シナリオ詳細
Reincarnation
オープニング
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――ジョン・ウォーレン・ロスフェルドという男がいた。
彼は元々フィッツバルディ派の幻想貴族の次男坊としてこの世に生を受けた。つまり生まれながらの貴族という訳である――が。彼は幼少の頃より不思議な事が一つあった。
それはウォーカーという存在。
より厳密には『外』から来た彼らの一部が混沌の支配階級に組み込まれる事が、だ。
彼らは古来より英雄と称えられる事も多く、賞賛され、伴って各国の貴族や或いは特権地位に付く事もある。当然全てではないが、歴史を遡ってみればそういう存在も幾らか確認されており……
何故だ?
外の世界より至った彼らは確かに神に選ばれた存在なのだろう。彼らの知識は既存の混沌世界に新たなる影響を齎す事もあるし、須らくイレギュラーズであればその力は世界に対してなんらか有効かもしれない。
だが、何故だ?
何故外の世界より至り、この世界になんら関わりのない者達が支配階級に食い込める?
「例えばアーベントロートの小娘がそうだろう」
見よ。暗殺令嬢などと謳われ、自由に謳歌するあの娘を。
あんなものがこの世に溢れたら如何する?
――百歩譲ってアレがこの世の純種たる者であるならば納得も出来るのだ。自らの内から生まれた膿により国が、世界が腐敗するのならばまだいい。だが自ら毒を身中に取り込み滅びる愚か者がどこにいようか。
繰り返す。旅人はあくまでもこの世の異物。
この世の外から至りし、この世の外の理屈がその身の内にある者達だ。
そんなモノを混沌の支配階級に入れるべきではない。
「だから私は奴らを排斥したいのだよ――尤も、ビジネスの相手としては別だがね」
「彼らの知恵や技術には価値を見出す、と?」
「当然だ。ウォーカーの知見には時折驚かされる事もある……彼らの文明や文化、知識に技術。それらまで拒絶する事はない」
ジョンは一人の男に語る。ここは――ジョンの執務室。
ロスフェルド財閥が所持する施設の一つであり、事業を支える為の業務が日々行われているが……この施設には時折、ウォーカーの姿があったりもするものだ。
反ウォーカーと言っても、ジョンがウォーカーを嫌うのはあくまでも統治機構に介入がある場合のみ。
彼ら一個人や、彼らが齎すモノまではその対象ではないのだ。
いやむしろ……財閥にとって有益ならば好意的に見る事もある。
「そして――分かっているとは思うが私は『貴様ら』に協力はしてはいるが」
「全てに賛同している訳ではない。無論承知していますよ」
口元にパイプを。吹かして揺蕩う煙の果てに。
いる男は財閥の者ではない。
財閥の協力者――いや『同盟者』というのが表現として近いだろうか――
「しかし我ら『レアンカルナシオン』もまた、貴方の思想に近い『理想』を抱いている。ええ、後悔はさせませんとも……私の『理想』が実現されれば最早ウォーカーはこの世に不要となるでしょう」
その男は、ウォーカーを狙う謎の組織『レアンカルナシオン』――その『長』だ。
豁然とした佇まいと落ち着き払った声の抑揚は、長年に渡って才知を磨き続けてきた老練なるジョンに一切気圧されていない。むしろ彼が紡ぐその言動の節々にはどこか自信と確信を漲らせているような……
ともあれ反ウォーカーの気質があるジョンと、ウォーカーを排斥せんとするレアンカルナシオンの間にはある程度の協力関係があった。あくまでも協力関係であり、蜜月と言える程ではないが。
「そうなる事を願っているよ。それでこそ支援した甲斐があったというものだからな」
「えぇ。今暫くはご支援いただければ幸いかと」
「しかしもう一度だけ言うが、私は貴様らに賛同している訳ではない」
だから。
「この施設にイレギュラーズを入れる予定があるのだが――構わんな?」
「無論。貴方には貴方のルールがある。私に強制権はない、どうぞご自由に」
「ほう、理由を聞かないのかね?」
「どうであろうと問題ありません。ええ、もう――『問題ない』のです。
我々は探し求めていた物を見つけた。ずっと探していた……『器』を」
男は言いながら、外を見る。
窓から映し出される光景には眩いばかりの大海が広がっていた。
ここは幻想南部に存在する湾岸施設『アクス・クリア』
その中に停泊する大船の中に――彼らはいたのであった。
●
「レアンカルナシオンという組織の名前を聞いた事がある者はいるかな?」
ギルド・ローレット。その一室でイレギュラーズに語り掛けるのはギルオス・ホリス(p3n000016)だ。レアンカルナシオン――ウォーカーを付け狙う組織であるとされ、ギルオスも以前に奴らに襲撃された事がある。その時は偶々イレギュラーズ達により助け出され事なきを得たのだが……
しかし奴らの暗躍はそれだけでは終わらなかった。
ラサで発生していたファルベライズ事件でもその影が見えて、ホルスの子供達と言われた死者を模すゴーレム――奴らの技術を狙っていたかのような発言が確認されている。その時はあまりに大量の敵を前に共闘らしき事にもなったのだが……
されどレアンカルナシオンはウォーカーの命を狙う危険集団である事に変わりはない。
奴らの目的は不明だ――何故ウォーカーを狙うのか、ゴーレムを求めていたのか――
「けれどね。何度かの接触と、捕らえた捕虜などから得た情報から糸口を見つけた」
それがジョン・ウォーレン・ロスフェルドという人物だとギルオスは紡ぐ。
『反ウォーカー派』としても知られるジョン。それがウォーカーを敵視する集団と連携を取る……なんら不思議はない事だ。まぁ元々とあるイレギュラーズが領主として就任した際の場でレアンカルナシオンが現れた事があり、その場にジョンもいた事から手引きしたのではとかなり怪しく見られてはいたのだが。
「レアンカルナシオンは今まで謎が多い組織だった。
どこから探っていけばいいのか分からない程に、ね。
けれど――いい加減暗躍させるのもお終いだ」
「そのロスフェルドとかいう奴を調査して、芋蔓式にするって事か?」
「ああ。しかし……なんていうタイミングだろうね。そのロスフェルドより依頼が舞い込んだ」
何――?
聞けば、どうやらロスフェルド財閥が所有する施設に最近魔物が襲撃を掛けてくる事があるらしい。それによって被害が幾つか出ているのだとか……襲撃は散発的らしいが、これ以上の被害は御免被りたいと。
施設の護衛依頼が届いている。ご丁寧にジョンもそこにいるのだとか。
「タイミングが、なんだか随分とよくないか?」
「ああ――だが好機ではある。彼の依頼に乗る形で独自の調査も行いたいと思う。君達はロスフェルド財閥の施設に襲い掛かって来る魔物の撃退に専念してもいいし、その影で財閥施設の調査を行っても良い」
「調査……というと具体的には?」
「実はね依頼における施設は、財閥の拠点の一つである事は分かっているんだけど――『一体何の施設であるのか』不明瞭な部分が多いんだ」
依頼されている拠点は財閥所有の湾岸施設だ。
港があり、財閥関係やその取引相手の船が多く訪れる事もあるという――貿易や物流の拠点と言ってもいいのかもしれない。しかしそれにしては公開されていない倉庫があったり、時折どこの企業か国家在籍なのか分からない船が停泊している事もあり……実にキナ臭い。
「つまり――その不明瞭な部分にレアンカルナシオンが隠れているかもしれない、と」
「ああ。長らく彼らの拠点はずっと不明だった。だけど各地に展開しているロスフェルド財閥を隠れ蓑にしているならば……理由が付かない訳でもない」
いやもしかしたら彼らの一大拠点がここかもしれず――だからこの機会に調べたいのだ。
「特にレアンカルナシオンには妙な人物達がいてね」
「妙と言うと?」
「彼らの構成員、特に幹部級の中には……既に死亡している筈の人物達の名前を名乗る者が幾らか確認されているんだ」
「……死者を蘇らせている、とでも?」
「分からない。だから、可能であれば『ソレ』を調査してほしい」
天義における月光人形や、ファルベライズ遺跡で発見された死者を模すホルスの子供達。
それらとも違う第三の蘇生術――それを彼らが持っているのなら。
「なぜ、そんな人物達がいるのか。どのような手段をもって蘇生紛いの事をしているのか。
――ジョン・ウォーレン・ロスフェルドから聞き出すか。
施設に潜入し、なにかしらの研究資料を手に入れてくるか」
いずれでも構わない、レアンカルナシオンの尻尾を掴めるならば。
全ては君達に委ねられる。
- Reincarnation完了
- GM名茶零四
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月23日 22時15分
- 参加人数20/20人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 20 人
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参加者一覧(20人)
リプレイ
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散発的に襲い掛かって来る魔物は確かにいた。
しかし――皆で全力をもってお出迎えする程でもない圧ばかりだ。
蹴散らせる。このまま終わるのであれば、なんともまぁ気楽な仕事であるが。
「さてさてしかし『そう』はならぬというものでしょうねぇ」
施設周辺にてゆっくりと歩を進めるは『殺した数>生かした数』藪蛇 華魂(p3p009350)だ。
地を這う雷撃で狼を蹴散らし。
闇夜を思わせる月の魔力で鳥を薙ごう――
余裕を持った戦闘行動をこなしながら同時に回す思考は『そもそもこの依頼の意味』だ。
――依頼主たるジョン・ウォーレン・ロスフェルド。
彼が何を考えているのかを慎重に吟味せねばならぬ。件の、旅人を狙うレアンカルナシオンとやらと関係をもっている……筈でありながらローレットの者を引き寄せる等なんともまぁきな臭い話な事この上ない。
そして華魂自身もまた旅人であれば警戒するもまた当然であり。
「ン。全員警備離席 当然 目ニ余ル行為。
魔物被害撃退チャントスレバ 制限 緩メ。
現場維持 チャント 仕事シテル 認識サセル 役割必要」
「う、疑われるってやばいものね……なんか難癖とか付けられて『ちょっとこっちに来い』って言われてきっと事務所の奥とかで……ひ、密かに始末されたりなんかするとか……!」
故に『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)や『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)も外から至る魔物らの撃退を順次行っている。
少なくとも雇い主に疑われる様な行動は――今の所は避けておこう。
曲がりなりにも施設防衛の依頼を受けてきている身でもあるのだ。その主目的を放棄して『調査』に赴く訳にもいくまい……フリークライは皆の身を癒す治癒の福音を紡ぎ、奈々美は『いきなり殺されやしないだろうか』と戦々恐々しながら術を放つ。
「『死ね異世界豚陰キャ野郎!』『元から怪しいと思ってたんだよ、もっとちゃんと喋れや!』とか言われて……いきなりバットで後ろから殴られたりとか……うぅ……」
「――お嬢さん、なんの心配をしているか知らんが大丈夫かね」
ひょえわぁ!?
素っ頓狂な声を挙げる奈々美――の背後にいたのは。
「ふむ。これは流石にイレギュラーズと言った所か。魔物なんぞ相手にもならんな」
「お褒め頂き恐縮ですロスフェルド様。
そして――お久しぶりですね、マナガルム卿の婚約披露パーティ以来でしょうか」
件の依頼主、ジョンだ。
まさか現場近くまで見に来るとは。だが『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)にとってはこの御老体のする事に驚きはしない。必要たれば自ら動くを躊躇わぬ者である事は以前からの付き合いで既に承知の上である。
「寛治か。お前も変わらず息災な様だな……新しく領主になった者の披露宴にも顔をだし、此処にも顔を出すとは随分と精が出る」
「ははは、私もそれなりに様々な方と交流させて頂いておりますので」
繰り広げられるは世間話――しかしその一言を皮切りに始められるのは水面下での攻防だ。
寛治は既にこの施設の調査を始めている。
己が情報網を駆使してアスク・クリア停泊中の船を精査していたのだ――立ち入りが厳しい船や、荷の積み下ろしに外部の人間を使っていない……いやそもそも荷の積み下ろしをしていない船があれば特に『臭い』と言えるだろう。
――無論ジョンも百戦錬磨の商人と言えるのであれば慎重にならざるを得なかったが。
それでも調べた限りのカードはある。後はそれをどういう風に切り出すか。
「そういえば以前の披露宴で……エドガーバッハを名乗られているご婦人がいらっしゃいましたね。あの時は男装されていたのかご婦人とはすぐには気付きませんでしたが」
「はて、そうだったかな」
「さてそれと同一人物かは知りませんが――先日ラサの騒動の折でもその名を名乗る方がいらっしゃいまして」
故にやはり以前の出来事から糸を繋げるかと。
寛治はレンズの奥の瞳を細めて。
「その時に随分と特徴的な事を言われていました――曰く『旅人排斥は只の方便。少なくとも俺達には別にどうでも』だそうで。ええ、ロスフェルド様がウォーカーの統治参画に反対的である事は存じておりますが」
一息。
「共同歩調を取るには『ズレ』てはいませんかね」
「――ふむ。随分と熱心に『何か』を調べているようだな?」
「いえいえ只の性分でして」
これぐらいでジョンが口を軽くする事などないだろう。
しかしそれでいいのだ。彼自身の思考に欠片程でも『遺物』が紛れ込めば儲けもの。
表情の一片すら観察し彼らの関係に探りを入れる事が目的なのだから。
良好な関係なのか、あくまでもビジネス程度の関係なのか……
寛治の目は鋭く観察の一端をジョンへと齎して――
「――これはロスフェルドさん、治療は必要ですか?」
その時。会話に参加する様に現れたのは『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)だ。
現場近くにまで至ったジョンに負傷が無いかと、案ずるような言を紡ぎながら。
「どうも、お初にお目にかかります。
私は練達宗教法人『羽衣教会』現会長の茄子子です――どうぞご贔屓に」
「ああ『あの』羽衣教会か……噂はかねがね」
流れる様に挨拶へと結びつける。噂? どういうものを一体聞いてるのかな?
茄子子はついぞいつもの口調ので尋ねたい気分に駆られるのだが――今日はそういう訳にもいかない。煩いと威厳が無くなってしまうものである故に……仕事モードで行こう。
「今回は『このような』機会を頂きありがとうございます。ロスフェルド財閥より依頼をとは、実に光栄です。ましてや一大拠点のアスク・クリアにお招きいただけるとは……その『信』 に応えるべく本日はこの身を賭しましょう」
穏やかに、まるで女神の様に微笑む茄子子――口調も相まって誰だお前は!
冗談はともあれ彼女が紡ぐ言の節々に込められるは腹の底に秘めし意志。
アスク・クリアにイレギュラーズを招いたという事は、この地を我々が調べても良いのですね?
言の葉には乗せねども彼もまた同様の意志を持つならば伝わる筈だ、と。
「フッ。然り、この地に招いたのはイレギュラーズを信用しての事……その力を『各所』にて存分に振るわれるが良い。禁止区域に入るのは流石に困るが、その事に関しては承知の上で此処に来たと存じる」
「――ええ、無論。『承知の上』です」
さすればジョンもまた茄子子へと返答を。
それは彼もまた腹の内に何かの意志を秘めているのだとすぐに気付いた。禁止区域には入るなと言っているが――その影に隠れしは『表向きは認めないが、こちらが気付かぬ限りは好きにしろ』という意味だ。
――彼はイレギュラーズ達の調査行動を積極的に止める気はない。
転じて、ロスフェルドは一体誰の味方なのか、誰の味方でもないのかと問われれば『どちらにでも付けれる』様に行動しているのだ。曲りなりイレギュラーズの行動を容認しない行動をしていればレアンカルナシオンへの言い訳は立つ。
その一方でイレギュラーズ達の行動を積極的に止めなければいざレアンカルナシオンが不利な立場になった時に『あの時味方しただろう?』とイレギュラーズ側の立場に立てるようにしているのだ。少なくともレアンカルナシオンに反意はあったと……万一の際、自らは最悪の追及を逃れる事が出来るように。
そうだ――やはり彼は商売人だ。
あらゆる事態を想定し、自らの利益に繋がる様にと布石を打つ者。
(うーんやっぱりね。ぶっちゃけ会長達を誘い込んだ時点で、施設を丸裸にされるのは織り込み済みな気もしてたけど……そういう事かぁ。なら露骨でない限りでこっちも好きにさせてもらおうかな)
故に茄子子はある意味お墨付きを貰ったと判断。
ジョンの目に露骨に止まらなければある程度大胆になっても良さそうだ、と。
「それと。もう一点」
さて。
今までの話とは別に茄子子はもう一点だけ尋ねたい事があった――それは
「貴方様は、死についてどう思われますか」
死生観。誰もにいつかは訪れる終焉。
……その捉え方次第でジョンのスタンスが分かると。だから。
「いずれ誰もが辿り着く終末点に過ぎぬよ。遅いか早いか程度の、な」
どうしても聞きたかったのだ。
どういう答えであろうと、ジョンという一個人を見極めるために。
「……どいつもこいつもキナ臭い考えばっかり持ってるもんだぜ」
同時。狼型の魔物を追撃する形でこっそりと姿を暗ませたのはカイル=ヴェル=リットベルガー(p3p009453)だ。寛治や茄子子らの会話を耳で捉えながら、事態を把握。
全く。もしやあのロスフェルドという男も組織の手玉に取られているだけの者なのではないかと思ったが……あれはあれで腹に一物も二物も抱えている様だ。
「しかし転生ね。俺みたいな奴も狙われる事になるのかね――それとも別なのか」
ともあれ往こうと抜け出す様に彼は行動を開始する。
レアンカルナシオン――『転生』を意味するかの組織の事を考えながら。
転生と言えば己はどうなのだろうかと。己はこの混沌の世で生まれた存在ではあるが……断片的に抱いている『前世の記憶』が、半ウォーカー的な存在ではなかろうかと自問させる。生まれが違えば問題ないのか、それとも魂の在り処を重視しているのか――
「まあ別に反ウォーカーって思想自体は私はいいと思うんだ。
そりゃ自分の生まれ育った地、よそ者に支配されるのは誰だって嫌だしな。
ただ――死者が蘇っているとなると話は別だ」
更にカイルと時を同じくして『黒花の希望』天之空・ミーナ(p3p005003)も動き出す。
彼女もまた最初は仕事は仕事としてこなしていた。魔物の討伐を行いながら、狼などの獣共を散らす様に。依頼主たるジョンにとっても不自然では無いような戦果を挙げた後に――味方の行動を見ながら己も隠密なる行動を。
それぞれの思想に付いてとやかく口を出す心算はミーナにはない。
ロスフェルドの長が反ウォーカーだというのならそれもいいだろう。
――だがそれに『死者』は不要であろう。死者は文字通り死んだ者。冥界に往くべき運命者達。
なにより己は死神。死者を連れて行く渡し守であれば。
「見逃せねぇんだよ。自由にも限度があるってな」
「ああ――全く以ってその通りだよなぁ」
往く。ミーナは死にまつわる霊魂が存在していないか索敵しながら、カイルは忍び足によって気配を薄く。ロスフェルド財閥の警備兵の目を盗んで――いや耳を盗んでと言うべきか。立ち入り禁止たる倉庫の方へをゆっくりと近付いてゆくのだ。
(なんつーか、こう言うのって禁止されてると入りたくなるもんだよなぁ。ダメって言われる程やりたくなるっつーか……だって男の子だもん♪ なんてな~)
どことなく感じる高揚感。心臓の高鳴りを感じるカイルには良い意味で緊張が無かった。
むしろ自由にのびのびと。
鍵のかかっている部屋への侵入を試みようとする時など『楽しさ』が増す程で、その動きには停滞や臆す気持ちなどサラサラない。望み探すは転生の資料だ――どこかに手がかりは必ずある筈だと鼻を鳴らして。
「……旅人の排斥、か。旅人を受け入れるも排除するのも個人レベルでは『そいつの心次第』で。地域や組織レベルでは『都合の良し悪し』という訳なのだろうな」
更に『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)も調査を開始。
停泊している船の方よりも倉庫の方に注意を向けて歩を進める――慎重に歩みながら巡らせる思考の中には旅人の排斥を謳う彼らへの推察があった。
神がヒトの間に上下を作らなくとも。
ヒトはヒト同士の間で上下を作ろうとする。
それは例えば貴族と奴隷、或いは賤民であったりする。
そして――外から来た稀人は、良い事と縁付いて尊ばれる事もあれば。
この地に縁の無い流れ者として贄とされる事もある
「貴種流離譚や様々な伝承にそのような傾向は見られるだろう、純種同士でも」
特別であるという事、そうではないという事。
――さて是非はともかくアーマデルの『神』は死の側から死者と生者の境界を保つもの。
それは保たれるべきものであり、乱すものは許されぬ。
……死者の蘇生などもってのほか。
調和を乱し破壊するものだ。
「さて……如何な手段によって死を覆しているのか、それとも」
なにがしかのペテンでも用いているのかと彼も往く。
薄き壁であれば透過する術にて。道中にて人の気配を感じれば聞き耳を立てて警戒を。立ち入り禁止に指定されている倉庫は当然として――だが、普通の倉庫も可能であれば調べたい所だ。そちらに『何もない』とは限らぬ故に。
「死者の蘇生――ね。意図して起こしているなら技術があるという事……
面白そうな話ね、稲荷神さまへの献上する話題としての価値がありそう」
同時。『狐です』長月・イナリ(p3p008096)もまた空き時間を利用して施設内を巡っていた。優れし五感と七つが目の力を用いて周囲の様子を見ていく――
薄い壁程度であれば透視の力を用いて。
そこにある物品が目に付けば鑑定しよう。
価値があるかないか。特殊な本や物品がそこにないか。
――ああ精神脆き者がいれば魔眼にて精神を操ってもいいだろうか。
あらゆる情報が集まれば一度整理して……
「何が出る事やらってね。ふふ――せめて土産話に出来る様なモノが見つかればよいのだけど」
或いは、後でここの主たるジョンにも探りを入れてみようか。
そう世間話たる延長から彼の思想を探れる程度でもいいのだと。
「皆様順次動いていらっしゃいますねぇ……では小生もそろそろ宜しいでしょうか」
「ええ。そろそろ動き出しても怪しまれないかと」
そして負傷した者らの治癒などの行動をしていた華魂も横目にて様子を伺えば、『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)もまたその意見に同意する。ジョンの意識は寛治らが引き付けているのだ、その間に貰った情報も元に調査を始めよう。
華魂はふらふらと。まるで散歩をするかの如く誰の目からも消えてみせる。
慎重かつ迅速に。求めるべくは――ええ、死者蘇生の法。
「…… 旅人ノミンナ 気ヲ付ケテ。コッチハ フリック 頑張ル」
であればと未だ魔物が訪れるかもしれぬとされる警戒網に残るのはフリークライだ。
皆が動き出したのは分かっている。けれど、己は目立ち過ぎてしまうと思考を。
現場を維持していると。ちゃんと仕事をしていると認識させる役割もまた必要であれば――それは己が担おう。
「フリック オッキイ 目立ツ」
ジョンや、その配下の意識を向けさせる。
フリックは此処にいると。イレギュラーズの皆と共に――いると。
巨大が動くさまを眺めていれば視線も向こう。警備を抜け出す者らの隠蔽をしやすい……所謂ミスディレクションの効果を狙っているのだ。それにそのことを除いても、わざわざ仕事を頼んできているのだ。
それに沿うように動いていて初めて見える『何か』があるかもしれない。
「デモ 油断 イケナイ。ジョン 旅人完全排斥 違ウ。デモ ソレハ 怖クナイ 違ウ」
知識、技術、興味、利用――
単純なる排斥の意志よりも怖い何かが潜んでいるかもしれないと。
フリークライは思考していた。何もなく、再び皆で集える事を――願いながら。
●
――さて。
ジョンの目をある意味公的に盗んで活動をする者らがいる傍らで。
当初より息を潜めて禁止区域へと潜入する者達の陰があった。
「人の目を盗み隠れ潜んで……なんだかまるで泥棒にでもなった気分ですわね。
――エッダ、クリアリングは任せましたわよ」
「何を今更。これは立派な情報ドロボーでありますよヴィーシャ。
だから……覚えておくであります。
必ず守るべき鉄則その1、死んでも見つかるな、だ」
その中には『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)と『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)の姿もあった。監視の目がない地点から障害物を飛び越える様に簡易飛行で侵入――だが即座に奥へとは進まない。
まずは警備兵らの位置を把握する事が重要だ。
死んでも見つかるな。エッダの言った通り『見つかれば終わり』なのだ。
「特に警戒すべきは練達製の監視システム――ここは幻想であるといえ、相手は混沌各地に展開しているロスフェルド財閥でありますからね。かの国から技術を引っ張ってきている可能性もゼロではありません故」
「ええ、承知しておりますわエッダ。どうしても迂回が無理な場合は、発見の遅延の為の工作ですわね。お任せ下さいまし!」
情報を手にする前に捕まっては意味がない、のは当然として。
しかしどうしても監視網を突破できないのなら遅延させるのが次善だ。
例えば練達製の監視カメラなどがあったとしてもその破砕自体を行うのではなく、見えにくいコード類を引き千切る。さすれば点検の為に来る人員がいたとしても多少なり時間は稼げるものだし、警備兵そのものに関しても同様だ。
ヴァレーリヤと強調し、奇襲して一瞬にて昏倒させる。
後は縛り上げて人気がなさそうな倉庫内にでも連れ込んでおこう。ああ、その為にもまずは壁を透過し内側へ。解錠の後に再び施錠と言った行為を繰り返せば……
「…………貴様、妙に手際が良いな。まさかと思ったがこういうの慣れてるな。さては」
「あら、私が良からぬ事をしている証拠でも? 『思い込みを捨てろ』――ええ確か貴女の言葉でしたかね。いいですこと? 『思い込みは禁物』でしてよ、エッダ」
壁を抜けて鍵を開けるまでの速度がやけにスムーズな気がする。ほほほとはぐらかすヴァレーリヤだが、その度にまさかまさかとエッダの疑惑の目が彼女へと向くものだ……まぁいい、ひとまず不都合はないので追及は止めておこう。
「ヴィーシャ、分かっていると思うが――とにかくここからは『復活』の手段の情報を集めていく。可能であれば船も狙いたい所だが、まずは回り込みやすい倉庫から行こう」
ともかく主目的である情報の収集こそが先決だ。
エッダが気になっているのは復活そのもの……よりも何故『復活』という外法に手を染めるかという理由だ。旅人排斥という目的が手段であるかも知れないのならば……
「……目的は、或いは復活という手段そのものに潜んでいるのやもしれぬ」
「ええ――既に死亡している筈の人名が書いてある資料とか、怪しいかもしれませんわね」
復活というルートを辿る為には死者が必要だ。
それらのリストを発見できればと、倉庫の一角に侵入したヴァレーリヤはエッダと共に捜索を開始する――迅速に事を運ばなければならないが、同時に慎重さを維持する事も忘れずに。
魔物退治の依頼を受けてきている者達とは違うのだ。
彼らはまだ『迷った』と言い訳すればなんとかなるかもしれないが、エッダらは違う――最初から不法侵入であれば、ミスは許されず。
「ふふっ。観光客の子供……ていう風に演じたら誤魔化せるかしら? 駄目かしら?」
故に『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は万が一発見された時の事を考えていた。倉庫群の中を歩く――ああまるで探検の真っ最中の様で、どこか心躍るものだ。
それは真実でもあり擬態でもある。無知なる子供を装えば、警備の者も油断するかと。
「鬼が出るか蛇が出るか……ああそれとも出てくるのは死者そのもの、かしら?」
いずれであろうと過去の偉人の名を語る者が在籍する未知の組織の何かに繋がれば、と。
放つのはネズミだ。それはファミリアーによる召喚と使役。
精霊達が見つかっては目立つだろうが、ネズミ程度なら何も言うまい。特に倉庫群などこういった小動物の一匹や二匹はどこかにいたりもするものだ――目標は禁止区域の倉庫まで近づければ良いのだが。
「ふっー……しかし、タイミングのいい相手にタイミングの良い依頼だな。あんまり都合がよすぎるのは裏がありそうで嫌な感じだが、虎穴に入らずんば虎子を得ずってーしな」
同時。やはり倉庫の方へと忍び込んだのは『探究の冒険者』サジタリウス・パール・カッパー(p3p008636)だ。
警備の兵に見つからぬ様に物陰に。
さすれば大きく息をつくのは、一服出来ぬが故の軽いストレスが故か――流石に潜入任務中に目立つ煙草の匂いなど衣類には付けれぬ。ああさっさと片付けて穏やかな場所で存分に味わいたい所なのだが。
「ま、ロス太郎かレアンなにがしの尻尾ぐらいは掴んでからかねぇ」
言葉を吐き出しながら再び動き出す。
見つからぬ様に常に逃げ道が潰されぬ様に立ち回りながら。
とにもかくにも見つからぬ事。次に見つかっても即座に退却できる事を意識している。
――色気を出して捕まっては元も子もないのだ。
いざという時の為に持ち込んだダンボール箱に実を隠しながら、倉庫と言う絶好の場所にてその効力を発揮し続ける。さぁ奴らの手がかりは――どこにあるだろうかと。そうしていれば。
「死したはずの人物を名乗る者が多く在籍し……
生きる旅人の排斥を唱えるレアンカルナシオンという組織名の意味。
……放っておくわけにはいきませんね」
サジタリウスの近くを通ったのは『嘘に誠に』フォークロワ=バロン(p3p008405)であった。市販の仮面を被り、全身を覆う外套を身に着けているが故にサジタリウスからはハッキリとフォークロワと分かった訳ではなかったが――しかし警備の者でない事だけは一目瞭然。
あれならば万一発見されてもその正体が追及される事はないだろう。
無論捕まらなければの話だが……そのための策もフォークロワは当然講じている。
「さぁ、行きましょうか。彼らへの道筋を見つける為に」
その一つがファミリアーによる先行偵察だ。
フルールと同様に小動物によって周囲の警戒がどれほどあるかを観察する。
建物に隙間があればそこから中に侵入させても良い。
そこから彼らに繋がる資料でも見つかれば幸いだが……
「……一番良いのはメンバーの誰かを見つける事でしょうか」
例えばラサのホルスの子供達騒動の際に見かけた者達など。
フォークロワも知っている顔を発見できれば、こっそりとその会話を盗み聞きできたりするかもしれない。そうでなくてもメンバーがいる倉庫を発見できれば、そこには組織に繋がる情報があるとみても問題ないだろうから。
動く――
それぞれがそれぞれの意志をもって。
ヴァレーリヤ達は何やら書類が大量に保管されていた事務所の様な所の陰で内容を精査。フォークロワやフルールは小動物の偵察を兼ねながら歩みを進めて、サジタリウスは怪しき倉庫の中へと侵入を果たす。
死にまつわる情報でも何かあればと――しかし。
「うーん、死体らしきものはありませんねぇ……どころか霊魂の類もあんまりありませんし」
死にある意味敏感な『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)は気付いた。
転生という生死の概念を宿している組織がここにいるにしては……あまりにも『そういう』気配がないのだと。なんとも多くの死体がきっとあるだろうと想像していただけに拍子抜けするかのような感覚だ――
「でもそんな筈はないんですよねぇ。少なくとも肉体が必要な事は間違いないでしょうし」
どこかに隠しているのだろうか?
少なくともまだ捜索は続けるべきだと、ねねこは気配を希薄にする香水を使用しながら奥へと歩を進めていく――まぁ分かりやすい所には早々手がかりはないだろうとは思っていたのだ。
罠や隠し部屋がどこか似ないかと看破せんとする。
或いは人だ。以前にも出会った、レアンカルナシオンのメンバーと会う事が出来れば――
「……やはり重要物は船の方に保管されている――と考えるべきでしょうか」
故に『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が見据えるのは、停泊している船だ。隠密なる行動を心掛け、その近くにまで至った彼女の目には、いくつかの船が映っている。
全て調べている暇はないだろう。だが、眺めているだけでも雰囲気は掴めるものだ。
人か荷か。何かしらが船と倉庫の間を行き来するはず。
そしてマトモな商船であるならばその動きが活発的の筈だ。
しかし潜みたいのなら、或いは商船ではないのであれば……
「……あの船、随分と静かですね」
そしてその中一つ、目星が付けられる船があった。
荷を運んだり人の往来と言った様子が極端に少ないのだ。
――あの船は何の為にあそこに停泊している?
ただ単に今は活動していないだけか、それとも……
「アッシュ様、こちらにいらっしゃいましたか。やはり船が怪しいと踏んで?」
その時。警備区画から抜け出したリュティスもまた船着き場へと辿り着いていた。
隠密なる移動にて此処まで至った彼女らに気付いている存在はいない。
順調だ――が。船の中まで調べようとすれば流石に目には付きやすいだろう。
どうしたものか。些か悩ましい事になっていれ、ば。
『成程な。まぁそこは任せときな……どうせこのままじゃ埒があかねぇ。
ちとばかし派手にやってみるってのもアリだろうさ』
故に――『倫理コード違反』晋 飛(p3p008588)は決意するのだ。
アッシュが調べていた内容は、預けていたファミリアーのヤモリにより把握している。
彼自身がいるのはその停泊船の近くだ。
呼吸が不要なる術を身につけていれば、長く水中に潜る事も十分可能。
故に人目が付きにくい下の方へと回り込む――怪しいと目された船の直下に付いて。
『さぁってぇ。何発で穴が開くかね……!!』
その一角に穴を開けんと撃を重ねるのだ。
何も本気で沈めようという訳ではない。故にほんの少し。騒ぎが起こり、なおかつ自身が内部へと入り込める程度の穴で構わないのだ。一、二の三の――そして。
「――ぷ、はぁ! よしッ、船の底に穴が空いてんぞ! 早く逃げろ!」
ついに綻びをその船へを齎した。
●
「……んっ? 何の騒ぎだ?」
同じ頃。船着き場の方で何やら騒ぎが発生している様な空気をジョンは感じていた。
――イレギュラーズ達が何か動いたか。
そう察しているからこそ慌てはしない。部下から報告が来るまでゆったりしていようと思っていれば。
「こんにちは、ジョンさん。ちょっとだけお時間良いですか?」
言葉を紡いだのは『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)だ。
微笑む様ににっこりとしている彼の表情。
施設の護衛の為に魔物を蹴散らしていた彼だが……ジョンの下へ訪れたのはそれが一段落したからと。
「まぁ、その。色々言葉を考えてはきたんですけれど――
やっぱりこういうのはどうにも苦手で。だから、単刀直入にお伺いしたいんですけど。
――どうして旅人を嫌っていらっしゃるんですか?」
「……ふむ。正にストレートに来たものだな」
「いけませんか?」
いや、とジョンは口元に携えしパイプの位置を直しながら。
「偶には構わん。こういう商売をしていると目的を直に話す事など無い――常に腹の中に何かを潜め、握手をしながら片方の手に刃を握っているような事などがわんさかだよ。寛治、お前もそうではないかな?」
「さて。弊社は信用と信頼で成り立っておりますので、なんとも。おっとあちらの騒ぎはもしかすれば魔物の侵入かもしれませんね――禁止区域ですが物資に被害が出るよりはマシでしょう? 入っても宜しいでしょうか?」
好きにしろ、と言質を貰ったので寛治は早速そうした。
『禁止区域に逃げ込んだ魔物を追い、やむを得ず緊急避難的に禁止区域に立ち入る』という名目で侵入だ――何。実際に魔物のいるなしは問題ない。いざとなれば魔物が確かにいたと言いくるめて入り込むだけの事だ。
「強引な事だ……さて、まぁなんだったか。そうだな。私が旅人嫌いな理由か――
まぁそもそも嫌いではないのだがな。危機感を抱いているだけで」
「……というと?」
「外からの異分子たる者が混沌統治に影響を与えれば、やがて統治は『外』ありきになってしまう」
津々流の言に応えるジョン。彼は旅人そのものを嫌っている訳ではないのだと。
しかし外界特有の文化と常識を持つ彼らが一度領土を保てば、その地はその者に染まってしまうのだ。
――一代だけならそれでもいい。だが、その領主が亡くなった後は誰が継げばいいのだ?
外界の統治に染まった領土を、誰なら引き継げるのだ?
「そういった事が無いように混沌の世に生まれた者だけが統治に参画すべきなのだ」
「――その為には旅人を排斥する組織とも組む、と? ええと、れ……えっと、れあん……かるなしぉん?」
「ふっ。誰かがそう言ったか?」
しかしその言質だけは取らせない。
レアンカルナシオンと繋がりがあるとは決してジョンは一言も漏らさない。
実質言ってるに等しいような言は零しても、そうだと断定させるような言葉は……
「成程興味深い思想ね。だけれども旅人らが持ち込む技術は免罪なのかしら?」
その時。津々流の言を繋ぐようにジョンへと紡いだのはイナリだ。
「それなら私はどうなのかしら? 式神の記憶を保持し、いざとなれば身体を移し替える技術が稲荷神さまにはある。寿命も無く、壊れた身体を何度も交換して、紛い物の『転生』を繰り返す……そういう個体を操る我が神の、とても素晴らしい技術だと思いませんか?」
「それが事実かは知らぬが――成程確かに興味深い技術ではあるな」
『転生』絡みの話題をだせばどう動くかと。
旅人の技術は嫌う所ではない、というなら。
そしてその技術は似ている気がしないか――と。
「しかし確かな技術確立がなければ危険そうにも聞こえるな。ビジネスに使えるかは、さて」
「貴方自身の興味としては?」
「私は特にないよ。この年まで生きてなんの未練があろうか」
後は己は己のままに生きていくだけだと。そう話していれ、ば。
「やあ、君が依頼主のジョン・ウォーレン・ロスフェルドだね。
僕はエクレア、よろしく頼むよ」
イナリに続いたのは『影の女』エクレア(p3p009016)である。
施設の主であるジョンに接触するのがやはり早いだろうと。
求める握手は彼の信用を少しでも得るがため。彼女の祝福の力がソレを齎すのだ――
こういった交渉事には経験豊富な御老体にどれ程の力が通じるかは知らぬが。
少しでも。警戒心を薄められるかを試みて。
「いやね、実は噂を聞いて君に接触したくこの依頼に参加したのだよ。何でも死人を蘇生出来るとか」
「――ははは。何を馬鹿な。死人は死人だ。決して生き返ったりなどせんよ」
「ふむそうかね? だが僕ら【アビス財団】の組織の方針は未知の存在の保護でね……その人為を超えた神秘に惹かれるのは必然とも言える事さ。もし関係ないのだとしても少しでもいい、教えてほしいんだ」
一体何を使い、何を犠牲にして得たのかね?
あくまでも『関係ない一個人としての意見』でもいいのだと。
死者の蘇生疑惑の情報を聞き出す。それが目的もあるし、いやそうでなくても――
一人の学者としても気になる所なのだから。
「さて何か勘違いしているようだが、私は知らんよ。そう、なにもな」
「――本当かね?」
「ふっ。神に誓って、という言葉でも欲しいかね?」
真っすぐ覗き込むように。ジョンのサングラスの瞳の奥を見据えんとするエクレア。
儚き花を思わせるエクレアの色を見せても、揺らぎはないか――?
「だが――そうだな。たしか倉庫の方に『そういう』本か何かがあったかもしれん」
「!! そうか、それはどちらの倉庫に……!?」
「さて。まぁあっちの方では無かったかな」
ジョンが戯れる様に指差す先は、先の船着き場の方向。
騒ぎが起こっている渦中に何かあると――暗に示している様で。
●
そして船着き場では飛の起こした撃により小さな騒ぎが起こっていた。
この間に飛は独自に行動を開始する。
周辺の部屋に入って怪しい物品が無いか回収を試みるのだ。
「さぁってとぉ。後は助けを求めてる奴でもいりゃあ都合がいいんだがな……!」
同時。張り巡らせるのは助けを求める声を感知する術だ。
有力者の様な者がいれば助ける形で繋がりを持っておこうではないか。
そのついでに護衛やスタッフの体で誤魔化せれば脱出も容易に果たせて儲けものであると。
同時。船を中心に広がるざわめきを利用してアッシュは一気に距離を詰める。
物陰や角を利用して隅の方へ。意識が逸れている方向から跳躍して船へと。
「後は――この船が本当に正解かどうか」
気配を断ちつつ近場の扉から中へと侵入する。
……人の気配はない。いや全くない訳ではないが、大勢いる様な気配はしない。
罠が仕掛けられていないか。慎重に進行しながら周囲を探っていれば――その時。
「うわああああ沈むぅっぅぅう! やべええええ俺泳げねーんだよおお――!!」
廊下を凄い勢いで走り抜けて看板上に超即退避する影が一つ。
物陰から様子を見ていたアッシュは――その姿が記憶の片隅にあった事を思い出していた。
あの青き髪。喧しい言動、間違いない。
「ば、馬鹿野郎このポンコツ船野郎!!
勝手に許可なく沈もうとしてんじゃねーよバーカ、バーカ!!」
「――おや。どこかで聞いた声だと思えば、貴女でしたかエドガーバッハ」
あれはエドガーバッハ・イクスィス。レアンカルナシオンのメンバーの一人だとリュティスも気付いた。彼女は騒ぎの中に紛れて船の近くに接近しており、看板上にいるエドガーバッハとは目が合って。
「あ、あっ、あっ! テメェはあの時の! こいつはテメェの仕業だなさてはァ!!」
「いえ違います。それよりも今日は別件でして――進捗は上々と伺ったのですがどうでしょうか?」
「えっ? ぉ、ぉおう。俺だぞ俺! そりゃあ順調も順調って言うもんで――」
「――馬鹿なのかお前は」
瞬間。エドガーバッハの背中に蹴りの一撃が加わって、そのまま海の方へと身が宙へ。
あああああ――!! という悲痛な叫びが上から下へと移動する中、蹴りを繰り出したのは。
「フンッ、ラサの時の小娘か……イレギュラーズが此処に至るとはな」
「――カーバック様ですか。貴方までいらっしゃるとなると、レアンカルナシオンの面々はこちらにいるという事で間違いなさそうですね」
それはカーバック・ファルベ・ルメス。
ラサの色宝にまつわる事件において何度か姿を見せていた組織の者の一人だ。
エドガーバッハの時点でそうだったが――やっと確信がいった。
ここだ。この船が、奴らの拠点だ。
倉庫にも彼らにまつわる情報や施設があるかもしれないが……さて。
「ここで会ったのも何かの縁ですので、搭乗させて頂いても?」
「良いと言うと思うか?」
「でしょうね」
この中まで調べる事が出来ればより情報が集まるかもしれないが。
しかし良しと言う訳も無し。強行すれば身の危険もあろう。
――此処までか。
後は中へと入り込んでいるアッシュを支援するべく会話を続けて気でも逸らし続けて――
「いいじゃないか。中に入れてあげたまえ、カーバック」
瞬間。
言葉は彼の後ろから紡がれた。
「ここまで来た客を無下にする事もないだろう――何。大丈夫さ責任は私が取る。
いやこっちに来るよりも……私がそちらに行く方が良いかな。うん」
「――貴方は?」
「私はミハイル・クリストフェルク。
レアンカルナシオンの長をしている、と言った方が分かりやすいかな?」
其処にいたのは精悍たる立ち姿をしている一人の男。
柔和な微笑みと共にこちらを見据えている――人物だった。
●
「おいおい――なんだぁこいつは」
同じ頃、倉庫を調べていたグループの中でも動きがあった。
サジタリウスが見つけたのは地下へと続く道、だ。
明らかにキナ臭い匂いがする。ただの物資保管にこのような隠された地下が必要なものか。
「ひ、ひぃい……な、なによこのさきぃ……あっ、そういえばアイツらし、死者を蘇生……または転生してるって……う、ウワサみたいね……も、もしかしてこの先が……その秘密の研究施設とか……!!」
「さぁーってと。只の紙の資料だけしか出て来ねぇとは思ってなかったが……えっぐいキメラとか、そういう人体実験失敗作の成れの果てみたいなのが出てくる事はないように祈ってるぜ、マジで」
臆す奈々美。それでも先に進まねば来た意味がないとカイルは決意を固めて。
ゆっくりと警戒しながら地下へと進む。
そう深いものではないし迷宮状になっている訳でもなさそうだ――
すぐに辿り着いた地下、そこには。
「……死体? いや違いますね。これは……ゴーレムでしょうか?」
なにやら『人型』の肉塊がそこにあった。
死体か――? 一瞬そう思いもしたのだが、華魂の検診によればそもそも死体ではない。
こういう形に作られた塊だ。所謂ゴーレムの類に近いのかもしれない。
……尤も、動く様子は一切見受けられないが。
机の上に置かれているその数は二、いや三、か? あまり数も多くなく。
「なんでしょうね、これ。魔術的な要素も感じませんし、死体でもない。不思議ですね」
「……まったく。こんな悪趣味そうなもんが保管されてるとはな、あんまり政治だの裏事情だのに絡む気はないんだが……」
ねねこも触ってみるが、見当がつかない代物だった。
分かりやすく死体であってくれればまだ推察できたかもしれないのだが……というか死体であってくれた方がテンションが上がったのだが……どうしてこんな肉塊なのだ……どうして……
しかしとにかく此処こそがレアンカルナシオンに直接関わっている所だろうとミーナは確信し。
「ふーーむ……ひとまずめっちゃ怪しい事だけは分かりますわね! よし、この辺りを後は徹底的に捜索していきましょうか。なぁにもし敵に発見されそうになった場合はお任せを! 私達が引き付けますわ!」
「……まるで逃げ切れることを確信しているような足取りではありませんか。ヴィーシャ」
「当たり前でしょう? だって、何があっても貴女が守ってくれるのですから」
ともあれこれがレアンカルナシオンに繋がりそうな一品であるとヴァレーリヤは判断し、エッダと共に行動を開始する。何か近くに資料はないか? 肉の塊だけおいてそれで終わりではないだろう。
いざという時は二人掛かりで敵を引き付ける。
そうすれば他の潜入班も逃げやすくなるだろうと――その時。
「それは『器』だよ」
男の声がした。
地下に入ってきた入り口の方から新たな気配がする――早速敵かと、そう思えば。
「ようこそイレギュラーズの諸君。よくぞここまで辿り着いた……と言っておいた方がいいかな。私はレアンカルナシオンの長、ミハイルだ。以後よろしく頼む」
「――あらあら、いきなり親玉さんが出てきたのかしら?」
実際にその通りだったようだとフルールは察する。
しかし向こう側に敵意はなさそうだ――まるで友人と接するかの如く語り掛けてきて。
その背後には少し距離を取っている上でリュティスらもいた。ついでに何故かびしょ濡れになっている青髪の女が滅茶滅茶不機嫌そうにしているが、なんかあれは別件な気がするのでとりあえず無視しておこう。
「それはそれ単体では動かない。もう少し形を作り、記憶を転写する事によって初めて動き出す……そうゴーレムだよ」
「ゴーレム――そんなものを何のために」
「端的に言えば、そうだね。世界平和の為だ」
世界平和――? 随分大きく出たものだと、誰かが呟いた。
こんなちっぽけなゴーレムで何を成せるというのか……いやそもそも。
「……記憶の転写って言うのはどこから?」
「ふむ――君達はアカシックレコードと言うものを知っているかな?」
「えぇ。でもそれは概念の話でしょう?」
アカシックレード。世界があらゆる事象を記憶しているという概念。
その言を聞き、思わずフルールは微笑むものだ。
名前は知っている。しかしそれはあくまで概念であり実在するかは話が別の筈だ。
しかし――ミハイルと名乗った男は紡ぐ。
「あるのだよ。アカシックレコード――或いはそれに相当するものはね」
「まさか」
「ふむ……そうだね。どうかな、君達にもゆっくりと聞いてほしい事があるんだ。
我々はきっと『協力』出来る。場所を移して対話をしようじゃないか」
今まで旅人へと襲い掛かる事もあった組織が――協力?
「信じがたい話。だけど、話し合う事には興味がない訳でもない……
……そのヴェールを剥いだ下、其処に見えるものが何なのか」
アッシュは紡ぐ。
其れを見ることが出来れば、彼らの真意を測れるだろうかと。
「ええ実に気になりますね。貴方達の最終目的は特に」
「先程言った筈だよ。『世界平和』だと」
「胡散臭いんですよねぇ」
同時、フォークロワはもう少し会話を続けようかと言葉を繋ぐ。
死という絶対たる幕引きをしたものを模ってアンコールを望んでいるようですが。
「それは人の生という物語への冒涜というものです。貴方達は認めがたい――まぁ伝承と死神を模った私が言える話ではありませんが、ね……」
どのような理由があれそれは認められるものではないと。
フォークロワは真っすぐと瞳を見据えて言の葉を紡ぐ。
レアンカルナシオン――それを率いし者――ミハイル。
優しき微笑みを見せる彼の深淵に踏み込むべきかそうでないか――悩ましい所であった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
レアンカルナシオンの頭領と接触した事により『対話』が発生しました。
彼が紡ぐ言葉とは一体――
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●目的
『レアンカルナシオン』という存在の情報収集
●レアンカルナシオンとは?
ウォーカーを狙う謎の組織です。
旅人を不浄な存在である――として殺害を試みる構成員もいる一方、幹部級の人物の話では『それは只の建前』という発言もある(シナリオ『<Rw Nw Prt M Hrw>Carpe diem』)為、今一つ目的が掴みづらい組織でした。
しかしこの度、彼らが恐らく拠点にしているであろう場所が割り出せました。
この拠点の中で動き、レアンカルナシオンの情報を掴んでください――
なお、かの組織には何故か『既に故人』である名前の者達がいる上に、レアンカルナシオンと言う名は『転生』という意味を持ちます。それが何かに関係しているのかは――現時点では不明です。
●フィールド
ロスフェルド財閥所有の湾岸施設『アスク・クリア』
幻想南部に位置する施設で、ロスフェルド財閥関連の船などが多く訪れ、或いは停泊している地です。周辺には倉庫の様な建物も多く存在しています……が、一部の倉庫や或いは船そのものが立ち入り禁止とされ、秘匿されている場所もあるようです。
・倉庫群
多くの物資が保管されている倉庫が立ち並んでいる場所です。
……しかしながら一部の倉庫、というよりも一地域が丸ごと立ち入り禁止になっている場所もあります。表向きは重要物を保管しているから、という事ですが……?
・停泊船
港にはいくつかの船が存在しています。それは財閥所有の船だったり、或いは取引先の船であったりするようです。基本的に船は全て関係者以外立ち入り禁止とされています。
●出来る事
本シナリオでは主に下記A/Bのいずれかのルートが存在します。
●【A】戦闘ルート
ジョン・ウォーレン・ロスフェルドの依頼に沿って散発的に訪れる魔物の撃退を中心とする行動です。こちらのルートだとある程度ジョンの意向に沿って動く必要がある反面、施設内を(禁止地区以外)自由に動ける事や、ジョン自体と話す事も出来るでしょう。
魔物達は狼だったり鳥型の存在が散発的に訪れます。
しかし数も少ないので、さほど脅威ではないでしょう。イレギュラーズの皆さんなら適当にあしらえます。
なお、隙を見て警備を抜け出して内部の調査を行っても構いません。
魔物の被害さえ撃退できるのであれば、ジョンもあまりイレギュラーズ達の行動を制限するつもりはない様です。ただし禁止区域への許可は通常出ないので、そちらに行くにはこっそりになるかもしれませんが。
●【B】潜入ルート
こちらはジョンの依頼には参加していない体になるルートです。完全に自由に動ける反面、警備兵などに発見された場合全ての地区で侵入者としての扱いを受けるでしょう。
●NPC
●ジョン・ウォーレン・ロスフェルド
混沌各地に展開するロスフェルド財閥の長。
元々は幻想貴族の次男坊だったのですが、紆余曲折の果てにロスフェルド財閥に婿養子に入り、現在の地位に付いている人物です。ウォーカーが混沌の統治に関わるべきではないという『反ウォーカー』の思想を掲げています。
ただしそれは混沌世界の統治は混沌の民でなされるべきと考えている為であり、ウォーカーの存在自体の排斥を考えている訳ではありません。ビジネスとしての関係は別です。
レアンカルナシオンにも協力していると目されています。
●レアンカルナシオンのメンバー
幹部級構成員がいるかは完全に不明です。
ギルオスは一人ぐらいは最低でもいるだろう、と見ています。
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