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シナリオ詳細

<ヘネケトの祝福>festival of merchant

完了

参加者 : 17 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●商人たちの会合
 ラサ、ネフェルスト。
 その一角にある屋敷の一室に、彼らは集められていた。
 シンプルな作りながら、その意匠には繊細な美が込められた応接室である。
 華美ならず、しかしてその威光は存分に発揮する――高貴さと、親しみやすさをバランスよく併せ持つ館の持ち主、タルジュ・タマームの性質を良く表していた。
 応接室に集められた面々も、そのタルジュと同等かそれ以上の『ひとかどの商人』達である。そして同時に、決して『油断ならぬ人物』でもある。そうだろう。その誰もが『商人として指折りに数えられる』人物たちだ。ラサには多くの商人たちがいるが、その中でも『指折り』にカウントされる存在となるのは、並大抵の努力では到達できない。表裏、清濁併せのむ度量が必要とされるし、もし清廉潔白を貫くのであれば相応に支払う対価も増大する。集められた彼ら商人は、そう言ったものを踏み越えて成り上がってきた傑物たちだ。
「まずは突然の招待に応じてくれたこと、感謝する」
 タルジュが恭しく一礼した。隣には、にこにこと笑う獣種の少女が立っている。ライラ・フラ・ラウラと名乗ったその少女は、表向き、今回の商人たちの接待役を名乗っているが、実際にはタルジュの護衛であることは明白であった。もちろん、護衛を立てているのはタルジュだけではない。その多くが付き人と言う名の護衛を連れているし、例えばハッターム・ランランなどは、その懐に『この場にいる全員を五回殺してもお釣りがくる』ほどの威力があるというマジックアイテムを隠し持っている。
「おう。タマーム。わざわざ俺様を呼んだんだ。ツマラネェ話だったら殺すぞ」
 『アギラ・ピーコ商会』代表、ファジル・ア・サンダクリーが、獰猛に笑いながら言った。冗談のように聞こえるが、そこに本物の殺意と挑発の色が乗っているのを、誰もが感じていた。その上で、全員が涼しい笑顔を向ける。
「その件に関していえば、皆にとっても益の話であると保証しよう。さて、『ファルベライズ事件』は、皆には承知のことだと思う」
 タルジュの言葉に、商人たちは頷いた。ほんの先日、ラサ・ネフェルストを危機に陥れた一大事件はラサに多くの影響を与えた。
「ええ、ええ。おかげで得をした方、損をした方。私共も、色々と伺っておりますよ」
 『アンジェリカ商会』次期代表、イスラフィール・アンジェリカは微笑みながら、ハッタームへと視線を向ける。『損をした方』。表向きは珍獣の売買を行っている動物商人であるハッタームであるが、その『動物』には『人間』も含まれていることを、世間は知らずともこの場にいる人間が知らぬはずはない。今回の件でラサのブラックマーケットも大きな損害を受け、些か商売がやりにくくなったのは事実である。
「ほ! ほほ! 確かに私どもも、『動物』が売れにくくなりましたなぁ。このような状況では、『珍獣』を買ってくださる方々の財布の紐も硬く締まるのも当然というモノ」
(奴隷商め……)
 内心で軽蔑の視線を送りながら、『シャーヒル商会』代表、シハーブ・アル・シャーヒルは笑みを崩さずに、声をあげる。
「となると、もしや各地への支援のお願い、となるのか?」
 シハーブの言葉に、他の商人たちから様々な視線が投げかけられた。同意、反目、嘲笑。それらを受けつつ、シハーブは続ける。
「確かに此度の事件では、各地に損害は大きい。その支援に関してなら、俺の方で異存はない」
「ああ? 支援だ? ふざけてんのかテメェ」
 ファジルが不機嫌そうに顔を歪める。「まぁまぁ、落ち着き給え」タルジュがそれを制した。
「支援、と言う点ではある意味そうだ。だが、我々は商人でもある。ただ金をばらまくとしたら、それは為政者のやる事であり、我々は同時に、己が益となる様に動かなければならない」
 為政者、と言う言葉に、商人ギルド『ジャウハラ』の首魁、ムゥ・ル・ムゥが反応した。
「為政者のために働くことも、やぶさかではありませんが――」
 おそらくは、赤犬の姿を思い浮かべているのだろう。こほん、と咳ばらいを一つ。ムゥは恋する乙女から、商人のそれへと思考を切り替えた。
「なるほど、益となるやり方。その上で、このタイミング。『宴』を開くおつもりですね?」
 ムゥの言葉に、タルジュは満足げに頷いた。
「流石ジャウハラのムゥ殿。話が速い」
 タルジュは頷いてから、続ける。
「ローレットの彼ら風に言えば、『祝勝会』を、私達で開くのだ。もちろん、街をあげての大祝勝会をね」
 つまり、ここにいるメンバーがスポンサーとなり、街をあげての祭を開催する、と言うのが、タルジュの提案のようだ。
 これは、金をばらまくだけ、と言う事ではない。理想的な展開を述べるにとどまるが、まず、ここにいるメンバーが会場の借り上げ、各種商人、技術者などへの発注など行い、消費の呼び水とする。流れた金は、その商人や技術者から、さらに発注を受けたモノへと流れ、最終的には従業員などの一般市民へと流れて行く。これは一つの、ラサの民への支援ともいえる。
 祭という事で、国外からの観光客が金を落とすことも期待できる。そしてローレットのメンバーも、ただ接待を受けるだけではなく、街で買い物などもするだろう。そうなれば、ラサに、そしてスポンサーとなった彼らにも、金が入ってくる。
 さらにスポンサードという事で、商会の宣伝にもなるだろうし、ローレットのメンバーと繋がりを持つこともできるだろう。タルジュの本音を言えば、ローレットのイレギュラーズ達と繋がりを持つことも、この祭の大きなメリットの一つであると考えていた。タルジュとて、清廉潔白な人間ではない。その裏では相当の後ろ暗い欲望が渦巻いており、その解消の手段として、ローレットのイレギュラーズの力を借りることができるきっかけとなるならば、タルジュ個人としては、この程度の金などは惜しくは無いのである。
 そして、そのメリットは、他の商人たちにとっても魅惑的なメリットであった。
(……ローレットのイレギュラーズは、ディルクさまと懇意にしている人もいるはず……間接的に、ディルクさまから私への評価が上がっちゃったりして!?)
 ムゥは恋する乙女だったし、
(ローレットのイレギュラーズか。縁を持てれば、スラムへの支援事業の手伝いなどを依頼できるかもしれないな……)
 シハーブは、自身の事業への関連を期待していた。
(ローレット、ですか。彼らの情報網を利用することができれば、『色々と』利点がありそうですね)
 イスラフィールはその柔和な笑顔の裏に暗躍を意図していたし、
(ははぁ、面白れぇ玩具が手に入るなら、乗ってみるのも手だな。監獄島とのやり取りもしやすくなるかもしれねぇ)
 ファジルは『本業』に関して思いをはせる。
(ローレット……イレギュラーズ……上手くすれば『旅人(ウォーカー)』が手に入るかもしれねぇなぁ?)
 ハッタームは黒い欲望をぎらぎらとみなぎらせていた。
「さて……いかがかな? 諸君」
 タルジュの言葉に、
「意義はありません」
 イスラフィールが笑って頷いた。
「ええ、ええ。とても魅力的な提案です、タマーム様。アンジェリカ商会として、出資をお約束いたします」
「私共としても、ええ、精一杯お力添えをさせていただきますよ」
 ハッタームが揉み手などをしながら言う。
 残るメンバーにも、異存はなかった。
 誠実さと、欲望。
 まさに清濁が混在する、夢と欲望の国、ラサのごとし会談は、こうして成功裏に終了した――。

●商人たちの祝勝会
 さて、祭の準備は急ピッチで進められた。街の至る所に様々な飾り付けが施され、通常よりも多くの露店や屋台が立ち並び、商人たちは空前の『稼ぎ時』に声を張り上げる。
 その街の様子を眺めながら、あなた達イレギュラーズは街を行く。戦いが終わったばかりであるが、前述したとおり街には活気が満ち溢れている。街をあげてのお祭り騒ぎに、自分たちも気分が高揚すると言うものだ。
 賑やかな道をしばし行き、やがて見えてきた大きな建物の中へと入る。そこは商人たちの用意した宴会場であり、様々な料理や酒が、所狭しと並べられていた。スポンサーたる商人たちも、イレギュラーズ達と縁を持とうと手ぐすねひいて待ち構えているようだ。
 そこにどのような思惑が在れど、今日くらいは、羽目を外してもよいだろう。イレギュラーズ達は、今日と言う日を、どのように過ごすか考え始めた――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此度の戦いの祝いと、商人たちが大規模なお祭りを開催してくれたようです。
 そこにどのような思惑が在れど、宴は宴。皆さんは気にせずお楽しみください。

●成功条件
 めいっぱいたのしむ!

●状況
 ラサの街では、今回の戦いの勝利を祝い、そして皆さんをねぎらう為商人主導によるお祭りが開催されています。
 

●行き先
 【1】メイン会場:食事や会談を楽しむ
  大きな屋敷を借り上げて設置された、立食パーティの会場です。
  様々な料理やお酒が、皆さんを楽しませてくれるでしょう。
  会場にはOPに登場した商人たちや、皆さんと関係する商人の皆さんもいるかもしれません。
  これを機に、縁を結んでみるのもいいでしょう。

 【2】商店街:買い物や買い食いを楽しむ
  立食パーティでは少し堅苦しい……と言う方は、街の商店街をぶらついては如何でしょうか?
  お店や屋台、露天などが立ち並ぶラサのメインストリートは、きっと皆さんの気に入るアイテムや食べ物があるはずです。
  お気軽に、散策してみてください。

●プレイングの書式
 一行目:【行き先の数字】
 二行目:【一緒に参加する仲間の名前とID】、あるいは【グループタグ】
 三行目:本文

 の形式での記入をお願いいたします。
 書式が崩れていたり、グループタグ等が記入されていなかった場合、希望の個所に参加できなかったり、迷子などが発生する可能性があります。

プレイング記入例
【1】
【ファーリナさんとゆかいな仲間達】
ご飯をたくさん食べる!

●諸注意
 基本的には、アドリブや、複数人セットでの描写が多めになります。アドリブNGと言う方や、完全に単独での描写を希望の方は、その旨をプレイングにご記入いただけますよう、ご協力お願いいたします。
 過度な暴力行為、性的な行為、未成年の飲酒喫煙、その他公序良俗に反する行為は、描写できかねる可能性がございます。
 可能な限りリプレイ内への登場、描写を行いますが、プレイングの不備(白紙など)などにより、出来かねる場合がございます。予めご了承ください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <ヘネケトの祝福>festival of merchant完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2021年03月16日 22時10分
  • 参加人数17/50人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 17 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(17人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ゲッカ(p3p000475)
特異運命座標
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
シラス(p3p004421)
超える者
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
一条 夢心地(p3p008344)
殿
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
久泉 清鷹(p3p008726)
新たな可能性
ネイルバイト(p3p009431)
筋肉植物の親友

リプレイ

●宴の中の攻防
 様々な酒や料理が所狭しと並べられた、立食パーティの会場。そこでは参加したイレギュラーズ達へ、引く手あまたと次々と商人たちが顔見世にやってくる。イレギュラーズとのコネづくりは、商人にとっても得難い報酬だ。イレギュラーズにとっても、商人たちとのパイプは、重要なものだったかもしれない。

「タルジュ・タマーム。それが『精霊狩り』の依頼主か」
 シラスが、傍らのユリアンへと声をかける。ユリアンは骨付きチキンなどを齧りつつ、
「ああ。言ったと思うけど、一筋縄じゃぁ行かねぇ相手だぜ。くれぐれも取り込まれんなよな」
 にやにやと笑った。それは、「お前なら大丈夫だろうが」という信頼の類か。シラスをはじめとした一行は、タルジュの元へとやってきた。
「ふむ……シラス君だね。お会いできて光栄だ」
 ゆっくりと、優雅に一礼をするタルジュ。此方の事は調査済みらしい。
「ええ。先日の件ではどうも」
 此方も、お前のことはちゃんと調査済みだ、という意を見せる。重要なのは、対等の存在としてこちらを見せることだ。
「品物はどうでした? また探し物があれば、いつでもご用命を。俺はもちろん、ここにいる連中はみな一流ですから」
「あんたが『偉大なる』タルジュさんかい。俺はキドー。仕事には満足頂けたかい?」
 キドーは大仰に一礼をして見せてから、にぃ、と笑った。
「必要ならばいつでもご用命を。俺は物を『持ってくる』のは得意なんだ」
「きみがキドー君だな。報告には聞いている。君の存在が成功の鍵だったと」
 タルジュは笑った。人好きのする笑みだったが、故にキドーは警戒していた。こういう笑い方をする奴ほど怖いのだ。
「君たちに敬意を表して、私も腹を割って話そう。私にはほしいものがある……それも、山ほどね」
「なら、アタシは狩り、得意だよ。何かあればご用命くださいな」
 ジェックは表情を変えず、淡々とそう言った。「それと」と、ジェックは言うと、
「一つだけ教えてあげる。角も良い物だったけど、鹿肉は言葉をなくすくらい絶品だったよ。次は珍味に興味を持ってみるのも良いんじゃない?」
「ああ、ありゃあ、ホンット美味かったな」
 キドーがけけ、と笑う。
 タルジュはその様子に、一瞬、目を丸くしてから、実に愉快そうに笑い声をあげた。
「ははは! 喰ったか! アレを! いや、報告には聞いていたが、実に……!」
 タルジュはシラスへ視線を移すと、
「君の仲間は実に興味深いな。ユリアンから聞いていた以上だよ。個人的な部下として重用したいものだが、そうはいくまいな」
「すみませんけれどね。でも、赤犬ばかりが傭兵商会連合の顔ではない。そう思ってますよ」
 シラスはにこやかに笑ってみせる。どうやら、ビジネスパートナーとしてこちらを印象付けることには成功したようだ。
「ああ、そうだ。これは今後上手くやってくうえでのお願いなんだけど」
 と、声をあげたのはサンディだ。
「バカな領民が襲っちゃうかもしれねーから、お抱えキャラバンに家紋とかあったら教えてくれると助かるぜ」
 試すような視線を、サンディは向ける。タルジュは気分を害した様子もなく「そう言う事もあるだろう」というと、
「こちらとしても、君の領民を傷つけることは避けたい。後ほど我が商隊の印の写しを渡そう。出来れば見逃してくれるとありがたいものだ」
 そう言うのである。サンディはにこやかに笑ってみせて――それから、思わず「げっ、リアじゃねーか」と声をあげた。
 その視線の方を見てみれば、何かあちこちをきょろきょろと見やりながら、此方へとやってくるリアの姿が見えた。正直、あまり悪だくみをしている所を見られたくはない。
「あ、あなた達! ちょうどいい所に……あれ? こっちのイケメンさん、確か主催者の? ははぁん、みんな抜け目がないのねぇ」
 何かを察したように肩をすくめてから、「っと、そうじゃない!」と声をあげ、
「あたし今変な女に追われてて困ってんのよ!
 あたし、あの辺に隠れるから、その変な女が来たらうまーい具合に誤魔化してくれないかしら? よろしくねっ!」
 自分を追いかけてくる『旋律』に顔をしかめつつ、リアが姿を消す。それと入れ替わりに現れたのは、タルジュの部下でもある、ライラだ。
「あっれー、おかしいなぁ。リアリアの音、この辺でしたと思うんだけどぉ」
 ライラはきょとん、とした表情みせると、タルジュの腕をつかんで、ぶんぶんと振り回した。
「ねぇねぇタルジュ様ぁ、この辺で黒髪の女の子、見ませんでしたかぁ?」
 タルジュはにこやかに笑うと、静かに首を振った。周りを見てみれば、イレギュラーズ達も視線をそらすので、ライラは思わず、首をかしげてしまうのだった。

「お初にお目にかかる。私はローレットの一員であり、この度豊穣から参った久泉・清鷹と申す者だ」
「同じく、特異運命座標の一人。ベネディクトと」
 清鷹とマナガルムが声をかけたのは、『アギラ・ピーコ』商会のファジルだ。ファジルは遠慮することもなく、分かりやすい値踏みの視線を、二人へと向けた。
「おう。俺様に声をかけてきたことは褒めてやるよ」
 にぃ、とファジルは笑う。追い返さなかったのは、彼の勘の鋭さが、「この二人は会話に値する」と告げていたからだ。同時に、清鷹とマナガルムもまた、ファジルの纏う商人とは思えぬ『空気』に内心首をかしげていた。
(……ラサの商人は一癖も二癖もあるというが。これは)
 清鷹は内心、呟く。この男は、危険かもしれない。だが、どう自体が転ぶにせよ、今はこの男と少しでも縁を持っておくべきだろう。
「貴殿もこの祝勝会のスポンサーの一人と聞き及んでいる。
 礼を言う事も兼ねて、一緒に酒でも飲もうかと参じたのだが良いだろうか?」
「ああ。これはお前らのための宴だ。飲んで喰え。それでついでに、縁を持てたら嬉しいねぇ?」
(この男、野獣のような眼光……油断は出来んな)
 マナガルムは内心警戒しつつも、
「では、改めて乾杯を。戦いの勝利を祝って」
 グラスを掲げる。かくして三人は乾杯をとると、ゆっくりと酒を酌み交わした。

 アルトゥライネルは、乾いたのどに冷たい水を流し込んでいた。疲労が冷たさに溶けていく。
「やれやれ……こうも次々と商人たちに囲まれると、気が休まらないものだ」
 英雄たるイレギュラーズ達の元には、縁を持とうと次々と商人たちがやってくる。アルトゥライネルはそれを、身に着けた礼儀作法などを駆使して適切に捌いていく。縁を持つべきものとは良縁を。そうでないものとは穏便に別れ。
「まったく、誰のためのパーティなのやら。でもこれも、ラサらしいのかな」
 苦笑しつつ、会場へと目をやる。さて、少し休んだら、また見定めることとしよう。そう、此方もまた、商人たちを計っているのは間違いないのだから。

「これから会うのは、リエンタ商会の代表だ。主に鉄鋼資源で財を成した商会だな」
 父(ラルグス)からの助言を頭に叩き込みながら、ラダは頷いた。今回ラダは、ジグリ商会の一員としてのあいさつ回りに従事していた。様々な商人たちとあいさつを交わし、名を交換する。あまりそう言った交流になれていないラダであったから、些か疲労は蓄積していた。それを感じ取ったのだろう、
「……すまん、ここは一息つくか」
 ラルグスが言う。ラダは「いや」と頭を振って、
「大丈夫だ、父さん。このくらい、ローレットの仕事に比べたら軽いものだよ……それより」
 ラダは頭を振りつつ、ため息をついた。
「先ほどから父さんに紹介されている相手は、どれも『真っ当な商会』ばかりだ。私も商人だよ、父さん。後ろ暗い連中のあしらい方くらい理解しているさ」
 じろり、と見つめる娘へ、父は苦笑した。
「気づいていたか。だが、お前を見くびっていたわけではない。先日の戦い、その復興に特需の湧く取引先を優先していたのだよ」
「だと良いけれどね」
「では、一つ危険度をあげるか」
 些かふてくされていた様子の娘に、父は一つ、試練を与えることにした。
「サポートは俺が行う。が、主だった挨拶と交渉はお前がすると良い」
「いいとも。では、早速挨拶に行こうか、父さん」
 立派に育った娘の姿に、父は安心を覚えるのであった。

「おお、ハッタームではないか! 商売繁盛しておるかの?」
 パンダの獣種の商人、ハッタームへと声をかけたのは、夢心地である。夢心地は、ハッタームのお得意様だ。もちろん、珍獣商人としてのハッタームの、である。
「おや、夢心地様! まさかおいでいただけるとは!」
 むにむにと揉み手をしつつ、ハッタームが夢心地を迎える。ハッタームにとっても、夢心地は妙に気の合う上客であったから、こうして会いに来てくれたことは素直に嬉しい事であった。
「そなたには色々と世話になっておるのう。そなたは愛想もよいが、特に品揃えが良い! カカポ、アルパカ、コモドドラゴン、いわし……こうも貴重な動物を集めるそなたに、実は仕入れてもらいたいものがある!」
「ほ、ほ! なんなりと!」
 ぐい、と二人は顔を近づけ合うと、
「じつは、次はあらいぐまに流行の兆しあると、麿は踏んでおるんじゃよ。麿の領地経営がもう少し軌道に乗ったら、是非あらいぐまを入手したい……!」
「おお、お目が高い! よいですとも。このハッターム、命に代えましても仕入れて見せましょう!」
『わーっはっはっは!』
 気分良く笑い合う二人。……しかし、二人はお互いの正体を、旅人(ウォーカー)と奴隷商であるという事を、知らないのである……。

「相変わらずラサの商人という連中は胡散臭い。質が悪い。禄でもない。さて、どれが当てはまると思うかね?」
 酒の入ったグラスをわずかに傾け、愛無は目の前の商人へと、そう告げた。
「僕としては「全て」と答えるのだが。君はどう思うね。ムゥ・ル・ムゥ」
 ムゥは「あはは」と苦笑いをすると、愛無へと視線を向けた。
「今となっては、私もラサの商人ですよ、愛無様?」
「君は多少はマシだ。顔をあわせて酒を飲もうかと思うくらいには。領土も任せているわけだしね。これからもよろしく頼むよ」
 言い方はキツイものの、しかし信頼関係はしっかりと築かれているのがこの二人だ。
「……其れは其れとして。赤犬との仲は進展したのかね」
 げほっ! と、ムゥは思わずむせ返る。予想外の問いだった。ムゥはディルクの事を想ってはいるのだが、中々に接点が無いのが実情だ。思わずあわあわと慌てる様子へ、愛無は呆れたように目を細めた。
「その様子では望み薄だぞ? いいかい、大切なモノはキチンと手の中に閉まっておかないと、すぐに何処かに行ってしまうものだ。気を付けたまえよ」
 どこか寂し気に、愛無はそう言うのだった。

●露店の立ち並ぶ街角で
 さて、本会場を離れて街の中へ。
 そこには、今日のお祭り騒ぎに合わせた、大量の屋台や露店が並んでいる。

「エルス! 戦いも終わった事だしこれでゆっくり選べるんじゃない?」
 と、オーデーが言うので、エルスは思わず小首をかしげてしまった。
「え? ゆっくり選ぶ……? な、何の事かしら……っ?」
 その様子に、オーデーははぁ、と大きくため息を一つ。
「何の事って? それ本気で言ってるの? いつもの天然? ツンデレ?」
「てん? ツン?? も、もう! な、なんの事なの??」
「んもー! あの赤犬の誕生日あと一ヶ月後くらいじゃなかったっけ??」
 あっ、とエルスは声をあげた。赤犬、つまりディルクの事だ。
「お、覚えてるしそろそろ考えなきゃとは思っていたけれど! オ、オーデーが不安になる事?」
 ぱあっ、と顔を赤らめ、エルスは些か早口で言葉を続ける。
「でもあの方は忙しいし……沢山の女性からプレゼントが……」
 そんな様子のエルスに、オーデーはぱん、と肩を叩き、
「そんなネガティブな話はいいからさ! ほんっとエルスは赤犬に弱いんだから……」
 呆れたように言う。とはいえ。エルスにとっては本気の悩みだ。去年のプレゼントは、センスが死んでいた気がするし、冷静に考えれば、ディルクの好きなものなんてお酒しか知らない。知らないことが、多すぎた。もっとディスクの事を知りたい。でもそのためには、どうすればいいのだろう……?
「もう、そんなに考え込まないでよ!」
 オーデーの言葉に、エルスは我に返る。こほん、と咳払い一つ。
「ちゃ、ちゃんとプレゼントについては考えるわ。でも、今日は戦勝のお祝いの日。ほら、一緒に喫茶店でお祝いしましょ!」
 と、オーデーを連れて喫茶店へとはいっていくのであった。

「活気のある所だね! ヴァリューシャ!」
「お祭りの需要を当て込んで、さっそくたくさんお店が並ぶだなんて、なんだかラサらしいですわね?」
 マリアとヴァレーリヤ、二人は手を繋いで、街を行く。戦いの時では、ふとした拍子にはぐれてしまった二人。今度ははぐれないように、二人はしっかりと手を結んでいた。
「決戦の時……ヴァリューシャを見つけた時、思わず抱き締めちゃってごめんね」
 苦笑しつつ、マリアが言う。ヴァレーリヤは「いいえ」と頭を振ると、
「ふふ、でも嬉しかったですわよ?」
 なんて笑うので、マリアは嬉しくなってしまったりするのだ。
「え、えと。今日は露店を楽しもうか!」
 ごまかすようにマリアが言うのへ、ヴァレーリヤは頷いた。
「そうですわね。あ、マリィ、あのトマトの煮込み料理、美味しそうじゃありませんこと?」
「ほんとだ。トマトの香りが落ちつくね……私はやっぱり、お肉の串焼きが食べたい!」
 元気そうに言うマリアへ、
「ふふ。では、二つとも買って、二人でシェアしましょうか」
 ヴァレーリヤが提案する。マリアは元気良く頷き……「そうだ」と声をあげる。
「せっかくだから、何か小物でも買って行こうか? 新居に置きたいんだ。このままだと殺風景だしね」
「あら、いいですわね! 絨毯とか……でも、やっぱり高いのかしら? あ、マリィ、あのペアグラス、綺麗じゃありません?」
 と、指さした先の露店には、綺麗なペアグラスが並んでいた。
「ほんとだ! せっかくだし、奮発して買おうよ!」
 マリアが露天の前にしゃがみ込む。後ろから覗くヴァレーリヤ。幸せそうな二人の顔を、ペアグラスは映していた。

「なるほど……リズックラー殿のような仕事だと、準備の段階が一番忙しいのだな……」
 アーマデルは、宴用の資材の納品に訪れていたリズクッラーと偶然に会い、二人で道を歩いていた。アーマデルは、リズックラーの荷物を、両手に抱えている。
「オレのような運送業はな……アーマデル、ほら、これは美味いぞ」
 と、リズックラーはアーマデルの口に串焼きの肉を突っ込んだ。もぐ、とアーマデルが咀嚼する。
「美味い」
「それはよかった」
「準備の仕事、か。俺の仕事は分業制だったからな。下調べする者、侵入と撤退を補助する者、実行者……みたいな感じで。リズックラー殿みたいに、何でも一人で、とか、事前準備が得意な人は尊敬するぞ」
 真顔でそう言われたので、リズックラーは少し気恥しくなった。
「別に、オレだって何でも一人でこなしてるわけじゃぁねえよ。UMAが無けりゃ荷物は運べねぇし、人手だってほしい……そう言えば、子供を引き取れって話、どうなったんだ?」
 子供……今回の戦いで遭遇し、保護した子供たちの事だろう。アーマデルは頷くと、
「ああ。ひとりは俺が引き取った……でも、まだ保護されてる子達は居る」
「そうか。ま、相談には乗ってやる。オレが引き取るとしたら、どんな年齢でも仕事はしてもらうけどな」
 ぶっきらぼうながら、そう言ってくれたことが、アーマデルにはなんだか嬉しかった。

 ふと視線を感じた気がする。後ろを振り返っても誰もいない。気にしすぎかもしれない、とゲッカは苦笑した。
 とはいえ、旅人(ウォーカー)を狙う奴隷商は居るのだ……自分等は恰好の商材かも知れない、という思いはあった。
 欲望と、綺麗事と。玉石混交の地が、ラサだ。ゲッカはその空気を吸いながら、今は宴の雰囲気に、身を預けるのであった――。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 ファルベライズの戦い、お疲れさまでした。
 次なる戦いの始まり迄、僅かでも、心と体を休めることができたならば幸いです。

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