PandoraPartyProject

シナリオ詳細

紫陽花と雨の狭間に

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●カフェ『Hydrangea』
「いらっしゃいませ!」
 女性店員の元気な声が響く。特に案内などはなく、空いている席を確保して購入しに並ぶスタイルのようだ。テイクアウトもできるようだが、雨の中で飲み食いをしようという者は若干少なめに見える。しかしイートインスペースは十分にとられており、まだまだ席に余裕もありそうだった。
 見渡せばテーブル席に、カウンター席。いずれも近すぎず、他の客を気にせず紫陽花が楽しめるよう配置されている。
 さて何を頼もうか、とあなたは店員が差し出したメニューを手に取った。入り口に置かれていたA型看板には期間限定メニューも載っていたが、グランドメニューのソフトドリンクや軽食も捨てがたい。
 視線をそっと巡らせると、すでに購入して先へ着いた客が食べているものが目に入った。あそこのテーブルにあるのは期間限定の『アジサイゼリー』だろう。あちらはフレンチトースト、それからチョコレートケーキ。ホットココアも悪くない。
 そんなことを考えながら、ひとまずは席の確保を。カウンター席に荷物を置くと、目の前の大きな窓越しに、ぺたり。
 カエル……だろうか?
 それらしきものが張り付いていた。白いし、トカゲのしっぽみたいなものがついているけれど、鳴き声はれっきとしたカエルである。
 不思議生物は窓越しにゲェコ、と鳴くとどこかへ跳ねていった。紫陽花畑の中に紛れてどこへ向かうのかは分からないが、もうあの小さな影は見当たらない。
 しとしと、しとしと。静かな雨が窓を濡らす。それを眺めたあなたは再びメニューへと視線を向けた。
 ……さあ、何を頼もう?


●紫陽花畑
 以前もらった薔薇の傘を差し。『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は物音に振り返ると、あなたの姿を見て小さく目を細めた。
「来たんだ。R.O.Oに行ってるかと思ったよ」
 その声音は、ほんのちょっぴり拗ねているようにも聞こえた。気のせいかもしれないけれど、彼女のことだから感情の発露が小さいだけかもしれない。
 シャルルへR.O.Oで遊ばないのかと問うてみせれば、彼女は目をぱちりと瞬かせてから視線を傍の紫陽花へ。それはなんとなしに見たようでもあり、視線を逸らしたようでもあり。
「……まあ、そのうちね。でも、ゲームじゃなくたって綺麗な景色とかは楽しめるでしょ?」

 例えば――この、紫陽花畑とか。

 幻想に存在するこの紫陽花畑では、この季節になると一斉に紫陽花が開花する。ウォーカーからすれば見慣れた色も、見慣れぬそれもあるのだとか。そしてそれらの影に隠れるなどして、不思議生物が顔を覗かせることもあるのである。
 紫陽花畑から程近い場所にはカフェもあり、雨に打たれず紫陽花を見るならここだ。窓も出入り口も広くとられており、どの席からでも紫陽花を楽しめる。また、傘やタオルの貸し出しを行ってくれる場所でもあり、この季節はそれなりに出入りがあるのだ。
 シャルルはもう少し紫陽花畑を散策した後、カフェに寄るつもりらしい。もちろん彼女なりの過ごし方だから、カフェに寄ってから紫陽花畑を散策してもいいし、どちらか一方でも大丈夫だ。
 美しい場所でのひと時。誰と、どう過ごそうか?

GMコメント

●すること
 紫陽花畑やカフェでひと時を過ごす

●行動場所
 以下の2箇所から選べます。いずれも時刻は昼、しとしとと雨が降っています。
 1回のプレイングにつき、どちらか一方をお選びください。

【紫陽花畑】
 幻想にある紫陽花畑の散策です。広大な紫陽花畑をお楽しみ頂けます。傘の無い方は店からの貸し出しもしています。
 地面から50cm程度の高さに青、紫、白と様々な色の紫陽花が咲いています。切って持ち帰る等はご遠慮ください。
 紫陽花の影などに以下のような不思議生物を見つけられるかもしれません。

・トカエル(カエルっぽいなにか。白くてトカゲの尻尾がある)
・イワツムリ(ナメクジらしきもの。貝殻の代わりに中が空洞の石を背負っている)
 ……etc.

【カフェ『Hydrangea』】
 紫陽花畑の傍にあるカフェです。入口が大きく開いており、窓も大きく作られているのでどこからでも紫陽花を眺めることができます。
 基本的にはテーブル席。おひとり様であればカウンター席もご用意しています。
 ソフトドリンク、菓子、軽食などが売られています。アルコールはありません。
 期間限定のお勧めはアジサイゼリー。サイコロ状に切られたゼリーが盛り付けられており、アジサイの花のようです。

● NPC
 当方の NPCではシャルル、ブラウ、フレイムタン、および当方の扱ったことがあるステータスシートのないNPCは、プレイングにご指定頂くことで登場する可能性があります。

●プレイング内容確定・章進行に関して
 今回は以下の進行ペースを考えています。全1章。

 同行者ありの場合、冒頭に共通タグor同行者名をお願いします。

 全ての章において、体調が許す限り早めに書きます。そのため、プレイング確認も早いと思われます。同行者ありの場合は、最終稿を出すことを推奨します。(GM確認後は修正不可のため)
 同行者がいるとわかる場合、24時間くらいは待つ時間を設けますので、大体で揃いそうな時間に提出頂ければ大丈夫です。
 上記時間を過ぎた場合、章が変わる・完結の可能性もございますのでご了承ください。

 完結まで大体1週間を目処としていますが、早めに締め切る可能性があります。

●ご挨拶
 愁です。
 イベシナにすると少し大変かな、と思ったので今年はラリーで紫陽花畑をお届けします。
 シナリオを出している以上、書ける分は書きますので奮ってご参加くださいね!
 どうぞよろしくお願いいたします。

  • 紫陽花と雨の狭間に完了
  • GM名
  • 種別ラリー
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年06月16日 20時45分
  • 章数1章
  • 総採用数19人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

「今年の紫陽花も綺麗だねぇ!」
 『秋の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)はぱっと表情を輝かせて、それからこの空間の全てを味わうように耳を澄ませ、眺め、息を吸う。

 傘にあたる雨粒の音。
 雨露に濡れた紫陽花の煌めき。
 立ち上る土と花の香り。

 そこにほんの少しばかり甘く混ざるのは、『Blue Rose』シャルル(p3n000032)から香るそれだ。視線を向ければ彼女も同じように景色を眺めている。
 今この時、2人の間に言葉はなかった。それでもどこか通じ合っているような気がしていた。
 1年前と変わらぬ、キラキラとした景色。この1年の中で増えた思い出。これまでで最も輝いている、今日。
「どうしたの?」
 不意に笑った彼に視線が向けられる。彼女の口元が笑っているのは、きっと気のせいじゃない。
 今年もこうしていること。嬉しくて、とても暖かいことだ。

 この後のカフェにと誘えば、彼女は勿論と頷いた。それもまた嬉しくて、イーハトーヴはついつい――。
「もうすぐ君のお誕生日でしょう? それで、君に渡したいものが……あっ!」
 両者とも目を丸くして、それからすぐさまイーハトーヴが「今のなし!」と止めに入る。
 痛恨のミスだ。しかも追い打ちのように雨で体が冷えてきて、鼻もムズムズしてくる。そんな彼にシャルルは小さく苦笑した。
「雨宿り、しにいく?」
 2人で、のんびりゆっくりと。

成否

成功


第1章 第2節

古木・文(p3p001262)
文具屋

(今年も紫陽花の花が咲いたんだね)
 『想心インク』古木・文(p3p001262)は紫陽花の間をゆっくりと歩く。今年は、1人きりで。去年はミーロを気分転換にと連れ出したけれど、今日は喫茶店に行ってみようか。
「いらっしゃいませー!」
 傘を閉じている間にも、店員の元気の良い声が響く。耳にしながらメニューを手に取った文は、席を取りながら、それとなく周りを見渡した。
 ジロジロと見てしまって申し訳ない気持ちも反面、実物を見たくなる気持ちもある。メニューのイラストもかわいらしいけれど、それだけではわからないものもあるから。
 文が選んだのはアジサイゼリーと温かな紅茶だった。雨でほんの少し冷えた体に、少しばかりの甘さが欲しくて。ここで本があったら完璧――だったのだけれど、文は敢えて本を持ってこなかった。
 紙が湿気てしまうこともあるけれど、折角なら紫陽花を愛でようと思って。
 アジサイゼリーを目で楽しみつつ、ぱくり。味わいつつ本物の紫陽花を窓越しに眺める。
 しとしと、しとしと。静かな雨音も悪くない。
「……ところで、君は一体何という名前なんだい?」
 そう窓越しに問われたカタツムリのようなもの――石を背負っているようだ――は、その頭を文の方へと巡らせた。

成否

成功


第1章 第3節

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫

「ゼシュテルでも咲く地域はあるけれど、やっぱりこちらの方が艶やかで綺麗ですわね」
 『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はほう、と小雨降る紫陽花畑を眺める。雨露に濡れた花はキラキラと光って、まるで宝石みたいだ。
「こういう場所なら、雨が降ってるのも悪くないね!」
 彼女へ傘を差し、手を繋ぐ『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)も同じ景色に目を細める。雨自体はそこまで好きでもなかったけれど、こういう景色を見ると意見が変わりそうだ。なにより。
「今は……昔と違って、隣に可愛い太陽がいるし……」
「ふふ、私の隣にいる可愛い月も素敵でしてよ?」
 肩をより寄せ合い、視線を絡ませる2人。ほんのちょっぴり、恋人の視線を奪う紫陽花に嫉妬してしまった――なんて。

 ボフッ!

 不意に傘の上へ何かが落ちた音がした。目を丸くした2人は、傘から脅威の跳躍力で飛び降りてきたソレを見る。
「ヴァリューシャ! 変なのがいるよ!」
「この辺りの固有種かしら? 私も初めて見るかも」
 ちょろりと尻尾を生やした白いカエル、っぽいものは2人を振り返ってぴたりと固まる。警戒しているようなその姿に、ヴァレーリヤは目を細めた。
「そんなに警戒しなくても大丈夫。取って食べたりなんて致しませんわ」
 彼女の言葉が伝わったのか、ゲェコとカエルもどきが鳴き声を上げる。可愛いとマリアが顔を綻ばせれば、それはあっという間に紫陽花の中へと飛び込んでいってしまった。
「凄い脚の力だね……ん? こっちはカタツムリかな?」
「背負ってるのは……石?」
 紫陽花の葉に乗っているのはカタツムリらしき生物。背には貝ではなく、石を背負っているようだが重くないのだろうか。
「ここには色んな種類がいますのね」
「珍しい生き物ばっかりだよね! ヴァリューシャと見られて嬉しいな」
 きっとこの後の散策にも、見たことないような生物が沢山潜んでいるのだろう。一緒に新鮮な気持ちを分かち合えるに違いない。
「ねえ、ヴァリューシャ。こういう風に、もっと色々な所へ一緒に行きたいね」
「ええ、これからも一緒に色々な場所を回りますわよ?」
 ぱちりとウィンクするヴァレーリヤ。マリアと一緒に、混沌中のあらゆる所へ。2人とも知らない場所は共に同じ気持ちになって、片方が知っている場所はもう片方に教えてあげて。
 そうして、2人の思い出を世界中で作るのだ。
「そういえば、マリィ。入口のところで花守りを売っていましたのよ」
「買って帰ろう! 私たちの分と……VDMランドの皆にもお土産に出来るかな?」
 勿論、2人の花守りはお揃いで。末永く、幸せに居続けられるように――。

成否

成功


第1章 第4節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

 『秋の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)と『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は紫陽花畑から場所を移し、カフェでひと心地ついていた。
「あったかいね」
「うん」
 ココアの温度が体に染みる。ケーキも甘くて、雨の中で溜まった疲労を溶かしてくれるようだ。シャルルがひと口いる? と言うから互いに交換こして食べる。
 ドリンクもケーキも美味しいし、窓の向こうで雨に煙る紫陽花も美しい。けれど。
(……どうしよう。プレゼント、渡しにくくなっちゃったな)
 店内に流れる優しい音楽と人々のさざめきもあり、何より2人の間で沈黙は苦でないとしても、イーハトーヴは一種の焦りを感じていた。
 先ほどうっかり零してしまった言葉で、サプライズは既に失敗している。それだけでなく、切りだすタイミングすらも失ってしまったのだ。
 後日改めて渡す? いいや、そんなことはできない。シャルルは絶対がっかりしてしまうだろうし――言いたい言葉は今、真っすぐ目を見て伝えたい。
「ねえ、シャルル嬢」

 想定以上にスマートさはないけれど。それでもお祝いと感謝を込めて、プレゼントを差し出そう。

「キラキラしてる……」
「星の欠片、なんだって」
 お揃いなんてちょっと重いだろうか? そんな彼の危惧を余所に、シャルルは嬉しそうに笑って星の欠片のブローチをつけた。

 2人の道行きに、幸いの灯りが数多燈りますように。

成否

成功


第1章 第5節

コユキア ボタン(p3p008105)
雪だるま
眞田(p3p008414)
輝く赤き星

「へぇー、これが紫陽花畑!」
 『Re'drum'er』眞田(p3p008414)は物珍し気に辺りを見回す。紫陽花を知らないわけではないけれど、こればかりが集まる様は壮観だ。
 この場所を教えてくれた『雪だるま』コユキア ボタン(p3p008105)も、この規模は人伝手に聞いただけでは伝わりきらない。淡雪の瞳に色々な色を映し出し、輝かせている。
(キレイ……幻想的な世界)
 いつもであれば、この季節にはいなかったから。知らぬ季節も混沌へ足を踏み入れたことで、彼女は知ることができるようになった。
(雨、今日は降ってくれてよかった)
 傘越しに空を見上げる眞田。強すぎず、けれどその存在を主張するように降る雨は、紫陽花を優しく濡らし色を深くしていた。
 そっと隣へ視線を向けると、ボタンも楽しそうに紫陽花から紫陽花へ目を移している。彼女の様子に眞田もまた頬を緩ませて――。
「……あ」
「? どうしました?」
 不意に何かが跳ねた。声を上げた彼にボタンが思わず立ち止まる。眞田は彼女へ手招きをしながら、そぅっと紫陽花の方へ近づいた。
「見て、ボタンさん。紫陽花の下に生き物がいる!」
「わ、本当です。……なんの生き物でしょう?」
 可愛らしいですね、と感想が漏れるもボタンは首を傾げた。彼女の生きていた冬は動物たちの眠る季節。それでもこの生き物は、なんだか、ちょっと不思議なような?
 これは何だろうかと眞田も首をひねる。混沌では知る者もいる生物だが、ウォーカーの2人にはなじみが薄いだろう。
 白っぽいそれは頬を膨らませてはへこませて、を繰り返している。それを眺めていれば、自然と会話は減った。
 見慣れない生き物と、傘に墜ちる雨の音。
 草の上で跳ねる水滴に、湿った匂い。
 それと――。
「あ、行っちゃった」
 眞田の言葉にボタンははっと目を瞬かせるが、そこにいたはずの生物はもういない。苦笑した彼がゆっくりと立ち上がった。
「ボタンさん、もう少し歩いてみる?」
 ――それと、青い世界に引き立つ友朋。
 何もかもが、新鮮で、心地よい。
「はい!」
 止みそうで止まない雨の中、2人は歩く。もう少ししたらカフェだろうか。ここで終わりにしてしまうのは勿体ないから、どうかこの後の時間も、共に。
「俺、ROO始めてから紫陽花が好きになったんだ」
 カフェへ向かう道すがら、眞田はぽつりと零す。これまでは目に留めないような花も、そうでなくなったこと。そしてこの花を見る機会をくれた彼女に、感謝を。
「そう言っていただけるの、とても嬉しいです。こうして眞田さんと一緒に見ることもできましたし……こちらこそ、本当にありがとうございます」
 この花は色々な縁を結んでくれた、大好きな花だ。彼との縁もまた、この花が強くしてくれたような気がして。
 ボタンはくるりと振り返り、紫陽花畑を見やる。そして眞田を見て、微笑んだ。

成否

成功


第1章 第6節

ソロア・ズヌシェカ(p3p008060)
豊穣の空

「ブラウ君、特等席だ!」
「わぁっ、本当ですね!」
 『豊穣の空』ソロア・ズヌシェカ(p3p008060)とブラウ(p3n000090)はテーブル席へ荷物を置きながら、一番近くの大きな窓を見やる。その外は一面の紫陽花畑だ。
 2人は揃ってアジサイゼリーを購入すると席へ着く。期間限定という言葉に食いついたのは言うまでもないだろう。だって今しか食べられないものを選ばないなんて、勿体ないじゃないか。
「ブラウ君、食べながらひとつ、競争をしないか?」
「競争? 早食いとかでしょうか」
 首を傾げるブラウにいいやと首を振りながら小さく笑って。ソロアは窓の外へ指をさした。そこに広がる紫陽花は色とりどりで、探そうと思えば何色だって見つけられてしまいそう。
「自分たちと同じ色。黄と青の紫陽花をさがすなんてどうだ? もちろん、アジサイゼリーを食べながらだ!」
 競争であれば景品がないのもつまらない。負けた方がジュースを奢ろうというソロアの提案にブラウは頷く。日々大人に混じって情報屋として働く彼であるが、勝負に燃える様はまだまだ子供らしい。
「負けませんよ!」
「望むところだ!」
 どこか趣旨がずれてしまった気もするが、それはそれ。2人はゆっくりとゼリーを味わいつつも、自分と同じ色の紫陽花を探すべく、じっと目を凝らしたのだった。

成否

成功


第1章 第7節

フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)
百合花の騎士

 甘く香る温かな紅茶と、それに合うケーキを一切れ。『百合花の騎士』フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)はそれらが載ったトレーを手にテーブル席へ着いた。閑古鳥が鳴いているというわけではないけれど、席は何処も余裕がある。1人でゆったりと座ったとて咎められることはない。フィリーネは紅茶をひと口含むと、ほうと息をついた。
 少しばかりの騒めきと、仄かな湿気の香り。静かな雨の音に色鮮やかな紫陽花の花。
(最近、忙しくしていましたものね……)
 なんだか久しぶりに一息付けたような、そんな心地だ。こうして紫陽花を眺める機会もなかったと思いながら、彼女は1冊の本を取り出す。
 紅茶と、ケーキと。それらを時折つまみながら、気になっていた本を読み進めよう。ぱらりと頁をめくれば小さな騒めきだって意識の外へと消えてしまう。
 集中していたのは僅かな時間に感じられたけれど、実際には随分と長かったらしい。気が付けば紅茶やケーキはなくなり、周囲の客もだいぶ入れ替わっているようだ。
 それらを見回して、それから外一面に広がる紫陽花を見渡す。丁度キリの良いところまで読み進んだし、紫陽花もそう見ていない。折角だからこの後は外で眺めてみようか。
 騎士としての鍛錬もなく、礼儀作法のレッスンも家を飛び出してきた今はない。自分の時間は自由に使えるのだから。

成否

成功


第1章 第8節

黎 冰星(p3p008546)
誰が何と言おうと赤ちゃん
黎 小羽(p3p009595)
恋する月のいたずら

「美しい、ですね」
「ええ」
 『パンドラの色は虹色』黎 冰星(p3p008546)の言葉に頷く『恋する月のいたずら』挧 小羽(p3p009595)。2つの傘を並べるなんて無粋だから、けれど1つで離れていては濡れてしまうから、寄り添って、腕を絡ませて。
 ゆっくりと、ゆったりと。薄暗い雨天の中にある紫陽花のコントラストと、そこに佇む小羽に思わず冰星は目を奪われる。だから美しいと言ったのだけれど――彼女は紫陽花の事だと思っているかもしれない。
 彼女の横顔と、雨の煌めき。本当はその視線を感じているような気もしていたのだけれど、一瞬思い上がりかも、なんて。
(いいえ……我の思い上がりではない筈)
「ここに来られて良かったです」
「あら。我の時間は、安くないわよ?」
 くすりと笑ってみせる小羽。余裕そうに見えていたら良いのだけれど、その核は――月の石は、燃えるように熱くて。しかしその熱は金属の冷たさが阻んでしまう。
 組んだ腕から伝わるその感触と、仄かな温もり。冰星はちらちらと彼女を見ては目を泳がせていた。彼の視線は――こう言ってはなんだが――紫陽花で留まらない。すぐさま小羽の方を見てしまう。
 全てがお星さまのようにキラキラしていて、今にも消えてしまいそうな儚さがあって。心にはじんわりと染みるような温もりを落とした、そんな人。彼女への思いを口にしてしまえばなんて陳腐なのだろうと思うけれど。
「シャオユさん。あなたが……好きです。もっと、あなたの時間を僕にください」
 この疾る気持ちだけは、伝えたい。
 まあ、と目を丸くした彼女は、それから殊更嬉しそうに微笑んで。
「ええ、ええ! 我想跟你在一起!」
 時間だけなんて言わず、心まで。
 ずっと前から其の気だった、なんて言えば彼は驚くだろうか? けれど出逢ってからの『期間』で計るなんてそれこそ陳腐なこと。物事に早過ぎる事なんて屹度無いのだから。

 ――我を見つけてくれる、運命の人を待っていたの。

 彼との出会いで、そう言った。小羽は目覚めたあの場所で、軋む音を立てるブランコを揺らし、調子外れな鼻歌を歌って待っていた。

 見つけてくれたのは――あなただった。

成否

成功


第1章 第9節

風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
月羽 紡(p3p007862)
二天一流

「これは見事な紫陽花ですね」
 『気は心、優しさは風』風巻・威降(p3p004719)は一面の紫陽花畑に感嘆の声を漏らす。通常であれば天気の良い日に回りたいものだろうが、紫陽花なれば別だ。此の花々には雨が似合う。
「こんな場所も幻想にはあったのですね」
 これだけの紫陽花が咲いている光景はいつ振りだろうか、と『二天一流』月羽 紡(p3p007862)は想いを巡らせる。この花が咲くと、雨が恋しくなったものだ。梅雨時に開花時期が被る花だから、風物詩と言っても良い。揃わないと物足りないのだ。
「ときどき姿を見せるこの不思議な生き物たちも、動きが可愛くて楽しいですね」
「ええ。カエルやかたつむり……みたいな生き物、ですが」
「……白いのはカエルでいいんでしょうか……?」
「……さあ……」
 可愛くはあるのだが、如何せん見たことのあるそれと異なる。威降と紡はカエルっぽいものを見降ろして、それから互いの顔を見合わせた。
 ぴょこんとトカエルがどこかへ飛んでいってしまって、暫くのんびりと散策して。その間も止むことなく雨は降り続けている。
「月羽さん、カフェで休みたくなったら遠慮なく言ってくださいね」
「ええ。でも濡れるのはそんなに嫌いじゃないですから」
 カフェからも紫陽花を見ることはできるそうだけれど、それはまた今度。今はもう少し、雨の中で紫陽花を眺めていたい。
「……この長い雨が通り過ぎたらいよいよ夏ですね」
「今年はどんな夏が来るでしょうね」
 静かな雨足は、されど確実に夏を近づけていく。この音が鳴りやんだならうだるような暑さが人々を照りつけるのだ。
「今年は風巻も一緒に過ごしてくれるのでしょう?」
「そういえば、夏はまだご一緒した事無かったですよね」
 威降はふとこれまでのことを思い返す。度々彼女とは出かけているのだが、夏には思い出がないような。きっと、思い出があったって『また行きましょう』というのだけれど。
「お祭りがあるでしょうから、良ければ一緒に行きませんか?」
「いいですね。今からとても楽しみです」
 暑くて賑やかな季節に思い出ひとつ。未来の約束をした2人は、なおゆったりと歩を進める。
 彼らの1歩もまた、夏へと確実に進んでいく足音だ。

成否

成功


第1章 第10節

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器

 ほかほかフレンチトーストに温まりそうなホットココア。
 デザートは期間限定アジサイゼリーと、ツヤツヤなコーティングが美しいチョコレートケーキ。
「あとお水もひとつ!」
 『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は気の赴くままに注文する。濃い取り合わせだって気にするものか。
 席を取っていたカウンターに戻ったヨゾラは、ウキウキしながら椅子に座る。美味しそうな食事と綺麗な紫陽花畑。雨に打たれずゆっくり見る機会だ。
 まずは濃い味の食べ物から味わって、水で口の中をさっぱりさせる。そうしたら次はアジサイゼリーだ。
(紫色で綺麗だ)
 他の色も多少混ざっているようだが、このゼリーはあそこの紫陽花みたいだ、なんて窓の方も眺めながらぱくりとひと口。ほんのりぶどう果汁の味がした。
 ぱくぱくと食べていきながら、下から現れる色と窓越しの紫陽花を見比べる。
(以前なら有り得なかったな……)
 彼の本体はその体でなく、その背に入った魔術紋だ。こんな時間を過ごす権利もなかったが、この世界でヨゾラを縛るものはない。
 だからこそ。例え綺麗事ばかりでなくとも、この混沌が好きだとヨゾラは思えるのだ。

成否

成功


第1章 第11節

八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉

(こっちでもこの時期は紫陽花なんすね)
 『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)はどこか不思議な気持ちで紫陽花畑を歩く。豊穣ではない場所でも、どこか懐かしいような気持ちになっていた。
 確か、去年の梅雨はまだ豊穣にいたのだったか。イレギュラーズたちが海を超えてきたのも1年前くらいである。
 違う場所で見る紫陽花も、やはりこの時期に咲くと『らしい』と思う。それにここの紫陽花たちは良く気にかけてもらっているようだ。
(それなりに手入れしないと、キレイに咲かないっすからね)
 色も美しく、全く手を入れずにここまで見事な花が咲くことはほぼあるまい。慧の司会の端を跳ねた生き物に、彼はふっと小さく口元を緩ませる。この地自体も豊かで良い場所なのだろう。生物が姿を見せるということはそういうことだ。
 大切に育てられた紫陽花畑。そこを歩きながら慧は、胸の内がほんのり温かいような――嬉しいような気持ちを覚えていた。

成否

成功


第1章 第12節

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星

「傘は拙が持ちますのでっ」
「そう? じゃあ、お願いしようかな」
 『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)が開いた和傘に入る『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)。2人の手にはそれぞれ、カフェでテイクアウトしたホットドリンクが握られている。
 ひとつ大きな傘の下で、2人は肩を並べながらのんびり歩き始めた。
 しとしと、ぴちょん。水が様々な音を奏でていく。不意に見えた白い影にウィズィは「あ、」と声を上げた。
「トカエルだ」
「とかえる……?」
 一方のステラはかくりと首を傾げる。紫陽花は世界を跨いでも同じようだが、生き物は少し違うようだ。
「日本にはいないの?」
「少し違いますね」
 傘をウィズィの方へと寄せれば、ステラの肩をウィズィは濡れないように抱いて寄せる。先ほどより距離の近づいた2人は殊更ゆっくり歩いた。
(雨が他の音を遮って静かですね……)
 ステラの耳に聞こえるのは雨の降る音。そして水溜まりを歩く2人分の音。時折先程の白い影――トカエルの鳴き声らしいものが聞こえる。不思議な生物だったが、鳴き声はカエルそのもののようだ。
 そこに混じるのは、近くなったからこそ聞こえる互いの息遣い。賑やかだったら掻き消されてしまうだろうそれ。
(こういうのも、素敵です)

「……綺麗だなぁ」

 ふと聞こえた声に、ステラは傍らのウィズィへ視線を向ける。彼女は軽く目を見張っていたが、ステラはにっこり笑った。
「ええ! 雨と紫陽花、やはり綺麗です……えっ?」
 唐突に頭へ乗せられる手。それはステラの頭をくしゃくしゃと撫で回す。
「な、何でそんなに頭を撫でられるのでしょうか!?」
「ん? んー、そういう気分だった、みたいな?」
 歯切れの悪い回答をしながらウィズィはなおも彼女の頭を撫でる。撫でられるステラは頭を上げられないから、赤面したウィズィに気づくことはない。
 気づかれないようにと呟いたつもりだったのだ。けれど傘の中は思ったより良く響いて、聞こえてしまった。
 ステラはうまく誤解してくれたようだけれど、ウィズィが指したのは雨や紫陽花だけではない。もちろん色とりどりの花と煌めく雨粒の風景は綺麗だけれど――そこに赤や青の瞳の、きらきらした少女が重なってしまって。そしてあまりにも淑やかに、綺麗に映ってしまったものだったから。
「……もう少しだけ、ゆっくり見て回ろうか」
「はい!」
 2人は歩を進め始める。雨の中様々な音と景色を感じながら――。

成否

成功


第1章 第13節

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り

 うわぁ、と『雨は止まない』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は声を上げた。見渡す限りの紫陽花は只々美しい。見に来なければ見られないものでもあるからとても新鮮だ。
「でも雨が降ってると流石に少し寒いな……サンディ君、濡れてない?」
「ん? おう。ま、雨は降っちまったがこんな日もあらぁな」
 『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は小さく肩を竦める。彼に雨を厭う様子はない。それどころか、1人なら傘すら差さず雨に打たれているのだろうが――今日は別だ。なにせシキがいる。彼女を一滴たりとも濡らしてたまるものか。
「私のことは気にせず、君が濡れないように……って、聞いているかい?」
「ん、おお、もちろん! 任せとけ!」
 ……ちなみに、既にサンディの肩は濡れていたりする。

「しっかし見事に咲いてるもんだ」
「うん。ここなら雨の日の散歩も悪くないなぁ」
 色とりどりの紫陽花と、濡らし煌めかせる雨粒。シキにとってはとうに聞き飽きたと思う音も、ここではなんだか違って聞こえた。
「あ、みてみてサンディ君! これなんだろう?」
「そいつは……」
 シキが示した葉の上を見て、サンディは一瞬黙り込む。なんか、見たことあるのと違うような。でもこの姿は。
「……カタツムリ、か?」
 カタツムリっぽい生き物は体を濡らしながら葉の上を横断していく。生き生きとした様は雨に喜んでいるようにも見えた。
「雨の中のが得意なヤツなんだろうな」
「ふぅん……そうだよね、住む場所はそれぞれだもんさ」
 住めば都なのか、居心地の良い場所を探してやってきたのかはわからないけれど。きっとこのカタツムリは、今ここで過ごしやすいのだろう。
「……っと、そろそろ冷えてきたね。カフェに入ってなんかあったかいものでも飲む?」
「そうだな、一休みといこうぜ」
 シキが立ち上がろうとしたのを見て、サンディは先に立ち上がり傘をそちらへ傾ける。ほんの少し雨足は弱まってきたけれど、冒頭にも言った通り一滴だって濡らしはしないのだ。
「なんか飲みたいもんあるか?」
「ココア飲みたいな、熱くて甘いやつ!」
 サンディはシキの言葉にいいな、と笑って。それを見たシキが不意に「あ!」と声を上げた。
「サンディ君、見て!」
 つられて顔を上げるサンディ。雨が止んできて、雲の切れ間から光が差し込んでいるのが見える。そしてその先に見える――虹。
 そっと傘を畳めば、光を受けてよりキラキラと輝く一面の紫陽花畑が2人を包み込んでいた。

成否

成功

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