアはそう考えた。
「どこで買ってきたのよ、そのチョコ」
オデットがぽかんと口を開けている。尋常な量ではないうえに、義理チョコにしては値が張っているし、友チョコにしては凝りすぎている。
「べつに、いいチョコを作るためにはいい材料からと思っただけ。オデットも使っていいわよ」
「あ、そう」
いまのはぜったい嘘だなと、オデットは勘ぐった。そのくらいはわかるようになっている。
「チョコもすっかり作り慣れたわね」
「そうね」
オデットはころころとわらいながらトリュフチョコを量産していく。まずはビター。吟味した材料で作られたそれを、ルチアのおくちへ。
「はい、あーん」
「あーん」
だってルチアはガトーショコラづくりで手がふさがっているから。おくちで受け止めるしかない。
そういうことにして、乙女心は封印。
ホワイト、抹茶、ストロベリー。作ったそばからオデットはルチアへ食べさせていく。
(ただの味見役なのかしら)
傷ついた乙女心。くやしいから焼き上がったガトーショコラをオデットへ。
「さっきからよくもやってくれたわね。あなたも食べなさい、ほらほら」
「うーん、おいしい! で、ルチアはこのガトーショコラを誰にあげるわけ? 素敵な男性はいないわけ?」
「オデットは?」
「わ、私はいいの! もうあげたもん!」
え、それって……。閉じ込めていた心、ふわり。
誰が殺した、お前の兄を。
それは……。
閠の頭でぐるぐると古傷が巡っていた。クマにまみれた顔を黒布で隠し、ザスとミョールを探す。歌声を響かせれば、返ってくるのは別の音。ああ、一年ぶりですものね。子どもの成長は速いですから。それにくらべてボクは……。帰ろうか、そう思った矢先だった。
「閠さん! 閠さんじゃないの久しぶり!」
「閠にーちゃん! あそぼ!」
見つけてくれたんだ、こんなボクを。
「お久し振りです、ね……」
閠は自分が微笑んでいることに気づいて驚いた。まだ自分は笑顔になることができるんだ、と。無事にチョコづくりを終え、おずおずと申し出る。
「ぜひ、ミョールさんに淹れてもらった、お茶と一緒に、いただきたいのです、けれど……」
「もちろん、任せて!」
「あっちでのんびりしよう、閠にーちゃん!」
「友達とは、志などを共にして、同等の相手として交わる者の事を差すという」
「ヴァトーにーちゃんが何を読んだかは知らないが学ぼうとするその姿勢は嫌いじゃないぜ」
ユリックはヴァトーの持ち込んだ『絶対モテる100のコツ』といいう雑誌をじったりながめた。本人曰く参考書。
ふたりは交換用にチョコを作っていた。ヴァトーは店で売れるレベルのチョコを作り上げると、おもむろにそれを半分に割った。あんぐりしているユリックへ向けて一言。
「『ちょっと不格好なくらいの方が彼ピのハートをギュッと掴むゾ★』と」
「その参考書捨てろよ」
「ところで彼ピとはなんだ?」
「つがい」
「つがい? 生殖用伴侶のことか? では友達という概念から外れるな、作り直すか」
●
幻想で選びに選び抜いたチョコレートを、慧は意気揚々と主である百華へ捧げた。
「お受け取りください、主さん」
「わああ、いいじゃんこれー! めっちゃカワイイし、入れ物までキュート! やるじゃん!」
「あそーと、というのだそうです。こういう見た目も楽しめるの、好きかと思いまして。屋敷の皆さんの分もありますが、主さんへは特別です」
「またそうやってカワイイこと言うねえ、このこのっ。あ、せっかくだしけーちゃんもいっしょに食べようよ」
いつもこの人は、こうやって自然と、同じ場所にいてくれる。慧はその事実がたまらなくうれしかった。
「まぁ俺も味とか気になってましたし、いいっすよ。でもそっちが先に選んでくださいね」
表面は取り繕って、澄ました顔。だけど心はほんわか。ふたりはしばらくチョコ祭りを楽しんだ。半分ほど減ったところでふと百華が眉を寄せる。
「でも困ったな、お返しとかいるよね?」
「グラオ・クローネと対になるイベントがあるそうです」
「ならその時楽しみにしててね!」
はいと答え、慧は耐えきれずほっこりと笑った。カレンダーに印を付けておこう。そんなことしなくても、忘れたりはしないけれど。
KOTATSU、それは危険極まりない結界。中に入ればもはや命を握られたも同然。
「と、なると聞いたが、いやはやたしかに危険物だ」
弾正はアーマデルとベネラー相手にそうつぶやいた。下半身がほこほこして尻に根がはえる。こいつは危険だ。だがアーマデルもベネラーも平気そうだ。なんか俺ばっかり、と弾正は頭を抱えた。
気持ちを切り替え、アーマデルを見やる。彼はこっくりとうなずいた。
「最近ショタコン魔種に付け狙われて何かと不安だろう、ベネラー殿。というわけでベネラー殿にもチョコを食べてもらおうと思った、覚悟するのだな」
「はい、ありがとうございます。おふたりの気持ちがうれしいです」
「そうか。これは美味しいうえに体にもいいという製作者がバグったとしか俺には考えられない奇跡の一品だ。これをみなで仲良く分けて食べよう」
「あ、箱に注意書きが書いてあるみたいですよ」
『8個中1個がアタリ』『激辛』
「……なに、激辛?」
「そうそう当たらないだろう。さあ、『あーん』なるものをしてもらおうか、弾正」
「いや待て、8分の1といえば、12.5%だ! 闇市のハイクオリティの3倍以上だぞ、目を覚ませアーマデル!」
「死ぬこと以外はかすり傷だ」
弾正は再び頭を抱えた。
(二人を危険に晒す訳には……ッ! くっ、許せアーマデル!)
彼は猛然と箱をひっつかむと、チョコを一気食いし、びったんびったん悶絶した。
「ぐおおおぉーー辛ーー!! なんっ、他のチョコの甘さを押しのける程やべーッ!? 」
「弾正? 弾正生きろ。辛いだけだ、死にはしない」
「いえいえ大事ですよ! 弾正さんしっかり! 僕、お水持ってきます!」
ややあって。
「暴れてすまなかった。ふたりに俺からもプレゼントがあるんだ」
弾正はピラミッド型の生チョコを取り出した。
「これは雪のようなくちどけが売りでな、味覚音痴のアーマデルにも楽しめるように選んだんだ」
「弾正……」
「ほら、アーマデル、あーん」
弾正からのサプライズは、アーマデルの頬を朱に染めた。
「ありがとう、な」
細雪がちらちらと舞っている。庭園の片隅で、ディアナはセージといっしょにつくったチョコレートを取り出した。
「それじゃふたりで味見ね」
「へいへい」
和傘をさしていたセージが頷く。彼は雪がディアナへ降りかからぬよう傘を傾けていた。共同作業で作ったチョコだ。独り占めする気は毛頭ない。
「『目を閉じてチョコを食べさせて貰うといい事がある』そうよ? だから口あけて?」
ディアナはいたずらっぽく笑う。
「へぇ、そんな噂があるのなら肖るとしようか」
面白い噂もあったものだし、その程度で彼女が喜ぶならお安い御用だ。ディアナにしか見せない優しい笑みを浮かべ瞳を閉じ、口を半開きにする。舌の上に乗せられたかすかな重み、溶け出す甘み。目を閉じているせいかそれが強く感じられる。なるほどと得心しながらセージはまぶたを開けた。そこにはほんのりと頬を染めたディアナが居た。きれいだとセージは素直に思う。恋は彼女を美しくした。だったら……。
「私にも頂戴。お互いにいい事を……」
続く言葉は初めての口づけに呑まれた。セージの口内にあったチョコレートがディアナの唇から先へ移っていく。一瞬絡み合った影はすぐに離れた。ディアナは呆然とセージを見つめる。口の中が甘い。溶けそうに甘い。焼けるように甘い。
「あ、あの! いま!」
冷静を装おうとしたものの、声が上ずる。うまくできない。セージは笑みを深くした。
(本当に可愛い奴だ)
軽くパニクっているディアナの手を取り、息を吹きかける。冷たくなっていた手はすぐにぬくもりを取り戻した。
「ああもう! 不意打ちすぎてよくわかんなかったから、今度ちゃんとしたの頂戴!」
「今度と言わず今でもいいだろ?」
傘の影に身を隠し、ふたりは再び重なった。
「ーーーーーー!」
「そんなに慌てなくたっていいだろ」
それともいやだったか? 言外にそう匂わせると、ディアナは思い切り首を振った。真っ赤な顔のままで。
寒いね~なんて言い交わしながら、縁側でまったりするシキとサンディ。
「ほんと、お茶が美味しい季節だ」
「だよな、梅だって咲いちゃいねえ。ま、あたたかいお茶にはむしろちょうどいいのかもな」
シキはところでと、話題を変えた。
「豊穣にはお茶請けという文化があるそうだけれど。お茶と一緒にお菓子を食べるらしいんだ」
「へえ」
「まぁ、だから、というわけでもないんだけれど、お菓子用意したんだけど……食べる?」
「おう食べる食べる。用意がいいねぇ……ん?」
サンディがそれをみて目をパチクリさせる。
「な、なに? チョコは嫌い?」
「いや、そんなことはないけど……」
店で買ってきたのかと思いきや、この若干不揃いないびつさは心当たりがある。サンディは不思議そうに疑問を口にした。
「……え、手作りか、これ」
「そう。なんだよ、私が作ったんだからお店のものみたいじゃないのは当たり前だろうさ。まぁ。味は悪くないと思うけれど、うん、たぶん……そんなに、いや?」
だんだん尻すぼみになっていくシキに、サンディは大げさなくらい両手を広げた。
「いやとかそうじゃなくて、単にびっくりしただけだって!」
だって今日は、今日のこの日は。このチョコにどんな意味が込められているとしても、そこにあるのは純粋な好意だ。それを受け取れる自分に、サンディは胸の奥があたたかくなった。
「んじゃ、遠慮なく」
その瞬間、花が咲いたかのようなシキの微笑を眺め、ここのところ貰いっぱなしだとサンディは思い返す。
(あとで何をお返ししようか)
悩むもまた楽し。
ラスヴェートはドキドキしていた。「3人」でお菓子作りなんてめったにない。うれしいうれしい。心が弾む。
「お手伝い、頑張るね、パパさん、お父さん!」
「うん…その意気だ…。」
「さて、カゾクで頑張るとしようね」
Lichtjahrebandの輝きが、武器商人のミニハットとヨタカの胸元できらめいている。それを見ているとラスヴェートもまた穏やかになるのだ。養い手たちの仲の良さは、そのまま養子であるラスヴェートの心の安定にもつながっていた。
「今日はチョコレートクッキーを作るんだよね?」
「……ああ、そうだ。グラオ・クローネは…年に一度の心があたたまる甘い日だからね…。」
「孤児院の子たちにも、そうなってほしいものね」
「僕、仲良くできるかな?」
「きっとできるよぉ」
武器商人はのんびり笑った。そこには敵へ見せる冷めた鋭利さは感じられない。よしよしとラスヴェートの頭を撫で、エプロンを着せる。ヨタカは顔を伏せ、武器商人へ囁いた。
「なあ紫月。」
「なんだい小鳥」
「この前久し振りに孤児院の子達と会って…変わってしまった事が沢山あって驚いたんだ…もっと、彼らに寄り添いたいって思ったんだ」
「そうだね。おまえのその優しさ、愛おしく思うよ」
ヨタカの頬へ軽くキスをし、武器商人はどこからともなくデザイン画を取り出した。
「わあ」
ラスヴェートが顔を輝かせる。それはそれは愛らしいアイシングのデザイン画だった。
「では…捏ねるのはラスに手伝ってもらって、形作りと焼き上げは紫月にしてもらおうかな…。それが終わったらいっしょにお絵かきタイムだ…。」
「失敗しない? どうしよう」
「大丈夫大丈夫、予備も焼くからね。何回でも挑戦していいんだよ」
武器商人は指を振り、少し心配性な愛しいふたりへ、こっそりとデザイン画を追加しておいた。ラスヴェートにはヨタカのを。ヨタカにはラスヴェートのを。できあがった暁には胸躍る美しい時間が待っているに違いない。
「あれから少しは食べれるようになったんだね、リリコ君」
「……ええ、なんとか」
安心したという本心は隠して、京司は孤児院の子たちを慰問する。皆表面上は平気そうだ。彼の周りへ集まってきたひとりひとりへ高級品のムース・オ・ショコラを渡し、縁側でいっしょに食する。わいわいとにぎやかな輪に囲まれていると、先日の事が夢のように思えた。さらに、と京司は懐から紙束を取り出す。
「ついでにお仕立てのチケット。今度それでよそ行きの服を作ってホテルのスイーツブッフェに行かないか? もちろんシスターも。豊穣だから和服なんかもいいかもしれないね。大きくなっても着れるし」
「うん、いくいく!」
「やったでち!」
ザスとチナナをはじめ子どもたちが大喜びするなか、ベネラーも微笑んで会釈をしてきた。京司は悪ぶって手をひらひらさせる。
「ふふ、またデートしようね、君たち」
冬の和装は思ったよりも真へ馴染んでいた。惚れ直す、というのはこういう感覚かもしれないとアリアは小さく笑う。着物へ身を包むのは初めてではない。以前真がふらりと帰ってきたときにガウンにいいと、土産に振袖をもらったのだ。それはアリアのお気に入りクローゼットの中にある。
ふたりでいるのに、周りの様子が気になっている真の横腹をつついてやる。
「いやぁ、馴染みの顔が生きてるかなって」
「そんなことだろうと思った。理由は何でもいいわ。真が珍しくあたしを誘ってくれたのだもの」
夫婦はのんびりと雪化粧の庭園を歩いていく。大きく枝を広げる寒桜の下、緋毛氈が敷かれた長椅子がある。そこへ腰掛け、お茶と持ち込んだジュエリー・クラウンで一服。
「真、目を閉じて口を開けて」
「ん」
いたずらのつもりでチョコを食べさせようとしたら、指ごとぱくりと行かれた。
「……もう」
アリアは真の胸へ顔をうずめた。まるで初な小娘ね、あたし。あなたの前だと調子が狂うわ。胸の中でそうつぶやいて。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまでしたー!
皆さんそれぞれのグラオ・クローネでしたね。私もほっこりといい気分です。
MVPは仲良し夫婦なあなたへ。
またのご利用をお待ちしています。
GMコメント
こんにちは、みどりです。
今年は豊穣でちょこっとチョコ作り!
●いつもの
一行目 同行タグ または空白
二行目 行先タグ
三行目 プレ本文
●行き先
【調理】
大きなお屋敷でチョコレートを作りましょう。材料・調理器具一式がそろっています。あなたはチョコレートに何を入れますか? それとも純粋に味で勝負しますか? どんな形にしますか? 大きいのを一つ? 小さいのを沢山?
【譲渡】
チョコを渡しましょう。豊穣は自然がいっぱい。日本庭園の片隅で? 大きな寒桜の樹の下で? 細雪の降る細道で?
相手に目を閉じてもらって食べさせると、いいことがあるかもしれないという噂が流れているようです。
※1・このイベシナではEXプレイングを利用して関係者を呼び出すことができます。
※2・NPCは呼び出しに応じて登場します。
リリコ:両親を失ったトラウマで無口無表情な女の子 好意は素直に表す 「だって明日が来るかなんて、わからないから」
ベネラー:天義の辺境出身の男の子 礼儀正しくおとなしい 魔種に狙われてるなう 「僕、これからどうなっちゃうのかな……」
その他孤児院の子も呼び出しに応じて登場します。孤児院の子って誰? という方はみどりのGMページをごらんください、フレーバー情報が載っています。
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