シナリオ詳細
<Kirschbaum Cocktail>其の櫻は罪な味
オープニング
●
其の河は、海洋の片隅にある。
桃色に咲き乱れる桜の花が花弁を振り落とし、絨毯のように河を桃色に染める頃。
河は文字通り、“桜色”になるのだという。
汲んで飲めば桜の味。ふわりと薫る酒精の色。
知る人ぞ知る“桜リキュールの河”は――ひっそりと、桜に囲まれて春を迎える。
正義が暗く汚されて、強欲の海が渇いても。
海が嫉妬に覆われて、人々に病が伝搬していても。
何処かで誰かが苦しみ、何処かで誰かが笑っている今も、気の遠くなるほど昔も、そして未来も。
桜は美しく、其の桃色を惜しみなく振りまく。
●
「お酒に興味はある?」
グレモリー・グレモリー(p3n000074)はそう切り出して、海洋の地図を取り出す。
「興味がなくてもまあ、聞いて損をする話ではないんだけど。この時期になると寒桜が咲く川辺があるんだ。その川の水が不思議でね。桜の花びらの効力か、川の上流に謎があるのか……桜リキュールになるんだって」
桜のリキュール。美味しそうだよね。
ペンで海洋地図にマルを付けながらグレモリーは淡々と語る。其の口調は余り美味しそうと思っていなさそうだが、これが彼の常である。
「ちなみに未成年が飲むとジュースになるとか。これは何らかの魔法なのかもしれないけれど、其の辺は判らない。重要なのは、そこでお花見をしようよ、というお誘いなんだけど」
――皆が、何処かで何らかの形で戦っているよね。
――だからそんな時こそ、こんな風に息抜き出来る時間が必要だと思うんだ。
グレモリーは小首を傾げる。海洋は今、病や魔種の話で持ち切りだ。でもそんな怖い話ばかりではきっと疲れてしまう。少しだけ息抜きして、また力強く一歩を踏み出すために。お酒を飲んでバカ騒ぎしようじゃないか。
「僕は思う。このローレットというパレットに、悲しい色は似合わない」
願わくば、楽しい色だけを選べる毎日を取り戻せるように。そのために。
グレモリーはそう、言葉を結んだ。
- <Kirschbaum Cocktail>其の櫻は罪な味完了
- GM名奇古譚
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2020年04月03日 22時20分
- 参加人数31/100人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 31 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(31人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
縁は川の水をお猪口に救うと、一口飲み下した。
咽喉から腹が熱くなる、アルコール特有の感覚。
「夢みてぇな話だ。うちの店の近くにも流れてくれねぇかねぇ」
ほう、と酒精交じりの息を吐いて、最近は出ずっぱりだったから、休むのも久しぶりだと思い出す。
自分にしては働いている方だと思う。例えそれが、宿縁に惹かれたものだとしても。
さて、もう一杯。空になった器に酒を救おうとした手が、ぱたり、と大地に落ちた。ころり、と器が転げる。おや、と拾おうとした手の甲に、じわり、赤紫色の痣が浮かんでいるのを縁は見た。
「……やれやれ」
こいつさえなけりゃぁもっといい気分だったってのに。隠しきれなくなってきた呪いに苦笑を一つ零して、一人酒宴は続く。逃げも隠れもしねぇんだから、酒くらい楽しく飲ませてくれねぇかね。
威降と紡は川辺で、桜色に流れる川を見ていた。
「驚いた……本当にお酒ですね。この世界は本当に、不思議だらけだなぁ」
「そうですね。飲んでもなくならないとか……私の世界では“うわばみ”という蛇の化け物の伝承がありましたが、ああいうのがずっと飲んでいそうですね」
「うわばみ? ああ、確か酒好きでしたね……確かにそんなものがいたら、ずっと飲んでいそうだ」
どうかいたとしても下流に降りてきませんように、と威降はナムナム祈る。まあ、大蛇退治も此処なら簡単そうだが。俺達も、と威降が紡にカップを渡し、二人で飲み始めた……のだが。
「お、俺が1杯飲む頃に2、3杯は飲んでる……?」
「そうですね、私もうわばみほどではありませんが結構飲むんです。風巻も自分のペースで、無理をして飲んでは体に障りますからね」
と言いながらもすでに一杯飲み終えている紡。これが人間でいう“うわばみ”かぁ……と威降は気圧されるしかない。本当にいたのか、と仰いだ天には、桜がここぞとばかりに咲き誇り。
「……綺麗ですね」
「そうですね。桜も、こちらにはあるんですね……私の世界にもありますし、出身国の国花として親しまれています。花見と言えば宴会という認識もありますね」
「なるほど。世界が違っても、桜の美しさは変わらないな」
「ええ、本当に」
「じゃあ、花を肴にもう一杯」
「……宴会をしたくなる気持ちも、判るような気がします」
僕はベーク。しがないタイ焼きです。
今回はタルトにお花見だと誘われたんですよ。そりゃあね、僕だって学びました。警戒だってしました。どうせ「桜には和菓子でしょ?」とか言うんでしょ? って思ってました。
「でもこうなるなんて予想できます?」
「うふふ、綺麗なお花を見ながらフレーバーを楽しむ……いいわね!」
縛られて河に漬けられてるんですよ僕。これ、たぶんジュースだと思うんですけど……周囲の皆さんに迷惑かかってないかな……大丈夫かな……
「本当に残念よねぇ。ボク達みたいな年が判らない人たちはお酒にならないなんて。ま、その分漬けこみを長くして色も味も桜にさせてあげようじゃないの! チェリーベークよ、嬉しい? 嬉しいわよね?」
「タルトォ!!! 漬けるのはもう諦めたんでいいですけど、せめて他の人への迷惑は考えてくださいね!?!?!?」
「お、礼拝じゃねえか。今日は『殿方』と一緒じゃねぇのかい?」
最近はあちこちがごたついているうえに、戦闘で傷を負った。そのせいか、キドーの声掛けは揶揄を多分に含んだものになる。振り返った礼拝は、にこりと笑って。
「あら、酷い言い様ですこと。私もこんな場所では商売などいたしませんわ。此処で出会ったのも何かの縁、ご一緒させて頂いて宜しいかしら」
こうして始まった即席の飲み会。傍らには美しい女。見上げれば美しい桜。川の水を掬えば酒と来た。まるで天国のようだ、とキドーは思うが……隣の女のお腹の中は割と黒い事も知っている。酒代やら何やらむしりとられるのはもう御免だ。
「はい、キドー様。どうぞ」
「おう。なんだなんだ、今日は随分と愛想が良いな」
……待て、俺。「今日は」? 大体愛想が良いと見せかけて高い店に最終的に連れ込まれるパターンだったろ?
俺は騙されねえ。もう二度と、騙され……
「体が火照ってきましたわ……桜が綺麗に咲いて、なんだか怖い……このまま一人で帰りたくありません……」
「へへ、そーお? うへへ。俺が一緒にいてやるから安心しなア!」
こうして結局、最終的にめちゃめちゃお高い店に連れていかれるいつものキドーなのだった。
コップは鞄に。丸めた敷物は片手に。そして片手は、いつものように彼と繋いで。
リュグナーとソフィラは二人、川沿いを歩いている。
「右側に寄りすぎるなよ。川に落ちる」
「ええ、判ったわ」
念のため距離は置いているが、ふわりふわりと歩いているソフィラにリュグナーはどうも落ち着かない。上流へ向けて歩いて、歩いて……森が深くなってきたので、日当たりのよい場所で休憩をとる事にした。
「コップはあるか?」
「ええ」
敷物をしいて、二人で座る。ソフィラが持ってきたコップを二人分リュグナーが汲んで、一つをソフィラに渡す。
だが、自分はあまり勢いよく飲むことはしない。酔って情報を洩らせば情報屋の沽券に関わるからだ。
「ありがとう。……リュグナーさんは、お酒、強いの?」
「いつも嗜む程度だな。故に強いかどうかは判らぬ。貴様も飲みすぎて寝てしまわぬよう――」
そう言いかけてリュグナーは気付く。彼女は年齢が判らぬ。
静かにコップに口を付け、ちびちびと飲んでいるソフィラ。其のコップの中身は酒だろうか、ジュースだろうか。
其の髪に咲く霞草と、頭上に広がる桜の木。妙に似合う組み合わせだな、と思いつつ、リュグナーもコップに口を付けた。彼女が飲んでいるのが酒ならば、酔うゆえに判るだろう。
「……あら、なんだかジュースだわ。お酒ってみんなこうなのかしら?」
結局、判らなかったわけだが。
「お酒の河! 舞い散る桜! 美味しくて綺麗で幸せでございますわー!」
桜リキュールの河に、ヴァレーリヤは大はしゃぎだ。はやくはやく、とせかされて、グレンも一口煽る。成程、度数は低くなさそうだが甘くて美味い。これならいくらでも飲めそうだ。
「うーん、おつまみをもってくれば良かったですわね……釣り糸を垂らしたら釣れるかしら?」
「ふは、川魚の変わりに酒の肴が泳いでるってか? ははは!」
「わ、笑わないで下さいまし! 本当にお魚がいないかなんて、やってみないと判らないでしょう!」
こうなったら水位を下げて確かめるしかありませんわね! そう張り切って飲みだしたヴァレーリヤ。
「ま、『また今度』、来る機会があればつまみも持ってくるかね」
彼女の耳にグレンの“小さな約束”は届いたのか、届いていないのか……
……しばらくして。
「んへへー、いくら飲んでもなくならないお酒! 最高ですわねー! いっそ此処に住んでしまうのもいいかも……なんれ……ちょっと! 聞いれいますのグレン!」
「うおっ!? すっかり出来上がってるな! どれだけ飲んだんだよ!?」
「羊羹!! 今度こそ、羊! 羹!」
「はいはい、羊羹、羊羹ね」
秋宮史之は二度失敗はしない。練達製の簡易キッチン一式を広げ、睦月の熱烈なリクエストに応える。ついでにはい、レジャーシート敷いて。これはお皿。これは川の水をくむコップ。
睦月はご機嫌だ。寒櫻院――は戒名ではあるものの、桜が一応入っているので、桜を見ると嬉しくなる。桜リキュールを使って史之が奮闘している間、彼を観察しようとしたが……
「火を使ってるから近寄っちゃダメ」
「えー」
しーちゃんはつれない。
しょうがないのでちょっと離れたところで見る事にした。あんこや寒天を扱う史之はまさに料理人。その指にきらりと光る指輪を見つけて、睦月は瞬きをした。
――あれ、僕があげたペアリングだ。
史之を守ってくれるように一生懸命お祈りしたペアリング。なんだか嬉しい。胸がぽかぽかする。
「はい、できたよー」
その間に、素敵な羊羹が出来上がって。金粉と桜の花びらが入った豪奢な羊羹は、目で見て楽し、味わって美味し。
「んーっ、おいしい!」
嬉しそうに羊羹を食べる睦月に、作り甲斐があるなんて言ったら調子に乗りそうだから、史之は言わない。けれど、美味しいと食べて貰えるだけで、作った甲斐はあるのだ。
美咲はヒィロが何を言っているのかちょっと判らなかった。
酒の河? お酒が? 流れている? 桜リキュール?
しかーし! 百聞は一見に如かず。ヒィロと訪れた其処は確かに桜と酒精の香りがして。美咲は理論の限界というものを感じたとか、感じなかったとか。
「うわーすっごい! この川全部桜リキュールとかジュースなの!?」
自分を引っ張ってきたヒィロも驚いている。思ったより広い川だったようだ。
「今が夏みたいに暖かかったら。飛び込んで浴びるように飲むのにね! 早く早く、美咲さん、飲んでみよーよ!」
「あー、はいはい。ほら、カップ」
「わーい!」
二人で川の水を汲み、ぐびり、と一口。おお、と耳を立てるヒィロ、カップを覗き込む美咲。
「すごい、本当に桜ジュースだ! 美咲さんはどう?」
「うん、飲みやすい甘さ。軽く楽しむなら、むしろジュースの方がいいかなって……でも、失敗した。グラスなら色が綺麗に見えるのに」
「あっ、そうだねー! ピンク色が綺麗に見えたのに!」
「ヒィロのはジュースだよね? そっちを飲んだらどうなるんだろ……一口ちょうだい」
いいよ、と渡されたカップの中身を飲むと……
「……お酒」
「えー!? ジュースだよ!?」
「いや、私が飲むとお酒」
「す……ごーい! ねねね美咲さん、桜観光もしようよ! あっちの方、見に行ってみよ!」
「そうだね。少し回ったら、広めの場所で休憩しよう」
持ってきたお弁当、まだ食べてないものね。
美咲は柔らかく笑った。
あっという間に四季は巡り、過ぎていく。季節は春。
大っぴらに酒を飲んでも花見の二文字で許される季節。
「ルナの世界だと花見は普通だっけ」
ルーキスはルナールにもたれて、寒桜を見上げていた。春に咲く桜より、心持ち桃色が濃い気がする。
「ああ、元々いた世界じゃ普通だったぞ――といっても俺は籠の鳥だったからな、遠遠かったが……」
二人して桜リキュールを煽る。そのタイミングが同じなのは、一緒にいた時間が長いせいだろうか。
「しかし川の水が酒になるのは聞いたことがないな。まさに混沌の神秘ってやつだ」
「ふぅん……持って帰ったらただの水になるのかな。後で試してみよう。デザートに使うと良いのが出来そうだよね」
「あー……いいな、其れ。むしろ作って欲しい」
「ふふ、もし水に戻ってたら酒代はルナ持ちね」
ずるずるとルナールの頭が下がり、ルーキスの膝で落ち着く。見上げれば、愛しい人と桜が柔らかく咲っている。
「花よりルーキスだな」
「お上手」
「花が霞んで見えるくらい美人な恋人を眺める方が良いに決まってる」
最高の景色だ。
“元”籠の鳥は、少し赤くなった頬で笑った。
ミディーセラとアーリアは、二人、桜リキュールを楽しみに。
「まあ……まあ。本当にお酒の香りがするし、綺麗な色をしているし……どうなっているのかしら?」
とっても不思議。お酒好きな誰かの魔法だとするならば、ちょっと知りたい気もする。
せっかくだから、この前見つけたセットのグラスで……あら?
ミディーセラが見ると、アーリアがふわふわと浮いて川へと。その手で水をすくい、飲むのを見て。
もしかして器を忘れてしまったのかしら、と小首を傾げた後、悪戯を思いついた顔でコップをしまい、川へと自分も近付いた。
その小さな手にリキュールを掬い、アーリアに差し出す。コップより、こちらの方が良かったかしら?
「お酒の河なんて、もはや不思議を通り越して奇跡の類よね……」
「いえ……噂に聞いたのですが、ある世界では、果物のジュースを水道で供給する都市があるのだとか」
蛍と珠緒は二人、ゆるやかに流れる桜色の河を見ていた。元々の色なのか、はらり落ちる寒桜の花びらのせいで桃色に見えるのかは定かではない。
「正直どうなってるのか気になるけど……今は素直に楽しみましょ!」
ね、とカップを珠緒に渡しながら蛍は言う。ええ、と珠緒も頷いて、二人で川の水を掬い、一口。
「……これが、桜のジュースですか」
「本当に桜ジュースって言える味と色ね、美味しいわ」
二人して思わずカップを覗き込む。其の仕草がおかしくて、蛍は少しだけ笑った。
そして散歩をしよう、と言い出したのはどちらだったか。川をさかのぼるように、二人は歩き出す。
「そういえば、ボクの世界に会った武陵桃源の伝説――あ、こんなお話なんだけどね」
と、滔々と伝説を語る蛍。珠緒はうんうんと頷いて。
「理想郷のようなものの伝承ですね。……ふふ、確かにこの源流であれば、夢のようなお話もあり得そうに思えます」
二人のつま先が宙に浮く。ふわり浮いて、桜の河の上、川をさかのぼり、二人は水源を目指す。たどり着けたかは、果たして――
河が桜の絨毯になっている様子なんて初めて見るよ。
そう語る婚約者の横顔を、ノースポールは見上げていた。
「あれから二年も経ったんだね。夜桜も綺麗だったし、其れに――」
二人の脳裏によぎるのは、小さなハプニング。ノースポールは思った以上にお酒に弱くて。何があっても僕がしっかりしなくちゃ、と気を改めるルチアーノと、恥ずかしさに顔を覆いたくなるノースポール。
「また桜を見ながらポーと過ごすことが出来て、とっても嬉しいよ!」
「うん。あの日の夜桜も綺麗だったけど、今日の桜もとっても綺麗。ねえ、ルーク……」
もじもじとするフィアンセに、なんだい、と務めて優しくルチアーノは言う。
「あの、桜リキュールを飲んでみたいんだけど、いいかな? 迷惑、かけちゃうかもしれないけど……」
「勿論! ボクは桜ジュースになってしまうのが勿体ないけれど……其の分ポーがリキュールを味わって。大丈夫、何かあっても僕にまかせて」
「ルーク……! ありがとう!」
そうして二人、カップに川の水を掬って一口。ルチアーノの舌には甘さが、ノースポールの舌にはぴりりとしたアルコールの具合が残る。
美味しい、と二人笑い合って。同じものを飲んでいるのに不思議だね、とカップを好感してみたりもして。そうしているうちにふわふわしてきたノースポールの肩に、ルチアーノは冷えないようにと上着をかけた。
「からだもこころもぽかぽか、しあわせぇ……」
そう笑う君の笑顔が、僕の心を温かくしてくれるんだよ。
「すごいね、川が本当に絨毯みたい」
思わずシラスが言った。そうだね、とアレクシアが頷く。降り注ぐ桜の花びらが、花酒の河を更に桃色に染めてゆく。
「お酒に合うかは判らないけど、サンドイッチも作って来たんだ、一杯食べてね!」
「ん、じゃあ……」
カップに掬った桜ジュース。一口飲みながらシラスはサンドイッチをもぐり。美味しい、と呟いて、其れから思い出したようにあ、と声を上げた。
「俺もおつまみ作ってきたんだ、食べる? アレクシアは桜リキュールだよ」
「うっ」
アレクシアは固まった。お酒……お酒かぁ……いや、飲めるよ? うん。直ぐに眠くなるとか、そんな事は全然ないよ? 飲めるように練習だってしたし、ほら見てて何ともないから!
なんてまくしたててリキュールをちび、と飲むアレクシア。
「……平気?」
「うん! これ、美味しいね! ジュースを味見できないのが残念だけど、……ほら、眠くなってないでしょ!」
「まだちょっとしか飲んでないだろ」
「それでも! これでもお姉さんなんだから……」
あれ、おかしいな、瞼が重い。
「このくらいは……」
ぴったりと瞼がくっついてあかない。アルコールの心地に心が揺られて、どんぶらこ、どんぶらこ。
舟をこぐアレクシアの肩にそっとシラスは上着をかけ、まどろむ彼女の手を、そっと握った。
今は此処まで。君の寝顔を、見ていたいから。
【花筏】の面々は、大半が未成年者だ。
なので、桜リキュールではなく、桜ジュースになってしまうのだけれど……
「本当に桜ジュースになっているのね……綺麗な色……」
エンヴィは妬ましいわ、とグラスの中身を覗く。
今日はみんなでお花見。桜の飲み物だけでなく、持ち寄った食べ物やお菓子を味わおうと思ったのだが……不思議なお客が一匹いるようだ。
「みゃう」
「すみません。この子だけはどうしても私の傍から離れなくて……」
「猫のご飯も用意しておけば良かったかしら」
「ふふ。可愛い、です。懐いて、おられるのですね」
「可愛い飛び入りさんやねぇ。でも、ジュースでも桜味は飲ませられへんね」
しっかり持ってきた桜の形のグラスを配りながら、蜻蛉が笑う。猫に桜、どうなのだろう。健康によくないかもしれない。
でもそんな事気にしない、とばかりに、クラリーチェの周りで愛嬌を振りまく白猫。其の愛らしさに、皆の目じりも下がるというもの。
「……日差しも暖かくて、かわいい猫がいて、桜の香りに包まれて……とても贅沢な時間」
「そう、ですね。ただ味わうだけではなく、ここでは、一緒にいる楽しい時も味わうもの、でしょうか」
雪之丞が小首を傾げる。
「せやねえ。また来年もこうして、皆で会えたら――」
「あと1年と少し経てば、お酒を許される年齢になります。来年は花見酒に挑戦したいところです」
思う所はみな同じ。
桜は儚く散ってしまうものだけれど、其れでもまた次の年になれば花を咲かせる。
儚くも強いその花のように、また春にお花見をしよう。必ず、誰一人欠ける事無く――
「アララ、着いたとオモったらもうヨルだ」
「随分遅くなってしまいましたわね、もうすっかり夜ですわー!」
ジェックとタントは二人、夜桜咲き誇る夜の河に来ていた。桜が自ら輝くかのような光景に、二人はしばしの間言葉を失う。
「サクラだらけだ。ハナフブキって言葉がアルらしいけど、ホントに吹雪みたいなんダネ」
舞い散る桜の花びらたちに、そう零すジェック。
「ええ、とっても見事な桜! 目に見えるものすべてが桜桜桜ですわー! ですが……ぬぬ、やはり暗くてはっきり見えませんわね……こうなりましたら! ほあちゃーーー!!」
そのとき! タントが輝いた!!
「強化した発光にて! 夜桜を! ライト! アーップ! ですわ!」
「うおっマブシ……なんか前よりまぶしくなってナイ?」
「強化しましたから! オーッホッホッホッホ! いかがですジェック様、夜を背景に桜の花びらがきらめいて、趣のある光景になりましたわね!」
「ウン。よく見えル……素敵な景色を見せてクレてありがとう、タント」
「えっへへへ、お気に召して頂けたら嬉しいですわ! ではいざ! 桜ジュースへ! ですわ!」
二人は輝く桜に照らされるように、カップに水を汲む。ジェックはガスマスクを着けているので、水筒に汲んでストローをさして。
「それでは、夜でもなお咲き誇り続ける桜へ!」
「二人で見ル景色に」
「「かんぱーい!(カンパイ!)」」
●
桜の花びらは舞う。
やがて散り果て、枝となっても、また其処には緑が息吹き、次の冬にはまた咲き誇る。
其の儚さと不滅性に人は何を思うのか。
桜リキュールの河は、今日も滔々と流れゆく。
魔法が解けて川に戻っても、其れは永劫変わらない。
河は流れ、桜の花びらを海に届ける。
だが今はこう言おう。だって折角、川が染まってくれたんだ。
素敵な夜に。素敵な春に。そしていつか、我らの意思が全ての罪に打ち克つ日に。
――乾杯!
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
つかの間の休息、楽しんでいただけたでしょうか。
桜リキュールの幻は、きっとまた来年もその次も、続いていきます。
それでも今は今しかないから。
どうか皆さんのステキな思い出になりますように。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
シルクハットからキイチゴジュース。このワードが判る方は握手しましょう!
さておいて、<Kirschbaum Cocktail>参加のイベントシナリオです。
他にも素敵なシナリオがありますので、見てみて下さいね。
●目的
お花見だー!
●立地
海洋の隅っこにある川です。
川辺には今が時期の寒桜が咲き誇り、落ちた花びらで河は桜の絨毯のようになっています。
河の水は掬ってみればうっすらと桜色をしています。そう、桜リキュールです。
花弁を普通の水に浮かべても、特に変化はありません。
●出来ること
桜リキュール(桜ジュース)を飲んでお花見する
今回は出来る事は一つです。
河の水はなぜか桜リキュールになっており、いい塩梅に酔うことが出来ます。
(未成年の方が飲んだ場合はなぜか桜ジュースになり、アルコール分が抜けます)
お食事は出ませんのであしからず。
●NPC
グレモリーが川の水をカップに掬って飲んでいます。
●注意事項
迷子・描写漏れ防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは判るように合言葉などを添えて下さい。
●
イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってお花見を楽しみましょう。
では、いってらっしゃい。
Tweet