PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<希譚>ぶっ殺しまくれ! 『屍行列』!<呪仔>

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『屍行列』
「倒したか?」
「ああ、もう10人はな」
 どこかに積まれた堆肥と、血と肉が腐る悪臭が周囲に漂う。バカみたいに大きな月と眼に疲労を与える街灯の点滅が俺達の気を参らせる。
 俺は深呼吸で体の調子を整えると刀にこびりついた黒い血を振り払う。相棒は自慢のリボルバーの様子を確認しながら慎重に一つずつ弾を装填していた。
 どちらもこの国には――いや、この『希望ヶ浜』では、混沌を拒絶した者達が住む偽りの日本にはあり得ない光景だろう。
「そうか、こっちは12だ」
「ったく、数が多すぎる。石神支社から離れたここでこんなにかよ」
 全くだ、イレギュラーズが来るまでの先行調査と聞いていたが余りにも数が多すぎる。疲れと人だったものを斬る感覚に腕が振るえる。
「ぞっとしねえな。このゾンビが元は一人一人の人間で、こいつらのそれぞれにも俺らみたいな人生の流れがあったと思うと――」
「おい、バカ、考えすぎるなっていわれただろ……?!」
 ふと、途方も無くなる事を考えてしまった。しまったと刀を構えなおした時にはもう遅い。
「な、なんだこいつらは?!」
 俺達は後方から突然何かに押し倒される。咄嗟にそいつを切り伏せ、立ち上がった時には数百もの死体の群れが。
「か、『屍行列』だぁ!」
 相棒のその悲鳴が、俺の最後の記憶となった。

●意訳:この辺に雑魚ゾンビがいっぱい沸くらしいよ?
「……念のために、もう一回せんせーが説明します」
 数日後、惨劇があった道路からそう遠くない静まり返った道路で、幾人かのイレギュラーズ達に『いねむりどらごん』カルア・キルシュテン(p3n000040) が隠していた装備品の入った大きな箱を空けながら状況を説明する。
「簡単に言うとゾンビ退治、学園が予測したポイントで、迎え撃つ予定」
 再現性東京の『田舎』、石神地区には様々な都市伝説が伝わっている。卵が先か鶏が先か、その偽りの世界に造られた物語が『真性怪異』として狂気を振りまく存在と化している。
 その対象はイレギュラーズであっても例外ではない。現に何人かが連れ去られ、その救出の代償としてこの依頼をローレットが受ける事になったのだが。
「私達が倒す『都市伝説』はあるゾンビの群れ……『屍行列』って呼ばれてる」
 それはある法則に基づき、死体の群れが大名行列の如く集団移動を起こし、邪魔する者を全て殺し取り込んでいくという。決して強いなどとは口が裂けても言えない連中だがそれはあくまで戦えるイレギュラーズ基準での話。このような増殖と狂気伝染を繰り返す様な集団を放っておいては、石神地区に住まう人々がどれだけ犠牲になるかわかったものではない。
「先に調査に行った人達も行方不明になってるんだって! 早く行ってばったばった倒して助けに行かなくちゃね!」
「……メープル、いつから」「最初から!」
 装備箱から飛び出した『おてんばメープル』メープル・ツリー(p3n000199)に台詞を奪われたカルアがため息をつく。そしてこれ以上の情報も不要と判断すると立ち上がり、長槍を背負うのであった。

「いこっか、それと……あなたもあの子くらい頭軽くしていった方がいいよ……」

 だって。考えすぎると、きっと連れて行かれちゃうから。

GMコメント

 こんばんは、塩魔法使いです。
 全2~3章予定のラリーとなります。

●成功条件
 ・『屍行列』の撃退
 ・『屍行列』の再発防止
 ・全イレギュラーズの生存、帰還

●第一章『屍行列』
 希望ヶ浜の石神地区。その寂しげな田舎の一角です。
 ひび割れたアスファルトに寿命が近く点滅する街灯、道の左右にある坂の下の、希望ヶ浜の都会に新鮮な白米を提供しているであろう田園も今は死んだように眠っている。
 こんな開けた所にお化けなんて襲って来るはずがない、そう思っていると、ほら。

○ゾンビ x???
 何らかに触れてしまい狂気を受けた死体や魂を抜かれた者の成れの果て。
 どこからともなく次々と現れイレギュラーズに襲い掛かってくるでしょう。
 数は3桁以上、数えるだけ無駄。でも一体一体はそんなに強くなく召喚されたての丸腰のイレギュラーズでも1体は倒せる。頭からっぽにして無双してやりましょう。
 これだけの群れとなると彼らを統率する核がありそうなものですが……。

●プレイング書式
 1行目に【タグ】+人数(一人なら空行)、2行目以降は自由。
 必須ではありませんが、迷子を避けたい場合はどうぞ。

例:
【最強軍団】3人
ゾンビなんて自慢の魔砲で吹っ飛ばしてやる!

●NPC
 戦闘が不安な場合は、以下のNPCのどちらかにサポートをお願いできます。
 NPCは同行イレギュラーズに合わせてレベルシンクされます(下限・上限あり)。
 同行の有無に関係なく、絡みが無ければ描写量は最低限に押さえます。

○カルア
 盾役、反応が凄く低い。名乗り口上や防御技術【変動】スキル、再生+反射のパッシブを持ちます。なんで教師姿だって? 趣味さ。
 
○メープル
 回復力優れる癒し手です、高威力の【識別】範囲攻撃も可能だが打たれ弱い。実はめっちゃビビってる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <希譚>ぶっ殺しまくれ! 『屍行列』!<呪仔>完了
  • GM名塩魔法使い
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月08日 22時01分
  • 章数2章
  • 総採用数42人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節


 激しい土煙と肉が焼ける不愉快な匂いが漂う。
 イレギュラーズ達はその発生源たる大穴があった場所を注意深く観察する。それは崩落により大きく土が凹んでしまっているが動くものは感じられない。
 最早そこに動くものの気配は感じ取る事はできない。長いトンネルの中に居たであろうゾンビ達も同様に凄まじい熱と魔力により生き埋めの苦しみを知る事無く浄化され、ようやく石神地区の狂気から解放される事ができただろう。
 イレギュラーズのその膨大な戦力はついに数百もの『屍行列』の発生地点を潰し、流れを断ち切ったのだ。残るは僅かな数のゾンビのみ、こうなれば報告書に書くまでもない雑魚始末である。
「……やったわね」
 戦旗を地に刺しはためかせながらイーリンは呼吸をゆっくりと整える。後始末は掃除屋の仕事だ、自分達イレギュラーズは一刻も早く帰還し、被害を最小限に納めなければならない。
「やったね! みんな! ……うっ」
「メープル、勝手に機械を弄ろうとするんじゃない」
「だ、だって! 乗っていいって言われたら乗りたくなるもん! これは妖精魂が疼くってやつだもん!」
 サイズにお説教を受け慌てるメープルを尻目に飛はカルアに○千カロリーと書いている大きなカップ麺を渡しながら戦車がまだ使えそうな事に安堵する。
「カルアちゃん、疲れたろ! これあの妖精の嬢ちゃんと一緒に食べてな!」
「……」
「ん? なんかぼーっとしてどうした、カルアちゃん大食いだろ?」
「……1個だけ? 足りないよ」
「んあ!?」

 或る者は戦い続け残党を狩り、或る者は異変が起きぬ様大穴があった場所やその周囲を監視する。そんな中ラダは一人、心残りについて思考していた。戦いの中自分の頬を霞めたあの骨らしきものは本当に事故だったのか。沙耶が感じた金属を操るゾンビはどこに言ったのか――

 その答えが明かされるには、そう長い時間がかからなかった。聴覚の優れた数名が咄嗟に休憩中の仲間をカバーした次の瞬間、物陰から二体のゾンビが飛び出しイレギュラーズ達へと飛び掛かって来たのだ!
「……なに、残党? まだ死に足りないの? 無謀なの?」
「気を付けろ。この死体、妙に手強いぞ」「気を付けるのだわ!」
「待って、この人たちは……報告書にあった……!?」
 二体のゾンビは不気味に飛び跳ね巧みにイレギュラーズ達の攻撃を躱し不気味に嗤う。

『屍行列』は代わりを求めていた。朽ち果て動かなくなったリーダーの代わりを見つけるために活動を強め、そして新たな容れ物を見つけたのだろう――後に報告を聞いたひよのはそう語る。

「ナンにん、コロした コっちは、ジュウにだ、だダダ」
「オれは、ジュウイチだ、お前たチハ、幾百ダ?」
「殺しタ数の倍だけ、支払エ、我らノ、掟」
「抜けたけレバ、支払エ、ウヒ、ウヒィイ!」

 ゾンビの中でも強い汚染を受けたもの、ヒダル神。それがこの『屍行列』の核であり、今回の討伐対象である……!

●第二章『屍を数えよ』
 冬の石神地区の一角、第一章開始地点からやや離れた地点からスタート。
 ロケーション的にはほぼ変わりないですが街灯の数が減り、やや視界が不透明です。
 道路と水田の高低差がほぼなくなり、ある程度は横幅も広く戦う事も可能だろう。

 連戦であるためHP,APが一定割合減った状態で開始する、それを意識した立ち回りが必要。
 イレギュラーズの働きにより、NPCの二人は引き続きアシストに回れる様です。
 ヒダル神が両方撃破された時点でラリーが終了します。

○ヒダル神『白猿』
 神に接触し、狂気に陥ってしまったと思われる個体の中でも強力な物。狂気により髪は白く変色し体毛が深く全身から生えた様はまるで猿のそれである。生命活動自体は残っているが彼らを正気へと戻すのはもはや尋常な努力では不可能であろう。

・『白猿・二刀』
 生前持っていたであろう名刀と何かの骨を削り造った骨刀を持つヒダル神。
 跳躍による恐ろしい機動力・EXA・攻撃力により加護を引きはがし、こちらの弱点を突き命を刈り取る。

・『白猿・拳銃』
 リボルバー銃を持ったヒダル神。他のゾンビから拝借したのか指の骨や火の玉を弾丸代わりに発射し攻撃する、どうやら怨霊を火薬代わりに使用しているようだ。
 生前の能力を思わせる高命中を生かしBSや呪殺で攻め、時折僅かに残っている銃弾(【必殺】)を撃つ事も。

・怨霊
 ヒダル神に釣られ集まった雑魚です、ゾンビほどではないですが数が多いです、アンデッド属性。


第2章 第2節

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者

 猿どもが吠え、異様な空気が周囲に満ちる。怨念が周囲に満ち猿どもの周囲で火の玉として輝き、戦場全体を瘴気の渦が取り囲む。逃がす気はないと言う事だろう――だがこちらは、始めから逃げるつもりなどない!
「みんな、こっちよ!」
 イーリンは猿を見据えると戦旗を取り、水田を大きく回り込む形でイレギュラーズ達を誘導する。走りながらイーリンはこう考える。あの紫紺の火の玉は近寄れば光源として利用する事ができるだろう、だがそれこそが敵にとっての罠なのだ、近付くものを獲物と見做し焼き払うのだと。幸い、仲間の多くが暗がりで戦闘する事には慣れていた。
 その読み通り、火の玉はこちらへ向かわず、まっすぐと猿どもへ向かった味方の方角へと動き出した。
「良いねぇ! 退屈な雑魚共の相手はこりごりだからな!」
『聖断刃』ハロルド(p3p004465)は身をかがめ細い畦道を飛び回るかの様に跳躍すると斬撃を放ち、二刀のヒダル神を取り囲む様に真空波による飽和攻撃を叩き込む。
「飛び跳ねるぐらいならこっちだってできるぜ、かかってこいやぁ! 腕まで『腐ってない』ってんならなぁ!」
 ヒダル神は甲高い奇声を発するとその全てを凄まじい剣舞で弾き返し、その骨刀を振り上げハロルドへと飛び掛かってくる!
 血をたぎらせてくれるじゃないか。目には目を、刀には刀を――ハロルドはその猿の攻撃を弾き返し、天より呼び寄せた雷を纏い猿へ痛恨の一撃を叩き込んだ!
「あの世に送ってやるぜ――【雷鎚】!」
 雷が炸裂し、猿の躰が痙攣する。カウンターの如く放った回転斬りを辛うじて躱し、頬に流れる血を拭いながらアトは舌を打つ。
「斬られたか、スーツは新調だね……こちらロレ支庁、対マル妖事案につき……」
「腕時計無いじゃないの。私もさっきぶっ壊されたけど」
 相棒の軽口にとぼける様な仕草を見せながら、全く読めぬタイミングでアトが銃弾を放つも、それは猿の刀に弾かれてしまう。
「よく弾いたわねぇ、ああいうのは犬笛でも使って混乱させるべきかしら」
「今出来ない事の話をしてもしょうがないさ、こういう時はやれる事を」
 仲間と殺陣を繰り広げる猿に対し抜いたのは飾り気の無い剣。アトはそれを構えると、疾風の如く猿から斬りかかった。
「やるだけなの!」
 剣と刀がぶつかり合い火花が散り、アトの流れるような乱撃は猿を次第に追い詰めていく。
「なかなかやる猿だ、でもいつまで持つかな? 僕の体は特別性だから持久戦でも負けないよ!」
 アトの剣が猿の腹を切り裂き、引き抜く勢いでアトは後方に飛び退き距離を取る。怯んだ猿が見たものは、アトの背後から飛び上がり狙いを定めるイーリンの戦旗の光。
「二刀はいいけど猿知恵だったわね! 弾けるものなら弾いてみなさい!」
 イーリンの閃光はヒダル神の全身から生えた白い体毛を焼き、その皮膚を悉く破壊する――!

成否

成功


第2章 第3節

セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて

「やあ驚いた、キミも不滅だというのかい?」
 多大なるダメージを受けたはずの二刀流の猿の全身から白い毛が再び生えてくる。ヒダル神は苛立たしく焦げた毛を切り払い、視界に入った仲間目がけて走り込む。
「いや、違うね。キミは『死ねない』んだろう。ああ、なんて哀れなんだろう」
 妖艶な笑みを浮かべながらも感情の無い言葉遣いで、セレマは仲間と猿の間に割って入る。問題ない、刀で何度切り裂かれようともセレマの皮膚から血は一滴たりとも流れやしない。苦しくないわけではないが、もう片方の銃弾に何度も打ち抜かれるよりはずっとましだ。
 敵の攻撃を凌ぐ最中、彼は推測する。あのゾンビどもは何らかの罪業を数え、その倍を支払う――つまり生者や死体を同じようにゾンビに変える――行為を繰り返しているのだろう。
「罪業は大方『屍行列』を減らした数といった所か。とても幼稚で、質の悪い鼠講だ」
 狂気に囚われ、肉体が朽ちてなお死ねぬ拷問など誰だって耐えきれないだろうに。
「だが、キミ達がその『借金』を返済する必要はない」
 セレマの言葉通りヒダル神の下の地面が隆起し、水田が大胆に耕される、土が迫りその肉体を疲労させていく。
「俺達にあなたは助けられない」
 セレマの造ったこの好機を逃すまいと、ドゥーは残る魔力を振り絞り魔法を次々と唱えヒダル神を追い詰めていく。まだ自分に残った余力は十分にある、攻め立てるなら今だ。
「それならせめて、大人しく眠って貰うよ……!」
 地が揺れ動き、街灯の点滅に光る白い毛が土から僅かに出ようものならそれを逃さず次の術を詠唱。更に土の『重り』を乗せ猿を追い詰める。幾多の追撃を斬り抜け、ドゥーへ怒りの声を上げ飛び掛かる猿に向けドゥーは静かに呪いの矢を放つのであった。
「同じ性質の力で……その呪いを貫く」
 蒼く光を放つ矢は紫紺の炎纏う骨刀を握る手へと命中し、その刀を遠くへと弾き飛ばした。猿は力を失い、そのまま垂直に落下する。あと一押しだ。

成否

成功


第2章 第4節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
デボレア・ウォーカー(p3p007395)
海に出た山師
チクワ=ザ=アークゴッド(p3p009420)
誰だお前!

 肉体が朽ちてもなお狂気から逃れられぬのか、或いはあの白猿が弱いヨルを呼び集めたのか。
 すぐに消えてしまいそうで、それでいて強い恨みの炎が燃え盛っていた。火の玉はイレギュラーズ達を新たな入れ物と見做し、その灯りに安易に踏み入った者の生命を焼かんと直進し軌道上の草木を炭化させていく。
「ちくわ大明神」
 普通の兵士ならば暴れまわるその怨念の集団から逃げまどい、あるいは避けて戦おうとするだろう。だがイレギュラーズは違った。果敢に突っ込み、仲間が強敵に集中できる様に身を呈する者もいたのだ。
「神に接触して狂ったならばちくわ大明神の威光によって正気に戻るのが道理」
 チクワは文字通り地に蜘蛛の様な形状を鉄の脚を喰い込ませ己が身を固定し、大口を開け中から筒状のレーザー砲(ちくわではない)を露出する。怨霊の群れを解放するべく、あるいはちくわ大明神の威光を見せつけるべくエネルギーを充填し、怨霊の群れをミハシラの如き光で貫いていく。
「協力感謝する、ちくわ大明神」
「ほう」
 チクワはそのサングラスの内側の目をオラボナの方へと動かし感謝を投げかける、興味深そうな声を出したオラボナに対しチクワは続ける。
「我は貴女であり、我はちくわ大明神である、故に貴女もまたちくわ大明神である」
 オラボナは昏い空を見上げ、大いに笑いを上げる。これはまた面白い作用をしたものだ――いずれにせよ、仲間が猿を始末するまで彼女はその体躯にてこの七色の焔を受け止め、黒く塗りつぶしてやらねばならぬ。
「猿が夢に出たのか。夢に猿が登ったのか。何方にせよ落とさねば成らぬ」
 最も、『落ちない』と宣言すべきは我が身だがな――その自嘲の通り、無窮にして無敵なる彼女の肉塊(ホイップクリーム)を崩すにはゾンビや怨霊程度では物足りぬ。
「精々、その鮮度が落ちる前に依頼を為したまえよ――Nyahahahaha!!!」
 嘲笑う様にあるいは叩きつけるかのようにオラボナの肉体が再生する、否、始めから傷つけ等出来ていなかったのかもしれぬ。
 チクワの光が幾度も霊を浄化し、盾とおでこを振り回すデボレアが逃れた霊を散らしていく。皮膚を幾度も焼き焦がされようとも立ち上がり、その身をしならせ乱舞で味方に向かう霊を蹴散らしていく。
「反射してやるんだからぁぁぁ!」
 デボレアは残る気力を振り絞りながらその翼で飛び回り、決して仲間を傷付けぬと霊を片付けていく――流石に銃弾は跳ね返せないとデボレアは後に謙遜して語ったが、同時にこの怨霊が得体の知れぬ力でゾンビどもを縛り付けているのかもしれない、そう思っての事でもあった。
「まだやってやるんだから! 一匹たりとも行かせやしないんだから!」
 盾を振り上げ、霊自身の炎を跳ね返しデボレアは前線で体を張り続ける。彼女の目論見通り、不死身と思われたヒダル神どもは次第にその力が抜け弱っていくのだが、その事実を今の彼女が知る事はない。

成否

成功


第2章 第5節

天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に

「全部撃チヌク、脳漿ぶちマケろ、ウヒヒヒィ!」
『黒花の希望』天之空・ミーナ(p3p005003)の振るった剣をひらりと躱し魔弾の射手はやかましく叫ぶ。
「っち――」
 猿が居た地点に着地したミーナを待っていたのは飛び退いたヒダル神から放たれた無数の怨念の弾
丸。その喧しさにミーナは舌を撃ちながら身を護る。刀のヒダル神が防御と機動力による圧殺に優れた敵だとすれば、こいつは回避力と搦手による錯乱の使い手といった所か。
「ったく、七面倒くせぇな!」
 猿は逃げ回り、背後からは怨霊の障壁が自分達のいる戦場を狭めるように迫ってくる。後門の狼とはこのことか。
「そんな事したって、お前は自分自身を追い詰めてるにすぎねえんだよ! てめえを縛るクソッたれ野郎ごとあの世へと送ってやる!」
 ミーナは翼を広げ、その真紅の輝きを純粋なる光の帯へと変え敵に向けて解き放つ。この世に居残る魂を刈り取り、冥府へと送る死神の魔力が猿を追い詰めていくのであった。

成否

成功


第2章 第6節

セララ(p3p000273)
魔法騎士
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma

 怨霊の嵐を宿した骨の弾丸が襲ってくる、天地をひっくり返されたかのような三半規管の歪みと吐き気がイレギュラーズ達を次々と射抜いていく。
「これはこれは、心を完全に隠してなお認知できるのでごぜーますか、厄介なものでありんすね」
 拒絶されながらも身を蝕む弾丸の呪いを見ながら、エマは淡々とそう呟いた。五感がまだ生きて活用できるのか、あるいはこいつはギフトによる隠蔽すら見抜くのか。何れにせよ厄介だ。
「それにあの猿の様なゾンビ。この再現性都市の呼び名だとヒダル神ともいいましょうか。空腹をもたらす憑き物のいっしゅでごぜーますが……」
 仲間達が抑え、時折漏れ出る怨霊を悪意の霧で打ち払い、かき消しながらもエマはじっとその魔物を観察する。いずれにせよ、この猿からはさぞかし強い意志の輝きを得られそうだ――エマは内心、そう感じていた。
 エマが手際良く生き残りのゾンビや怨霊を始末する中、無数のイレギュラーズの刃が銃を持つ猿を追い詰めていく。その皮膚を焼き、血脈を断っていく。
「いっくよー! ギガセララブレイク!」
 死角から遥か彼方の天で受けた雷を宿した聖剣が振り下ろされ、凄まじい着地の爆風が幾多も炸裂し飛び跳ねようとしたヒダル神を弾き飛ばす。聖剣の主、『魔法騎士』セララ(p3p000273)は軽やかに着地すると、ちょっと口に残っていたドーナツを嚥下し、再び身をかがめ突撃による居合斬りを放つ。身を後ろへと逸らし、僅かに飛び退いて刃を避けたヒダル神の胸元に、細い針のような光が突き刺さる。
 其れは輝き、圧縮された魔力が体内で炸裂する。セリアのソウルストライクの魔光がヒダル神の余力を一息に破壊する。ヒダル神から一度距離を取り、仲間の元へと合流したセララに対しセリアは労いの言葉を投げかける。
「お帰り、いい物はあった?」
「うーん、何か見つかると思ったんだけどこれぐらいかな?」
 彼らがもし先行隊の慣れ果てであるならばゾンビに襲われてからヒダル神となるに至る何かがあった筈だ。もしかしたらそれが彼らを人へ戻せる切欠となるかもしれない――期待するセリアに対しセララは首を振り、二枚のボロボロに汚れ破れた紙の様な物をセリアたちに見せた。
「これは、形代でごぜーますかね?」
 エマの言葉に「多分ー?」とセララは答え、銃に込めるヒダル神の動きに牽制しつつふとある想像が身をよぎる。もしかしてこれは、彼らが自発的に持っていたものではないだろうか、と。
「あの人たちが襲われたのは、信心深かったからとか、かな?」
「信仰が強すぎてゾンビ化が進行したなら悲しい話ね……ところで一つ、くれないかしら?」
 セリアはセララの話に頷き、ふと何かを思い立ったかのようにセララに話を振る。
「え、ボクのドーナツ? いいけど……」
 しぶしぶ手渡したセララのドーナツを眺め、うんうんとセリアは頷くとそれをヒダル神へと手渡そうと――半ば放り投げる形で施した。が。当然それは弾かれ。
「あっ」
 ついでに踏みにじられた。
「あーーーっ! ボクのドーナツが! あーーーっ!」
「ご、ごめんなさい、まさか食べ物を受け付けないなんて思いもしなかったのよ」
「……敵から貰う飯を安直に食べるとも思えませんがね」
 叫ぶセララ、謝るセリアを眺めながら冷静にぼそりと呟くエマ。何はともあれ交渉決裂。
「もう怒ったよ! ドーナツを大切にしないゾンビは許さない!」
 聖剣ラグナロクを構え、食べ物を大事にしない猿への制裁が今、始まるのであった。

成否

成功


第2章 第7節

R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
サイズ(p3p000319)
妖精■■として

「ゲグガガガァ!」
 闇の中を白い塊が飛び交い、紫紺の炎が傷口を更に焚き広げていく。闇夜に光る刀を揺らすヒダル神はイレギュラーズの猛攻を弾き、傷付いた体を厭わず斬りかかる。
「破滅を迎えまだ立つか――破滅よ、滅びを知れ!」
 生命活動をほぼ奪われ、屍同然となっているというのにこれほどとは――瞳に浮かぶヒダル神の憎悪の炎を見据えながら、R.R.は眼前の『恥知らず』に忌々しそうに呟いた。
 R.R.の放つ炎の弾丸はヒダル神の脚を焼き、怒りに震えるヒダル神は反撃に巨大な斬撃を次々と虚空に向けて放つ応酬。
「っ……」
 槍でその攻撃を両手に受け止め、狙撃者たるR.R.の体力を僅かでも多く保とうと食いしばるカルアをR.R.は一瞬見やり合図を送る。
「次が奴の最後だ、仕掛けるぞ」
「了解、だよ」
 R.R.は銃を慎重に握り直し、静かにその時を待つ。これ以上あの破滅の好きにはさせない、と。

「代償を払うまでは止まれない。何があっても、か」
 夜の色を纏い舞うサイズがヒダル神の攻撃を逆に弾き返しその身を弾き飛ばす。そして怯えるメープルを護る様に腕を広げ、彼女に近づけさせはしないという意志を強く示す。
「でもでも死なないのは反則だよ! 呪いってずるいと思わない!?」
「俺も呪物なんだが……」
「サイズはいいの!」
 メープルが急ぎ傷を癒していくのを感じながら、サイズは自らの本体についた傷をじっと眺めながら懐から取り出した小さな麻袋を放り投げる。先程張っていた障壁を打ち破り、今も張った拒絶の能力をも引きはがす二つの刀に纏わりついた怨念。
「必死さが伝わる厄介な能力だ……まああんたに合わせてやる必要はないんだがな!」
 付与した魔力を解除された以上向こうは好機と油断し突っ込んでくるだろう。受け身を取り、地に足を付けた瞬間跳躍し、自分の本体を狙うのだ、と。
「メープル!」
「任せて! 魔力全開放!」
 右手を広げたサイズの眼前に魔法金属の盾が展開され、怨念をも防ぐ鈍い輝きが鈍い音を立て刃を食い留める。その瞬間、なんとヒダル神の足元が蠢き、突然成長した極彩色の蔓が四肢を絡めとる!
 メープルのアシストに合わせサイズはすかさず鎌を振るい、ヒダル神の右腕ごと妖刀を奪い取ると流れるように骨刀を叩き斬る。
「マダ、ダダァァ!」
 それでもヒダル神は足に力を籠め、サイズが首を跳ねる前に蔓を破壊し飛び去ると牙を剥けR.R.の方へと飛び掛かる。
「せめて道連れに狙撃手を、か。哀れな猿知恵だな」
 そうするのを待っていた。R.R.は出し得る全ての破滅を込めた拳を握りしめ、猿の顔面に炸裂させたのだ。
「持って行け――夢幻滅法!」
 一つとは言わせない――文字通りの倍返しの復讐の炎が次々と炸裂し、灰が爆風で散っていく。R.R.はその光景に背を向け、静かに立ち去るのであった。
「アンタを縛る破滅は滅んだ、何処へでも行くがいい」

 刀のヒダル神は滅んだ。後、一人。


成否

成功


第2章 第8節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
アクア・フィーリス(p3p006784)
妖怪奈落落とし
昼子 かぐや(p3p009597)
ガンカタ巫女

「アァァ! まタ、一ツだ……!」
 拳銃を持ったヒダル神は深く項垂れ、直後天へ嗚咽にも似た呻きを上げながらその瞳を朱く輝かせ、一心不乱に骨の弾丸を乱射する。それを逃すことなく放つラダの銃弾が宙で衝突し、空間に火花と轟音が響き渡る。
「まだ分からないか」
 人の命を殺した奪ったで足し引きをしようと無駄なのだ、いくら命を救おうとも奪った命が戻る事はないのだ。
「私もその代償を払いきる事はできまい、だが、私にも『キミにも』それを支払わせるつもりは、ない」
 ラダは静かに狙いを定めると、静かにその急所を狙い引き金を引く。射程内へと近寄ろうと跳躍した猿の脳天にラダの弾丸が突き刺さり、大きくその身を吹き飛ばされ――そして、むくりと起き上がる。
「うわきっも! 普通死ぬでしょ、なんなのこの化け物!?」
 その光景を眺めながらかぐやはうげぇと声を上げる。ゾンビの次は飛び跳ねる不死身の猿ときたものだ、こんな見飽きたB級ホラーには愚痴の一つもいいたくなろう。
「なら下がるか?」
「はっ、その程度でビビってて昼子の女が務まるかっての!! 死なないなら死ぬまでやるまでだよ!」
 撃っても死なないなら斬り捨てるまで、女の底力見せてやる――ラダの言葉に啖呵を切り刀を抜くかぐや。ふらりとそこに、アクアも傷ついた体を顧みる事無くゆらりと憎悪の炎を噴き出しながら押し殺すような声で呟く。
「……あいつ、友達が死んでも、数にしか見てない……」
 最早ヒダル神の狂気に呑まれたあいつにとって、どんな存在だろうと等しくどうでもいいのだろう――その事実だけで、アクアが戦う理由としては余りにも十分すぎた。
「許さない……絶対、殺す……殺してやる!」
「はっ、なんだかわからないけどいいねえ、ぶっ殺してやろうか!」
 憎悪の黒い炎を魔剣の形へと為し突っ込むアクアに負けじとかぐやは奔り、起き上がった猿の額目がけて刃を突き立てる。銃弾が時折身を霞めようと、奇跡的に身を逸らしかわしたかぐやの足は止まる事はない。
「その弾丸めり込ませてやるよ! とっととくたばりやがれ!」
 ヒダル神が僅かに歪んだ土に足を引っかけた直後――かぐやの刃はドスリと突き刺さり、容赦のない退魔の弾丸がダメ押しに撃ち込まれる。つながりが薄れ、周囲の怨霊がヒダル神を立たせようと寄り集まろうと所詮悪あがきは悪あがき。
「相も変わらず二本足で狙いを定めるのは難儀な物だ、が。問題ない」
 かぐやとゾンビを横並びに見られる位置へと大きく立ち回り、放たれる散弾は天才的機動を描きヒダル神を、そして怨霊どもを苦しみの無い世界へと送っていく。
「……厄介なものだな、本当に。ああ、これで終わってくれた方が良かったのだが」
「ちっ――!」
 首を跳ねられようと猿は止まる事はなく、血の煙を挙げながら起き上がりかぐやの額に銃口を向ける。だが、引き金を引くよりも早く、その腕が黒く燃え上がり、怪物は声にならぬ悲鳴を上げるのだった。
「首を落されたら……普通……死ぬでしょ……何で生きてるの……!」
 大地から顕現した黒い無数の手が猿の獅子を掴み、銃弾を放つ力を、生命力を焼き焦がしていく。狂気よりも遥かに強い憎悪の炎が胸元へと突き刺さり、ヒダル神は地面へと三度叩きつけられる。
「とっとと死ね! 数しか数える事しかできない能無しが! 殺す! 殺す殺す殺す殺す!」
「……わぁ、凄い」
 憎悪の炎は彼女の形成した剣を禍々しい大剣へと抱え、憎しみに顔を歪ませたアクアは何度もそれを怪物の体へと突き刺していく。
「死者の狂気よりも、生きている人間の憎悪の方が恐ろしいから、な……」
 アクアの傍らで驚愕の表情を浮かべるかぐやを眺めながらラダは静かにため息をついた。これで終わっていればアクアにこうもされることはなかっただろうに。まあ、恐ろしくしぶとい相手だ、これぐらい殺してやっと死ねる相手だろう。
 感情の全てをぶつけ、ふっと意識の糸が切れ崩れ落ちたアクアをラダは確認すると、そっと彼女の体を背負ってあげる。そして今度こそ動かなくなった亡骸へと目をやると、そっと祈りを捧げてあげるのであった。

成否

成功


第2章 第9節

「全く、随分と大規模な戦いだったね。彼がいない今、これの後始末は大変だろう」
「後始末もだけど、こっちの経費もバカにならないわよ、これ……」
 戦いが終わり静かだったそこには僅かな鳥の声が響き、辺りは夜明け前の僅かな灯に包まれていく。
 イレギュラーズ達の何人かはゾンビ達を簡単に弔い、あるいは傷付いた体に鞭を打ち遠く離れた公園に止められたバスへと帰っていく。
『屍行列』はその魂を縛り付ける行き先をほとんど失い、自然に消えていくのだろうか。あるいはこの呪われた地区のどこかで、新たなヒダル神やゾンビを生み出していくのか。今は誰にも分からない。
「この帰り道でまた襲われる……なんて、ないよな?」
 イレギュラーズの一人が不安そうに振り返ると、動くものは誰もいなくなった田園を眺め、ぽつりと呟き――背後に響いた物音に驚き急ぎ仲間の元へと向かうのであった。

 ああ、帰り道にはどうか気を付けて。
『終わった』からって、何かを考えちゃあ、いけないよ――

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