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シナリオ詳細

<Scheinen Nacht2020>光珊瑚と海音

完了

参加者 : 38 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ラピスラズリを讃えた夜空から一つまた一つと星が降ってくる。
 奇跡を願う聖夜の時間。それはまるで誰かの涙のようであった。
 ビロードの空に散らばる星座の物語は、海洋の子供達にとって毎夜紡がれる御伽噺。

「すっかり片付いたなぁ」
 自船アルセリア号から桟橋に降り立った『赤髭王』バルバロッサ(p3n000137)は、辺りを見渡してにんまりと笑った。シャイネンナハトの装いに活気づく町並みは大戦の爪痕は無く。
 傷付いた船や瓦礫の山は、美しい町並みに変わって居た。
 海洋という国の民は陽気で快活。悲しみに囚われるより前を向いて海に出る方が好きなのだろう。
 大桟橋からストリートまでを彩るのは、光珊瑚の装飾だ。
 ルビーレッド、サファイアブルー、グリーンベリル、アメジストの色彩はシャイネンナハトを祝う温かな光なのだ。
 毎日週末亭までの道のりを、バルバロッサとローレンスは歩いて行く。
「寒くねえか?」
 温かな気候の海洋とて、冬の夜は寒くなるのだ。バルバロッサは傍らのローレンスを気遣った。
「そのままお返ししますよ」
「俺はいつでも燃えてるからな! こんな寒さへっちゃらだ!」
 ドンと胸を叩いたバルバロッサ。相変わらず涼しそうな格好をしている。
「まあ、そうですね。手が冷たいので手袋代わりにさせてもらいます」
「おう任せろ」
 外気に冷えた手をバルバロッサの腕に絡ませて暖を取るローレンス。
「露天のああいうのは要らねえのか? シャイネンナハトだろ? 欲しいってんなら買ってやるぞ?」
 バルバロッサは露天に並ぶ真珠のペアアクセサリーに視線を移す。
「綺麗ですね。でも、僕にはこれがあるので」
 左手の薬指に嵌る銀輪。シンプルで飾り気の無いリングをローレンスは気に入っている。
 片割れはバルバロッサの胸に揺れていた。

 ――――
 ――

「わぁ。綺麗な所ですね。これどうやって光ってるんでしょう?」
 宝石の様に輝く光珊瑚を見上げ『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)はアメジストの瞳を瞬かせる。
 興味津々の子猫みたいな廻にやれやれといった表情で『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)は笑った。
「それはね光珊瑚というんだ。海底洞窟で採れる魔力を帯びた綺麗な珊瑚だよ。そんなに気になるなら帰りにお土産に買って帰ろうか」
「はいっ!」
 満面の笑みを浮かべる廻に暁月は目を細める。
 普段は練達の希望ヶ浜から出ない廻にとって海洋のシャイネンナハトは、何を見ても楽しいのだろう。
 子猫が自分の尻尾にだって興味を示すように。
「やや、廻君の匂いがする」
「あれぇ、ほんとうだぁ、どうしたの海洋にいるなんて珍しいねぇ」
 廻の元に駆け寄って来たのは恋屍・愛無(p3p007296)とシルキィ(p3p008115)だった。
「愛無さんにシルキィさん! 海洋で会うと思ってなかったのでびっくりです。嬉しいなぁ。お二人とも観光ですか?」
「僕は依頼の帰りでね」
「私はちょっと用事があってねぇ……」
 儚げに眉を下げるシルキィに視線を向ける愛無。彼女からは二種類の花の匂いが微かにしていた。
「でも、お二人に会えて良かったです」
 廻の言葉に愛無とシルキィは頷く。

 小さな三人がわちゃわちゃするのを微笑ましく見守る暁月。
「こんな所で立ち話も何だし、そこのお店にでも行くかい?」
 暁月が指す方向に視線を上げれば『毎日週末亭』の看板が見える。
 暖かそうな店内は活気に溢れていた。
「あれ……海洋の『毎日週末亭』って、もしかして」
「あらあら? 廻君と暁月先生?」
 店の中から顔を覗かせるのはアーリア・スピリッツ(p3p004400)だった。
「わぁ! やっぱりアーリアさんのお友達のお店じゃないですか! ワイズ・ラガーの!」
「そうよお。覚えててくれたのね。ここが私の友達ヨナちゃんが看板娘をやっている『毎日週末亭』よぉ」
 にこにこと笑うアーリアは、店の中に案内してくれる。
「いらっしゃい! アーリアの友達かい?」
 ビールを運び終えた『看板娘』ヨナ・ウェンズデーがにっかりと笑顔で廻達を迎えた。
「ええ、お友達よぉ。廻君はねお酒が好きで、毎日週末亭に来たいって言ってたのよぉ」
「へえ! そりゃ嬉しいね! ゆっくりしていきなよ!」
「ありがとうございます!」
 顔を綻ばせる廻の背後に、一際大きい男が立つ。
「よお。ヨナ。おん? アーリアの嬢ちゃんと愛無も居るのか」
 振り返ればバルバロッサが大きな手を振った。
「何だぁ。このちっこいのも飲むのか? 子供じゃねえのか?」
「え、あ僕ですか? これでも成人してますよ」
 廻を覗き込むように首を傾げたあと、バルバロッサは小さな背をバシバシと叩いた。
「よっし、じゃあ飲もうぜ! 飲めんだろ?」
「わ、わ! はい! 飲みましょう」
 バルバロッサにひっ捕まえられる形で廻は席まで連れて行かれる。
「あらあらぁ」
 くすくすと唇に笑みを浮かべアーリアはシャイネンナハトの夜が騒がしくなりそうだと目を細めた。


 冷たい風が吹く戦い。夜が黒く染まるとき、『聖女』が願ったのは平和の奇跡。
 何を代償にしても構わないと願う『聖女』の言葉を聞き届けたのは、『悪魔』だったという。
 暗い夜が星の溢れる聖夜になったのは、御伽噺に残る伝承だ。

「という感じで、この聖夜の期間は戦いが禁じられているッス!」
 シャイネンナハトの御伽噺が書かれた絵本から鹿ノ子(p3p007279)が顔を上げる。
「成程な。其方らの国には素敵な伝承があるのだな」
 鹿ノ子の読み語りに『琥珀薫風』天香・遮那(p3n000179)は楽しげに笑った。
「その飾りは何処に飾りますか?」
「そうね。こっちの方がいいかな?」
 夢見 ルル家(p3p000016)とタイム(p3p007854)が飾りを手にして睨めっこしている。
 天香家にある遮那の自室(寝室とは別)は俄に活気づいていた。
 シャイネンナハトの飾り付けと称して、小さなツリーやらオーナメントやらが飾られているのだ。
 イレギュラーズがお土産に持ってきたものである。
「こっちでは聖夜の期間は何が行われるんです?」
 お茶を注ぎながら小金井・正純(p3p008000)は小首を傾げる。
 豊穣の地でも聖夜に当たる期間は休みなのだと聞き及んでいたからだ。
「例年では霞帝の誕生日、天子生誕祭が執り行われていたんだけど、今年はシャイネンナハトの祝日になるみたいだね」
 正純の問いかけに隠岐奈 朝顔(p3p008750)がお茶を受け取りながら答える。

「私はこの豊穣の地を離れる訳には行かぬが、皆が持ってきてくれた聖夜の飾りでも十分に楽しいぞ」
 この所執務続きで多忙を極めていた遮那にとって、イレギュラーズとのふれあいは心安まるひとときであったのだ。
「其方達が来てくれて良かった」
 純粋に嬉しそうな笑顔で。遮那はイレギュラーズに笑いかけた。

 星降る夜にぬくもりと笑顔を。
 白雪が舞う空には満点の色彩を抱いて――

GMコメント

 もみじです。輝かんばかりのこの夜に!
 シャイネンナハトですね。星降る夜に思い出を刻みましょう。

●ロケーション
 海洋王国首都リッツバーグの港町。
 ありそうなものは大体あります。

A:毎日週末亭
 アーリア・スピリッツ(p3p004400)さんの関係者ヨナ・ウェンズデーが看板娘をする知る人ぞ知る名店。活気のある居酒屋。
 暖かい店内で飲む冷えたワイズ・ラガーは格別。料理とお酒に定評のあるお店。
 フードやドリンクはもちろんお酒なんかも沢山あります。
 わいわい騒ぎたいならここ。
 少し寒いですが静かなテラスもあります。

B:船内ラウンジ
 停泊しているキャラック船サンタローザのバー。
 船内の席と、甲板の席があります。
 静かな夜の海には大桟橋の光珊瑚が反射し、空を見上げれば星が瞬きます。
 騒がしさを抜け出して二人だけで過ごしたい時に。

C:大桟橋ストリート
 大桟橋と、そこに繋がる大通りです。
 シャイネンナハトの装いで色とりどりの光珊瑚が輝いています。
 様々な屋台やお店が立ち並んでいます。
 飲食や、お土産物、雑貨類、めずらしい舶来品などなど。
 お揃いのアクセサリーって素敵ですよね。

D:自宅
 ゆっくり自宅でシャイネンナハトをお祝いしたい人向け。
 国家や部屋の様子があれば分かりやすいです。

●プレイング書式例
 強制ではありませんが、リプレイ執筆がスムーズになって助かりますのでご協力お願いします。

一行目:出来る事から【A】~【D】を記載。
二行目:同行PCやNPCの指定(フルネームとIDを記載)。グループタグも使用頂けます。
三行目から:自由

 例:
  A
  【毎日週末亭】
  輝かんばかりの、この夜に!
  ヨナとローレンスと一緒に飲み明かす。
  今日はシャイネンナハトだからな、強いヤツと戦うのは御法度だぜ
  ってわけで、俺は酒の強いヤツらと騒ぐからな!
  今日は希望ヶ浜って所から暁月と廻ってヤツらが来てるんだ
  ちっこいけど、酒は飲めるらしい。だったら問題は無いな。どんどん呑め!

●NPC
○『赤髭王』バルバロッサ(p3n000137)とローレンス
 Aの毎日週末亭でお酒を飲んでいます。呼ばれればBCにも行きます。

○『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)と『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
 シャイネンナハトの海洋に観光をしにきました。
 A~Cの間を楽しんでいるようです。

○『琥珀薫風』天香・遮那(p3n000179)
 Dの自宅で聖夜を楽しんでいます。D以外には居ません。

 他、海洋のお祭りに来そうなNPCは現れる可能性があります。

●諸注意
 描写量は控えます。
 行動は絞ったほうが扱いはよくなるかと思います。
 未成年の飲酒喫煙は出来ません。

  • <Scheinen Nacht2020>光珊瑚と海音完了
  • GM名もみじ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2021年01月12日 22時11分
  • 参加人数38/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 38 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(38人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
アリス(p3p002021)
オーラムレジーナ
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん
エルラ(p3p002895)
九本足のイカ
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
エストレーリャ=セルバ(p3p007114)
賦活
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
糸巻 パティリア(p3p007389)
跳躍する星
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
ハルア・フィーン(p3p007983)
おもひで
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
浅蔵 竜真(p3p008541)
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ユン(p3p008676)
四季遊み
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
アンジェリカ(p3p009116)
緋い月の

サポートNPC一覧(4人)

バルバロッサ(p3n000137)
赤髭王
燈堂 廻(p3n000160)
掃除屋
燈堂 暁月(p3n000175)
祓い屋
天香・遮那(p3n000179)
琥珀薫風

リプレイ


 温かなオレンジ色のランプがグラスに反射する。
 賑やかな毎日週末亭のテーブルにバルバロッサ達は集った。
「廻さんに暁月先生じゃないですか。お二人も此方に飲みに来られたのですね。
 それに見知った人が幾人も……。これは……分かります、飲み会ですね!
 良ければ私も一緒に飲ませていただいても宜しいですか?」
 アンジェリカがこてりと小首を傾げればアーリアが勿論だと頷く。
「ヨナちゃんもほらほら一杯くらい付き合ってよぉ、だって私嬉しいんだもの!
 海洋と希望ヶ浜、別の国で出来た大好きな友達の皆さんが一堂に会してるのよぉ?」
「仕方ないねぇ。セシリオ。アタシの分まで任せたよ!」
「そんなぁ!?」
 開幕一番。ヨナの笑顔に場は盛り上がる。
 憑きものが落ちたような朗らかな彼女の笑顔にアーリアは目を細めた。
「ってことで勿論ワイズ・ラガーの大ジョッキで乾杯よぉ!」
「――コホン。輝かんばかりの、この夜に! 乾杯っ!」
 アンジェリカの音頭で、グラスが鳴らされ気分が高揚していく。
「わあ、海洋のシャイネンナハトも、とても賑やかです、ね。え? 此処はいつも、こう……?」
 メイメイが酒場の勢いに圧倒されるのにヨナはカラカラと笑った。

「いつにも増して賑やかだと思ったら、赤髭王の旦那たちが来ていたとはなぁ。ローレンスも元気そうで何よりだ」
 賑わいに引き寄せられて来たのは十夜とエイヴァンだ。
「よお。やってんな」
「十夜にエイヴァンか。二人とも元気そうだな。エイヴァンは仕事じゃねーの?」
「かかっ。まぁ、仕事といえば仕事なんじゃねぇかな。こういった日が休日とは限らないお仕事をしてるんでな。だからといって飲まないなんてことはありえんだろ。なんのために酒場に来てんだって話だ」
 ニヤリと口の端を上げるエイヴァンにバルバロッサも悪戯な笑みを浮かべる。
「じゃあ、飲み比べかぁ!?」
 望むところだとエイヴァンは腕まくりをした。迎えが来るまでの時間を有意義に過ごそうではないか。

「……そっちの二人は初めて見る顔だな、海洋の空気は気に入ったかい?」
 十夜は暁月と廻に視線をやって歓迎の意を見せる。
「っと、飲むなら俺も混ぜてくれや」
 朝から食材の買い出しやら飾り付けの手伝いやらでくたくたなのだ。
「一緒に飲みましょ! それにしてもバルバロッサさんの隣にいると、廻くんほんと子供みたいねぇ」
 アーリアはにっこりと微笑みながら身長差の大きい二人を見つめる。
「おお。確かに。しっかり食ってんのか? 廻」
「た、食べてますよお。うゎぁあ。頭振り回さないでぇ」
「こら。廻さんが困ってるでしょう」
 ローレンスはバルバロッサから廻を奪って十夜の隣へ置く。
「はは、大変だな。……そうだ。時間があるなら、酔い覚ましついでに後で大通りの方も見てやってくれや。いい店が揃ってるからよ」
 十夜が暁月と廻に薦めながら酒を煽った。

「皆さま、楽しそうです、ね。わたしは、まだお酒は飲めないのです、が……」
 少し羨ましいのだとメイメイは廻に語る。
「廻さまは、お酒のどんなところがお好きです、か?」
「そうですね。果実酒とかは甘くてジュースみたいですし、何より皆と飲むと楽しいです」
「甘くて、楽しい。ふむふむ、ありがとうございます」
「そうだ。メイメイさん。大通りで買ったんですけど。折角なので受け取ってくれませんか?」
 廻が差し出した小包を開けると――
 ガーネットの御守り
 ケルト文様に似た組紐にガーネットがあしらわれたストラップアクセサリー。情熱と御守の石。廻からメイメイへシャイネンナハトのプレゼント。

「アンジェリカさん、これシャイネンナハトのプレゼントです」
「おお。そんな。どうもどうも」
 廻から小包を受け取って、アンジェリカはとびきりの笑顔を向ける。可愛いらしい。
 赤輝の調べ
 ラウンド型のレッドスピネルをあしらった髪飾り。ポジティブで元気にしてくれる御守の石。廻からアンジェリカへのシャイネンナハトのプレゼント。

「……ほんと、夢みたいねぇ
 生まれた国から、そしてこの国からも逃げてアパルトマンで一人お酒に溺れていた頃は……こんな楽しいお酒があるなんて思ってなかったわ」
 喧噪の中、甘く芳しい香りと共に少し寂しげなアーリアの声が暁月の耳朶を浚う。
「……ふふ、今の独り言は秘密よ? 暁月さん」
「誰しも知られたくない事はあるさ。大丈夫。さっきの言葉は秘密にしておこう。
 そうだ。帰ったら渡したいものがあるんだ。近いうちにおいで」
「あら、何かしら。楽しみねぇ?」

 ――――
 ――

「このウィンナー美味しい!」
「ふむ、それは良かった。暖房が利いているとは言え、やはり温かい料理は良い物だ」
 ルアナとグレイシアは毎日週末亭の料理に舌鼓を打つ。
 大人になればお酒が飲めるから。グレイシアは大人のルアナがが気に入ってるらしい。
 自分にやきもちを焼く日が来ようとは。
「うー……!」
 こっそりとグレイシアのワインに手を伸ばす。
「何をしているのだ」
 ワイングラスに手を掛けたルアナから奪い取り、代わりにフルーツタルトを注文すれば、ふくれっ面の頬がにんまりと笑顔に変わって行く。
「わぁい >ω<」
「お酒よりも、此方の方がよほど美味しく感じられるだろう」
 テーブルに置かれたタルトの上には宝石の様なフルーツが並んだ。
「はい、あーん」
 少し考えてから差し出された苺を食むグレイシア。新鮮な甘酸っぱい味が口に広がる。
 食べて貰えたことが嬉しくて。ルアナは何に怒っていたのかも忘れてしまったのだった。

「今年も一年あっという間だったな」
 ポテトは傍らのリゲルにハニーゴールドの瞳を向けた。
 楽しい事。辛い事。忘れられない思い出が鮮やかな色で刻まれる。
 相変わらずのバルバロッサに笑みを浮かべ、ポテトはノンアルコールカクテルを頼んだ。
 今年から酒が飲めるようになったリゲルはバルバロッサと飲み比べと洒落込む。
「酒の飲み比べといきませんか? 俺はそこそこ強いですよ! ワイズ・ラガーとは何ですか?
 試してみようかな」
 ワイズ・ラガーは毎日週末亭の看板メニュー。冷やした大ジョッキで飲み干す味わいは格別だろう。
「いいぜ。リゲル。今日はぱぁっと飲もうや!」
 和気藹々と弾ける会話を聞きながら、ポテトはふにゃふにゃと頬を赤く染める。
「ポテト大丈夫か? ノンアルコールだよな? 頼んだの。でも、あんまり飲み過ぎるなよ」
「ん、平気だ。えへへ……」
 リゲルが楽しげに皆と話しているのが嬉しいのか、ポテトは愛しげに彼に抱きついた。
「また来年も、みんなでいっしょにわいわいおさけのんで、いっぱいおはなししようね」
 最高の笑顔を向けられて、リゲルは嬉しそうにポテトの背中を抱きしめる。
 星降る夜に願いを込めて――


「……えへへ、やっぱり少し寒いねぇ」
 ラウンジに廻を連れ出したシルキィは鼻の頭を赤くする。
「もしも、もし良ければ……手を、握って貰えないかなぁ?」
 微笑むシルキィの手を取って、星を二人で見上げれば色彩の瞬きを帯びて降り注いでくる
「……ね、廻君。キミは優しいから……苦しくても「触れないで」と言ってくれた」
 夜の公園や保健室で心配するシルキィの手を拒んだこと。優しさからくる負い目と拒絶。
 でも。だけれども。
「わたしは我儘だから。それでも、キミに触れたいと、キミの力になりたいと思うんだ」
 シルキィの夜に輝くペリドットの瞳が廻をしっかりと見つめる。
「だから。これからは、キミに触れても……キミの力になっても、いいかなぁ?」
 強く握られた指先から伝わる熱と僅かな震え。鼓動は高鳴り返事を待つ一瞬の時間が長く感じられた。
「僕はシルキィさんが傷付くのが……」
「……大丈夫」
 シルキィは廻の心を解きほぐす様に、そっと抱きしめる。
「わたし、取り柄はないけれど……大事な人を助けるのには、自信があるんだ」
 あの子が世界を救ったみたいに。あの子の世界を救ったみたいに。
 そして、大切な人を二度と失いたくないから。

 カシスシロップとオレンジのノンアルコールカクテルを揺らし零とアニーは微笑む。
 いつか二人で、素敵なバーで本物のお酒を飲む日まで。アルコールはお預けだけど。
 それでもテーブルに並んだ料理は綺麗で美味しそうなのだ。
「はい零くん、あーんして♪」
「あ、あーん……んん、美味しい!」
 お互いの口に頬張った料理の味は蕩けていく様で。
 少し不安げに来年も過ごせたらと紡ぐアニーに零は大丈夫だと微笑んだ。
 お腹を満たせば、甲板に星を見に行こう。
「ひゃぁ寒い……!」
 吹き抜ける寒風にアニーは思わず零に飛びついた。それを優しく抱き留める零。
「零くん……」
 近くに感じるアニーの吐息。紫瞳に零の姿が映り込む。
 長い睫毛が降りて来て、染まる頬へ。そっと手を置いた。
 重なる唇は柔らかく。愛を紡ぐ言葉は星空に揺蕩う。
 願わくば。ずっと何時までも、傍に――

「ラウンジで静かに静かに過ごすのも良いものだね」
 皆で騒ぐのも好きだという廻に愛無は苦笑する。
「廻君も人が悪いな。察してくれたまえ。君と二人きりになりたかって事さ」
「へへっ、照れちゃいますね」
 頬を染めた廻が微笑みを浮かべた。
「何せ、君は人気者だ。しっかり捕まえておかないとね」
 そんなこと無いと首を振る廻に半分冗談だと言って、愛無は窓の外に見える星空を見上げる。
「時に廻君は、星に願いをかけるとしたら何を願うかね?」
 叶えられる願いなら叶えてあげたいと思うから。
「そうですね……愛無さんはどんな願いをします?」
「まぁ、僕は人間になってみたいかな。今より『障害』が少ないのかなとは思うしね」
「障害?」
 本来の姿であることが、二人の行く末に立ちはだかる壁だとでも言うのだろうか。
 そんな事、有るはずも無いのに。廻は愛無の手を握り言葉を紡ぐ。
「……僕の願い事は、愛無さんの傍に『居たい』です。傍に『居て』ほしいと願ってます」
 刻まれた首筋の傷跡が消えて行く。其れが名残惜しい程には想っているのだと――

 星空のラウンジのソファにソアとエストレーリャは腰掛ける。
 肌寒い空気に肩を寄せ合って。指が絡まる。
 隣のエストを見れば何時になく真剣な瞳に射貫かれた。
 紡がれる言葉は真剣な声色。
「ソア。ボクは君が大好きだよ。でも、それ以上に、もっとなんだ」
 彼の言葉にソアの身体が震える。胸がいっぱいになって言葉が出てこない。
 最初は友達だった深緑の仲間で小さな女の子だと思っていたのに。
 どんどん惹かれて笑顔が見たくて言葉が聞きたくて。
 想いを伝えて壊れるのが怖かった。だけど。
「ソア。君を、愛してる。これからもこの先も。だから、ずっと隣に居てくれたら、嬉しい」
 何時もソアの居場所になってくれたエスト。自分だけがそうだと思って居たのに。
 彼も自分を必要としてくれた。拠り所になれた。それが嬉しくて。
「……ずっと一緒だよ」
 震える声は伝わっただろうか。この瞬間が何よりも愛おしく。忘れがたい思い出となって。
 聖夜の空が祝福するように、星のスパンコールを散らす。
 それは、今まで見た何よりも綺麗だった。

 星空が見える船内ラウンジでマリアとヴァレーリヤはグラスを傾ける。
「聖女様の奇跡に、そして貴女と過ごす一時に!」
「君と一緒に過ごせる幸せに……乾杯!」
 ヴァレーリヤに出会えたからこそ。マリアに出会えたからこそ。この場でお酒を飲める喜び。
 この先。何があったって。その次の日も。その次の朝も。共に過ごしていたいから。
 甲板のラウンジへ出れば、其処は星屑のステージだ。
「輝かんばかりの夜に星空の下で踊るだなんて、恋愛劇の登場人物になったみたいで素敵でしょう?」
「もちろんさ! 断る理由なんかないよ。ふふっ! 意外だね! 君にもそういうのあるんだね?」
 揶揄うようなマリアの言葉にくすりと笑って。
「3周年記念式典覚えてるかい? あの時うまく踊れなかったのが悔しくてね!
 密かに練習してたんだ! だから……今日こそは……お手をどうぞ♪ お姫様……」
 差し出されたマリアの手。赤い瞳はヴァレーリヤの姿を映し出す。その手にそっと指を添えて。
「ありがとう、私の王子様……この夜は私、世界一の幸せ者ですわね……」
 二人を彩るように星屑の円舞曲が降り注ぐ。
 願わくば。この温もりが何時までも、共にありますように――

「ん? ……燈堂、と。貴方が暁月さんか?」
 ラウンジに居た二人に手を上げたのは竜真だ。
「初めまして、廻のお友達かな?」
「浅蔵です。よろしく頼む。祓い屋の話は多少聞いている、燈堂からもな」
 燈堂という名を口にして目の前の二人はどちらも同じ名字だったと戸惑う竜真。
「ところでその、なんだ。廻と呼んでもいいだろうか?」
「いいれすよ~。あ、竜真さんにぃ、プレえンと、あるんれす」
 竜真に包みを渡し上機嫌に笑う廻の顔が赤い。足下も覚束無い様子に咄嗟に竜真は彼の身体を支えた。
 フラフラと頭を揺らす廻に自分のジャケットを被せ、困ったように眉を下げる。
「ふふ、仲良しなんだね。温かい飲み物でも持ってくるよ」
 船内に入っていく暁月と腕の中の廻を交互に見遣る竜真。
「ほら、風邪を引くぞ」
 吹き抜けた風に身を震わせ、ぬくもりを求めるように竜真の胸に埋もれていく廻。
 竜真は欄干に寄りかかり、寒さに晒されぬ様、廻の背をぎゅっと抱きしめた。
 翡翠の御守り
 ケルト文様に似た組紐に翡翠があしらわれた根付。ストラップアクセサリー。翡翠は『奇跡の石』と呼ばれる御守の石。廻から竜真へシャイネンナハトのプレゼント。


 修理が完了した『コンコルディア号』をルチアは満足そうに見上げた。
 マストから眺める町並みは何時もにも増して賑やかだ。
「こんな綺麗な珊瑚があるなんて、幻想的よね……」
 輝く光珊瑚がルチアの瞳に映り込む。この煌めく聖夜の光を持ってかえりたくて。
 雑貨露天の前でどれが良いかと吟味するルチア。
 ルチアの隣ではパティリアが豊穣から渡って来た珍しい品を手に取った。
 二人とも天空転位を使う事が出来る。されど、他国に運ばれてきた物というのも風情があるのだ。
 木彫りの熊、木刀、苦無、アクセサリー。見ているだけで楽しいものである。
「……この鉤爪は拙者のギフト『海星綱』との相性良さそうでござるな。軽いので無理なく射出出来そうでござるし」
 星降る夜に、地上で煌めく光珊瑚がルチアとパティリアを照らしていた。
「わっ、わっ、すっごーいっ! 見て見て廻さん、暁月先生っ! 珊瑚が光っててとっても綺麗っ!」
 明るい花丸の声がマーケットに響く。この光珊瑚、ひよのにお土産として持って行ったら喜ぶだろうか。
「ふふ、元気だなぁ。花丸君は。迷子にならないようにね」
「はーい! えへへ、いつも本当にお世話になってますっ!」
 学園の先生である暁月にはどうしても色々と聞いてしまうのだ。
「……はっ!」
 日頃お世話になっている二人にプレゼントを送らなければとこっそり雑貨屋の露天で立ち止まる花丸。
 二人にプレゼントを渡せば、代わりに小包が掌に――
 ガーネットの御守り
 ケルト文様に似た組紐にガーネットがあしらわれたストラップアクセサリー。情熱と御守の石。暁月と廻から花丸へシャイネンナハトのプレゼント。

「雪ちゃんあれ見て、光珊瑚言うらし……綺麗やねぇ」
「不思議な珊瑚ですね……。とても、綺麗です。星空が海にも広がっているようですね」
 物珍しさに目を輝かせる蜻蛉に雪之丞はつられて微笑んだ。
 ホットワインとココアを手にマーケットを歩いて行く。
「色々あったけど、この冬も一緒に過ごせてよかった」
「はい。本当に色々ありましたが、ご一緒することができて、拙はとても、嬉しいです」
 ちらりと視線を向ければ雪之丞の横顔が見えた。穏やかな表情に蜻蛉の頬も染まる。
「っあ」
 雪之丞の横顔の横顔に見とれていたか。はたまた酔いが回ったせいか。蜻蛉は石畳の溝に躓いた。
「大丈夫ですか?」
「……ごめんね。うちとしたことが」
 咄嗟に抱き留めた蜻蛉の温もりはとても落ち着くもので。
「少しだけ、このまま。甘えても、いいでしょうか」
 雪之丞の背をぽんぽんと優しく叩いて。少女だとばかり思っていたけれど頼もしくなった彼女に蜻蛉は言葉を紡ぐ。
「そのまま、変わらずにおってね」
「はい。望まれる限り、きっと」
 星降る夜の小さな約束。

「おや、廻殿だ。外で会うとは珍しいな」
 アーマデルは廻を見つけて手を上げる。隣に居るのは誰だろうか。
「こんばんは。アーマデルさん。あ、こっちは僕の家族。暁月っていいます」
 握手を交してアーマデルも、保護者がついてくる予定だったのにと眉を寄せた。
 幻想にある下宿先の飲食店で、ケーキセットのドリンクを飲んだ客が1680万色に光り出してと遠い目をするアーマデル。現実に戻って来た彼は暁月と廻にハーブティを差し出す。
「そうだ、良ければこれ」
「わあ。ありがとうございます。じゃあ僕からも」
 廻が差し出した小包を開けると――
 ガーネットの御守り
 ケルト文様に似た組紐にガーネットがあしらわれたストラップアクセサリー。情熱と御守の石。廻からアーマデルへシャイネンナハトのプレゼント。

 冷えた風にピアスがチクリと痛む。
 二人でお互いの耳に消えない傷を刻んだ。其処から一年。
 御守代わりに輝くピアスに、ゼファーを守ってくれてありがとうと。
 アリスを見守ってくれてお疲れ様と。言葉にして。
 大切な物だけれど、飾り気の無いデザインだから、偶には年頃の女の子みたいにお洒落をしてみたい。
 海洋のマーケットには色取り取りのアクセサリーが並ぶ。
 星空を閉じ込めた、冷たい夜のフローライト。メタルタッセル。煌めく夜の空を切り取ったみたい。
 溢れる銀色の流れ星は空から降る輝きに似ていて。他の何よりも魅力的だ。
「此れにしましょうよ」
 少し高価なものだけれど。特別な夜なのだから。
 一対のピアスを片方ずつ分けて微笑みあった。
「輝かんばかりの、此の夜に! ねえ、早く帰りたいわ」
「うん。また来ようね」
 青色の煌めきを初めて身に纏うのは、貴女一人の前がいい。
 特別な夜に、特別な贈り物。ささやかな幸せが何よりも温かく愛おしい――


 エルラは海洋の漁師の家でシャイネンナハトのお祝いをしていた。
 漁師と一緒に獲ってきた魚で刺身を作り、綺麗に盛り付ける。
 あとは部屋の飾り付けをして。楽しいパーティの始まりに瞳を輝かせた。
 メンバーは何時もと変わらないけど。こうして何かが始まる予感に震えるのは特別な日だ。
「また来年もみんなといっしょにお祝いしたいなぁ……!」
 星降る夜に願わくば、誰一人欠けること無く健康でありますように。

 遮那の部屋はシャイネンナハトの装いに彩られていく。
「シャイネンナハトは飾りもですが色々なお菓子が出るのですよね」
 リンディスは雪の綿をツリーにくっつけながら遮那に語った。
 大きいケーキに、雪だるまの形をした砂糖菓子。シュトレンやサンタの形を模したクッキー、マカロンを並べればツリーの様に賑やかになるだろう。
「おお、愛らしいな!」
 リンディスの飾り付けに満面の笑みを零す遮那。
 沢山のお菓子、沢山の飾り。それを囲む大切な人。
「そうそう、それと魔法の言葉――『輝かんばかりの、この夜に』と。
 新しい楽しみがひとつ、ふえますよ」
 聖夜にはトナカイが空を飛んで子供達の家を回るらしい。
 獣型になるのは本当は嫌なのだけれど。それよりも、ユンは遮那のびっくりした顔が見たくて。
「やぁ、久しぶりだな。ユンだよ、覚えてるかな?」
「おおユンか!? 驚いたぞ。其方獣の形にも成れるのだな」
 ユンは遮那へと猩猩木と椿の花を渡す。赤く綺麗な花。
「真っ赤になってしまったね。嫌じゃなかったら良いのだが……どっちも冬の花なんだよ。
 この前は夏だったのに早いものだね」
「遮那、輝かんばかりのこの夜に! こんばんは!」
「ハルアも来てくれたのか! 輝かんばかりの、この夜に! だったな?」
 リンディスとハルアを交互に見つめて照れた様に遮那は微笑む。
 声変わりで少し声の枯れた遮那を気遣うようにハルアは次々にお土産を並べた。
 光珊瑚のオブジェと海の向こうのハーブが穏やかに香るキャンドル。
「も一つ包んでたのはボクの力作。おしゃれなカードの肩たたき券! 疲れた時にはとんとんするよっ」
「ふふ、ハルアは優しいのう。ありがとう」
「遮那ががんばっててボクも元気もらえるの。助けが欲しい時は言ってくれたらなって」
 それは切なる願いだ。困った時には頼って欲しい。それが友達というものなのだから。
「では、感謝を込めて三人に私からの聖夜の贈り物を渡そう」
 リンディスとハルア、ユンが小さな包みを開けると――

 薫風御守
 水晶が入った御守。厄災から身を守ってくれるようにと願いが込められている。遮那からシャイネンナハトのプレゼント。

 ――――
 ――

「おお、百合子殿。よう来たな」
「安奈殿も変わらず居るようで」
 遮那の部屋にやってきた百合子は飾られた色取り取りの小物に視線を流す。
 此処に集う贈り物は遮那を想って持ち込まれたもの。
「吾も贈り物を持ってきた……とは言っても焼き菓子の詰め合わせなのであるが」
 こういった贈り物を選ぶのは慣れていない。おそらく初めて選んだと、何時もより自信なさげに言うものだから。遮那はにっかりと笑って感謝を述べる。
「まぁ目新しいものはないと思うが色々入っておる故どれかは美味しいと思う!
 遮那殿と安奈殿とそれから天香の家に使える方々に配って頂きたい」
「ありがとう百合子。私からも其方に贈り物があるのだ。安奈と一緒に選んだ。受け取ってほしい」
 椿油
 椿から取った良い香りのするハンドクリーム。戦いで擦れた百合子の拳を癒すために。遮那と安奈から百合子へのシャイネンナハトのプレゼント。

 遮那の為に開かれる聖夜の祝い。
 タイムは張り切って天香邸を駆け回る。
「ふふ、籠がひとりでに歩いて居るかと思った。手伝うか?」
「あれ? 遮那さん風邪?」
 擦れた遮那の声に心配そうに見つめるタイム。
「問題無い。声変わりらしい」
「そうなんだ。あ、正純さんの所に行かなきゃ。またあとでね」
 足早に遮那の元を去るタイム。
「お待たせしました、はいこれ! ねえ、正純さんきいて!」
「どうされました?」
 カムイグラの料理を覚えるべく奮闘する正純はタイムの興奮気味の声に首を傾げる。
「遮那さんとね、そこで会って。声変わりが始まったって聞いたの!
 この前はまだそんな感じ無かったからわたし驚いちゃって」
「声変わり、ですか。あの歳頃の男子は直ぐに成長してしまう、と言いますからね」
 背も伸びて行くのだろう。望む望まぬ関わらず大人になっていく。
 ならば、今の遮那を忘れないように。傍で見守って行けるようにと願うのだ。

「お、此処に居たのか。二人にこれを渡そうと思ってたのだ」
 遮那がタイムに手渡したのは耳飾り。そして、正純の手には弓飾りが乗せられる。
 紅玉の御守
 ルビーがあしらわれた耳飾り(イヤーカフ)。願いが込められた御守。木漏れ日の様なタイムの笑顔が、いつまでも続きますように。遮那からタイムへのシャイネンナハトのプレゼント。
 赤珊瑚の弓飾り
 赤珊瑚があしらわれた組紐。矢弦と干渉しない場所に括り付ける御守。いつまでも健やかにいてほしいという願いが込められている。遮那から正純へのシャイネンナハトのプレゼント。

 朝顔は遮那の琥珀の瞳を見つめる。
 彼はずっと豊穣の外にも行ってみたいと願っていた。
「君が此処から動けないなら私が此処を他の国に変えて魅せるよ」
 朝顔は遮那に幻想を届ける。
「遮那君。プレゼント箱を7つ持ってきたから、1つ開けてみて」
 大きな袋から七つの内一つを取り出して、リボンを解いてみせる遮那。
 各国の風景が天井に広がる。まるでサンタと箱が遮那を外へ連れ出すみたいに。
「おお、凄いな!」
 溢れ出す光景に遮那は目を輝かせる。その笑顔を見ていれば難しくても問題無い。
「やってみせる! 私が遮那君に夢を魅せてあげたいの!」


「遮那くん、今日は楽しかったですか?」
 混沌に来て初めての友達が出来て、沢山の笑顔に囲まれて毎日がとても楽しくて。
 でも、遮那と出会ってから、今まで異常に楽しくなったから。
「今日は特別な日ですが、今日だけが特別な日ではないです。何の行事もない日も、退屈な日も、毎日がきっと特別でキラキラな日になりました」
 隣に座っている遮那の肩に頭を乗せ指を握る。
「こうやって遮那くんと日々を過ごしてその輝きはずっと大きくなっていきました」
 肩に感じるぬくもりに遮那は照れた様に笑った。
 空っぽだった心に沢山の人達の色が広がって。遮那の色が広がって――

「ねぇ遮那さん、最近はぐっすり眠れてるッスか?」
 鹿ノ子は隣の布団に居る遮那に手を伸ばす。
 約束を交した夏の日。夢の中で呼び声が聞こえると遮那は言っていた。
 けれど、あの膠窈(セバストス)はもう居ない。今はもう怖い夢を見ることも無いのだろうか。
「そうだな。最近は執務に追われてぐっすり眠っておるな」
 たとえ呼び声が無くても、戦夜の夢を見ることがあるかもしれない。
 鹿ノ子とて、夢から覚めて喪失感が残る日がある。失った記憶の誰かに呼ばれているような気がして、でも其れが誰なのかも分からなくて胸を過る物悲しさだけが拭えない朝がある。
「約束ッスよ、遮那さん。離れていても、心は傍に居るッス」
 あの日の約束に重ね。もう一度指切りをしよう。

 いつも通りの聖夜。変わらぬ日々。以前と違うのは同じ名字になったこと。
 いつもより新鮮で。少しだけ特別な夜。
「今年は晴れて夫婦のシャイネンだねぇ」
「うむ、結婚後で何か変わるって訳ではないが……」
 暖炉の薪がパチリと弾け、温かなオレンジ色の炎が揺れる。
 ホットワインを飲みながらゆったり過ごす。それだけで、不思議と落ち着くのだ。
 絡ませた左手の薬指。炎の明かりを反射する指輪をじっと見つめルーキスは目を細める。
「指輪を見ると去年とは違うんだなーって実感できるよね……愛してるぞ。ルナール」
 何時もと同じはずなのに。溢れる愛おしさが胸を擽る。
 恥ずかしさにクッションに顔を隠す彼女をルナールは膝の上にのせた。
「そんなに照れる事ないだろう? あぁ、俺も指輪を見れば実感するが……」
 愛の言葉がルーキスの耳朶を浚う。吐息混じりの声が余計に胸を昂ぶらせる。
「あーうん、思った以上に照れくさい」
 思っていても伝わらない。お互いに不器用なのだ。
 だから、星降る夜ぐらいは愛の言葉を沢山紡ぐとしよう――


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様です。如何だったでしょうか。
 星降る夜の思い出に色彩の魔法が降り注ぎますように。

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