シナリオ詳細
<夏祭り2021>水色のラムネ
オープニング
●
華やかなる帝都に訪れる夏。
R.O.Oのヒイズルでのサマーフェスティバルだ。
湿気の多い蒸し暑さと燦々と降り注ぐ陽光。青空快晴。
鉄道の開通によって湾まで結ばれた線路を汽車が走っていく。
潮風が鼻腔を擽り、波の音が聞こえてくるようだ。
ハイカラなモガ達は挙って水着を来てサングラスを差した。
近くの神社の参道には縁日も開かれ、ラムネを片手に浴衣で散歩も出来るらしい。
「うーみー!」
白い砂浜を波打ち際まで走って行くのは『猫のしっぽ』廻(p3y000160)だ。
恐竜の形をした浮き輪を引き摺って、波が届くギリギリの所で止まる。
この猫耳尻尾の姿になってからというもの、水に浸かるのが怖いのだ。
恐る恐る足の先を波に浸せば、尻尾が勝手にピンと立ち上がる。
「おや、廻君は海が怖いのかね? 泳げない訳ではないだろう?」
振り返れば、真読・流雨(p3x007296)が僅かに口の端を上げた。
普段無表情の彼女が微笑みを浮かべるのが珍しくて廻はじっと見つめてしまう。
「えっと、この姿だと、水が怖いみたいで。リアルだと特に苦手とかはないんですけど」
それにしても、流雨のビキニ姿が眩しいと廻は頬を染める。
普段、リアルで接する女性が牡丹と狸尾なものだから、健康的で大きな胸というものに免疫が無い。
張りのある胸とそれを支えるには頼りない布地。目のやり場に困ってしまうのだ。
「気になるかい?」
廻が頬を染めている事に気付いた流雨はビキニの紐を摘まんでみせる。
「あわ、わ。その……見てた訳じゃないんです! でも、綺麗で似合ってて、その」
流雨が近づいて来るのを顔を真っ赤にして視線を逸らす廻。
「いや、見るだろ」
二人の背後に立った『海ではしゃぐ』龍成(p3y000215)が大きく頷き。
廻は恐竜の形をした浮き輪を龍成に投げつけた。
「ふふ、みんな楽しそうだねぇ」
「あ、ホワイティさん!」
白いホルタービキニとパレオを腰に巻いたホワイティ(p3x008115)が手を振る。
頭には麦わら帽子を被り、ヒマワリを差した爽やかな姿で廻達に微笑んだホワイティ。
「えへへ~、どうかな?」
「とても、可愛いです」
パレオの裾を摘まんで首を傾げてみせるホワイティに廻は頷いた。
水が怖い廻を浮き輪に乗せて。
ホワイティと流雨はゆっくりと波に身体を委ねる。
波が身体をゆらすたびに、浮遊感を楽しんだ。
サン・イエローの陽光は青空いっぱいに広がる。
――――
――
「そういえば、デイジーさんまだ来てないね? 龍成連絡貰ってる? 迷子かな?」
「んや。来てねぇな。その辺見てくるか」
龍成は仕方が無いなと髪を掻き上げ、海から上がり白いシャツを着込んだ。
「あの……私は」
聞き覚えのある声に視線を上げれば。
「待ち合わせているので」
男達に囲まれて居るデイジー・ベル(p3x008384)が視界に飛び込んで来る。黒ビキニの長い黒髪。大きな瞳に帽子と胸元の縫い目に男達は興味を惹かれたのだろう。
「いや、ずっと一人だったじゃん? 俺達と遊ぼうぜ、な? な?」
「そうだよ。遊ぼうぜ」
リアルの身体は巨躯であるからして、こうして覗き込まれる経験はしたことがない。興味深いと観察するデイジーの態度に男達は一層顔を寄せた。夏の海では人というものは陽気になるのだろうか。
後ろから肩を抱かれ引っ張られる。慣性のまま身を委ねれば、嗅いだことのある香水の匂いがした。
「……『俺の』に、何ンか用か?」
デイジーを男達から引き剥がし、冴えた刃の如く眼光で睨み付ける龍成。
今にも殴りかかりそうな気迫を感じ、男達は視線を逸らし、にへらと笑いながら去って行く。
「龍成一つ訂正が。私は龍成のものではありませんよ」
「あ? うるせぇよ。ああいうのは、彼氏役が登場した方が話しが早いんだよ」
「彼氏……?」
「役の話しだ。親友って言ったって分かんねぇだろ。相手には。見た目は男と女だし」
言いながら龍成は自分が来ていた白いシャツを脱いでデイジーに差し出した。
「これ着とけよ」
「はい」
素直に龍成のシャツを受け取ったデイジーは黒ビキニの上に着る。
これで、邪な視線を逸らす事が出来るだろう。
小さく溜息を吐いた龍成が砂浜を歩き出す。
「おら、行くぞ。向こうで廻達が待ってるから」
「はい……うっ」
追いつこうと勢い良く踏み込んだ足が砂に食い込み、その場に転ぶデイジー。
少女の声に振り返った龍成は、転んだデイジーの上に波が覆い被さるのを見た。
ぽたりと黒髪から落ちる雫。白いシャツは透けて黒いビキニが浮かんでいる。
これがアキバケイ・オター著『これを読めば誰でもネトゲが分かるんだが?』に記された『美少女アバターの濡れ透けぺぇぺぇ』なるものかとデイジーは考える。
こういったものを見た時、人とはどういう反応をするのだろうか。
好奇心と共に龍成へとエメラルドグリーンの瞳を上げた。
●
茜色の空が紺青に移りゆく時間。
縁日は橙色の提灯を灯し活気づく。
皆一様に浴衣を纏い、人混みの中を歩いて行くのだ。
「金魚掬いに、林檎飴……! 楽しいなぁ」
「おい、廻。あんま離れんなよ」
手を引かれ、見上げれば橙色の提灯と人混みの中で渦巻く声。
カランコロンと鳴る下駄の音。記憶には無い、されど何処か懐かしい既視感に廻は目を細めた。
きっと幼い頃にこうして手を引かれ、縁日を歩いた事があるのだろう。
「龍成は縁日とか来た事あるの?」
「どうかな。あんま記憶にねぇ。行ったことはあると思うけど」
廻を肩車しながら龍成は皆が待って居る花火会場へ向かう。
「あ、花火始まっちゃった」
「本当だ」
胸を打つ花火の音。心臓を揺さぶる感覚に龍成は覚えがあった。
「そういえば、姉ちゃんと花火見た事あるかも」
幼い頃の記憶。隣には姉の晴陽が居て、二人で空を見上げた事があったような気がする。
ぼんやりして詳細な部分は思い出せないけど。
まだ、姉と意思疎通が出来ていた頃の――
「ん~? 何か言った?」
花火の音に掻き消された言葉を聞き返す廻。
「いや。何でもねぇ」
寂しさや後悔は、友達と遊ぶ夏の夜には相応しくない。
それよりも今から紡ぐ思い出を大切にしたいから。
- <夏祭り2021>水色のラムネ完了
- GM名もみじ
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年08月06日 22時05分
- 参加人数33/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 33 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(33人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●
パライバトルマリンの水面が輝く海と白い砂浜。
ちいさなクマがとてとてと銛と網を持って龍成の元へやってくる。
「龍成さん、こんにちわ。エル……じゃなくて、ベル、です。よかったら、ベルのお魚さん採り、お手伝いして、頂けますか?」
「よお。ベル。魚とんのか? いいぜ」
美味しい魚を持って行けば海の家で焼いてくれるらしい。
ベルは器用に水中の中を移動し、銛で魚を一突きする。
「とったどー!」
「おお! すげえじゃねーか。やるなベル!」
「龍成さんは、上手く採れましたか?」
「まあ。そこそこ。ベルほどじゃねぇよ」
「わあ! たくさん採れましたね!」
パチパチと手を叩いて龍成の収穫を祝うベル。
「深いところの、お魚さんだったら、ベルが採りに、行けるので、見つけたら、教えて下さい」
かごいっぱいの魚介を抱え、海の家に乗り込めば、クエストクリアのファンファーレが鳴り響いた。
「夏の海ですよアルエットさん! 一緒に遊びましょう!」
何時もより元気な那由他の声にアルエットは笑顔で頷く。
海の中に入り水を掛け合いはしゃぐ姿は端から見ても微笑ましいものだった。
「可愛いアルエットさんの水着を見れて私は嬉しいですよ。うんうん」
「いつもと違うくて楽しいの」
「嘘っぽく見えます?」
「えー、どうかな」
「じゃあ、こうやって……どうです? 私の鼓動とか感じられるでしょうか」
那由他はアルエットをぎゅうと抱きしめて顔を寄せる。
唇はすぐそこまで近づいて、吐息が小さく耳に届いた。
「あわわ」
「ふふふ、こんな近くで見つめ合うのは少し照れますね?」
鼓動高鳴る夏の海。
「ひゃっはー! 海だー! 泳ぐぜ泳ぐぜー!」
アザラシであるワモンは広い海で泳ぐ開放感に酔いしれる。
他の人の邪魔にならぬよう、猛烈なスピードで海の中を駆け抜けた。
「わあ……本当に、海、ですね……!」
イルーは美しく広がる海に感嘆する。
「あ、イルーさん!」
「廻さまもいらしてたんですね。ふわ……サマーバージョンも可愛らしいお姿……この、とうとみ、というやつでしょうか……。グッドです
イルーの言葉に頬を染めて微笑む廻。
「……はっ、お邪魔でなければご一緒しても?」
「もちろんですよ! 一緒に遊びましょ!」
ビーチボールが波間に転がって行く。
何も無い平和な風景。それが溜らなく愛おしくて。掛け替えの無いもののような気がして。
イルーは海色に目を細めた。
「いざ海! なのです」
アマトは波打ち際の廻の傍にやってきて同じようにぷるぷると震える。
「大丈夫ですか? 怖いですよね」
「アマトは海でこうやって遊ぶの、あんまりやったことがないのです。泳ぐのも、はじめてなのです」
廻と一緒にぷるぷるしながら足の先を波に付けて飛び上がるのを繰り返すアマト。
「よ、よし!」
勇気を振り絞って浮き輪と共に水面へ入れば、ぷかぷかと身体が浮き上がる。
「ぷかぷかするの、きもちいいのですね!」
「はい! 浮かんでるの気持ちいいです」
アマトと廻、ふたりでぷかぷかと波に揺蕩う。
「夏ですわ! 海ですわ! 水着姿のワタクシですわー!」
聞こえてくるのはフローレスの声。
浜辺に居る人達に水着を見せつけるように波打ち際をはしゃいで回る。
「正に玉体とも言えるワタクシのカラダですから見せることに何の抵抗があるでしょうか! いえありませんわ! 均整の取れた体型などは『私』の理想ともいえ、誇らしさに溢れるのですわ!」
アバターだからこそ手に入れる事が出来るプロポーション。夏の陽気に気分も上がってくる。
されど、冷静になるとやはり少し恥ずかしいだろうか。
頬を赤く染めてフローレスは砂浜に戻ってくる。視線をあげればうどん屋が目に止まった。
「夏だーーーー! 海だーーーー! うどん屋だーーーー!」
天狐のうどん屋台には真夏の浜辺へ太陽に負けないくらい輝く美味しさのうどんがサンシャIN!
「麺狐亭の出張サービスじゃぞ!」
フローレスときょろきょろ眺めながら散策していたブラン、そして泳ぎ疲れたワモンが天狐のうどん屋に集まってくる。
「おお! なんだこれー! うどん屋かー!?」
ワモンの歓喜の声に天狐が満足げに頷いた。
「いーっぱいあるから、沢山お食べー!」
「あら、美味しそうなうどん、元気が出そうね」
つやつや美肌のハンモちゃんが黒ビキニで暖簾を潜る。
「夏の太陽に照らされながら食べる冷やしうどんはきっと美味しいぞー!」
「本当ね! とっても美味しい! ほら、あなたも食べなさいよ」
ハンモちゃんはブランの前にうどんをドンと置いた。
「男を捕まえる時ってのはね、こっちの元気が無いとダメなのよ。だからたんとお食べなさい」
「ありがとうございます」
頷いたブランはぱくぱくとうどんを食む。
「せっかくの夏じゃ! 全力で楽しまねば勿体ないじゃろうて!」
天狐はフローレスとブラン、ワモンとハンモちゃんのどんぶりにトッピングを重ねた。
「んふ。ご馳走様。じゃあそろそろ行きますか☆」
「まいどありー!」
「じゃあ、俺もいっぱい泳いでくるぜ!」
「はーい! いってらっしゃい! 気を付けてね」
ハンモちゃんとワモンの食べっぷりに満面の笑みを浮かべ手を振る天狐。
「龍成、泳ぎ方を教えてください」
「じゃあ、こうバタ足しながら」
彼氏役を続行する龍成はデイジーに実演してみせる。
「こう……」
デイジーがその場でガボガボ沈んで行くのを顔を持って引き上げる龍成。
「ゲホ、ゲホ……頭部を、頭部を持たないでください」
頬を挟み込む龍成の手を握りデイジーは不満を表す。
しばらく手を引いて泳ぐ練習をしたデイジーは龍成に視線を上げた。
「……そういえば、龍成。今更な話ではありますが、この水着は似合っていますか?」
仲間と遊ぶのだからと『デイジー』に合わせたものを選択したけれど、果たしてこれが誰かの目から見て似合っているのかは分からないから。
「率直な意見で構いません。今日は頼み事を聞いて頂きましたし、役での便宜上、今の私は『貴方の』物です。全てを受け入れますとも」
「まあ水着は似合ってるよ。可愛い。美少女アバターだし。でもそれ、他のヤツに言うんじゃねぇぞ」
「感想を聞くのは駄目でしたか?」
「ちげぇ。『貴方の』物とか受入れますとか。そういうのだよ。さっきみてえのに、連れてかれんぞ。今は小さい女の子になってんのを自覚しろ……ほらこれ抜け出せねぇだろ?」
後ろ手に肘を曲げて背後から抱きしめればデイジーと龍成の体格差では抜け出すことが出来ない。
「……確かに。でも、龍成が居るから大丈夫なのでは?」
「今はな。だがよ、これが俺じゃなく他のヤツだったら嫌だろ? まあ俺でも嫌だと思うけど」
「そうですね。でも今は『貴方の』物なので」
「……そういう所だ」
龍成はデイジーの肩に顔をうずめて溜息を吐いた。己の親友は廻以上に、危なっかしい。
流雨は龍成に視線を上げて僅かに目を細める。
「若い二人の邪魔をしてはいけないし、僕らは別な所で遊ぶとしよう。なーに。浮き輪も君も離したりはしないさ」
恐竜の浮き輪に乗った廻が不安げに眉を下げるのに手を伸ばす。
「何なら手をつないでおくかね。肌の触れ合いは安心を生む。少しは気も紛れるだろう。言い遅れたが、その水着。とてもよく似合っていて可愛いよ」
「流雨さん……」
抱きつくように流雨へ身体を傾けた廻は浮き輪から少女の腕の中へ飛び込んだ。
「君が不安な時は傍にいるさ。リアルでもネットでも。ゆえに何かあれば呼んでくれたまえ。どうにも君は変なモノに好かれるようだし」
尻尾を巻き付かせ身体を預ける廻の背を優しく撫でる流雨。思い詰めた様な表情は流雨に弱さを見せている証拠だ。
「愛無さん……僕が、もし僕じゃ無くなった時は、愛無さんの手で……」
「何かあったかね」
言えない言葉の代わりに廻は流雨の身体を強く抱きしめる。自分の内が変わって行く恐怖に震えるけれどこれは守るための戦いなのだ。たとえ、何があっても、もう止める事は出来ない。だから、今だけは流雨との時間を大切にしたいと、彼女の温もりを確かめる様に頬へ唇を落とした。
「お、いたいたそこのカワイ子ちゃん! アタシと遊ばない?」
エイルは夏のビーチだというのにきっちりと着込んだサラに声を掛ける。
「アタシはエイル。カワイ子ちゃんは?」
「あたしはサラ! よろしくね。エイル」
「んふふ~、良い子いいこ! 男は狼だし、女の子一人じゃ危ないかんね?」
エイルはサラの頭をぐりぐりと撫でた。
海の家でのんびりと過ごす二人。エイルの前には冷えたビールと。サラの前にはラムネが置かれる。
「あたし、まだ未成年だからね!」
報告書で聞いたサラの事が気になってエイルは此処に来た。
砂に絵を描いて遊ぶサラのほっぺたをむにむにとつつく。
「うりゃうりゃ、ほっぺもほんとにもちもちだねー」
「んふふ~! そりゃ世界一可愛いプリンセスだもの! 可愛いのよ! でも、ありがと。嬉しい」
少しだけ潤んだサラの瞳。エイルの瞳に映る自分の存在に喜びを感じる。
お互いがアバターで、恐らく中身は全く別の見た目だと直感的に理解するけれど。何も語らずただエイルとサラという器で二人は語り合った。
「そうだ。フレンド登録してくれない? なんかさ、サラと船旅とか楽しそーじゃん!」
「うん! いいよー! また何処か出かけよっか!」
夏の砂浜にまたねと約束をして。
別世界で夏が過ごせるなんてとシルキィは微笑んだ。
「……可愛いって言ってもらえて、嬉しかったな。えへへ……」
ぷかぷかと廻と流雨と共に浮き輪で泳ぐシルキィ達。
「海だーっ! 遊びに行くならこのヨソラちゃんも連れて行け、なんてね!
ヨソラも浮き輪で浮かぶけれど、その背後に忍び寄る影があった。
「おら、ちょっとは刺激が必要だろ?」
「わぁ!?」
「龍成君!? もー、急に揺らしたりすると危ないよぉ」
落ちそうになる廻を支えてシルキィは龍成に頬を膨らませた。けれど、同じように浮き輪で浮かぶデイジーにお仕置きの踵落としを脳天に受け頭を押さえる龍成。
「こら、龍成。危ない」
「デイジーてめぇな」
「びしびし言ってあげて!」
海から上がったら腹ごしらえでもとヨソラはかき氷を買いに走る。
その間にシルキィはたこ焼きを持って廻の隣に座った。
「はい、廻君もどうぞ! 熱いからふーふーしようか」
シルキィはたこ焼きを冷まして廻の口に運び、自分も一つ頬張る。
「あ、シルキィさん……ソースが」
「う?」
パラソルの日陰に廻の顔が近づいて、シルキィの口角に付いたソースをぺろりと舐め取った。
「シルキィさん可愛い」
見た事の無い悪戯な笑み。こんなのは反則だ。
シルキィは自身の頬が真っ赤に染まって行くのを隠せなかった。
昼の縁日に廻を連れだしたのはナインだ。
「夜の方が風情はあるんでしょうけど、そういうのは意中の女子と行くと良いのです、ふははは」
日焼けの肌と白い水着に身を包んだナイン。廻のローライズの水着をじっと見つめる。
「しかし、あざとい姿をしていますね廻君? 保護欲をくすぐる姿って感じですよ。まあ、現実の私の方が可愛いですけどね!」
「ふふ、ありがとうございます。でも、ナインさんの方が可愛いですよ」
廻の猫耳を撫でて手を取るナイン。
「ほらほら、迷子にならないようにお姉さんと手を繋いで見て回りましょうか」
縁日をゆっくりと歩く二人。
「ふふふ、この世界なら人間サイズでこんなことも出来て良いですね」
何時もは小さい人形の大きさだから。新鮮な生身の身体に目を細めるナイン。
「……まあ、多くの人に愛されてる君なら私でなくても手を繋ぎに来る人はいますよ。わざわざ子供っぽくしなくても大丈夫ですよ?」
「ナインさん……心配してくれてるんですね。相変わらず優しいなぁ」
「いえ、ただの独り言ですから。私は何も言ってませんから」
そっぽを向くナインの手を廻はしっかりと握った。
折角の水着コンテンツがあるのだからとディリとミドリは二人で浜辺に来ていた。
しかし、ビキニは流石に恥ずかしいとミドリは頬を染める。
現実世界でも水着の時は上着を羽織っていたからいくら美少女アバターとはいえ照れがあった。
周りの視線もきになるからとディリはミドリに自分の上着を被せる。
「あっ……上着……ありがとうございます」
ディリはミドリへと未だ向けられる視線から彼女を庇うように肩を抱いて引き寄せた。
自分のものだと主張するように。
「離れないでくれよ。ゲーム内とはいえ、妙な奴らに触れられて欲しくない」
「そんな、大丈夫ですよ?」
「まあ離すつもりもないけどな」
「私は勝手には離れませんし、そんなに私のことを気にしているのも御主人様くらいでしょう?」
見上げてくるミドリの視線に小さく溜息を吐いたディリは肩を抱く力を少しだけ強めた。
無邪気さとは時に罪深い。そこが可愛いのだけれどとディリは心に呟く。
●
夜の砂浜にハイタカと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が足跡を付けていく。
人の居なくなった夜ならば二人が歩いて居ても憚られる事は無い。
『小鳥 かわい』
白いワンピースはハイタカが自分に見せるために着てくれたものだ。
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は嬉しそうな声でハイタカの傍へ座り込んだ。
昼の熱が残る砂浜で二人は夜空を見上げる。
電子世界のはずなのに輝く星は美しさを讃えていた。
隣の縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧を見つめれば黒い四肢が闇に溶けてしまいそうで。
その身体に寄り添う。
「暫く、このままこうしてたいんだ……」
『あったか?』
静かな波の音が二人を優しく包み込んでいた。
バージェシアは夜空の煌めきを映し鏡にする海を眺め砂浜を歩く。
不慣れな足取りにポツリと漏らした言葉。
「だってゲームなんて初めてなんだも――初めてだからな」
男言葉で喋るのも久々で違和感が拭えない。こんな喋り方をしているのが知り合いにばれたら憤死してしまうだろう。
「やっぱり新しい服着るとテンション上が――……えっ?」
小さな縫いぐるみがこてりと首を傾げバージェシアに近づいて来る。
「ひっ……!? キャ――――ッ、出た――――!!?」
「あ、ね……縁日って」
「ちょっとヤダったら、こっち来ないでよ! 誰か助けてぇえぇぇ!」
口調を取り繕う間も無く走り去っていくバージェシアをキョトンと見つめるのはアダムだ。
「あれー? 縁日の場所聞きたかったんだけど、あっちかな」
くるりと振り返ったアダムはオレンジ色の明りの見える方へ歩いて行く。
「廻、龍成、どこに……あっ、いた!」
「アダムさん、良かった見つけたぁ」
手を広げて抱きついた廻。龍成は小さな二人を抱き上げて肩車に乗せた。
「こうすれば、迷子にならねぇだろ」
「わぁい! 高いね!」
アダムは型抜きの出店を指差して二人に勝負を持ちかける。
「ねえねえ、2人とも、勝負しようよ! 勝った人が一個、お願い事をするの!」
「はいっ!」
細かい作業が得意なアダムは見事にくりぬいた板を見せて二人を驚かせた。
アダムの願い事は「また一緒に遊んでね」というもので。
龍成と廻はもちろんだと笑顔を弾ませた。
「まさかとは思ったけど……燈堂君?」
「あれ? 眞田さん?」
「こんなところで会えるとはね。君もゲームやってたんだ!」
リアルの姿と同じ格好のAdamに廻は駆け寄る。
「……なんか、小さくなったの? 幼気で危なっかしいっていうか……うーん」
「そうなんですよ! 眞……Adamさんも一緒に回りましょ!」
「せっかくだし少しの時間まぜてもらおうかな」
廻の猫耳と同じように猫のお面をつけて、手を引いて歩くAdam。
小さい廻を見て居ると此方まではしゃいでしまう。
「Adamさん次はあっちに行きましょ! 串焼きがあったんです!」
「あ、お腹すいた?」
手を離して駆けていく廻をAdamは必死に追いかける。
「えへへ楽しいですね! 早くはやく!」
「あまり動き回ってるとはぐれちゃうよ! 待って待って」
幼い見た目の廻はどうしても子供扱いしてしまう。
Adamは人混みに見失いそうになる廻を後ろからぎゅっと抱きかかえた。
「わぁ!」
「つかまえた……なんてね?」
照れくさそうに振り向いた廻の尻尾はAdamの腕にしっかりと巻き付いて――
橙色の提灯と屋台の熱気にフォルティアは目を細めた。
「敵も居ない。誰か明確に困ってる人に呼ばれての依頼でもない」
だからこそ、めいいっぱい楽しむ事が出来る。平和を噛みしめる事が出来る。それが嬉しい。
「目標は屋台制覇!」
拳をぎゅっと握り高らかに振り上げたフォルティアは、まずは烏賊焼きの屋台に並ぶ。
「こういうのは冷める前に食べるのが一番!」
ぱくりとかぶりつけば、香ばしい醤油とイカの味が口の中に広がった。
「ん~! 熱々で食べるのが美味しい!」
はふはふしながらフォルティアは烏賊焼きを頬張る。
「縁日といえば、たい焼き、大判焼き、おまんじゅう、あん団子……あんこの祭典である!」
喜び勇んで出かけたアルフィンレーヌはあんこが無い事に愕然とした。
「分からない。なぜ……でも! 負けない! これぞ、600万の家事育児技の一つ。品数無限増殖!」
説明しよう。一見、品数豊富に見えるが、調理法を変えているだけで、中身はほぼ一緒。これにより、コストも手間も時間も短縮し、楽をしてしまおう。浮いた時間とお金でエステにでもいこう。明日はちょっと贅沢なランチにしよう。という恐ろしい技なのだ! 流石はアルフィンレーヌ! なんて恐ろしい!
「やはり、あんこよね~あんこ。あんこisGod]
アルフィンレーヌの前を通り過ぎるのはアカネだ。
「実に華やかで良い浴衣ですねこれ♪」
嬉しそうに浴衣の袖を持ってくるりと回ってみせる。
「現実の私ではちょっと似合わないでしょうがこのアバターなら……うん♪ 可愛い可愛い♪」
「私も可愛いと思う」
アルフィンレーヌはアカネの愛らしい姿にこくりと頷く。
「ええへ。ありがとうございます。しかしながら花火って綺麗ですよね♪」
アカネの言葉に通りかかったフォルティアが同じように空を見上げた。
「確かに綺麗」
普段爆発物を扱っているアカネは花火の音に酔いしれる。
「さて♪」
羽根を広げたアカネは花火に近づこうと空へと舞い上がった。
「一度上から花火を見て見たいって思ってたんですよね~♪」
ゲームならではの臨場感。胸を打つ花火の音と色彩にアカネは目を輝かせた。
「戦闘アンドロイドには浴衣等不要……と言ってはいたのですが」
愛らしいマスターの無邪気な笑顔と光栄過ぎる言葉に逆らえず、つい買ってしまった浴衣を着て縁日を歩く陽炎は目に止まった金魚掬いに引かれるようにしゃがみこんだ。
ポイから逃げ惑う金魚たちを見て陽炎はゾクゾクと背筋を震わせる。
「逃げる者をつい追い込む時にゾクゾクしてしまうのはもはや職業病ですね。いや、某の場合は種族病、と言うべきかもしれません。……某の性癖ではございませんよ、ええ本当に」
数匹の金魚をお土産に。
「ふふっ、可愛らしいですね」
ぱくぱくと口を開ける金魚が可愛くて口角を上げる陽炎。
イズルはヒーローの仮面をナイトに被せる。
「ヒーローって顔を隠すもの、というイメージがあるけれど、正義の社長は顔出し主義なのかな?」
「どんな顔でも俺(ORE)らしく生きるさ」
秘宝種にとって大事なのはコア。電子の世界とてそれは変わらないとナイトは笑って見せる。
「……まあ、ヒーローでなくても隠しはするさ、このようにね」
「すげー似合ってる。目隠しも、浴衣も」
金魚掬いは魚との対話だと意気揚々とナイトはポイを掬いあげるが。
大穴の開いたポイに瞳を瞬かせる。
「ま、分かり会えない時もある。それより腹減ったよ。たこ焼きでも食おうぜー?」
「……これたこ焼き? だよね? ……そうだよね、うん、ちょっと安心したよ」
「どうした?」
「普通のたこ焼きは光らないものなのだと再認識したよ」
「できないより出来る事がある方が偉いと俺は思う。故に! 光らないより光る方が凄い! イズルはもっと自分のAFに自信持つべきじゃねーの。格好いいぞ!」
ナイトの言葉にぱくりとたこ焼きを食んで。ついでに熱々のたこ焼きをナイトの口にも放り込んだ。
こっちの人混みは他人の願望で煩いのだと溜息を吐くThelema。
今この瞬間にも背後からうるさい願望が近づいて。
「だーれだ」
「いや誰だよお前」
褐色の少年の姿をしたオウスケは目隠しするのは手が届かなかったと首を傾げる。
「そっちはそういう姿なのかい、大きいから人混みでも見つけやすくて助かるね」
「いやお前かよ、お前、現実で美少女のガワ被ってる癖に、ここでさらにガワ被せてどうすんだ」
Thelemaの言葉にぷくぷくと頬を膨らませるオウスケ。
「顔合わせだけじゃもったいないし少年っぽいことして遊ぼうか。でも、姿や立場で態度が変わるのは当然だろ? 不満?」
ぐいと手を引いたオウスケは縁日に向けて走り出す。
「いや待て、ほんとどうした、距離感バグってるぞ」
金魚掬いに奮闘する二人。初めての経験に『少年のように』心を躍らせるオウスケ。
「……破れちゃった、一匹も取れないとは思ってなかったな。この和紙より、キミの方がまだ頑丈なんじゃないかな」
「誰の現実の肉体が紙切れぐらい脆いだ。芸術品だろうが。張り倒すぞ。ほら、ボクはいらないからお前にやるよ『オウスケ』」
「えっ、くれるの?ふうん、ありがとう、Thelema」
オウスケはThelemaに楽しいと素直に笑みを向ける。
これはオウスケがやりたかったこと。オウスケだから出来る事。
ジェックとタントは揃いの煌めく浴衣を身に纏い縁日の橙色の灯火の中を歩いて行く。
「姉さまが迷子にならないよう、手をつないであげるの」
ぽつりと呟かれた言葉にタントはくすりと微笑んだ。
「うふふ、はいはぁい。迷子にならないようにきちんと手を繋ぎまぁす」
「あ、あっちでお面売ってる」
慣れない雪駄で走るジェックに引かれて人混みの中を駆ける。
ぺたぺた走る少女の髪が揺れて、何とも可愛らしい。
「お揃いの仮面……つけたい。いい?」
「お面? 勿論いいわよぉ!」
沢山並んだ面(何故か妙な眉毛の猫の面が多い)の中から太陽のデザインのものを選ぶジェック。
色違いの太陽の面をつけて、輪投げの屋台へタントを引いていく。
「姉さま、こっち。早く」
現実世界なら到底適わない輪投げでも。
ゲームの中なら良い勝負が出来そうだとタントは腕を捲った。
「よぉっし、手加減なしの真剣勝負よぉー!」
お互い有りの儘の姿でログインした。
「そろそろ花火が上がる頃合いか」
ベネディクトが空を見上げればリュティスも同じように顔を上げる。
夜空に咲く花は美しく。色彩の粒子を煌めかせる。
「リュティス。話があるんだが、聞いて貰えるか?」
「はい。改まってどうしたのでしょうか?」
花火の音の合間に、ベネディクトがリュティスに向き直った。
真剣な眼差しにリュティスはじっと次句を待つ。
「――――俺は君の事が好きだ。一人の女性として」
ベネディクトの顔の後ろ、青色の花火が黄色へと変化していく。
紡がれた告白に、言葉を紡げなかったのはリュティスの方。
「…………ふむ」
小さく呟いた台詞は己を落ち着かせる為のもので。
「そんな話をされるのは意外だったかな」
リュティスの表情に僅かに笑って見せるベネディクト。
「ハッキリさせておこうと思ってな。俺は結局、以前の世界で大切な人達に自分の気持ちを告げる事が殆ど無かった」
機会が失われる前に伝えておきたかったのだとベネディクトが紡ぐ。
突然の言葉にリュティスの脳内は混線する。主人であるベネディクトが従者である自分の事を?
リースリットとファーレル家の事はどうなるのだろう。考えはあるのだろうけれど、分からない。
「えっと。暫く時間を頂きたいです。何分、自身の気持ちがどうなのかよくわかっておらず……。そういった風に考えたことはなかったもので」
「返事は無理にしなくて良い。何分、突然の話だ」
いつかリュティスが『返事をしたい』と思った時に聞かせてほしいと語る言葉に。
己の心の所在を、今一度問いかけるリュティス。
夏の夜空に色彩の花が咲き乱れ。
胸を打つ花火の音が何時までも続いていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
夏の思い出を彩れていましたら幸いです。
GMコメント
もみじです。夏祭り!
青い海、白い砂浜、縁日、花火。
たくさん楽しみましょう。
●目的
夏祭りを楽しむ。
●ロケーション
R.O.Oのヒイズル。夏祭りです。
汽車に乗って海辺の町へ。
青い海、白い砂浜、縁日、花火。
A:浜辺(昼、夕、夜)
水着で遊びましょう!
昼は青空。夕方はオレンジ色に。夜には美しい星空が広がります。
青い海で泳いだり、浮き輪で浮かんだり、ビーチバレーもいいですね。
砂浜でお城を作ってみたり、海の家で軽食も楽しめるでしょう。
夜の砂浜を静かに歩いてみるのも風情があって良いと思います。
夏といえば! な乳酸菌飲料のシロップもこの時代に作られました。
氷水で割ってもよし、かき氷にかけてもよし。
B:縁日(昼、夕、夜)
醍醐味は夜の縁日!
橙色の明かりに照らされて浴衣でゆっくり歩きましょう。
金魚すくい、水風船、輪投げ、型抜き、串焼き、お面。
ラムネやフランクフルトやたこ焼きなんかもあります。
迷子にならないように手を繋いでみたり。
C:花火(夜)
星空に咲く花火を見上げるのもいいですね。
肩を寄せ合って見上げたり、草っ原に寝転がってもいいでしょう。
花火も気になるけど横顔も気になってしまいますね。
●プレイング書式例
強制ではありませんが、リプレイ執筆がスムーズになって助かりますのでご協力お願いします。
一行目:出来る事から【A】~【C】を記載。
二行目:同行PCやNPCの指定(フルネームとIDを記載)。グループタグも使用頂けます。
三行目から:自由
例:
A
【海廻】
今日は海水浴。日差しが眩しい。
ホワイティさんと流雨さんと一緒に浮き輪でぷかぷか。
「えへへ、楽しいですね……わわ!?」
龍成に浮き輪を揺さぶられた。落ちそうで怖い!
「猫は水が苦手なの! デイジーさんに言いつけるから!」
●NPC
○『猫のしっぽ』廻(p3y000160)
猫耳尻尾の生えた小さい廻のアバターです。
水は苦手で泳げません。浮き輪にしがみ付いています。
呼ばれれば何処にでも行きます。
○『海ではしゃぐ』龍成(p3y000215)
現実世界の姿のままです。
泳ぎは得意な方。
呼ばれれば何処にでも行きます。
○その他
・アバター:アルエット、ファディエ、サラ
・ネクストの住民:テアドール、ミトラ、キアン
なんかも居ますのでお気軽にお声かけ下さい。
●諸注意
描写量は控えます。
行動は絞ったほうが扱いはよくなるかと思います。
未成年の飲酒喫煙は出来ません。
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