シナリオ詳細
<Phantom Night2020>幻想舞踏のマジックトリート
オープニング
●
――Trick or Treat?
混沌世界では毎年10月31日に豊穣を祝い、子供達の成長を願う収穫祭か開催されます。古い、古い御伽噺(フェアリーテイル)の通り、10月31日の夜から、11月3日一杯までの凡そ三日間の間は世界にとっておきの魔法が掛かるというのです!
魔女の魔法はあなたの『なりたい姿になれる』というとびっきりのもの!
『崩れないバベル』は今回のお祭りが『ハロウィンのようなもの』であると貴方に教えてくれる事でしょう。
勿論、合言葉は『トリック・オア・トリート!』
今日は11/3。その魔法が解けるまで後少し。
幻想王国では『その束の間』を魔法の仮面を被って、『仮面舞踏会』を楽しもうという催しがフォルデルマン三世主導で行われることになったらしい。
魔女の魔法が掛っていれば誰が誰だか分からない。それを称して『仮面舞踏会』と呼んでいるのだろう。
「いや、実に素晴らしいとは思わないかい? 0時の鐘が鳴れば魔法が解けるだなんて『御伽噺』のようじゃないか! だろう? シャルロッテ!」
ええ、と小さく頷いた彼のお目付役は魔法に掛けられる事も無く常の様子かで肩を竦める。
幼い頃は二人揃って魔女の仮装をして悪戯を……なんて事もあったが、今はそんな想い出(かこ)も遠く――
「折角だ。王城で……というのはシャルが怒るだろうからね。
私主導でパーティーをしよう! 何、フィッツバルディの邸宅一つくらいなら貸してくれるだろう?」
シャルロッテは頭が痛くなる。嗚呼、又『陛下の気まぐれ』の被害者が増えてしまった、と。
溜息を混じらせる、が、彼のマイペースは今に始まった事では無いのだ。
「それでは、招待状を作成し、手筈を整えて参ります。
陛下。くれぐれも――くれぐれも! 勝手な行動はなさりませぬよう」
口を酸っぱくして、護衛騎士はそう言った。
●Magic-Treat
豪奢なシャンデリアが光の粒を落とす。ジャック・オー・ランタンは朗らかに微笑み『招待客』を橙色の灯の下へと誘った。
煌めくヴェールの如く、キャンディを飾り付ければ豪奢なるパーティーホールも今日は魔女の舞踏会に様変わり。黒い絨毯を辿り進めば、様々な料理が並んでいる。
パンプキンケーキの上で蝙蝠ショコラは何処か恥ずかしげ。マロンタルトの上に満足げに鎮座したホイップクリームも何か言いたげに此方を見ている。
バゲット添えたアヒージョの中で海老とマッシュルームは踊り、ガーリックトーストが香しくも誘っている。
クロワッサンのサンドウィッチの種類も豊富。イチゴのスパークリングワインの傍でミルクキャラメルティーが湯気を揺らす。
『流石は』国王の我儘の結果だと、誰かが笑う声もした。
それでも今日は僅かな時間だけのファントムナイトの仮面舞踏会。
誰も彼もが『身分』など関係なく、パーティーを楽しむ時間。
「ようこそいらっしゃいました」
淑女の礼を一つ。パーティードレスを身に纏った『花』は綻ぶ。『花の騎士』シャルロッテ・ド・レーヌ(p3n000072)はゲストを迎え入れる。
「王に何かあってはなりませんから、私は『魔法』を受けておりません。
『素敵なお化け』様……いいえ、私には分かっております。イレギュラーズ様。
正体は本日は秘密で御座います。どうか、この『不思議な夜』を楽しんで――」
- <Phantom Night2020>幻想舞踏のマジックトリート完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2020年11月13日 22時05分
- 参加人数34/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 34 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(34人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●
「皆々様方、お耳を拝借。今宵ばかりはお許しください多少の横着。
とある男が場末の酒場で願ったのは、一夜限りの晴れ舞台。
魔法と南瓜の夜に叶えられたのは、今晩限りの歌うたい。
音と夜に狭まれた愉快な夢物語(ショウ)を始めましょう」
燕尾服にシルクハット、白い手袋に包まれた指先はスティッキをかつりと鳴らす。
ダンスホールのエンターテイナーを装って文は普段は回らぬ口だって円舞曲と共に踊り出す。
「地上の方も地下の方も、愉しみませんかマジカルナイト。
今夜の私は謎の紳士ですから敬語だって嗜みます。
曲のリクエストはございませんか? 貴方のために歌いましょう」
華やかなる幻想の中で微笑み浮かべた奇術師に貴族たちが声あげた。
「ぱぁてぃ。はじめて。きらきら。きれい。とっても。
ひと、も。もの、も。きらきら。きらきら。そらの、ほし。みたい。
あかり。たべもの。たのしそうな、ひと。みんな。きれい。
ぶんか。れきし。ひとの、いとなみ。その、はて。きれい。きれい。ほんとう、に。きれい」
小さな翼を生やして、ああ、けれど、それが二にとって『望んだ姿』であるか気づいていない。一人隅にて見つめる人々は喧騒の中で楽し気で――ああ、二の心も踊る。
「……。きっと。これ。にいの、まもるべき、もの。にいの、うまれた、りゆう」
きらきら。お星さまみたいに綺麗で、大好き。大好きだから近寄れない。尊くて素敵な世界がそこには広がっている。
絢爛なる舞踏会。鮮やかなる蜜の空間で、毒を制するが如く背筋をぴんと伸ばしたオウェードは警備の仕事をしたいと名乗り上げる。
(ここで食事やらダンスやら彼女探しでも良かったのじゃが……まあいいじゃろう……)
ファントムナイトの魔法はなりたい姿に為れる――けれど、幾人もの騎士がその魔法にかからぬ様に、オウェードも首を振る。死者が来るという『御伽噺』がどうにも気になって心が騒めいた。
オウェードにとって最も尊敬する人物たるや王国誇る騎士『黄金騎士』である。彼を一目見ようとパーティーに参加したと周囲見回せば、フィッツバルディ公の傍らにその姿を見ることが出来る。
「こちらのパーティってのは、なんとも綺羅びやかっすね。綺麗とは思いますが、ちと落ち着きません」
肩を竦めて慧は自身の髪を飾った蛇たちが庭へ行こうと駆り立てるのを静かに宥めた。下半身をずるりと引きずるようにゆっくりと歩を進めれば、美しき庭園が彼を歓迎している。
「でも庭は素晴らしいっす」
握り飯はないでしょうかと呟きながら手にしたのは幾つかのサンドウォッチ。紅茶もよろしければと給仕も欠かさぬ花の騎士に小さく礼を言い静かに庭園を眺めて息を吐く。
「薔薇、綺麗っすねぇ。魔法での助けもあるとはいえ、育てるのも維持するのも大変でしょう。
俺ァこれでも庭師の端くれですから、楽しむ気持ちだけでなく敬意も抱くっす。
……今後も維持されてくでしょうし、また見る機会があれば嬉しいっすね」
鎧の身では叶わぬ姿。人と同じものを感じる事を叶えた三日間のみの――美しき女性のその身で庭園へと歩み出たウォリアは性と人間の体がない自身から想像もつかぬ経験が出来たと息を吐く。
「美味を堪能し、踊り……歌い……祭に興ず……戦ばかりのオレには全く初めての事だったぞ。肉体とは様々な事が出来るのだな」
その発見に息を吐き――混沌世界では嘗ての世界では考えられない事ばかりであったと空見上げる。
「死した命は戻らず、それでも人々は今日を高らかに祝い、生を謳歌している。
魔法に掛かったこの夜…我が炎を美しいと言った、亡き彼女(シャルロット)もどこかで楽しんでいるだろうか」
彼女なら、屹度、お菓子を頂戴と揶揄うように笑うだろう。それを想像した後、ウォリアは合言葉を口にした。
――Trick or Treat!
兎の耳をぴょこりと揺らした魔法使い、ラパンは立派なお屋敷での舞踏会は腰も引けるし、と庭園で『今日だけしか会えない人』と話したいと霊魂疎通を用いて周囲を見回した。
「誰とも話せず覗いていたりするのかな? よければボクとお話してほしいのだよ!
ボクは煌びやかで腰が引けちゃった。でもご馳走は美味しかったのだよ。『君』は?」
どうしてここにやって来たの、と問いかける。折角のファントムナイトだからこそ、見て居たかったの言葉に頷けば心はぽかぽかと温かい。
ハロウィンは死者が訪ねてくる。そう口にすればリゲルは期待してしまうのだと薔薇の庭園を眺めた。今は亡き父――シリウスが『仮装』をして会いに来てくれるかもしれない。
そう、呟きを飲み込んだ。星空の見えるその場所であの『冬の星』は見えるだろうか――
「父上、見守って下さっていますか。
イェルハルド様と、あちらの世界で仲良くされておられますか。
今は魔種の力から解放され、安らかで居られるのだと信じたい……一目でいいから、そのお姿を目にしたいものだ」
もしも、ファントムナイトに遭えたとしても彼は『魔法にかけられて』いるだろうか。ゆっくりとリゲルは目を伏せる。父の遺志を継ぎ、立派な騎士となるべく――そして、母国の為に剣を振るうとそう誓う。
星空に向け掲げた剣は冬の星よりも鮮やかに輝いていた。
●
「タスクも社交界デビューってヤツして行こうよ! ナンパにシッパイしたらオレたち二人で踊ればイイしね!」
「お、俺が!? い、いけるかなあ?」
イグナートは「ダイジョーブ」と揶揄うように亮の頬を突いた。踊りたい気分だ。ダンスのお誘いを折角ならばアーベントロート嬢や王様、騎士シャルロッテにバルツァーレク伯……そして、ちょっと難易度は下がるがリヴィエールやフランツェルにと考えていたそうだ。
「ただしイチブ女子は声のかけ方をシッパイするとパーティから退場させられかねないからチュウイしようね!」
「待って、イグナート。難易度高い所は俺が行くって感じ?」
「え?」
「え? じゃな――」
せんぱーい! と手を振る声がする。「ヤベエ奴が来た」という顔をした亮に「呼んでるよ」とからから笑う無慈悲なイグナート。
「すごいすごーい! お屋敷だ! なりたい姿は甘くて可愛いかぼちゃの妖精さん!
……でももうちょっとこう、ボリュームが欲しかったなぁ。このへん(胸部)に」
そう言いながらフランは沢山の料理を手にしていた。
「ッ――こうなったらやけ食いだよ! 美味しいものをたくさん食べれば、きっと栄養がつくはず! ローストビーフにー、パンプキンパイにー。あっ、月原先輩ー! その仮装って何? 今何食べてる?」
気軽に問いかけてくるフランに「俺はヴァンパイア」と胸を張る亮。イグナートは「ナンパタイムだよ!」と押せ押せの構えである。
「かわいいでしょー」
「うん。いつも通り(可愛いよの意味で言ったつもり)」
「……何か言った?」
助けて、イグナートの視線が亮より向けられるがイグナートはフランに「似合ってる」と微笑んで普通に褒めてパスしていた。亮が悪い。これは紛れもなく亮が悪い。
「あ、これおいしいよ、口開けて、あーん。……あつあつの あひーじょだよ!」
「助けてイグナート!!」
叫びがこだました―――
「イーハトーヴさん、パーティーってすっごく楽しいんだね。ちょっとはしゃぎすぎちゃったんだよ」
魔法使いの仮装に身を包んだマルシエラは「僕がお料理持ってくるんだよ」と彼へと待っていてと告げて走り出す。イーハトーヴは食事有難うと尾をゆらゆらと揺らした。
お菓子の国のオフィーリアはちょこりと座って楽し気だ。
「うん、君の言う通り、すっごく楽しくて素敵なパーティー! 演奏やダンスや、色んなきらきらに夢中になっちゃった!」
サンドウィッチだよと微笑むマルシエラにイーハトーヴはエビとアボカドのサラダがたっぷりと喜ぶように尾で合図する。
(さっき人込みではぐれそうになった時、イーハトーヴさんがずっと隣に寄り添っててくれた事、すごく嬉しかったんだよ。でもね、本人には内緒なんだよ)
だから――今、。とっても楽しくて、とっても幸せなのだ。
「あー! イーハトーヴさん口の端にいっぱい食べこぼしがついてるんだよー!!」
「わあ。有難う。ねえ、マルシエラ。
お腹がいっぱいになったら、一緒にお庭を見て回ろうよ。綺麗なお花、大切なお友達と、もっと近くで見てみたいんだ」
なら、食べ終わったら見に行こうと約束して。尾っぽは自然にゆらゆらり。
「トリック・オア・トリート! フランさんもお花見?」
にんまりと笑み一つ。南瓜の魔女の仮装に身を包んだアレクシアににこりと微笑むフランツェルは「お菓子は如何?」とキャンディを手渡した。
「へへ、前からゆっくりお話してみたいなあって思ってて! 何だかんだバタバタした時に会うことが多かったし!」
「そうね。お仕事が多かったから、何処か新鮮だわ?」
そういえば、と思い出したように告げたフランツェルにアレクシアは悪戯めかして「みてみて、これ魔女の姿なの! まあ、普段とあんまり変わらないって言われたらそうなんだけど!」とローブを揺らして見せる。
「やっぱり、フランさんみたいにすごい魔女になりたいなあって思ってさ! フランさんは何かなりたいものとかってあるのかな?」
「私も、もっと素敵な魔女になりたいかもしれないわね。最近は司祭としての役割が強いから……一緒に最強の魔女になりましょう?」
揶揄うように微笑んだフレンツェルにアレクシアは「それは良いかも」と楽し気に微笑んだ。
稔がファントムの仮装をした――わけだが、張り切っていたもう一人は酒で早々と退場である。
「……ふむ?」
視線の先には花の騎士。初めて会った時に無礼な態度をとったことで叱られた記憶が痛い。丁寧にあいさつ交わせば、今日は「ご機嫌よう」と微笑みが帰って来る。
「踊らないのですか」
「いえ、私は……」
首を振ったシャルロッテに稔は唇から飛び出しかけた言葉を我慢しようとして――できていなかった。
「前回の詫びとして一緒に踊ってやらんでもないが? どうせ仕事云々を理由に断るのだろう。この堅物女め、何処で出会しても陛下陛下とそればかり。全く見上げた忠誠心だな! はっ!」
「………」
微笑が――怖い。
「あー憂鬱早く帰りたい。行けと言われたから来ましたが、言伝もない癖挨拶だけしろと言われましても……あ、居た」
金髪を揺らし、貴族令嬢の様にしずしずを歩み寄るラグラ。ドレスもかったるければ、なんだって気が重い。
「シャルロッテ様……で宜しいでしょうか。ダンスはなさらないんですね」
「ええ……」
「王と御一緒なさっては? 御二人なら遠巻きに王を気遣う御婦人方も悪くは思わないと考えますし、何より近くで守るというならお相手を務められる方が安全かと考えます」
ラグラの言葉に肩を揺らしたシャルロッテは「それでも、職務が御座いますから」と何処か寂し気に笑みを浮かべる。
「……いいの? これが最後にならないようにね、シャルロッテちゃん」
彼女が顔を上げた時――ラグラは人ごみに紛れる様に消えてゆく。嗚呼、父は何をさせたかったのか。先ほどの寂し気な顔が妙に気になった。
●
「おじさまおじさま! 花嫁さんと花婿さんみたいだよねこの仮装」
純白のドレスを揺らしてくるりくるり。ルアナが笑みを浮かべればグレイシアは「花嫁はともかく、吾輩は普通に礼服なのだがな?」と事実を告げ――ルアナは「ぶう」と頬を膨らませる。
自分が何を着たって何も考えてくれないのかといじけたルアナにグレイシアは不満そうな顔をするなと掌をその頭にぽん、と乗せる。
「そんな顔をしていては、折角の可愛い衣装が台無しだ……そうだな、ルアナは何か食べたい物はあるだろうか?」
そう言われれば、可愛いのは衣装だけなのかとしょんぼりとする心が存在している。勿論、似合っているという言葉がグレイシアから抜け落ちたのは彼が当然だと思っていたからなのかもしれないが……。
「んーと、お肉食べる! 大きくなるもん」
「それならば……取ってこよう。どれでも好きなもの食べなさい。足りなかったり、他に欲しいものがあれば言うと良い」
頂きますと笑みを浮かべる。料理をもぐもぐと食べながら、自分とグレイシアの間にあるのは年齢の差という以上に、彼からの印象が『子供』であるという覆せぬ認識かと唇を尖らせる。
(おじさまが好きになるとしても、もう一人のわたしなんだろうなって……なんとなくわかる)
口の中へと放り込んだハンバーグ。ふと、ルアナは思う――『わたしはおじさまに好きになってほしいのかな』と。
「ガブリエル様がいらっしゃる気がする! つまり食事を楽しんでいるかもしれない!!
え? 貴族だから挨拶したりとかダンス……? ……肉美味しそう!」
ランドウェラは今日という日は王様に感謝しようと食事を楽しむガブリエルの姿をちらりと見遣る。美食家たる彼も満足のゆく食事を用意するのは流石はフィッツバルディ公だろうか。
「食べるだけでもいい……にしても誰が誰だかわからないな」
ローストビーフを食べ、そして、少し休憩だとケーキとミルクティーを頂きながらランドウェラは小さく呟いた。もしもトリックオアトリートと求める声があれば気軽にこんぺいとうを手渡そうと心に決めて。
「そやってしてると、陸を泳ぐお魚さんや」
「そいつはどうも。こうヒレが多いと、そこらに引っ掛けそうで落ち着かねぇがね」
蜻蛉の揶揄う声に縁は「嬢ちゃんも来年なってみるかい?」と覗き込む。見慣れた相手であれど、仮装姿は新鮮だ。ひらり、ひらりと揺らぐような尾鰭が靡いて美しいと微笑んで蜻蛉はそう、とテーブルから立ち上がる。
「何か食べる? ……ほら、前みたいに口へ運んであげよか」
今年は雪女やの。冗談めかして掌には小さな雪だるまをちょこりと乗せる。ふう、と息を吐きかければ冷たさに縁が小さく身じろいだ。
「おいおい、ファントムナイト最後の夜だってのに、氷漬けは勘弁してくれや……っと、悪い」
身を捻った縁の動きでヒレが蜻蛉のヴェールをずるりとずらす。「直してやるからじっとしていろ」と――珍しく、彼が降れる様子にぱちりと瞬いて。翡翠の双眸がこちらを見ていると蜻蛉は紅玉を細める。
「――言ってなかったが……似合ってるぜ、その格好。甲斐性のねぇおっさんが、思わず見惚れちまう程度には」
ヴェールと共に告げるその声に、口説き文句も魔法にかけられてるとふいと背けた蜻蛉へ「いつもより赤いのもわかる」と揶揄い一つ。どっちが遊ばれているのかと『魔法』の中で唇を尖らせて。
「ハロウィンナイト! ファントムナイト!」
ヨゾラは毛並みがふわふわな猫の獣種の姿になって見たのだと尾を揺らす。可愛い白いおばけなフード付きコートを身に纏えば『ねこ大好き』な心が躍り始める。
「わーい、ねこだねこだー!」
このうちに楽しみたいと尾をゆらゆら。ハロウィンパーティーを存分に楽しむとローストビーフにお菓子、嗜む程度のちょっとしたお酒を頂いてみる。たくさん飲めば眠りの中。折角の『ねこ』を楽しむためにセーブは必須だ。
「食べ放題飲み放題……幸せだなぁ……猫が沢山いればもーっと幸せなんだけど」
それは後日のお楽しみかなあとお土産用にとバスケットを手渡してくれた使用人に礼を言ってたくさんのお菓子を詰め込んだ。
「ガブリエル様がいらっしゃると聞いたのだけど! 王様の思い付きで色々大変な思いしてらっしゃるだろうからお助けしたいって思ってたら、気付いたらこんな格好に! いや別に、身も心も尽くしたいとかそんな事思ってないから」
――思ってないのにクラシカルメイドの姿になるリア・クォーツ(20)。
食事を楽しむガブリエルを見つけて、頬を染めそっと近寄っていく。距離の詰め方もスマートだ。
「あの、大丈夫でしょうか、伯爵。お疲れではありませんか?
お飲み物をお持ちしましたが、他に何か私にできる事は御座いますでしょうか? なんなりと! なんならとお申し付け下さい!」
「ああ、有難うございます」
微笑まれるだけで心の中でガッツポーズ。けれど今日は淑やかなメイドだ。こういう時はどうするのだったかと脳内で検索、直ぐ様に一致した情報を実践してみる。スカートを摘まんで傅いて――
「今宵限りは貴方だけのメイドで御座いますので、なんなりとお申し付け下さいませ。ご主人様」
リアのその言葉にぱちりと瞬いたガブリエルは擽ったそうに小さく笑った。
●
「トリック・オア・トリート!
去年は天義だったからイルちゃんはホストだったけど、今年は一緒に楽しめるね! 折角の機会だし、思う存分楽しまないとね!」
緊張したようにもじもじとするイルの前でスティアはにんまりと微笑んだ。「スティアは珍しい恰好だな」と不思議そうに瞬くイルにスティアは「そうでしょう?」とくるりと回る。
「私の衣装はカムイグラって国で知り合った子の衣装なんだよ!
ちょっと珍しいよね~。でも少しお姉さんっぽく見えるかな? イルちゃんは――……赤ずきんちゃん?」
「う、似合わないだろうか」
似合うよ、とスティアはイルの手を引いた。赤ずきんちゃん、こっちへ、と微笑んだスティアは「こんなこともあろうかと男性パートも覚えているんだから準備はバッチリだよ!」とどんとこいと胸を叩く。
「わ、私が――」
「ふふ。細かい事は気にしない! 気にしない! それじゃあ、踊ろうね! 赤ずきんちゃん!」
黒いタキシードに薔薇の花。魔法にかけられたレジーナは自覚しているかしていないかに関わらず『あの人』をエスコートするに相応しい理想の姿に変化する。魔法使いのちょっとした悪戯か、それとも――
「可憐で麗しき君。今宵の相手に我(わたし)を選んではいただけませんか」
穏やかにそう声かけたレジーナへ『麗しき青薔薇』はふと顔を上げ、見透かしたように「喜んで」と悪戯めいて囁いた。一夜の夢の如く、ダンスホールへとその白磁の指先を運んで。
スリーピーススーツにインバネスコート。ちょっとした茶目っ気は魔女のとんがり帽子で。
威降は「俺の魔法使いのイメージだからこんな感じか……映画のやつだな」と呟いて「でも月羽さんと並んでも変では無いのは良かった」と胸度撫で下ろす。
「折角なのでお化けの格好が良いのですよね。ドレスの吸血鬼でしょうか……あまりこういうのはやったことがないのですが」
くるりと回った紡。和装以外は慣れないとどこか緊張した様子で、踊った事はありますか、と問いかけた。
「……え、踊りですか? 全然ダメです。月羽さんが分かるなら頼もしいですね」
「私は巫女でしたから舞は人並み以上にやっていましたけれど。
意外と踊れるものですね。それじゃあ踊りましょうか。私がリードした方がよろしいでしょうか?」
微笑む紡のリードに合わせて威降は少しずつステップ踏み続ける。「次はお手をどうぞと言ってみたいですね」と唇尖らす威降は彼女の方が身長が高い事に気付く。
「それにしても……私の方が少し身長高いんですね。ふふ、可愛いですよ。それに、身長は私は気にしない派です」
「月羽さんは気にしない派らしいのは嬉しいですが、後もう少しかぁ。惜しいな……」
泳げないボクにとって、人魚姫は憧れで――だからこそ、なりたい姿は彼女の其れなのかもしれない。
アイラは「ね、ね、ラピス! ボクね、踊るのって、だいすきなの」とそうと彼の手を取った。
「去年みたいに、一緒に踊りませんか? 今度は去年よりも、ずっと、ずぅっと、近い距離で!」
「うん、アイラ。とてもよく分かるよ。僕も、君と一緒に踊りたいんだ。
何度でも君の手を取るよ。ふふ、キスしてしまいそうなくらいの距離で、かな?」
そっと近づけばおでこがこつりとぶつかった。揶揄うように小さく笑って手を取って触れ合って離れて。
Un, deux, trois。ステップ踏めばラピスは「君の為に、勉強しているっていったら?」と揶揄い笑う。
「……うん、上手だね。ふふ。実はボクも緊張してるんだ。
だってキミと、こうして、踊るんだもの。何回目だってどきどきしちゃう」
何時だって鼓動は音立てて。恥ずかしい程に熱上がる。何時にも増して美しいと褒める声音も熱帯びる。
「さあさ、陸の王子様。恋物語の続きをはじめましょう。二人を隔てる青はない。ずっとずっと、二人だけで――」
「――仰せのままに、海のお姫様。永久に続く恋と愛の物語。泡と消える結末なんて無い。いつまでも二人で、愛し合おう」
囁く聲は泡になんてならない。泳げなくても、声がある。人魚姫の悲恋の物語なんて、今は此処にはないのだから
なんだかんだいつもリードされている気がしないでもないけれど――と、ラクロスは行人を見上げる。
ダンスは『王子様』の特技だ。屹度リードできるはずと青薔薇背負いし『王子様』は行人に笑み零す。
「それにしても行人君の仮装、聖職者の格好なんだね。とっても似合ってるよ! 周りの子たちはもしかして精霊君達なのかな……?」
ゴーストを模した布を被った精霊たちを連れて、神父を思わす衣服に身を包んだ行人は「アントワーヌは何時もよりフォーマルだね」と褒め称える。
「お手をどうぞプリンセス。今宵、私と踊ってくれますか?」
王子様の微笑に行人は頷いた。親愛には親愛を。優雅さには優雅さを。きちんとシルエットを作って誘いに応じれば――彼女の手が小さいなあと『女性』である事を認識させる。
「ふふ。君の手は本当に温かくて大きな落ち着く手だね。
さあ、行人君、私に身を委ねてくれ。ちゃんとエスコートして見せるから」
リードをしようと微笑む彼女にばれぬ様に、こっそりとその動きを合わせて――優雅に踊り続けよう。
ファントムナイトの魔法で『18歳の私』に――と。どう頑張っても埋まらない年の差を魔法が埋めてくれたのとディアナはセージを見上げて小さく笑う。
理想の自分になれるとは洒落ていると髭を剃り、フォーマルな恰好に身を包んだセージは悪戯めかして小さく笑う。
「私と踊っていただけますか? お嬢様」
「まともな格好を始めてみた気がするわ……ほんと、卑怯すぎるんだから……」
ふい、と視線を逸らすディアナは素直に格好いいと言えなくて。一方で、セージからも何も『言葉』がない事に心がざわりと騒めいた。いつもと変わらないのかしらと不安が首を擡げだす。
抗議の声も飲み込んで。何時もより顔の位置が近い事にディアナの脚が小さく縺れる。
「あ」と声を漏らしてバランスを崩すディアナをダンスの一部の様に受け止めたセージはそうと耳元で囁いた。
「……綺麗だぞ、想像以上にな?」
ああ、狡い――大人って。セージって。狡い。と口に出すディアナに「どっちが」とセージは小さく笑みを零した。
「仮装、というか。幼い頃の我ではないか、これ……」
クレマァダは仕事のし過ぎで草臥れた鯔のような脳みそだと自嘲する。
仕事のし過ぎで疲れているかと呟いた時――声が、聞こえた。
同い年くらいの小さな子の歌。聞き覚えのある様な、知ってるような。知らないような。
「さあさあ かくれて きみが みつけたくなるように」
「隠れんぼ? 我はもうそんな歳では……って、もう行ってしもうた」
歌を頼りに探し続ける。どこ、どこ、と焦るように走り出す。
ぼくはどこ きみはどこ あそこはここで ここはどこ♪
誰かは知らない。けれど、知っている気がする。『あの子』は何処だと涙を流す。
「どこいったの、おねえちゃん」
自然と唇から漏れた言葉を、クレマァダは憶えていない。
辿り着いたと扉を開く。ごおん、と音を立てた0時の鐘。
「——みーつけた!!」
重なるような言葉に、確かな――温もりがあった気がした。
一瞬だけ、刹那の抱擁のぬくもりも分からない。ああ、けれど。
魔法が溶ける様に、あの子も居なくなった。小さな、小さな余韻を残して。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ハッピーハロウィン!!
GMコメント
ハッピーハロウィン! 夏あかねです。
当シナリオは11月3日。所謂『ファントムナイトのフェアリーテイルの最終日』です。
0時の鐘が鳴れば仮装の魔法が解けてしまいますよ。
※一行目:行動は冒頭に【1】【2】【3】【4】でお知らせください。
※二行目:ご同行者がいらっしゃる場合はお名前とIDではぐれないようにご指定ください。グループの場合は【タグ】でOKです。
※三行目:仮装の指定はSD参照でもOKです。
●ハロウィンナイト
ファントムナイト(混沌世界のハロウィン)は10/31-11/3まで続く不思議なお祭りです。
フェアリーテイルと同じく住民達は11/4 0:00まで不思議な魔法に掛けられてその姿を『なりたいもの』に変貌させることが出来るのです!
勿論、シャルロッテの様に『魔法にかからない』者も居るでしょうが……よければ、魔法に掛けられてみませんか?
「私は誰よ」と言わなければ、ひょっとすれば気付かぬ者も無数居るかも?
※此処は幻想王国です。場所は王様が『おねだり』したのでフィッツバルディ公所有のダンスホールです。
※外はフィッツバルディ公の兵が警備を行っているようです。例えば、黄金の騎士なんかも……。
※11/3の21:00-11/4の0:00までを取り扱うシナリオです。
【1】ホールでダンスを楽しむ
ハロウィン使用に飾り付けられたダンスホールで、生演奏のオーケストラでダンスをどうぞ。
お化け達が楽しげに踊り続けるという『フシギ』な空間であるのも楽しむポント。
オーケストラに交じって演奏や、ダンスに何方かを誘うのだって良いかも知れませんね!
(お一人参加で『何方か』と言う場合、そうした希望者が複数居られない場合はNPCがお相手致します)
【2】ホールで食事・談笑を楽しむ
ハロウィンパーティー用に準備された豪華絢爛なるお食事の数々です。
オープニング本文に御座いますような可笑しに、ローストビーフや魚のカルパッチョ等も……。
勿論、王様の我儘で贅沢な準備が整えられているようです。
食べ放題&飲み放題です。王様が許すぞ! 未成年は飲酒禁止です。
また、食事の持ち込みも可です。
【3】庭園に出てみる
ホールの外に存在する美しい庭園です。一年中花を楽しむことが出来るようにと準備が為されたらしいです。
嘗て、この屋敷の持ち主であった『ベルナデット嬢』が愛したと言われる鮮やかな紅薔薇はどの季節でも見られるようにと『魔法』を浴びて、いつでも楽しめるようですよ。
東屋などが存在し、のんびりと鑑賞することも出来ます。食事を持ち出すのも可です。
【4】その他……?
上記に当てはまらないものはこちらへ。お答えできるかは保証はございません。
そういえば、ハロウィンって死者が訪ねてくるんでしたっけ……? ひょっとすれば……?
●NPC
・『放蕩王』フォルデルマン及び、『花の騎士』シャルロッテ・ド・レーヌ
・『黄金双竜』レイガルテ・フォン・フィッツバルディ及び『黄金騎士』ザーズウォルカ
はホールに居ります、が、身分がある方々なので接し方にはお気を付けて下さいませ。
夏あかね担当NPC
・『月天』月原・亮 (p3n000006)
・『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス (p3n000038)
・『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)
はうろうろとしております。お気軽にお声かけ下さい。
(その他の夏あかねの担当NPCは国家代表以外でしたら遊びに来る可能性はございます)
それでは。
どうか、楽しんで!
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