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シナリオ詳細

<ヘネケトの祝福>Granat Markt

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 わいわいわい。
 がやがやがや。

 その日のサンドバザールは非常に盛況であった。いや、これまでで最も盛況と言っても良いだろう。
「いい肉が揃ってるよ!」
「お待ちどう! すぐに溶けるから気を付けてくれよ」
「その布は南方のドレタ族っていう少数民族が織ってる布なんだ。夏に向けてスカートなんかどうだい?」
 商人という商人がこぞって店を出し、客という客が商品を求めてやってくる。それも、いつも以上の勢いで。
 それはつい先日もたらされた吉報に依るものである。『彼女』の話に乗って前々から準備を進めていたが、それが実現したとあってこのサンドバザールを開くに至ったのだ。

 ――ラサを騒がせた大鴉盗賊団コルボが打ち倒され、遺跡群FarbeReiseの異変もまた収束と相成った。

 首都ネフェルストで、或いは至るまでの道中で。ここ最近の大鴉盗賊団には辛酸をなめさせられていた。ラサから離れた商人も少なくはない。それでも勝利をもぎ取ったのならば――ラサの活気は自分たちで取り戻そうじゃないか!



「レーヴェン! タンペット!」
 その声に『色彩蒐集者』レーヴェン・ルメス(p3n000205)は振り返り、パッと笑顔を浮かべた。
「お疲れ様、ね」
「タンペットとレーヴェンもっすよ!」
 『嵐の旅人』タンペット・ルメスの言葉に『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)がそう返せば、レーヴェンはほんの少し苦い表情になる。だって彼女たち2人と違って、皆が戦っているとき彼女はお留守番だったから。むしろ――。
「むしろ皆に助けられちゃったからなあ」
「まあ、狙い目ではあったでしょうからね」
 タンペットは小さく肩を竦めてあの時のことを思い出した。
 ファルベライズの奥へ進まんとした『大鴉盗賊団』のコルボはパサジール・ルメスの民であり、戦闘力のない彼女を攫った。最もイレギュラーズたちの尽力によって奪い返したわけであったが――ファルベライズへ関わったこと、そして抵抗する力も限られるとあれば、自身やリヴィエールよりよほど攫いやすかっただろう。
「護身術くらいは覚えてたんだけれど、やっぱり2人みたいに戦えるようになった方が良いかも」
「修行するにしても追々……なんじゃない?」
「そうっすよレーヴェン、これからセンパイ達が来るっすから!」
 リヴィエールは楽しみだと言わんばかりに笑顔を浮かべ。釣られて2人も笑みを乗せる。
 レーヴェンを攫い、力を手にせんとした大鴉盗賊団は崩れ去った。頭領コルボが亡き今、彼らが瞬時に体制を整えて迎撃してくるとは思えない。それほどに力を蓄えていたのなら、コルボと対決したあの時にこそ乗り込んでくる契機だったのだから。
「もう活気にあふれているわね」
「あはは、こんなに集まるとは思わなかったよ」
 タンペットが視線を向けた先には人、人、人……活気づいたバザールがある。これはレーヴェンが『お留守番』をしている間に商人達へ声をかけて回った結果であった。
 レーヴェンに戦う力はない。されども何かをしてあげたい。そんな彼女は帰ってくるイレギュラーズを迎える準備を進めていた。
 イレギュラーズたちは必ずや勝って戻ってくる。ならばその祝勝会と、更なるラサの活気づけに大バザールを開いてはどうか、と商人へ声をかけて回り。盗賊たちが活発化していたことによってラサから離れている商人もいたが、その言葉は未だラサに滞在していた商人から商人へとめぐっていき、発起人であるレーヴェン自身も想定しない規模となったのだった。
 活気を取り戻すと商人たちは息巻いていたが、これはもはや取り戻すをとうに超えているだろう。
「賑やかなのは良い事っすよ! ね?」
「そうね。掘り出し物をめぐっても良いし……食べ歩きもできそうな気候だわ」
 タンペットは視線を空へ。からりと晴れた空。この季節のラサは比較的過ごしやすい。加えて風もなく、食べ歩いたとしても砂が付着するようなこともないだろう。聞けばサンドバザール内に料理の露店が立ち並ぶエリアもあると言う。
「あ、そうだね! それなら私が案内を――」
「レーヴェン!」
 不意に彼女へ声をかけてきた男性へ、彼女は目を瞬かせて駆け寄る。暫くして帰ってきたレーヴェンへどうしたのかと問うてみれば、
「なんかね、折角の祝いだからキャンプファイヤーすることが決まったらしいよ! 後夜祭!!」
 とレーヴェンは目をキラキラさせて告げる。日中は大バザールで各々利益を上げ、火が沈んだら歌えや踊れのお祭り騒ぎになるようだ。
「賑やかな1日になりそうね」
「楽しみっすね! ……あ、」
 タンペットににっこりと笑ったリヴィエールは、3人の方へやってくる人影を見て目を瞬かせ、それからぱぁっと表情を輝かせる。そう、我らがイレギュラーズの来訪だ。
「センパーイ!! こっち、こっちっすよー!!」
 ぶんぶんと大きく手を振ったリヴィエールにタンペットと、それからレーヴェンも人影に気付いた。三者三様にイレギュラーズの訪れを歓迎して――さあ、どこから回ろうか!

GMコメント

●祝勝会(大バザール)!
 イレギュラーズの勝利を祝おうという商人達による大バザールです。以下のようにお楽しみいただけます。

プレイングについて、
1行目にタグ(【昼】or【夜】)を、
2行目に同行者を、
3行目から本文をお書きください。

●【昼】大バザールでショッピング!
・ショッピングができます。
・食べ歩きもできます。

 飲食物、雑貨、アクセサリー、本、骨董品……あらゆる商品を扱っています。時には占いなど、形なき商品も売っているかもしれませんね。
 ちなみに食べ物の露店を巡るのであれば、レーヴェンが案内しようか? と申し出てくれています。一緒に食べ歩きも良いでしょう。
 何ヵ所かに分散して休憩用の大テントも張られています。歩き疲れてしまった、座って食べたい等にご利用ください。

 ●バザール出店・出品物(一例です。書ききれないほどに出店も出品もあります……)
 ・骨董品『亀の甲羅』
  よくわからん骨董品を多数扱う露店です。
  古ぼけた時計だったり鍋だったり、ひたすらごちゃごちゃしています。
  もしかしたら「本当の」お宝もあるかもしれませんね。

 ・布素材『サリーマーシ』
  何処でも売っているような布から特殊な繊維で織られた生地までなんでもござれ。
  メートル単位で売ってくれます。ここで買った布で洋服を仕立ててもよさそうです。

 ・書籍店『本の虫』
  大量の本を扱っている露店です。本が焼けてしまわないように天幕をしっかり張っています。
  それなりに新しい本が多く、もしかしたらどこか遠くで入手できるような本もあるかも。

 ・占い屋『クィンテット』
  怪しげなおばあさんが水晶を覗き込んでいます。
  的確な事は言わないしその真偽も良く分かりません。
  見える……見えるぞぉ……。本当に見えているのかは謎です。

 ・Sky Sea.
  爽やかな配色の露店です。ラサなのにちょっと海みたいな匂いがします。
  ドリンクは各種ジュースを取り揃えている他、
  大人には軽いアルコールドリンクもお出し出来ます。

 ・スティックベジー
  土地柄ちょっとお高いですが、野菜スティックサラダを売っています。
  好きな本数を注文して、特製のドレッシングにつけてめしあがれ!

 ・火蜥蜴の串揚げ
  串焼き露店で売っています。
  ラサに生息する小型モンスター、火蜥蜴を串刺しにして丸焼きにした逸品。
  ピリ辛な味が癖になる。ソースやマヨネーズはお好みで!

 ・マンガ肉
  やっぱこれだろ!!

●【夜】歌えや踊れ、キャンプファイヤー!
・キャンプファイヤーの周りで歌ったり踊ったりできます。
・上の光景を眺めて楽しめます。
・見世物や音楽を楽しむこともできます。

 キャンプファイヤーします。周りを歌って踊って楽しみましょう。或いはそれを少し外から眺めて楽しむこともできます。
 夜は店じまいです。こちらでは売買できませんのでご注意を!
 飲食物が欲しい方は日中に買っておいたということにしてくださいね。
 このバザールを聞きつけた楽団やサーカス団が曲を奏でてくれたり、見世物をしてくれるみたいです。

●イベントシナリオ注意事項
 本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
 アドリブの可否に関してはNGの場合のみ記載ください。基本アドリブが入ります。

●NPC
 私の所有するNPC(レーヴェン含む)、リヴィエールはプレイングでお呼び頂ければ登場できます。
 タンペット・ルメスさんはニアさんの関係者です。

●ご挨拶
 愁と申します。
 ファルベライズ編、お疲れさまでした! 楽しいひと時をお過ごしください。
 それではご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • <ヘネケトの祝福>Granat Markt完了
  • GM名
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2021年03月16日 22時10分
  • 参加人数30/50人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
エマ(p3p000257)
こそどろ
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
古木・文(p3p001262)
文具屋
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ナハトラーベ(p3p001615)
黒翼演舞
ニア・ルヴァリエ(p3p004394)
太陽の隣
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ミスト(p3p007442)
トリヤデさんと一緒
ミスティ(p3p007447)
深き森の冒険者
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
わんこ(p3p008288)
雷と焔の猛犬
カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
ネイルバイト(p3p009431)
筋肉植物の親友

リプレイ


「――ラダ!」
 レーヴェンは見知った友人へ大きく手を振った。呼ばれたラダは軽く手を上げ、元気そうな姿に小さく笑みを浮かべる。
「テイクアウトの飲み物買ってから、占いとか覗いてみないか?」
「お、いいね。ラダはそういうのよく行くの?」
 いや、とラダは首を振る。正直、普段は占い屋なんて全く入らない。けれどこうして商人2人で歩いていたら、自然と商売的な話になってしまいそうだから。
「今日はそういうの、一旦止めてみたいと思ったんだ」
「ふふ、いいね! 私ももう少ししたらまた旅生活しながらそういう話ばっかりだし」
「ああ、やっぱりそうなんだな――」
 なんて、今後の話も交えながら。2人の姿はバザールの人混みへと消えて行く。
 バザールの規模が大きいこともあって、店も品物も玉石混合。その中をカイロは興味深げに進んでいく。
(面白いものばかり売ってますねぇ。どうやって仕入れたのか……と言うか、よくそれを売る気になったと言うか)
 練達の機械やら神像やらまであるのを見るとそう思わずにいられない。カイロの足はやがて骨董品店で止まった。野ざらしに置かれた商品で値打ち物があるとも思えないが――雑に見るだけでも時間つぶしにはなりそうだ。
 ごった返す道の傍ら、普段通りの顔でナハトラーベは歩を進める。
 その左手にはマンガ肉を掲げ、右手には何本もの串焼き、そして口にはスティックベジタブル――さらには腕へ下げたバッグに1ダースのドリンクを入れていようとも、これがナハトラーベの普通である。
 食べ物の為に運搬性能を遺憾なく発揮するこの少女がお残しなどありえない。ゆったりと食べながら、彼女の視線は占い屋へと向いた。
「レーヴェン、こっちっすよー!」
 リヴィエールに呼ばれたレーヴェンはそこにタンペットと、猫耳少女を認める。なんでもとっても仲良しなお友達を紹介したいのだと。
「あたしがお願いしたんだ。名前は何回も聞いていたんだけど、中々会えなくて」
「ああ、そうだね。普段はあっちこっちフラフラしてるし、ファルベライズも大変だったし」
 その『大変』が終わってようやくの対面だ。レーヴェンはニアに、そしてタンペットやリヴィエールたちにも「一緒に回らない?」と提案する。
「折角来たんだしね」
「いいっすね!」
「あ、それならあたし、食べ歩きもしてみたいな!」
 女子4名、ひときわ賑やかに――さあ、色々回ろうか!

「祝勝買い物だ!!! 経済回していきマショウゼ、姉御!!」
「元気ねぇ」
 わんこの姿に肩を竦めながらも、コルネリアだってこの場所へきて全く買い物しないとは言わない。だって懐はまあまあ温まったし、散財も今更であるから。
「姉御、骨董品店に向かっても!?」
「いーわよぉ」
 はしゃぐわんこについていきながら、なにか目ぼしいものがあればと視線を巡らせたコルネリアは『サリーマーシ』の前で止まる。様々な布と、それからわんこを見比べて。
「さーせん、これいくら?」
「お、姉御は洋服作るんデスカ!」
 そうだよと適当に言いながら布地を購入したコルネリア。はじけるような彼女は鮮やかな色合いも負けないだろうと思いながらそれを受け取る。
「そんじゃ骨董品店? だっけ」
「ハイ! わんこ、ふっるい時計辺りが欲しいデス!」
 きらきらと骨董品の魅力を語るわんこに付き合い、その後にはドリンクを買いにいく。だって日中の砂漠、クソ暑いし。
「姉御はやっぱアルコールデスカネー」
「当たり前なのだわ! これがないと生きていけない……」
 わんこはミックスジュースを、コルネリアは――昼間からとか関係ないと言わんばかりに酒を傾けた。
 流石に昼間から酒が飲めるとはいえ、素行の悪い者は速攻とっちめられていく。なので非常に明るく賑やかな雰囲気のバザールを、ニルはあっぷあっぷしながらも進んでいた。
「大丈夫? もう少しだよ」
 その前を先導するのは女子会を終えたレーヴェン。苦笑しながらもやや混雑の緩和された場所へ連れてきてもらい、先ほど購入した串焼きを出す。
「これが、ラサのごはん」
 ドキドキしながらレーヴェンを真似して頬張ってみれば、弾力のある肉の食感とピリリとくる辛さに目を丸くする。
「どう? こういうの。初めてなんでしょ」
 問われたニルは顔を上げて、それから食べかけの串、と周りを見た。
 沢山の人、沢山のご飯、笑顔、楽しい賑わい。
「ニルは、好きです。全部、全部……サンドバザールが好きです」
 ニルの見せる微笑みに、レーヴェンもそっかと笑った。
 人が多ければ休憩のテント内もまた然り、漸く腰を落ち着けた文とイーハトーヴはふう、とひと息ついた。
「沢山歩いたからお酒が美味しいねぇ」
 ふふふ、と笑うイーハトーヴはなにやらご機嫌な様子で。文がそう告げると彼は『とびっきりの布』を見つけたのだと見せてくれる。
「あのね、この生地でシャツを作ったら、その……文お兄ちゃん、着てくれる?」
「もちろん。大切な弟が見繕って、しかも作ってくれるんだ」
 肌触りの良い紺の布は、しかし野花のプリントで重たげな印象を持たせない。落ち着いていて、兄のように慕う彼に絶対似合うだろうとニコニコするイーハトーヴを前にして――文は必死に耐えていた。
(頑張れ年上の威厳、頑張れ外面。いやダメだ、兄と呼ばれたのが嬉しすぎて顔が緩む……)
 小さく咳ばらいをひとつ。文は本屋で見つけた本を差し出す。
「これは?」
「挿絵が切り絵の童話集。イー君、前に図鑑にも興味があるって言ってたでしょう?」
「わ……すごい!」
 ぱらりと開いてイーハトーヴは目を輝かせる。精緻な挿絵に視線が奪われるが、童話自体も優しい動物の、温かな話ばかりのようだ。
 まるでこの一冊が優しい、柔らかい魔法で出来ているみたい。
「ふふ、そうだね。魔法みたいだ。ちょっと遅くなったけどお誕生日おめでとう……ってことで、良かったら受け取ってほしいな」
「え、俺に? ありがとう! ずっと、ずーっと、大切にする!」
 大事で大切な宝物がまたひとつ。殊更嬉しそうな彼に、文は沢山の幸せが訪れんことを願ってやまない。
「マルクさん、早く早く!」
 珍しくグイグイと引っ張ってくるリンディスに苦笑するマルクは「無理もないか」とその歩を早める。向かう先は『本の虫』――文字通りに本の虫たちが集まる場所だ。
「すごい、なんて沢山の本……! 昔の希少な本が見つかればより嬉しいですが、新しく世界に放たれた数多の文章たちとの出会いもありそうですね!」
 目をキラキラさせるリンディスははたと我に返り、少しバツが悪そうに笑う。そんな彼女にくすりと笑い、マルクは並んだ本を眺めた。
「本が書かれた時と同じ時代に読めるのは、同時期に生きている読者の特権だね」
 それが後の世でどう残っていくのかはわからないけれど、今はただ、在るものを楽しめれば良い。
 2人はそれぞれ気になった本を手にし、それはいつしか膨大な数となる。自身で持って帰れぬほどではないが、暫くは本に困らないだろう。
「折角だから、どこかで一緒に読まない?」
「そうですね」
 読み終わったら感想会、ではなくて。読み進めながら新鮮な想いを語り合うのだって悪くない。それにきっと1人で読むより、ずっと楽しいだろう。
「祝! 打倒コルボ! トドメ頂いたゴブリンが感謝を込めて奢っちゃいますスペシャル!!」
「イエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!!
 キドーさんゴチになりまーーーーーーす!!!!」
「やーったぁー! キドーさんのおごりだーっ!」
「きゃーすごーい! いけめん! お大尽様!!」
 ヤケクソゴブリンの声に千尋が、エマが、クルルがヒューヒューと囃し立てる。
 そう、ゴブリンに二言はない。奢るってあの決戦の場で約束したからには悠久のメンバーに山賊、あの戦場に居なかった者まで皆の財布になる覚悟である!
「千尋、ちょっと恥ずかしいから落ち着いて。落ち着いてって!」
 そう諫めたアルメリアも、今回はそれなりに頑張れたでしょうと誇らしげ。幼馴染であるフランも「うんうん!」と全面肯定の構えである。
「てめえら、財布は!」
「おうち!」
「えひひっ!」
「安心してください、持ってきてませんよ」
「遠慮なくゴチになります!」
「ヨシ!!」
 覚悟の、上である。それはそれとして酒や甘いドリンクを多めに買って早々に食べられなくさせようと言う算段ではあるが。
「――そういうわけでレーヴェン、よろしく頼まァ。いやマジで」
「大変だねぇ。まあ善処はするけれど……」
 そう上手くはいかないだろうな、とレーヴェンは集まった面子を見てそっと独り言ちた。
 バザールで食べたいものを買い込み、出張酒場で焼肉と洒落込むのが本日の内容である。レーヴェンはその中でも安価で量があり腹持ち抜群な店を案内してほしいとキドーから伝えられていたが――。
「アッすみません、この店の端から端の食いモン全部貰えますか? あと酒を樽で」
「んなっ!?」
「ほらぁ、」
「ささっどうぞ、我らがお財布サマ、ドドンと!」
 先ほどまで無理すんなよと気遣いの面を見せていたグドルフが掌をくるりと返す。カネ無し彼女無し甲斐性無しのクソゴブリンであっても奢ると言ったからにゃ遠慮はしない。
「ねえ私、野菜スティックに火蜥蜴の串揚げに……マンガ肉も食べたいんだけれど」
「おう――えっ頼む量おかしくない?」
 ぎょっとするキドーにアルメリアは笑う。攻撃魔法をあれだけ撃ち込めば、これくらい食べないと割りに合わないと。
「俺も火蜥蜴の串揚げ3つ! 各味制覇するぜ! アルメリアちゃんフランちゃんエマちゃんにクルルちゃん、スイーツは任せたっ!」
 女子勢へスイーツ探しを任せた千尋は串揚げを食べようという直前で、思い切りの良いキドーの支払いに指笛鳴らすグドルフと目が合う。
「あ」
「あン?」
「い、いえ……シャッス」
 畏怖を浮かべた千尋は串揚げを食べるのをやめてぺこぺこと頭を下げる。急に温度差が下がったような気がした。気のせいである。
「レーヴェンちゃん、これなぁに?」
 クルルはレーヴェンに食べ物のあれこれを聞きながら屋台を周り、どれを食べようかと迷う。目移りしてしまってどれも捨てがたいが――。
「全部頼んじゃえばいいんだよ!」
「なるほど!」
 フランの言葉に全てが解決した。キドーはあんぐりと口を開けていたがそれを意に介さず、フランもまた片っ端から食べ尽くすべく振り返る。
「財布せんぱ……じゃなかったキドーせんぱーい! はやくー!」
 ……こうして既にキドーの財布はピンチであったが、彼らの胃腸は恐るべし。変わらぬペースで焼肉をも平らげて行く。
「うーんどれも美味しい! さいこー!」
「あ、デザートあるよ! どれにしようかなぁ」
「フラン、もうデザートなの?」
 まだ肉あるのに、と言うアルメリアへフランは満面の笑みでこう言った。
「だってデザート食べてその後肉食べて、またデザート食べても許されるんだよ!」
「えひひひ……いやぁ、キドーさんのお財布も無事すっからかんの素寒貧になりそうですねぇ」
 エマは薄く笑みを浮かべながら視線を巡らせる。そこでは先ほどまで乾杯して仲良く飲んでいた男性陣で仁義なき焼肉バトルが始まっていた。控えめに皆へ肉を取り分けたり、ほどほどに食べていたプラックも参戦しているようである。
「あっそれは俺のだ!」
「うるせぇ! 取ったモン勝ちだ!! ……あっ伊達さん、グドルフさん、それは俺の肉!」
「今取ったモン勝ちって言ったのお前だろ!」
 大変仲良しで良きかな良きかな。キドーの表情は――引きつっているようだが。
「キドーさん」
「おう、なんだ」
「また、たくさん稼がないといけませんね、えっひっひ」
 キドーが溜め込んだ分までまた稼ぐには途方もない労力であろうが。再び一緒に沢山盗み稼げるのであれば、それはそれで心躍るというもの。

 それはそれとしていつの間にやら、ぺったんこだったキドーの財布に幾ばくかの金がねじ込まれてはいたのだが、これはさて――誰の仕業だろうか?



「――おい、何でお前らそんなに買い込んでるの?」
 やや呆れたようなアルヴァの声にシキは振り返り、アクアマリンの瞳をぱちりと瞬かせた。
「だってアルヴァの奢りなんだろう?」
「いや、まあ、言ったけど」
「似合ってる?」
 そう問う希はすっかりアラビアン衣装でこの土地に溶け込んでいる。食べ物限定? 知らない知らない。
 彼女から財布を返してもらったアルヴァはぺったんこなそれに顔を引きつらせる。マジか。ラサの依頼が続いていたからかなり懐は温かかったはずなのだが、遠慮のない彼女らによってすっかり寂しいことになっている。
「そんなに食うの?」
「ふふ、今日はこの辺にしておいたんだよ?」
 シキは大飯くらいある買い込みおやつを食べながら笑う。そして遠くで燃え上がった赤へ視線を移した。
「キャンプファイヤー始まったね!」
 周囲で踊る人々の影が伸びてくる。そんなものを見ながら希はふっと笑った。今、この時ばかりは意図的に気分を持ち上げるようなものはいらない。昼間の買い物からずっと、『私』のままで。
「よぅ、1名を除いて楽しくやってるみたいだな」
「あ、世界だ! 一緒にこれ食べる?」
 シキからの菓子を受け取り、世界はアルヴァの隣に座る。何をしていたんだという視線に世界はにっと笑った。
「ちょいと商売を嗜んできたんだよ。いつもの雑貨屋をな」
 賑わうバザールだ、結果は上々。札束を扇のように広げられるくらいには。アルヴァからすればちょっと鬱陶しくはあるけれど――。
「ったく、とにかく今回はありがとうよ」
 皆が揃い、アルヴァはそう告げた。1人では勝てなかった相手も、ここにいる皆が――トモダチがいたから勝てたのだ。
「ふふ、どういたしましてぇ」
 にへらりと笑ったシキはご飯を進め、より一層盛り上がってきたキャンプファイヤーに希はシキの手を引く。
「踊る?」
「うん。今日の私は、すごくテンション高いよ?」
「望むところさ!」
 くるくる、くるくるり。
 楽しそうな2人を見ていた世界もまた手招きされて立ち上がる。アルヴァの手も、引きながら。
「俺も?」
「今回の主役だろう」
 主役がいてこそ始まるのだと世界は小さく笑って、4人は炎に照らされながらその影を揺らした。
 人々がキャンプファイアヤーの周りを踊る中、アルトゥライネルもまた舞い踊る。
 此度の勝利を謳うために。
 天へ昇る魂が眠るために。
(俺に出来るのは、ただそれだけだ)
 砂の地を踏み、手を鳴らし、空高く見据える。そこにぽっかりと浮かぶ月は何もかもを見て、知っているのだろう。様々な想いを抱え、静かに沈んでいく。
 これは昨日の行方を見送り、新しい明日を生きる為の――できなかったことばかりに目を向けない為の、別れの儀式だ。
「みてみて、なんかテンション上がる!」
「あんまり近づきすぎると危ないよ、ミスト」
 そこへいそいそ近づこうとするミストを諫めるミスティ。傍らのトリヤデも燃えてしまうかもというとミストは目をまん丸にしてそれを見る。
 多分鳥。きっと鳥。
「トリヤデー」
 うん、こう言ってるし鳥なんだろうとミスティは思うことにした。
「トリヤデさん燃えないって言ってるよ!」
 例え、燃えない鳥だとしても鳥なんだろう。うん。
「じゃあミスティ、あっちのサーカス見に行こ?」
 ミストは次なる興味を流れのサーカス団へ向ける。何やら見世物をしているようだと向かえば、そこでは猛獣使いが芸を披露しているようで。
「すごいね」
 素直に感嘆するミスティの傍ら、ミストはトリヤデへ視線を向けた。
「僕とトリヤデさんも、それっぽいことできそうじゃない? かわいさと賢さを活かしてぇ……」
「そんな賢いっkなんでもない」
 途中で誤魔化したのはトリヤデがすごく、ものすっごく見てくるからである。賢いらしい。
「ねえトリヤデさん、せっかくだから火の輪くぐりでもしてみる?」
「ヤデ!?」
「……いや、燃えないって言ってても流石に」
 ぎょっとするトリヤデと、苦笑しながらやんわり止めようとするミスティ。
 果たして、トリヤデが火の輪くぐりをしたかどうかは――彼らと観客たちのみぞ知る。
 賑やかな夜の宴も、徐々に終わりへ近づいてくる。その気配を感じながらエルスは空を見上げた。
(竜首狩り……だなんて。私1人ではまだまだどうにも出来ない相手だった)
 目を閉じれば思い出されるのは、この地で繰り広げた戦い。どれだけ強さを追い求めても『それ以上』を目の当たりにする。
 それでも――ラサを脅かす者があれば、特にそれが妹であれば尚更。エルスはその大鎌を振るい命を刈り取ることだろう。
(でも、暫くは静かな日々が……いえ)
 きっと賑やかね、とエルスは笑う。盗賊や傭兵がいるこの土地は、きっと静謐という言葉からは遠い場所。それに、そのほうがラサらしい。
 砂漠は日中暑く、夜は冷え込む。暑さの和らいだ時間帯を選んで待ち合わせた未散とヴィクトールは、人の喧騒や楽団の音楽、燃え盛る炎を遠目に眺めていた。
 ほんの少し冷えるけれど、温もりを感じられるのはヴィクトールのマントの中へ未散がお邪魔しているから、触れる箇所は温くて、けれど頬を掠める指はひんやりとしていて。
 それでも火に近づかないのは――あの場所は明るすぎて。この場所が、落ち着けて。
 いつしか2人はそろって月と星を見上げていた。遮るものない夜空は広く、キャンプファイヤーも終わってしまえば灯も少なく。ヴィクトールが店じまい前に買った飲み物を飲みながら、美しい夜空を黙って見上げていると辺りは静寂ばかりになり。
「飲み終わったら、帰りましょうか」
「……そう、ですね。正しく今。見入ってしまっておりましたから」
 月の魔力とでも言うのだろうか。このまま見入られ続ければ、冬抜けたばかりのいまは冷え切ってしまう。
「真っ暗」
「ええ」
 まるで、世界に2人が取り残されたよう。
 まるで、夜空が2人を見下ろしているよう。
(もう少しこうしてても良いんですけど、ね)
 ――なんて。言ったら貴方はそうしてくれるのでしょうか。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 レーヴェンがちょこちょこ構って貰えて嬉しかったです。今後とも仲良くして頂ければ幸いです。

 それではまたのご縁をお待ちしています。

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