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シナリオ詳細

くつろぎ旅館の最後花

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ほろほろほろりら
 桜は散り際、花吹雪、温泉は薄紅色に染まっている。
 見ればもう若葉も出始め。柔らかな緑は生命の息吹。
 この旅館が終わっても、花はくりかえし咲くだろう。
 ひらり、こぼれた花びらが、ぺたり、あなたの濡れた肌へくっついた。
 ひょっこり顔出す野の獣、自分が先輩と言わんばかりにあなたの隣。

 立ち昇る湯気の向こう、髪を洗うのは誰。
 あちらからは背中を流しあう楽しげな声。
 見上げればふうわり夜空へ溶けこむ湯気。
 しんと静まり返った月は今宵もいい塩梅。

●ローレットにて
「……知る人ぞ知る秘湯に行ってみない?」
『無口な雄弁』リリコ(p3n000096)によると、後継ぎがいなくて近々閉めてしまう旅館があるのだそうだ。
 とあるウォーカーが始めた和風の旅館で、昔は名の通った高級な宿だったのだけれど、こればかりは時の流れだ、いたしかたがない。せめて最後はお客さんに良い思い出を作ってもらおうと感謝の気持ちを込めて格安で営業を始めたという。手始めとして噂に名高いローレットのイレギュラーズに自慢の露天風呂を体験してもらいたいそうだ。

 今は山桜の最後の盛り。
 露天風呂の周囲から雨のように花びらが舞い落ちてくる景色は桃源郷のようで、常連客は閉店をたいそう残念がっているらしい。

 ただでさえ突然初夏になったり冬に戻ったり忙しい季節、各地で起きる大事件のために骨休みが必要じゃないだろうか。ひんやりした心地よい夜風としんしんと降りつもる桜に思いを寄せながら、ゆっくりゆったり足を延ばして羽も伸ばそう。
「……私も行くね。孤児院のみんなにお土産買って帰らなきゃ」

GMコメント

風呂入りましょう風呂。温泉回、温泉回。

もうすぐ閉店しちゃう山奥の老舗温泉旅館へGO。
男女ともに湯浴み着をご用意しておりますので、入り用の方はご利用ください。
なんぞそれって人は画像検索してみるといい。意外とかわいいのがあるでよ。
まあ着なくてもいいんじゃないかな。ほら体洗う時とかね、邪魔じゃん?
バスタオル、水着の持ち込みOK。飲食可。お酒・饅頭・アイス・温泉卵などなど。アルコールは二十歳から。アンノウンは自己申告。
あ、バスタオルは透けるかもしれないから気を付けてねーーーーーーー!

●書式
一行目 同行タグ または無記入
二行目 行先タグ
三行目 プレ本文

●行先タグ どの浴場も露天風呂 洗い場あり 桜散る中、風流な景色が楽しめます。 猿とか鹿がいるから仲良くなるのもいいぞ。

【男湯】古傷や打ち身によく効くと評判 ぬるめの湯で長風呂に最適
【女湯】美肌効果のある湯 少し熱めなので水風呂も併設デトックスにぴったり なんでか湯気がすごいぞ
【個室風呂】混浴可 なかよしなあの人とくつろぎの時間をどうぞ
【ごろ寝】ひろーい畳部屋 漫画とか雑誌とか新聞とか扇風機とかドリンクバーとか人をダメにするクッションとかそろってる 浴衣が貸し出されます 持ち込みも可 リリコがいます 湯あたりしてるっぽい
【お土産】ショップ。温泉饅頭などの各種お菓子 ダサTシャツ ペナント 例のあのドラゴンの剣キーホルダーとかじゃらじゃら売ってるので冷やかしに行くといい
※性別不明またはなしは好きな所へ行くといい

今回、他の孤児院の子はいません。

  • くつろぎ旅館の最後花完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年04月29日 22時05分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
武器商人(p3p001107)
闇之雲
コレット・ロンバルド(p3p001192)
破竜巨神
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
カレン=エマ=コンスタンティナ(p3p001996)
妖艶なる半妖
アイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159)
傍らへ共に
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
秋川 涼(p3p004402)
こっそり抱えた大きな秘密
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)
甘夢インテンディトーレ
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ニコラス・T・ホワイトファング(p3p007358)
天衣無縫
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ヘーゼル・ナッツ・チョコレート(p3p008080)
指し手
雨紅(p3p008287)
愛星

リプレイ

●男湯
「うおおお温泉! こんな場所にもあろうとは! なんたる絶景か……桃源郷とは、まさしく」
 カンベエはいそいそと体を洗い流し温泉へ入った。
「くぅ~、しみる~……」
 風呂はあつすぎずぬるすぎず丁度いい。戦で固まった体へじんわりとぬくもりが染み入ってくる。カンベエは大きく伸びをした。できればずっとこの景色を眺めていたいが。
(混沌各地で絶え間なく起きる事件、特に今は、海洋。絶望の青。皆を蝕む廃滅は、なんとしても……)
 湯へ入ってこざっぱりしたように、誓いを新たに。明日からはまた一歩一歩と進むのみ。それは確かな前進である。
「しかし、閉店するとは勿体ないな……」
 古き良きを残せるよう、あとで土産屋によろう。

「ふおおおお……」
 吐息をついているのはニコラス。久しく湯など忘れていた。ましてやこんなに美しい景色など。夜桜を肴に一献。ニホンシュとかいう飲み慣れない酒だが味は悪くない。つい盃を重ねてしまう。
「ぬあー……こうしてぐったり羽休めってのも久し振りだァ……」
 休養だって立派な修行だ。休める時に休んでおくタフさがなければローレットの依頼はこなせない。本物の強者は気を抜くときにはとことんぬくものだし。……この忌々しい手錠さえなければ大の字にだってなれるのだが、手錠のほうがそれを許してくれない。憂さ晴らしにもう一杯。
 なんてやってたらのぼせた。
「アホらし……やっぱ俺にゃあ、一つ所にとどまるのは向いてねえなァ」

●女湯
「しかさん! しかさんだー! しかさんなにたべる? おせんべいふつうのしかないけど、だいじょうぶ?」
 リリーが聞いてみると鹿は未知の食べ物に興味津々。
「じゃあね、おなかいたくならないように、すこーしだけたべよっか」
リリーは浮いていたお盆からいい香りの醤油せんべいを一枚取ると、えいしょっと力を込め半分に割ってまた半分に割った。それでもリリーには大きすぎるくらい。だけど鹿なら平気かな? リリーが背伸びをすると鹿も頸を下げた。ぱくり、ぱりっ、もごもご。
「ふふっ、きにいったの? けどこれいじょうはめーだよ。かわりになでなでしてあげる。かわいいかわいい、よしよし♪」

 ひらり。桜の花びらが、朱塗りの盃へ落ちた。もう一枚、もう一枚と。
「ふふ、これじゃお酒を飲んでいるのか花びらを食んでいるのかわからないわね」
 アルテミアは頬へ見ながらお酒を一口。山桜らしいほのかに野性味ある香りが鼻孔をくすぐる。
「これからの戦いもまだまだ大変だけれど、こうして英気を養えば頑張っていけるって気がするわ」
 タオルでまとめた銀の洗い髪をかきあげ、彼女は微笑した。少しのぼせてきた。お酒も入っていい具合に体が火照っている。夜風に当たればさぞかし気持ちよかろう。
 そう思い立ち上がったとたん。
 ずるり。
「ひゃっ」
 前を隠していたバスタオルがずり落ちそうになった。水を吸って思いの外重くなっていたのだ。間一髪セーフセーフ。

 汰磨羈と雪之丞は扉をからりと開け、同時にほうと息を吐いた。目の前の光景があまりに綺麗だったからだ。
「これほどの秘湯が閉まってしまうとは……何とも名残惜しいが」
「ええ、湯屋がなくなってしまうのは寂しいものです。ならば、せめて最後の錦として、存分に楽しむのが手向けでしょうか」
「折角だ。御主の背中を流してやろうか」
「ではお言葉に甘えて。流してもらったら次は、拙がお背中を流しましょう」
 ふたりはさっそく洗い場へくり出し、石鹸をへちまスポンジでわしゃわしゃ、したところで汰磨羈はへちまをタオルに変えた。
「どうなさいました?」
「いや、へちまでは御主の肌を傷つけてしまいそうな気がしてな。御主の肌は本当に綺麗だな。一体、どんな手入れをしているんだ?」
 腕をかざし雪之丞の背と自分の肌を見比べる汰磨羈。いやはやこれは珠の肌。名前どおりの雪花石膏。水滴がつるり弾かれ滴っていく。
「手入れですか。あまり特別なことはしておりませんが。汰磨羈様の肌も……」
「いーや、御主は別格だ」
 まじめくさって言う汰磨羈に雪之丞は気恥ずかしげに笑った。こうして背中を見せても平気な距離になったのが、うれしいようなくすぐったいような。
「詳しい話は湯に浸かりながらじっくりと聞かせて貰うとしよう」
「はい。背中を流し終わったら、次はお楽しみの湯、ですからね」
 微笑む雪之丞に、汰磨羈は目を光らせた。

「わーい女湯っていいよね、みんな女の子だからすっぽんぽんでいいし、すっごい解放感!」
「タオルだけあればいいよねー、髪をまとめるための。よーしっ、今日は洗いっこしよう!」
 風呂に入る前からハイタッチしちゃうアニーと焔。
「じゃあまずは頭から」
 焔はアニーの見事なプラチナブロンドを濡らした。
(水も滴る美少女!)
「どうしたの?」
「なんでもないよー。お客さん、痒い所はありませんか?」
「あははっ」
 シャンプーを泡立ててしっかり落としてリンスで保湿したらトリートメントも。
(アニーちゃんのお世話するの楽しすぎ!)
 この調子で背中も流そう。だけどもアニーを泡もこもこにしているうちに、背中だけじゃ物足りなくなってきた。だって焔の体には傷跡がたくさんあるから。
「アニーちゃんのお肌、柔らかくてすべすべで綺麗だね。体型も女の子らしいし」
「え? あ、ああ、お胸ね、どうしてここだけ育っちゃったのかな……て、ふわぁっ! 焔ちゃんお胸触らないでぇ! ひゃんっ! もう、仕返し!」
「あ、あわわわ、みゃうーっ!」
 もみもみぎゅうぎゅうふにふにら。ふとアニーが手を止めた。愛おしむように焔の傷跡をなでる。
「この傷の数だけ、沢山の人を救ってきたんだね、強くて優しい焔ちゃんは私の自慢のお友達だよ……」
「うん、ボクも嫌いじゃないよ。これからも自慢出来るボクでいられるように頑張らないとね!」

「ああああ、あついあつい、もうちょっともうちょっともーちょっとがまーん!」


 ミルキィは源泉注ぎ口近くで、ひとり我慢大会。しっかり汗をかいて、その分温泉の美肌効果をじっくり体へ取り込んじゃうのだ。
「あああもうむりむり! 水風呂おじゃまするねー! ぴゃああっ、冷たい、つめたーい!」
 真っ赤になっていた肌がみるみるうちに冷めていく。ついでに清水もくぴくぴ飲んだ。今から湯上りが楽しみだ。心なしか肌もつやめいてきたような気がする。
「ぷはぁ、水分補給は大事だよね☆ あ、あれれ?」
 頭に違和感を抱いてさすってみたら、桜の花びらがはらはら落ちてきた。
「次はもっとたまるまで我慢してみようかな」

「ふぅー。ここ数か月鬼のように働いてたから、こういう催し、助かるわぁ……」
 湯へのんびり浸かるアルメリア。お盆の上の小皿から温泉卵をつまみ、時折冷えたジュースを一口。
「あぁ生き返る、桜を見ながらゆったり、幸せね……いにしへの山の秘湯の八重桜、今日九重に匂いぬるかな、なんて。この温泉、もう閉めちゃうんだったかしら。もったいないわね」
 降り来る花びらは雨のよう。その夢幻の光景に、妙に俗っぽい生き物がいる。
「なんだ猿じゃない。あら鹿も。兎はいないのかしら」
 前だけバスタオルで隠して立ち上がる彼女。大きなお尻が湯気の向こう、ゆらゆら。
「何よ、この卵は私のだからね。何も持ってないわよ。持ってないってば」
 気づいてないのは本人ばかり。

 こちらでも温泉卵をつまみに、いい女が一人。レイリーは冷酒をきゅっとやった。
「ふふふっ」
 思わずこぼれる笑い声。湯煙、夜桜、旨い酒。これで上機嫌にならずしていつなるのだ。邪魔なものは身に着けず全身を心地よい湯に包まれ、満ちたりた吐息をつく。桜の向こうの漆黒の空を見上げると、そこは別世界のようにいまだ冷たい相貌。月は今宵も空を滑っていく。
(……みんなで楽しむのはとてもとても楽しいもので大好きだけど、こうやって、独りでゆっくりと楽しむのも良いものね。時にはこういうのも悪くない)
 月よもうしばらく空へとどまっていて。レイリーは夜空へ微笑みかけると杯を掲げ、月見酒と洒落こんだ。

●個室風呂
 なんてったって私はアイドル。夢を売るのがお仕事なのです。スケジュールがハードワーク、友達もなかなかできやしない。だからこの秘密だけは隠し通さないと。
 個室風呂で口元までつかりながら涼は固く決意した。なのに、風呂上り、腰に手を当て牛乳を飲んでいたら、はらり、バスタオルが……。そこへ通りかかった仲居さんたち。涼は速攻風呂場へ逃げ戻った。
「見た?」
「男よね?」
「でも宿帳には性別不明と」
「夢でも見たのかしら。あんなにかわいい子が女なわけないって」
イレギュラーズだしねえと仲居の皆さんは妙な納得の仕方をした。うん、そうそう、夢! 夢ってことにしてください! なんといっても、私はアイドルなのですからっ。

「またリディアと温泉に来れるとはのぅ。妾としてはとても嬉しいのぅ」
「今回も素敵な露天風呂。自然が身近に感じられて大好きです。それに、その……カレンさんと一緒なのも……」
「うん? よく聞こえなかったが?」
なんでもありませんと頬を染めたリディアは、背中を流しましょうかとカレンへ問いかけた。
「おお、お願いするぞ。リディアに背中を洗ってもらったら今度は妾が洗う番だのぅ。背中や腰を丁寧に洗っていこうかのぅ」
 お互いに生まれたままの姿。そのまま彫像とされて美の女神と崇められても不思議ではないほど。そんなふたりが椅子へ腰掛けて洗いっこ、妖艶な雰囲気なものだから、うっかり覗く不届き者がいればそのまま金縛りにあってしまいそう。今度はカレンが洗う側。
「くっくっく、洗うついでにまた胸のマッサージもしようかのぅ?」
「ご、ご冗談を。あ、でも、マッサージは……お、お願いします」
 くくと喉を鳴らして笑うと、カレンはリディアを洗い始めた。宝玉を磨くごとく真摯に、やわやわと全身をもみしだきながら。
「あ、そこ、気持ちいいです。もっと……」
 蕩けだした声にカレンの笑みは深くなっていく。リディアは、はっと正気づいて可憐な上目遣いを投げかける。
「……マッサージの続きはお部屋に戻ってからでもいいですか?」
「ふむ、確かに逆上せるかもしれんのぅ。では部屋に戻ったらじっくりとマッサージしようかのぅ?」

「個室風呂っていうから狭いかなと思ってたけれど、広々としていていいね~」
 無邪気に笑うアイリスにミーナは目を伏せた。心臓をなだめすかし、夕飯前に一緒に入ろうと誘ったのはミーナのほう。ふたりで湯船に入りとりとめもない話をする。
 温泉っていいね~だとか、あったかいし気持ちいいよね~だとか、猿いるよ~おとなしいね~だとか。しゃべっているのは主にアイリスだ。ミーナのほうはやや思いつめたようなまなざしのまま、適度に相槌をうちながら湯面を眺めている。
「どうしたの~。なに考えてるの~?」
「……あ、どこの世界に行っても、みな温泉好きだよなぁと……」
 いや私も好きだけど、と早口で言い添える。しばらくの沈黙、やがてミーナは苦笑した。
「あーあ、固くなりすぎたな。余計なことは忘れて率直に言おうか」
 ミーナはアイリスを見つめなおした。
「……こんな、みっともない生き様晒してる私だけどさ。これからもずっと一緒にいてくれるか、アイリス? 一人の愛すべき女性として。私は絶対にこの気持ちには嘘をつかない」
 アイリスがまばたきをする、そのたびに虹のように変わる瞳の色。やがて本当に虹色のしずく、ひとつぽたん、波紋を描いた。にっこり笑うアイリス。
「もちろんだよ~。ミーナこそ私と一緒にいてくれる~?」
 そのままアイリスは愛しいミーナへ抱きついた。抱き返したミーナは確かな質感とぬくもりが心へ広がっていくのを感じていた。

 褐色の肌に白の湯浴み着がまぶしい。ミルヴィを眺めながらイーリンはワイン色の湯浴み着に着替えた。
「行く?」
 ミルヴィはうなずいた。そんなに悲しそうな顔、しないでほしい。個室風呂の扉を開けると湯気がふわりと漂ってきた。湯の花の香りと桜、吹雪降りしきる様はまるで涙雨。イーリンはミルヴィを脱がせて洗い場の椅子へ座らせた。
 ……色々あったネ、そうミルヴィはつぶやいた。
「ほんとお互いいろいろあったわね。それとまずは、優勝おめでと」
 素っ気無くも温かくもないトーンを保ちイーリンは答えた。ミルヴィは先の闘技大会で優勝した。辿り着くまでの彼女を思うと、背を洗う自分の手が止まりそうになった。どんなに努力したって、どうにもならないことはある。イーリンが天才になれなかったようにミルヴィもまた夢破れた。
「背中、あまり見ないで……」
 ミルヴィの背は傷跡だらけだ。かつて身を投げた証。弱さの証だと言っていた。
「どう、今のアタシは?」
「綺麗よ、相変わらず」
「……綺麗なんかじゃない」
 ミルヴィは淡く笑う。そして自分で体を清めると、ミルヴィはイーリンの手へ掌を重ねた。
「今度はアタシが洗ったげる」
 断る理由はないからされるがまま。ミルヴィの手は優しい。まるで包み込むよう。
 ――貴方がもう辛い夢をみないように……だから、今までありがと、貴方達がずっと幸せでありますよう。
 思いが伝わってくる。嗚呼、神は祈りを望まれるかしら。どうかこの子の前途が、明るいものでありますように。

 ヘーゼルはアッシュを見た瞬間、短く口笛を吹いた。
「やあ、此れは息を飲む程に疵だらけだ」
「……」
 アッシュは愁眉を寄せた。だから個室風呂にしたのに、だから二人きりになったのに。眼帯をはずしたのも一糸纏わぬ姿も、何もかもあなたならと思ったからなのに。
「そう恨めしい目で見ないでおくれ。明るいところでじっくり鑑賞するのはこれが初めてなのだから」
 アッシュは深くお湯に浸かりぷくぷくと泡を吐いていたと思ったら、やっと顔を上げた。
「あなただって同じなのに」
 これは一本取られたねとヘーゼルは笑む。
「折角こんなに良い所にきたのですから、そういう意地悪はよくないと思います?」
「失礼した娘さん。隣、いいかい」
 返事も聞かずに掛け湯をしてアッシュのすぐ横へ。肌が触れるか触れないかの距離。横目で眺めたアッシュは遠い眼をしている。
「……はじめてです。こういう所に来るの。でも、こんなに素敵なお宿なのにもうすぐ無くなってしまう、なんて」
 随分と人間らしくなったとヘーゼルは感じた。
「気持ちいい、ですね。此の風景が今日だけの、最初で最後の思い出になるのなら、今日を忘れられない日にしましょうね」
 アッシュはほんのり笑いヘーゼルの肩へ頭を預けた。
 ……せっかくこっちが気を使っているのに。天然は怖いね。
「何か言いました?」
「何も。泳いでみるかね娘さん」
「それは、だめです。けど……」
 その先は桜だけが知っている。

●ごろ寝
「眷属が湯当たりとは、なんともまあ」
「…紫月と温泉に来るのは初めてだから、つい…。」
「ふ、ふ……まだまだ身体が人間気分だね。少しお待ち、水を持ってきてあげよう」
 ありがとうと返し紺の浴衣姿のヨタカはクッションへ横になり、ぐったりしているその子へ気づいた。
「…リリコ…?」
 少女はだるそうにこちらへ顔を向けて挨拶した。いつもは血の気の薄い頬が今日だけは薔薇色に染まっている。
「ふ、ふ…湯当たり…俺と同じ、だね……大丈夫…?」
「……ん」
「…紫月が、水を持ってきてくれる…半分こしよう…。」
「……ありがと。とってもうれしい」
 リリコが薄く微笑む。クッションを共有してごろりと寝そべり、ヨタカは前からの疑問を問いかけた。
 しばらくして藤色の浴衣の武器商人が戻ってきた。
「おや、リリコもだったのかい? もうひとつ持ってくればよかったね」
「……いいの。おかえりなさい、『私の』銀の月」
 おやァと武器商人は笑みを形作る。
「我(アタシ)の小鳥と何を話していたのかな?」
「……ナイショ」
「…そうそう、ないしょないしょ…。…ね、リリコ…。」
「なんだい、我(アタシ)だけ除け者はずるーい。混ぜてちょうだいよ、ね、よかろ?」
 武器商人はリリコを膝に乗せた。ヨタカはリリコに膝枕。ふたりでコップの水を半分こしているのを、武器商人は機嫌よく眺めている。
「リリコの大事な人…俺の大事な人……絶対…あの人を、幸せにするから…。」

 部屋の隅にうずくまるミディーセラが着ているのは鉄色に笹の模様が入った落ち着いた浴衣。それの襟も裾もはだけているのに気づかず、ふわふわ尻尾を毛づくろい。
「みでぃーく……」
 声を掛けようとしてアーリアはやめておいた。代わりにミディーセラの前に汗をかいた缶ビールを置く。いい眺めね、でも誰も気づきませんように。なーんて思いながら「お先にいただきまーす!」。ぱきっとプルトップをあけ、キンキンに冷えた炭酸とアルコールの喉越しを味わう。
「ぷはあ。ああー、極楽極楽」
 出ちゃいますよね、その一声。わかるーう。アーリアの髪が小麦の金色に染まっていく。すっかり色が変わったころ、アーリアはいいことを思いついた。
(お手入れ中のみでぃーくんは真剣だしご機嫌だし、かわらしいしとっても大好きだから……邪魔しないよう背中側から髪を結ってあげることにしましょ!)
 ささっと後ろへ回ったついでにミディーセラの楽しげで真面目な横顔を堪能する。湯上りのほんのり明るい肌色が目に楽しい。アーリアはそのままブラシで毛先からミディーセラの髪をすきはじめる。
「……おお、アーリアさん、驚きました」
「んふふ、みでぃーくんがあんまり熱心だったから。いや?」
「嫌ではありません。こうやって結ってもらうのもすっかり日常になった気がします……」
「ちょ、まっ、みでぃーくん、みでぃーくん!」
「はい?」
「人! 人来るから浴衣なおして! そんなしどけない姿、私以外に見せないで!」

「ごめんね珠緒さん、迷惑かけちゃって……」
「いいえ、本当に、よいお湯でした……。自己管理をしっかりしている蛍さんが長湯してしまったのも、納得です」
「まさかのぼせちゃうなんてね……はあ」
 はしゃぎすぎちゃったかも、蛍は思った。何故って、いいお湯、いい月、いい連れ合い。気がつけば時は矢の如し。
「だってね……花吹雪の中の珠緒さんの姿ときたら、春の精霊みたいに幻想的だったもの。時折鹿や猿を餌付けしてるのが、また慈愛にあふれて見えて、漢文で学んだ西王母とはあんな感じなのかしら……」
「まだのぼせているようですね蛍さん。てっきりお湯を楽しんでいるのだと考えていましたが、そういうことでしたら黙ってみているべきではなかったかもです」
 珠緒は照れくさげにやさしく笑み、別の意味で赤くなった頬をさすった。蛍にそこまで言ってもらえるのは、正直なところ誇らしい。
「珠緒さん、ごめんね。ボクがこんなザマで。しばらく横になってればよくなると思うから、この辺に転がしておい、て……」
 蛍の言葉は途切れた。よいしょっと珠緒がクッションへ座り蛍を膝枕したからだ。左右で色の違うやわらかな色合いの瞳が、驚く蛍を映している。
「少し頭をあげたおいたほうがよいですよね。それに、たまには逆もいいでしょう?」
「ッ! い、いいの? ……ありがと」
 桜の後、珠緒に包まれる幸せ。今日のこの日を忘れないと蛍は心に誓った。

「しっかりと温まったから、しばらくはゆっくり休むんだよ。血行がよくなっている分、体に負担がかかっているから」
「はーい! 少しぐったり気味だよ。ゆっくり休むのはむしろ大歓迎かも!」
 畳部屋へやってきたふたり、ヒィロは勢いをつけてクッションへダイブ。
「頭くらくらしてない? 平気?」
「……ちょびっとだけ」
 美咲がくすくす笑う。同じクッションへ座り、ヒィロの長い髪をすくように撫でる。美咲の太ももへ頭をすり寄せながらヒィロは彼女を見上げた。
「それで、次は何をしたらいいの?」
「軽食をとるわ。休みながら飲食をして補充するのも大切なの」
 ヒィロが耳をピコピコさせながら聞き入っている。美咲の話はいつも面白い。知的好奇心をくすぐられるし、『何故?』が明らかになるのは楽しい。だからヒィロは美咲の話の続きをねだった。美咲はにっこり。
「お風呂上がりの定番はミルク類だけど、今日は……アイス!」
「アイス!? わーい、いつもよりもっと甘く冷たく食べられそう! ボクね苺ミルク味がいい。桜みたいだし、この甘々は美咲さんの味なの!」
「ヒィロったら。じゃあ私は抹茶。甘いだけじゃないけど、いってみる?」
「食べさせっこ? するする!」
 あーん、ぱくり、あーん、ぱくりら。
「私こんなにあまーいかしら?」
「うーんオトナの味、美咲さんらしいや」
 もういっかい、あーん、ぱくぱく。
「ねえ、ここ閉店するんだよね。最後までめいっぱい楽しもうね美咲さん」
「賛成よ。次は何をするかヒィロが考えてみる?」

●土産屋
 品物が並べられた店内をコレットは体を横にして通っていた。なにせ巨躯。細身のモデル体型だが身長は3mを越す。
「結構色んな物置いてるじゃない。どんな物があるか見て回るだけでも楽し……あら、これは」
 コレットはキーホルダー売り場の一角で足を止め、器用にメタリックな色彩のキーホルダーを取った。
「この剣のやつ、ウォーカーがお土産売り場の定番品と噂していたわね。これは買いね。定番品といえば……」
 コレットは壁のペナントを眺めた。
「あれもよね。これと、これ、いいわね。こっちもほしい。あとは温泉饅頭も。意外と種類があるのね、配る用と自分用に買っちゃおうかしら。他にも面白そうなものないかな」

秘宝種の雨紅もまた土産屋を回っていた。
(ここも、多くの人を笑顔にしてきた場所でしょうに。終わる、止まってしまうのなら、その前に一人でも多くの笑顔、楽しみを残して生きたいですね。私のように、再起動があるとは限りませんから)
 コアへ感じ取るのは三角形の小さな旗、それから掌に乗る竜の絡んだ剣。雨紅は剣を手に取った。
「鋳型で抜いたものですね。鞘から抜ければ爪楊枝くらいにはなりそうなものなのに。……これが今の混沌での流行なのでしょうか?」
 もっと大きければ剣舞にも使えるのにと残念に思い、雨紅は温泉饅頭を購入した。食べる楽しみは練習中、だけど理解はしてきた。帰ってこれを食べながら旅館を思い出せば、宿の主も喜んでくれるだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

温泉旅館、いかがでしたか?
桜は終わってしまいましたが、ゆっくりするのもいいものですね。

称号
「傍らへ共に」
発行しております。ご査収ください。おめでとーございまーす!

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