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シナリオ詳細

<Despair Blue>"絶望"の中の楽園島?

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある調査艦隊の航海日誌より

■○日 三日三晩続いた大時化がようやく収まった。
    しかし乗組員の2割が原因不明の体調不良を訴えている。随伴艦でも同様だ。
    艦長の指示で、今日は先を急がず艦体の修繕に当たることとした。

■✕日 朝から凪。やはり"絶望の青"というのは恐ろしい場所だ。
    この艦ほどもある巨大な海鳥達が飛んでいくのを見た。
    あれも『狂王種(ブルータイラント)』なのだろう。

□○日 体調不良者が増えてしまった。これ以上増えれば操船に支障をきたす。
    "絶望の青"を往く船を阻むものとして、奇病も挙げられているがこれほどとは。
    かく言う私も昼過ぎから吐き気が酷い。航海継続か撤退か、艦長の判断が待たれる。

□△日 嵐だ。艦長が撤退を決めた矢先、まだ記録にない島を発見した。
    何という幸運だろう。我々は嵐を避けるべく急ぎ島を目指した。
    島へ寄っていくと、急に雲が切れ眩い陽射しがさしてきた。
    黒雲が垂れ込める中、"この島の上空周辺だけぽっかりと青空が覗いている"のだ。
    上陸してみたいがどうにも不気味だ。艦長の指示で、一先ず海上から島の観察を行うことにした。

□☓日 体調不良者がまた増えてしまった。嵐も去った、今度こそ撤退だ。
    上陸できないのは心残りだが、今は"新たな島発見の報"を手土産に、全員で還ることが第一だ。
    島について判明したこと、個人的に気に留めたことなどを記しておく。

 ・おおよそ楕円形で南北に長く、南北約1.5km、東西1km程度の小さな島
 ・島のぐるりはごつごつとした岩場。南には一部砂浜があり、漂着物はほぼ見られなかった
 ・島の中心には火山と思しき(理由は後述)三角の岩山が聳えている
 ・岩山の裾野から海岸に至るまで緑の濃い密林が広がっている
 ・密林の木に数種の果実がなっているのを確認。種類までは判別できないが、食べられる物もありそうだ
 ・この恐ろしい海の只中にあるにしては楽園のような島だが、生物の姿は観測できなかった
 ・そもそも島の大きさからして、大型の四足獣などは生息していないと思われる
 ・半日の間に、小刻みな島の揺れを2度観測した
 ・地震、そして山を中心に盛り上がった島の形からして、海底火山の噴火によりできた島だと思われる
  (活火山かどうかは不明)


●酒場にて
 近海の海賊を平らげ、鉄帝の艦隊を退け後顧の憂いを断った海洋王国が、いよいよ外洋へ乗り出す時が来た。
『絶望の青』
 世界を寸断する東方の外洋。謎に満ち、様々な脅威がヒトの侵入を阻む魔の海だ。
 そこへ海洋王国が誇る造船・航海技術をもって漕ぎ出し、更にその先の新天地を目指そうというのだから奮っている。
 何か関連した依頼はないかと酒場を訪れたあなたは、依頼のチラシを壁に貼っていたユリーカ・ユリカ(p3n000003)と出会った。
「海洋の依頼をお探しです? だったらこれとかどうでしょう!」
 ユリーカが指したチラシを見れば、『絶望の青』で新たに発見された小島の調査依頼だった。
「なんでも、嵐を避けるふしぎな島だそうですよ」
 あなたはチラシに書かれていた島の詳細に目を通す。本当に嵐を避ける楽園のような島なのだとしたら、全容が解明されていない外洋において貴重な停泊地が確保できる。けれど本当にそんな楽園が、"絶望の青"と呼ばれる外洋にあるものだろうか?
「島を探検するも良し、のんびり羽休みするのも良しなのです。 はい? 遊んでてもいいのかって? 遊んで過ごすことができたなら、それはそれで島が安全だとわかりますからもんだいないのです」
 どうですか? と小首を傾げるユリーカに、あなたは頷いてみせた。

GMコメント

●目的
 "絶望の海"で新たに発見された小島へ上陸し、停泊地に適した安全な島か否かを調べる
 一定時間イレギュラーズたちが問題なく過ごすことができれば安全と判断されます
 そうでなかった場合は自動的に危険であると判断されるので、基本何をして過ごしても構いません

●小島について
 OP中の日誌を参照
 イレギュラーズ達が向かう際も嵐の中を越えていき、ぽっかり晴れた島へ到着することになります
 (島の周辺は風も波も落ち着いており、嵐の影響を受けず行動することができます)

●何ができる?
 基本的に何をしても構いません。島で思い思いに過ごしてください
 例)真水を探して島内を探検してみる(真面目に調査)
   いい感じの木の枝を拾って冒険ムーブをエンジョイする(楽しく散策)
   砂浜できゃっきゃうふふする(羽休め万歳) など

●船
 3隻の調査船団がイレギュラーズの移送を行います
 ベテランの乗組員たちが揃っているので、道中の心配はありません
 イレギュラーズ達が島で過ごしている間は、島のすぐ傍に停泊しています

●3行で
 火山(仮)・密林・岩場に砂浜が揃う不思議島で
 レッツエンジョイ島時間
 あなたらしく過ごしてね★

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 船員は島について努めて誠実に記録しましたが、推測が含まれており不明点もあります。

●GMより
鮎川と申します。新発見の島に初上陸!
冒険したい方ものんびりしたい方も歓迎いたします。
全体連動依頼ですが、駆けだしさんも安心して挑んでみてくださいね。
イベシナなので、やりたいことをピンポイントに絞って行動するときっと良い感じです。
ご縁がありましたらよろしくお願いします。

  • <Despair Blue>"絶望"の中の楽園島?完了
  • GM名鮎川 渓
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年02月14日 22時05分
  • 参加人数30/30人
  • 相談5日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
猫崎・桜(p3p000109)
魅せたがり・蛸賊の天敵
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏
ライアー=L=フィサリス(p3p005248)
嘘に塗れた花
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
月羽 紡(p3p007862)
二天一流
リコシェット(p3p007871)
跳兎
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

リプレイ

●お気に召すまま
 荒れ狂う海を越え、船は調査書通りに晴天を戴く島へ。イレギュラーズ達はボートに分乗し、南の浜から上陸する。
「こういうのワクワクすんなぁ! 清水探検隊、いざしゅっぱーつ!! 山口さんもメガぴょんたも、オレに続けーっ!」
 洸汰は待ちきれずにボートから飛び降りると、メガぴょんた(メカなトビンガルー)と山口さん(ひつじ否執事もとい従者)を従え密林へ突進していく。
「卵丸、火山に一番乗りするんだからなっ!」
 負けじと卵丸もジェットパックで飛び出した。
 浜へおりると、早速鮮やかなパラソルが花開いた。その下で、ゴリョウは混沌米『夜さり恋』と海塩を使いおにぎりを拵え始める。
「ぶはははっ、出ていくやつはおにぎり持ってけー! ここで食ってっても良いぜー!」
 シンプルな塩にぎりは素材に自信のある証。沢庵を添え笹の葉で包めばできあがり。皆のハラヘリを退けお米の普及もできる上、パラソルは集合の目印にうってつけ。何たる策士。彼は波打ち際のノリアに気付き呼びかける。
「気をつけてなー!」
 ノリアははにかんだように微笑むと、水面を揺らし潜っていった。

「よーし、遊んじゃうよー♪」
 続いて渚へ飛び出したのは、可憐な水着に着替えた桜だ。尾に葉っぱがついている。何故?
(着替えの所を見られてなければ大丈夫……のはず)
 茂みに隠れ、ギフトで幻の水着を纏ったわけだ。お似合いかつスレンダーボディにぴったりなのも納得……って幻なのその水着? 大丈夫?
 沖で停泊する船の船員達が、桜の気を引こうと口笛を吹く。そんな彼らをビシッと指差し、
「目一杯遊ぶけど、遊びじゃないからね! これも調査の為に仕方なく遊んでるんだからね!」
 言いつつ輝く水面へダイブ。そう、これも調査の一環なのだ。

 浜に目を戻せば、いつの間にか自立式ハンモックがお目見えしていた。揺られているのは史之だ。波音と心地よい揺れが眠気を誘う。
 このところ彼は海を股にかけ戦っていた。魔物ばかりか、船酔いや異臭とも戦わねばならない戦場は過酷で。珊瑚のタイピンに恭しく触れる。
「全ては偉大なるイザベラ女王陛下のため……後悔なんてしてない。……けどね! たまには休憩したいんだよ! のんびりしたいわけ、わかる!?」
 仰いだ空は答えないが、束の間の休息を一体誰が咎めるだろう。程なくして史之は安らかな寝息をたて始めた。

 休息を選択したのは縁も同じだが、海を見据えるその表情は、安らかな史之のそれとはあまりに異なっていた。
 絶えず寄せる波の音。それは絶望と言う名の深海で、彼を覓いで叫び続けていた彼女の"声"を想起させて。
(あれ以上聞いていたら――多分、俺は今頃、ここにはいねぇな)
 懐手した掌の中、真鍮細工の鈴がコロンと鳴った。首の痣がじくりと痛む。
「……あぁわかってる。これで終わったなんて思っちゃいねぇさ。切っ掛けを作ったのは、きっと俺だ。
 だから――待ってろ、必ずもう一度会いに行く」
 決意を込めた呟きは、波間に落ちて溶けた。

 岩に腰掛け釣り糸を垂らし、太公望然としているのはリコシェット。
「釣りですか?」
 鶫が声をかけると、彼女はちょっぴり自慢気に籠を指す。
「鶫! もう何匹か釣れたぞ!」
「中々に美味しそうですね。新鮮な内に調理してみます?」
「任せてもいいか? その間にもっと釣ってみせるからなっ」
 そうして鶫は魚の選別を始めた。流石は『メイド』、瞬く間に捌いては、串打って焼いたりたたきにしたり。
「魔法みたいな速さだな……! どれも美味しそうだ」
「ふふ。はい、まずはこちらをどうぞ、リコさん」
 鶫は竿から手が離せないリコの口許へ刺身を運ぶ。ぱくっと食べた頬が幸せそうに緩んだ。それを見て鶫の頬もほっこり緩んで。さてお次はと鶫の箸がたたきへ伸びた次の瞬間、リコの竿がしなった。
「……何か、大きな当たりがきてませんか?」
 リコは急いで竿を立てる。アワセは完璧、途端に魚が暴れだす。
「……と! 本当だ。引きが強いぞ……! 大きいの、当たり来ても逃げられてるんだ。鶫、一緒に引っ張り上げてくれ……!」
「勿論です!」
 バラさないよう息合わせ慎重に。数分の駆引きを経て釣り上げたのは、2尺越えの大物だった。


●密林探検
 威降は左手の海を見、次いで右手の密林を眺めた。
(海に比べたら楽園だけど、静か過ぎて確かに不気味だ)
 けれど、
「やっぱり陸はいいですね。ずっと船の上では肩も凝りますし」
 岩の感触を楽むように歩く紡の顔を見、懸念を喉の奥に押し込める。
「岩がごつごつしているし、足元気を付けて」
 威降が無意識の内に伸べた手を、紡はスマートに取って一礼した。
 潮騒の中、ふたりしてゆっくり歩いていく。
「私はこういうのんびりした時間も好きですが、戦に身を焦がすのも実は好きですよ」
 元いた世界は平和で、戦の術を奮う場も限られていたからと紡は言う。
「風巻は好きなことはありますか?」
 威降はちょっと考え、
「強い人と戦うのも好きだけど。……菓子屋巡りかな」
「お菓子?」
「俺、甘い物が好きなんですよ」
 紡は意外な返答に目を細めた。
「あ、笑いました?」
「いえ、良いお菓子屋があれば是非教えてくださいね。……あれは?」
 紡の視界の隅で何かが光った。近づくと、岩の窪みに古めかしい羅針盤が落ちている。
「以前にも誰かがこの島へ?」
「羅針盤なんて、航海には欠かせない物だろうに」
「ええ。……持ち主の船乗りは、無事に出航できたのでしょうか」
 波は答えず、静かに岩を撫でていた。


 ウィズィは先立って歩くイーリンをにこにこと見つめていた。
 冒険の知識を駆使し調査しながら、その術を伝えてくれようと張り切る彼女はとてもイキイキと輝いて見える。バカンスとは程遠い状況でも、彼女が楽し気ならウィズィも嬉しい。
「妙ね」
 けれどイーリンはいつの間にか難しい顔になっていた。掌に土を掬い、
「地表に近い土ほど湿り気がある……常に晴れている島、なのよね?」
 ウィズィは顔を近寄せる。
「この土、海の匂いがしない?」
「こんな内陸まで波が……?」
 呟き、その場で『知識の砦』へ熱心に書き込み始めた彼女の袖を、ウィズィはちょんと引っ張った。
「一旦戻って、考えを纏めるのはどうかなっ?」
 そうしてふたりが戻ったのは、茂みの中に拵えたシェルター。さながらふたりの秘密基地。一息ついて空を眺めるウィズィの横で、イーリンはこの後すべきことを指折り挙げていく。
「食料の追加確保と、橋頭堡の確保と――」
 そこで言葉を切り悪戯っぽく笑った。
「ついでにお互いに何かプレゼント用意するってどうかしら?」
「プレゼント??」
 ウィズィは目をぱちくり。笑って彼女に凭れると、
「いいけど。……なーに考えてるやら」
 差し出された小指に指を絡めた。

 島に真水があるか確かめるのは、とても大切なこと。
 密林に分け入りながら弥恵は歌を口遊む。エコーロケーションで周囲の地形を探っているのだ。そんな弥恵の腕に腕を絡ませ、ゴキゲンでくっついているのはティアだ。
「ちょっとくっつき過ぎですよぉー」
 はにかむ弥恵を、ティアは上目遣いで可愛らしく見つめる。
「こういう場だし少しはいいでしょ?」
「……もう」
 溜息を零しつつも、何だかんだでティアが可愛い弥恵である。そのまま密着状態で進んでいくと、
「この先に池か泉がありそうですよ」
「行ってみよう? ほら早くっ」
「そんなに急いだら危な、」
「あっ!」
「えっ!?」
 ティアのうっかりか弥恵のギフトかはわからないが、ティアの足がつるりっ。抱きつかれていた弥恵も一緒に茂みへ突っ込み、その奥にあった池へぼちゃんっ。
「いたた……浅くて良かったです。ティアはだいじょ……って!?」
 どさくさに紛れ、ティアの顔と手が弥恵の胸元にっ!
「ちょ、ちょっとその手つきっ!」
「ふふ、少しだけ♪」
 満ち足りた顔で堪能していたティア、はたと何かに気付き弥恵の濡れた指をぺろりと舐めた。
「~~っ!?」
 そして真面目な顔で首を傾げる。
「この水しょっぱい。海水?」
「え?」

 清水探検隊もまた、大きな海水の水溜まりを発見していた。
「海水を発見しちまうとはまいったぜー。でもここ、海から遠いのにな?」
 洸汰は顔をしかめて宙を仰いだ。――と、樹上で何かがはためいている。
「もしかして先住民の罠か何かか?」
 いそいそと木に登り、仕掛けがないか慎重に探り掴み取る。それはボロボロの古いバンダナだった。
「なぁんだ」
 けれど広げてみて洸汰は目を丸くする。樹上高くに引っかかっていたそれが、明らかに海水に晒され潮焼けしていたのだから。


 真水と並んで重要なのはやはり食料。事前に存在が確認されていた果実が食べられるかに注目が集まった。
「忍らしく諜報活動に勤しむとしよう」
 鬼灯は人形の『嫁殿』を大事そうに抱きかかえたまま、身軽に木々を渡り果実を採取していく。が、忍である彼の本当の目当ては有毒の植物だ。
 赤い実を石で磨り潰してみると、酸い香りが漂った。
「山査子に似ているな。毒はなしか」
 黙々と作業に勤しむ鬼灯を、嫁殿の瞳はどこか退屈そうに映していた。

 果樹が集まる一帯に辿り着いたチックは、不思議な気持ちでぐるりを見渡す。
「こんな島がある……なんて」
 仰げば晴天、周囲にはたわわに実る果実。死物狂いで嵐を越えてきた船乗りにとっては、正に楽園だろう。
「でも……だからこそ、安全かどうか調べないと……「お手伝い」、しよう」
 果実を採るべく羽根でふわりと舞い上がる。すると茂みの間に、深刻な面持ちで何かを凝視しているライアーを見つけた。彼女の視線の先にいたのは、糸をパラシュートのように広げ漂う小さな蜘蛛。
「……虫はちょっと苦手ですけれど、確か食べることもできるのですわよね? 非常食に……、」
「無理、しない方が……」
 思わず声をかけると、ライアーは肩を跳ねさせた。
「ち、違いますわよ!? あくまで非常食としてですわっ! 果実を採りに来たのですけれど、幹を揺らしてもなかなか落ちて来ませんの」
 それならと、チックが飛翔し果実をもぎ、ライアーが下でキャッチして、3種類の果実を沢山集めることができた。赤いものも黄色いものも、よく知る果実に似ているようで少し違う。
「食べられるかしら?」
 試しに実をひとつ割れば、甘く芳しい香り。滴る果汁を下生えにつけてみたが、特に異変は見られない。
 そこへ溜息混じりのエイヴァンが通りかかった。ふたりが採ったものとはまた違う果実を抱えている。
「どうか、したの……?」
 声をかけると、彼はいいやと苦笑いで首を横に振り、
「個人的な捜し物をしていたんだが、見つからなくてな。それよりここは"本当に島なのか"?」
 顔を見合わせるふたりに、エイヴァンは火山を指して続ける。
「運び手となる生物がいなければ、植物が隆起した火山島に自生するなどあり得ない。この島で何か生き物を見たか?」
 チックは頭を振り、ライアーは柳眉を寄せる。
「小さな蜘蛛を1匹だけ。風に乗り海を渡る種ですが……あれではタネなど運べませんわね」
「じゃあ……どうやって、ここに?」
 3人は何とも言えない面持ちで果実を見つめた。

 一方その頃、既に果実を食んでいる者がいた。ヒィロと美咲だ。
「果実の味見はボク達に任せろー!」
 美咲提案のパッチテストで害がないことを確認し、類まれな度胸で未知の果実を口にしたのだ。この島が補給拠点たり得るならば『絶望の青』への進出もきっと捗る、その一助となればとの健気な思いからだった。果たして……?
「これとってもジューシー♪」
「本当だね。ほら、頬についてるよ」
 美咲に頬を拭ってもらって、ヒィロの尾がぱたぱた。けれど美咲には気がかりがあった。
(上空の風は『絶望の青』らしく不規則……陸から種子とかが渡ってくる可能性は全くないとは言い切れない。けれど……)
 その時ヒィロが木の根元を指した。
「ねねねっ。料理の得意な美咲さんなら、手を加えれば食べられそうな食材見付けられそう? 美咲さんの瞳みたいにカラフルなあのキノコとか!」
 美咲は指の先を追いぎょっとなる。生えていたのは見たこともない紫キノコ!
「キノコは……判別の難易度高いのよね。というか、あれは見るからに……」
『鬼灯くん! 見て、あのキノコまるで砂糖菓子みたい!』
 無邪気な声がしたかと思うと、嫁殿抱えた鬼灯が現れた。
「ふふ、嫁殿は今日も愛らしいな。これか?」
 鬼灯はデレつつ件のキノコに手を伸ばす。途端、触れた指の腹が酷く痺れた。
(うっ、これは完全にマズいヤツ!)
『とってとって!』
「……いや嫁殿、これはど、」
『とってとって!』
 ヒィロと美咲は顔を見合わす。
「止めたげる?」
「……そうだね」
 そうして無事鬼灯をキノコから引き剥がすと、ヒィロは食べかけの果実をぱくり。
「んー♪ 美味しすぎてこの島から出たくなくなっちゃうかもね!」
「ええ? それじゃまるで誘引用の――」
「それ、あながち間違いではないかもしれないのです」
 今度は丸太を抱えたヘイゼルがやって来た。ヘイゼルはおもむろに魔力を開放し、傍らの果樹を伐り倒す。
「見て欲しいのです」
 彼女が指したのは木の切り口。そこには"本来あるべきはずのもの"がなかった。
「木の切り口を調べれば、文字通りに島が最低何年以上存在したかが判り、日照差により方位も判るはず。そう考え、木を伐り調査していたのですが」
 ヘイゼルは携えていた丸太の切り口も見せた。やはり、ない。
「この通り、この島の木にはそれらの情報を与えてくれるはずの"年輪"がないのです」
「やっぱりこの密林は、必要条件満たしたものではなかったんだ」
 気がかりが的中し、美咲はぐっと奥歯を噛む。
『それならこれは何なのかしら?』
「考えられるのは、この「島」が「本当の島ではない」ということ。外洋を跋扈する狂王種の大きさを考えますと――」
「……まさか」
 一同の背を嫌な汗が伝った。


●火山調査
「んむー」
 火山手前の茂みで、謎の島探検隊のジルは葉っぱと睨めっ子していた。
「どうしましたの? お薬に使える草ではありませんの?」
 ヴァレーリヤに尋ねられ、ジルはわしゃわしゃと頭を掻く。
「よーく似てるんすけどね? 違うんっすよー」
「新種発見ですか?」
 尊敬の眼差しを向けるヴィクトールを、ジルは「待ったっす」と制した。
「なーんか、こう……一見既存の植物の亜種っぽく見えるっすけど、無理に似せようとした偽っぷりみたいなキモチ悪さっつーか……伝わるっすか? このモヤモヤ!」
「いやー」
「さっぱりですわ」
 ジルはがくりと肩落とし、採取したサンプルを鞄に詰め詰め。ふたりも手伝っていると、頭上をさっと過る影が。見れば、海賊旗片手の卵丸が、火山めがけジェットブーツで飛んでいく。
「いけませんわっ! きっと火山には隠された洞窟が! 財宝が! 急ぎましょう、私達の栄光を目指して!」
「宝探し! いいっすね!」
「探険ですか? よいですが……」
 ヴィクトールが顔を上げた時には、既にふたりは闘牛の如く駆けだしていた。
「って、ふたりとも先に行かないでくださいなのです……!」

 その頃、火山の中腹にはマルクと風牙がいた。山は岩肌剥き出しでかなり傾斜がついている。
「多くの謎に包まれた島、その中心の火山に今、オレたちは人類初の足跡を刻んでいる! ……く~~っ! これだよ、これが冒険ってやつだよ!」
 風牙の浪漫と歩みは留まることを知らない。
「はぁ、はぁ……新道さん、ちょっと待って、ちょっと休憩を……」
 くたびれた様子のマルクが呼び止める。気遣う風牙に礼を言い、マルクは一旦腰を下ろして小鳥を使役し、先のルートを確認する。風牙は尖った山頂を仰いだ。
「頂上から見下ろす島の景色は、きっと気持ちがいいぞ!」
 マルクは足許の小石を摘み上げる。
「……気になっていることがあるんだ。さっきから落ちている白い石、火山岩ではないよね。この白い山肌も」
「ん? あー、火山の石って大体黒いような?」
「そう。……これは恐らく石灰だ」
 風牙が首を捻ったその時、山が小刻みに震えた。
「地震か?」
 否!
 砂塵を巻き上げ、一直線に斜面を爆走してくる者がある。
「卵丸が一番乗りなんだぞっ」
「財宝は渡しませんわ!」
「ま、待ってくだ……心臓がっ」
「ほらほらしっかりっすよー!」
「ヤバいぞマルクさん、ここにいたら轢かれるっ。行こう!」
「あ、ああ!」

 未知の島の未知なる山で、クライムヒルバトルが勃発したなどと誰が想像し得るだろう。
「地震か?」
 さしものラルフもそうとは気付かなかった。
 彼は単身、山の麓で見つけた横坑へ潜っていた。中は暗く冷たく、振動が収まると耳が痛くなる程の静寂が戻ってくる。
「ふ、静かな物だな……」
 声も反響することなく闇に溶ける。傍らに、彼が望んだものはない。否、独りをこそ望んでいたのだ。彼は再び瞑想すべく瞼を伏せた。

 火山上空では、蛍と珠緒がこの不可思議な気象現象について調べていた。
「近くで見るとこんな風になってたのね」
「晴れとは、要は高気圧なのですが……こんなにくっきりと雲が切れているなんて」
 ふたりの前に広がっているのは、まるで刃で切り取ったかのような黒雲の断面。自然現象であろうはずがない。
「珠緒さんは何か感じる?」
 巫女である珠緒に尋ねると、蛍は彼女の指が小さく震えているのに気付いた。繋いだ手に力を込め、力強く頷きかける。珠緒は少しほっとしたような顔をして、
「計測級の感覚はないですが……それでも、何か大きな力が影響しているように感じます」
「一体誰が何のために」
 薄気味悪い雲の断面から離れるべく、ふたりはゆるゆると高度を落としていく。繋いだ手から相手の腕、そして顔へと視線で辿っていくと、どちらからともなく目が合って。微笑み交わすと改めて島を見下ろし、
「海洋で見た似た地形との画像比較をしてみましょう」
「次はあの岩山を上から眺めてみましょっ、か……」
 蛍は火山を指して固まった。何かが否誰かさん達が山頂――そこに開いた火口へと猛然と突き進んでいたのだから。

 ヒルクライマー達はいよいよ頂上目前。
「オレがいっちばーん!」
「卵丸が一番乗りしてこの旗をっ」
 卵丸がジェットブーツでぐんと飛び出すと、
「させませんわよっ」
 ヴァレーリヤは負けじと大ジャンプ! が! 飛びすぎた彼女の身体は火口の上に!
「ひょあああっ!」
「ヴァレーリアさんがピンチっす!」
「ああああ!! 今引き上げます! ふぁいとーー! いっ【自主規制】」
「このままでは私、BBQになってしまいますわ! ……って、あら?」
 ジルとヴィクトールにがっしり腕を掴まれたヴァレーリヤ、足をぶらぶら目をぱちくり。
「熱くないどころかひんやりしますわ?」
「ひんやり?」
 6人で思わず火口を覗き込む。途端、鼻をつくのは硫黄臭ではなく磯の匂い。内は巨大な空洞になっていて、底には何か蓋のようなものがある。ずれた蓋の下から粘膜質なナニカが見えた。
 石灰。磯の匂い。三角山めくこの形。
 磯遊びの経験がある者はピンとくるなり、愕然として呟いた。

「……フジツボ?」


●島の正体
 ノリアは意外な発見に震えていた。
 深くなるにつれ海水は濁りを増し、じきに光も届かなくなった。島の側面を手探りでなぞり潜っていたが、ある深さで忽然と手応えが消えたのだ。
(浮島、でしょうか? まさか、巨大なクジラだったり……?)
 鼓動が跳ね上がる。ここは『絶望の青』。どんな巨大な狂王種が現れても不思議はない。気まぐれに変わる潮流に拐われることだって。恐怖に押し潰されそうになりながら、それでもノリアは進み続ける。
(やり遂げることができれば、きっとわたしは……)
 夜光虫のランタンと、胸に灯る勇気を頼りに進んでいくと、突然何かにぶつかった。
 慌てて灯りを翳すと"島から何かが突き出ている"。それも"今までとは手触りの違う何か"が。あまりに大きなソレの正体に気付いた瞬間、ノリアは声にならない悲鳴を上げた。

 砂浜の面々が地響きを感じたのはその頃だった。揺れは小刻みながら止む気配がない。
「噴火か?」
 各々火山の方を見やったと同時、桜が声をあげた。
「急に潮位が上がってきた……ううん、この島沈み始めてる!」
 そして各方面に散っていた面々が物凄い勢いで浜へなだれ込んでくる。
「やっぱりこの島おかしいよ!」
「なーんか変だと思ったぁ」
「皆早くボートに乗って!」
「巨大にも限度があるだろう……」
「果実は島に誘い込む罠だったのよっ」
「きっとこの天気も!」
「誰か落ち着いて説明ができる奴は、」
「だからフジツボ! あれは山じゃなくでっかいフジツボだったんだよ!」
「?」
 ちょっと何言ってるかわかんないですね状態の砂浜組だが、そうこうしている間に海水が足許へ迫ってくる。そこへ息切らせたノリアも戻ってきた。
「大変、ですのっ……ここは島ではなく、巨大な海亀の甲羅の上ですの!」
 先程海中でノリアがぶつかったのは、甲羅から突き出た亀の頭だったのだ!
「馬鹿デカい亀が馬鹿デカいフジツボ背負って、島に擬態しているというのか?」
「ともかく船へ! こんな巨体で船にぶつかられでもしたら……!」
「ふあぁ……えっ引き上げるの? 待って待って置いていかないでー!」

 点呼を取りつつ船へ戻り、船団の守りを固めるべく展開した一同の目の前で、島――もといフジツボ背負った亀の狂王種は、ゆっくり、実にゆっくり海の中へ潜っていった。
「……は?」
 攻撃してくるでも追ってくるでもなく、ただただ沈んでいったのである。
「えっと……島のフリして、上陸してきた人達を……溺れさせたいだけ、なのかな?」
 飛べたり泳げたりしたらあんまり関係ないけれど、とチック。
 珠緒は思った。天候を操るなんて大それた術と擬態にリソースを割きすぎて、他の一切が疎かなのでしょうねと。
 何とも言えない残念な空気が船団を包んだ。
「……帰ろっか」

 後日帰港したイレギュラーズ達から、全員の見解が一致した報告書が提出された。
『あれは停泊地にはできません』と。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

イレギュラーズ達が上陸し調査・滞在したことで、島の正体が狂王種の亀だったことが判明しました。
当然拠点にはできませんが、その存在が明らかとなり周知されたことで、新たな被害者を出さずに済むことでしょう。お疲れ様でした。

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