PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悠久幻想オリエント

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●開かれし黄金の国
 豊穣郷カムイグラ。海洋王国が決死の思いで切り拓いた『静寂の青』の先で輝いていた新たな大陸。
 鬼と精霊達の住まうその大地はまさしく約束の地。黄金の穂が風に揺れ、美しい灰桜の花弁が舞う世界。
 だが魔種(ほろび)の魔の手はこの理想郷にも例外なく迫り、今にもはびころうとしている――

「いやあ、虎さん、今年も豊作、豊作、大豊作ですな!」
「んだんだ鷹さん、これで数年は食い扶持に困らないっぺよ!」
 カムイグラの首都、高天京(たかあまのみやこ)から数十里ほど、青空の下で二人の鬼の若者が鎌を手に実りを刈り取っていた。
 歯切れ良い音と共にその黄金の実は刃に跳ね飛ばされ、二人の傍でぼんやりとしている牛車の上に乱雑に積まれていく。

「じいさん達も心配性ですわ、こんな晴れた日に化け物なんて出るわけないべ」
「虎さんの言う通り! 早い所刈り取って嫁さん喜ばせないとな!」
「んだ!」

 汗を流しながら献身的に実りを刈り取る男達、その二人に這い寄る怪しげな影。
 太陽が雲に隠れ、少し寒気を感じた鬼の男が相方へと声をかける。
「ところで虎さん、嘘みたいな話なんだが聞いたところによると――なんでも龍神様が倒されて、黒い船に乗った男たちがこっちに来たんだとか――虎さん? 便所か?」
 だが、虎さんと呼ばれた男はそこにいない。ただそこに彼が持っていた農具だけが落ちているのである。
「まさか……虎さん! 虎さーん」
 不安にかられた男は隣にいたはずの仲間を求め続ける、すると突然、彼の隣でのんびりしていた牛が硬直すると、一目散に牛車を引きずりながら里の方へと逃げ出した!
「フフフ、タカサン、ココダヨ、タカサン」
 怪しげな甲高い声、さらに曇る黄金の稲畑。その鬼の男が振り返った先に居たものは――ぐったりと気絶し、痙攣する男の仲間と、白い衣をまとった女幽霊――

「ひっ、出たああ!?」
 男は血相を変えて農具を放りだし、逃げようとするも何かに蹴躓いて地面に転げ落ちる。それは白い毛玉の様なものであったが……二本の尾を生やすと、巨躯な男の体を優に超えるほど膨らみ、稲穂をつぶしながら男に迫る。
「オロローン……」

「う、うわああああ……!」

 哀れ、その地に響いた音は硬い何かが潰され折れる音と、男の遺した断末魔のみ――

●新たなる大地、新たなる種族
 イレギュラーズが赴いた先は、まさにその悲劇があった場所のすぐ近く――
「ここ……だよね? 農村にしては妙に大きい、けど……」
 村の周囲に恐ろしく広がる、鬱陶しいほどの黄金の輝きに目を擦りながら見渡した『いねむり星竜』カルア・キルシュテン(p3n000040)が見た物は、木と藁で作られた家々が並び立つ豊穣の地の農村であった。
 イレギュラーズ達は特にあやかしの類が多いと言うこの村へ、『収穫期の農民達を守ってほしい』という依頼を受け訪れたのだが、様子が変だ。

 特に事前に情報が行っているという情報は聞いていないはずなのだが、やけにこちらを不思議な物を見る様な目の鬼人種(ゼノポルタ)達の姿が多い。彼らは何か別の出来事で村の大きな広場へと駆けつけている最中であるようだ。

 どうやら何かがあったらしい。異常があるという事は既に自分たちの仕事は始まっているのだ。
 となればのんびり護衛の申し出をしている暇はない。この村を救うためにも、また豊穣の鬼人種との友好を深めるためにも早速一仕事をしなければならないようだ……!

GMコメント

 黄金の稲穂実る大地へようこそおいでくださいました。

●依頼内容
 豊穣(カムイグラ)の田園地帯に発生した異常を取り除く。
 鬼人種(ゼノポルタ)との交流を深める。

●1章の内容について
 あやかしの被害が多いと言う農村にて何やら不穏な空気が流れています。
 人々はそわそわと家を飛び出し、大勢は村の大広場に、少数が近くの水車の下へと集まって何やら話しているようです。
 何があったのか、なぜ彼らはこの村に留まり続けるのか。現地調査をして異変の情報を少しでも掴みましょう。
(情報量に応じて2章以降の能力値に補正がかかります)

●2章以降
 おそらく田園地帯――にて発生した無数の妖怪との戦闘が予想されます。

●同行NPC
『いねむり星竜』カルア・キルシュテン(p3n000040)が同行します。(プレイング内での指定が無ければ登場はしません)
 プレイング内にて指定があった場合のみ飛行と防戦でサポートします。(書かずとも必要最小限の援護防御は描写外でします)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 悠久幻想オリエント完了
  • GM名塩魔法使い
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月01日 16時20分
  • 章数2章
  • 総採用数31人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

 一つ、全てを知る物は、稲を育ててはならぬ。
 一つ、日が上っている間に稲へ触れてはならぬ。
 一つ、月が雲に隠れぬ夜に稲へ触れてはならぬ。
 一つ、決して大きな音をたててはならぬ。大声を上げるなどもってのほかである。
 一つ、――
「縛りが多すぎるわよ、ここの幽霊……掟でピーチクパーチク言うならとっととおきて去ねって感じよね、稲だけに」

 太陽は豊穣の空で眩く輝き黄金の稲畑を照らす。風に揺れるその水田の間に走る僅かなあぜを慎重に渡り、イレギュラーズ達は犠牲者達がいたという場所へとたどり着いた。
 辺りには既に妖しげな雰囲気が漂い、掟を破った存在を決して逃さないと息を潜めているのを肌身に感じられる――上等だ、やれるものならやってみろ。
「ぶはははっ! とっておきの目覚ましだ! 隠れてねえで受け取りな!」
 声を張り上げ取り出した『とっておき』は村の中で一番大きな鍋とお玉。ゴリョウは豪快にそれを掴むと、激しくお玉と鍋の底同士をかち慣らし、悪霊どもを呼び寄せる!
 彼の思惑通り、数秒も待たないうちに全身に寒気の様な悪寒が走り――イレギュラーズ達を取り囲むように魔物達が顕現する。
「ウルサイ、ウルサイ、ウルサイ、クルナ、クルナ」
「オキテ……ゼッタイ、ヤブリシモノニハ、死、アルノミ!」
 周囲の邪気は女幽霊の様な形となり、大地は盛り上がり土深くに眠っていた幾多の怨念が目覚め、そして稲畑からは風船なのか猫なのか定かでない、次々と二本の尾を生やした巨大な魔物が数匹膨らみ威嚇行動を取る!
「これほどとは。なるほど、掟を破って生きて帰ったものがいないわけだ」
「何……全部倒せばいいだけの話だろ?」
 その数の多さにため息をしつつも、冷静に背中合わせの態勢を取りそれぞれの得物を取り出し構えるソロアとクロバ。相手はあやかしとはいえ魔物、刃が通る限り、倒せる相手ではあるまい!

------
 おまたせしました。
 2章は次々と湧き出るあやかし達を掃討するシナリオとなります。
 出現するあやかしは3種類、どの敵も強力ですが力を合わせて自分の得意分野を押し付ければ倒せない相手ではありません。また第一章の成果に応じて敵にはそれぞれ弱点が付与されています。
 どの敵と対処するかプレイング内にて記載をお願いします。

●女幽霊
 白い着物と天冠(三角布)に身を包んだ、生ある物全てを恨む女幽霊です。その見た目通り回避と抵抗に優れます。
恨み言を呟いており、あまり聞きすぎると陰鬱とした気分になりAPを吸い取られるでしょう。
 弱点:アンデット属性を持ち、こちらの特効攻撃に『変幻30』が付与される。

●化け猫
 丸々と膨れ上がった猫のあやかしです。この地域にて齢10を超えた猫がとある病気に感染すると変容する様ですが――
 膨れ上がった脂肪は防御力に優れ、同時にその質量は転がるだけで邪道じみた防御技術【変動】攻撃と化すでしょう。
 弱点:【防御無視】【弱点】【邪道】攻撃を受けた際、自身に【ダメージXX】を付与する。

●落ち武者
 この呪われた地で強奪を企んだ不届き物の鬼人種のならず者、その成れの果てです。
回避と防御能力は乏しいですが代わりに体力はそれを補って余りあるほど高いです。追撃と出血を伴う刀の連撃は気を抜くとあっという間に体力を持って行かれるでしょう。
 弱点:攻撃を回避された場合、そのターン中ファンブル大幅増加

●補足
 この依頼は2章構成です、魔物の群れを退治すれば『鬼人族との友好』『あやかし退治』成功条件を二つとも満たし、住民達も今期は穏やかに過ごす事ができるでしょう。
 一時凌ぎで満足せず危険を承知で真の敵『御狐様』を炙り出すか、あるいは村へと戻り更に交流を深めるか――プレイング次第では第3章があるかもしれません。


第2章 第2節

セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
長月・イナリ(p3p008096)
狐です

 まるで二階建ての建物かそれ以上に真球状に膨らんだ異形の猫がぬかるんだ地形をものともせず、彼らの意のままに全てをなぎ倒しながら転がっていく。
「いやはや辛味オ……油を見つけたと思ったら次は膨らむ化け猫ときたっ! 怪談かっ!」
 丸腰の農民であればそれはまさに絶望的な壁に見えたであろう――だが、物怖じもせずウキウキと緋刀を握りしめはしゃぐ秋奈にとってそれはちょっとサイズが大きいサンドバッグに過ぎないのである!
「まあなんでもいいじゃん! 捌きがいがあるその脂肪、受け止めてでも叩き切ってあげるんだからっ」
 奏でるその刀の名は戦神。秋奈は素早く転がる化け猫の巨体の腹の下へ思い切って飛び込むと、その腕力と化け猫自身の体重を利用し短刀でその分厚い脂肪の皮を掻っ捌く。
「やーりぃ♪」
 その巨体に閃光が走った直後悲鳴をあげる猫、溢れだす妖気と血とも脂肪ともに使わぬ得体の知れない体液。想像した通り、奴らの脂肪の下は余りにも無防備だ。
「そんじゃ私は村のコンビニに行ってくるから、後はよろしくっ!」
 秋奈は『取り分』へ向けて力強く利き手の刀を握りしめると、ズンバラリンとその傷口を広げトドメを刺すように暴れまわる。まるで桜の花びらが散るかの様な鮮血と共に、化け猫の一体は悲鳴をあげ、ぐったりと腹を上に向け息絶えた。
「もう! 全部倒すまでどっか行っちゃだめだよ!」
 焔はそれへツッコミを入れながら速度を付けてぶつかり襲い掛かる化け猫を蹴り飛ばす。猫を燃やし倒すのは非常に気が引けるものの彼らはこの世の理を外れた魔物、村からこれ以上の犠牲を出さないためにも倒さねばなるまい。
 ならば一気に、脂肪ごと燃やして苦しむ間も無く。焔が槍を突き出した次の瞬間、猫の巨体はそこになく――次の瞬間、空から降り注ぐ重力の塊が焔の身体を押しつぶす!
「うわあっ!? ……やったな、このっ!」
 だが即座に受け身を取り、完全に潰される前に抜け出した焔の姿に化け猫は目を見開き、威嚇にも似た驚愕の悲鳴をあげる。まともに受けたはずの焔が咄嗟の対応で躱した事も勿論その悲鳴の原因であったがそれ以上に先程彼女に蹴り飛ばされた腹が煙を上げて燃えていたのだ。
「これぐらいなんともないんだから、お返しだよ!」
 もう情け無用と構えた槍の先端が、否、全体が激しく揺らぎ燃え上がる。腹を更に膨らませ、防御の姿勢を取ろうとするもその炎の前には脂肪も妖気も無意味。
「いっけー!」
 勢い良く貫いた焔の炎はその肉を空へと貫き――引き抜き背を向けた焔の背後で勢い良くその化け猫を爆散させた。
 焔の爆風は周囲の化け猫をも吹き飛ばし激しくゴロゴロと転がしていく。その軌道上に巻き込まれたイナリがペシャンコに潰れて……しまう事などありえなかった。
「随分と派手に吹っ飛んだわね、ダイエットした方がいいんじゃない?」
 そう軽口を叩きながら自身を取り囲んだ化け猫達へ古剣を振るい尻尾を弾き飛ばしながら勢いよく立ち回るイナリは笑顔を見せた。笑いたくもなるであろう、正真正銘の詰みである。何せあの化け猫どもはその巨体で押しつぶそうとも、妖気を放とうとも、彼女の皮膚や衣服にほんの少しのほつれを産むことすら出来ずに解体ショーの餌食になるしかないのであるから!
「猫にこの対処法がわかるわけないわよね! いくらやっても無駄なのよ!」
 ここの親玉相手ならわからないが、少なくともこの病気の猫に【ブレイク】なんて能があるわけがないだろう。それでも無数の化け猫がイナリへと群がったのは彼女が一切技を見せる気配を示さなかったからである――しかしそれも猫達を更なる落とし穴へと誘い込む罠。
 確かに暴れまわるこの狐娘に技は無い。だが、その戦い方、その構え、その呼吸そのものが技の塊であるのだ。イナリは古剣を振り払うと、纏めて化け猫どもの皮を削ぎ落し、その首筋へと先端を突き刺した!

「出ないわね、御狐様。せっかくコーンな所まで来たんだし、大好きな丸い生き物が減ってるんだから出て来てもいいものだけど」
 魔力で生み出した巨大なハンマーを両手に握りしめたセリアは周囲を見渡し、改めて疲労の息を吐く。辺り構わず振り回し、周囲の化け猫を殴り付けてはその骨を砕いてきたはいいものの、余りにもその数が多すぎる。……多くなったのはセリアの撒いた爆竹などによる激しい爆音で増援が来たからなのであるが。
「まあ、根絶やしにしておけば後の憂いも無くなるし……あなたもキャッと驚かせるなんて可愛い生き物じゃないみたいからね」
 セリアは魔法のハンマーの具現化を解除すると、残った化け猫の一匹に向けて声をかける。
「あるいは、御狐様、あなた達の親玉を呼びつけてくれればそうでもないけど。どこにいるか教えてくれればいいか見逃してやるわよ」
 化け猫はその言葉に宙を見上げ――セリアの方へと向き直ると吠え、その巨体を丸め二本の尾を逆立て浮かび上がった。その答えは拒否、ボディプレス。
「そう。化ける前の飼い主への遺言でもよかったのだけれど」
 セリアは空を見上げ、手を組み人差し指を重ねて突き出すと「ばきゅん」
 その可愛らしい言葉とは裏腹に鋭い爆発性の魔力を臍へと叩き込み、吹き飛ばす。
「……こんなにとびっちゃって、脂肪で米が痛まないといいけど、こめった、こめった」
 天を見上げるセリアの視界の隅っこで、何か丸く輝くものがドクンと動いた気がした。

成否

成功


第2章 第3節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ソロア・ズヌシェカ(p3p008060)
豊穣の空

『キサマヲオキテヲマモレ……サモナクバ、シネ!』
 腐った臭いと錆びた金属同士がぶつかる音。幾人かの骸骨が稲を刈られた大地からゆっくりと起き上がり、錆びた野太刀を向けるとその眼窩を輝かせる。その身を護る防具は鎧というには余りにも粗雑であり、どちらかといえば――
「不届き物、か」
 自分達も掟どころか、法や道理すら守らずに盗みに入ったから成れ果てたんだろうに。嘆きか呆れかソロアは複雑な魔法陣を宙に描くと鎧武者に立ち向かう仲間達へと呼びかける。
「しかし困ったな。さっきの脂肪の雨もそうだが、あの錆びた刀に刈られる様では米が洒落にならないぞ」
 ソロアに親指を立てたのはリゲル。
「そこは抜かりない、任せてくれ!」
 流石の彼というべきか、保護結界は既に戦いが始まる前から張っていたらしい。
「なるほど、ならのびのびと戦えるな」
 そう補助術式を完成させたソロアの手に狂いは無かった。あるいはのびのびとやっているからこそ狂い無いのかもしれないが。
「サポートは任せてくれ、全力で好きに暴れるといい」
「ああ、そうさせてもらうぜ!」
 銀剣が光り輝き鋭さを増したリゲルの飛ぶ斬撃はその鎧の下の骨を、そして悪霊と現世との繋がりすらをも断ち切るほど鋭く――これ以上の惨劇を止めようとする彼の決意を示すにも等しい一撃であった。

『コロセ! 殺セ! 稲ヲカラセルナ!』
『貴様ハココデ死ネ!』
「あらぁ怖い、お姉さんにあんな事いうなんて」
「ぶははっ、オメェさんの酒飲み相手にもならねぇだろあんな骨!」
 飛び掛かる骨を前に怯えた演技をするアーリアに対しゴリョウは笑い飛ばす。とはいえレディと上質な米を見捨ててはオークの名折れ。
「任しときな! 何時も通りのイレギュラーズのお仕事と参りますかねぇ!」
 地味ながらも技巧の光る大盾を構え、蒼く輝く鎧から蒸気を噴き上げどっしりと構えるゴリョウの躰はまさに難攻不落の巨大な壁――その巨体を前にしては、ならず者どもの錆びた刀の連撃など彼の脂肪に刃を届かせる事すらままならない!
「ぶははっ、どうしたどうした! 寝ぼけ眼でまともにこの俺の防御は抜けなませんってか?」
 豪快に笑いながらトンファーで、盾で落ち武者を吹き飛ばし、仕込み銃から放たれた無数の弾丸がその肉体を教え返す。
「ゴリョウくん、すぐに良くなるからもうちょっとだけ我慢よぉ?」
 透き通る透明な髪をたなびかせながら、アーリアは自らの手の指輪に優しく口づけを交わす……そしてしなやかに揺らぐ指から放たれたのは、逃れられぬ魔女のKiss.
『ガ、ウガ――』
 たとえ魂だけであろうとも悪く酔わせる甘い毒に体の動きが鈍る、一度嵌ってしまえばもう終わり。後は泥沼の恋に身も魂も滅びを待つのみ。
「どうかしら、これは良く効くわよぉ?」
 霊気が零れ落ち、悲鳴を上げる骸骨を前に、アーリアはクスリとほほ笑んだ。気まぐれか思い付きか、彼女がした事は武者達の魂の殻を壊しただけ。
「誰かに縛られて大変ねぇ、今好きな人と呑める様にしてあげるから……ゴリョウくん、お願い?」
「応よ!」
 ゴリョウが叩きつけたガントンファーは落ち武者の骨にヒビを入れ奴の身体を粉々に砕くのであった。
「よっしゃ、次だ! このまま村も米も護ってやろうじゃねえか!」
「ええ、約束したもの。意地の悪い御狐様の手下をやっつけてお酒を呑むって!」
 願わくばどこかにいる親玉も一緒に――えいえいおーと盛り上がった二人は次の魔物の群れを誘いにいくのであった。

「チッ――掟を破りし者には死を、か」
 死んでもなお縛られ続ける武者への刃の通りが悪い事にクロバは舌打ちをしながら、彼は焔を振るい続ける。この亡者どもの戦い方は自分と似ている、普段なら一瞬で微塵切りでしてやっている頃合いだと言うのに、調子が狂う。だがそれは相手にとっても同じ事、亡者どもの会心の一撃を的確に銃剣で弾き飛ばしながら、クロバは再び落ち武者へと斬ってかかる!
「いいだろう、”死神”の名の通り――お前らを正しき輪廻にでも葬って(おくって)やる……」
 気が引けるが最早この魔物に作法など必要ない。武者が刃を振り上げた瞬間、クロバは銃剣から火を吹き上げ加速した刃を素早く振りぬくと、音も無くその片腕を斬り落とす。
「――遅い」
 魔物と自分の戦いは似ている、だが、一つ違いをあげるとすれば……彼にはクロバの底力に耐えきれる瞬発力は存在しなかった!
「――さぁ、燃えろ”鬼焔”!!」
 燃え上がるクロバの二つの銃剣を前に、完全に態勢を崩した魔物は四肢の上腕骨と大腿骨が破壊され、崩れ落ちるのに6秒とかからなかった。
『掟、ヲ、掟、ヲ、ヲヲヲヲ――』
 クロバは動けなくなった魔物の胸骨を掴み問いただす。だが武者が何かを口走ろうとした瞬間、まるで栓が抜けるかのように邪気が抜け、がっくりと動かない骨の塊となってしまった。
「なんだと……!?」
「……奴め、近くでこちらの様子をうかがっているな……どうやら意地でも会いたくないらしい」
 魔物が突然力尽きた事に警戒しながら、ソロアはクロバについた傷と止まらぬ傷口を手厚く治癒術で塞いでいく。近くには村の家々以外に遮蔽物などなく、辺りに見えるのは丸い田に揺らぐ稲だけであるというのに、いったいどこに。
「まさか村に潜んだ魔種の仕業――くっ」
 リゲルの振りかざした慈悲の剣が骸骨の残党達の繋がりを完全に断ち切り、ボロボロの鎧が粉々に崩れ落ち大地へと還っていく。リゲルは呼吸を整えて彼らの冥福を祈りながら、魔種の気配を少しでも探ろうと試みる。
「逃がす物か……隠れていても暴いて見せるぞ……!」
 戦いの最中、イレギュラーズ達の必死の眼は『御狐様』の手下のみならず、その本体をもじわじわと追い詰め始めていた。

成否

成功


第2章 第4節

ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
彼岸会 空観(p3p007169)
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家


『コナイデ、ウルサイ、ネムラセテ』
『カエレ、カエレ――』
「なるほど、これが稲荷の……死してなお利用され此岸に縛られ続けるとは」
 何と憐れな。揺れ動き言葉にならぬ恨みつらみを吐き続ける悪霊を前に彼岸会 無量(p3p007169)は首を振る。傀儡にされ人を殺め続けるよりも安らかに逝かせてやろう。無量は静かに刀を抜くと神経を研ぎ澄ます。
「彼岸へと送って差し上げましょう」
 片手の抜き身で放たれる一撃は呼吸ひとつで幾多の突きとなりその衣を八つ裂きにする。相手の態勢が僅かに傾いた瞬間、無量は流れるように両手でその柄を取り霊を切り裂く刃を素早く斬り上げ断ち切る。
「さようなら」
 透明な靄を発し、消えていく霊に対し残心をとる無量。だが次々と霊は湧き上がり、彼女へと向け無数の怨念を放つ。
「邪魔だ!」
 それを妨げるかのように振り下ろされた聖なる刃、誰よりも魔に対しては無慈悲な男――『聖断刃』ハロルド(p3p004465)は歯を見せニヤリと笑うとその退魔の刀の峰を肩に乗せる。あやかしと魔の溢れるこの国は、彼にとって非常に活躍しやすい環境であったであろう。
「ははははっ! おら掛かって来いよ死にぞこないが! 威勢が良いのは最初だけか!」
『キエロ、キエ――』
 さあ寄ってこいと手を伸ばし挑発するハロルド。その無数いる魔物の一体が迂闊に近寄ろうものならばその恨み声はもはや誰の耳にも届かない。
「害を為す魔となったからには切り捨てる。元が何であろうとだ! 恨み言など聞く耳持たんわ!」
 刀に反射して映るは『ハロルドの望みが叶った世界の自分』――その幻をまとったハロルドの刃はまさに聖なる断罪。悪を慈悲なく浄化する極光が、全てのあやかしを例外なく抹殺する。そこには悪が居た名残すら残らない。
「まあ、あれぐらいの方が仕事もしやすかろう」
 見た目がおなごとなれば気が引ける物も居よう。彼の様な存在はこの場に不可欠だ。愛無は浮遊し攪乱を図りながら言霊を飛ばす女幽霊どもを眺めながら静かに手袋の破れた右手を揉みほぐす。言葉はハロルドの結界で既に聞こえずとも、煩わしい言霊は愛無の精神を蝕んでいく。
「聞こえたとしても繰り言の類は理解できないが」
 この煩わしいものだけはご遠慮願いたい。愛無は霊の懐へと跳躍すると同時に体の後ろへとやっていた右の腕の体積を瞬時に増大させ、硬質化したその黒の鋏を霊の首元目がけて挟み込む!
「悪く思うな。死のイメージを焼き付けた方が良く効くのだ」
 なに、仇はなるべく討つ故、君は先に行っていてくれ――首元を抑え、もがき苦しみ消えた霊のいた空間を前に無言の意志を贈ると愛無は淡々と仕事を続ける。
「それにしても何やら秘め事の匂いがする魔だ、声を立てるな、日の光、月の光……」
『そんなにたくさん言われたって覚えられないのだわ!」
「まったくだ、ましてやそんな法で人が殺されてたまるか」
 もう掟を聞くのはうんざりと愛無の言葉を鬼灯の腕に抱えられた嫁殿が叫んだ。第一あれにはその犠牲となったものもいるであろうに何故彼女達は付き合っているのか。
 さぁ、舞台の幕を開ける時間だ。鬼灯は指を躍らせる様にくねらせると、自らの周囲に光を纏うようにその武器を霊へと向け振り払う。鬼灯の魔力と技巧で巧みに踊るその見えない暗器はまるで虚構の剣を彼が持っているかのように霊の体を『鋭く突き』『ぶった斬った』。
「貴殿は死んでもなお運が悪いらしい、悪霊なんぞよりよほど質の悪い道化に見つかったのだから」
 これまで他人の生気を奪って来た貴様が『干からびて死ぬ』などとは思うまい、絶望するがいい。鬼灯の振り上げた腕に合わせる様に霊の身体が持ち上がりガクンとその首が後ろへと倒れると、文字通り干からびて朽ちるかのようにボロ布を一枚残しかき消された。
『凄いのだわ!』と喜び拍手(?)する嫁殿の横を通りすがるように一匹の幽霊が恐怖に狼狽え逃げまどう。だが村の人に害を為す幽霊を逃がしては安泰は遠いであろう。
「村の人々のためにも絶対に逃がしません!」
 幾多の霊を浄化し、制し、力に変えていくのは吸血鬼・ユーリエ……闇の女王と化した今の彼女に霊の恨み声は届かない。誰よりも力強く立ち続けるユーリエの姿は、敵にとっては恐怖以外の何物でもなかったであろう。
 何故なら、幾ら生気を奪おうとも恨み節で呪おうとも、彼女の精気は一寸たりとも減らないのだから。何十体であろうと、何百回叩こうとも、決して挫けないのだから。
 魔を打ち払い世に光をもたらすまではまさにその気力は無限大。ユーリエは指輪から光り輝く弓矢を取り出すと、女幽霊の心臓を目がけて狙いを定める!
「闇の妖異を溢れる光で撃ち祓う! ガーンデーヴァ!」
 トドメとばかりに撃ち込まれたユーリエの戦慄の一撃は霊の中心で弾けると、光の粒子となって共に消し飛んでいった。恐らく陰鬱としたその未練をユーリエの希望に上書きされて――
 耳のざわつきが無くなった。鬼灯はそっと嫁殿の耳に添えていた手を外すと、ユーリエへと問いかけた。
「……これで最後か?」
「みたい、ですね……!」
 もう恨み節は聞こえない。惨殺を楽しむ落ち武者もじゃれつき殺そうとする化け猫もいない。ここに『御狐様』の眷属は残されていない。残っているのは御狐様、あやかしの大将だけ――だが、奴はどこにいる?

 その答えに初めて気が付いたのは嫁殿であった。
『ねえ、空のあれ!』
 見ればそれは太陽に重なり弱く光を放っていた玉の様な姿であった。それは九本の尾を広げた形へと変わると宙を蹴り、龍脈の流れに乗る。
「まさかアレが『御狐様』!?」
『御狐様』――九尾の狐はユーリエの言葉に一瞬振り向くとその真紅の瞳でユーリエを睨みつけ、一目散に駆け出した。どこまでも臆病で、悪質なそのあやかしは非常に素早く、イレギュラーズ達の追跡を振り切る。
「コイツ、まさか始めから動いてなかったのか!?」
 ハロルドもまた一番の大物を叩き切ろうと数歩駆け出し、不可能を悟り歯を食いしばる。『ここでもう少し足の速い能力にしていたら』……そう考えるのは彼ぐらいの者であろう。
「逃がしません」
 だが、逃げるとしてもただでは逃がさない。無量は即座に太刀を抜くと全力で何度も大地を蹴り、飛び上がると腕を限界まで伸ばし食らいつく!
 九尾が悲鳴を上げ、その背が紅に染まる。だがそれでもなお奴を墜とす事には繋がらず――無量は地に足を付けると、九尾の零した血が滴る刃を静かに眺めた。
「すみません」
 無量の言葉に愛無は首を振る。
「いいや上出来だ。無量君、僕たちはあのあやかしの正体を知った。あれの原因が何であるにせよ、この地の疫病神を払ったのだ」
「かなり俺達に怯えていたみたいだしな、あれはもう戻ってこないだろ」
「……ハロルドさん、愛無さん、感謝します」
 無量は二人へと礼を述べると、あの狐が逃げた空の方角を静かに眺めるのであった。
「またどこかで会う気がするな」
 鬼灯の言葉に皆は同意を示す。奴はどこかで必ず会う、その時は――必ず。

 その獄人の村に住み着いていたあやかしはそれから一晩の後に跡形も無くなり、またイレギュラーズ達が仕事を終えてから数週間が経った今も戻って来ないのだという。あの臆病者は未来永劫戻ってこないのか、それとも。
 風に揺れる、豊穣の黄金の稲穂だけがその答えを知っているのかもしれない。

成否

成功

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