シナリオ詳細
【Autumn color】芋掘り? じゃあ君の物理攻撃力を教えてもらおうか
オープニング
●赤い秋
それは混沌中で何が起こっていたとて変わらぬ、緩やかで確実な世界の変化。葉が色づき、鮮やかな季節がやってきた。
今年も今年で、貴族たちはどんな催し物をしようかと考える。
食べる? 読む? 遊ぶ? 走る?
出来る事は沢山あって、やりたいことも沢山ある。去年と同じ内容でも、さらに一捻り加えても良いだろう。
けれどそれだけじゃ面白くない。「また同じことをしている」と言われたくない。
そこへ、誰が言ったのか。
──そうだ、皆で色を纏えばいいじゃないか!
●赤い秋って言ってるぴよ!
「と、言うわけで! 混沌各地で催し物があるそうですよ!」
ばさばさっ、と翼をはためかせて飛び跳ねるひよこがいる。獣種のため飛ぶことはできないが、ジャンプの一助になって──いるのだろうか。
いや、問題はそこではない。ブラウ(p3n000090)が飛び跳ねていることではなく、彼の言葉の内容が大事なのである。
「去年もあったみたいなんですけど、僕はよく知らなくて。今年は今日を入れて3日間でご案内するので、内容はローレットで確認してくださいね!」
あちらにいる情報屋の方たちですよ、と嘴で示すブラウ。不意にその真ん丸な黒目をぱちくりと瞬かせた。
「ぴよーーー!!!! 待って待って!! 伝え忘れがありました!!!」
ばっさばっさと翼を広げて声を上げるブラウ。やはりというか当然というか、飛べない。
なんだなんだと戻ってくるイレギュラーズにブラウは少なからずホッとして、「あのですね、」と口を開いた。
「今回は去年と違って、参加のためのお約束があるんです。もしかしたら情報屋の皆さんに改めて言われるかもしれませんが、
『今年は必ず、その催し物で指定された色を纏うこと』
……がお約束です! 体毛とか髪の毛の色でも大丈夫です!」
例えばブラウが黄色指定の催し物に身1つで参加しても問題はない。敢えて黄色のリボンなどをつけても、やはり問題ないのである。
今度こそ忘れていることはないはず、とブラウは頭の中で確認して、うんうんと頷いて。
「──それでは皆さん、いってらっしゃい!」
●練達へ遠足
探求都市国家アデプト、通称練達には様々な施設がある。たとえば第七地区農業試験場もそのひとつだ。
イレギュラーズの前に立った白チャイナの青年、ファン・シンロンに、『無口な雄弁』リリコ(p3n000096)がカラフルなチラシを差し出した。
「……お芋、掘り放題食べ放題、本当?」
「はい、そのとおり。今回は皆さんに農業試験場で芋掘りのアルバイトをしていただきます。申し遅れました、フィールドワーカーのファンです」
ファンは糸目をさらににこにこさせてそのチラシを受け取った。
「今回、収穫を任されるのはゼシュテル芋を品種改良したもので、これが平均で直径30cm、大きいものとなると1mを超す芋が取れます。味は、サツマイモに似ています。もともとはゼシュテル芋の変種だったのですが、どこまで大きくなるのか気になるのが研究者というものでして、職員たちは日々ゼシュテル芋の巨大化に挑戦しています。ところが、収穫物が大きくなりすぎて腰をやってしまった職員が出る始末、そこで皆さんの出番です」
「……焼き芋」
「スコップで掘ると身を傷つける心配があるので、つるを引っ張って取り出す方法が一般的です。ワタシもすこしやってみましたガ、大きな芋がゴロゴロスポンと抜けていくのは爽快ですヨ。つるはザイルのように強靭ですから、よっぽどの大物がかからない限りちぎれません」
「……おっきな、焼き芋」
「焼き芋好きなノ?」
「……大好き」
「いっぱい食べるとおならがでますヨ?」
「……」
リリコは真っ赤になってファンの胸をポカポカ叩いた。
「さて、収穫が終わると、慰労会が開かれます。新鮮なゼシュテル芋をいかに消費するかも重要な研究課題ですので、皆様奮ってご参加ください。
焼き芋にするとねっとりと舌に絡まるような甘みが味わえます。その他にも大学芋、スイートポテト、天ぷら、はさみ揚げ、忘れちゃいけない芋焼酎。皆さんの多様なアイデアで秋の味覚を楽しんでください。そうそう、芋焼酎は職員の好意です。いろいろそろってるみたいですヨ、楽しみですネ。
それでは今回のアルバイトへ同意してくださった方は赤い腕章をお配りします。受け取った方は表にバスをチャーターしてありますから、それに乗ってください」
あなたが赤い腕章を受け取ると、ファンは、ではがんばってと会釈をした。
- 【Autumn color】芋掘り? じゃあ君の物理攻撃力を教えてもらおうか完了
- GM名赤白みどり
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年10月31日 22時40分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
リプレイ
一面に広がる芋畑。ゼシュテル芋の巨大さを想定して、畝の間隔は広い。そこでぐっと拳を握る蛍。
「さ、珠緒さん行きましょ! 力を合わせれば女の子二人だって多少は掘れると思うのよ。狙い目は、周囲がぽっかり空いてる蔓ね。周りで他が育たない程大きいお芋が埋まってるといいな」
「はい。芋ジャージも着てきました。きっと適正があるに違いありません。ところでこれはどちらかというと小豆色ジャージだと思うのですが何故芋なのでしょう」
「えーっと、信号機で緑のことを青と呼ぶようなものよ!(ダサイからとか言えない、芋ジャーを着ていても珠緒さんは愛らしいし……)」
「なるほど理解しました。言葉の妙味。では、不向きに負けず参りましょう」
珠緒は手近にあった蔓を掴んだ。後ろから珠緒を包み込むように蛍も蔓を掴む。
「それじゃ、呼吸をあわせて、行くわよ」
「せーの、ぐぼあああ(吐血)」
「珠緒さん! 珠緒さーん!! だいじょぶ!?」
「ご安心ください。桜咲は慣れております。それより、ほら」
珠緒は畝を指差した。お芋が頭を出している。でかい。直径が30cmということは、横幅はもっとあるのだ。
「手間取りはしましたが、なんとかなるようです」
「そう、手間取ったってレベルじゃ……まぁ、平気ならいいけど。私が前になるわね」
「では従者のすずきさんとこじまさんにも加勢願いましょう」
皆でせーのでひっぱったら今度はすぽぽんとお芋が抜けた。
「はい! パワープレイならおまかせあれ! 可愛い!(上を向いて1カメ)」
「ボクの!(斜め下の角度から2カメ)」
「可愛さを!(正面から3カメ笑顔のアップ)」
「お見せしましょう~~~!(ぐう~っとカメラが引いて芋畑に立つエナの勇姿)」
エナはこれは、と思う蔓を握り、スープレックスの要領でどやっとひっぱる。ずぼぼぼ、どでかい芋が音符のように連なって抜けていく。だがまだ畝の端には至らない。エナは姿勢を変え、背負投の要領で。
「えいっ。クラッシュホーン! エナちゃんタックル!」
ずぼぼ、ぼこん! 畝の芋が全部抜けた!
「よーし、いい調子ですね! ガンガン行ましょう! 優勝はボクのものですよぅ!!」
「ふふ、ミニュとお出かけするのは久しぶりかしら? とっても楽しみ!」
レジーナが腕章に腕を通すと、ミニュイは困ったように此方を見た。
「レナ、腕章が……通らない」
「あら困ったわね。スカーフ代わりに首へ巻くといいんじゃないかしら。ミニュイは細いから大丈夫よ」
「じゃあそれで」
腕章を(マジックテープ式なのだ!)を首へ巻くミニュイ。準備万端。レジーナは物憂げに畑を見やる。
「それにしても果ての迷宮から帰ってこっち、実はまだ後遺症が残ってるのよね……」
「レナがティーカップを粉微塵にしたときはさすがに驚いた」
「そうなのよね。うん、ミニュ、ここは共同作業よ。良い感じのお芋見つけたら掘るのは任せて! ミニュはお芋が吹き飛ばないように制御する役目ね!」
「うん」
ミニュイは翼を広げ、空から芋畑を観察する。
「こことかいいと思う」
「ふふ、一番大きなお芋を掘り当てましょうね!」
「がんばれがんばれ」
レジーナは大きく息を吸って。
「ふん!」
ばこおおおおおん! 畝が割れ、巨大な芋が弾丸のようにミニュイへ向かって飛んできた。
「えっ、待って、受け止めるの無理……ええええっ!?」
ミニュイの身長くらいありそうな芋が迫っていた。
「むぐっ!」
とりあえず芋を抱き止めたが、ミニュイはバランスを崩して落下しかけた。
「はっ! ミニュが危ない!」
レジーナはとっさの機転で蔓を引っ張り、ミニュを芋ごと受け止めてみせた。
「焔せんぱーい!」
「フランちゃーん!」
着替えて待ち合わせた二人は赤ジャージ。やる気満々、腕章もバッチリ。
「頑張って美味しいお芋をいっぱい掘り出そうねフランちゃん!」
「焼き芋に大学芋、スイートポテト……はっ、いけない、もうよだれが!」
「気が早いよフランちゃん。でもボクも収穫がとっても楽しみ! おっきなお芋どんどん掘っちゃうぞー!」
言うなり焔は手近にあった蔓を取って、ぐっと引っこ抜いた。ずぞぞぞ、直径50cmを超える大きなお芋が全貌を現す。
「ふわー、おっきいー、これで普通サイズだなんてゼシュテル芋の神秘!」
「くっ、なかなかっ、手強いっ! がんばるぞ!」
焔に負けずフランは自分も別の蔓を握った。
が。
ぎゅ。
「あれ?」
ぎゅぎゅ。
「あれれ?」
びくともしない。
「ええーなんでえー!?」
説明しよう、フランの命中はとっても低く、物攻に至ってはマイナスなのである。この場合の作用反作用の法則については練達の科学者による研究が待たれる。
「焔先輩~~~、たすけてー、全っ然抜けない……!!」
「どうしちゃったのフランちゃん、もしかしてすっごく大きなお芋に当たっちゃったの?」
「かもしれない」
「オッケー、手助けするよ。せぇの!」
すぱぽん。
お芋はあっさり抜け、二人は盛大に尻餅をついた。
「芋は赤、腕章も赤、まさに僕のイメージカラー!! 適任とはこの事を言うのだよ!」
芋畑に立って両手に腰を当て、高笑いするのはクリスティアン。高笑いまで優雅かつ気品に満ちている。
「フフフ、鉄帝での芋掘りを体験した僕にもはや死角はない……!」
自信満々に蔓を握り、ここで改めて職員の説明を受けるクリスティアン。
「は? 物攻? ……な、なんだと! こう見えても僕は神攻型なんだ……クッ!」
頭を抱える彼。しかしここで諦めないのがクリスティアンのいいところだ。一応、物攻だってある。
「王子たるもの芋掘りで屈するわけにはいかないのだ! 最高の芋を掘り上げて見せるー……ッ!」
「お芋掘りとか懐かしいですねー。私の居た世界にもあったんですよ、巨大芋。ラナーダさんの世界はどうでしたか?」
「いや、実はボクはお芋掘り自体初めてで……シュラさんにコツを色々教えてもらえると嬉しいかな」
「そうなんですかー。それでは一緒に楽しみましょうね」
「うーん、大きなお芋はボクにはちょっと荷が重いかも」
「ふふふ、そのために私がいるんです。さあ、つきましたよー」
畑の端で、ふたりは軽く準備運動をした。まずは小手調べだ。シュラは蔓を手に取り、感覚を確かめる。軽く引っ張ってみると、直径30cm級の芋がふたつ、ごろんと転がり出てきた。
「うっわー、本当におっきいですねー。今から調理するのが楽しみですねー。それでは本気でいきましょうー。あ、ラナーダさん、飛ばされないようにしてくださいね?」
「え、どういう意味?」
「何分、全力を出すと加減ができないものですから……はあああ!」
すがばぼべぼぼぼ。畝の中から大小様々な芋が姿を表す。
「わわわわわ!」
ひたすらシュラの腰にすがりついているラナーダ。畝は真っ二つに裂け、最後のひとつが飛び出てきた。
「ふぅ、やりました」
「おつかれさま」
ラナーダは持ってきたタオルで泥で汚れたシュラを拭いてあげた。
「ふふ、くすぐったい。ありがとうございます」
襷がけをした沙月は芋畑を見回した。そこかしこでわーとかきゃーとか聞こえてくる。みんな楽しんでいるようで何よりと沙月は微笑んだ。
「力にはさほど自信があるわけではありませんが(物攻913)、こういうものは体をどううまく使うかというのも大事だと思います。そう考えますと修行の一環にもなりそうですね。やるからには、全力で」
沙月は蔓を手に取り、腰を落とした。そこから伸び上がるように回転して、背負投げでもするかのように蔓を引っ張り上げる。どごごごごん。畝から一斉に芋が飛び出してくる。
「あら、意外とすんなり採れました。ひい、ふう、みい」
成果を確認して満足げな沙月だった。
「……ええと、おイモはね。皮ごと食べるならおなら出にくいからさ」
「……そうなんだ」
ルフナの一言を聞いて、リリコはちょっと尊敬したように彼を見つめた。
周りでは孤児院の子どもたちがわいわいと芋掘りに興じている。
ルフナは自分も蔓を握った。
(それにしてもなんで方法が引っこ抜くオンリーなの? 植物舐めてるのかな。……ああ、脳筋芋だから脳筋相手にはおもねるんだね、オーケー、ボクの自然会話能力が漢祭のイメージを送ってきた。これは力勝負、理解した)
は、いいんだけど。ルフナの物攻はマイナス。
(何が起きるんだろう。まあとにかくトライだ!)
「せえの!」
――ごき。
ルフナの腰が可憐な音を立てた。同時に広がる痛みっていうかいたいたいたいただだだだだ痛いってレベルじゃない神様たすけて。痛すぎて身動きすることもできず、ひたすら脂汗を垂らしながら呼吸をすることしかできない。
「大丈夫か!? 今簡易ベッドを作るからそれまで耐えてくれ!」
子どもたちと一緒に芋を掘っていたウェールが飛んできた。心配した子どもたちも集まってくる。ウェールがルフナを抱き上げ、ベッドへ寝かせ、姿勢保持のために膝の下にバスタオルを入れた。
「ぎっくり腰だな。鎮静剤を打つから効くまで動かないように」
もうなんでもいいから早くしてください。半分飛びかけた意識で思う。
「おそら、きれい」
「やれやれ、芋掘りで重症になる所だったよ」
「鎮痛剤が効いてるだけだから大人しくするんだぞ」
「はーい」
ルフナに言い聞かせるとウェールは子どもたちのもとへ戻った。子どもたちに小さな軍手を配り、よしっと気合を入れる。思い思いに蔓を引っ張る子どもたちのうしろから、ウェールも加勢した。
「イザベラさんなら3mの芋でも平らげそうだな」
「あらあらそんな、足りませんわー」
「あっはっは、そんなことだろうと思った」
なんて和やかに会話を交わしながら子どもたちを手伝っていると……。
シュババ! グイッ!
人影が3つ背後を走り抜けたかと思うと、すさまじい力で蔓が引っ張られ、ウェールと子どもたちは尻餅をついた。残されたのは芋の数々。
「な、なんだ今の」
「閠さん、お芋掘ろーう!」
「先頭オレな、手伝ってくれよ!」
ザスとミョールに両手を引かれて、閠ははいはいと畑に出た。赤い襷で袖を束ね、細い腕に腕章を。
「物理でしか、抜けないなんて、芋まで脳き…こほん。とても屈強な品種、なのですね? …負けません、よ」
しかし聞こえてくるのは、うおりゃああ、どっせーいと気合の入りまくった声。閠は早くも不安になり始めていた。
(掘れる、かな……。いやいや、泥だらけになっても、それだって、きっと、大事な思い出です、よね?)
ザスとミョールの後ろに付き、せえので踏ん張る。ちょっとずつ、ちょっとずつ、お芋が出てくる。
(いける、かも……!)
と、その時だった。
シュババ! グイッ!
「ひゃあああ!」
3人はびっくりして尻餅をついた。畝は掘り起こされ、芋がごろごろしている。
「今のは…一体…」
しかしてその正体は。
「墨染鴉、黒星一晃、一筋の光と成りてゼシュテル芋を掘り起こす!」
「おいもはいーもん~♪ 巡理リインです! 掘り部の皆さんをお手伝い!」
「リュグナーだ! 大きな獲物を見つけねば情報屋としての立つ瀬がないというもの!」
の、3人組だった。
畑の端まで走り抜けた3人はあたりを見回す。
「ふむ、だいたいのメンツは掘り終えたようだな」
「ですね。いい汗かいちゃいました」
「さて、体も温まったことだし、本番へいこう」
一晃が畝の前に立つ。蔓を取り上げ、自分の芋を引き抜こうと……。
「ぬ?」
ぐぐっ。
「……」
ぐぐぐぐぐっ!
手応えはある、だがぴくりともしない。
「一晃さんどうしたんですかー? フレーフレー、出てきてお芋さーん!」
「『引っこ抜く』作業であれば旅人から聞いたあの呪文を唱えてみると良いかもしれん」
「どんなのだ?」
「『ウントコ・ショ=ドッコイ・ショ!!』だ!」
とにかく一晃は全身全霊をかけて蔓を引っ張るが相手は強敵だった。リインが加勢に入っても、リュグナーが手伝っても、まったく土から出てこない。
「そこの者! 我が腰を引くのだ!」
リュグナーが叫び、イレギュラーズが集まってくる。みんなで数珠つなぎになって、呼吸をあわせ、蔓がちぎれんばかりに全力で引っ張った。
どかああああああああん!!
芋が掘れたとは思えない爆音が畑へ響き渡った。
●
「直径5m84cm6mm!」
「新記録だー!」
巨大な芋の周りで職員たちが喜びのあまりマイムマイムしている。でかい。軽くクルーザーくらいあるんじゃなかろうか。
「るら~!! いただきます! イモイモ! 熱々のおーごんのイモイモ!」
リナリナが巨大芋へ飛びついた。
ガリッ。
しーん。
「……固い、冷たい」
切なげな顔でリナリナが振り返る。
「そうせくもんじゃねぇぜリナリナ。俺が料理するからな。ちぃとばかり待ってろよ!」
よっ、和食料理長! 今回も期待してるぜ! そんな声が周りから飛び出す。彼の名はゴリョウ。その筋では有名なオークである。
リナリナはしょぼんとしながら体育座り。空腹をごまかそうとマンモのお肉を取り出した。そこへ通りかかったのはルウ。筋骨たくましい体で掘り当てた芋の数々をまさに焼きに来たところだった。レンチンなる練達製の機械へ芋を放り込むと、ルウはにっと笑顔を見せた。
「お前いいもん持ってんじゃねえか。食いごたえの有りそうな肉だな。腹ぁ減ってきたぜ!」
「おー、マンモのお肉うまうま! ルウもいるか?」
気を良くしたリナリナがもう一本取り出す。それを受け取ったルウはがぶりと豪快に食いついた。
「ん! この程よい硬さ、脂の旨味! 野性味あふれる味! うめーじゃねえか、酒はねえのか酒は!」
職員の手から一升瓶を受け取り、ラッパ飲みしてぎゅっと目をつぶる。
「うんめー!! やっぱ肉は最高だぜ!」
「にくにく最高! にく最高!」
と、そこへ、チン♪
機械からごろごろとお芋が転がりだしてきた。それをかごに集め、あつあつの焼き芋をルウとリナリナは頬張る。
「にくにくイモイモにくイモモ! リナリナ、口が足りないゾー!」
「ははっ、肉酒芋芋酒肉肉! ってかあ!」
さて、場面はゴリョウへ戻って、彼は大きな鍋いっぱいに具を煮込んでいた。この試験場のゼシュテル芋は異様に火の通りが早い。その点を加味して、仕上げにどざっとザルから芋をいれ味噌を溶き入れる。
「ゼシュテル芋の豚汁! 一丁上がり!」
「一杯いただこう」
すっとプラスチック製のお椀を差し出したのはコウ。一口味見をしたとたん、赤い瞳がかっと見開かれる。
「こ、これは。多くの具からとれた深い出汁の味わい、そこへ溶けるような芋の甘味が加わり、柔らかくも濃厚な味噌に包まれている。何故だ、初めて食べるはずなのに望郷の念が胸に湧き上がる……」
「ぶははっ! うれしいことを言ってくれるねぇ! こっちの芋ご飯のおにぎりも食ってけやあ! 俺の自慢の混沌米『夜さり恋』と高級天然海塩を使った自慢の一品だぜ!」
「むむっ、こちらも、噛めば噛むほど甘味があふれる米に芋の素朴な味が絡み合って、舌の上に残る塩味が全体を引き締めている、美味い、美味いぞ。……ところで、食べ放題と聞いてきたのだが、おかわりをしても?」
「ぶはははっ、もちろんだ、遠慮せず食いねえ! いま芋天があがるところだ!」
「うむ、それは助かる。芋天もいただこう、楽しみだ!」
むふーう、と地面に転がっているのは カイト。スカイウェザーの19才。
「はー、芋って美味いよなあ~。俺の顔よりでかい芋天なんて初めて見た」
幸せそうな顔でまぶたを閉じる。そこへ這い寄る職員の影。
「申しわけありませんが、関係者以外は」
「えっ、違う違う! ほらここ、腕章あるだろ!?」
カイトは半ば羽毛に埋もれた腕章を見せた。緋色の羽の持ち主なので腕章が見えにくかったのだ。失礼しましたと去っていく職員。
「えーい験直しだ。焼き芋食うぞー!」
カッカッと嘴で焼き芋を突く、見た目完全にでっかい鳥さんである。
なんだあれ、芋がでかいんだからトリもでかいんじゃないのか。じゃああれも食っていいのかな。なんて声が忍び寄る……。
焚き火を起こして。そのうえでじっくりじっくり。
「イーさん、もうすぐ焼きあがりマスヨ」
「そうだね、リュカシス。おばけみたいに大きいのにすぐ焼けるなんて不思議だね」
「大きいことはとっても良いこと! イーさんの世界にはお芋なかったの?」
「そうなんだ、こうやって焚火でお芋を焼くのをね、子供の頃、本で読んだんだ。どんなふうなのか一生懸命想像したよ。だから今、長年の夢が叶ったような気持ちなんだ」
「イーさん……良かったデス! 夢、これからヒトツひとつ、ぜーんぶ叶えましょう」
イーハトーブの故郷は戦争の連続だった。彼の話はリュカシスにはしんみりと切なく、この世界では、とにかくたくさん楽しいことをしてほしいと切に願っている。
「…あ、そろそろかな?」
「焼けましたか! ウルトラハイパーお上手です!」
支柱にしていた棒を抜いて、焼き芋を真ん中で半分に割ると。
「うわー、うわー! 本当に焼けてる! ほっこほこだね、リュカシス! それに、綺麗な黄色!」
「ハイ! 本当に綺麗な黄色!」
ふたりは自分の顔ほどもあるお芋にぱくりと噛み付いた。
「うわ、熱、熱、火傷しそうなくらい熱い…けどすっごく美味しい! ただ焼いただけでこんなに甘くなるんだ…」
イーハトーブが笑っている。それはとても尊いことのようにリュカシスには感じられた。
「ふふ、大切な友達と一緒だから益々美味しいよ、リュカシス」
「……ハイッ! 本当に!」
「練達でのお芋掘りだなんて、どんな怪しいお芋が出てくるやらと思っていたのだけれど、存外まともでしたわねー」
ヴァレーリヤはレンチンから焼き芋を取り出すと、隣りのエッダを振り向いた。
「さあエッダ! 私が焼いた渾身のお芋、ぜひ食べて下さいまし! 貴女が食べて30分くらい死ななかったら、私も食べてみますので!」
言うなりエッダの口元めがけお芋パンチ、どっこい、エッダもさるもの。カゴの中から別の焼き芋をつかみ、狙うはカウンター。
「毒味させるようなものを食わす気なら死なばもろとも」
ダブルイモKO!
見事に相打ちしたふたりは地面に突っ伏した。ちゅんちゅん。小鳥が鳴いている。ふたりはおもむろに顔をあげた。
「やりますわね」
「だてに付き合い長くねーであります。ところでこれはどうでありますか?」
「お酒?」
「イモくうと聞いて、郷里からアクアビットという酒を取り寄せたであります」
「はっ、何を取り出すかと思えば、じゃが芋のお酒? やれやれ、南部人は飲むものまで田舎臭いのですわね」
「まー、ひよっこヴィーシャは無理をせずじゅーちゅでも飲んでいるがよいでありますぷっぷ」
「今のうちにダンゴムシを口説く文句でも考えておきなさいな!」
「お取り込み中失礼します」
職員が近寄ってきた。
「ああ、赤いものでありますか?」
エッダはヴァレーリヤにぺったりくっついた。
「ほら赤いもの」
「あのねエッダ……まあ、貴女ならべつにかまわないけれど」
「やあ、いたいた」
ヴォルペが探しびとを見つけると、そのヒトは右をリリコ、左をひよこ色のワンピースを着たロロフォイに挟まれて座っていた。ふたりの子どもはハムスターみたいに焼き芋を食べている。ヴォルペは手に持っていた豚汁を捧げるように武器商人の前へひざまづく。
「ああ麗しの銀の君。栄光の指先を持つ君よ。その恩恵に浴することができたなら俺は日差しの下の氷のように溶けてしまっても構わない(訳:たべさせてください)」
「たしかに豚汁なら赤狐の君でも食べられるだろうね」
武器商人は箸を取るとあまり甘そうにない具を選び、ヴォルペにあーんしてあげた。
「口中の熱はさながら生命の弾ける花火のごとく。始まりと終わりが渾然一体となった永遠とも思える一瞬は(訳:おいしい)」
「楽しそうで何よりだ」
「さておにーさんはどこに居場所を取ろう。もう左右は締められているからここは膝枕を所望したい」
「やれやれ」
ヴォルペは武器商人の膝の上に頭を置くと目を閉じた。
「平和だねえ」
武器商人がヴォルペの髪をすく。リリコが武器商人を見上げた。
「……焼き芋、食べる? 私の銀の月」
「供されるならばいただこう」
リリコから焼き芋をひとかけらもらった武器商人は芋焼酎を脇に置き、それをゆっくりと味わった。
「さつまいもってシンプルに焼いただけでも美味しいよね。甘みの強い種は粘り気も強いものが多くて、口に含むとトロリと舌に絡んで凄く濃いクリームを食べてる様な心地になる」
「……おいしいのね。よかった」
「こんにちは武器商人さん。人気者だね」
盆を持った二人組がやってきた。どうやら姉と弟らしい。チナナがひょっこりと顔を出した。
「真にいしゃん! 元気そうでうれしいでち!」
「姉さん、この子がチナナちゃんだよ」
「はじめまして、チナナでち」
「ふふ、かわいい。私は舞よ、よろしくねチナナちゃん」
真は黒兎鞄の中からステキなものを取り出した。
「チナナちゃん、おいで? 君に渡したいものがあるんだ。何にしようか、たくさん迷ったんだけどね? お守りのお礼としてチナナちゃんに、どんな汚れも落ちる「魔法のハンカチ」と「サヨナキドリのマニキュア全10色セット」を贈るよ。これはちょっと大人のお洒落さ。どうかな? 喜んでくれるかい?」
「はわわわ……ありがとうでち!」
チナナは目をキラキラさせて贈り物をみつめている。よく見ると真と舞もサヨナキドリのTuesdayをで爪を彩っていた。
「ヒヒ、さっそくのご利用ありがとう。今後ともご贔屓に」
武器商人が笑った。舞がお盆をピクニックシートに置く。そこには小皿が並べられていた。
「スイートポテトとお芋のケーキ、コインマスカットのアイス添え♪ みんな、どうぞ食べて頂戴。武器商人さんもどうぞ。気に入ってくださると嬉しいのだけれど」
「もちろん供されるならばいただこう。……うン、我(アタシ)はお腹が空くということがあんまり無いのだけれど、秋というのは供されるものも美味しいものが多いから好きだよ」
ニンゲンたちもとても賑やかで楽しそうにしているからねと武器商人は目元を緩ませた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
秋の芋掘り大会。いかがでしたでしょうか。
プレイングの皆さんも生き生きとしていて書いていて楽しかったです。
さて、MVPは見事超でっかい芋を引き当てた貴方へ。
称号「食材適正持ち」「おにくにくにく」「お料理上手」を発行しております。ご査収ください。
GMコメント
みどりです。
腕章をしてない人は、関係者以外立ち入り禁止ということで外へ連れ出されますのでお気をつけて。
赤担当ですので真っ赤なお芋で攻めてみました。秋の遠足を兼ねて芋を掘ろう。小学校の体験学習で芋掘りした人も結構いるんじゃないかな。ここだけの話、とれたて新鮮サツマイモはそのまま食べてもけっこういけると思ってます。
行動タグはふたつ。
【芋掘】芋を掘る!
【宴会】芋を食う!
【芋掘】ではあなたの命中と物理攻撃力でもって判定します。命中でクリティカルがでたあなたは超でっかい芋との戦いです。一番大きい芋を引き当てたあなたへは、記念にメダルをプレゼント。
【宴会】飲んで食べて料理作って芋焼酎飲もう。持ち込み歓迎。ゼシュテル芋は図体の割に火の通りが良いので、でっかいまま丸焼きにしたりできます。じょうずにやけましたー! あ、アルコールは20歳以上でお願いします。
下記NPCは自由に呼び出せます。
男ベネラー おどおど 最年長
男ユリック いばりんぼう
女『無口な雄弁』リリコ(p3n000096)
女ミョール 負けず嫌い
男ザス おちょうしもの
女セレーデ さびしがりや
男ロロフォイ あまえんぼう
女チナナ ふてぶてしい 最年少
院長イザベラ くいしんぼう
ファンくんはDrマッドハッターの書類をシュレッダーしに行ったのでいません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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